つい最近、魔法の森に住む、都会派魔法使いの家で異臭騒ぎがあった。
それが文々。新聞のトップを飾ってしまうくらいには、暇な日が続いていた。
そんな連続した日の風景で、何の取り留めもない会話だった。
「アンタ、ちょっと気を使ってみなさいよ」
突然レミリアにそう言われて、美鈴は困ったように首を傾げた。
目的もなく披露するのは多少難しいので、ひとまず何をどうすればいいのかと、聞いた。
「私、アンタの能力見たことないのよね」
そう言われて、美鈴は驚いた。今度は驚いた。言葉の意味を理解するのにしばらく時間を要した。
しばらく考えて、本当の意味で理解は出来ていない。
「それは、どういうことでしょう」
と、聞かなければならなかった。自分の能力を認識するにあたって、レミリアと自身の間で、何らかの大きな齟齬があるのは明らからしい。
そうというのも、その質問の意味も分からないのか、今度はレミリアが首を傾げたからだ。
「いや、どうもこうも……アンタあんまり能力使わないじゃない」
「割と……使ってるほうなんじゃないですかね? 言葉は悪いようですが、私から見ればお嬢様のほうがよっぽど、いつ能力を使ってるか分かりませんよ」
「私はいつも使ってるわよ。この間もフンコロガシが三万匹、アリス・マーガトロイドの家の下へ集まるように、運命を操ったばっかりよ」
「あの記事、お嬢様のせいだったんですか!?」
正気を疑う。何の得があってそんなことを。
「何か問題起こしてくれたら、何かあげるって文が言うもんだからね」
「最悪の出来レースですね。それに、そんな曖昧な約束に能力を使ったんですか。何を貰ったんですか?」
「七十万円」
「ええっ……!」
思ったよりも生々しいし、ゲンナマだ。フンコロガシ三万匹を集めた報酬として、適正なのか分からなさすぎる。美鈴は、それにしてもアリスが不憫だと思うばかりだった。
そして、レミリアと射命丸文は何だか妙に仲がいいらしい。
この分だと……。
「これまでに似たようなやおちょ……依頼ってあったんですか?」
「結構多かったよ」
軽い。これは何かあっても反省を促せそうにない。
「例えば……?」
「軽いものなら、最近続いてた日照りを解消したのは私ね」
「軽くない!」
とんでもないことだった。いや、山の河童を中心に、水が大好きな妖怪及び人間が困っていた日照りを解消したのだから、いいことをしているのに間違いはないけれども。
「正確に言えば、普通に雨が降るはずだったものを晴天に変えてたんだけど」
「最低じゃないですか!」
ダメなほうだった。レミリアがやったという確固たる証拠がない以上、こっちから犯人だと出向く必要もないとしても何だかこう、居住まいが。
「ゼロコンマの遥か先に数字があるような確率を百にするよりは、七十パーセントくらいの降水確率をゼロにするなんて簡単よ」
「能力の規模的な問題で軽いんですか……」
それにしても果てしない能力だと思った。いや、単に晴天が続いたのを自分の力だと吹聴している可能性もないではないのだから、手放しに驚くのも労力である。ただ、レミリアという人物は、わざわざ嫌われそうなことであっても、それが凄いことなら何でも自分の手柄にするタイプの人だ。それは間違いなかった。
「それは幾ら貰ったんですか?」
「三万円」
「……」
文も分かっていたのかもしれない。天変地異の代償が、フンコロガシ三万匹の十分の一にも満たないのだから。
「同じ理由で地底に土砂を流れ込ませたのも私」
「ああ……はい」
地霊殿が水没したとかいう事件だったはずだ。核融合装置が緊急停止して妖怪の山に居る守矢が、何だか奔走していた。「科学って大変だな」くらいの感想しかその時の美鈴が抱けなかったが、その理由が此処にあったのであれば、もう一使用人の首くらい幾らでも飛ばしてくれという話だった。
人的被害はと言えば、ちょうどそのタイミングで地底界の住民が天界観光ツアーに出ていたので、体調不良でそのツアーを欠席した古明地さとりだけだったはず。命あればそれでよし的な考えが横行している幻想郷においては、そこまで大きな災害という認識ではなかったというのが、美鈴の記憶である。
「今年、西行の桜が八回咲いたのも私の力よ」
「すごい!」
これは多分偶然が重なったみたいな話じゃないので、純粋にレミリアの力の一端を見たかもしれない。
再三開いた西行妖だったが、幻想郷の連中は飽きもせず、咲く度に花見大フィーバーだったので、白玉楼は大変儲かったと聞いている。
「これは白玉楼からも打診があったものよ」
「ブームは作られたものだったんですね……」
「それが世界の摂理よ」
というか桜が咲く度に西行寺幽々子は成仏しかけていたが、身体を張りすぎなんじゃないだろうか。
心労が絶えず、当時二十キログラムは痩せたらしい魂魄妖夢には悪いことをしたな、と美鈴は思う。自分のやったことでもないのに。
「最近は再思の道で迷いこんできた人間が幻想入りを思い直す確率を下げてるところよ」
「八雲が『ここのところ外来人が増えて嫌だわぁ』って言ってましたよ!?」
妖怪の賢者とされる八雲紫さえ、レミリアの能力を察知することなど叶わないのか。
思ったより偉大な妖怪に仕えているのかもしれないと、美鈴は思う。大体常に幻滅させられているのだが。
「ああ、三面記事になったといえば、人里を賑わせた連続食料強奪事件の犯人が私」
「ええーっ! 命蓮寺のネズミじゃなかったんですか!? あそこの住職がめちゃくちゃ謝ってませんでしたか!?」
「ミスリードを誘うところまでが技術よね」
幻想郷を震撼させた事件である。正直、経済のほとんどを物々交換でまかなえる程度には経済規模の小さい幻想郷である。サービスを金で買い、物を物で買うと言ったところであり、その物品が直接無くなるというのは大惨事だった。寺子屋の主人が二週間分の備蓄を食い漁られたところから始まり、その後、何百件もの被害が出た。
犯人は命蓮寺のナズーリンが飼っているネズミ。その監督不行き届きということで、ナズーリンが属しているといってもいい命蓮寺の主、聖白蓮が土下座に次ぐ土下座で事態の収集にかかっていた。
正直、白蓮の人徳がなければ死刑人が出てもおかしくない事件だった。
その犯人が目の前に居るとなっては、美鈴の顔に浮かぶ表情もない。
そういえば紅魔館からは何も盗られなかったなぁ……と思い返すばかりである。
今度人里に降りる時、どんな顔をしていればいいというのだ。
「……それって運命を操る能力に関係あるんですか?」
「ないよ」
「……」
「私が直々に人里へ降りて、普通に闇夜に紛れて家屋に侵入して、食べ物を盗ってたんだけど」
美鈴は頭を抱えた。もう能力がどうのこうのの話ではなく、普通に人間レベルで裁きを下せる話だった。
運命を操る程度の能力。
そんな不確かなものじゃない、ただの犯罪である。
「そんなことよりさ。アンタ、能力使ってみてよ」
そう。会話の発端を思い出したように言われて、美鈴はレミリアの顔を見た。
色々な思いが交錯する中、静かに微笑んで、美鈴は言った。
「もうめちゃくちゃ使ってます」
レミリアは首を傾げた。
そういうハッタリもリーダーの任務のひとつかも知れません
美鈴の気ネタのオチがすごく弱い。そりゃレミリア様も首傾げますって
レミリア様の運命事例に匹敵するようなオチが美鈴にあれば完璧だったんだけどなぁ
レミリアは、フンコロガシと、あと一つか二つで良かったと思います。
レミリアの文を呼んでいる間、私の頭の中では最後の美鈴のオチのパターンが何度も復唱されていました。
文量を増やすとしたら、幽々子妖夢や、鈴仙永琳など、一つ一つを短くまとめながら別パターンを用意されると、もっとにやにやできたと思います。
最初の「アンタ、ちょっと気を使ってみなさいよ」を読んだだけで、
もっと言えばタイトルをみただけで読者は予想出来てしまうことです。
ですので、それを裏切ってしまうなり、斜め上の方向に持っていくなりした方が良かったのかな? と思います。
美鈴の能力は自然と発揮されてしまうのか、それともかなり意識的にやっていのか、どちらなのでしょう?
気遣いも気功も使いこなす美鈴はすごいということで。
お嬢様は奇行。
ネタとしては良かったと思うので、そこがとても残念。
私はハッタリであれ実力であれここまで色々言えたりしたり出来るが、その部下である貴方は会話として気を遣うであれ能力として気を使うであれこれぐらいのことが出来る?と言ってるようにも思えます
最後魔理沙でも出来ると言ってますのは気を遣うなんて相手に合わせているだけなので、誰でも我慢して頑張れば出来るわよ?
貴方にしか出来ない会話や特技は何?
と言いたいのかも知れません
もっと言えば私の部下として口も能力も誰でも出来るレベルじゃなくてもうちょい頑張れよと遠回しに言いたかったのかも
と最大限レミリアに好意的に解釈してみました