「でもやっぱりさー、私は紫さまが最強だと思うよ」
妖怪の山で開かれる各勢力の従者その他――有り体に言えば下っ端たちの定例会も佳境に入った頃、八雲家代表の橙の言葉からその論争は始まった。
なんのことはない、いわゆる『最強論争』である。幻想郷には歴戦の猛者たちが集っている。吸血鬼、亡霊、月人、閻魔、神――。名だたる種族が揃っていれば、このような論争が起こるのも自明の理と言えるだろう。
実際、こう言った話はしばしば行われていたが、たいていの場合は決着がつかず、有耶無耶なまま終わるため、『やるだけ無駄』という認識で通っていた。
しかし、今回の場合、参加者に酒が入りまくっていたのが拙かった。
何しろ、いつもは真面目なことで通っている犬走椛が、『今から千里眼で無差別覗きテロします!』などと言い出す始末である。
結果的に友人であるにとりのヤクザキックで一旦気絶したため事なきを得たが、それだけ酒が深いという事だ。
本来なら『えーまたその話題? いい加減飽きた』などと言われるはずのこの言葉に、真っ向から反抗した者が現れた。
「いーや、幽香の方がずーっと強いもんね!」
メディスン・メランコリーが挙げたのは、太陽の畑に住む大妖怪、風見幽香である。
実際に八雲紫と風見幽香が争ったことはない。そもそも、大妖怪と呼ばれる者たちは皆思慮深く、そう簡単に他の妖怪と事を構えることはない。
しかし、どちらも全く引けを取らない実力者である。何しろ、かたや指を鳴らすだけで相手が死ぬ隙間妖怪、かたや小山位なら消し飛ばす閃光を傘から迸らせる花妖怪である。
実際に戦えばどれ程の惨状が展開されるのか予想もつかない。
この二人に便乗して、各々が己がこれと仰ぐ大妖怪を口々に挙げていくが、決着など付きようもない。
あの人が最強だ、この人が最強だ、いやいやあのお方の方が。どんどん高まっていく熱に、声のトーンもテンションも上がっていく。
終いには、おう舐めとんのかワレ、あぁやんのかコラ、などと、喧嘩が始まろうとする始末である。
流石に危ないので、この事態の鎮静化を図る言葉が投げかけられた。
「まあまあ落ち着け。それなら、とりあえず八雲殿を起点にして考えればいいじゃないか」
命蓮寺の下っ端であるナズーリンは、このような状況にありながら冷静であった。
流石に『小さな小さな賢将』という異名を取るだけはあり、巧みな言葉でヒートアップした妖怪たちを説き伏せていく。
彼女の出した提案はこういうものだった。
「まず、八雲殿が恐ろしく思う者を挙げるのだ。次はその者の恐ろしい者。次、そのまた次と辿っていけば、自ずと最強が誰か分かるのではないか?」
この状況下にあっては、その提案が他の妖怪達には名案のように思われた。早速、その言葉に沿い、小野塚小町が声を挙げた。
「それなら、スキマは四季様を怖がってるよ。四季様が幻想郷に行かれた時は、いつも住処から出てこないし」
八雲紫は四季映姫が大の苦手であった。何しろ、得意の隙間の力が全く通用しないのである。おまけに捕まれば説教八時間コースである。相性がこれほど悪い者も、なかなかいないだろう。
「でも、四季殿は鬼人正邪が大の苦手とおっしゃっていました。白黒が簡単にひっくり返るのが嫌だと」
魂魄妖夢はそれに反論する。四季映姫は、『白黒はっきりつける程度の能力』が示す通り、白黒がはっきりしているものを好む。
鬼人正邪ほど、白黒はっきりつかない者も珍しいだろう。それ故に、大の苦手なのである。
「天邪鬼ー? 針妙丸がこわい、鳥肌が立つっていっつも愚痴ってたわよ?」
九十九八橋の言葉通り、鬼人正邪は少名針妙丸が苦手であった。天邪鬼は、善意を嫌い、悪意を好むという習性がある。
純粋な善意の塊である針妙丸は、正邪にとって毒となる存在なのだ。
「針妙丸ねぇ。萃香が神社に来たらいっつもブルブル震えてるぞ?」
霧雨魔理沙が頻繁に博麗神社を訪れるのと同様に、伊吹萃香も博麗神社を訪れることが多い。針妙丸はこの鬼が本当に恐ろしかった。
なにしろ、彼女の祖先である一寸法師は、鬼を退治してしまっているのである。それについて咎められないか、針妙丸は気が気でなかった。
萃香にとっては、その事は好ましい要素に過ぎなかったのだが。
「うーん……萃香様か。あの人は恐ろしいものとかなさそうだしなぁ」
黒谷ヤマメの言葉に皆が同調する。その言葉通り、鬼はまさに怖いものなしの種族である。
その剛力は幻想郷においても比肩する者がなく、その強靭な皮膚は如何なる攻撃であろうとも通さない。
特に四天王と呼ばれる存在は、いずれも天下無双の豪傑揃いであった。
反論する者が居ない状況に、この論争が決着したと見て、ナズーリンは終わりを告げようとした。
しかし、魔理沙は更に言葉を続けた。
「つっても、いくら萃香でも霊夢には勝てないだろうなぁ」
「……何見てんのよ」
その言葉に皆、あぁ、という声を漏らし、魔理沙の隣に座る巫女を見つめた。
楽園の素敵な巫女、博麗霊夢は、未だ一度も負けを喫したことが無い。歴代最強の巫女の力は、幻想郷に広く知られていた。
何しろ、この場に居る妖怪全てが、一度は霊夢に退治されたことのあるものばかりである。
スペルカードルールさえなければ人間なんぞに負けるか、と言う妖怪も居る。しかし、霊夢の力はスペルカードルールの範疇にあるからこそ、まだ常識に収まっているのである。
『夢想天生』。スペルカードルールがなければ、この技を打ち破れるものは誰一人としていない。彼女に触れる事すら適わないのである。
誰も口には出さないが、誰もが霊夢には勝てないと心の中で認めていた。
誰もが押し黙って口を開かない。霊夢に勝てる人妖を思いつく者が、誰もいなかったからである。
ナズーリンは今度こそ手を挙げて、この論争に終止符を打とうとしたが、そこで言葉を紡いだのは、他ならぬ霊夢であった。
「このまま決まってもめんどくさいわね。じゃあ、わたしは小鈴ちゃんには手を出せないわ」
「ああ、お前小鈴にゾッコンだもんな」
「なっ!? なな何言ってんの! べべべつに小鈴ちゃんが可愛らしいだなんて思ってないわよ!」
霊夢は本居小鈴に対して、妹に接するがごとき感情を向けていた。要するに大甘の甘々であった。
『博麗の巫女は、全ての人妖に平等に接しなければならない』
これは鉄の掟であったはずなのだが、小鈴に対する霊夢の態度は他のものに接するときと明らかに違った。
何しろ、普段はいくら褒められても、「ふーん、で?」で冷たく済ませる霊夢が、小鈴に褒められたときは照れて押し黙ってしまうのである。
実際、小鈴の本性はススワタリも真っ青なほど真っ黒なのだが、仮にそれを知ったとしても霊夢は態度を変えないだろう。
それ程までに小鈴に甘く接する理由を、魔理沙は知らない。故に、その言葉を紡いだ魔理沙の口調は少し皮肉っぽく、また悔しげでもあった。
「ほう。小鈴と来るのならば、彼女は阿求に頭が上がらんよ。なにしろ、編纂中の幻想郷縁起の上に紅茶をぶちまけてしまったからな」
それを聞いた慧音が楽しげに言葉を続けた。普段は対等な友人であるはずの二人だが、ここ最近の二人の力関係は完全に稗田阿求に傾いていた。理由は前述のとおりである。
なんだなんだ。話が変な方向に飛んでいるぞ。一部の酒が抜けた妖怪たちは漸く異変に気が付いたのだが、他の大部分はまだまだベロンベロンなので、全く気付いていない。
二度ある事は三度ある。この悪ふざけを更に引き継いだのは、紅美鈴であった。
「こないだ阿求と話してる時に、なんで妖精の覧だけあんなにひどい記述が書かれてるのか聞いたら、妖精が怖いからだって言ってましたよ。昔妖精の悪戯でひどい目に遭って、それからずっと妖精の事が怖いらしいです」
阿求は妖精が大の苦手であった。彼女達はいわば無邪気な子供そのものである。それが、少し不思議な力を持っているものだから、その悪戯も傍から見ればやり過ぎとも見えるものになることが多い。
光の三妖精などは、その代表例である。阿求が妖精を怖がっている理由は、昔妖精の力によって道に迷い、間違って太陽の畑に足を踏み入れてしまったからだそうだ。因みに風見幽香の覧の記述が酷いのは、そこでの恐怖体験によるものである。
「妖精は、怖いもの無しだよなぁ。死んでも死なないし」
「あれ? 怖いものが無いってことは……」
「妖精が最強!?」
いやそれはおかしい、ありえねぇ、という声が群衆の中から飛んだ。しかし前述の通り、酔っぱらいが大多数であるから、その声はてんやわんやの大騒ぎの中に消える。
そうして、この論争に終止符を打ったのは、ずっと目を瞑り、押し黙って話を聞いていた、ある人物であった。
「ふっ……つまり、こういう事ね」
「なんだなんだ? 何か言いたいことがあるのか?」
「紫が苦手な映姫が苦手な正邪が嫌な針妙丸が怖い萃香が勝てない霊夢が攻撃できない小鈴より格上の阿求が恐ろしい妖精が最強……。つまり」
「つまり?」
「その妖精の中でもぶっちぎりでさいきょーな、このアタイが!」
その人物――湖の氷精、チルノは、閉じていた目をカッと見開き、
「このチルノが!」
高々と宣言した。
「幻想郷さいきょーって事ね!」
――その叫びは、既にお開きとなりかけていた宴会会場を揺るがした。絶対の自信と、重度の酔いとが相まって、この場の者たちには、チルノがものすげぇ強そうな奴に見えていた。
「チルノ……お前ってやつは……!」
「チルノ……チルノ!」
『チルノ! チルノ! チルノ!』
『チルノ!! チルノ!! チルノ!!』
『チルノ!!! チルノ!!! チルノ!!!』
何処からともなく始まったチルノコールに、酔いの回った者たち全員が乗っかった。終いには全員でチルノを担ぎ上げ、胴上げしながら妖怪の山を駆け下りはじめた。
胴上げされて空中に浮かびあがりながら、チルノは叫んだ。それはもう、幻想郷の隅々にまで聞こえるほどの大声で。
「あたいったら、さいきょーね!」
――その夜、幻想郷の中心は間違いなくチルノであった。
妖怪の山で開かれる各勢力の従者その他――有り体に言えば下っ端たちの定例会も佳境に入った頃、八雲家代表の橙の言葉からその論争は始まった。
なんのことはない、いわゆる『最強論争』である。幻想郷には歴戦の猛者たちが集っている。吸血鬼、亡霊、月人、閻魔、神――。名だたる種族が揃っていれば、このような論争が起こるのも自明の理と言えるだろう。
実際、こう言った話はしばしば行われていたが、たいていの場合は決着がつかず、有耶無耶なまま終わるため、『やるだけ無駄』という認識で通っていた。
しかし、今回の場合、参加者に酒が入りまくっていたのが拙かった。
何しろ、いつもは真面目なことで通っている犬走椛が、『今から千里眼で無差別覗きテロします!』などと言い出す始末である。
結果的に友人であるにとりのヤクザキックで一旦気絶したため事なきを得たが、それだけ酒が深いという事だ。
本来なら『えーまたその話題? いい加減飽きた』などと言われるはずのこの言葉に、真っ向から反抗した者が現れた。
「いーや、幽香の方がずーっと強いもんね!」
メディスン・メランコリーが挙げたのは、太陽の畑に住む大妖怪、風見幽香である。
実際に八雲紫と風見幽香が争ったことはない。そもそも、大妖怪と呼ばれる者たちは皆思慮深く、そう簡単に他の妖怪と事を構えることはない。
しかし、どちらも全く引けを取らない実力者である。何しろ、かたや指を鳴らすだけで相手が死ぬ隙間妖怪、かたや小山位なら消し飛ばす閃光を傘から迸らせる花妖怪である。
実際に戦えばどれ程の惨状が展開されるのか予想もつかない。
この二人に便乗して、各々が己がこれと仰ぐ大妖怪を口々に挙げていくが、決着など付きようもない。
あの人が最強だ、この人が最強だ、いやいやあのお方の方が。どんどん高まっていく熱に、声のトーンもテンションも上がっていく。
終いには、おう舐めとんのかワレ、あぁやんのかコラ、などと、喧嘩が始まろうとする始末である。
流石に危ないので、この事態の鎮静化を図る言葉が投げかけられた。
「まあまあ落ち着け。それなら、とりあえず八雲殿を起点にして考えればいいじゃないか」
命蓮寺の下っ端であるナズーリンは、このような状況にありながら冷静であった。
流石に『小さな小さな賢将』という異名を取るだけはあり、巧みな言葉でヒートアップした妖怪たちを説き伏せていく。
彼女の出した提案はこういうものだった。
「まず、八雲殿が恐ろしく思う者を挙げるのだ。次はその者の恐ろしい者。次、そのまた次と辿っていけば、自ずと最強が誰か分かるのではないか?」
この状況下にあっては、その提案が他の妖怪達には名案のように思われた。早速、その言葉に沿い、小野塚小町が声を挙げた。
「それなら、スキマは四季様を怖がってるよ。四季様が幻想郷に行かれた時は、いつも住処から出てこないし」
八雲紫は四季映姫が大の苦手であった。何しろ、得意の隙間の力が全く通用しないのである。おまけに捕まれば説教八時間コースである。相性がこれほど悪い者も、なかなかいないだろう。
「でも、四季殿は鬼人正邪が大の苦手とおっしゃっていました。白黒が簡単にひっくり返るのが嫌だと」
魂魄妖夢はそれに反論する。四季映姫は、『白黒はっきりつける程度の能力』が示す通り、白黒がはっきりしているものを好む。
鬼人正邪ほど、白黒はっきりつかない者も珍しいだろう。それ故に、大の苦手なのである。
「天邪鬼ー? 針妙丸がこわい、鳥肌が立つっていっつも愚痴ってたわよ?」
九十九八橋の言葉通り、鬼人正邪は少名針妙丸が苦手であった。天邪鬼は、善意を嫌い、悪意を好むという習性がある。
純粋な善意の塊である針妙丸は、正邪にとって毒となる存在なのだ。
「針妙丸ねぇ。萃香が神社に来たらいっつもブルブル震えてるぞ?」
霧雨魔理沙が頻繁に博麗神社を訪れるのと同様に、伊吹萃香も博麗神社を訪れることが多い。針妙丸はこの鬼が本当に恐ろしかった。
なにしろ、彼女の祖先である一寸法師は、鬼を退治してしまっているのである。それについて咎められないか、針妙丸は気が気でなかった。
萃香にとっては、その事は好ましい要素に過ぎなかったのだが。
「うーん……萃香様か。あの人は恐ろしいものとかなさそうだしなぁ」
黒谷ヤマメの言葉に皆が同調する。その言葉通り、鬼はまさに怖いものなしの種族である。
その剛力は幻想郷においても比肩する者がなく、その強靭な皮膚は如何なる攻撃であろうとも通さない。
特に四天王と呼ばれる存在は、いずれも天下無双の豪傑揃いであった。
反論する者が居ない状況に、この論争が決着したと見て、ナズーリンは終わりを告げようとした。
しかし、魔理沙は更に言葉を続けた。
「つっても、いくら萃香でも霊夢には勝てないだろうなぁ」
「……何見てんのよ」
その言葉に皆、あぁ、という声を漏らし、魔理沙の隣に座る巫女を見つめた。
楽園の素敵な巫女、博麗霊夢は、未だ一度も負けを喫したことが無い。歴代最強の巫女の力は、幻想郷に広く知られていた。
何しろ、この場に居る妖怪全てが、一度は霊夢に退治されたことのあるものばかりである。
スペルカードルールさえなければ人間なんぞに負けるか、と言う妖怪も居る。しかし、霊夢の力はスペルカードルールの範疇にあるからこそ、まだ常識に収まっているのである。
『夢想天生』。スペルカードルールがなければ、この技を打ち破れるものは誰一人としていない。彼女に触れる事すら適わないのである。
誰も口には出さないが、誰もが霊夢には勝てないと心の中で認めていた。
誰もが押し黙って口を開かない。霊夢に勝てる人妖を思いつく者が、誰もいなかったからである。
ナズーリンは今度こそ手を挙げて、この論争に終止符を打とうとしたが、そこで言葉を紡いだのは、他ならぬ霊夢であった。
「このまま決まってもめんどくさいわね。じゃあ、わたしは小鈴ちゃんには手を出せないわ」
「ああ、お前小鈴にゾッコンだもんな」
「なっ!? なな何言ってんの! べべべつに小鈴ちゃんが可愛らしいだなんて思ってないわよ!」
霊夢は本居小鈴に対して、妹に接するがごとき感情を向けていた。要するに大甘の甘々であった。
『博麗の巫女は、全ての人妖に平等に接しなければならない』
これは鉄の掟であったはずなのだが、小鈴に対する霊夢の態度は他のものに接するときと明らかに違った。
何しろ、普段はいくら褒められても、「ふーん、で?」で冷たく済ませる霊夢が、小鈴に褒められたときは照れて押し黙ってしまうのである。
実際、小鈴の本性はススワタリも真っ青なほど真っ黒なのだが、仮にそれを知ったとしても霊夢は態度を変えないだろう。
それ程までに小鈴に甘く接する理由を、魔理沙は知らない。故に、その言葉を紡いだ魔理沙の口調は少し皮肉っぽく、また悔しげでもあった。
「ほう。小鈴と来るのならば、彼女は阿求に頭が上がらんよ。なにしろ、編纂中の幻想郷縁起の上に紅茶をぶちまけてしまったからな」
それを聞いた慧音が楽しげに言葉を続けた。普段は対等な友人であるはずの二人だが、ここ最近の二人の力関係は完全に稗田阿求に傾いていた。理由は前述のとおりである。
なんだなんだ。話が変な方向に飛んでいるぞ。一部の酒が抜けた妖怪たちは漸く異変に気が付いたのだが、他の大部分はまだまだベロンベロンなので、全く気付いていない。
二度ある事は三度ある。この悪ふざけを更に引き継いだのは、紅美鈴であった。
「こないだ阿求と話してる時に、なんで妖精の覧だけあんなにひどい記述が書かれてるのか聞いたら、妖精が怖いからだって言ってましたよ。昔妖精の悪戯でひどい目に遭って、それからずっと妖精の事が怖いらしいです」
阿求は妖精が大の苦手であった。彼女達はいわば無邪気な子供そのものである。それが、少し不思議な力を持っているものだから、その悪戯も傍から見ればやり過ぎとも見えるものになることが多い。
光の三妖精などは、その代表例である。阿求が妖精を怖がっている理由は、昔妖精の力によって道に迷い、間違って太陽の畑に足を踏み入れてしまったからだそうだ。因みに風見幽香の覧の記述が酷いのは、そこでの恐怖体験によるものである。
「妖精は、怖いもの無しだよなぁ。死んでも死なないし」
「あれ? 怖いものが無いってことは……」
「妖精が最強!?」
いやそれはおかしい、ありえねぇ、という声が群衆の中から飛んだ。しかし前述の通り、酔っぱらいが大多数であるから、その声はてんやわんやの大騒ぎの中に消える。
そうして、この論争に終止符を打ったのは、ずっと目を瞑り、押し黙って話を聞いていた、ある人物であった。
「ふっ……つまり、こういう事ね」
「なんだなんだ? 何か言いたいことがあるのか?」
「紫が苦手な映姫が苦手な正邪が嫌な針妙丸が怖い萃香が勝てない霊夢が攻撃できない小鈴より格上の阿求が恐ろしい妖精が最強……。つまり」
「つまり?」
「その妖精の中でもぶっちぎりでさいきょーな、このアタイが!」
その人物――湖の氷精、チルノは、閉じていた目をカッと見開き、
「このチルノが!」
高々と宣言した。
「幻想郷さいきょーって事ね!」
――その叫びは、既にお開きとなりかけていた宴会会場を揺るがした。絶対の自信と、重度の酔いとが相まって、この場の者たちには、チルノがものすげぇ強そうな奴に見えていた。
「チルノ……お前ってやつは……!」
「チルノ……チルノ!」
『チルノ! チルノ! チルノ!』
『チルノ!! チルノ!! チルノ!!』
『チルノ!!! チルノ!!! チルノ!!!』
何処からともなく始まったチルノコールに、酔いの回った者たち全員が乗っかった。終いには全員でチルノを担ぎ上げ、胴上げしながら妖怪の山を駆け下りはじめた。
胴上げされて空中に浮かびあがりながら、チルノは叫んだ。それはもう、幻想郷の隅々にまで聞こえるほどの大声で。
「あたいったら、さいきょーね!」
――その夜、幻想郷の中心は間違いなくチルノであった。
神主曰く「強すぎてゲームには出せない」って言ってますから
実際儚月抄でも、その強さを見せてましたし…(まぁ姉のほうは、あの扇子が無ければどうとでもなりそうですが)
最強論争って言えば不毛なもんですが、こういう感じはいいですね。
もうチルノが最強でいいんじゃないかな。
ちなみに件の綿月姉妹は八意様に頭が上がらず、また妹のほうはてゐに気絶させられていますが、その八意様はげっしょー小説版で紫にビビりまくりです。そして紫からつながっていって、チルノに行き着く。怖いものがいないというのは、さいきょーの証なのでしょう(最強ではなくとも)。
かわいい!
憶測に誇大解釈、好き嫌いが入り乱れて言った者勝ちの本当に不毛な話題だよね。
誰もが納得できるところに落ち着かせたのは素晴らしいです。
面白かったです。
申し訳ありません、訂正しておきました
上手いなあ
最強の定義なんて色々有るしがちんこでも一癖も二癖もある存在ばかりですからねぇ~
そうだよ!不毛な論争をその一言で終わりに導く君が最強だ!!
ラストのノリもすごくよかったです。
チルノはサイキョー!!!!!