「で、えー、なに? かわいそうなフランちゃんは家を追い出されました。って?」
黒いソファの腕かけに背中を預け、ブリッジでもするようにぐでぇっとしたルーミアが、フランの方すら見ずに問いかける。
「天下の吸血鬼様をどうして一妖怪の私が面倒見なくちゃいけないの」
完全に脱力したルーミアとは対象に、フランは床で身を固め、正座している。膝が冷たい。この立場が逆なら、誰もなんとも思わないだろう。本来の立ち位置が逆なだけに、フランのプライドは悲鳴を上げていた。
「しかた……ないじゃない。だって、ドレスが欲しかったんだから」
「お姉たまと同じドレスがね。それで反対されて、もういい自分で買う、って家を出たけど、結局お金を稼ぐことすらできずに、なぜか私の家に転がり込んだ、と。追い出されたじゃなくて自分で出た、というのが正しいみたいね」
馬鹿にするようなルーミアに、フランはなにも言い返せなかった。事実だからだ。黙ったまま膝に置いた拳を固める。
「どうか、私に、仕事をください……」
慣れない敬語を使う。屈辱に押しつぶされそうになった。
「私が仕事を持ってると思う?」
「そう聞いたので……。お願いします。なんでもしますから……」
つまらなそうにルーミアは自分の金髪を指でくるくると弄ぶ。
「じゃあさー、表の郵便受けにたまってる手紙取ってきてくれるー?」
「……はい」
フランはしぶしぶ立ち上がる。ここで断られれば、正直もう紅魔館に戻るしかない。それだけは絶対に避けたい。次紅魔館に帰る時は、あのきらびやかな緋色のドレスを着て帰るのだ。
ここはルーミアの家。全体的にそっけない部屋で、生活に必要な最低限の品しか揃っていない。あえて特色を挙げるなら、ベッドや棚などの置物全般、黒系統が多い、くらいか。
靴を履き、玄関を開け、やはり黒い郵便受けを覗く。
なにがたまっている、だ。
手紙は一枚しかなかった。
「どうぞ」
ソファの元に戻り、フランはルーミアに手紙を渡す。
「ずいぶんたまってたわねぇ」
殴りそうになった。
ルーミアは手紙をあけ、目を通す。ひたすら沈黙を保ちながら、フランはルーミアを見ていた。ルーミアの口が三日月状に歪む。
「ようはあなた、お金が欲しいのよね?」
「はい、そうです……」
ドレスを買えるだけのお金が欲しい。ただ、それだけだった。だが、フランは495年の年季が入った箱入り娘。どこに行っても役立たず扱いをされ、仕事をもらえずたらい回しにあっていた。
「世話するのはごめんだけど、事情が変わったわ。一つ、私の依頼を受けない?」
不吉な笑みを浮かべたまま、ルーミアの口が動く。
「大丈夫。達成してくれれば、ドレス買えるだけのお金は出すから」
屈辱的だが、その言葉にフランは頷く以外になかった。
「魔理沙も馬鹿だよね~」
手に持った手紙をひらひらさせながらルーミアは言う。ルーミアの頭はついに床に着きそうになるほどソファからはみ出ていた。髪が逆立ち、おでこがあらわになっている。
「天狗の文屋を叩きのめして欲しいって依頼が来たわ」
どうやらあの手紙は、魔理沙からで、その内容は天狗狩りの依頼らしい。
「しかも内密に、だってさ。ふふ、戦闘力だったら魔理沙のほうが格上なのにね」
ルーミアは手紙を投げ捨てた。
「私が天狗に勝てるわけないじゃない」
そう言い彼女は能天気にへらりと笑う。そして、彼女ははじめてフランの方に視線を向けた。試すような、見下すような色が含まれている。だが、彼女の頭と目の位置は残念ながら再び正座させられたフランのそれよりも低い。
「私に天狗を狩って来いと?」
戦闘ならば自信がある。これならば意外と早くドレスが手に入るかもしれない。
「ん、いや、魔理沙の依頼は受けないよ。それよりも兎さんを助けるほうが良いかな」
「兎?」とフランは首を傾げる。
「実は少し前、兎が困ってて、人里で解決してくれる人を探してるとかなんとか聞いたような聞かなかったような」
「曖昧ね」
「そういえば、私のとこにも助けて手紙が来たんだった」
覚えててあえて忘れているように言ったのだろう。おちょくるルーミアを爆発してしまわないように、フランは自分の右手を押さえた。
「だからさ、フランにはルーミアとして兎さんを助けて欲しいのよ。ちなみに、兎との面識は……あるわけないか、引きこもりだし」
こいつが依頼人でなければ、すでに爆殺していた。
フランはルーミアに扮して人間の里に向かった。変装といっても、ポニーテールをほどき、ルーミアの服装を真似ただけ。七色の翼をのぞき、おどろくほどルーミアに似てしまった。
人里には古めかしい店から、派手な外装をした店まで様々な店がある。昼下がりで日傘をさしたフランは、人間の視線を気にしながら大通りを歩いていた。からっと晴れたいい天気で、人間達は額に汗を浮かべながら各々の職分をこなしている。
そんな中でも少し寒気を覚えながら、フランは兎を探す。いらぬ計らいで、ワンピースの下のシャツは暑いだろうと着せられなかった。
誰がこんな姿をしたいと思うのか。
だが、立場上、ルーミアの指示を聞かないわけにはいかなかった。
兎……兎……。
ルーミアが言うには、兎は頻繁に人里に来るらしく、運がよければすぐに見つかるということだ。黒いワンピースを揺らしながら、フランは人里を歩き回った。
ああ、いた。
人とは明らかに違う、頭に兎の耳を生やした妖怪は、ごく普通に人混みにまぎれていた。早速駆け寄って、フランはその妖怪に話しかける。
「あのー」
「……ん?」
黒髪で、背のちっこい兎の妖怪だ。耳を引っこ抜いてしまえば、そこらの人間の子供に混じっても不自然ではない。
「少し前のことなんですが、兎さんからの依頼がですね」
たどたどしい敬語を使い、フランは必死で説明を試みる。が、途中、ルーミアから預かった兎からの手紙を見せてしまえば早いことに気付いた。
「ああ、これ私じゃないよ。たぶん鈴仙だね」
「鈴仙?」
「私より背が高くて、髪の長い兎さ。私は人違い兎違い。じゃねー」
そう言うと、兎はあっという間に人混みに姿を消してしまった。
そして同日、それからフランが兎を見ることはなかった。
それから鈴仙という兎を見つけるのに、フランは三日を要す。
その際、宿代わりに使うのは当然ルーミアの家で、「私のとこに泊まるのは良いけどさー、勿論依頼料から宿泊代は差し引いとくよ? すぐにドレスを買えなくなる額を差し引くほど無情じゃないけど、急ぐことをおすすめするわ」というルーミアの言葉はフランを急かすには十分の言葉だった。
人里の薬屋から出てきた、背の高い兎の肩をフランはわっしと掴む。びくぅっとフランの口元より高い位置にある肩が揺れた。
「ど、どちら様で?」
臆病そうな赤い瞳がフランを捉えた。兎の瞳を本能的に直視するのを避けながら、フランは手紙を差し出す。
「これ、あなたが出したの?」
鈴仙の弱弱しい態度に、フランは敬語を忘れていた。
「え、こ、これは。はい、私です」
「受けるわ。だから、依頼の内容を全部話しなさい」
言い切ってから、これが一週間ほど前送られてきた物であることを思い出す。ルーミアが言うには、鈴仙は手当たりしだいかは謎だが、かなりの人間妖怪にこの手紙を出していたらしい。もし、すでに解決されていたなら目も当てられない。
「本当ですか!? 助かります!」
けれど、その心配は無用だった。彼女はフランの片手を取り、神妙な顔をしてもう片方の手で人差し指を立てる。
「ただ、詳しい内容はあまり他人に知られたくないんです。近くの喫茶店に行って話しましょう」
第一印象に反し、鈴仙はフランの手をぐいぐい引っ張ってきた。日傘を落とさないように、フランは鈴仙のエスコートに従う。
薬屋から近くの喫茶店に入った二人は、隅の一角を陣取った。昼下がりで人は少ないが、店内にはクラシックが流れており、意識して聞かれない限りは話しの内容が他人に聞こえることはなさそうだ。
人里に喫茶店なんて洒落た店があるのを意外に思いながら、フランは席に腰を下ろす。革張りの椅子はひんやり冷たい。指でさわるとぴとぴと張り付き、その感覚は非常に不快だった。
対面に座る鈴仙は、店の人間にコーヒーを二つ頼んだ後に、フランを見すえた。
私は紅茶党。
そう言おうとしたが、その前に鈴仙が口を開いた。
「ルーミアさん、でしたか」
危うく首を横に振りかける。
「そうよ」
「見ず知らずの私の依頼を受けてくれて、ありがとうございます。実に厄介な問題でして、とにかく数を撃たなくちゃいけない状況になってしまったんです。あ、自己紹介がまだでしたね。私は鈴仙・優曇華院・イナバ。元々は月に……」
もしかしたら話好きなのかもしれない。
しばらく鈴仙の言葉の弾幕に圧倒され、フランは黙っていた。ようやく一段落ついたころを見計らい、尋ねる。
「で、化け物を探して、倒して欲しいんだっけ」
ルーミアから渡された手紙に書かれていたことだった。
「ええ、そうです」
化け物狩り。ようは妖怪退治だろう。倒すのはフランからすれば楽だが、この何百と妖怪がいる幻想郷で一妖怪を探すのは条件によっては面倒くさい。
「どんなやつなの?」
とりあえず特徴だ。それだけでも、大分的はしぼれる。
「わかっているのは一つだけ。そいつは服を溶かす能力を持っています」
うなじから背中にかけて、つぅ、と汗が伝う。フランは身を震わせた。
「そんな能力持ったやつ、聞いたことがないわ」
それはフランの世間に対する視野が狭いせいか。
「おそらく、新種の妖怪、なのでしょうか?」
なぜ疑問系で締めくくる。私が聞きたいくらいだ。
不満を飲み込みながら、フランは情報収集を継続する。
「他になにか情報はないわけ?」
「そいつは迷いの竹林にいます」
「ふぅん、場所までわかってるんだ」
少しだけ聞いたことのある場所だ。以前、お姉様がそこに行って異変を解決した、と自慢していた。
「まぁ、戦闘なら私の領分ね」
ボキボキ指を鳴らし、フランは舌なめずりをする。
「ただ、気をつけてください。今まで退治しに行った者は例外なく丸裸にされて帰ってきています」
「私を誰だと思ってるの?」
吸血鬼。
そう言いかけて、またもフランは言葉を飲み込んだ。その後、出されたブラックコーヒーをひーひー言いながら片付けたフランは、そのまま喫茶店で鈴仙と別れた。
喫茶店を出たとき異質な視線を感じたのだが、今日のフランは別段気にしなかった。
その日のうちに迷いの森に行って、依頼を解決したかったが、フランは一度ルーミアに話を通すことにした。
彼女は相変わらずソファでぐだっていた。ついに頭は床に到達し、床のルーミアの頭がある部分には分厚いクッションが敷かれている。だらだらしたいのだろうが、むしろ体に負荷がかかる体勢ではないかと、フランはつくづく思う。
だがそこに突っ込むのは面倒くさかった。どうせまた毒舌を見舞われるに決まっている。
フランは今日の成果をルーミアに告げた。内心、これを自慢したかっただけ。
その心を見透かしたかのように、ルーミアは鼻で笑った。
「兎を見つけて、話を聞いた。それだけでしょ? そんなこと人間の子供にでもできるわよ。問題は、化け物を見つけて、倒すところでしょう。ここが、今まで誰にもできなかったから残ってるのよ」
相変わらず歯に衣着せぬ物言いだ。事実、そうなのだ。だが、今回は余裕を持って返答できた。
「私を誰だと思ってるの? 吸血鬼よ。負けるはずがない」
「自信過剰なところは姉そっくりね」
あざけるようにルーミアは吐き捨てた。今のフランには、それは弱小妖怪のひがみにしか聞こえなかった。もともとはルーミアの元に届いた依頼だ。それをフランに渡すと言うことは、解決できる自信がないことの裏返しではないか?
「まぁ、倒しに行くってなら、頑張りなさい。ただ一つ、聞いておくわ」
フランの着る、ルーミアと同じ黒のワンピースを指差しながら彼女は言った。
「人里で、私でいることは気持ち良い?」
一瞬、問いの意味がわからなかった。意味を理解し、少しだけ動揺したが、否定すれば良いだけの問いだった。
「そんなわけないじゃない」
唾を吐くように言ってやった。それでもルーミアは涼しい顔をして、「それじゃだめね」と肩をすくめる。
そして、そのままの体勢で彼女は目を閉じたのだった。
ルーミアの家から迷いの竹林に行くには、一度人里を通る必要があった。相変わらずルーミアの格好をしたフランは、わずかな爽快感を覚えながら人里を通り、迷いの竹林に向かった。
そこは名に相応しい場所だ。
東西南北どこを見ても、竹、竹、竹、同じ景色ばかりでフランはあっという間に迷子になった。空を飛べば、迷わずに済むかもしれないが、それでは竹林の中が見えず、化け物が探せない。本末転倒だ。
服を溶かす化け物、か。
一体どんな様相をしているのだろうか。
落ちた笹の葉を踏みしめながら、フランはそんなことを考えていた。兎から聞いたのは迷いの竹林にいる、ということだけでこの広い竹林のどの辺りに出没するかなどは聞いていない。
「ああ、もう! 見つけれるわけないじゃない!」
迷いの竹林は、葉のおかげで空はほとんど見えず、地上は影で覆われていた。畳んだ日傘で、落ちてきた葉を薙ぐ。
「広い上に視界が悪い!」
おまけに足場まで悪い。額から出た汗を拭う。その代わりのようにつぅ、と背中から太ももまで汗が伝わり落ちた。ぞくっとする。
いくら歩けど、化け物どころか人の影一つない。いや、人の影がないのは当然か。いらいらがピークに達したときだ。
「きゃっ!?」
不意にフランは重力を失った。思い切りお尻をうつ。尾てい骨に鈍痛が走り、不快な土の感触が尻を舐めた。落とし穴だ。どこのどいつがこんな罠を張ったのか!
残念ながら爆発した怒りをぶつける対象がなかった。
怒りを飲み下し、上を仰ぐと、空に向かって伸びた竹がフランを見下ろしている。
だが、そこに影がかかる。かと思うと、パシャッという音と共に閃光がフランの目を焼いた。
「やぁやぁお嬢さん。お困りのようで」
にゅっと手が伸びてきた。フランはそれを無視し、穴から這い出る。手を伸ばしてきた人物は、苦笑いを浮かべながらフランを見ていた。綺麗な黒髪の少女。カメラと歯が一本限りの下駄が目を引いた。
「だれ、あんた」
手に付いた泥を払いながら冷めた目で、フランはそいつのことを見る。
「清く正しい鴉天狗、射命丸文と申します!」
闊達な声が竹林に響き渡る。不機嫌なフランはますます顔をしかめた。
「どうしてここに居るのよ」
「いえね、なんか妙な化け物がこの竹林に出る、って聞いたんで取材に来たんです」
「へぇ、あんたも化け物を探してるの?」
文は似たような目的を持っていた。
彼女はきょろきょろと辺りを見渡し、化け物を探すようなしぐさをする。
「まさか、ルーミアさん。いいえ、フランドール・スカーレットさんも?」
自分の正体を言い当てられ、フランは目を見開く。
「どうして私を?」
「やだなぁ、前に取材したじゃないですか」
寂しそうに文は首をふる。
そういえば、前に一度文屋が来たことあったけな。
記憶の片隅から、その時の文屋の姿を引っ張り出す。一致した。
「ああ、隕石のときの」
「ええ、隕石のときのです」
こほん、と文は咳払いをする。
「ところで、あなたも化け物を探してるなら情報共有しません? 私が欲しいのは情報だけです。あなたが化け物を探し、なにをしようとしているのかは、想像に難くありません。お互いにとってメリットになるでしょう?」
一寸、考える。フランはたいして情報を持っていない。ならば、相手から情報を引き出せるだけ引き出すべきだ。共有なのだから。
「良いわ」
「ありがとうございます! なら、あなた様からお願いします」
さり気なく先に情報提供させようとする辺り、なかなか狡猾な鴉だ。別に、良い。共有だ。
鈴仙から聞いた化け物に関する情報を告げた。三十秒もかからない。
「次はあなたよ」
「すみません、実は私もその程度しか知らないんです」
へらっと文は笑う。満面の笑みでフランは文の『破壊の目』を右掌に作り出した。この禍々しい黒い玉をきゅっとすれば、文はドカーンだ。
「言いなさい」
「脅迫ぅううう!?」
「共有よ」
以前フランを取材した文ならばその破壊力は知っている。彼女が立ち会ったのは、フランが隕石を爆発した際の取材。
「本当に知らないんですって!」
「潰すわよ」
拳を握る真似をする。
「やっっっ!?」
それでもなお文は答えない。本当に知らないのか。それでもなお、訝ることをフランはやめなかった。けれど、これ以上の脅しの手段を、フランは知らない。フランのするこれ以上の脅迫は、おそらく相手がしゃべらない肉塊になってしまう類だ。
ならば、もう今日は脅さず引くべきだ。
「これから、化け物についての情報が手に入ったら共有しましょうね、文屋さん。私は今日はもう帰るわ」
「一方的に情報提供させる気でしょう!」
答えるまでもない。今のフランは非常に機嫌が悪かった。文の言葉は無視する。フランは竹林の上へと飛んだのだった。
それから一週間、フランは迷いの竹林に通い続けたが、化け物は見つからなかった。また、化け物が新たに人を襲ったなどの情報は入ってこない。
人里を通り、迷いの竹林に通うのは嫌いではないから良い。むしろ、日々が充実してるといえる。けれど、フランには別の問題があった。このままでは、宿泊代だけで依頼料を搾り取られる羽目になる。
「あと、何日なの?」
「なにがよ」
ルーミアの家で、フランは唐突に尋ねた。
ルーミアは露骨に眉をひそめる。クッションを二枚敷き、彼女はもうほとんど床に寝転がっていた。かかとだけがかろうじてソファの腕かけに乗っかっている。
「あと、何日で私のドレスを買えなくなるの?」
「私の気分次第」
明確な依頼料、宿泊料をフランは一度も聞いていなかった。ルーミアの回答にフランは怒らずにやけに納得する。ルーミアらしい、とほとんどあきらめてしまっているのだ。そして、時間が少ないことも悟る。最近、一人でいられる時間が少ないとルーミアは嘆いていた。
「でも、化け物がいないのよ」
「ふぅん、怒らないのね。そんな成長を祝って一つ教えてあげると、化け物がいないのは当たり前ね」
まるで理由を知っているかのようにルーミアは断言する。
「なにを知ってるのよ?」
めんどくさそうにルーミアは大あくびをする。
「そいつは自分の正体が暴かれないと出てこない性質なのよ」
「わけがわからないわ」
ぼとん、と足を床に落とし、うつ伏せになったルーミアは二枚のクッションを下に敷いたまま床を這いずりだす。その姿はしゃくとりむしのようだった。そして、彼女はテーブルの下まで移動する。
「あなたは知らなかったわね」
ルーミアは恨めしそうにテーブルの上の方を睨んだ。
「教えてあげるから、テーブルの上にあるアメを取って」
自分で取れと言ってやりたがったが、情報には代えられない。
テーブルの上にあったイチゴアメを取って、ルーミアに渡す。それを受け取ったルーミアは満足気に包装を開けた。
「迷いの竹林には、兎の住処があってね、そこには兎と、彼女が師と仰ぐ月の賢者が住んでるの。他にも居るけど、今は関係ないから省略しとくわ。いや、あと一匹関係あるのが、悪戯好きの兎ね。まぁとにかく、彼女の師は、どんな薬でも作り出すことができるの。そして兎は師を尊敬すると同時にとても恐れてるわ。怒られるのをね」
手に持った毒々しいほど赤いアメをルーミアは口に放り込む。
「どう? この関係、フランは知らなかったでしょう?」
たしかに知らない。だが、これは化け物の事件だ。この事件に関係があるとは思えなかった。それでもルーミアがフランに話すのは、この事件に関係があるということ。
「というより、ルーミア、あなたこの事件の核心をもう知ってるんじゃない?」
「まさか」
ごりごりとアメを噛み砕き、ルーミアの喉がごくんとアメの破片を飲み込んだ。
「そんなわけないじゃない」
嘘だ。
直感的に、フランはそう感じた。だが、根拠がない。そんな状況でルーミアに答えを迫っても煙に巻かれるだけだろう。
「この答えがわかったら、明日はフランとして人里に行きなさい」
フランの不意を打つような言葉だった。なぜ急にルーミアから戻って良いなどと許可を出すのか。
「え……でも」
上手く動揺が隠せなかった。
「なに? いいじゃない。ようやくルーミアから離れられるんだから」
「そうだけど……」
フランの心情を見透かした、非常に嫌な笑みをルーミアは浮かべていた。
一晩、唸り続けた。そしてフランは、化け物の正体を一応推測するに至る。だが、不安要素がある。
赤い服とスカートを着て、一房の髪を束ねる。フランドール・スカーレットとして、人里に向かった。最終的な目的地は迷いの森だ。だが、その前に兎に会っておきたい。
化け物の正体を聞いておきたかった。
緊縛されているような感覚を味わいながら、フランは人里の大通りを歩く。高く上がった太陽を遮る日傘をくるくる回しても気分は晴れない。七色の翼に視線が集まるのを感じながらも、フランは人間の視線を無感動に受け止める。
あぁ、つまらない。
その人間の中で、人ならざる者がフランの目に止まった。出会った時と同じように、薬屋から出てきた兎。兎、鈴仙にフランは駆け寄った。彼女ははじめはおどろいていたが、私が依頼を受けたルーミアだと言ったら、七色の翼を見て納得してくれた。
そして、その場でフランは話し始める。
「あなた、迷いの竹林に住んでいたの?」
「え、ああ、そうですけど……」
「もしかしてさ、あなた、化け物の正体、知ってる?」
フランの言葉に、鈴仙は瞬きを何度かすると、押し黙ってしまった。赤い瞳が下を向く。
「ねぇ、顔上げなよ」
兎の耳を掴み上げる。フランは強引に視線を合わせた。赤い瞳を直視したために一瞬くらっとしたが、意外と大したことはない。
「あんたの師匠、どんな薬でも作れるみたいね。もしかして、服を溶かす薬なんて作ってないわよね」
瞳に動揺が走る。そこから確信を得た。化け物の能力の正体は、これだ。
「ただ、あなたやその師匠が化け物だとは思えない」
この兎の臆病な性格は本物だ。師匠に怒られるのがわかりきっていることをするとは思えない。そして、兎の師である輩は賢者などと呼ばれていた。そんなやつが興味本位で薬を作れど、それを使うとは考えがたい。それよりも、まず真っ先に考えるべきは、ルーミアが言っていたもう一匹の悪戯好きの兎だ。
「悪戯好きな兎が、やってるんでしょう? 今回の化け物の正体はその兎。しかもその兎とあなたは面識がある。薬の管理をあんたは任されてて悪戯兎に盗み出されたことが師匠にばれたら怒られる、ってとこでしょ。その悪戯兎の特徴を教えなさい。そんなに師匠とやらに怒られるのが怖いなら、私が秘密裏かつ迅速に始末してあげるから」
兎の瞳の赤が一瞬、濃くなった気がした。フランは強い眩暈を覚える。その隙に、鈴仙はフランの手をはたき、自由を得た。兎は青い空を仰ぐ。その瞳には、なぜか悲しみが宿っていた。
「てゐが犯人ですか。あなたも、だめだったんですね。ありがとうございます。もう、結構です」
てゐとは、おそらく悪戯兎の名前だろう。赤い瞳に、空の色が混じる。
「やっぱりこれは私が解決する問題だったんです。ご迷惑をおかけしました」
もう竹林には行かないでください。
兎はそう言った。
フランの推理は、おそらく正解だ。なのに兎は肯定しようとしない。それどころかフランを突き放した。それは困るのだ。解決しなければならない。しなくては……。
「なに言ってんのよ。推理はあってんでしょ。悪戯兎はとっちめてやるから、あなたは座って待ってなさい。依頼を途中で破棄されるのは、私が困るのよ。私はこの依頼を完遂しないといけないの!」
鈴仙の元から、フランは駆け出した。
「あっ……待ってください!」
鈴仙の制止を振り切り、フランは迷いの竹林に向けて羽を伸ばす。迷いの森にいる兎を片っ端から問い詰める。鈴仙とはまた違う視線を感じた気がしたが、フランは一切気にしなかった。フランは、鈴仙ではない兎が一匹、人里にいる可能性があることを忘れていた。
射命丸文は、生い茂る竹の合間から、一匹の吸血鬼を見ていた。赤いスカートを揺らしながら、必死に兎を探している。
ええ、ええ、てゐさんから聞いたとも聞いたとも。
にぃぃ、と文は肉食獣じみた笑みを浮かべる。フランは服を溶かす化け物の外皮を暴いた。今までの有象無象とまったく同じ答えを出したのだ。結局それだけ。
フランも含め、そいつらはその先を考えない。
自分なら化け物を倒せると、竹林にやってくる。その化け物は、所詮どこまで行っても服を溶かす薬を持っただけの兎だと。
愚か者愚か者。どうして先人がそれだけの兎を倒せなかったことを考えないのか。
すでに日は落ちかけていた。人間ならば、すでに暗さで平常心を忘れ恐怖におののく頃合だ。だけれど、流石は夜を生きる吸血鬼。その様子は一切ない。文はフランの行動を伺う。足元をやたら気にしているのがわかった。
ええ、ええ、そうですね。化け物は以前、下からあなたを食いましたからね。
けれど、あのずる賢い化け物が素直にまた下から襲ってくるとでも?
カコン――。
なんとも間の抜けた音が響いた。一塊の液体が、フランを頭から飲み込む。その液体は、瞬時にフランの服を犯していく。
ああ、また一人化け物の餌食に!
それからの文の行動は早かった。持ち前の機動力を活かし瞬時にフランの全体像が見える位置に移動する。なにが起きたのか理解できていない吸血鬼。日に一切焼かれていない透き通るような白い肌。透明な液体がその体をなまめかしく這う。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
狂喜し、がむしゃらにシャッターを切る。フラッシュが竹林に閃く。獲物は完全に捕らえた。文が写真を十枚以上撮ってからようやく、フランは自分になにが起きたのかを理解したようだった。両手で恥部を隠してももう遅い。
フランの視線は自分の体たらくと文のカメラを何度も行き来していた。
「犯人の片割れを当てたことは褒めてあげましょう」
写真を撮り終えた文は、勝利に酔っていた。
「ですが、そこで思考をやめたことがあなたの敗因です」
フランの肌がかすかに脈動する。行動の前兆。それを文は瞬時に制止する。
「おっと、『破壊の目』はやめてくださいね。あなたが動くより速く射程外に逃げますよ。あなたも、事件の全容が知りたいでしょう?」
脈動は止まり、フランはその赤い瞳を健気に文に向けていた。文の推測だが、『破壊の目』は、フランの認識に依存する。視界外の認識されないところに、文の『破壊の目』が掴まえられる前に逃げれば、問題ない。言葉にするだけなら簡単だが、それを行える者はそうそういない。そして文にはそれを行える自信があった。
これ以上、フランは動く気はなさそうだ。それに満足した文は語らいを始める。
「あなたはなぜ化け物が今まで倒されなかったのかを考えなかった。服を溶かす化け物。その正体は兎と薬です。ですが、それだけではあきらかに足りないんですよ。兎より強い者なんていくらでもいるし、服を溶かされる覚悟ができていれば、たとえ薬で服を溶かされたとしても、そのまま兎をぶっ飛ばすことは可能。兎と薬だけでは、化け物は抑止力を持たないんですよ」
文はあえてフランの方に歩みだした。皮をむかれた幼女は頬を染め羞恥に震えている。フランの一歩前に立ち、興奮を隠せないまま文は語らいを続ける。たとえフランの一歩前に居ようと、文は逃げ切る自信があった。幻想郷最速は伊達ではない。
「ならば、服を溶かす化け物の抑止力はなんだったのか。誰もが一番に思いつくのは、その裸体を晒すと脅すこと。そして幻想郷においてその手段を持つのは、新聞記者です。少し考えればわかるのに、兎と薬という答えに踊らされ、あなたはやってきた。そして今までの有象無象と同じく、結末はこれです。化け物の真の恐ろしさは、晒される恐怖にあったんですよ」
自分の正体をさらし終え、文は愉悦に浸る。元々はネタ探しからはじめたことだが、いつの間にかやってくる愚か者を討伐し、化け物としての正体を晒すことに快感を覚えていた。
「私の裸の写真……ばらまくの?」
蚊が飛ぶような小さな声でフランがつぶやいた。
「あなたがはじめに依頼を受けた優曇華さんに、いや、今までの敗北者に言ったことと同じことを言わせてもらいますよ。あなたが化け物の正体をばらさない限りは、ばら撒くようなことはしません。優曇華さんのように他の方に正体を言わずに化け物討伐を依頼されるのは結構です」
敗者が新たな生贄を自動的に捧げてくれるシステムの出来上がりだ。
フランが下を向く。その肩は震えていた。
「正体をばらさない限り、けっして不埒な写真はばらまきません」
今回は吸血鬼。獲物が大きいほど支配したときの喜びは大きい。捕らえた獲物を、文は見下ろしていた。やはり吸血鬼の肌は別格だ。容姿は幼いくせに、その妖艶さは群を抜いている。そのギャップがたまらない。
文が猟師、フランが獲物。この絶対的な立場が決定的になった。
そう、これが支配する快感。勝者こそ得られる物。
そのはずだった――。
「どうしてよッッ!?」
不意にフランが顔を上げる。
「どうして今すぐに写真をばらまいてくれないのよッッ!」
「は?」
虚を突かれた。一瞬に動ける範囲が大きいだけに、その虚は文にとって大きかった。フランの手が文の肩を掴む。しまった、と思うがフランの行動は文の思ったものとは違っていた。
「ねぇ、はやく私の写真をまいてよぅ! ねぇ? あなた新聞記者でしょう? ねぇ? ねぇ? ねぇ!? 私、私ね、人里を歩いてるとき、思ったの。裸で歩いててね! 裸で注目を浴びるのが、こんなに気持ちが良い物なのかって! だから、だからね!」
赤い瞳は熱したチーズのようにとろけていた。明確な狂気をはらんでいる。フランの頬は紅潮し、唇からは薬の残りが滴っていた。
文は理屈抜きに確信する。
フランは心底、自分の裸の写真が撒かれることを望んでいる。
「早く私の写真をまいてよ」
「ひっ!?」
演技ではない悲鳴が文の口から漏れた。肩の骨が砕けそうになるほど痛い。
なぜだかわからない。だが、いつの間にか食う側と食われる側が逆転していた。
いや、実はわかっている。フランにとって、化け物の恐怖の真髄は、ただの快感でしかないのだ。
それを文が理解すると同時に、竹林に夜が訪れた。ただの夜ではない。宵闇に辺りが包まれる。
「こんばんは。化け物の正体、新聞記者の文さん」
妖怪の文ですら一寸先が見えない闇の中、歌うような声が響く。
あきらかに自然のものではない闇。声。それらの特徴から、文は記者としての記憶を総動員し該当する妖怪を導き出す。宵闇妖怪のルーミアだ。
「ッッなんの用ですかねぇ!」
気丈に声を張ったが、肩の痛みに悲鳴を上げそうになる。目の前のフランは、まだ文の肩を離さず、急に暗くなったまわりを伺っているようだった。
今回、フランはルーミアからの依頼で動いていることを、文は知っていた。ただ、それはとてもどうでもいいことだった。誰が化け物に食われるかの違いだから。
「化け物狩りの準備に来ただけよ。狩るのはフランだけどね」
声は上から下から左から右から、全方位から響いてくるようだった。文に唯一方向を明示してくれるのは、目の前のフランの荒い吐息だけ。
「まぁ、言ってしまえば調教の成果の確認も兼ねてるかしらね」
「調教って……」
「私がフランにルーミアの姿をさせて調査させてたでしょう? あなた、どうせルーミアとして調査して欲しいから、くらいにしか考えなかったわよね。あれには一応意味があったのよ。フランが露出狂になるよう調教するってね。大衆の前で自分の裸を晒す快感に目覚めさせる為」
上機嫌にルーミアは鼻歌を挟む。それが文の頭に狂気的に響く。
「あのワンピースは私の闇よ。私の闇は太陽の光すら遮る。服の代わりに見せかけることもできる。通気性はすばらしいものよ。裸同然」
――だって、闇だもの。
くすくすとルーミアは笑う。
「そしてフランには下になにも着せなかったし、履かせなかったわ。実質丸裸の状態で、私はフランに毎日人里に行かせ、化け物の調査をさせたのよ」
がさがさとルーミアが移動するのがわかった。
「もともと狂気に染まりやすい素質があったからね。しかも天狗を倒せる強さも持ってる。化け物の本当の能力を無効化でき、かつ化け物の力を上回る者。今回の化け物を殺すには、これほど良い素材はいなかったわ。私は残念ながら弱いからね。まぁそのおかげでどうして私より強い人妖が、この化け物に返り討ちにされてるのか、ちゃんと考えたんだけどね。あなたが関わってるのに気付けたの。そう思い当たったとこに、ちょうど良くフランが私の家に転がり込んできたから、利用させてもらったわ」
ルーミアの声が遠のいていく。けれど、ルーミアの言葉は文を縛る。全身金縛りにかかってしまったかのように動かなかった。
「で、ね。最後よ。フラン、文をぼこぼこにしなさい。もう二度と変な写真をばらまきたくないと思うくらいに、ね」
「どうして、それじゃだめじゃない! ぜんぜん気持ちよくない!」
「ねぇ、フラン。私の闇を纏って、人里を歩いて直接視線を浴びるのと、自分が感じられないところで写真を見られるの、どっちが気持ちいいと思ってるの?」
文は敗北を確信する。
狂気に染まった吸血鬼は欲望に純粋だった。
宵闇が薄れ、フランの顔が見えたとき、そのとろけた瞳は文を獲物としてしか捕らえていなかった。
フー、フーッッ。
鼻息を荒げ、フランはルーミアを睨んでいた。事件は無事解決した。無事、文をぼこぼこにし、フランは裸体の爽快感を味わいながら深夜の空を飛び、ルーミアの家に帰った。そして、我に返って赤面した。
なんてことをしてしまったんだ!
同時にルーミアに強い怒りを覚えた。当のルーミアはまた例のソファの上で怠惰をむさぼっている。服を溶かされたため、フランはバスタオルを無断で借り、体に巻いていた。
「まぁまぁ、そんなに怒らない怒らない」
「これが怒らずにッッ!」
それから言葉が続かなかった。はじめは強制だが、途中から自分も、あの奇行を楽しんでしまっていたのだ。なんとも言えない開放感に、フランは魅入られていた。495年閉じ込められていた束縛感の反動なのだろうか。
これからどうしたら良いんだ。
怒りを悩みが上回る。
それほどにあの快感は、強く、魅力的。
「そんなに裸で歩き回るのが快感だった?」
フランの心を見透かしたルーミアが笑う。とっさに否を唱えれなかったのはフランの失態だ。
「どうして、くれんのよ!」
せめても開き直り、言葉を振りまく。化け物を殺す為に必要だったとは言え、もともとはルーミアのせいでフランは少しおかしなことになってしまったのだ。化け物を殺す為、この目的のためだけに多大な自己犠牲を容認できるほどフランの懐は大きくない。
「まぁ、責任の一端が私にあるのは認めるわ。それに、このまま帰したら、お姉たまに八つ裂きにされそうだしね」
「全部あんたのせいよ!」
めんどくさそうにルーミアはソファの裏をまさぐった。
「だから、これを着て人里を歩きなさい」
緋色が目を焼く。ソファの裏から取り出したそれを、ルーミアは床に置く。
「それは……」
「お姉たまと同じドレスよ。特注で作ってもらったわ」
やわらかそうな生地に、上品な緋色が乗っている。見るからに上等なドレス。いつもお姉様が着ているものに間違いない。
「報酬はこれで十分でしょう?」
今度は純粋に嬉しかった。ただ、感情の切り替えがうまくいかず、フランはただ頷く。
「明日にでも、これを着て人里を歩きなさい。それで全ておしまい。私の義務もね。じゃ、まぁとっとと私の家から出て行くことね」
言いたいことは全部言ってしまったようで、ルーミアはソファの腕かけに頭を預け、目を閉じてしまった。そして、それを妨げることがどうしてもフランにはできなかった。
晴天の下、新品のドレスを着てフランは人里を歩く。
人々が足を止め、羨望の眼差しをフランに向けていた。日傘が上機嫌にくるくる回る。フランは自慢げに緋色のドレスを揺らした。
羨望の眼差しで得る快感は、裸の比ではなかった。
黒いソファの腕かけに背中を預け、ブリッジでもするようにぐでぇっとしたルーミアが、フランの方すら見ずに問いかける。
「天下の吸血鬼様をどうして一妖怪の私が面倒見なくちゃいけないの」
完全に脱力したルーミアとは対象に、フランは床で身を固め、正座している。膝が冷たい。この立場が逆なら、誰もなんとも思わないだろう。本来の立ち位置が逆なだけに、フランのプライドは悲鳴を上げていた。
「しかた……ないじゃない。だって、ドレスが欲しかったんだから」
「お姉たまと同じドレスがね。それで反対されて、もういい自分で買う、って家を出たけど、結局お金を稼ぐことすらできずに、なぜか私の家に転がり込んだ、と。追い出されたじゃなくて自分で出た、というのが正しいみたいね」
馬鹿にするようなルーミアに、フランはなにも言い返せなかった。事実だからだ。黙ったまま膝に置いた拳を固める。
「どうか、私に、仕事をください……」
慣れない敬語を使う。屈辱に押しつぶされそうになった。
「私が仕事を持ってると思う?」
「そう聞いたので……。お願いします。なんでもしますから……」
つまらなそうにルーミアは自分の金髪を指でくるくると弄ぶ。
「じゃあさー、表の郵便受けにたまってる手紙取ってきてくれるー?」
「……はい」
フランはしぶしぶ立ち上がる。ここで断られれば、正直もう紅魔館に戻るしかない。それだけは絶対に避けたい。次紅魔館に帰る時は、あのきらびやかな緋色のドレスを着て帰るのだ。
ここはルーミアの家。全体的にそっけない部屋で、生活に必要な最低限の品しか揃っていない。あえて特色を挙げるなら、ベッドや棚などの置物全般、黒系統が多い、くらいか。
靴を履き、玄関を開け、やはり黒い郵便受けを覗く。
なにがたまっている、だ。
手紙は一枚しかなかった。
「どうぞ」
ソファの元に戻り、フランはルーミアに手紙を渡す。
「ずいぶんたまってたわねぇ」
殴りそうになった。
ルーミアは手紙をあけ、目を通す。ひたすら沈黙を保ちながら、フランはルーミアを見ていた。ルーミアの口が三日月状に歪む。
「ようはあなた、お金が欲しいのよね?」
「はい、そうです……」
ドレスを買えるだけのお金が欲しい。ただ、それだけだった。だが、フランは495年の年季が入った箱入り娘。どこに行っても役立たず扱いをされ、仕事をもらえずたらい回しにあっていた。
「世話するのはごめんだけど、事情が変わったわ。一つ、私の依頼を受けない?」
不吉な笑みを浮かべたまま、ルーミアの口が動く。
「大丈夫。達成してくれれば、ドレス買えるだけのお金は出すから」
屈辱的だが、その言葉にフランは頷く以外になかった。
「魔理沙も馬鹿だよね~」
手に持った手紙をひらひらさせながらルーミアは言う。ルーミアの頭はついに床に着きそうになるほどソファからはみ出ていた。髪が逆立ち、おでこがあらわになっている。
「天狗の文屋を叩きのめして欲しいって依頼が来たわ」
どうやらあの手紙は、魔理沙からで、その内容は天狗狩りの依頼らしい。
「しかも内密に、だってさ。ふふ、戦闘力だったら魔理沙のほうが格上なのにね」
ルーミアは手紙を投げ捨てた。
「私が天狗に勝てるわけないじゃない」
そう言い彼女は能天気にへらりと笑う。そして、彼女ははじめてフランの方に視線を向けた。試すような、見下すような色が含まれている。だが、彼女の頭と目の位置は残念ながら再び正座させられたフランのそれよりも低い。
「私に天狗を狩って来いと?」
戦闘ならば自信がある。これならば意外と早くドレスが手に入るかもしれない。
「ん、いや、魔理沙の依頼は受けないよ。それよりも兎さんを助けるほうが良いかな」
「兎?」とフランは首を傾げる。
「実は少し前、兎が困ってて、人里で解決してくれる人を探してるとかなんとか聞いたような聞かなかったような」
「曖昧ね」
「そういえば、私のとこにも助けて手紙が来たんだった」
覚えててあえて忘れているように言ったのだろう。おちょくるルーミアを爆発してしまわないように、フランは自分の右手を押さえた。
「だからさ、フランにはルーミアとして兎さんを助けて欲しいのよ。ちなみに、兎との面識は……あるわけないか、引きこもりだし」
こいつが依頼人でなければ、すでに爆殺していた。
フランはルーミアに扮して人間の里に向かった。変装といっても、ポニーテールをほどき、ルーミアの服装を真似ただけ。七色の翼をのぞき、おどろくほどルーミアに似てしまった。
人里には古めかしい店から、派手な外装をした店まで様々な店がある。昼下がりで日傘をさしたフランは、人間の視線を気にしながら大通りを歩いていた。からっと晴れたいい天気で、人間達は額に汗を浮かべながら各々の職分をこなしている。
そんな中でも少し寒気を覚えながら、フランは兎を探す。いらぬ計らいで、ワンピースの下のシャツは暑いだろうと着せられなかった。
誰がこんな姿をしたいと思うのか。
だが、立場上、ルーミアの指示を聞かないわけにはいかなかった。
兎……兎……。
ルーミアが言うには、兎は頻繁に人里に来るらしく、運がよければすぐに見つかるということだ。黒いワンピースを揺らしながら、フランは人里を歩き回った。
ああ、いた。
人とは明らかに違う、頭に兎の耳を生やした妖怪は、ごく普通に人混みにまぎれていた。早速駆け寄って、フランはその妖怪に話しかける。
「あのー」
「……ん?」
黒髪で、背のちっこい兎の妖怪だ。耳を引っこ抜いてしまえば、そこらの人間の子供に混じっても不自然ではない。
「少し前のことなんですが、兎さんからの依頼がですね」
たどたどしい敬語を使い、フランは必死で説明を試みる。が、途中、ルーミアから預かった兎からの手紙を見せてしまえば早いことに気付いた。
「ああ、これ私じゃないよ。たぶん鈴仙だね」
「鈴仙?」
「私より背が高くて、髪の長い兎さ。私は人違い兎違い。じゃねー」
そう言うと、兎はあっという間に人混みに姿を消してしまった。
そして同日、それからフランが兎を見ることはなかった。
それから鈴仙という兎を見つけるのに、フランは三日を要す。
その際、宿代わりに使うのは当然ルーミアの家で、「私のとこに泊まるのは良いけどさー、勿論依頼料から宿泊代は差し引いとくよ? すぐにドレスを買えなくなる額を差し引くほど無情じゃないけど、急ぐことをおすすめするわ」というルーミアの言葉はフランを急かすには十分の言葉だった。
人里の薬屋から出てきた、背の高い兎の肩をフランはわっしと掴む。びくぅっとフランの口元より高い位置にある肩が揺れた。
「ど、どちら様で?」
臆病そうな赤い瞳がフランを捉えた。兎の瞳を本能的に直視するのを避けながら、フランは手紙を差し出す。
「これ、あなたが出したの?」
鈴仙の弱弱しい態度に、フランは敬語を忘れていた。
「え、こ、これは。はい、私です」
「受けるわ。だから、依頼の内容を全部話しなさい」
言い切ってから、これが一週間ほど前送られてきた物であることを思い出す。ルーミアが言うには、鈴仙は手当たりしだいかは謎だが、かなりの人間妖怪にこの手紙を出していたらしい。もし、すでに解決されていたなら目も当てられない。
「本当ですか!? 助かります!」
けれど、その心配は無用だった。彼女はフランの片手を取り、神妙な顔をしてもう片方の手で人差し指を立てる。
「ただ、詳しい内容はあまり他人に知られたくないんです。近くの喫茶店に行って話しましょう」
第一印象に反し、鈴仙はフランの手をぐいぐい引っ張ってきた。日傘を落とさないように、フランは鈴仙のエスコートに従う。
薬屋から近くの喫茶店に入った二人は、隅の一角を陣取った。昼下がりで人は少ないが、店内にはクラシックが流れており、意識して聞かれない限りは話しの内容が他人に聞こえることはなさそうだ。
人里に喫茶店なんて洒落た店があるのを意外に思いながら、フランは席に腰を下ろす。革張りの椅子はひんやり冷たい。指でさわるとぴとぴと張り付き、その感覚は非常に不快だった。
対面に座る鈴仙は、店の人間にコーヒーを二つ頼んだ後に、フランを見すえた。
私は紅茶党。
そう言おうとしたが、その前に鈴仙が口を開いた。
「ルーミアさん、でしたか」
危うく首を横に振りかける。
「そうよ」
「見ず知らずの私の依頼を受けてくれて、ありがとうございます。実に厄介な問題でして、とにかく数を撃たなくちゃいけない状況になってしまったんです。あ、自己紹介がまだでしたね。私は鈴仙・優曇華院・イナバ。元々は月に……」
もしかしたら話好きなのかもしれない。
しばらく鈴仙の言葉の弾幕に圧倒され、フランは黙っていた。ようやく一段落ついたころを見計らい、尋ねる。
「で、化け物を探して、倒して欲しいんだっけ」
ルーミアから渡された手紙に書かれていたことだった。
「ええ、そうです」
化け物狩り。ようは妖怪退治だろう。倒すのはフランからすれば楽だが、この何百と妖怪がいる幻想郷で一妖怪を探すのは条件によっては面倒くさい。
「どんなやつなの?」
とりあえず特徴だ。それだけでも、大分的はしぼれる。
「わかっているのは一つだけ。そいつは服を溶かす能力を持っています」
うなじから背中にかけて、つぅ、と汗が伝う。フランは身を震わせた。
「そんな能力持ったやつ、聞いたことがないわ」
それはフランの世間に対する視野が狭いせいか。
「おそらく、新種の妖怪、なのでしょうか?」
なぜ疑問系で締めくくる。私が聞きたいくらいだ。
不満を飲み込みながら、フランは情報収集を継続する。
「他になにか情報はないわけ?」
「そいつは迷いの竹林にいます」
「ふぅん、場所までわかってるんだ」
少しだけ聞いたことのある場所だ。以前、お姉様がそこに行って異変を解決した、と自慢していた。
「まぁ、戦闘なら私の領分ね」
ボキボキ指を鳴らし、フランは舌なめずりをする。
「ただ、気をつけてください。今まで退治しに行った者は例外なく丸裸にされて帰ってきています」
「私を誰だと思ってるの?」
吸血鬼。
そう言いかけて、またもフランは言葉を飲み込んだ。その後、出されたブラックコーヒーをひーひー言いながら片付けたフランは、そのまま喫茶店で鈴仙と別れた。
喫茶店を出たとき異質な視線を感じたのだが、今日のフランは別段気にしなかった。
その日のうちに迷いの森に行って、依頼を解決したかったが、フランは一度ルーミアに話を通すことにした。
彼女は相変わらずソファでぐだっていた。ついに頭は床に到達し、床のルーミアの頭がある部分には分厚いクッションが敷かれている。だらだらしたいのだろうが、むしろ体に負荷がかかる体勢ではないかと、フランはつくづく思う。
だがそこに突っ込むのは面倒くさかった。どうせまた毒舌を見舞われるに決まっている。
フランは今日の成果をルーミアに告げた。内心、これを自慢したかっただけ。
その心を見透かしたかのように、ルーミアは鼻で笑った。
「兎を見つけて、話を聞いた。それだけでしょ? そんなこと人間の子供にでもできるわよ。問題は、化け物を見つけて、倒すところでしょう。ここが、今まで誰にもできなかったから残ってるのよ」
相変わらず歯に衣着せぬ物言いだ。事実、そうなのだ。だが、今回は余裕を持って返答できた。
「私を誰だと思ってるの? 吸血鬼よ。負けるはずがない」
「自信過剰なところは姉そっくりね」
あざけるようにルーミアは吐き捨てた。今のフランには、それは弱小妖怪のひがみにしか聞こえなかった。もともとはルーミアの元に届いた依頼だ。それをフランに渡すと言うことは、解決できる自信がないことの裏返しではないか?
「まぁ、倒しに行くってなら、頑張りなさい。ただ一つ、聞いておくわ」
フランの着る、ルーミアと同じ黒のワンピースを指差しながら彼女は言った。
「人里で、私でいることは気持ち良い?」
一瞬、問いの意味がわからなかった。意味を理解し、少しだけ動揺したが、否定すれば良いだけの問いだった。
「そんなわけないじゃない」
唾を吐くように言ってやった。それでもルーミアは涼しい顔をして、「それじゃだめね」と肩をすくめる。
そして、そのままの体勢で彼女は目を閉じたのだった。
ルーミアの家から迷いの竹林に行くには、一度人里を通る必要があった。相変わらずルーミアの格好をしたフランは、わずかな爽快感を覚えながら人里を通り、迷いの竹林に向かった。
そこは名に相応しい場所だ。
東西南北どこを見ても、竹、竹、竹、同じ景色ばかりでフランはあっという間に迷子になった。空を飛べば、迷わずに済むかもしれないが、それでは竹林の中が見えず、化け物が探せない。本末転倒だ。
服を溶かす化け物、か。
一体どんな様相をしているのだろうか。
落ちた笹の葉を踏みしめながら、フランはそんなことを考えていた。兎から聞いたのは迷いの竹林にいる、ということだけでこの広い竹林のどの辺りに出没するかなどは聞いていない。
「ああ、もう! 見つけれるわけないじゃない!」
迷いの竹林は、葉のおかげで空はほとんど見えず、地上は影で覆われていた。畳んだ日傘で、落ちてきた葉を薙ぐ。
「広い上に視界が悪い!」
おまけに足場まで悪い。額から出た汗を拭う。その代わりのようにつぅ、と背中から太ももまで汗が伝わり落ちた。ぞくっとする。
いくら歩けど、化け物どころか人の影一つない。いや、人の影がないのは当然か。いらいらがピークに達したときだ。
「きゃっ!?」
不意にフランは重力を失った。思い切りお尻をうつ。尾てい骨に鈍痛が走り、不快な土の感触が尻を舐めた。落とし穴だ。どこのどいつがこんな罠を張ったのか!
残念ながら爆発した怒りをぶつける対象がなかった。
怒りを飲み下し、上を仰ぐと、空に向かって伸びた竹がフランを見下ろしている。
だが、そこに影がかかる。かと思うと、パシャッという音と共に閃光がフランの目を焼いた。
「やぁやぁお嬢さん。お困りのようで」
にゅっと手が伸びてきた。フランはそれを無視し、穴から這い出る。手を伸ばしてきた人物は、苦笑いを浮かべながらフランを見ていた。綺麗な黒髪の少女。カメラと歯が一本限りの下駄が目を引いた。
「だれ、あんた」
手に付いた泥を払いながら冷めた目で、フランはそいつのことを見る。
「清く正しい鴉天狗、射命丸文と申します!」
闊達な声が竹林に響き渡る。不機嫌なフランはますます顔をしかめた。
「どうしてここに居るのよ」
「いえね、なんか妙な化け物がこの竹林に出る、って聞いたんで取材に来たんです」
「へぇ、あんたも化け物を探してるの?」
文は似たような目的を持っていた。
彼女はきょろきょろと辺りを見渡し、化け物を探すようなしぐさをする。
「まさか、ルーミアさん。いいえ、フランドール・スカーレットさんも?」
自分の正体を言い当てられ、フランは目を見開く。
「どうして私を?」
「やだなぁ、前に取材したじゃないですか」
寂しそうに文は首をふる。
そういえば、前に一度文屋が来たことあったけな。
記憶の片隅から、その時の文屋の姿を引っ張り出す。一致した。
「ああ、隕石のときの」
「ええ、隕石のときのです」
こほん、と文は咳払いをする。
「ところで、あなたも化け物を探してるなら情報共有しません? 私が欲しいのは情報だけです。あなたが化け物を探し、なにをしようとしているのかは、想像に難くありません。お互いにとってメリットになるでしょう?」
一寸、考える。フランはたいして情報を持っていない。ならば、相手から情報を引き出せるだけ引き出すべきだ。共有なのだから。
「良いわ」
「ありがとうございます! なら、あなた様からお願いします」
さり気なく先に情報提供させようとする辺り、なかなか狡猾な鴉だ。別に、良い。共有だ。
鈴仙から聞いた化け物に関する情報を告げた。三十秒もかからない。
「次はあなたよ」
「すみません、実は私もその程度しか知らないんです」
へらっと文は笑う。満面の笑みでフランは文の『破壊の目』を右掌に作り出した。この禍々しい黒い玉をきゅっとすれば、文はドカーンだ。
「言いなさい」
「脅迫ぅううう!?」
「共有よ」
以前フランを取材した文ならばその破壊力は知っている。彼女が立ち会ったのは、フランが隕石を爆発した際の取材。
「本当に知らないんですって!」
「潰すわよ」
拳を握る真似をする。
「やっっっ!?」
それでもなお文は答えない。本当に知らないのか。それでもなお、訝ることをフランはやめなかった。けれど、これ以上の脅しの手段を、フランは知らない。フランのするこれ以上の脅迫は、おそらく相手がしゃべらない肉塊になってしまう類だ。
ならば、もう今日は脅さず引くべきだ。
「これから、化け物についての情報が手に入ったら共有しましょうね、文屋さん。私は今日はもう帰るわ」
「一方的に情報提供させる気でしょう!」
答えるまでもない。今のフランは非常に機嫌が悪かった。文の言葉は無視する。フランは竹林の上へと飛んだのだった。
それから一週間、フランは迷いの竹林に通い続けたが、化け物は見つからなかった。また、化け物が新たに人を襲ったなどの情報は入ってこない。
人里を通り、迷いの竹林に通うのは嫌いではないから良い。むしろ、日々が充実してるといえる。けれど、フランには別の問題があった。このままでは、宿泊代だけで依頼料を搾り取られる羽目になる。
「あと、何日なの?」
「なにがよ」
ルーミアの家で、フランは唐突に尋ねた。
ルーミアは露骨に眉をひそめる。クッションを二枚敷き、彼女はもうほとんど床に寝転がっていた。かかとだけがかろうじてソファの腕かけに乗っかっている。
「あと、何日で私のドレスを買えなくなるの?」
「私の気分次第」
明確な依頼料、宿泊料をフランは一度も聞いていなかった。ルーミアの回答にフランは怒らずにやけに納得する。ルーミアらしい、とほとんどあきらめてしまっているのだ。そして、時間が少ないことも悟る。最近、一人でいられる時間が少ないとルーミアは嘆いていた。
「でも、化け物がいないのよ」
「ふぅん、怒らないのね。そんな成長を祝って一つ教えてあげると、化け物がいないのは当たり前ね」
まるで理由を知っているかのようにルーミアは断言する。
「なにを知ってるのよ?」
めんどくさそうにルーミアは大あくびをする。
「そいつは自分の正体が暴かれないと出てこない性質なのよ」
「わけがわからないわ」
ぼとん、と足を床に落とし、うつ伏せになったルーミアは二枚のクッションを下に敷いたまま床を這いずりだす。その姿はしゃくとりむしのようだった。そして、彼女はテーブルの下まで移動する。
「あなたは知らなかったわね」
ルーミアは恨めしそうにテーブルの上の方を睨んだ。
「教えてあげるから、テーブルの上にあるアメを取って」
自分で取れと言ってやりたがったが、情報には代えられない。
テーブルの上にあったイチゴアメを取って、ルーミアに渡す。それを受け取ったルーミアは満足気に包装を開けた。
「迷いの竹林には、兎の住処があってね、そこには兎と、彼女が師と仰ぐ月の賢者が住んでるの。他にも居るけど、今は関係ないから省略しとくわ。いや、あと一匹関係あるのが、悪戯好きの兎ね。まぁとにかく、彼女の師は、どんな薬でも作り出すことができるの。そして兎は師を尊敬すると同時にとても恐れてるわ。怒られるのをね」
手に持った毒々しいほど赤いアメをルーミアは口に放り込む。
「どう? この関係、フランは知らなかったでしょう?」
たしかに知らない。だが、これは化け物の事件だ。この事件に関係があるとは思えなかった。それでもルーミアがフランに話すのは、この事件に関係があるということ。
「というより、ルーミア、あなたこの事件の核心をもう知ってるんじゃない?」
「まさか」
ごりごりとアメを噛み砕き、ルーミアの喉がごくんとアメの破片を飲み込んだ。
「そんなわけないじゃない」
嘘だ。
直感的に、フランはそう感じた。だが、根拠がない。そんな状況でルーミアに答えを迫っても煙に巻かれるだけだろう。
「この答えがわかったら、明日はフランとして人里に行きなさい」
フランの不意を打つような言葉だった。なぜ急にルーミアから戻って良いなどと許可を出すのか。
「え……でも」
上手く動揺が隠せなかった。
「なに? いいじゃない。ようやくルーミアから離れられるんだから」
「そうだけど……」
フランの心情を見透かした、非常に嫌な笑みをルーミアは浮かべていた。
一晩、唸り続けた。そしてフランは、化け物の正体を一応推測するに至る。だが、不安要素がある。
赤い服とスカートを着て、一房の髪を束ねる。フランドール・スカーレットとして、人里に向かった。最終的な目的地は迷いの森だ。だが、その前に兎に会っておきたい。
化け物の正体を聞いておきたかった。
緊縛されているような感覚を味わいながら、フランは人里の大通りを歩く。高く上がった太陽を遮る日傘をくるくる回しても気分は晴れない。七色の翼に視線が集まるのを感じながらも、フランは人間の視線を無感動に受け止める。
あぁ、つまらない。
その人間の中で、人ならざる者がフランの目に止まった。出会った時と同じように、薬屋から出てきた兎。兎、鈴仙にフランは駆け寄った。彼女ははじめはおどろいていたが、私が依頼を受けたルーミアだと言ったら、七色の翼を見て納得してくれた。
そして、その場でフランは話し始める。
「あなた、迷いの竹林に住んでいたの?」
「え、ああ、そうですけど……」
「もしかしてさ、あなた、化け物の正体、知ってる?」
フランの言葉に、鈴仙は瞬きを何度かすると、押し黙ってしまった。赤い瞳が下を向く。
「ねぇ、顔上げなよ」
兎の耳を掴み上げる。フランは強引に視線を合わせた。赤い瞳を直視したために一瞬くらっとしたが、意外と大したことはない。
「あんたの師匠、どんな薬でも作れるみたいね。もしかして、服を溶かす薬なんて作ってないわよね」
瞳に動揺が走る。そこから確信を得た。化け物の能力の正体は、これだ。
「ただ、あなたやその師匠が化け物だとは思えない」
この兎の臆病な性格は本物だ。師匠に怒られるのがわかりきっていることをするとは思えない。そして、兎の師である輩は賢者などと呼ばれていた。そんなやつが興味本位で薬を作れど、それを使うとは考えがたい。それよりも、まず真っ先に考えるべきは、ルーミアが言っていたもう一匹の悪戯好きの兎だ。
「悪戯好きな兎が、やってるんでしょう? 今回の化け物の正体はその兎。しかもその兎とあなたは面識がある。薬の管理をあんたは任されてて悪戯兎に盗み出されたことが師匠にばれたら怒られる、ってとこでしょ。その悪戯兎の特徴を教えなさい。そんなに師匠とやらに怒られるのが怖いなら、私が秘密裏かつ迅速に始末してあげるから」
兎の瞳の赤が一瞬、濃くなった気がした。フランは強い眩暈を覚える。その隙に、鈴仙はフランの手をはたき、自由を得た。兎は青い空を仰ぐ。その瞳には、なぜか悲しみが宿っていた。
「てゐが犯人ですか。あなたも、だめだったんですね。ありがとうございます。もう、結構です」
てゐとは、おそらく悪戯兎の名前だろう。赤い瞳に、空の色が混じる。
「やっぱりこれは私が解決する問題だったんです。ご迷惑をおかけしました」
もう竹林には行かないでください。
兎はそう言った。
フランの推理は、おそらく正解だ。なのに兎は肯定しようとしない。それどころかフランを突き放した。それは困るのだ。解決しなければならない。しなくては……。
「なに言ってんのよ。推理はあってんでしょ。悪戯兎はとっちめてやるから、あなたは座って待ってなさい。依頼を途中で破棄されるのは、私が困るのよ。私はこの依頼を完遂しないといけないの!」
鈴仙の元から、フランは駆け出した。
「あっ……待ってください!」
鈴仙の制止を振り切り、フランは迷いの竹林に向けて羽を伸ばす。迷いの森にいる兎を片っ端から問い詰める。鈴仙とはまた違う視線を感じた気がしたが、フランは一切気にしなかった。フランは、鈴仙ではない兎が一匹、人里にいる可能性があることを忘れていた。
射命丸文は、生い茂る竹の合間から、一匹の吸血鬼を見ていた。赤いスカートを揺らしながら、必死に兎を探している。
ええ、ええ、てゐさんから聞いたとも聞いたとも。
にぃぃ、と文は肉食獣じみた笑みを浮かべる。フランは服を溶かす化け物の外皮を暴いた。今までの有象無象とまったく同じ答えを出したのだ。結局それだけ。
フランも含め、そいつらはその先を考えない。
自分なら化け物を倒せると、竹林にやってくる。その化け物は、所詮どこまで行っても服を溶かす薬を持っただけの兎だと。
愚か者愚か者。どうして先人がそれだけの兎を倒せなかったことを考えないのか。
すでに日は落ちかけていた。人間ならば、すでに暗さで平常心を忘れ恐怖におののく頃合だ。だけれど、流石は夜を生きる吸血鬼。その様子は一切ない。文はフランの行動を伺う。足元をやたら気にしているのがわかった。
ええ、ええ、そうですね。化け物は以前、下からあなたを食いましたからね。
けれど、あのずる賢い化け物が素直にまた下から襲ってくるとでも?
カコン――。
なんとも間の抜けた音が響いた。一塊の液体が、フランを頭から飲み込む。その液体は、瞬時にフランの服を犯していく。
ああ、また一人化け物の餌食に!
それからの文の行動は早かった。持ち前の機動力を活かし瞬時にフランの全体像が見える位置に移動する。なにが起きたのか理解できていない吸血鬼。日に一切焼かれていない透き通るような白い肌。透明な液体がその体をなまめかしく這う。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
狂喜し、がむしゃらにシャッターを切る。フラッシュが竹林に閃く。獲物は完全に捕らえた。文が写真を十枚以上撮ってからようやく、フランは自分になにが起きたのかを理解したようだった。両手で恥部を隠してももう遅い。
フランの視線は自分の体たらくと文のカメラを何度も行き来していた。
「犯人の片割れを当てたことは褒めてあげましょう」
写真を撮り終えた文は、勝利に酔っていた。
「ですが、そこで思考をやめたことがあなたの敗因です」
フランの肌がかすかに脈動する。行動の前兆。それを文は瞬時に制止する。
「おっと、『破壊の目』はやめてくださいね。あなたが動くより速く射程外に逃げますよ。あなたも、事件の全容が知りたいでしょう?」
脈動は止まり、フランはその赤い瞳を健気に文に向けていた。文の推測だが、『破壊の目』は、フランの認識に依存する。視界外の認識されないところに、文の『破壊の目』が掴まえられる前に逃げれば、問題ない。言葉にするだけなら簡単だが、それを行える者はそうそういない。そして文にはそれを行える自信があった。
これ以上、フランは動く気はなさそうだ。それに満足した文は語らいを始める。
「あなたはなぜ化け物が今まで倒されなかったのかを考えなかった。服を溶かす化け物。その正体は兎と薬です。ですが、それだけではあきらかに足りないんですよ。兎より強い者なんていくらでもいるし、服を溶かされる覚悟ができていれば、たとえ薬で服を溶かされたとしても、そのまま兎をぶっ飛ばすことは可能。兎と薬だけでは、化け物は抑止力を持たないんですよ」
文はあえてフランの方に歩みだした。皮をむかれた幼女は頬を染め羞恥に震えている。フランの一歩前に立ち、興奮を隠せないまま文は語らいを続ける。たとえフランの一歩前に居ようと、文は逃げ切る自信があった。幻想郷最速は伊達ではない。
「ならば、服を溶かす化け物の抑止力はなんだったのか。誰もが一番に思いつくのは、その裸体を晒すと脅すこと。そして幻想郷においてその手段を持つのは、新聞記者です。少し考えればわかるのに、兎と薬という答えに踊らされ、あなたはやってきた。そして今までの有象無象と同じく、結末はこれです。化け物の真の恐ろしさは、晒される恐怖にあったんですよ」
自分の正体をさらし終え、文は愉悦に浸る。元々はネタ探しからはじめたことだが、いつの間にかやってくる愚か者を討伐し、化け物としての正体を晒すことに快感を覚えていた。
「私の裸の写真……ばらまくの?」
蚊が飛ぶような小さな声でフランがつぶやいた。
「あなたがはじめに依頼を受けた優曇華さんに、いや、今までの敗北者に言ったことと同じことを言わせてもらいますよ。あなたが化け物の正体をばらさない限りは、ばら撒くようなことはしません。優曇華さんのように他の方に正体を言わずに化け物討伐を依頼されるのは結構です」
敗者が新たな生贄を自動的に捧げてくれるシステムの出来上がりだ。
フランが下を向く。その肩は震えていた。
「正体をばらさない限り、けっして不埒な写真はばらまきません」
今回は吸血鬼。獲物が大きいほど支配したときの喜びは大きい。捕らえた獲物を、文は見下ろしていた。やはり吸血鬼の肌は別格だ。容姿は幼いくせに、その妖艶さは群を抜いている。そのギャップがたまらない。
文が猟師、フランが獲物。この絶対的な立場が決定的になった。
そう、これが支配する快感。勝者こそ得られる物。
そのはずだった――。
「どうしてよッッ!?」
不意にフランが顔を上げる。
「どうして今すぐに写真をばらまいてくれないのよッッ!」
「は?」
虚を突かれた。一瞬に動ける範囲が大きいだけに、その虚は文にとって大きかった。フランの手が文の肩を掴む。しまった、と思うがフランの行動は文の思ったものとは違っていた。
「ねぇ、はやく私の写真をまいてよぅ! ねぇ? あなた新聞記者でしょう? ねぇ? ねぇ? ねぇ!? 私、私ね、人里を歩いてるとき、思ったの。裸で歩いててね! 裸で注目を浴びるのが、こんなに気持ちが良い物なのかって! だから、だからね!」
赤い瞳は熱したチーズのようにとろけていた。明確な狂気をはらんでいる。フランの頬は紅潮し、唇からは薬の残りが滴っていた。
文は理屈抜きに確信する。
フランは心底、自分の裸の写真が撒かれることを望んでいる。
「早く私の写真をまいてよ」
「ひっ!?」
演技ではない悲鳴が文の口から漏れた。肩の骨が砕けそうになるほど痛い。
なぜだかわからない。だが、いつの間にか食う側と食われる側が逆転していた。
いや、実はわかっている。フランにとって、化け物の恐怖の真髄は、ただの快感でしかないのだ。
それを文が理解すると同時に、竹林に夜が訪れた。ただの夜ではない。宵闇に辺りが包まれる。
「こんばんは。化け物の正体、新聞記者の文さん」
妖怪の文ですら一寸先が見えない闇の中、歌うような声が響く。
あきらかに自然のものではない闇。声。それらの特徴から、文は記者としての記憶を総動員し該当する妖怪を導き出す。宵闇妖怪のルーミアだ。
「ッッなんの用ですかねぇ!」
気丈に声を張ったが、肩の痛みに悲鳴を上げそうになる。目の前のフランは、まだ文の肩を離さず、急に暗くなったまわりを伺っているようだった。
今回、フランはルーミアからの依頼で動いていることを、文は知っていた。ただ、それはとてもどうでもいいことだった。誰が化け物に食われるかの違いだから。
「化け物狩りの準備に来ただけよ。狩るのはフランだけどね」
声は上から下から左から右から、全方位から響いてくるようだった。文に唯一方向を明示してくれるのは、目の前のフランの荒い吐息だけ。
「まぁ、言ってしまえば調教の成果の確認も兼ねてるかしらね」
「調教って……」
「私がフランにルーミアの姿をさせて調査させてたでしょう? あなた、どうせルーミアとして調査して欲しいから、くらいにしか考えなかったわよね。あれには一応意味があったのよ。フランが露出狂になるよう調教するってね。大衆の前で自分の裸を晒す快感に目覚めさせる為」
上機嫌にルーミアは鼻歌を挟む。それが文の頭に狂気的に響く。
「あのワンピースは私の闇よ。私の闇は太陽の光すら遮る。服の代わりに見せかけることもできる。通気性はすばらしいものよ。裸同然」
――だって、闇だもの。
くすくすとルーミアは笑う。
「そしてフランには下になにも着せなかったし、履かせなかったわ。実質丸裸の状態で、私はフランに毎日人里に行かせ、化け物の調査をさせたのよ」
がさがさとルーミアが移動するのがわかった。
「もともと狂気に染まりやすい素質があったからね。しかも天狗を倒せる強さも持ってる。化け物の本当の能力を無効化でき、かつ化け物の力を上回る者。今回の化け物を殺すには、これほど良い素材はいなかったわ。私は残念ながら弱いからね。まぁそのおかげでどうして私より強い人妖が、この化け物に返り討ちにされてるのか、ちゃんと考えたんだけどね。あなたが関わってるのに気付けたの。そう思い当たったとこに、ちょうど良くフランが私の家に転がり込んできたから、利用させてもらったわ」
ルーミアの声が遠のいていく。けれど、ルーミアの言葉は文を縛る。全身金縛りにかかってしまったかのように動かなかった。
「で、ね。最後よ。フラン、文をぼこぼこにしなさい。もう二度と変な写真をばらまきたくないと思うくらいに、ね」
「どうして、それじゃだめじゃない! ぜんぜん気持ちよくない!」
「ねぇ、フラン。私の闇を纏って、人里を歩いて直接視線を浴びるのと、自分が感じられないところで写真を見られるの、どっちが気持ちいいと思ってるの?」
文は敗北を確信する。
狂気に染まった吸血鬼は欲望に純粋だった。
宵闇が薄れ、フランの顔が見えたとき、そのとろけた瞳は文を獲物としてしか捕らえていなかった。
フー、フーッッ。
鼻息を荒げ、フランはルーミアを睨んでいた。事件は無事解決した。無事、文をぼこぼこにし、フランは裸体の爽快感を味わいながら深夜の空を飛び、ルーミアの家に帰った。そして、我に返って赤面した。
なんてことをしてしまったんだ!
同時にルーミアに強い怒りを覚えた。当のルーミアはまた例のソファの上で怠惰をむさぼっている。服を溶かされたため、フランはバスタオルを無断で借り、体に巻いていた。
「まぁまぁ、そんなに怒らない怒らない」
「これが怒らずにッッ!」
それから言葉が続かなかった。はじめは強制だが、途中から自分も、あの奇行を楽しんでしまっていたのだ。なんとも言えない開放感に、フランは魅入られていた。495年閉じ込められていた束縛感の反動なのだろうか。
これからどうしたら良いんだ。
怒りを悩みが上回る。
それほどにあの快感は、強く、魅力的。
「そんなに裸で歩き回るのが快感だった?」
フランの心を見透かしたルーミアが笑う。とっさに否を唱えれなかったのはフランの失態だ。
「どうして、くれんのよ!」
せめても開き直り、言葉を振りまく。化け物を殺す為に必要だったとは言え、もともとはルーミアのせいでフランは少しおかしなことになってしまったのだ。化け物を殺す為、この目的のためだけに多大な自己犠牲を容認できるほどフランの懐は大きくない。
「まぁ、責任の一端が私にあるのは認めるわ。それに、このまま帰したら、お姉たまに八つ裂きにされそうだしね」
「全部あんたのせいよ!」
めんどくさそうにルーミアはソファの裏をまさぐった。
「だから、これを着て人里を歩きなさい」
緋色が目を焼く。ソファの裏から取り出したそれを、ルーミアは床に置く。
「それは……」
「お姉たまと同じドレスよ。特注で作ってもらったわ」
やわらかそうな生地に、上品な緋色が乗っている。見るからに上等なドレス。いつもお姉様が着ているものに間違いない。
「報酬はこれで十分でしょう?」
今度は純粋に嬉しかった。ただ、感情の切り替えがうまくいかず、フランはただ頷く。
「明日にでも、これを着て人里を歩きなさい。それで全ておしまい。私の義務もね。じゃ、まぁとっとと私の家から出て行くことね」
言いたいことは全部言ってしまったようで、ルーミアはソファの腕かけに頭を預け、目を閉じてしまった。そして、それを妨げることがどうしてもフランにはできなかった。
晴天の下、新品のドレスを着てフランは人里を歩く。
人々が足を止め、羨望の眼差しをフランに向けていた。日傘が上機嫌にくるくる回る。フランは自慢げに緋色のドレスを揺らした。
羨望の眼差しで得る快感は、裸の比ではなかった。
ルーミアの狡猾さがイイ!!
素晴らしい作品をありがとうございました
狂気のようなギャグのような不思議空気ににやにやするしかありませんでした。
で、最後のドレスってやっぱり・・・
この天狗とさいてーw
ルーミアは文の脅し対策でフランを調教したと言う事?
魔理沙も餌食になってたから、文の始末を依頼してきてたのか
しかし色々な意味で恐ろしい話だ
>そして、我に返って赤面した。
>なんてことをしてしまったんだ!
そんなフランちゃんも可愛いよ
開発されたフランといい、あひゃひゃひゃの文といい、Sなルーミアといい……
ええい、100点おいときます。
というか、シリアスで落ち着いた雰囲気なのに変態だらけじゃないですかー!ヒャッハー!
フランドールやルーミアなど皆の性格も良かったです
全体的に読みやすく面白い良作でした
だとしたら筋金入りの変態だな