人類が滅亡した翌日、宇佐見蓮子はいつも通り地下鉄に揺られて大学に行った。
通勤ラッシュを外れたほどほどの混雑の車内でモバイルを弄りながら、蓮子は小さく溜息をつく。世界が滅んだぐらいで大学は休みになってくれない。世知辛い話だ。
あふ、と欠伸を漏らしたところで、電車が大学の最寄り駅のホームに滑り込み、蓮子は人波に流されるようにしながら改札へ向かって歩く。地下を脱出すると陽光が寝不足の瞼を貫いて、思わず顔をしかめた。もう一度欠伸が漏れる。ゆうべは世界が滅んだせいで寝不足なのだ。
――断っておくが、人類が滅亡したというのは映画でもゲームでも漫画でも小説の話でもない。文字通り、宇佐見蓮子の存在する世界が、昨日滅亡したのである。巨大隕石が衝突して地球は火の玉になり、生物など一切住めない死の星になった。無論、人類の生存者などいるはずもない。宇佐見蓮子もまた、自分が死んだと認識する暇もなく、あっけなく死亡したはずだ。
だけど、その程度のことでは世界は何も変わらない。だから宇佐見蓮子は今日も寝不足の目を擦って大学の研究室に出向くし、人々はそれぞれの職場や学校に向かい、世界は全くいつも通りに回っている。
それはもちろん、相棒とて同じことである。
「おはよう、メリー」
「蓮子、おはよう。もう昼だけどね」
昼休みの時間でそこそこ混雑したカフェテラス。相棒はその片隅で文庫本を読んでいた。蓮子がその向かいに腰を下ろすと、マエリベリー・ハーンは読んでいた本を閉じて、蓮子の顔を見やって呆れ混じりの溜息をつく。
「眠そうね。また夜通しどこかの世界の観察でもしてたの?」
「そうそう。それなのよメリー。昨日はなんと、隕石の衝突で人類が滅亡したの」
「あら。伊坂幸太郎の『終末のフール』? それとも三浦しをんの『むかしのはなし』かしら」
「私は新井素子の『ひとめあなたに…』が好きだけど。そうじゃなくて、私とメリーのいる世界に隕石が衝突したのよ。あれはなかなか衝撃的だったわ。っていっても、最後は一瞬で全部吹き飛んじゃったんだけどね」
「一瞬で死ぬのは苦しくなくて良さそうだけど、それ以前に隕石の衝突が公表されてたら、それまでの混乱した世界を生き抜くのが大変そうだわ」
「そこは見事に情報統制がされてたみたいねね。隕石が目視できる頃になってようやく全世界に発表されて、あとはパニックになる暇もなく一瞬でどーん、よ」
「その世界の私と蓮子は、そのときどうしてたの?」
「聞きたい?」
「まあ、それなりに気になるわ。別の世界線の自分のことは」
「――いつもと変わりないわよ。深夜だったから、サークル活動の最中にモバイルにその発表が流れて、私たちが空を見上げたら、その空はもう隕石に覆い尽くされていて――あとはもうブラックアウト」
「やれやれ、最期まで私は蓮子と一緒なのね」
「私たちはふたりでひとつの秘封倶楽部、運命共同体だもの。ね?」
「はいはい」
手を掴んで笑った蓮子に、メリーは苦笑混じりの優しい笑みを返した。
それもまたおおよそ、いつもと変わりのない、秘封倶楽部の日常であった。
* * *
――可能性世界の存在が初めて観測されたのは、2年前のことである。
比較物理学の権威たる岡崎夢美教授によって、この現実世界と重ね合わせの状態にある、無数の可能性世界の実存はそれ以前から理論的に証明されていたが、本格的な可能性世界の観測技術は、2年前にようやく確立された。その技術確立の決め手となったのは、メリーの専攻する相対性精神学の思考――即ち、徹底した主観主義である。
他者の主観の絶対的な観測不能性は、すなわち量子論における可能性世界の重ね合わせの状態に等しい。個人の主観を観測物理学に取り込んだ比較物理学は、客観が客観であることは主観においては決して確定できないとする相対性精神学の考え方に基づき、可能性世界の概念を個人の主観の上に求めたのである。
端的に言えば、それは夢と現実における主観の相違だ。夢の中の自己の主観は、現実の論理からすれば著しく破綻した夢の論理を、しかし夢の中においては当然の論理として受容する。夢の中と現実において、個人の主観認識が分離しうるとすれば、人間は際限なく主観を分割していくことが可能なのではないか――。
岡崎教授のその理論は、2年前の実験によって証明された。可能性空間探査装置という味も素っ気もネーミングセンスもない名前がつけられたヘッドギア風のその装置は、個人の表に出る主観以外の別の主観を脳内からランダムに探り出し、その人物に追体験させるのだ。
それによって、驚くべき事実が明らかになった。人間の脳内には、無数の――無限個と言っていいだけの主観が存在しており、その主観のそれぞれが別の世界を認識しているのだ。箱の中の猫が生きている世界も死んでいる世界も、同時に観測者の頭の中に存在したのである。ただ主観は主観であるがゆえに、その中のひとつしか認識できないというだけで。
夢が支離滅裂である理由も、これによって説明が可能となった。夢の中で人間は、頭の中にある無数の可能性世界をザッピングしていたのである。様々な別の世界の断片を繋ぎ合わせた結果として、夢は脈絡を欠くが、それぞれを認識する主観は自分自身であるために、夢の中の自分はそれを違和感なく受け入れるのである。
この研究は、発表とともに世間に一大センセーションを巻き起こした。マスメディアによって、「あり得たかもしれない別の人生を追体験できる装置」として紹介されてしまったのである。映画の『トータル・リコール』みたいなものだろうと、皆が考えたわけだ。実際、可能性世界を観測している間はその世界の自分の主観を通して世界を視るので、その理解も間違っているわけではないのだが――ともかく岡崎教授は一躍時の人となり、あらゆるメディアで並行世界SFが大ブームになった。
とはいえ可能性空間探査装置はまだ世界に数台しかなく、一般開放には到底至っていない。
京都のいち大学生に過ぎない宇佐見蓮子は、その可能性空間探査装置を使用することが許された、数少ない人間のひとりだ。なぜかと言えば、彼女は岡崎夢美教授の教え子であり、教授の秘蔵っ子だからである。
――かくして宇佐見蓮子は、岡崎教授のもと、自分の中に隠された無数の可能性世界を観測し続けているのである。昨晩見た、隕石で滅んだ世界も、そんな蓮子自身の中にある可能性世界のひとつなのだった。
* * *
蓮子が岡崎研究室のドアを開けると、岡崎夢美教授は机で何事かうなり声をあげていた。
「おはようございます、教授」
「――ああ、宇佐見さん。おはよう……いえ、もう昼ね」
時計を見て、ようやく昼過ぎになっていたことに気付いたように、教授は言う。「お茶を淹れるわ」と立ち上がり、教授は研究室の奧に引っ込んでいった。蓮子は自分の机に腰を下ろし、モバイルを起動する。ほどなく、教授がティーカップを手に戻って来た。
「はい、ストロベリーティーよ」
「ありがとうございます。レポート、届きました?」
「ええ、特に今回のはたいへん興味深く拝見させてもらったわ」
ばさりと紙束を机に投げ出して、教授はそう溜息めいて言った。好物のストロベリーティーを啜りながら、しかし今ばかりは苺を味わうよりも思考の方が優先しているらしく、しかめ面が剥がれない。珍しいこともあるものだ、と蓮子は首を傾げる。
「何か、私のレポートに問題でも?」
「問題――いえ、レポート自体はいつも通り素晴らしいわ。問題があるとすれば、中身ね。これはなかなか厄介な問題だわ」
「中身ですか。まあ確かに、隕石が降ってくる可能性世界なんて初めてでしたけど――」
蓮子は思い返す。これまでの観測実験で発見した、宇佐見蓮子という主観を通した可能性世界の多くは、今ここにいる宇佐見蓮子の世界と基本的に近似した世界であった。たいていの場合、蓮子は京都の大学生で、隣にはマエリベリー・ハーンがおり、岡崎教授の研究室に通っている。教授に師事しているかいないか、メリーとの関係の進展具合などに細かな違いはあるが、ほとんどは現在の生活と代わり映えしないものばかりだった。
そういう意味で、可能性空間探査装置についての「別の人生を追体験できる」という一般的な認識はあまり正しくない。可能性世界は無数に重なり合っている以上、今の宇佐見蓮子に近似した可能性世界がまずこの世界の近隣に無数に存在し、それらを一気に飛び越えて自分が全く別の人生を歩んでいる可能性世界に行ける可能性は低いというわけである。夢の中の自分だって、まるっきり別人のような人生を歩んでいることはそう無いだろう。そういうことだ。
「マクロな単位でこの現実と様相の違う可能性世界なら、前にもありましたよね。神亀の遷都が為されていない世界とか、15年前の東海震災が起きていない世界とか」
指を折りながら言う蓮子に、「そうね」と教授は頷く。
「主観を通した可能性世界の重ね合わせは、主観的に身近な差異を起点に拡散していく――宇佐見さんの仮説だったわね。宇佐見さんの主観においては、日本の首都が京都か東京かよりも、自分がこの大学に受かるか否かの方が大きな差異。だから首都京都の大学生である宇佐見さんの世界と、いち地方都市の京都の大学生である宇佐見さんの世界が近似値として扱われる。東海震災も同様ね。東京生まれで京都在住の宇佐見さんは、東海震災から主観的に明確な影響を受けていないから、その発生の有無は宇佐見さんの主観世界にはさほどの影響を及ぼさない」
「はい」
「――だとすれば宇佐見さん、貴方の今回の観測結果を、私はどう判断すべきなのかしら。何しろ隕石の衝突で世界が滅んでしまったということは、宇佐見さん、貴方も死んでしまったのよね。相対性精神学的に言えば、自分の死は自分の主観上においては決して観測できないが故に主観的に己の死は存在しない、と考えられるわけだけれど――」
「メリーからその考え方、前に聞きましたけど、かなり無茶苦茶なこと言ってますよね」
「しかし、この可能性世界理論は相対性精神学的な主観主義を前提としているのよ。相対性精神学において己の死は存在しないとすれば、隕石の衝突で世界が滅ぶことも、この世界の近似値の範囲内なのか――それとも宇佐見さんは、たまたま随分遠くの可能性世界を覗いてしまったのか――」
頭を抱えて唸る教授に、蓮子は肩を竦めてストロベリーティーを飲み干した。教授の言わんとするところが何なのか、蓮子にもようやく掴めてきた。
――もし、隕石の衝突で自分が死ぬ世界線がこの世界の近似値だとすれば、この世界にも近い将来同じようなことが起こりうるのではないか? 遷都の有無や、東海震災の有無なんかより、隕石の衝突はよほど直接的に蓮子の生死という最大の問題に関わってくるからだ。
だが、相対性精神学的に《自己の死は存在しない》という解釈を採用すれば、あるいは蓮子が死ぬ世界さえも遷都の有無と同様、主観的には大差のない問題なのかもしれない。少なくとも隕石の衝突で、苦しむ間もなく死んだのだとすれば、自分自身が死んだと認識する暇さえ蓮子には無かったかもしれないのだから。
哲学ねえ、と蓮子は飲み干したカップの底を見るともなく眺め、――不意に、ひとつの可能性が脳裏をよぎって、慄然とした。
まさか。――まさかそんなことが、あり得るだろうか?
「……教授。私が見ている可能性世界は、私の主観を通して観測する世界なんですから、私が死んでいたり、私が生まれていなかったりする世界は観測できない。そうですよね?」
「ええ、そうなるわね」
「――だとすれば、ですよ。今回はたまたま隕石で滅ぶ世界の滅ぶ直前に行き当たっただけで、他にも隕石で滅んだ可能性世界は既にいくつもあったのかもしれない。そう考えることは、別におかしなことではないですよね?」
蓮子のその言葉に、教授は目を見開いて――それから、大きく開いた口を押さえた。
「宇佐見さん、まさか――」
「そう……そうですよ。今まで観測してきた世界が、あくまでこの世界の近似値だったとしたら、遷都の起きていない世界も、東海震災の起きていない世界も――それは、《まだ》起きていないだけの世界だったとは……考えられませんか? そして――」
「……別の世界線からすれば……私たちの世界は……《まだ》隕石の落ちていない世界……」
蓮子と教授は顔を見合わせ、しばし沈黙した。
そして、不意に蓮子は笑い出す。――まさか。まさかそんなことが。自分が、この世界の滅亡を予知してしまったとでもいうのか? 可能性世界を通して、この地球に隕石が衝突するという未来を発見してしまったと、そう言うのか?
――そして蓮子は戦慄する。つまり、予知夢とはそういうことなのではないか?
近似した可能性世界で発生したことは、時間のズレを伴ってこの世界でも発生しうるとすれば、夢の中の世界が無意識による可能性世界の観測だとすれば――。
昨日の自分は、人類滅亡の予知夢を見たのだ――。
「は、はは……まさか……ははは……」
蓮子はなんとかその考えを笑い飛ばそうとした。だが、笑いは引き攣って、どこか間の抜けたものにしかならず――。
次の瞬間、蓮子と教授のモバイルが同時に、全世界的な臨時ニュースの着信を告げた。
いや、それはそのとき、世界中の全人類のもとに同時に届けられたのだ。
NASAと国連からの、全世界へ向けた、そのニュースが。
『――12時間後、地球に巨大な隕石が衝突し、人類は滅亡します』
* * *
暴動は起こらなかった。
12時間後に人類が滅亡すると突然言われても、誰も実感を持って認識はできないということだ。ニュースを伝えるアナウンサーも半信半疑という顔をしていたし、少なくとも日本国民は皆狐につままれたような気分を味わっていたはずだ。
誰かが旗を振れば、あるいは暴動も起こったかもしれない。だが、日本人は同調圧力の民族である。誰もが半信半疑の中で、ヤケになって暴動を起こすという衝動よりも、白い眼で見られる恐怖の方が日本人は勝る。パニックを起こさない国民性というやつだ。
――そんな中、おそらく一部の国家元首とかそういう人たちを除いて、人類の滅亡を最も実感をもって認識していたひとりが、宇佐見蓮子である。
人類滅亡のニュースが流れたあと、蓮子は岡崎研究室を飛び出し、メリーを文学部から無理矢理連れ出してマンションに戻った。ネット上は隕石の話題一色で、怪情報が次々と飛び交っている。ほとんど情報収集の役にはたちそうもない。
「……ねえ、蓮子の言ってた可能性世界の話って――」
メリーもまた、半信半疑という顔ながら、隕石と聞いて数時間前に蓮子が話したことを思い出したらしく、顔を青ざめさせながらそう問うた。蓮子は溜息をついて、教授との議論の結果行き着いた結論を、かみ砕いてメリーに語って聞かせる。
「つまり……隕石が落ちて人類が滅ぶっていうのは、現実なのね、蓮子」
「……おそらくは、ね」
そう――とメリーは視線を落として、膝の上でぎゅっと手を握りしめた。蓮子はその手に自分の手を重ねる。自分の手が震えているのがわかった。12時間後――いや、もうあと11時間かそこらだ。そのときにはもう、この世界は消し飛んでしまう。自分も、メリーも。
人類が滅亡したぐらいで大学は無くならない――なんて馬鹿なことを考えていたら、本当に人類が滅亡しそうなのである。冗談にもなりはしない。
「メリー……」
たまらず、蓮子はメリーにしがみついた。押しつぶされそうな不安と心細さを、その両腕にぎゅっと込めて、爪を立てるぐらいに強く蓮子はメリーの背中に腕を回す。メリーは少し躊躇いがちに、蓮子の背中に腕を回し、さすってくれた。メリーだって不安なはずなのに――自分の情けなさに、蓮子は泣きたくなる。だけど――メリーの腕の中は、ひどく心地よい。
「蓮子」
囁かれるメリーの声。ああ――このままメリーと抱き合っていれば、安らかに終わりを迎えられそうな気がする。メリーと触れあって、メリーを感じてさえいれば――世界が滅ぶのだって、怖くはない――。
「……ねえ、蓮子。蓮子の見た世界で、私と蓮子は深夜に外を歩いていたのよね?」
「え?」
不意にそんなことを言われ、蓮子は顔を上げた。メリーは、ひどく真剣な顔で蓮子を見つめている。目をしばたたかせつつ、蓮子は頷いた。
「そう……そうね。サークル活動中だったはず――深夜の、あれはたぶん……」
記憶をたぐり、蓮子は脳裏に甦らせる。昨晩、あのヘッドギアを被って見た可能性世界。隕石の直撃を受けて滅ぶ寸前、自分とメリーがいた場所、それは――。
「――博麗神社、だったわ」
蓮子の答えに、メリーは目を見開き、そしてひとつ頷いた。
「蓮子。――ひょっとしたら、私たちは世界が滅んでも生き残れるかもしれないわ」
「……え?」
* * *
深夜の京都の街は、いつもよりも随分と明るい。
皆、間もなく訪れる人類滅亡の瞬間を、固唾を呑んで待ちわびているのだ。おそらく大半の人が、それが杞憂に終わることを期待して。明日にはとんでもない笑い話として皆で盛り上がれることを、おそらくは信じて。
それを信じられない宇佐見蓮子は、メリーとともに博麗神社に来ていた。とうの昔に廃社になった廃墟の神社は、いつもと変わらず静まりかえっている。
「――人類が滅ぶ前に、境界を超えるのよ。この現実から脱出するの」
メリーが言い出したのは、そんな解決方法だった。
はじめ、蓮子は「そんな無茶な」と言った。メリーと境界を超える――蓮子にとってそれは、メリーの視た境界を、目に触れてもらうことで共有することでしかない。それはあくまで蓮子にとってはビジョンの共有であり、現実の体験ではないのだ。現実の肉体がこの世界にある以上、境界を超えたところで隕石が衝突してしまえば自分たちは吹き飛んでしまう――。
「違うのよ蓮子。トリフネのとき、私がキマイラに襲われて怪我をしたでしょう?」
「ああ――そんなこともあったわね」
「あれは、私があのトリフネの中を現実だと知っていたからよ。蓮子はあれを夢だと思っていたから無傷だったけれど、私にとってあれは現実だったから怪我をした。だとすれば、蓮子だって私と同じように、境界の向こうを現実だと信じれば――」
「感覚だけじゃなく、肉体も物理的に境界の向こうに行けるっていうの?」
「そうよ。境界を超えた先を現実にするの。蓮子がよく言っていたじゃない。夢の世界を現実に変えるのよ! そうすれば、私たちはきっと、境界の向こう側で生きていけるわ」
蓮子の手を握りしめて、メリーはそう言いつのった。
――本当に、そんなことが可能なのか。物理学の徒としては、甚だ疑問と言わざるをえない。
だが、メリーがこうも強く信じて、自分を助けようとしてくれている。
そのことは、蓮子にとってどうしようもなく――幸福なことだったから。
「……解った。信じるわ、メリー」
メリーの手を、蓮子は強く握り返した。
――この手の感触が現実ならば、これがある限り、境界の向こう側でも、夢の中でも、それは現実になるはずだ。そこにメリーが存在するならば――。
時間を確かめようと、蓮子は空を見上げた。だが、そこにもう月も星も見えない。
だとすれば、やはりもう、自分が頼れるのはメリーの手だけなのだ――。
「……境界が揺らいでいるわ。蓮子、行くわよ」
「うん……」
「……不安? ご家族や友達が心配? ……みんなを残して逃げる自分が卑怯だと思う?」
「――ううん。私は、メリーがいればそれでいい」
「蓮子――私もよ」
ひょっとしたらこれが最後になるかもしれない――そんな想いを込めて、蓮子はメリーと向き合って、そっと顔を寄せた。一瞬のふれあいののち、絡み合った吐息をほどいて、ふたりはボロボロの鳥居へと向き直る。
「――蓮子」
「うん。……行くわよ、メリー」
そう、それがいつもの秘封倶楽部の形だ。蓮子がメリーを引っ張って、世界の不思議を探しに行く。ただしこれからは――その不思議の中で生きていくのだ。
メリーとふたりで。
そして、蓮子とメリーは境界を超えた。
その数十分後、地球に隕石が衝突し、人類は滅亡した。
* * *
人類が滅亡した翌日、宇佐見蓮子はいつも通り地下鉄に揺られて大学に行った。
通勤ラッシュを外れたほどほどの混雑の車内でモバイルを弄りながら、蓮子は小さく溜息をつく。世界が滅んだぐらいで大学は休みになってくれない。世知辛い話だ。
あふ、と欠伸を漏らしたところで、電車が大学の最寄り駅のホームに滑り込み、蓮子は人波に流されるようにしながら改札へ向かって歩く。地下を脱出すると陽光が寝不足の瞼を貫いて、思わず顔をしかめた。もう一度欠伸が漏れる。ゆうべは世界が滅んだせいで寝不足なのだ。
――断っておくが、人類が滅亡したというのは映画でもゲームでも漫画でも小説の話でもない。文字通り、宇佐見蓮子の存在する世界が、昨日滅亡したのである。巨大隕石が衝突して地球は火の玉になり、生物など一切住めない死の星になった。無論、人類の生存者などいるはずもない。宇佐見蓮子もまた、自分が死んだと認識する暇もなく、あっけなく死亡したはずだ。
だけど、その程度のことでは世界は何も変わらない。だから宇佐見蓮子は今日も寝不足の目を擦って大学の研究室に出向くし、人々はそれぞれの職場や学校に向かい、世界は全くいつも通りに回っている。
それはもちろん、相棒とて同じことである。
「おはよう、メリー」
「蓮子、おはよう。もう昼だけどね」
昼休みの時間でそこそこ混雑したカフェテラス。相棒はその片隅で文庫本を読んでいた。蓮子がその向かいに腰を下ろすと、マエリベリー・ハーンは読んでいた本を閉じて、蓮子の顔を見やって呆れ混じりの溜息をつく。
「眠そうね。また夜通しどこかの世界の観察でもしてたの?」
「そうそう。それなのよメリー。昨日はなんと、隕石の衝突で人類が滅亡したの――」
* * *
気が付くと、そこは見知らぬ神社の境内だった。
いや、違う。自分はこの神社をよく知っている――。目の前に広がった光景に、蓮子は息を飲み、そして悟る。――ここは、博麗神社だ。
ただし、自分の知る廃社になった博麗神社ではない。立派な本殿と鳥居が佇み、生活感のある、生きた神社だ。ということは、自分たちは――。
「メリー!」
「……蓮子、ここって」
「境界を――超えたんだわ」
隣にはちゃんとメリーがいて、蓮子はその手を強く握りしめていた。ああ――自分たちは本当に、メリーの夢の世界に……いや、現実の、境界の向こう側に辿り着いたのだ。隕石の衝突で滅んだ、あの世界から逃げ出して――。
安堵のような、かすかな後悔のような、よくわからない感情があふれて、蓮子はその場にへたりこんだ。メリーも一緒にその場に膝を突く。ふたりは向き合い、両手を絡め合った。
「メリー」
「蓮子……」
抱き合って喜べばいいのだろうか。それとも、滅んでしまっただろうあの世界に残してきた家族や友人を悼めばいいのだろうか。よくわからないまま、ただ蓮子はメリーと見つめ合い、
「……ん? なんであんたたちこんなところにいるの?」
突然、そこに第三者の声が割り込んできて、ふたりは顔を上げた。
そこには、箒を手にした巫女服の少女がいた。腋の開いた奇妙なデザインの巫女服。黒髪を結ぶ大きな赤いリボン。少女は半眼で訝しむように蓮子とメリーを見つめる。
「ええと――あ、貴方は? ここはいったい――」
「ん? てゆか、あんたら里の方に行ったのに、なんで戻ってきてるのよ」
「え?」
「え?」
話が噛み合っていない。巫女服の少女は蓮子とメリーを訝しげに睨む。
「……宇佐見蓮子と、なんだっけ、メリーよね?」
「え、ええ――」
なんで初対面の少女が、自分たちの名前を知っているんだろう。
「ニセモノ? 狐か狸の仕業かしら。怪しいわね。退治するわ」
「ちょ、ま、待って! そんなこと言われても何が何だか――」
お札を取り出し、殺気をみなぎらせた巫女服の少女に、蓮子は慌てて立ち上がって両手を降参のポーズに持ち上げる。少女は身構えたまま、「だったら正直に何者か言いなさいよ」と言った。そう言われても――。
「おん、霊夢。なんだなんだ、野良妖怪虐めてんのか?」
と、また別の誰かの声。霊夢と呼ばれた巫女服の少女が殺気を解いて振り返る。蓮子もそちらに視線をやると、魔女のような黒い服を着た金髪の少女がいた。やはり箒を持っている。
「魔理沙。いや、なんか妙なことになってて」
「妙? ――おん? はっ!?」
魔理沙と呼ばれた少女が、蓮子とメリーを見やって素っ頓狂な声をあげ、そして慌てて背後を振り返った。蓮子とメリーも、魔理沙の背後に視線をやり――言葉を失う。
「――わ、私?」
そこにいたのは。
霧雨魔理沙の背後で、あんぐりと口を開けていたふたりの少女は。
宇佐見蓮子と、マエリベリー・ハーンだった。
「ちょっと、何がどうなってるのよこれ。なんで宇佐見とメリーがふたりいるのよ!」
「私に訊かれても知らんぜ! 私ゃただ魔法の森に迷い込んできた外来人を見つけたから、ここに連れてきてやっただけでな――」
霊夢と魔理沙が言い争いを始める傍らで、蓮子とメリーは、突然現れたもうひとりの自分と呆然と向き合っていた。もうひとりの自分たちの方も、状況が全く理解できていないという顔で愕然とこちらを見つめている。
私とメリーがふたり――。いや、霊夢の反応を考えると、既にもうひとり私とメリーがこの世界にいるのかもしれない。しかし、いったいなんでそんな――。
宇佐見蓮子の頭脳は、理解不能なこの状況を解釈すべくフル回転を始めた。そして、プランク並と自称する彼女の頭脳は、ひとつの結論を弾き出した。
昨晩、蓮子が視た、隕石で滅んだ世界の自分。
あれも、自分たちと同じように、隕石の衝突から逃れようとメリーの力で境界を超え、この世界に辿り着いていたのだとしたら?
――そして、自分の世界と近似した可能性世界の、全ての宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが、隕石の衝突から逃れるため、同じように境界を超えたとすれば――。
近似した可能性世界は、可能性の数だけ無数に存在する。
「あ、あは、あはははははははは……」
結論が出た瞬間、蓮子はもう、メリーにしがみついて、狂人のように笑うしかなかった。
空から無数の蓮子とメリーが幻想郷に降りそそぎ始めたのは、翌日のことである。
* * *
そして、無数の宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが幻想入りし、幻想郷は蓮子とメリーに埋め尽くされた。物理的な幻想郷という空間に一切の隙間無く蓮子とメリーが詰め込まれてなお蓮子とメリーは増え続け、幻想郷の密度は雪だるま式にふくれあがり、やがて幻想郷は極端な高温高密度の状態に至り――そして、ビッグバンが発生し、宇宙が生まれた。
その宇宙に宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが生まれるのは、およそ138億年後のことである。
通勤ラッシュを外れたほどほどの混雑の車内でモバイルを弄りながら、蓮子は小さく溜息をつく。世界が滅んだぐらいで大学は休みになってくれない。世知辛い話だ。
あふ、と欠伸を漏らしたところで、電車が大学の最寄り駅のホームに滑り込み、蓮子は人波に流されるようにしながら改札へ向かって歩く。地下を脱出すると陽光が寝不足の瞼を貫いて、思わず顔をしかめた。もう一度欠伸が漏れる。ゆうべは世界が滅んだせいで寝不足なのだ。
――断っておくが、人類が滅亡したというのは映画でもゲームでも漫画でも小説の話でもない。文字通り、宇佐見蓮子の存在する世界が、昨日滅亡したのである。巨大隕石が衝突して地球は火の玉になり、生物など一切住めない死の星になった。無論、人類の生存者などいるはずもない。宇佐見蓮子もまた、自分が死んだと認識する暇もなく、あっけなく死亡したはずだ。
だけど、その程度のことでは世界は何も変わらない。だから宇佐見蓮子は今日も寝不足の目を擦って大学の研究室に出向くし、人々はそれぞれの職場や学校に向かい、世界は全くいつも通りに回っている。
それはもちろん、相棒とて同じことである。
「おはよう、メリー」
「蓮子、おはよう。もう昼だけどね」
昼休みの時間でそこそこ混雑したカフェテラス。相棒はその片隅で文庫本を読んでいた。蓮子がその向かいに腰を下ろすと、マエリベリー・ハーンは読んでいた本を閉じて、蓮子の顔を見やって呆れ混じりの溜息をつく。
「眠そうね。また夜通しどこかの世界の観察でもしてたの?」
「そうそう。それなのよメリー。昨日はなんと、隕石の衝突で人類が滅亡したの」
「あら。伊坂幸太郎の『終末のフール』? それとも三浦しをんの『むかしのはなし』かしら」
「私は新井素子の『ひとめあなたに…』が好きだけど。そうじゃなくて、私とメリーのいる世界に隕石が衝突したのよ。あれはなかなか衝撃的だったわ。っていっても、最後は一瞬で全部吹き飛んじゃったんだけどね」
「一瞬で死ぬのは苦しくなくて良さそうだけど、それ以前に隕石の衝突が公表されてたら、それまでの混乱した世界を生き抜くのが大変そうだわ」
「そこは見事に情報統制がされてたみたいねね。隕石が目視できる頃になってようやく全世界に発表されて、あとはパニックになる暇もなく一瞬でどーん、よ」
「その世界の私と蓮子は、そのときどうしてたの?」
「聞きたい?」
「まあ、それなりに気になるわ。別の世界線の自分のことは」
「――いつもと変わりないわよ。深夜だったから、サークル活動の最中にモバイルにその発表が流れて、私たちが空を見上げたら、その空はもう隕石に覆い尽くされていて――あとはもうブラックアウト」
「やれやれ、最期まで私は蓮子と一緒なのね」
「私たちはふたりでひとつの秘封倶楽部、運命共同体だもの。ね?」
「はいはい」
手を掴んで笑った蓮子に、メリーは苦笑混じりの優しい笑みを返した。
それもまたおおよそ、いつもと変わりのない、秘封倶楽部の日常であった。
* * *
――可能性世界の存在が初めて観測されたのは、2年前のことである。
比較物理学の権威たる岡崎夢美教授によって、この現実世界と重ね合わせの状態にある、無数の可能性世界の実存はそれ以前から理論的に証明されていたが、本格的な可能性世界の観測技術は、2年前にようやく確立された。その技術確立の決め手となったのは、メリーの専攻する相対性精神学の思考――即ち、徹底した主観主義である。
他者の主観の絶対的な観測不能性は、すなわち量子論における可能性世界の重ね合わせの状態に等しい。個人の主観を観測物理学に取り込んだ比較物理学は、客観が客観であることは主観においては決して確定できないとする相対性精神学の考え方に基づき、可能性世界の概念を個人の主観の上に求めたのである。
端的に言えば、それは夢と現実における主観の相違だ。夢の中の自己の主観は、現実の論理からすれば著しく破綻した夢の論理を、しかし夢の中においては当然の論理として受容する。夢の中と現実において、個人の主観認識が分離しうるとすれば、人間は際限なく主観を分割していくことが可能なのではないか――。
岡崎教授のその理論は、2年前の実験によって証明された。可能性空間探査装置という味も素っ気もネーミングセンスもない名前がつけられたヘッドギア風のその装置は、個人の表に出る主観以外の別の主観を脳内からランダムに探り出し、その人物に追体験させるのだ。
それによって、驚くべき事実が明らかになった。人間の脳内には、無数の――無限個と言っていいだけの主観が存在しており、その主観のそれぞれが別の世界を認識しているのだ。箱の中の猫が生きている世界も死んでいる世界も、同時に観測者の頭の中に存在したのである。ただ主観は主観であるがゆえに、その中のひとつしか認識できないというだけで。
夢が支離滅裂である理由も、これによって説明が可能となった。夢の中で人間は、頭の中にある無数の可能性世界をザッピングしていたのである。様々な別の世界の断片を繋ぎ合わせた結果として、夢は脈絡を欠くが、それぞれを認識する主観は自分自身であるために、夢の中の自分はそれを違和感なく受け入れるのである。
この研究は、発表とともに世間に一大センセーションを巻き起こした。マスメディアによって、「あり得たかもしれない別の人生を追体験できる装置」として紹介されてしまったのである。映画の『トータル・リコール』みたいなものだろうと、皆が考えたわけだ。実際、可能性世界を観測している間はその世界の自分の主観を通して世界を視るので、その理解も間違っているわけではないのだが――ともかく岡崎教授は一躍時の人となり、あらゆるメディアで並行世界SFが大ブームになった。
とはいえ可能性空間探査装置はまだ世界に数台しかなく、一般開放には到底至っていない。
京都のいち大学生に過ぎない宇佐見蓮子は、その可能性空間探査装置を使用することが許された、数少ない人間のひとりだ。なぜかと言えば、彼女は岡崎夢美教授の教え子であり、教授の秘蔵っ子だからである。
――かくして宇佐見蓮子は、岡崎教授のもと、自分の中に隠された無数の可能性世界を観測し続けているのである。昨晩見た、隕石で滅んだ世界も、そんな蓮子自身の中にある可能性世界のひとつなのだった。
* * *
蓮子が岡崎研究室のドアを開けると、岡崎夢美教授は机で何事かうなり声をあげていた。
「おはようございます、教授」
「――ああ、宇佐見さん。おはよう……いえ、もう昼ね」
時計を見て、ようやく昼過ぎになっていたことに気付いたように、教授は言う。「お茶を淹れるわ」と立ち上がり、教授は研究室の奧に引っ込んでいった。蓮子は自分の机に腰を下ろし、モバイルを起動する。ほどなく、教授がティーカップを手に戻って来た。
「はい、ストロベリーティーよ」
「ありがとうございます。レポート、届きました?」
「ええ、特に今回のはたいへん興味深く拝見させてもらったわ」
ばさりと紙束を机に投げ出して、教授はそう溜息めいて言った。好物のストロベリーティーを啜りながら、しかし今ばかりは苺を味わうよりも思考の方が優先しているらしく、しかめ面が剥がれない。珍しいこともあるものだ、と蓮子は首を傾げる。
「何か、私のレポートに問題でも?」
「問題――いえ、レポート自体はいつも通り素晴らしいわ。問題があるとすれば、中身ね。これはなかなか厄介な問題だわ」
「中身ですか。まあ確かに、隕石が降ってくる可能性世界なんて初めてでしたけど――」
蓮子は思い返す。これまでの観測実験で発見した、宇佐見蓮子という主観を通した可能性世界の多くは、今ここにいる宇佐見蓮子の世界と基本的に近似した世界であった。たいていの場合、蓮子は京都の大学生で、隣にはマエリベリー・ハーンがおり、岡崎教授の研究室に通っている。教授に師事しているかいないか、メリーとの関係の進展具合などに細かな違いはあるが、ほとんどは現在の生活と代わり映えしないものばかりだった。
そういう意味で、可能性空間探査装置についての「別の人生を追体験できる」という一般的な認識はあまり正しくない。可能性世界は無数に重なり合っている以上、今の宇佐見蓮子に近似した可能性世界がまずこの世界の近隣に無数に存在し、それらを一気に飛び越えて自分が全く別の人生を歩んでいる可能性世界に行ける可能性は低いというわけである。夢の中の自分だって、まるっきり別人のような人生を歩んでいることはそう無いだろう。そういうことだ。
「マクロな単位でこの現実と様相の違う可能性世界なら、前にもありましたよね。神亀の遷都が為されていない世界とか、15年前の東海震災が起きていない世界とか」
指を折りながら言う蓮子に、「そうね」と教授は頷く。
「主観を通した可能性世界の重ね合わせは、主観的に身近な差異を起点に拡散していく――宇佐見さんの仮説だったわね。宇佐見さんの主観においては、日本の首都が京都か東京かよりも、自分がこの大学に受かるか否かの方が大きな差異。だから首都京都の大学生である宇佐見さんの世界と、いち地方都市の京都の大学生である宇佐見さんの世界が近似値として扱われる。東海震災も同様ね。東京生まれで京都在住の宇佐見さんは、東海震災から主観的に明確な影響を受けていないから、その発生の有無は宇佐見さんの主観世界にはさほどの影響を及ぼさない」
「はい」
「――だとすれば宇佐見さん、貴方の今回の観測結果を、私はどう判断すべきなのかしら。何しろ隕石の衝突で世界が滅んでしまったということは、宇佐見さん、貴方も死んでしまったのよね。相対性精神学的に言えば、自分の死は自分の主観上においては決して観測できないが故に主観的に己の死は存在しない、と考えられるわけだけれど――」
「メリーからその考え方、前に聞きましたけど、かなり無茶苦茶なこと言ってますよね」
「しかし、この可能性世界理論は相対性精神学的な主観主義を前提としているのよ。相対性精神学において己の死は存在しないとすれば、隕石の衝突で世界が滅ぶことも、この世界の近似値の範囲内なのか――それとも宇佐見さんは、たまたま随分遠くの可能性世界を覗いてしまったのか――」
頭を抱えて唸る教授に、蓮子は肩を竦めてストロベリーティーを飲み干した。教授の言わんとするところが何なのか、蓮子にもようやく掴めてきた。
――もし、隕石の衝突で自分が死ぬ世界線がこの世界の近似値だとすれば、この世界にも近い将来同じようなことが起こりうるのではないか? 遷都の有無や、東海震災の有無なんかより、隕石の衝突はよほど直接的に蓮子の生死という最大の問題に関わってくるからだ。
だが、相対性精神学的に《自己の死は存在しない》という解釈を採用すれば、あるいは蓮子が死ぬ世界さえも遷都の有無と同様、主観的には大差のない問題なのかもしれない。少なくとも隕石の衝突で、苦しむ間もなく死んだのだとすれば、自分自身が死んだと認識する暇さえ蓮子には無かったかもしれないのだから。
哲学ねえ、と蓮子は飲み干したカップの底を見るともなく眺め、――不意に、ひとつの可能性が脳裏をよぎって、慄然とした。
まさか。――まさかそんなことが、あり得るだろうか?
「……教授。私が見ている可能性世界は、私の主観を通して観測する世界なんですから、私が死んでいたり、私が生まれていなかったりする世界は観測できない。そうですよね?」
「ええ、そうなるわね」
「――だとすれば、ですよ。今回はたまたま隕石で滅ぶ世界の滅ぶ直前に行き当たっただけで、他にも隕石で滅んだ可能性世界は既にいくつもあったのかもしれない。そう考えることは、別におかしなことではないですよね?」
蓮子のその言葉に、教授は目を見開いて――それから、大きく開いた口を押さえた。
「宇佐見さん、まさか――」
「そう……そうですよ。今まで観測してきた世界が、あくまでこの世界の近似値だったとしたら、遷都の起きていない世界も、東海震災の起きていない世界も――それは、《まだ》起きていないだけの世界だったとは……考えられませんか? そして――」
「……別の世界線からすれば……私たちの世界は……《まだ》隕石の落ちていない世界……」
蓮子と教授は顔を見合わせ、しばし沈黙した。
そして、不意に蓮子は笑い出す。――まさか。まさかそんなことが。自分が、この世界の滅亡を予知してしまったとでもいうのか? 可能性世界を通して、この地球に隕石が衝突するという未来を発見してしまったと、そう言うのか?
――そして蓮子は戦慄する。つまり、予知夢とはそういうことなのではないか?
近似した可能性世界で発生したことは、時間のズレを伴ってこの世界でも発生しうるとすれば、夢の中の世界が無意識による可能性世界の観測だとすれば――。
昨日の自分は、人類滅亡の予知夢を見たのだ――。
「は、はは……まさか……ははは……」
蓮子はなんとかその考えを笑い飛ばそうとした。だが、笑いは引き攣って、どこか間の抜けたものにしかならず――。
次の瞬間、蓮子と教授のモバイルが同時に、全世界的な臨時ニュースの着信を告げた。
いや、それはそのとき、世界中の全人類のもとに同時に届けられたのだ。
NASAと国連からの、全世界へ向けた、そのニュースが。
『――12時間後、地球に巨大な隕石が衝突し、人類は滅亡します』
* * *
暴動は起こらなかった。
12時間後に人類が滅亡すると突然言われても、誰も実感を持って認識はできないということだ。ニュースを伝えるアナウンサーも半信半疑という顔をしていたし、少なくとも日本国民は皆狐につままれたような気分を味わっていたはずだ。
誰かが旗を振れば、あるいは暴動も起こったかもしれない。だが、日本人は同調圧力の民族である。誰もが半信半疑の中で、ヤケになって暴動を起こすという衝動よりも、白い眼で見られる恐怖の方が日本人は勝る。パニックを起こさない国民性というやつだ。
――そんな中、おそらく一部の国家元首とかそういう人たちを除いて、人類の滅亡を最も実感をもって認識していたひとりが、宇佐見蓮子である。
人類滅亡のニュースが流れたあと、蓮子は岡崎研究室を飛び出し、メリーを文学部から無理矢理連れ出してマンションに戻った。ネット上は隕石の話題一色で、怪情報が次々と飛び交っている。ほとんど情報収集の役にはたちそうもない。
「……ねえ、蓮子の言ってた可能性世界の話って――」
メリーもまた、半信半疑という顔ながら、隕石と聞いて数時間前に蓮子が話したことを思い出したらしく、顔を青ざめさせながらそう問うた。蓮子は溜息をついて、教授との議論の結果行き着いた結論を、かみ砕いてメリーに語って聞かせる。
「つまり……隕石が落ちて人類が滅ぶっていうのは、現実なのね、蓮子」
「……おそらくは、ね」
そう――とメリーは視線を落として、膝の上でぎゅっと手を握りしめた。蓮子はその手に自分の手を重ねる。自分の手が震えているのがわかった。12時間後――いや、もうあと11時間かそこらだ。そのときにはもう、この世界は消し飛んでしまう。自分も、メリーも。
人類が滅亡したぐらいで大学は無くならない――なんて馬鹿なことを考えていたら、本当に人類が滅亡しそうなのである。冗談にもなりはしない。
「メリー……」
たまらず、蓮子はメリーにしがみついた。押しつぶされそうな不安と心細さを、その両腕にぎゅっと込めて、爪を立てるぐらいに強く蓮子はメリーの背中に腕を回す。メリーは少し躊躇いがちに、蓮子の背中に腕を回し、さすってくれた。メリーだって不安なはずなのに――自分の情けなさに、蓮子は泣きたくなる。だけど――メリーの腕の中は、ひどく心地よい。
「蓮子」
囁かれるメリーの声。ああ――このままメリーと抱き合っていれば、安らかに終わりを迎えられそうな気がする。メリーと触れあって、メリーを感じてさえいれば――世界が滅ぶのだって、怖くはない――。
「……ねえ、蓮子。蓮子の見た世界で、私と蓮子は深夜に外を歩いていたのよね?」
「え?」
不意にそんなことを言われ、蓮子は顔を上げた。メリーは、ひどく真剣な顔で蓮子を見つめている。目をしばたたかせつつ、蓮子は頷いた。
「そう……そうね。サークル活動中だったはず――深夜の、あれはたぶん……」
記憶をたぐり、蓮子は脳裏に甦らせる。昨晩、あのヘッドギアを被って見た可能性世界。隕石の直撃を受けて滅ぶ寸前、自分とメリーがいた場所、それは――。
「――博麗神社、だったわ」
蓮子の答えに、メリーは目を見開き、そしてひとつ頷いた。
「蓮子。――ひょっとしたら、私たちは世界が滅んでも生き残れるかもしれないわ」
「……え?」
* * *
深夜の京都の街は、いつもよりも随分と明るい。
皆、間もなく訪れる人類滅亡の瞬間を、固唾を呑んで待ちわびているのだ。おそらく大半の人が、それが杞憂に終わることを期待して。明日にはとんでもない笑い話として皆で盛り上がれることを、おそらくは信じて。
それを信じられない宇佐見蓮子は、メリーとともに博麗神社に来ていた。とうの昔に廃社になった廃墟の神社は、いつもと変わらず静まりかえっている。
「――人類が滅ぶ前に、境界を超えるのよ。この現実から脱出するの」
メリーが言い出したのは、そんな解決方法だった。
はじめ、蓮子は「そんな無茶な」と言った。メリーと境界を超える――蓮子にとってそれは、メリーの視た境界を、目に触れてもらうことで共有することでしかない。それはあくまで蓮子にとってはビジョンの共有であり、現実の体験ではないのだ。現実の肉体がこの世界にある以上、境界を超えたところで隕石が衝突してしまえば自分たちは吹き飛んでしまう――。
「違うのよ蓮子。トリフネのとき、私がキマイラに襲われて怪我をしたでしょう?」
「ああ――そんなこともあったわね」
「あれは、私があのトリフネの中を現実だと知っていたからよ。蓮子はあれを夢だと思っていたから無傷だったけれど、私にとってあれは現実だったから怪我をした。だとすれば、蓮子だって私と同じように、境界の向こうを現実だと信じれば――」
「感覚だけじゃなく、肉体も物理的に境界の向こうに行けるっていうの?」
「そうよ。境界を超えた先を現実にするの。蓮子がよく言っていたじゃない。夢の世界を現実に変えるのよ! そうすれば、私たちはきっと、境界の向こう側で生きていけるわ」
蓮子の手を握りしめて、メリーはそう言いつのった。
――本当に、そんなことが可能なのか。物理学の徒としては、甚だ疑問と言わざるをえない。
だが、メリーがこうも強く信じて、自分を助けようとしてくれている。
そのことは、蓮子にとってどうしようもなく――幸福なことだったから。
「……解った。信じるわ、メリー」
メリーの手を、蓮子は強く握り返した。
――この手の感触が現実ならば、これがある限り、境界の向こう側でも、夢の中でも、それは現実になるはずだ。そこにメリーが存在するならば――。
時間を確かめようと、蓮子は空を見上げた。だが、そこにもう月も星も見えない。
だとすれば、やはりもう、自分が頼れるのはメリーの手だけなのだ――。
「……境界が揺らいでいるわ。蓮子、行くわよ」
「うん……」
「……不安? ご家族や友達が心配? ……みんなを残して逃げる自分が卑怯だと思う?」
「――ううん。私は、メリーがいればそれでいい」
「蓮子――私もよ」
ひょっとしたらこれが最後になるかもしれない――そんな想いを込めて、蓮子はメリーと向き合って、そっと顔を寄せた。一瞬のふれあいののち、絡み合った吐息をほどいて、ふたりはボロボロの鳥居へと向き直る。
「――蓮子」
「うん。……行くわよ、メリー」
そう、それがいつもの秘封倶楽部の形だ。蓮子がメリーを引っ張って、世界の不思議を探しに行く。ただしこれからは――その不思議の中で生きていくのだ。
メリーとふたりで。
そして、蓮子とメリーは境界を超えた。
その数十分後、地球に隕石が衝突し、人類は滅亡した。
* * *
人類が滅亡した翌日、宇佐見蓮子はいつも通り地下鉄に揺られて大学に行った。
通勤ラッシュを外れたほどほどの混雑の車内でモバイルを弄りながら、蓮子は小さく溜息をつく。世界が滅んだぐらいで大学は休みになってくれない。世知辛い話だ。
あふ、と欠伸を漏らしたところで、電車が大学の最寄り駅のホームに滑り込み、蓮子は人波に流されるようにしながら改札へ向かって歩く。地下を脱出すると陽光が寝不足の瞼を貫いて、思わず顔をしかめた。もう一度欠伸が漏れる。ゆうべは世界が滅んだせいで寝不足なのだ。
――断っておくが、人類が滅亡したというのは映画でもゲームでも漫画でも小説の話でもない。文字通り、宇佐見蓮子の存在する世界が、昨日滅亡したのである。巨大隕石が衝突して地球は火の玉になり、生物など一切住めない死の星になった。無論、人類の生存者などいるはずもない。宇佐見蓮子もまた、自分が死んだと認識する暇もなく、あっけなく死亡したはずだ。
だけど、その程度のことでは世界は何も変わらない。だから宇佐見蓮子は今日も寝不足の目を擦って大学の研究室に出向くし、人々はそれぞれの職場や学校に向かい、世界は全くいつも通りに回っている。
それはもちろん、相棒とて同じことである。
「おはよう、メリー」
「蓮子、おはよう。もう昼だけどね」
昼休みの時間でそこそこ混雑したカフェテラス。相棒はその片隅で文庫本を読んでいた。蓮子がその向かいに腰を下ろすと、マエリベリー・ハーンは読んでいた本を閉じて、蓮子の顔を見やって呆れ混じりの溜息をつく。
「眠そうね。また夜通しどこかの世界の観察でもしてたの?」
「そうそう。それなのよメリー。昨日はなんと、隕石の衝突で人類が滅亡したの――」
* * *
気が付くと、そこは見知らぬ神社の境内だった。
いや、違う。自分はこの神社をよく知っている――。目の前に広がった光景に、蓮子は息を飲み、そして悟る。――ここは、博麗神社だ。
ただし、自分の知る廃社になった博麗神社ではない。立派な本殿と鳥居が佇み、生活感のある、生きた神社だ。ということは、自分たちは――。
「メリー!」
「……蓮子、ここって」
「境界を――超えたんだわ」
隣にはちゃんとメリーがいて、蓮子はその手を強く握りしめていた。ああ――自分たちは本当に、メリーの夢の世界に……いや、現実の、境界の向こう側に辿り着いたのだ。隕石の衝突で滅んだ、あの世界から逃げ出して――。
安堵のような、かすかな後悔のような、よくわからない感情があふれて、蓮子はその場にへたりこんだ。メリーも一緒にその場に膝を突く。ふたりは向き合い、両手を絡め合った。
「メリー」
「蓮子……」
抱き合って喜べばいいのだろうか。それとも、滅んでしまっただろうあの世界に残してきた家族や友人を悼めばいいのだろうか。よくわからないまま、ただ蓮子はメリーと見つめ合い、
「……ん? なんであんたたちこんなところにいるの?」
突然、そこに第三者の声が割り込んできて、ふたりは顔を上げた。
そこには、箒を手にした巫女服の少女がいた。腋の開いた奇妙なデザインの巫女服。黒髪を結ぶ大きな赤いリボン。少女は半眼で訝しむように蓮子とメリーを見つめる。
「ええと――あ、貴方は? ここはいったい――」
「ん? てゆか、あんたら里の方に行ったのに、なんで戻ってきてるのよ」
「え?」
「え?」
話が噛み合っていない。巫女服の少女は蓮子とメリーを訝しげに睨む。
「……宇佐見蓮子と、なんだっけ、メリーよね?」
「え、ええ――」
なんで初対面の少女が、自分たちの名前を知っているんだろう。
「ニセモノ? 狐か狸の仕業かしら。怪しいわね。退治するわ」
「ちょ、ま、待って! そんなこと言われても何が何だか――」
お札を取り出し、殺気をみなぎらせた巫女服の少女に、蓮子は慌てて立ち上がって両手を降参のポーズに持ち上げる。少女は身構えたまま、「だったら正直に何者か言いなさいよ」と言った。そう言われても――。
「おん、霊夢。なんだなんだ、野良妖怪虐めてんのか?」
と、また別の誰かの声。霊夢と呼ばれた巫女服の少女が殺気を解いて振り返る。蓮子もそちらに視線をやると、魔女のような黒い服を着た金髪の少女がいた。やはり箒を持っている。
「魔理沙。いや、なんか妙なことになってて」
「妙? ――おん? はっ!?」
魔理沙と呼ばれた少女が、蓮子とメリーを見やって素っ頓狂な声をあげ、そして慌てて背後を振り返った。蓮子とメリーも、魔理沙の背後に視線をやり――言葉を失う。
「――わ、私?」
そこにいたのは。
霧雨魔理沙の背後で、あんぐりと口を開けていたふたりの少女は。
宇佐見蓮子と、マエリベリー・ハーンだった。
「ちょっと、何がどうなってるのよこれ。なんで宇佐見とメリーがふたりいるのよ!」
「私に訊かれても知らんぜ! 私ゃただ魔法の森に迷い込んできた外来人を見つけたから、ここに連れてきてやっただけでな――」
霊夢と魔理沙が言い争いを始める傍らで、蓮子とメリーは、突然現れたもうひとりの自分と呆然と向き合っていた。もうひとりの自分たちの方も、状況が全く理解できていないという顔で愕然とこちらを見つめている。
私とメリーがふたり――。いや、霊夢の反応を考えると、既にもうひとり私とメリーがこの世界にいるのかもしれない。しかし、いったいなんでそんな――。
宇佐見蓮子の頭脳は、理解不能なこの状況を解釈すべくフル回転を始めた。そして、プランク並と自称する彼女の頭脳は、ひとつの結論を弾き出した。
昨晩、蓮子が視た、隕石で滅んだ世界の自分。
あれも、自分たちと同じように、隕石の衝突から逃れようとメリーの力で境界を超え、この世界に辿り着いていたのだとしたら?
――そして、自分の世界と近似した可能性世界の、全ての宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが、隕石の衝突から逃れるため、同じように境界を超えたとすれば――。
近似した可能性世界は、可能性の数だけ無数に存在する。
「あ、あは、あはははははははは……」
結論が出た瞬間、蓮子はもう、メリーにしがみついて、狂人のように笑うしかなかった。
空から無数の蓮子とメリーが幻想郷に降りそそぎ始めたのは、翌日のことである。
* * *
そして、無数の宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが幻想入りし、幻想郷は蓮子とメリーに埋め尽くされた。物理的な幻想郷という空間に一切の隙間無く蓮子とメリーが詰め込まれてなお蓮子とメリーは増え続け、幻想郷の密度は雪だるま式にふくれあがり、やがて幻想郷は極端な高温高密度の状態に至り――そして、ビッグバンが発生し、宇宙が生まれた。
その宇宙に宇佐見蓮子とマエリベリー・ハーンが生まれるのは、およそ138億年後のことである。
だが、浅木原さんらしく話を作り、地球滅亡に上手く対応する「宇宙誕生」オチを上手く使って「もしやオチ考えてなかったんじゃ…」と読者に思われるという最悪の事態を上手く避けているようにも見えるし、「宇宙誕生」が見事なオチ過ぎて「こいつアホじゃねぇの(最大級の賛辞」って言いたくなる。
どっちにしろ100点です(乾杯
奇抜な発想ここに極まるって感じですな
そしてオチがひでぇw
シリアス台無しw
突飛な発想って恐い。
天晴! 文句なしに満点であるッ
つまりこの世界のほとんどは蓮メリで出来ているんですね!
しかし面白い
「世界は秘封に始まり、終わる」ってテーマかなw
結末に納得いかない人は、「世界の数だけ幻想郷がある」として脳内補完すれば幸せに!
ラストがギャグで終わっているおかげで、いろいろ救われた気がします。
もし、無限に増え続ける2人の中で、秘封の2人や幻想郷の面々が右往左往しながら対応策を探す長編SFな展開になっていたら、頭パンクするところでした。大好物なんですけどね。
楽しい時間をありがとうございました。
酷い部分以外はさすが浅木原さんだわw
蓮メリちゅっちゅが濃すぎて宇宙がビッグバン!
『宇宙魚顛末記』を思わせる展開と、壮大すぎて異様なオチが面白い。
蓮メリは宇宙開闢!
面白かったです。
まさかオチがそんなとこに飛躍するとはwww
いやはや、そんな可能性世界も確かに存在するはずですよね。
もうこう言うしかないじゃないか。途中までのシリアスどこ行ったw
いやしかし幻想郷はひとつしかないってことですかね?
蓮子かわいそうすぎる
だがそれがいい
何を言っているか(ry
本文でグっと引き込まれて、
あとがきでまた吹きました。
空間を埋め尽くす高濃度な蓮メリ成分摂取したい……