Coolier - 新生・東方創想話

さみどりの庭 2

2014/08/05 23:40:13
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「ねぇねぇ、パチュリー」
 じっとパチュリーが、一冊の本を征服し、表紙を閉じる瞬間をうかがっていた。彼女はなにがしかの印象を書きしたため、余韻に浸る一呼吸の間だけ、こちらの世界に戻ってきた。
「ねえってば」
 パチュリーは、誰もが引き掴んで一体どんな造作なのかじっくり撫ぜてみたくなるその首を、わずかに軋ませて、疑問を示す。
「なあに」
「例えば、誰かが」
 だが接ぎ穂がなく、沈黙する。私は呼びかけたのに、何を言いたいのか自分でも分からず、ただ唖になった。
 思考を言葉で表現する術に欠けているのか、あるいは思考ではなく半ば感情であり、言葉にできない雑駁とした矛盾を喋ろうとする不可能に気づいたのか。
「ええと、誰かが……」
 一人の感じやすい少女が溺れている表現の囚縛の苦しみは、パチュリー・ノーレッジの同情を誘いはしなかった。
「あら、おしまい? 私はつまり、貴方が何を言いたくて、どんな答えがほしいのか察しなければならないわけね」
 口端を吊り上げながら、彼女はまったく楽しそうに沈黙をあざけった。意外かもしれないが、裏表なしにこれで彼女は面白がっているのだ。私はめげなかった。さらなる攻撃の隙を与えるよりも、話をつむぐべく口を開いた。
「いや、パチュリー。例えば、―――、幻想郷ではこんなことがよく起こるわけだ。私が達しえる仕事は全て、他の住人ならもっと上手くすることができるということが。確かにスペルカードルールは楽しいよ。特別だ。でももっと一般的な研究や、技術や、着想は、化け物どもの剥き出しの才能に対して、私的な満足だけが寄る辺となる。この時まさに、私のような限りある存在特有の奥ゆかしき道徳哲学が生まれるわけだ」
「それはともかく、道徳も哲学もない貴女が道徳哲学なるものを一足飛びに得ようとするのは、難しいからやめたほうが良いのではなくて」
 魔女の茶々入れに対するあしらい方は慣れたもので、こういった言葉は無視をするに限るのであることを私は知っているのである。
 できるだけ堂々とした態度で話を続ける。
「いくら頑張っても目指すべきものを得られないとき、神のごとき彼女たちにやきもちを焼くか、怨嗟にとらわれるか、目をそらし、自分という盆栽の手入れに励むのか、それがまさに私たちの心の安定であり、それこそが道徳哲学なのだ。しかしだな、こういった実際的な振る舞いはどれもこれも気にくわない。私としてはこういったことは好き者にまかせよう。我慢の作法で、現実は覆せない。じゃあ、どうすればいい? 私が十全に私の生を得るにはどうすればいいんだ?」
「ではこの言葉を贈りましょう。『人間は語ることを人間から学ぶのであり、神々からは沈黙を教えられる。』」
「私は全てでありたい。でなければ、せめてパチュリーのように」
 と、ちょっとは無礼なところを見せておこうという計算尽くの発言を入れてみた。
「あらまぁ、なんですって」
 丁度それは、拾ってきた子犬がミルクの皿をひっくり返すのを目撃したときの声色だった。もちろんすぐに目撃者は、対等に値しない生物に何をばかばかしいと言わんばかりに肩をすくめた。
「そのうちね。きっとなれるんじゃない。私程度にはね」
「私は、良いものになりたいんだ。人間は、果たして全的実現に至れるか」
 パチュリーは目をパチパチして眉を擦った。私は気にせず意気込んだ。
「種族を跨ぐか、それとも薬でも飲むか?」
 実に面倒くさそうに本を閉じたり開いたりするパチュリーは、目を瞑りながらそれでも答えてくれた。
「魔理沙は自分のお宝を数えているけどね、先に寿命を数えるがいいわ」
「不死にはなるさ。その先の話だよ」
「私は魔理沙が何を問題としているのか分からないわ」
「アリスみたいなことを言うんだな」
「お茶にしましょう」
「結局どうしろというの」
「好きに。あるがままに」
 どうしようもないのだ。私はただ言いたいことを吐き出しただけだった。洗練された振る舞いではなかったかもしれない。胸の奥に仕舞ってもよかったのだ。パチュリーは賢いから、私のような小娘も、なるほど彼女の方法でだが、疑いなく尊重してくれる。が、私としては、妖怪に囲まれ日々生活している私の価値観としては、全ての知性の階梯のうちで、霧雨魔理沙というちっぽけな魔法使いは、取るに足らぬ、最下層の粟か稗か分からぬ雑穀にしか感じられなかった。
 ため息をついたパチュリーは本を閉じ、私の隣に立った。
 何か感じのいいことを言ってくれる予感だけで、彼女の好意が心を晴らした。
 私は安らいだ気分になった。
「いくらでもね、自己の領分を」
 パチュリーは粗雑さを注意するように私の腕を押さえて、答えの続きを聞かせる。
 私はいつの間にか、無意識で読んでいるページに指の腹を押しつけていたようだった。
「越える術がある。人間にはね。かつ、自己の領分を涵養する術がある。でも不満だ、困難だ。何故か。選択しないからよ。私から言わせれば人間は我々の母であり、憧憬を与えうる存在である。だけれども、人間は我々以前であり種々に未分化の模糊とした存在でもある。貴女は魔女にも、他の何かの妖怪にもなることができる。だが、全き存在であり続けるならば神にならなければならない。魔理沙は自分で分かっているの? 私はこう結論づけるわ。可能性のスープである人間が、可能性を留保したまま次のステージへ移るのは、全てである神になりたいと言っているのよ」
「不合理な、非現実的なたわごとだと言っているのか」
「いいえ。言葉のフィールドではなく、二次性徴と濃密に絡み合う、ホルモンバランスの崩れから来る生理的問題だとすれば?」
「確かに私は要するに限定されていたくないんだ。こんな素朴な欲求、同じ魔法使いだから正直にさらけ出しているんだぜ」
「私が知っている魔法使いの学校の時間割では、『なりたいものになるんだ。』などと独りごちることは性癖の領分として、自習にまかせられる。魔法使いが知るのは理論と実践のみ」
 と、パチュリーは私から本を奪った。
「だから私には貴方に魔法使いとしての正解は与えられない。まずは、好きにすればいい。だけれども、言葉通り神になりたい、と、欲すれば、能力不足からの絶えざる自己否定、そして理論的には妄想家が屋根裏部屋にこもって考えたような神話体系を準備するだけ。そうではなくて? 敢えて言うなら、その欲求はポプリとして木箱へ入れておきましょう。子供時代の思い出として、学習意欲を奮い立たせたいとき、気紛れに残り香を聞くにとどめおく役割を充てるがいいわ。きっとそういった役割のために与えられる熱情なのよ」
「だがそれは、やはり・・・・・・今の自分に対し、誠実ではないよ」
 自分を否定する有り様に憑かれたからといって、慌ててその手触りの悪い毛虫を放り投げるのは、節操のない、里の俗物の流儀の精神健康法だろう。
 私は違う。私は、素晴らしいものと軽蔑すべきものを、そこで自分が軽蔑すべきものだからといって、価値感を転倒させようとは思わない。だから私は、矛盾に引き裂かれた気分に包帯を巻くことはないと誓うのだった。
 私が矛盾を抱えていて、自己否定に陥っている。いいだろう。それが真実だからだ。精神の血というやつはいくら流しっぱなしにしたって肉体的には生き続けるのだし、傷を付けた原因が取り除かれぬ限りは癒されぬままにあるのが自然なのだと私は考えた。
 私は天才でもない、日々の雑事に追われる一個の人間だ。だがもちろん、小癪にも外面を繕い、仮に背伸びを重ねて見栄えをよくするイカサマに習熟し、一時は豎子が名を成すことはできるかもしれない。妖怪にひとかどの人間として扱われることはできるかもしれない。だがその次になろうとした瞬間、たちまちスペードの女王が微笑み、張りぼての知性の光輝は蒸発し、虚栄は破産するだろう。
 私は私として生まれた時点でもう結末が見えている。身の丈を越えた願望へ甘んじて掛金をすらねばならない。私は私のなりたいものが分からず、そしてなりたいものにはなれず、それでもなりたいものになろうとあり続けるように作られたのだ。実にみじめな行進だ、と鼻で笑った。それでもこの薔薇の矛盾は、清らかな矛盾と褒めそやされているし、私は自分でも悦に入っているのだ。そう、私は自分が自分を好きになるときもあり、昨日今日で、私は天才だ、いやそうではない。然り、然り、否、否の首振り運動をしているだけで、そもそも今のところ自分の自己評価の高低の無節操を楽しんでいたりもするのだ。
「咲夜を呼びましょう」
 紙に要望を書き付けて、ぱんとパチュリーは手の平を合わせる。すると紙は羽ばたいて図書館の扉をひらひら潜って、彼女の遊び心は闇に溶けていった。
 ところで、図書館の本には住人が手すさびで書いた、びっくりするような主題の本もある。たとえば八雲紫は、吸血鬼条約の紆余曲折を、屈辱のレミリア・スカーレットが家族愛から平和と妥協に白旗をあげるという涙色で、たっぷり潤色して描いていた。それは当のレミリアとは別なことを言っていた。レミリアに水を向けると、憤慨しながら、私は幻想郷のためを思い、運命の許す最善を行ったのだ、と腕を激しく上下させた。
 つまり傍目には汚辱に塗れた不細工をしでかしたレミリアだが、実は計算高く幻想郷に危機意識をもたらしたということで、皆の尊敬を勝ち得えても良かったのだ、と主張したいらしい。で、口惜しいことには、案山子だらけの幻想郷ではこの納得ずくの計算に誰も気付くことなく、全てを背負い込んだ真の黒幕として歴史の殉教者となったからには、勝ち誇るエセ代言家である八雲紫の小癪な種明かしに出くわしたとしても、運命のまにまに我慢しなくちゃならん仕儀である。
 とどのつまり吸血鬼条約というものは人間の生活には無関係な、同好の妖怪どものサロン的プロトコルの新約であり、幻想郷が膨張を続ける一般法則を確かめ、物資の泥棒的調達と異種族の世間知的干渉が必須だと追認した過ぎず、私にとっては今までの美しい慣習の単なる記念品してうつる。
 したがって妖怪の成熟した遊惰な精神を信じる私としては、自らの冒険談を歴史的な一大闘争として語ろうとする彼女たちは、針小棒大もいいところの駄法螺を吹いているのだろうな、と思わざるを得なかった。いつもいつも、異変の主体性がどちらにあるかとか、操られていたのはどちらかとか、それぞれが我田引水に、ひっじょーうに遠大な目的をけんか腰に設定しようとするのは普通だし、真実は必ずしも尊重されていないばかりか、こけおどしが派手なほど計算高く知恵ものになることを楽しんでいるのだから。
「遅いな」
「咲夜を探しているはずよ」
「パチュリーがいま読んでいる本を読ませてよ」
「知識を得たいのなら他にいくらでも代わりはあるわ」
 いくら馬鹿な本もあるとはいえ、ここはサン・ヴィクトール図書館ではなく、成長し、全ての本を含むバベルの図書館である。そしてまた、万人に解放された幻想郷初の本格的な図書館でもあった。
 とはいえ……、やや孤軍奮闘気味に、ただ一個の紫色をした哀れな回顧主義者(目前に居るが、名は秘すとしよう)のみが、この図書館を未だに個人の書斎であると主張し、自らが完全に文字通りの喘息病みの幻視の内に生きていることを証明する時があるが、憐憫ゆえにあまり言及しないでおこう。
 私たちは、知識の魔女に、庇を貸して母屋を取られるというこの国のことわざを教えてやったのだ、ということは、自慢にはならないにしても、シニックな薬にはなった。無知とは知識の総量の多寡ではなく、運命の意地悪な試みへ膝を屈することであると。
 冷ややかな果実と、芳しいダージリンの香りが一角を満たす。
「どうぞ、お客様」
「よう咲夜、お待ちかねだぜ」
「こんにちわ。本日は、とても良いリンゴが手に入りましたので、ゼリーにしてみましたわ」
 鼻をすんと鳴らしてパチュリーが不平を垂れる。
「そのまま食べたかったわ。生の果実が最も美味なのよ」
「代わりといっては何ですが、午餐はパンではなく、とびきり上等の小麦をお出ししましょう」
「つまらない冗談ね」
「ワインの代わりに生のカベルネで、生きのいい仔牛も入用だぜ。パチュリーが野獣のように暴れ牛の首筋を食いちぎる様は、かなり絵になるじゃないか」
 紅茶が注がれる。馬に乗った騎士が描かれた錫釉色絵陶器……、これをマジョリカと呼ぶことを、最近教わった。紅い館の新付の民は橇に乗せてピカピカの新世界をそっくりそのまま運んできたのだ。西洋世界は血の通っていない、雑駁とした憧憬のヴワルで煙されたおとぎ話であることをやめ、解かねばならない、知らねばならない現実と化した。
 例えば! パチュリーは私たちにからかわれ、頭をぽんぽん頬をつんつんされながら、(どうしてこの私の高貴な頭脳に、まるで小太りのフェレットの腹に相応しい扱いができるのだろう。不作法な、ぷんぷん)と、たぶん怒っていた。
 その怒りを示すのは、しばらく止まって、ヘッドドレスを着けた馴れ馴れしい銀髪の女を睨み付ける、上目遣いだ。ある時レミリア・スカーレットはこの目を、伺察する様子を、「正真正銘のキスリングの三白眼だ」、とからかい、紅魔館の魔女の目について思い当たるふしがないでもない妖怪たちの無邪気な――たとえイングリッド嬢本人が居ない場であるとはいえ邪気のない――笑いを誘っていた。だが私だけは! 次の日このエコール・ド・パリのユダヤ人の画家は何者なのか、この図書館で探らねばならない事態に陥った。画集を見つけた私は、確かに似ていると、一日遅れで笑わねばならなかった。奴らが即座に反応したユーモアに対して一日遅れで笑うとは。こういうことは要するに、過去の私の人生のつけの支払いなのだ。私は全てでありたい……。
 臍を曲げたパチュリーを私たちはなだめすかした。紅茶とお菓子と追従の偉大な威力をもって彼女はすぐに気を取り直し、ふさやかな髪を自ら抱いて、私と休憩中の咲夜のために、外の世界について講義してくれた。ぼやけた紫色が、薄暗い書斎のなか、言葉にあわせて弾けて溶けた。主に彼女は、他の楽園について語ってくれた。西洋の楽園は秩序と理想を重んじていて、静的な部分が今の私にはくつろいだ感じを与えた。教育、都市構造、宗教、いろいろと差違はあるが、すべてのヴァリアントの識別は、私の興味から次の点に存していた。すなわち未来だろうが、孤島だろうが、要塞都市だろうが、対立すると最初から仮定された二者という、矛盾の止揚の仕方の面に差異がかかっているように私からは見えた。ある楽園では社会の異物を抹殺し、利用する最高度の制度が存在した。また別の楽園では、そもそも異物は溶けて消えてなくなっていた。幻想郷はどうか。異物を共同体の成員として陶冶する霊感は存在するのか。結界と種差とが、思想と制度の代わりをしているとしか思えなかった。
 私は何か知ったかぶりをしてアピールせねばならぬ時だと考え、東洋思想では楽園とは儒教系と老荘思想系大別でき、儒教系は貴賤長幼の差を分かち規律正しく、老荘思想では自由な気風の寡民小国であるから、西洋の楽園はどちらかといえば儒教の楽園に近いと補足した。
 さらに、私は調子に乗って無理くりに幻想郷を分析し、外界の採寸を合わせようとした。だが知っている1,2個の縫い方だけで注文を用意しようとする仕立屋の事業は、幻想郷が外とは百万通りの仕方で違っているという明白な帰結を前に、みじめな破産に終わった。
 有り体にいえば恥をかいたことにはなるが、私はパチュリーの前で放埓な創意を隠したことはなかったので、特に気にはならなかった。
 たとえば、ここでは不可避的に高い能力をもった特定の妖怪が、したいことを誰も真似できない独特の仕方で永久にすることになる。だから幻想郷ではテロリズムの脅しは外界以上に有効でだ。と、私にとっていえないこともなかった。
 パチュリーはまず前提を否定した。彼女は、幻想郷で重要な役割を担う妖怪を間引くことは、無意味で不可能という点を指摘した。これには私も同意した。真似できないことをする便利屋を間引くのだから、無意味であるという点は明白だ。
 不可能という点についていえば……、もちろん正々堂々とした果たし合いに耐えうる能力など問題ではない。周到な準備を重ねれば、命を奪えそうな妖怪は多い。しかし肝心要の大妖怪どもが身につけている、人間にはおよびもつかぬ自己保存のあらゆる浅ましい奥義を、単なる魔法のダイナマイトで打ち破る奇跡的方法があるとすれば、いったいどれほど抜きん出た芸術なのか、その予言された手法は謎に包まれている。
 一言でいえば、奴らは何をしても死なないのだ。大妖怪の今ここの肉体が本物であり、このゴボウを八つ裂きにすればゴボウの歴史を終わらせることができるのだと素朴に信じることは、楽観的な冒険だった。
「武器の差異は、消えてはいない。厳然と存在した。奴らは餌付けと実力の二重の盾によって卑怯者の遠くからの一撃から守られていることで、今の今まで厚かましくのさばってこられたのだ。したがって幻想郷では唖にされた弱者の唯一の言語、テロリズムは成立しないのだ」
「成立する必要もないけれどね」
 私たちは咲夜が仕事に戻る頃合まで、椅子を輪にして談論風発を楽しんだ。
「なんだか元気がないわね。さとりに会いに行けばいいわ」
 帰り際、唐突にパチュリーが助言した。
「どうして」
「心理療法よ」
「そうかよ」
 魔女の冗談は相変わらず独特の趣があった。
 パチュリーは額にキスをして、自分のシラムタを私の首に架けかえようとした。
「魔女の後輩ができるのは、嬉しいのよ。アリスだって悪い気はしていないわ」
「そうとも、私にはいろいろな才能があるからな」
「あ、パチュリー様。餌付けはいけません」
 咲夜が覆いかぶさり、帰りの道を急がせる。
「何よ、あなたにはお嬢様という、いい相手が居るじゃない。それなのに、まだ欲張るつもり」
 紆余曲折の末、最終的にその艶麗な銀のヘンルーダは、私の胸で輝く栄誉を与えられた。
「この子は私のもの。ナイフ投げを仕込まされる訳にはいかないわ」
「よく分かりませんが、私を通してくれなければ困りますわね」
「あらまぁ、なんですって」
 本日二度目の「あらまぁ、なんですって」は、より甲高く響いた。拾ってきた猫が、粗相をしたような声色だった。
「お姉さんを気取って、子供の遊びね」
 漆黒のブラウスに包まれ、春霞の中を歩いているような私は、ふらふらとあちこちを行ったりきたりして、導かれるままにいつの間にか玄関をくぐって、石畳の上で立ち止まる。温室の群芳が、色とりどりの光景が、ゆるやかな風に乗った匂いと共に周囲に展開する。やいのと私は、順番に二人に抱きつく。
「じゃあな、また来るぜ」
 飛び上がり、門を越えていく。私は俯いて帽子のつばを下げた。一気に高度をあげ天に沖し、じっと心音を数える。ふしぎな絵の具で描かれた山野が、歪みながら周囲にへばり付いている。どこにでもある土くれから、擦り切れた木綿の着物を着て這い出てきた十年前の霧雨魔理沙。彼女が今の時間ごろ、花の蜜を啜っているときの意地汚い顔といったらなかった。もしもこの世に魔法も本もなしとせば、鼻汁を垂らした骨立った小娘は安んじて一生を過ごしたろうに。
 揮発した大地が、凝固した天が、その巨大なレンズの中央に、箒に跨った異物を包んでいるように思えた。
 皆は私に優しくしてくれる。何故だ? 私は何になろうとしているのか?
余裕があるときに書いていたのを見直しつつになります。
続き物ですみません。
tama
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コメント



0.260簡易評価
1.100名前が無い程度の能力削除
この魔理沙とパチュリーと咲夜の掛け合いと関係、非常に好みでした。
次は地底に行くのでしょうか。
4.90奇声を発する程度の能力削除
良いね、面白い
5.90名前が無い程度の能力削除
なんか洋書みたいな文章で何が言いたいかサッパリわからん
が、それがいい
6.100名前が無い程度の能力削除
手間をかけて書いていると思います
9.90名前が無い程度の能力削除
さとり様出る?
12.100名前が無い程度の能力削除
魔理沙はなんというかみんなに愛されてますね
そしてなんか凄まじい若さみたいなのと人間っぽさを感じる
なりたいようになりたいというのは非常に共感を覚えるしそれが遠く果てしないというのは更に…