● 箱の中の胎児
朱塗りの柵に囲まれた一角に十ほどの真新しい石地蔵が並んでいる。これも紅い襟巻きに風車。
その前をなんともいえない顔つきになった巫女が通る。楽しげでは無いと言う以上は複雑すぎて表現できない顔の巫女は、そこを一度通り過ぎ、少し行ってから引き返して地蔵共をじろりと一瞥し、それからまた来た道を引き返していった。
盛夏である。陽炎の立つ路地に人気はない。
もうちょっと、きちんと確かめるべきだったかもしれない。と、ちらりと振り返って早苗は思った。あの地蔵の傍の立て札は由緒書きで、多分建立した拝み屋の事なども書いてあったはずなのだ。しかし、早苗にはどうもあの水子地蔵と言う奴が直視できない。それで結局書いてある字は一つも読まなかった。怖いと言うのではない、嫌なのだ。
つまり、早苗はどろどろした生臭い現代資本主義社会からこの長閑な幻想郷に引っ越してきた現代っ子で、そして同時に宗教者の端くれでもある。現代っ子の鼻は水子供養にどうも胡散臭いものを嗅ぎ取ってしまうし、同じ宗教者のやっていることだから同時に自分まで生臭いものに浸からされているような、けれども全部が全部あくどいわけでは無いし、嫌らしいと思いつつもそれは信仰の一面も示していて――つまり複雑なのだ。
人気の無い路地で地蔵が持った風車が音も無く回るその風景は、早苗がなんと思おうと、もの寂しい清らかさがあった。
◇◇◇
「あんた、何してんの?」
博麗神社の庭にふわりと降り立った早苗が、降り立ったまま腕を組み首を傾げ続けてもう二三分にもなる。縁側で暑気に苛まれるもう一人の巫女は面倒くさくてそれをほうっていたのだが、わざわざ訪ねて来たくせに挨拶もなしに視界の隅に突っ立っていられるのはこれも面倒だ。それで、しぶしぶと言うわけでもないが、第一声を発した。
ああ、霊夢さん。と難しい顔をしていた早苗は霊夢がそこに居るのにはじめて気が付いたと言う態である。
「随分と刺激的な格好ですね」
霊夢は白の小袖にいつもの赤いスカートというちぐはぐな格好で、着物の前を盛大にはだけて、手に団扇、水を張った盥に足を突っ込んでいる。後ろに手を付いてだらりとなった様子は座っているというより、伸びているといった風だ。早苗はなかなか可愛いおへそですと付け加えた。
「いいのよ、どうせ女しか来ないんだし。それより何か用? そこに突っ立ってられると鬱陶しいんだけど」
「それがですね、なんとお話したらいいものかと」
「なら考え終わるまで掃除でもしてきなさいよ。私は忙しいの」
「忙しい?」
「呪いよ、呪い」
ぱたぱた団扇を動かしながら霊夢が投げ遣りに言えば、ははぁと早苗は大げさに驚いてみせる。
「霊夢さんの呪いは余り効きそうにありませんね。で、何を?」
霊夢がだるそうに上の方を指差すと、つられて早苗も上を向く。
「屋根ですか?」
「……太陽よ」
どうも、とぼけてるのか、素なのか判別しにくい。
「いけませんね。巫女がそんな事を言っちゃ。太陽が無くなったら困ります」
別に、呪ったからと言って無くなるというわけではあるまい。それに万が一無くなったら、
「そん時は、あんたが踊れば? 信仰、集まりそうよ」
「そうですね。その時は奇跡が必要でしょうからね」
霊夢は大儀そうに腰をずらして盥に入れた足を片方に寄せた。庭の早苗はそれに誘われるように霊夢の隣まで来て、靴を脱いだ。盥の水は早苗の期待よりずっと温いようだった。しかたあるまい、霊夢は朝から水を替えてない。
「大体、霊夢さんは呪うなんて言いながら誠心誠意呪っていなかったでしょう?」
「誠心誠意呪うってすごい言葉ね。ま、言いたい事はわかるけど」
軽々しく呪うだの祟るだの言っては不味いだろう。一応巫女なのだし。見ると早苗は腰に挟んでいた幣を抜き、両手で握り何かムニャムニャやりだした。訊く気にもなれなくて団扇で胸元を一つ扇ぐと、庭の向こうの雑木林が鳴った。
ごうっと音がして、乾いた風が抜けていった。団扇は吹き飛ばされ、肩に引っ掛けるようにしていた小袖が肘まで落ちた。
「どうです。涼しくなったでしょう」
「涼しかった、かしらね」
やるなら本気で、という話かもしれない。この山の巫女は手を抜く事も、適度にやるということも知らないようだった。
◇◇◇
「ええと、水子というのはこちらにも居ますか?」
どう話そうか、未だに纏まっていない。本音を言ってしまえば、早苗は水子信仰というものが端から嫌いだ。が、どうも真面目に考えてみると、だから無くなってほしいというのは違う気がする。盥の水を足でかき回しながら、早苗はまだ考えている途中だ。
「水子?」
「はい、水子」
「そりゃ、いるでしょ。里でお地蔵さん見なかった? 風車持った奴」
「ええ見ました。それでこちらに来たんですが」
「何でうちなのよ、拝み屋のとこに行きなさいよ。巫女は供養はやってないわよ」
「はぁ、いえ、水子というのはこちらでも祟るものなのでしょうか」
「さぁ?」
「さぁって……」
「言ったでしょ。管轄外よ」
霊夢がこの調子と言う事は、やはり実害など無いのか。
「ええとですね、外の世界では、水子供養が社会問題のようになった事がありまして」
「社会? 問題?」
話すことが纏まっていないというよりも、口に出しづらいのだ。早苗はああ、とかうぅ、とか詰りながら言葉を選んだ。
「水子の霊をそのままにしておくのは良くない。祟りがあるぞ、水子の霊が障るぞと言って、こう、大金を……」
「ああ、そういう。それで、里に悪い拝み屋が居るって話?」
「いえ、そうじゃなくて、なんと言いますか、そうならないように未然に防ぐというか……」
「……へぇ」
霊夢の方はそっけない。暑さのせい、ばかりではないだろう。
「水子供養にお金を掛けるのは良くない事だと、こう、啓蒙と言うか……」
なんだか、自分で話していながら、おかしなことを言っている気がする。
そもそもここに来る前、神社へ向けて空を飛んでいる最中、早苗はは「水子は祟りません」と、そう言ってしまって何か不都合があるかと、それを霊夢に訊こううと思っていたのだ。水子が祟るか祟るまいか早苗にははっきりしたことは分からないのだが、それでも「祟らない」と言ってしまったほうが良いのだと、そう感じていたのだ。しかし、それで何か実害が出てはいけないし、だから幻想郷の先輩巫女に訊いておこうと、こういう話だったはずだ。
なのに話している間に段々早苗の自信はなくなっていって、主張はだいぶ大人しくなった。そうなってもまだおかしいような気がする。
「余計なお世話」
話し始めたときから、言われるだろうとは思っていた。
「それにさ、怯えさせて金取るなんて、拝み屋の常套手段じゃない。水子に限った話じゃないでしょ」
それでもやはり、早苗は嫌なのだ。何か人の弱みに付け込んだ、汚いやり方に見える。
「そうなんですが、水子の祟りって他とは少し性質が違うと思うんです。より悪質というか。普通は何か原因はわからない悪いことが起って、そうなって初めて人は何かが障っているかもしれないと、こう考える訳です。何かあってからなんです。だけど、水子の場合は何も悪いことが起って無くても、将来悪いことがあるってなっちゃうんです」
「前世の罪業がーってのもあるわね」
「ああ、そうですね。ええと、でも、前世の罪業だったら本人には何の覚えも無いわけで、踏みとどまりやすいでしょう。水子の方は脛に傷といいますか、やはり罪悪感がありますから……」
「ま、そういうのはあるんだろうけどさ。別にいいんじゃない? 外は外、内は内よ。まともな拝み屋だって一杯いるわよ?」
「いいんでしょうか……」
「好きにしなさいよ。私にはどうでもいいわ」
そう言って、霊夢は上半身をばたりと後ろに倒した。
協力するなんて言葉が聞けるとは思っていなかったし、反対されるかもしれないとも考えたが、それでもあからさまにどうでもいいとまで言われるとも思っていなかった。
「外の世界では、宗教とか信仰とか、そういうものがすごく軽んじられているんです。信心があるというだけで知能に劣ったところがあるように言う人も少なくありません。それは宗教者が人々に誠実でなかったからだと私は思うんです。私は幻想郷の中までそうなってほしくありません」
誠実ねぇと言いながら霊夢は盥の水を蹴っている。興味ないのだろう。
「例えば、さ、里であんたのところに『水子を何とかしてほしい』って相談が来たら、あんたはどうすんの?」
「それは――」
そういえば、それは考えた事がなかった。自分は巫女なのだし、そういう人とも対面するだろう。そこで「水子は祟りません」とか「お金をかけては駄目ですよ」とか、そういうことを言うのだろうか自分は。さすがに、それは違うだろう。自分は現実に居る、祟られたと考える人々を飛び越した所でものを考えていたのだ。誠実であれと自分の口は言うけれど、これは誠実な態度なのか。
「んん……私は浅はかですね」
「浅はか? 何よいきなり。それよりどうすんのよ」
「お祓いですかね。霊が障るわけですから」
「あんたねぇ。お祓いって、掃う掃く追っ払うって事じゃない? 祓っていいの? 自分の子供なのに?」
「ああ、慰霊です。慰霊祭をします」
「どういう風に?」
「どういうって……こう、お供えをして祭詞をあげて……」
「それで?」
「それで……終わりです」
まただ、と思った。また自分は何かずれた事を言っている。この違和感はなんだろう。そういえば占いをしたり、札を配ったりはしているが、自分は札売りでもないし占い師でもない筈なのだ。信仰を説く宗教者のはずなのに、どうもそれらしいことをした覚えが無い。経験が無いからそれで『いい』のか分からない。『いい』と言うのはつまり――
「絶対とは言わないけどさ、それじゃその人、救われないわよ」
――つまり人を救わなければいけない筈なのだ。
「ま、あんたの所は神様がちゃんと居るから、それで構わないのかな。早苗じゃなくて神奈子が救うわけだし」
それはそうなのだろうけど。それでは神社に住んでる札売りだ。
「何で救われないか、あんただって分かるでしょ」
それは多分、その人が何もしていないからだ。ただ座って祭詞を聞いたらそれで終わりなんて、それはそれで胡散臭い事この上ない。儀式も必要だろうが、それだけでなく救われるための努力のようなものをしないと駄目なのだ。そしてその証があればもっといい。
――それがあのお地蔵様か。
だからと言って、それが上から下まで正しい事とは、やはり早苗には思えないのだけれども。
霊夢が「まったくウチのはどちらにお隠れなのかしら」と腹を掻きながら呟いている。
「救うって言ってお金とって、それで救えなかったら詐欺だけどさ。救えてるんなら、それでいいんじゃないの」
悩める人にとっては、救われたか否かが問題なのだ。全部が全部そうとは言えないかも知れないけれど、外の世界で問題が起きたのは、結局救えなかったからなのだろう。ならば、救われるための努力とその証のために大金を出させるという、あのやり方も不誠実という訳ではないのか。
「まぁでも、あの手の地蔵が最近増えたのは確かよね。みんな真新しいし」
どうにもまとまらない思考を中断して早苗がふと見ると、そこにだらしなく伸びているはずだった霊夢はもう居なかった。後ろを振り返ると霊夢が化粧台のところでさらしを胸に巻いていた。
「どうかしましたか?」
「んー、ちょっと出かけるわ。あんたも来る?」
◇◇◇
少し迷って着いたのは小さな民家だった。振り返ると遠くに里の火の見櫓が見える。距離は一里4km無いだろうか。外から来た早苗は未だに目測で距離を算出するのが苦手だ。
家は掘っ建て小屋と言っても差し支えない建物で、屋根を押さえるために乗せた石のせいで逆に屋根はひしゃげていた。裏には小川というほどでもない細い流れがあるのだろう。ちろちろと水の音が聞こえる。なんとなく、陰気な場所だと早苗は思った。夏の白昼炎天下で、辺りは開けて遮るものもない。にもかかわらず、なにか雰囲気が暗い。家の前の僅かな畑には大根やらに混じって鬼灯が植えられていて、紅い実をたくさんつけていたが、それにさえも陰があった。
その畑をまわって、霊夢が小屋の戸を叩こうとしたところで後ろでしわがれた声がした。
「子供の来るところじゃないよ」
振り返って見るとそれは野良着の婆だった。老女でも年寄りでもお婆さんでもなく、婆だと、その時早苗は思った。失礼だと思う反面、やはり目の前の人物を表す言葉としては婆以外はどれも違う気がする。
「私は霊夢。こっちは早苗。あのさ、ちょっと話があるんだけど」
「その姿(なり)、巫女かい?」
「そうよ。訊きたい事があるんだけど、入れてくれない?」
婆は霊夢と早苗の全身をたっぷりと睨め付けた後、素通りして何も言わずに暗い屋内に入っていった。
霊夢ががりがり頭を掻きながら「ねえ!」と怒鳴った。
「勝手におし」と中から聞こえた。
中は、暗かった。一面土間で、かまどと反対の方の隅に僅かに二畳ほど板が張ってある。そこにこの場に似合わない立派な箪笥と敷いたままの布団が見えた。家財といえるものはそれだけのようだった。小さな窓から入る陽光に宙を舞う埃が光って見えた。婆は瓶から水を飲み、その脇の一つしかない丸い腰掛に座った。
「あの、霊夢さん?」
「ああ、この人が子潰し婆さんよ」
子潰し婆さんと言われて、早苗は一瞬妖怪かと思った。その言葉が中絶医のことを意味するのだと理解するには大分かかった。
この土間がこの郷の妊娠中絶の場なのだ。早苗はこの婆に、この土間で、処置されている自分を想像して気が遠くなった。そうして見ると、あの梁から垂れる荒縄も、隅に丸めて立て掛けてある筵も、転んだ手桶も、ここにある何もかもが恐ろしげに見えて仕方が無い。隣に立つ痩せっぽちの少女はよくこの場にまっすぐ立っていられるものだと、ふらつくのを堪えながら思った。霊夢は土間の中をうろついて、その禍々しい物共を弄っている。
「その敷居を、未通女(おぼこ)が跨いだなァ初めてだよ」
そう言って、この郷の中絶医は懐から煙管を取り出し、かまどの燠火をとりに立った。
「意外に質素な生活なのねぇ」
「この歳でする贅沢なんぞあるかいね」
振り向いた婆の口からぱっと煙が吐かれる。
「現金は煙草くらいにしか使い道がない見たいね。ああ、その煙管も新しいのかしら」
光に乏しい土間の中で煙管の火皿がきらきら光っている。
「……なんの用で来た」
「だから、訊きたい事があるって。あと子潰し婆さんが現金なんて稼いで、どんな贅沢してるのか見に来たのよ」
「かッ! そんな生っ白い手ェしたアマッコに、何がわかる」
「好きで巫女になったんじゃないわよ。あんたも同じだろうけど」
「あんたじゃねえ。サトだ」
「サトさんさ。誰がここに来たか、拝み屋に教えてるわよね?」
「知ってること教えて金貰っただけだ。悪ィか」
「別に良いとか悪いとか言ってないわ」
「難癖付けに来たんなら出てけ」
「そんなんじゃ無いわよ」
そう言って、霊夢は少し黙った。薄暗い土間の中では何もかもがモノトーンで、巫女の紅さだけが目にまぶしい。まるで、小さな窓から入る光条も、彼女を追っているかのようだ。同じ紅い色なのに鬼灯の紅さにあった陰はなぜかそこには無い。
霊夢は明らかにここでは異質だった。天井の無い土間の梁の上に、屋根の隅に、壁際に散乱する道具の下に、この場所のありとあらゆる所にある陰を巫女は拒絶しているようだった。
土間の真ん中で立ち止まり、霊夢は婆のほうに向きを変えた。それから、ゆっくり静かに口を開いた。
「ねぇサトさん、水子って祟るのかしら?」
「出てけ」
それが短い返答だった。婆は腰に手をやって立ち上がると、またもう一度「出てけ」と顎をしゃくった。霊夢は口をへの字に尖らせてこちらは一歩も動かない。それで、婆は柱に煙管を打ち付けて火を落とすと、霊夢の手を掴んで強引に引っ張った。
「ちょっと!」
「出てけ! お前等子供の考えることなんか、初めからわかってるんだ。拝み屋とグルになって汚ねぇとか、水子に霊なんざねぇとか、皆違ぇ。あたしァな、悪い事なんぞ一切しとらん。拝み屋に教えるのも女のためよ。水子は祟るかって聞いたな? ん? 祟らいでかよ。祟るわ。
子ォ堕ろす女ァよ。『母親にならない』と選んだ女よ。食ゥていけんからとか、不義がとか理由(わけ)はあっても、最後に選ぶのは女よ。それがどれだけ惨めか、お前等子供に解るか!
水子はよ、祟ることで女を救ってるのよ。祟られて女は言い訳をさせてもらえるのよ。『母親にならなかった』んじゃぁない。『母親になれなかった』んだってな」
婆は捲くし立てながら二人を追い出すと、大きな音を立てて戸を閉めた。つっかえ棒をした音も聞こえた。
霊夢は一つ息をついて
「そんな事、訊いてないわよ」
と、閉じられた戸に向かって小さく呟いた。
暗い土間から夏の陽の下に放り出されて、辺りは照り輝くようだった。あれほどこの周囲に染み付いていた陰は、もう早苗には見当たらなかった。ただ畑の鬼灯だけが、なおも紅く暗い。
◇◇◇
帰りは歩いた。あの小屋を出てから、早苗が話しかけても霊夢はくぐもった生返事をするだけで何も言わなかった。何か考えているのか上の空という風で、その癖足取りは確かで、早苗を置いていかんばかりに進む。陽はようやく低くなってきて、時たま吹く風が心地いい。きっと、霊夢は何事か考えている。というのは分かる。早苗もものを考えて部屋をぐるぐるしたりする事がある。道は雑草だらけだ。その草を踏んで霊夢は何を考えているのか。
もう早苗は里の水子信仰に対して、何らかの行動を起こすというようなことは、考えられなくなっていた。これは暑さのせいじゃない。もはや早苗は信仰に金銭を費やすというのが、一概に悪いわけでは無い事を知っているし、あの子潰し婆の「水子は祟る事で女を救っている」という言葉がまったくの詭弁でも無いことを感じていた。大体――と早苗はわが身を振り返る。水子信仰なんてものがあると将来よく無い事になるなんて、堕胎をしたから将来水子の祟りに会うと言うのと変わらないではないか。なんと言う軽率。金を取ろうが救えているならそれでいいと言う霊夢は、多分正しい。宗教者である自分が気にしなければならないのは、結局そこなのだ。
やはり、霊夢はすごいなぁと、早苗は眼前でひょこひょこ揺れる紅いリボンを見て思う。そのリボンが不意に止まると向きを変えた。霊夢は立ち止まってこちらに顔を向けている。
「私は、水子は親を祟らないと思う」
「思う」と言いながら霊夢の口調は何か断じるような鋭さがあった。そういえばこんな所まで来て霊夢が知りたかった事というのも、あの「水子は祟るのか?」という問いだった筈だ。だが、早苗が考えるに、その問いは無意味だ。無意味だと教えたのは他でもない霊夢だ。実際に祟る祟らないは置いておいて、祟られたと考える人がいて、それを救えれば何も問題は無いと、そういう話ではなかったのか。
「だってさ、なんかが祟る、特に死霊が祟るってのはさ、恨みがあるからでしょ。恨みってのは『自分にはもっと良い生があったはずだ』ってのが必要じゃない? それって他人と比較しないとわからない事よ。お腹の中で死んだらそんな事わかるはず無いでしょ。外に出てからだって、いっぱい学ばないとわからない事よ。たった一人お腹の中で他の誰も知らず、自分が何なのかも知らないまま死んで、そんな子は誰も祟ったりしないわ。それどころか、自分は殺されたって事さえ解らないかも」
無意味ではあるけれど、水子の実態を知りたいと言う事なのか。しかし、自分が知る霊夢は、そういう役に立たない思索というものをもっとも嫌う人間ではなかったか。二言目には「面倒くさい」「どうでもいい」という巫女なのだ。
「だからさ、水子ってのは子が祟ってるんじゃなくて、親が自分で自分を責める妄念が障ってるのよ。罪悪感に悩む親の生霊なのよ」
それはもう、考えとか意見というより、宣言の様に早苗には聞こえた。「そういうものだと私は考える」というような。
「全部、忘れちゃえばいいのよ。子供ができた事も、それで悩んだ事も、堕ろした事もさ、全部忘れちゃえば、それで幸せになれるのにね」
なんだか、とても霊夢らしくて、同時に霊夢らしくない物言いだと思った。
「死んだ子のほうはさ、親の事なんて、祟るどころか知ったこっちゃ無いのよ」
そういって、霊夢はまた歩き出した。今度はゆっくり、早苗の歩調に合わせて。陽は地平線に近づいて空は紅い。その逆光で、あれほど陰を寄せ付けなかった巫女が、いまや陰に染まっていた。
紅い空を背景に、影法師になった巫女が言う。
「早苗はさ……子供って何時から子供だと思う?」
「は? えと、どういう意味でしょう」
「なんて言うのかな。子供は何時から子供だっていう自覚を持つのかって事?」
「やっぱり、よくわかりません……」
「私……小さい頃のこと、あんま覚えてないんだけどさ、子供って親を覚えて、他人を見分けて、それから、この人が親なんだって信用ができて、それで初めてその親の子になるんじゃないかしら」
「そう……なんでしょうか。私には――」
よくわからない。そうかもしれないとも思う。
「例えばさ、子供が産まれて、沢山の親戚がお祝いにくるじゃない。そこには親と同じくらいの歳の人も沢山いて、産まれたばっかりの子供は、誰が自分を産んだのか、わかっているのかしら」
リボンが揺れる。こちらを振り返った霊夢を、早苗はなぜか直視できない。
「私は……わからないと思う」
「一緒に暮らして、私が親だって教えられて、この人が自分の親なんだって知って、そういう日常を経て、それで初めて子供は子供になるのよ。きっとそう」
胎内で死んだ人間は子ですらないと、そう霊夢は言っているのだ。産後間引かれた嬰児とて子ではない。なぜなら親を知らぬ、知らねば親子という関係は結べなかろう。そう、影法師の巫女は言う。
嫌な話だと思った。聞きたくない。
「親と子の間には何かこう神秘的な繋がりがあって、『教わらずとも子は親を知っている』とかよく言うけど、そういうの――」
「そういうの、私は絶対、違うと思う」
「そんなわけのわかんない繋がりなんて、そんなの在る『はず』無いのよ。もっと当たり前で、まっとうで、親子っていうか家族ってそういうものの『はず』よ。詰らなくて下らない日常ってやつを共に過ごして初めて家族になる『はず』なのよ。生き別れの親子が再会して幸せに暮らしましたって話、あれは生き別れる前の日常を知っているから、幸せになれるのよ」
「知らなければ、親子なんて無いのよ」
――そんなのは、悲しい。
「そんなの…………悲しいです」
早苗は、ただ悲しい。
実際、その通りなのかもしれない。早苗が外からやって来て、もうだいぶ経ってはいたが、この場所で魂がどのように現世を離れるか、明確に理解しているわけでは無いし、霊夢はこの幻想郷で二つと無い位置にいる巫女なのだ。そして、霊夢は早苗が知る限り、殆どの場合、正しい。理屈や仕組みは知らずとも、彼女はいつも真実に近い場所に居る。
その霊夢が、こんなにも、悲しいことを言う。
知らぬ間に、早苗はコンクリートのビルや電柱や地面を覆うアスファルトを幻視していた。影法師の巫女の向こうで、電線が紅い空を幾つにも区切っている。
「知らなきゃ判らないなんて、知らなければそこには何も無いなんて……」
――両親は『外』にいる。あの人達は私を『知らない』。
「それなら……忘れてしまったら、どうなるんですか。忘れてしまったら、もう何も無くなってしまうと、そう言うんですか」
幻想郷に入るには忘れ去られなければならない。実際、両親は自分の事をもう何も覚えていない。早苗が今ここに、幻想郷にいることがその証明だ。
それでも、それでも自分はあの人達の娘だし、あの人達は自分の両親だ。忘れたというだけで、『知らない』というだけで、それが無に帰してしまうならば、自分は一体なんなんだ。
そんなのは、余りに悲しい。
「血の繋がった親子は、そんな儚いものじゃないです」
――ああ、言ってしまった。
言うまいと、そう決めていたはずなのに。自分はやっぱり浅はかだ。こんな事、言ってどうなるというんだろう。
影法師の霊夢が息を呑むのが聞こえた。
「もし親子には不思議な繋がりが産まれる前からあってって言うなら、血の繋がってない親子は贋物なの? 養子が養母を思う気持ちは、子が母親を思う気持ちに劣るの? もし教えられなくても子は親を知っているなら――」
霊夢の声は、少し震えていたかもしれない。早苗はそれを感じ取りたく無かったし、霊夢もそれを悟られたくなかったろう。
「――なんで、私は何も知らないのよ」
けれども、最後はかすれて消え入りそうだったのを、言うまでも無く二人は知っていた。
◇◇◇
自室に座る早苗の前には一つ箱があった。押入れの左一番奥にあったそれは早苗が幻想郷に来てから、一度も開かれたことが無い。別に開いて中身を見ずとも、早苗にはそれがそこに在ることが判っていたし、それは在りさえすればよかったのだ。それで、箱はそこにあり続けた。開かれること無く、まるで封印されたかのように。その箱が今早苗の前にある。
中には何冊かのアルバム。外の世界を離れるに当たって、一かけらさえ残すことが許されなかった早苗の記憶の傍証。霊夢が正しいとして、つまり、親子といえども、その間に神秘的で絶対的な繋がりなど、有りはしないのだとするならば、もはや『親子』は早苗の脳内とこの箱の中にしか存在しない。
早苗はもう半時間ほどもその箱の前で動けない。
――箱を開けると、そこにはアルバムなど無く、何か雑多な物がごちゃごちゃと詰っている。
そう思うと動けない。引越しの最中に物が無くなるなんて、ありふれた事だ。入れたと思ったものが入っていなかったり、捨てたはずの物が出てきたり。
もし、この箱の中に早苗の記憶の正しさを示すものが入っていなければ、きっと自分は別人になってしまう。そう思った。
早苗の両親への思いは早苗の記憶が保障しているが、記憶などなんだと言うのだろう。両親は自分の事を既に欠片も覚えていない、『知らない』のだ。傍証も何も無い早苗の一方的な思いだけでもって、親子の絆が確保される事など、あり得ないだろう。自分の頭がおかしくなっていて、街でみた関係のない夫婦と親子であると、自分が信じ込んでいたとしても、自分には判りようがないのだし。
――ならば、やはり箱の中身は空かもしれない。
ありそうなことだ。なんせ、自分は幻想世界に居るのだし。幻想世界なのだ。正気を保ってその内に入り込んだなど、それこそおかしな話であって、狂っているから入れたと考えた方がずっと収まりが良い。
そこで、早苗は自嘲とか呆れとか疲労とか恐れとか、他にも色々なものが混ざった息をついた。
狂っているかはともかく、馬鹿みたいだと思った。今のこのごちゃついた奇妙な気分こそが、幻想郷に入るということの正体なんだろう。幻想郷に来ると決心した時、過去を捨てることに躊躇いはなかったし、本殿の屋根の上から初めての幻想郷の夜明けを見た時、過去を捨てたことに後悔は無かった。それなのに、捨てたものの大きさや重さを確かめる事が、こんなに怖い事だったなんて知らなかった。
――捨てると決めたのは自分なのに。
過去を捨てるというのはこういう事だったのか。
「さっさと忘れちゃえばいいのよ。そうすれば皆幸せになれるのに」
――博麗霊夢には過去が無い。
彼女は普通、人が持っていて当たり前のそれを知らない。知らないから、人にとってそれがいかに大きなものか、いかに重いものか、分からない。過去と決別する事がいかに人にとって難しい事か、多分彼女はわかっていない。忘れようと思っても忘れられないから、その程度に考えている節がある。過去というものをよく「自らの軌跡」とか「自分の土台」みたいに言うけれど、多分、それは違う。早苗にとってこの箱の中の過去は土台とか軌跡とか、そういう自分に付随する何かではなくて、自分自身の一部というか、過去も含めて自分自身なのだ。だから失ったことを確かめるのが怖い。
この箱の中身は自分自身の片割れ。
自分自身の片割れを捨ててしまって、それで、捨てた事を自覚するのが怖くて、なんとか言い訳を探している。
ああ、きっと、これは水子なんだ。と、そう思った。きっと水子に祟られる人達も、捨てたものを確かめられなくて、きっと全てを捨てた訳ではないと思いたくて、そうして思い悩むのだ。あの世に逝かせてしまった子供とまだ繋がってると思いたくて、外に残した両親とまだ繋がってると信じたくて。
霊夢はそれを罪悪感から来る妄念だと斬って捨てたけど、それはきっとそんな単純なものじゃない。
◇◇◇
「ねぇ、早苗って親はいるの?」
もう、随分と前の事になる。守矢神社が幻想郷に越してきて、その際のごたごたが何とか片付いて、その後初めて一人、博麗神社を訪れた早苗の背に投げかけられた最初の言葉がそれだった。その時は「ええ、外に」とか、特に考える事も無くそんなふうに答えたはずだ。霊夢は「ふうん」と言っただけで、そのまま箒をもって境内の端の方に行ってしまった。木の匂いのする真新しい分社を眺め、それからちょっと鼻歌でも歌いながら落ち葉を払い、布巾でゴシゴシ拭ったりした。
「お茶入れたから、あんたもどう?」
そう声がかかって振り返ると、いつの間にか掃き掃除を終えたらしい霊夢が母屋の角から顔を出していた。座敷に上がって、二言三言たわいも無い会話をした。
「桜ばかりだから落ち葉が凄いですねぇ」
「毛虫も凄いのよ。やんなるわ」
そこで早苗は最初の問いを思い出して何気なく口にしたのだ。
「霊夢さん、ご両親は?」
仕方ない、といえばそうなのだ。なんせ知り合って間もなくで、早苗は霊夢の事をそれほど知っていたわけでもない。
考えてみれば霊夢の「早苗って親はいるの?」という問いは普通じゃない。共に幻想入りしたのかという問いなら「親は一緒なの?」となるはずだし、健在か否かを問うなら「元気なの?」とか、そんなふうになるはずで、「親はいるの?」という問いはいかにもおかしい。木の股から産まれる人間など居ないのだから、居るか居ないかと問われればどんな人間にも親はいるのだ。
霊夢の「親はいるの?」という訊き方は、何か親がいないのが当たり前というか、いない方が普通というか、そういう風に早苗には感じられたのだ。勿論、全部早苗が勝手に考えたことで、実際霊夢は「親は(こっちに)いるの?」と言う意味で訊いたのかもしれないし、「親は(まだ)いるの?」と訊いたのかもしれない。どちらにしろ早苗が地雷を踏んだのは変わらないのだけれど。
それで、口から出てしまった後に、しくじったと思った。頭の中が軽率の二文字で埋め尽くされてる早苗に向かって、霊夢は茶を啜って一言、
「さぁ?」
と、それだけ言って首をかしげた。
それから、自分は両親の事を何一つ知らないと、事も無げに言った。
「私、小さい頃のこと何も憶えてないのよね」
博麗霊夢には、過去が無い。
気付いたら、そこで――、と鳥居の方に顔を向けた。
「そこで、箒もって掃除してたわ」
以来、自分はここの巫女だと霊夢はそう言った。
◇◇◇
霊夢には過去が無い。
紅く染まったあの空の下で、影法師になった霊夢がしていたことは、今自分がやっているのと同じ事だ。出された結論は正反対だけど、早苗にはそうとしか思えない。自分は欠けた過去を計って、その前で慄いている。霊夢は自分の欠けた過去を計って、そんなものにきっと意味は無いと、そう宣言したのだ。
だけれども、本当に、心からそう信じているのであれば、そもそもそんな宣言はいらないのだ。本当に過去など無意味だと信じているなら、あんな言葉は出てこない。無意味な問いに答えを出すために、炎天下を飛び回ったりしない。あんな声を出してまで、自分に言い聞かせたりしない。
「だったら、なんで私は何も知らないのよ」と掠れた声で言った時、彼女は自分を疑っていなかったか。欠けている過去を求めてはいなかったか。
ならば、早苗がやることは一つである。
早苗はいつだって本気だ。胸の前で両のこぶしを握り、ふんと鼻息をつく。奇跡を起こす現人神は為せば成るという言葉の権化である・
――団扇を吹き飛ばすようにはいかないだろうけど。
――過去そのもので無くたっていい。この箱の中身のように。
要は――救えればいい。
そうして、早苗はついに決意を得て、ゆっくりと伏せていた目を上げる。ガムテープで封じられたままの箱がみえる。そして、そのむこうに、
「だめよ、早苗」
口元を扇で隠した八雲紫がいた。
道服の裾から伸びる崩した足。シルクの手袋に包まれた指。色素の薄い金髪に結ばれた紅いリボン。その全てに陰が濃い。
「そんなことしては、駄目」
扇の向こうで声がした。
それで、早苗は「ああ、そういう事か」と思った。
そういう事なのだ。霊夢が過去を取り戻す事は無い。霊夢の欠片は戻らない。
霊夢が『知らない』ということが、この幻想郷には必要な事なのだ。
この人がここにこうして居るという事は、そういう事なのだ。
「貴方も本当は気付いているでしょう? そんなもの必要ないって」
背中の産毛が逆立って、どこかそこらに放り出していた幣を手に取ろうと、早苗は腰を浮かせて辺りを見回した。
そうしてして見れば、小学生の頃から使っている学習机も、漫画ばかりが詰った背の低い本棚も、箱を取り出すために散らかした押入れの中身も、壁も、柱も、襖も、その向こうの廊下も、何も無い。何も無いそこで、早苗は大きく息を一つ吐いた。握ったこぶしから力が抜けて、早苗の中で漲り巡っていたものが、息と共に抜けていった。
「……痛いのは嫌です」
「痛くはしないわ。でも、目は閉じた方がいいわね」
ぱちりと音を立てて、八雲紫は扇を閉じた。
そうして早苗はもう一つ投げ遣りなため息をついて、目を閉じた。
◇◇◇
早苗が来たのは、二人があの夕日の下で別れてから、四五日後だった。一抱えほどの茶色い箱の上に風呂敷包みを載せて、よろけながら博麗神社の庭に降りてきた。
「霊夢さんこれ、葛餅です。一緒に食べましょう」
そう言って、早苗は箱を地面において風呂敷包みを差し出した。水を汲んで葛餅を冷やし、茶の準備をして戻ると、早苗は縁側に座って庭に置いた箱を眺めている。何か油が揮発したような匂いが鼻についた。
「んで、あの箱は何よ?」
「アルバムです」
「あるばむ?」
「写真です。家族の。私と私の両親の。外にいた頃の記録です」
「あー、早苗さ。この前、なんか変な事で言っちゃったけどさ。私忘れてたのよ、あんたが外にご両親を置いてきた事とか、そういうの。だからさ、なんて言うか――」
「それはもういいんです」
「まぁ、いいならいいけど……」
「私わかってなかったんです。幻想入りするって事がどういう事か。だから甘えてたんです」
「甘えって……」
「いいんです。外にいた昔の私と、幻想郷にいる今の私は、もう繋がっていないんです。繋がりが無いからこそ、ここに居られるわけですし。それにですね、もうどうでもいいんです。私はここで暮らしていくんです。過去を捨てると決めたのは私です。後悔も何もありません。なのにあんな物大事にしてたんだから、やっぱり甘えです。妄執です」
早苗が立ち上がり、縁側から箱の方へ行く。懐からマッチを取り出すと、何本もまとめて擦って、それを箱に放った。箱はぱっと炎を上げ、激しく燃え始めた。
「ちょっと、あんた何してんのよ!」
霊夢が跳ねるようにして駆け寄っても、早苗は平静だった。
「燃やしたんですが?」
「分かってるわよ。じゃなくて、何で――」
「どうでもいいものなんです、これは」
早苗は炎を上げる箱を見ようともしない。霊夢は燃える箱から目を離すことが出来ない。
「……早苗、何でここで燃やそうと思ったの」
「んー……。何ででしょうね。霊夢さんに見てもらわないといけないと、そう思ったんですが」
箱は燃えて、そのうちに炎の色が濃くなって、黒い煙が立ち上った。霊夢はそれを睨んで動かない。
「早苗。…………ごめん」
「何がです? どうかしましたか?」
早苗の様子を早苗の目を見たいのに、霊夢は炎から目を逸らせない。
「わかんない。わかんないけど――、私はあんたに謝らなくちゃいけない気がする」
声の最後はかすれていた。
(了)
早苗はアルバムを燃やし、早苗自身も"過去が無い"状態になることで、霊夢と同じ境遇を持つことになり、霊夢を救おうと思ったのでしょうか……?
いい雰囲気でした
実にシビれる内容でした。
このお話もそれに似て、触れて欲しくないところをグサグサと刺してきてくれました
誰が善い、誰が悪いとかそんな次元の話ではないのでしょうね
ただただ物哀しいばかりです
自らの使命のために記憶を捨てる、あるいは捨てさせられざるを得なかった霊夢の悲哀が、早苗の視点からよく伝わってきました。
難しいテーマを書き切ったのは素晴らしいです。
なんというか、凄いお話でした。
1つ印象を述べるなら、書き込み、描写が丁寧なのに、まるで霞をつかむような感覚がする、不思議な感じです。
霊夢と早苗が本当に実在して、会話をしているように感じているからかもしれません。
人間は洗脳されて洗脳する生き物だと思うけど、明確な悪を悪じゃないように誤魔化すことによって何かが成り立つんだろう
要はチキン野郎がチキン野郎だという事実を誤魔化すところに何かがあると思う
だが人間はそこまで洗脳やチキン野郎であることには耐えれない
悪は悪でないといけない チキン野郎はチキン野郎だと言わなければいけない
だから堕胎という悪に屈したチキン野郎の自分は悪でなければならず、祟られなければならない だから水子信仰という洗脳が新たに必要になる と思う
あと、某スタンド漫画の女の兄貴みたく愛の究極の形は復讐だと思う 復讐心を認めることこそ愛だと思う
だから愛する胎児の復讐心を肯定という意味もあるし自分の復讐心を肯定するというのもあるんだろう
非常識に囚われることを選べた早苗は強い人ですね。
これら全部、我々の世界が持つ最先端の医療でも判ってないのです。
そうした明確な答えの存在しない倫理の話から、流れるように霊夢と早苗の対比へと移行したストーリーテリングの手腕が、実にお見事でした。読み終えてからも内容が心に突き刺さり、色々な事を考えさせられてしまいました。面白かったです。ありがとうございました。
こういう人間らしい霊夢は大好きです。
某スレでも話題になっていましたが、早苗は自主的に箱を燃やしたのか
それとも紫に操られているのか、どちらなのでしょうね。
ラストの場面で作者様は3回も霊夢が燃える箱から目を離せないこと、早苗の顔を見ることさえできない事に言及しています。
一方で、捨てようとして捨てられるものではないと、あれほど箱の前で悩んだ筈の早苗は自分に残った最後の過去が燃えるのを見さえしません。
痛ましい霊夢と豹変して能天気な早苗を見ると、私に早苗は紫に何がしかの境界を弄られていると思えてなりません。
「何者にも縛られない」はずの霊夢は実は「幻想郷≒紫」に縛られていると……
すごいお話でした。
霊夢さん、切ないです。
もう紫がお母さんになってあげれば、なんてくだらないこと思ってしまった。
相変わらずの読み応えある作品、ありがとうございます。
全体を通して原作の雰囲気を大事にしているのが伝わってきました
ただ早苗と押し問答している霊夢がやや多弁なのが気になりました。デリケートな話だったので多少混乱していたのを加味してもちょっと違和感が
久しぶりに感想を書く気になる作品を読みました。感謝します
世界を変えるということは創造者と戦う場合もあるんでしょう。
それをカンで感じ取ったから、霊夢は謝らなければいけないと思った…?
なんにしても、面白く読めました。まさに陰のような、涼しげな話ですね
婆にしろ早苗にしろ霊夢にしろ、きっと誰の言葉も正しいだろうし、どこまでいっても始点の違う三者の水掛論になるんだろう。
前半の、水子という言葉の持つ湿った陰鬱さが、後半の過去の下りにより仄暗い重苦しさを与えていて……いやはや何とも日本的なファミリー人生観劇場でした。
霊夢の見る、真夏の炎は青い。
良いお話を読ませてもらいました
極端に描写が減ることで、紫に弄くられてしまったことを察することができた。
直前の早苗の諦観もよく作用していた。
また理由はともあれ、早苗が豹変してしまったと感づく霊夢の言葉が重い。