Coolier - 新生・東方創想話

風に遊ばれて

2014/07/26 18:41:51
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『風に遊ばれて』

 あたいの野望はあの日、もろくも崩れ去った。そう、あれは夏が終わりをつげ、秋のとうらいをつげる冷たい風が吹き始めた頃、あたいが平和ボケした幻想郷を恐怖の渦へ叩き込もうと決心し、獲物を探して空を飛んでいたときだ。ふいにものすごい速さで突っ込んできた射命丸にひかれたあげく、ぎゅーされたり髪の匂いをかがれたりとやりたいほうだいのセクハラをうけ、さらに一日中追いかけっこをさせられるというとんでもない目にあわされたのだが、あれが、あたいの野望を崩壊させた決定的なできごととなった。
 夏の間、氷の抱きまくらとして幻想郷中でひっぱりだこになるのはもういやだと今年の夏はずっとずっと、おうちにひきこもって静かに暮らしていたというのに、まさか秋にもなって誰かにぎゅーされたり追っかけまわされたりするなんて、誰が予想できただろう。最強の妖精たるこのあたいだって、ぜんぜんそんなこと考えていなかった。
 それからというもの、ことあるごとに、
「チルノさーん!」
「えへへ、チルノさん見ーつけた」
「逃がしませんよー、チルノさん!」
 と風のようにあらわれては、ところかまわずぎゅーしてくるものだから、
「でたー!」
「くんなー!」
「もうやだぁぁぁぁ!」
 さすがのあたいも涙目になって逃げまわった。でもあいつは、幻想郷一の瞬足とやらであっという間にあたいに追いついてきて、えんりょもなしにぎゅうってしてくるんだ。まったく、せっそうがない。
 今日も今日とて追いまわされて、あたいはへとへとだ。飛ぶこともままならなくて、地面に両手と両膝をつき、ぜーぜー肩で息をした。このチルノ様がなんというざまだろう。くそう、全部あいつがわるいんだちくしょうめ。
 こんどこそ逃げ切ったはずだったが、あたりまえのように後ろから「チルノさぁん」とあいつの声がきこえてきて、あたいの心は完全に折れてしまった。いいだろう、あたいも女だ。もう逃げも隠れもしない。こうなったらいさぎよく死んでやる。綺麗に……! かんねんし、あおむけ大の字になったあたいに射命丸が近づいてきて、
「あやや、チルノさん、大丈夫ですか?」
「だ、だ、大丈夫なわけないでしょ。もうギ……ギ……ギャロップよ。煮るなり、焼くなり、すきにしろぉ」
「はぁ、ギブアップですか、そうですか。それでは」
 射命丸の手が伸びてくる。ああ、さよならあたい。さよなら幻想郷。もう二度とあうことはないだろう。つぎのあたいはうまくやってくれるといいな。
 目を閉じて終わりのときを待ったが、持ち上げられたのはあたいの頭だけで、次の瞬間には、あたいの後頭部に何かやわらかいものが当たっていた。あったかくてやわらかいもの。おそるおそる目をひらくと、笑顔であたいを見下ろしている射命丸がいた。横目で自分がどういう状態なのかを確認する。どうやら、あたいは射命丸に膝枕をされているようだった。どうしてだろうか、なんだか顔があつくなってくる。
「ちょっとはりきって追いかけすぎましたね。すみません。さあさ、私の膝枕でゆっくり休んでください」
 え、そんなこいびとどうしみたいなこと……と思ったけれど、もう騒ぐのも疲れているので、あたいは射命丸に身をゆだねた。どうにでもなれだ。じっさい、射命丸の膝枕はきもちよくて、胸がこそばゆくなるような気分になった。うーん、くやしいけど、こうされていると、なんだかほっとする。おうちでまったりしているときみたいに。
 ああ、ちょっと眠くなってきた……。うとうとしていると、射命丸の手があたいの頭をなでた。
「あら、チルノさん、眠いんですか?」
「んー……」
 眠気がつよくなってきて、返事するのもおっくうだ。
「いいですよ、眠ってしまっても。私が見守っていますから」
「……う、ん……」
 こたえてすぐに、あたいは眠ってしまったらしい。そして、おでこになにかぷにっとしたものが当たる感触がして、それであたいは目をさました。まだぼやけた視界のなかで、眠る前よりも、射命丸の顔がすぐ近くにある気がした。
「おはようございます、チルノさん」
「うん……」
 あたいは目をこすった。ぼやけた視界がようやくせんめいになって、射命丸を見ると、顔がちょっと赤くなっていた。
「……あたいになにかした?」
 きいてみると、射命丸は、
「ちょっとつまみぐ……いや、ゲフンゲフン。あまりにも寝顔が可愛らしいので指でつんつんしただけですよ?」
 目を泳がせつつ、わざとらしい咳払いをしながら答えた。むむ、あやしい。あたいはおでこを指で触って考えた。指よりももっとやわらかいものだった気がする。顔が近かったのもすごくあやしい。でも、はたして本当に指じゃなかったのかと言われると、突然のことだったから、そうだとは強くこたえられない。
「あたいの寝顔、撮ったりしてないよね?」
「残念ながら一、二枚ほど。とても絵になる寝顔でしたので」
「まぬけづらってことでしょ。そうやってまたあたいを新聞でバカにするつもりね!」
 あたいは体を起こして、射命丸に向き直った。
「いえいえ、とんでもない。ネタの一つとしてストックするだけですよ。記事にするかどうかは、他のネタ次第ということで」
「他にいいネタがあるの?」
「それは今後の取材活動がうまくいくかにかかっています」
「……どうやったら、そのしゅざいかつどう? がうまくいくのさ?」
「そうですねぇ。チルノさんが自分から私のことをぎゅってしてくださったら、運気がむいてきてうまくいくかもしれません」
「あ、あたいが?」
「ええ。チルノさんのパワーと私のジャーナリスト魂が合わさり最強となれば、取材活動などちょちょいのちょいというものです」
 本当かなぁ、とあたいは思った。どうもうさんくさい感じと、下心……っていうのかな、そういうものを感じる。とても強く。
 しかし、あたいのパワーで最強になるっていうのは魅力的だ。そうね、なんたってあたいは最強の妖精だもの。最強の妖精の最強パワーがあればしゅざいかつどうなんて、へのかっぱに違いない。じゃあ、とあたいは射命丸をぎゅーしてあげた。でも、こんなことであたいの最強パワーはちゃんとこいつに届くのかしら。
「……あたいのパワー、届いてる?」
「届いていますよ。それはもう、びんびん感じるほど」
 満面の笑顔で、射命丸もあたいをぎゅーし返してきた。あたいの顔が射命丸のおっぱいに埋もれそうになる。むむむ、おおきい。やわらかくてきもちいいけど、なんか悔しい。
 ふと、あたいは思った。
「……あ、もしかして、これも実はしゅざいかつどうなんじゃないの?」
「おや、バレてしまいましたか。でもほら、他にいいネタが見つかったら記事にはしませんから」
「でも、ネタがなくなってきたら、いつかは新聞にするんでしょ」
「さてさて、どうしましょうか……」
 少しだけ考えこんで、射命丸はあたいの髪にほっぺたをくっつけて、すりすりしてきた。くすぐったくてむずむずする。
「……しません。記事にするなんてもったいない。私がひとりじめします。この感触も、チルノさんの寝顔もぜんぶ」
「え、それってどういう……」
 あたいが顔をあげると、赤くなった射命丸の顔が近くにあった。鼻先が触れあいそうなほど近くに。そしてすぐに、あたいの目の前が射命丸の前髪でいっぱいになる。同時に、唇にあたたかくて、ふわっとしたものを重ねられる感触。
「つまり、こういうことですよ。ごちそうさまです」
 はにかんだ射命丸は、あたいをぎゅーするのをやめて立ち上がった。あたいはまだ、自分がなにをされたのかわからなかった。
「さて、チルノさんのパワーもたっぷりいただきましたし、私は取材活動に勤しんできます」
 ではまた、と言って、射命丸は空に飛び上がると、ものすごい速さで空のかなたへ消えていった。
 しばらく、あたいはぽかんとしていた。しらずしらず唇に指をはわせていた。
 あの感触、もしかしてあたい、射命丸にちゅーされちゃった……? あたいの、はじめてのちゅー。
 とつぜん、とけてしまいそうなくらい全身が熱くなってくるのを感じた。とくに顔が熱い。火を吹いてるみたいに、熱くて熱くてたまらない。鏡をみなくても、真っ赤っ赤になっているだろうことがわかった。
「あ、あた、あたいのはじめて……」
 奪われた。奪われてしまった。あたいは両手で顔をおさえて、またあおむけに倒れると、両足を力の限りじたばたさせた。
 秋の冷たい風も、恥ずかしさやらなにやらですっかりほてったあたいの体を冷ますことはかないそうにない。少なくとも今しばらくは。


『風に遊ばれて』了
 チルノのはじめてを奪った文ちゃんの(記者)命運やいかに。
弥生雨
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コメント



0.340簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
文のロリコンっぷりが清々しすぎて、逆に見ててさわやかな気分になります
ひらがなの多さと改行の無さで読みづらいのが気になりますが、文チルの前には些細すぎる問題です
文チルちゅっちゅ!
4.80奇声を発する程度の能力削除
文チル良いね
6.90名前が無い程度の能力削除
もはやロリコンを隠そうともしない文ちゃんに敬礼!
こう開き直っているようでは、表沙汰になっても痛くも痒くもなさそうですね…
8.100名前が無い程度の能力削除
胸焼けしそうな程の文チルごちそうさまでしたw

>>3さんに言われて気が付きましたが確かに簡単な漢字でもひらがな表記の部分と難しめの漢字を使っている部分が混在している気がしますね。
チルノの地の文と言う事でちぐはぐにする演出なのかも知れませんが(原作でいきなり難しい事言い出したかと思えば子供っぽい発言をしたりする様子)、このくらいの差だとメリハリが弱くて意図が伝わりにくいと思います。
10.100名前が無い程度の能力削除
いいね
11.100名前が無い程度の能力削除
清く正しいロリコン丸ですねぇ
しかしこのロリコン、なんだか格好良いぞ…?
12.80絶望を司る程度の能力削除
いいっすね文チル
15.100名前が無い程度の能力削除
良い・・・