――0――
魔法の森の最奥、霧の湖を越えた先。
吸血鬼の棲まう真紅の館の妖怪たちは、常と違って重い空気に包まれていた。
「最近、咲夜の様子がおかしい」
始めに言葉を発したのは、レミリアだ。
紅魔館地下の大図書館。長机の上座で重々しくそう言い放つ。
「なんか、急に食べなくなっちゃったんだよね、咲夜。前はご飯三杯はおかわりしてたのに」
フランドールが、戸惑いを滲ませた声で心配そうに言う。するとそれに追従するように、美鈴も口を開いた。
「最近、能力の使用を避けているようなんです。空を飛ぼうとすらしていません」
美鈴の言葉を受けて、普段は自分から動かないパチュリーも、促されるわけでもないのに続く。
「お腹を撫でていたわ……切なさそうに、ね」
「そういえば、咲夜さんのお腹――少し、大きくなってなかったですか?」
決定的な一言。
更に続いた小悪魔の言葉で、大図書館はしんと静まりかえった。
「もう、目を逸らすことは出来ないようね」
レミリアは重く、重くそう言うとふらりと立ち上がる。
そして誰もが認めたくないと、困惑する言葉を言った。
「十六夜咲夜は――妊娠している」
そう、最早揺るぎない事実であろう言葉を。
Episode:Question 十六夜咲夜の秘密の“H”
――1――
しんと静まりかえった大図書館の中。
誰もが俯き何も言えずにいたが、ついに、パチュリー口を開く。
「問題は、相手は誰か、ね」
そう、相手だ。
妊娠は一人では出来ない。コウノトリが赤ちゃんを運んできてキャベツ畑が云々と言えるほど若いモノは、この場にはただひとりとしていなかった。色々と幼いフランドールででさえ、人間の生殖機能の勉強はとっくに終えている。
「そういえば里の八百屋、妙に馴れ馴れしいって言っていたわね、咲夜」
「人里の古本屋が安く売ってくれたといってエノク書を買ってきたことがあるわ」
「そもそも咲夜と一番仲良いのって誰?」
「妹様、そういえば咲夜さん、夜な夜な美鈴さんの部屋にいってませんでしたっけ?」
視線が、美鈴に集まる。
その余りにも冷たい眼に、美鈴は椅子ごと思い切り下がると、ぶんぶんと激しく首を横に振った。
「ちちちち、違いますよ! 第一、女同士じゃないですか!」
「未だに種族不明の妖怪の性別なんか知らないわよ」
「だだだだ、だから、違いますってば! パチュリー様!」
「めーりんさんサイテーです。責任くらい取りましょうよ」
「コアちゃん!? 夜な夜な行ってるのはただのマッサージですよ?!」
「美鈴……」
「フランドール様まで!? ちちち、違いますってばーっ!!」
口々に囃し立てる中、レミリアはパンパンと手を叩いて自分に注目を集めさせる。
「まぁ、そうは言っても、出来てしまったものはしょうがないわよ。だったら今は、犯人ッ……ん、ん、犯人捜しよりも大事なことがあるでしょう?」
「お嬢様……」
美鈴は矛先がそれたことにほっと胸を撫で下ろしながら、レミリアの言葉に耳を傾ける。
「如何に咲夜の負担にならないように……咲夜が安心して子供を産めるように、気を配ってあげるか、よ」
『!』
言われて見ればそうだ、と、先程まで犯人捜しに熱中していたパチュリーたちも口を噤む。言ってしまえば、犯人は誰かなど関係ないのだ。
「紅魔館はこれより、“咲夜の負担を如何に減らすか?”に重点を置き動き始めるわ。みんな、異論はないわね?」
『はい(うん)!!』
方針は決まった。
思うところはあれど、それで咲夜の心労を増やすわけにはいかない。みんな、咲夜のことが好きなのだ。咲夜のことが好きで、大切だからこそ、いざという時は助けようとする。
そんな、紅魔館というひとつの“家族”の、単純明快な行動原理。
「ではここに、紅魔館第四百十五回首脳会議を終えるわ。各自、解散!」
やることは山積みだ。
解散する面々を眺めながら、レミリアもまた自分自身に言葉を投げかける。
(とりあえず……偏食、なくそうかなぁ)
――と、苦笑を滲ませて。
――2――
美鈴の朝は早い。
誰よりも早く起き出して、庭園の世話をし、鍛錬をしてから門番メイドに声をかけて夜勤組と交代させてから門に着く。
館の住民たちに比べて、美鈴はあまり咲夜の手を患わせるような場面はない。ただ、一つを除いて。
「はぁ、どうするかなぁ」
「なにが?」
「いえ、どうやって咲夜さんに咲夜さんっ?!」
「私に私が、え? なに?」
「ななな、なんでもないですよ?」
「なんで疑問系なのよ。変な美鈴ね」
急に背後に現れた咲夜に、美鈴は冷や汗を流す。
だが直ぐに気を取り直すと、何気なく、咲夜のお腹に目を遣った。僅かに、ほんの僅かに膨らんだお腹。もう、芽生えて三ヶ月か二ヶ月か、いずれにしても初期状態だろう。
悩ましげにお腹に手を当てて息を吐く姿に、美鈴は、僅かだが寂しさを覚えた。
「咲夜さんも、大人になるんですね」
「あら? 私はまだまだ子供だとでも言いたいの?」
「そんなことないですよ。――大人に、なったんですねぇ」
思えば、まだ幼かった咲夜に最初にメイドの仕事を仕込んだのは、美鈴だった。あのちまちまと動いていた幼い少女は、今、母になろうとしている。
きっと老いて、旅立ってしまうまで、あっという間に終わってしまうことだろう。
「咲夜さん」
「なによ? 改まって」
「一日一日を、大事にしましょうね」
「……わかってるわよ。耳に痛いわね、もう」
何かと忙しなく動いている咲夜だ。
身重のみとして感じうるモノがあったのだろう。バツが悪そうに顔を逸らす咲夜を見て、美鈴は朗らかに笑った。
「さて――私もいい加減、怠けるのはやめなきゃなぁ」
「怠けてそれなの? 美鈴」
「あはは、耳に痛い、です」
「ふーん、そう」
咲夜の言葉を背に受けながら、美鈴は霧の湖に瞳を向ける。まずは自分が、咲夜の手を患わせる要因をなくそうと、氷精を蹴散らして滑空してくる見知った顔を眺めた。
「魔理沙ね。ねぇ美鈴、偶には私にも運動させて――」
「大丈夫です」
「――え?」
「見ていて、下さい」
私が貴女“も”守れると言うことを。
美鈴は声に出さずにそう誓うと、ふわりと浮き上がる。
するともう、射程圏内に高速で飛び込んできた魔理沙が八卦炉片手に不敵な笑みをみせていた。
「今日もとおらせて貰うぜーッ!!」
「今日は、いえ、今日“から”はここで通行止めです」
「言ってろ! 魔符【スターダストレヴァリエ】!!」
飛来してくる無数の星屑を、美鈴はただ正面から迎え撃つ。
虹色の気を纏う太極拳で総てかき混ぜ、吸収し、打ち散らした。
「っと、いつになくやる気じゃねーか」
「やる気が出たんですよ」
「ま、どうでも良いがな。やる気が出たところで、実力差は変わらん!」
「ええ、そうですね。地力の差は何も変わらないと、思い知らせてあげましょう」
魔理沙はぴんっと人差し指で帽子を弾くと、不敵に笑って八卦炉を突き出す。
「それは、私のスペルを乗り越えてからいいな!! 恋心――」
美鈴は、考える。
もしも、魔理沙の一撃を耐え切れねばどうなるか。
もしも、魔理沙のスペルが紅魔館に届いてしまったらどうなるか。
もしも、そのスペルの余波が咲夜に当たり、悪影響を及ぼしてしまったら。
「護るとは、そういうこと。護るとは、破られないということ。彩華――」
美鈴は、心配そうに見上げる咲夜にただ一度だけ振り向く。ここからでは咲夜の声は聞こえない。けれど咲夜の唇が己を鼓舞するように動いたような気がして、美鈴は咲夜に微笑んだ。
「――【ダブル……スパーク】!!」
「――【虹色太極拳】」
受ける?
だめだ。それは余波を与えると言うこと。ならばどうするか?
答えは、たった一つだけ。
「自分のスペルで、落ちなさい!」
魔理沙のスペルを、跳ね返す。
「なに、ばかな!?」
魔理沙が自分のスペルを跳ね返され、慌てて避ける。けれど箒から落ちかけて、慌てて箒にしがみついた。そしてその隙を逃す美鈴ではない。
「捕まえた……!」
「ぬあっ!?」
落ちかける魔理沙の顔をわしづかみにして、捕獲完了。
彼女には窃盗に備品破壊にと罪状が溜まりに溜まっているのだ。罰の一つでも与えてあげなければならないだろう。美鈴はそう考えながら、咲夜の前までゆっくりと降り立った。
「勝ちましたよ、咲夜さん」
「美鈴……貴女」
「痛い痛い痛い! 美鈴、緩めろ! しぬ! しぬ!」
美鈴は咲夜に、そっと笑いかける。すると咲夜は、呆然と美鈴を見た。
「もう。今まで手を抜いていたの?」
「あはは、そういう訳じゃないんですけどね。平和すぎて、覚悟が緩んでいたようです」
「握力緩めてまじで! 出ちゃうっ、中身出ちゃうから!」
美鈴の言葉に、咲夜もまた苦笑する。
根負けか、諦めか、どことなく悔しそうな気配すらして、美鈴は負けず嫌いな咲夜の様子に頬を掻いた。
「あーあ、もう、運動する機会へっちゃったじゃない」
「あはは、ごめんなさい。でも自分の身体は大切にしなきゃ、だめですよ?」
「わかってるわよ。今まで大事に育てすぎたくらいなんだから」
「あ、あああ、でちゃう、でちゃうよ」
咲夜は拗ねたようにそう言うと、それから、美鈴――ではなく、その手の先を見た。
「ところで、あの、それ、そろそろ良いんじゃない?」
「え? あっ! 忘れてた! ごごご、ごめん魔理沙! 大丈夫?!」
「ほしが、ちかちか、ああアリスいまいくよ……」
「ちょっ、しっかり、気を確かに!」
口から魂を出しながら虚空に手を伸ばす魔理沙。
必死に揺さぶる美鈴。
その様子を眺める咲夜から、どこか観念したかのような気配を感じて、美鈴はもう一度だけ微笑んだ。
――3――
紅魔館地下に広がる大図書館で、パチュリーは頭を捻っていた。
咲夜の負担にならないようにしてみようといっても、雑事の大半は小悪魔任せでパチュリーはそれほど咲夜を頼っていない。
ならば小憎たらしい人間の魔法使いでも捕まえてやろうかと意気込めば、美鈴が捕縛してしまったようで、これまた仕事が無くなった。
「どうするべきかね? 小悪魔」
「はぁ……そうですねぇ……では逆に、頼られるようにしたらよろしいのでは?」
小悪魔に言われて考える。
類い希なる知識と、並ぶ者の無い偉大な魔導。その知恵と経験があれば咲夜が今後新しい命を育むときに大いなる栄養になるのではないか。
「そうね……なら今の内に、引き出しを増やしておこうかしら。小悪魔」
「はいっ。では関連書籍、持って来ますねっ」
小悪魔がふわりと飛び上がり、史書妖精に指示を出す。
するとあっという間に、子育てに関する書物が集まった。
「さて、小悪魔。あなたも一緒に読みなさい」
「はいっ!」
小悪魔と並んで、子育てや出産に関わる本を読みあさる。
産まれるまでのフォローは、美鈴やレミリアに任せればいいだろう。なら自分たちは、産まれてからのフォローをしよう。そう勉強をしていくパチュリーと小悪魔の瞳は優しげだ。
そうしてどのくらい時間が経った頃か。パチュリーがふと気配を感じて顔を上げると、目の前に温かい紅茶が置かれていた。
「お二人で熱心に、なんの本を読まれているのですか?」
「ふふ、将来のための本、かしら。ね? 小悪魔」
「ええそうです。明るい未来計画というやつですよ。咲夜さん」
咲夜はパチュリーたちの言葉に興味を持つと、表紙を軽く覗き込んだ。すると少しだけ咲夜が時間を止める能力を使った時の気配がして、パチュリーは首を傾げる。
(……何故? って、ああそうか。目の前で読まれていたら、流石の咲夜でも照れ隠しくらいしたくなるわよね)
パチュリーは咲夜が能力を使った理由に思い至ると、思わずくすりと笑ってしまう。
きっと咲夜は時間を止めて照れていたのだろう。弱みをみせたくない咲夜らしい能力の使い方だ。
「そうですか……。では、紅茶のお代わりでも」
そうはいっても、まだ照れが残っていたのだろう。
咲夜はうっかりと積み重なった本を崩してしまう。時を止めることも忘れて慌てて手を伸ばす咲夜に対して、けれどパチュリーは待ったをかけた。
「いいわ」
「ぱ、パチュリー様?」
パチュリーは声をかけて、本の束をひょいと持ち上げる。そこそこの重さはあるが、こっそりと強化すれば十分片手で持ち上げられるレベルだ。
手を患わせない。それは、余計な心配を掛けないということ。パチュリーは心配はいらないということをみせるためにも、余裕いっぱいに微笑んでみせた。
「私だって持てるように鍛えているのよ? まだまだ、咲夜には負けないわ」
「そう、でしたか……」
困ったような顔をする咲夜に、小悪魔と二人で揃って微笑む。その笑顔に咲夜は苦笑を一つ零すと、改めて紅茶を入れ直し、席を立った。
――そんな咲夜の後ろ姿を見送って、パチュリーは小さく笑う。
「ちまちまと働いていた咲夜が、もう、大人の女性になっていくのね」
「人間の成長は、早いですからね」
「早いからこそ、その一瞬一瞬は鮮明にしなければならない。そうよね? 小悪魔」
「はい、もちろんです。パチュリー様」
二人で笑い合うと、また、読書に戻る。
この日々がかけがえのないモノになるようにと願いを込めて、知識の魔女は日向のような温かな笑みを浮かべながら、文字を追っていくのだった。
――4――
人形を片手に持ち上げて、フランドールは考える。
少し握り込めば、中の綿が飛び出して、首はころりと落ちてしまう。
少し気持ちが昂ぶれば、能力が発動して、四肢が飛び散り壊れてしまう。
少し自分が妖怪としての力を揮えば、脆く弱いイキモノは、欠片も残らず滅びてしまう。
人形を両手に持ち上げて、フランドールは考える。
部屋に戻る前に姉に言われた、小さな小さな一言を。
『咲夜の子供は、咲夜よりずっと脆いわ。人間の子供でも殺してしまえるほどに、ね』
言われた一言を思いだして、繰り返し口の中で反芻する。
人間の子供など、石を投げただけで死んでしまう脆弱代表のようなイキモノだ、とフランドールは本などで知っている。知っているからこそ、戸惑う。
そんな弱いイキモノが、強くて壊れない咲夜から産まれてくるなど到底信じられない。けれど他ならぬ姉がそういうのであれば、それは真実なのだろう。
それならば、どうすればいいのか。
人形を両手で恐る恐る抱き締めて、フランドールは考える。
「妹様、おやつの時間ですよ」
そんなフランドールの思考を遮ったのは、控えめで規則正しいノックの音だった。
「妹様? どうされました?」
「ねぇ、咲夜」
言うべきことが思い浮かばなくて、戸惑う。
けれど呼んでしまった以上はなにか言わなくてはと逡巡し、やがて、咲夜のお腹に目を遣った。
「――お腹、触ってみても良い?」
「――――――――――えっ……?」
逡巡の後、返ってきたのは疑問の声だった。
突然、そんなことを言われれば困惑することだろう。けれどそれでも、フランドールは一度抱いてしまった思いを捨てることが出来なかった。
「だめ、かな?」
「えっと、そうですね、うーん……」
フランドールは、逡巡する咲夜をじっと見つめる。
何故、そんなに迷っているのか。そう考えて――直ぐに、思い至る。
フランドールは、まだまだ力の制御が甘い。そんなフランドールに我が子をみせて、壊されてしまったら? そんな風に迷うのは、当たり前のことだ。
「だめ、だよね」
当たり前だ。
フランドールはそう、己の両手を見下ろす。
血に濡れた左手。血に塗れた右手。いつも、昂ぶりに任せて誰かを屠ってきた。許されないのは当たり前だ、と、フランドールは自嘲する。
けれど。
「――――――――いいえ、妹様」
「ぇ」
いつの間にかフランドールの側まで来ていた咲夜が、フランドールの“右手”を取って己の腹に当てた。フランドールは思わず離れようとするけれど、咲夜はむしろ強く当てさせ、そしてフランドールの頭をそのまま抱き締める。
すると柔らかな咲夜のお腹が、フランドールの耳にぴたりとついた。
「あったかい。鼓動は、聞こえないんだね」
「ええ、そこからでは響きませんわ」
「そっ、か」
熱を感じていると、いつも気持ちが昂ぶった。
熱とは血。血に魂が宿って駆け巡っているという証だ。自然と、吸血鬼の本能が鎌首を垂れる。
血を吸え。
血を吐かせ。
血をもたらせ。
血を流させて啜り壊してしまえ。
いつもとかわらないフレーズ。
何一つ変わらない、狂気の言葉。その言葉を心で受け止めて、フランドールは気持ちを昂ぶらせてなにもかもを鮮血に塗れさせてしまおうとその右手を――
『咲夜の子供は、咲夜よりずっと脆いわ』
『人間の子供でも殺してしまえるほどに、ね』
『だからフラン、貴女は咲夜の子供を、護ってあげなさい』
『力在るものとして力無きものを、護ってあげなさい』
『貴女にはそうし得るだけの力がある。護れるだけの力を持っているのよ、フラン』
――優しく、開いた。
咲夜のお腹をゆっくりと撫でて、熱を感じる。ここには幼い命があるのだと思うと、心が温かくなった。
「ねぇ、咲夜」
「なんでしょうか? 妹様」
「わたし、護れるひとになるよ」
「そう、ですか。畏まりました。不肖咲夜、全力でご支援させていただきます」
「うんっ。ありがとう――咲夜」
見上げた咲夜の顔は、満面の笑みだった。
その笑顔を見て嬉しくなると、フランドールもまた、柔らかな微笑みを返すのであった。
――5――
――紅魔館の最奥。
レミリアは、ステンドグラス越しに赤い月を眺めながら物思いに耽っていた。
普段は咲夜やメイドたちに淹れさせる紅茶を、珍しく自分で淹れる。まだ熱を持ったそれを口に含むと、アールグレイの香りが鼻孔を抜けて広がっていった。
「思えば、咲夜に紅茶の淹れ方を教えたのもこんな夜だったわね」
――咲夜とて、なにも最初から完璧に仕事が出来たわけではない。何もできない小さな子供を、紅魔館の住人たちでこぞって鍛え上げた。そんな中、レミリアが最初に教えた仕事が、紅茶の淹れかただったのだ。
紅茶を飲み干すと、見知った気配に瞑目する。目を開くと、湯気の立つ紅茶がティーカップにたっぷりと注がれていた。
「そうでしたか? 覚えていませんわ、お嬢様」
「ふふ、失敗ばかりしていたものね。忘れたいのも無理はない」
「……そんなことも、ありましたね」
いつも背後で微笑みを絶やさない、完璧で瀟洒な従者。
いつの間にか、新たな命を宿すほどに成長した可愛い従者。
「咲夜」
「いかがされました?」
「ちょっと、こっちに来て。そう、私の目の前」
頭の先からつま先まで、大きく成長した“かつての幼い少女”の姿を見る。それから、ゆっくりと視線を持ち上げ、わずかに大きくなったお腹を見た。
すると咲夜が思わずといった風に体を硬直させるものだから、その様子がおかしく思いレミリアは苦笑をこぼしてしまう。
(緊張している……子供を、守ろうとしているのね。本当に、大きくなったわね、咲夜)
レミリアはもう一度くすりと笑うと、どこか寂寥を感じさせる瞳で咲夜を見上げた。
「お腹、触ってもいいかしら?」
「…………………………妹様と、同じことをおっしゃるのですね」
「だめなの?」
「いいえ。咲夜は、覚悟を決めております」
「なによそれ。乱暴になんて、するはずないじゃない」
レミリアはそう言いながら、愛おしげに咲夜のお腹を撫でる。この中に、新しい命が宿っているのだ。
相変わらず、相手の男には腹立たしく思う気持ちが残っている。だがそれ以上に、レミリアは咲夜に幸せになって欲しかった。だから、咲夜のためにできることがあるのならなんでもしてみせよう。望むのならば運命だって手繰り寄せて見せよう。レミリアは、掌から伝わる熱にそう誓う。
「結婚は、望まないのかしら?」
「…………相手が、おりませんわ」
「本当に、いいの? 貴方が望むのなら、手を貸してもいいのよ?」
相手がいない。
そう言ってまで相手の男をかばう咲夜を見て、レミリアは内心、そこまで思われている男に淡い嫉妬心を抱く。けれど同時に切なそうにほほ笑む咲夜を見て、どうにかしてやりたいと強く思っていた。
「はい。それに、私の伴侶は仕事ですわ」
けれど、どこか吹っ切れたように笑う咲夜に、レミリアも微かに笑みを返しながら思いを閉じ込める。そこまで言うのならば、これ以上追及しようとは思えなかった。
「そう……そうまで言うのなら、もう言わない。ただし、幸せをあきらめることだけは、許さないわよ?」
「お嬢様に拾われて以来、不幸だと感じたことなどありませんわ」
「ふふ、そう、ならいいわ」
この話は、これで終わり。
そう言わんばかりに、新しい紅茶が注がれる。
「仕事に戻っていいわよ。ただし、無茶はしないこと。おとなしく仕事するのよ」
「お嬢様……………………極力、努力いたしますわ」
頭を下げて去って行った咲夜を見送ると、レミリアはまた、ステンドグラス越しに赤い月を見上げる。
身重でも律儀に仕事をしようとする姿に、さすがのレミリアでも苦笑を禁じ得ない。
「まったく、真面目なんだから」
そんな風に零しながらも、レミリアの顔に先ほどまでの憂いはない。
ただ、紅魔館で働く毎日を伴侶とまで言ってくれた咲夜のためにも、新たな命を歓迎する準備を整えよう。
レミリアはただ赤い月に、そう強く誓いを立てた。
――6――
レミリアが覚悟を決めてから、数日。
紅魔館は少しだけ変わった様子を見せていた。
鉄壁を誇る門番。
自分から動く魔法使い。
優しく力を行使する悪魔の妹。
紅茶を淹れるようになった、紅い吸血鬼。
咲夜の負担にならないよう、咲夜が健やかに新たな命を育めるようにみんなが協力していった結果、紅魔館の住人達はそれぞれが少しだけ、内面の成長を見せたのだ。
その結果を目の当たりにして、レミリアは満足げにほほ笑んでいた。
――そう、パチュリーが血相を変えて乗り込んでくるまでは。
「レミィ! レミィ、居る?」
「居るけれど、どうしたの? パチェ」
真っ青な顔。
空を飛ぶことも忘れて走ってきたのだろう。肩で息をするパチュリーを見て、レミリアは妖精メイドに人払いを命じる。
「最初は、気のせいだと思ったの」
日々経過を見ようと、咲夜のお腹を観察していたパチュリーは、だんだんと咲夜のお腹がへこんできているような錯覚に襲われ始めたのだという。
その違和感を訝しみながら、けれど些細な変化も見逃さないように注意を怠らなかった。けれど、違和感を勘違いだと思い込もうと観察をすればするほど違和感が大きくなっていく。
そうしてパチュリーはついに耐え切れなくなり、咲夜のお腹に手を伸ばし、そして――。
「まさか……」
「咲夜は、普段と変わらないように働いているわ。でも私には、普段よりもずっと明るい彼女の様子が、無理をしているようにしか思えないの……!」
なぜ、気が付けなかったのか。
なぜ、気が付いてやれなかったのか。
レミリアは自責の念を噛み殺すと、パチュリーを慰めるように背を撫でてやってから、紅魔館の自室を飛び出した。
真紅の廊下を抜け。
広大なホールを飛び。
荘厳と聳える玄関を潜り。
整然と手入れされた庭園を往く。
すると、紅魔館の裏手。
小さな花壇の前に、咲夜はいた。
「咲夜?」
「お嬢様? どうか、されましたか?」
咲夜は何も言わず、どこからか日傘を取り出す。
気化しかけていたことにすら気が付かなかった自分に、レミリアは自嘲した。けれどすぐに、まっすぐと咲夜を見る。
「なにか、隠していることはない?」
「ありませんよ?」
咲夜が抱えている事情を知る前だったら、すんなり信じていたであろう“なにも知らない”と言いたげな表情。
レミリアは余計な気を遣わせてしまっている自身に苛立ちながら、けれど顔には決して出さないように細心の注意を払いつつ、咲夜を抱きしめる。
「私はね、咲夜。主従である前に、あなたの家族だと思っているわ。パチェも美鈴もフランも小悪魔もみんなそう。紅魔館という、ひとつの家族」
「お嬢様……?」
「だから、自分だけで解決しようとしないで。嬉しかったことも悲しかったことも、本当に辛くてどうしようもないことも、私は聞きたい。家族のことを、聞いていたい」
悪魔、吸血鬼と恐れられなければならない時代は終わった。
教会からの追手はなく、適度に畏れられれば存在することはできるし、力も簡単に得られる世界に生きられるようになった。
だからこそ、とレミリアは思う。だからこそ、もう、甘くても良いのではないか、と。
「甘えなさい、咲夜。それとも、私じゃ不足かしら?」
不敵にそういうと、咲夜から流れていた空気が和らぐ。そしてそのまま、レミリアに体重を預けた。
そして、ゆっくりと、喋り出す。
「最近、仕事が少なくなって、なんとなく寂しくなってしまったのです」
「前は皆様、もっとのんびりとされていて走り回ってばかりだったのに、気が付けば自分のことは自分でされるようになられていました」
「運動できないから、気にしていたお腹周りだって増える一方だし、ダイエットも成功しないし」
「変に苛立って、でも誰かの手をそんなことで煩わせたくなくて、余った体力をダイエットに充てて痩せてみて」
「でも、状況は何も変わっていなくて」
咲夜はそこで一度切ると、膝を折ってレミリアと視線を合わせる。
「お嬢様、私は、必要ありませんか? お嬢様のお役に、立てていませんか?」
「そんなことないわ。でもあなたはいつも余計なものまで抱え込んでしまうから、少し休ませてあげたかっただけ」
「お嬢、様」
レミリアは、咲夜を抱きしめる。
落ち込んで、空元気になってしまった愛しい家族を。害悪から守るように抱きしめて――ふと、気が付いた。
「さ、咲夜」
「はい……なんでしょうか? お嬢様」
「貴方、さ……その、えと………………太った?」
レミリアの言葉に、咲夜は首をかしげる。それから、なにをいまさら、と言いたげに曖昧にほほ笑んだ。
「え、ええ、ですから先ほど申し上げたように、痩せたのですが……お嬢様?」
――言われてみれば、先ほど咲夜は言っている。
そう確かに、『気にしていたお腹周りだって増える一方』と、そう嘆いていた。
レミリアは、だらだらと流れる汗をごまかすようにかぶりを振る。そもそも事の発端は何だったか。全員の前で咲夜が妊娠しているなどと言い放ったのは――。
『もう、目を逸らす事は出来ないようね』
『十六夜咲夜は、妊娠している』
間違いなく、レミリアだった。
「咲夜」
「なんでしょうか?」
「私、みんなに謝らなければならないことがあるのよ」
「お嬢様が、ですか?」
「ええ、そう。だからお願い、一緒に謝ってくれないかしら?」
「他ならぬお嬢様のお願いでしたら、なんなりと」
自身満々にそう言い放つ咲夜の姿に、レミリアはどこか吹っ切れたように笑う。それから咲夜を引っ張ると、彼女の耳元で“謝らなければならないこと”を説明する。
「あのね、咲夜。実は――」
よく晴れた日。
今日も時間は騒がしくものんびりと過ぎていく。
そんな幻想郷の端っこで、一人の少女の叫び声が、青い空に響き渡った。
―了―
魔法の森の最奥、霧の湖を越えた先。
吸血鬼の棲まう真紅の館の妖怪たちは、常と違って重い空気に包まれていた。
「最近、咲夜の様子がおかしい」
始めに言葉を発したのは、レミリアだ。
紅魔館地下の大図書館。長机の上座で重々しくそう言い放つ。
「なんか、急に食べなくなっちゃったんだよね、咲夜。前はご飯三杯はおかわりしてたのに」
フランドールが、戸惑いを滲ませた声で心配そうに言う。するとそれに追従するように、美鈴も口を開いた。
「最近、能力の使用を避けているようなんです。空を飛ぼうとすらしていません」
美鈴の言葉を受けて、普段は自分から動かないパチュリーも、促されるわけでもないのに続く。
「お腹を撫でていたわ……切なさそうに、ね」
「そういえば、咲夜さんのお腹――少し、大きくなってなかったですか?」
決定的な一言。
更に続いた小悪魔の言葉で、大図書館はしんと静まりかえった。
「もう、目を逸らすことは出来ないようね」
レミリアは重く、重くそう言うとふらりと立ち上がる。
そして誰もが認めたくないと、困惑する言葉を言った。
「十六夜咲夜は――妊娠している」
そう、最早揺るぎない事実であろう言葉を。
Episode:Question 十六夜咲夜の秘密の“H”
――1――
しんと静まりかえった大図書館の中。
誰もが俯き何も言えずにいたが、ついに、パチュリー口を開く。
「問題は、相手は誰か、ね」
そう、相手だ。
妊娠は一人では出来ない。コウノトリが赤ちゃんを運んできてキャベツ畑が云々と言えるほど若いモノは、この場にはただひとりとしていなかった。色々と幼いフランドールででさえ、人間の生殖機能の勉強はとっくに終えている。
「そういえば里の八百屋、妙に馴れ馴れしいって言っていたわね、咲夜」
「人里の古本屋が安く売ってくれたといってエノク書を買ってきたことがあるわ」
「そもそも咲夜と一番仲良いのって誰?」
「妹様、そういえば咲夜さん、夜な夜な美鈴さんの部屋にいってませんでしたっけ?」
視線が、美鈴に集まる。
その余りにも冷たい眼に、美鈴は椅子ごと思い切り下がると、ぶんぶんと激しく首を横に振った。
「ちちちち、違いますよ! 第一、女同士じゃないですか!」
「未だに種族不明の妖怪の性別なんか知らないわよ」
「だだだだ、だから、違いますってば! パチュリー様!」
「めーりんさんサイテーです。責任くらい取りましょうよ」
「コアちゃん!? 夜な夜な行ってるのはただのマッサージですよ?!」
「美鈴……」
「フランドール様まで!? ちちち、違いますってばーっ!!」
口々に囃し立てる中、レミリアはパンパンと手を叩いて自分に注目を集めさせる。
「まぁ、そうは言っても、出来てしまったものはしょうがないわよ。だったら今は、犯人ッ……ん、ん、犯人捜しよりも大事なことがあるでしょう?」
「お嬢様……」
美鈴は矛先がそれたことにほっと胸を撫で下ろしながら、レミリアの言葉に耳を傾ける。
「如何に咲夜の負担にならないように……咲夜が安心して子供を産めるように、気を配ってあげるか、よ」
『!』
言われて見ればそうだ、と、先程まで犯人捜しに熱中していたパチュリーたちも口を噤む。言ってしまえば、犯人は誰かなど関係ないのだ。
「紅魔館はこれより、“咲夜の負担を如何に減らすか?”に重点を置き動き始めるわ。みんな、異論はないわね?」
『はい(うん)!!』
方針は決まった。
思うところはあれど、それで咲夜の心労を増やすわけにはいかない。みんな、咲夜のことが好きなのだ。咲夜のことが好きで、大切だからこそ、いざという時は助けようとする。
そんな、紅魔館というひとつの“家族”の、単純明快な行動原理。
「ではここに、紅魔館第四百十五回首脳会議を終えるわ。各自、解散!」
やることは山積みだ。
解散する面々を眺めながら、レミリアもまた自分自身に言葉を投げかける。
(とりあえず……偏食、なくそうかなぁ)
――と、苦笑を滲ませて。
――2――
美鈴の朝は早い。
誰よりも早く起き出して、庭園の世話をし、鍛錬をしてから門番メイドに声をかけて夜勤組と交代させてから門に着く。
館の住民たちに比べて、美鈴はあまり咲夜の手を患わせるような場面はない。ただ、一つを除いて。
「はぁ、どうするかなぁ」
「なにが?」
「いえ、どうやって咲夜さんに咲夜さんっ?!」
「私に私が、え? なに?」
「ななな、なんでもないですよ?」
「なんで疑問系なのよ。変な美鈴ね」
急に背後に現れた咲夜に、美鈴は冷や汗を流す。
だが直ぐに気を取り直すと、何気なく、咲夜のお腹に目を遣った。僅かに、ほんの僅かに膨らんだお腹。もう、芽生えて三ヶ月か二ヶ月か、いずれにしても初期状態だろう。
悩ましげにお腹に手を当てて息を吐く姿に、美鈴は、僅かだが寂しさを覚えた。
「咲夜さんも、大人になるんですね」
「あら? 私はまだまだ子供だとでも言いたいの?」
「そんなことないですよ。――大人に、なったんですねぇ」
思えば、まだ幼かった咲夜に最初にメイドの仕事を仕込んだのは、美鈴だった。あのちまちまと動いていた幼い少女は、今、母になろうとしている。
きっと老いて、旅立ってしまうまで、あっという間に終わってしまうことだろう。
「咲夜さん」
「なによ? 改まって」
「一日一日を、大事にしましょうね」
「……わかってるわよ。耳に痛いわね、もう」
何かと忙しなく動いている咲夜だ。
身重のみとして感じうるモノがあったのだろう。バツが悪そうに顔を逸らす咲夜を見て、美鈴は朗らかに笑った。
「さて――私もいい加減、怠けるのはやめなきゃなぁ」
「怠けてそれなの? 美鈴」
「あはは、耳に痛い、です」
「ふーん、そう」
咲夜の言葉を背に受けながら、美鈴は霧の湖に瞳を向ける。まずは自分が、咲夜の手を患わせる要因をなくそうと、氷精を蹴散らして滑空してくる見知った顔を眺めた。
「魔理沙ね。ねぇ美鈴、偶には私にも運動させて――」
「大丈夫です」
「――え?」
「見ていて、下さい」
私が貴女“も”守れると言うことを。
美鈴は声に出さずにそう誓うと、ふわりと浮き上がる。
するともう、射程圏内に高速で飛び込んできた魔理沙が八卦炉片手に不敵な笑みをみせていた。
「今日もとおらせて貰うぜーッ!!」
「今日は、いえ、今日“から”はここで通行止めです」
「言ってろ! 魔符【スターダストレヴァリエ】!!」
飛来してくる無数の星屑を、美鈴はただ正面から迎え撃つ。
虹色の気を纏う太極拳で総てかき混ぜ、吸収し、打ち散らした。
「っと、いつになくやる気じゃねーか」
「やる気が出たんですよ」
「ま、どうでも良いがな。やる気が出たところで、実力差は変わらん!」
「ええ、そうですね。地力の差は何も変わらないと、思い知らせてあげましょう」
魔理沙はぴんっと人差し指で帽子を弾くと、不敵に笑って八卦炉を突き出す。
「それは、私のスペルを乗り越えてからいいな!! 恋心――」
美鈴は、考える。
もしも、魔理沙の一撃を耐え切れねばどうなるか。
もしも、魔理沙のスペルが紅魔館に届いてしまったらどうなるか。
もしも、そのスペルの余波が咲夜に当たり、悪影響を及ぼしてしまったら。
「護るとは、そういうこと。護るとは、破られないということ。彩華――」
美鈴は、心配そうに見上げる咲夜にただ一度だけ振り向く。ここからでは咲夜の声は聞こえない。けれど咲夜の唇が己を鼓舞するように動いたような気がして、美鈴は咲夜に微笑んだ。
「――【ダブル……スパーク】!!」
「――【虹色太極拳】」
受ける?
だめだ。それは余波を与えると言うこと。ならばどうするか?
答えは、たった一つだけ。
「自分のスペルで、落ちなさい!」
魔理沙のスペルを、跳ね返す。
「なに、ばかな!?」
魔理沙が自分のスペルを跳ね返され、慌てて避ける。けれど箒から落ちかけて、慌てて箒にしがみついた。そしてその隙を逃す美鈴ではない。
「捕まえた……!」
「ぬあっ!?」
落ちかける魔理沙の顔をわしづかみにして、捕獲完了。
彼女には窃盗に備品破壊にと罪状が溜まりに溜まっているのだ。罰の一つでも与えてあげなければならないだろう。美鈴はそう考えながら、咲夜の前までゆっくりと降り立った。
「勝ちましたよ、咲夜さん」
「美鈴……貴女」
「痛い痛い痛い! 美鈴、緩めろ! しぬ! しぬ!」
美鈴は咲夜に、そっと笑いかける。すると咲夜は、呆然と美鈴を見た。
「もう。今まで手を抜いていたの?」
「あはは、そういう訳じゃないんですけどね。平和すぎて、覚悟が緩んでいたようです」
「握力緩めてまじで! 出ちゃうっ、中身出ちゃうから!」
美鈴の言葉に、咲夜もまた苦笑する。
根負けか、諦めか、どことなく悔しそうな気配すらして、美鈴は負けず嫌いな咲夜の様子に頬を掻いた。
「あーあ、もう、運動する機会へっちゃったじゃない」
「あはは、ごめんなさい。でも自分の身体は大切にしなきゃ、だめですよ?」
「わかってるわよ。今まで大事に育てすぎたくらいなんだから」
「あ、あああ、でちゃう、でちゃうよ」
咲夜は拗ねたようにそう言うと、それから、美鈴――ではなく、その手の先を見た。
「ところで、あの、それ、そろそろ良いんじゃない?」
「え? あっ! 忘れてた! ごごご、ごめん魔理沙! 大丈夫?!」
「ほしが、ちかちか、ああアリスいまいくよ……」
「ちょっ、しっかり、気を確かに!」
口から魂を出しながら虚空に手を伸ばす魔理沙。
必死に揺さぶる美鈴。
その様子を眺める咲夜から、どこか観念したかのような気配を感じて、美鈴はもう一度だけ微笑んだ。
――3――
紅魔館地下に広がる大図書館で、パチュリーは頭を捻っていた。
咲夜の負担にならないようにしてみようといっても、雑事の大半は小悪魔任せでパチュリーはそれほど咲夜を頼っていない。
ならば小憎たらしい人間の魔法使いでも捕まえてやろうかと意気込めば、美鈴が捕縛してしまったようで、これまた仕事が無くなった。
「どうするべきかね? 小悪魔」
「はぁ……そうですねぇ……では逆に、頼られるようにしたらよろしいのでは?」
小悪魔に言われて考える。
類い希なる知識と、並ぶ者の無い偉大な魔導。その知恵と経験があれば咲夜が今後新しい命を育むときに大いなる栄養になるのではないか。
「そうね……なら今の内に、引き出しを増やしておこうかしら。小悪魔」
「はいっ。では関連書籍、持って来ますねっ」
小悪魔がふわりと飛び上がり、史書妖精に指示を出す。
するとあっという間に、子育てに関する書物が集まった。
「さて、小悪魔。あなたも一緒に読みなさい」
「はいっ!」
小悪魔と並んで、子育てや出産に関わる本を読みあさる。
産まれるまでのフォローは、美鈴やレミリアに任せればいいだろう。なら自分たちは、産まれてからのフォローをしよう。そう勉強をしていくパチュリーと小悪魔の瞳は優しげだ。
そうしてどのくらい時間が経った頃か。パチュリーがふと気配を感じて顔を上げると、目の前に温かい紅茶が置かれていた。
「お二人で熱心に、なんの本を読まれているのですか?」
「ふふ、将来のための本、かしら。ね? 小悪魔」
「ええそうです。明るい未来計画というやつですよ。咲夜さん」
咲夜はパチュリーたちの言葉に興味を持つと、表紙を軽く覗き込んだ。すると少しだけ咲夜が時間を止める能力を使った時の気配がして、パチュリーは首を傾げる。
(……何故? って、ああそうか。目の前で読まれていたら、流石の咲夜でも照れ隠しくらいしたくなるわよね)
パチュリーは咲夜が能力を使った理由に思い至ると、思わずくすりと笑ってしまう。
きっと咲夜は時間を止めて照れていたのだろう。弱みをみせたくない咲夜らしい能力の使い方だ。
「そうですか……。では、紅茶のお代わりでも」
そうはいっても、まだ照れが残っていたのだろう。
咲夜はうっかりと積み重なった本を崩してしまう。時を止めることも忘れて慌てて手を伸ばす咲夜に対して、けれどパチュリーは待ったをかけた。
「いいわ」
「ぱ、パチュリー様?」
パチュリーは声をかけて、本の束をひょいと持ち上げる。そこそこの重さはあるが、こっそりと強化すれば十分片手で持ち上げられるレベルだ。
手を患わせない。それは、余計な心配を掛けないということ。パチュリーは心配はいらないということをみせるためにも、余裕いっぱいに微笑んでみせた。
「私だって持てるように鍛えているのよ? まだまだ、咲夜には負けないわ」
「そう、でしたか……」
困ったような顔をする咲夜に、小悪魔と二人で揃って微笑む。その笑顔に咲夜は苦笑を一つ零すと、改めて紅茶を入れ直し、席を立った。
――そんな咲夜の後ろ姿を見送って、パチュリーは小さく笑う。
「ちまちまと働いていた咲夜が、もう、大人の女性になっていくのね」
「人間の成長は、早いですからね」
「早いからこそ、その一瞬一瞬は鮮明にしなければならない。そうよね? 小悪魔」
「はい、もちろんです。パチュリー様」
二人で笑い合うと、また、読書に戻る。
この日々がかけがえのないモノになるようにと願いを込めて、知識の魔女は日向のような温かな笑みを浮かべながら、文字を追っていくのだった。
――4――
人形を片手に持ち上げて、フランドールは考える。
少し握り込めば、中の綿が飛び出して、首はころりと落ちてしまう。
少し気持ちが昂ぶれば、能力が発動して、四肢が飛び散り壊れてしまう。
少し自分が妖怪としての力を揮えば、脆く弱いイキモノは、欠片も残らず滅びてしまう。
人形を両手に持ち上げて、フランドールは考える。
部屋に戻る前に姉に言われた、小さな小さな一言を。
『咲夜の子供は、咲夜よりずっと脆いわ。人間の子供でも殺してしまえるほどに、ね』
言われた一言を思いだして、繰り返し口の中で反芻する。
人間の子供など、石を投げただけで死んでしまう脆弱代表のようなイキモノだ、とフランドールは本などで知っている。知っているからこそ、戸惑う。
そんな弱いイキモノが、強くて壊れない咲夜から産まれてくるなど到底信じられない。けれど他ならぬ姉がそういうのであれば、それは真実なのだろう。
それならば、どうすればいいのか。
人形を両手で恐る恐る抱き締めて、フランドールは考える。
「妹様、おやつの時間ですよ」
そんなフランドールの思考を遮ったのは、控えめで規則正しいノックの音だった。
「妹様? どうされました?」
「ねぇ、咲夜」
言うべきことが思い浮かばなくて、戸惑う。
けれど呼んでしまった以上はなにか言わなくてはと逡巡し、やがて、咲夜のお腹に目を遣った。
「――お腹、触ってみても良い?」
「――――――――――えっ……?」
逡巡の後、返ってきたのは疑問の声だった。
突然、そんなことを言われれば困惑することだろう。けれどそれでも、フランドールは一度抱いてしまった思いを捨てることが出来なかった。
「だめ、かな?」
「えっと、そうですね、うーん……」
フランドールは、逡巡する咲夜をじっと見つめる。
何故、そんなに迷っているのか。そう考えて――直ぐに、思い至る。
フランドールは、まだまだ力の制御が甘い。そんなフランドールに我が子をみせて、壊されてしまったら? そんな風に迷うのは、当たり前のことだ。
「だめ、だよね」
当たり前だ。
フランドールはそう、己の両手を見下ろす。
血に濡れた左手。血に塗れた右手。いつも、昂ぶりに任せて誰かを屠ってきた。許されないのは当たり前だ、と、フランドールは自嘲する。
けれど。
「――――――――いいえ、妹様」
「ぇ」
いつの間にかフランドールの側まで来ていた咲夜が、フランドールの“右手”を取って己の腹に当てた。フランドールは思わず離れようとするけれど、咲夜はむしろ強く当てさせ、そしてフランドールの頭をそのまま抱き締める。
すると柔らかな咲夜のお腹が、フランドールの耳にぴたりとついた。
「あったかい。鼓動は、聞こえないんだね」
「ええ、そこからでは響きませんわ」
「そっ、か」
熱を感じていると、いつも気持ちが昂ぶった。
熱とは血。血に魂が宿って駆け巡っているという証だ。自然と、吸血鬼の本能が鎌首を垂れる。
血を吸え。
血を吐かせ。
血をもたらせ。
血を流させて啜り壊してしまえ。
いつもとかわらないフレーズ。
何一つ変わらない、狂気の言葉。その言葉を心で受け止めて、フランドールは気持ちを昂ぶらせてなにもかもを鮮血に塗れさせてしまおうとその右手を――
『咲夜の子供は、咲夜よりずっと脆いわ』
『人間の子供でも殺してしまえるほどに、ね』
『だからフラン、貴女は咲夜の子供を、護ってあげなさい』
『力在るものとして力無きものを、護ってあげなさい』
『貴女にはそうし得るだけの力がある。護れるだけの力を持っているのよ、フラン』
――優しく、開いた。
咲夜のお腹をゆっくりと撫でて、熱を感じる。ここには幼い命があるのだと思うと、心が温かくなった。
「ねぇ、咲夜」
「なんでしょうか? 妹様」
「わたし、護れるひとになるよ」
「そう、ですか。畏まりました。不肖咲夜、全力でご支援させていただきます」
「うんっ。ありがとう――咲夜」
見上げた咲夜の顔は、満面の笑みだった。
その笑顔を見て嬉しくなると、フランドールもまた、柔らかな微笑みを返すのであった。
――5――
――紅魔館の最奥。
レミリアは、ステンドグラス越しに赤い月を眺めながら物思いに耽っていた。
普段は咲夜やメイドたちに淹れさせる紅茶を、珍しく自分で淹れる。まだ熱を持ったそれを口に含むと、アールグレイの香りが鼻孔を抜けて広がっていった。
「思えば、咲夜に紅茶の淹れ方を教えたのもこんな夜だったわね」
――咲夜とて、なにも最初から完璧に仕事が出来たわけではない。何もできない小さな子供を、紅魔館の住人たちでこぞって鍛え上げた。そんな中、レミリアが最初に教えた仕事が、紅茶の淹れかただったのだ。
紅茶を飲み干すと、見知った気配に瞑目する。目を開くと、湯気の立つ紅茶がティーカップにたっぷりと注がれていた。
「そうでしたか? 覚えていませんわ、お嬢様」
「ふふ、失敗ばかりしていたものね。忘れたいのも無理はない」
「……そんなことも、ありましたね」
いつも背後で微笑みを絶やさない、完璧で瀟洒な従者。
いつの間にか、新たな命を宿すほどに成長した可愛い従者。
「咲夜」
「いかがされました?」
「ちょっと、こっちに来て。そう、私の目の前」
頭の先からつま先まで、大きく成長した“かつての幼い少女”の姿を見る。それから、ゆっくりと視線を持ち上げ、わずかに大きくなったお腹を見た。
すると咲夜が思わずといった風に体を硬直させるものだから、その様子がおかしく思いレミリアは苦笑をこぼしてしまう。
(緊張している……子供を、守ろうとしているのね。本当に、大きくなったわね、咲夜)
レミリアはもう一度くすりと笑うと、どこか寂寥を感じさせる瞳で咲夜を見上げた。
「お腹、触ってもいいかしら?」
「…………………………妹様と、同じことをおっしゃるのですね」
「だめなの?」
「いいえ。咲夜は、覚悟を決めております」
「なによそれ。乱暴になんて、するはずないじゃない」
レミリアはそう言いながら、愛おしげに咲夜のお腹を撫でる。この中に、新しい命が宿っているのだ。
相変わらず、相手の男には腹立たしく思う気持ちが残っている。だがそれ以上に、レミリアは咲夜に幸せになって欲しかった。だから、咲夜のためにできることがあるのならなんでもしてみせよう。望むのならば運命だって手繰り寄せて見せよう。レミリアは、掌から伝わる熱にそう誓う。
「結婚は、望まないのかしら?」
「…………相手が、おりませんわ」
「本当に、いいの? 貴方が望むのなら、手を貸してもいいのよ?」
相手がいない。
そう言ってまで相手の男をかばう咲夜を見て、レミリアは内心、そこまで思われている男に淡い嫉妬心を抱く。けれど同時に切なそうにほほ笑む咲夜を見て、どうにかしてやりたいと強く思っていた。
「はい。それに、私の伴侶は仕事ですわ」
けれど、どこか吹っ切れたように笑う咲夜に、レミリアも微かに笑みを返しながら思いを閉じ込める。そこまで言うのならば、これ以上追及しようとは思えなかった。
「そう……そうまで言うのなら、もう言わない。ただし、幸せをあきらめることだけは、許さないわよ?」
「お嬢様に拾われて以来、不幸だと感じたことなどありませんわ」
「ふふ、そう、ならいいわ」
この話は、これで終わり。
そう言わんばかりに、新しい紅茶が注がれる。
「仕事に戻っていいわよ。ただし、無茶はしないこと。おとなしく仕事するのよ」
「お嬢様……………………極力、努力いたしますわ」
頭を下げて去って行った咲夜を見送ると、レミリアはまた、ステンドグラス越しに赤い月を見上げる。
身重でも律儀に仕事をしようとする姿に、さすがのレミリアでも苦笑を禁じ得ない。
「まったく、真面目なんだから」
そんな風に零しながらも、レミリアの顔に先ほどまでの憂いはない。
ただ、紅魔館で働く毎日を伴侶とまで言ってくれた咲夜のためにも、新たな命を歓迎する準備を整えよう。
レミリアはただ赤い月に、そう強く誓いを立てた。
――6――
レミリアが覚悟を決めてから、数日。
紅魔館は少しだけ変わった様子を見せていた。
鉄壁を誇る門番。
自分から動く魔法使い。
優しく力を行使する悪魔の妹。
紅茶を淹れるようになった、紅い吸血鬼。
咲夜の負担にならないよう、咲夜が健やかに新たな命を育めるようにみんなが協力していった結果、紅魔館の住人達はそれぞれが少しだけ、内面の成長を見せたのだ。
その結果を目の当たりにして、レミリアは満足げにほほ笑んでいた。
――そう、パチュリーが血相を変えて乗り込んでくるまでは。
「レミィ! レミィ、居る?」
「居るけれど、どうしたの? パチェ」
真っ青な顔。
空を飛ぶことも忘れて走ってきたのだろう。肩で息をするパチュリーを見て、レミリアは妖精メイドに人払いを命じる。
「最初は、気のせいだと思ったの」
日々経過を見ようと、咲夜のお腹を観察していたパチュリーは、だんだんと咲夜のお腹がへこんできているような錯覚に襲われ始めたのだという。
その違和感を訝しみながら、けれど些細な変化も見逃さないように注意を怠らなかった。けれど、違和感を勘違いだと思い込もうと観察をすればするほど違和感が大きくなっていく。
そうしてパチュリーはついに耐え切れなくなり、咲夜のお腹に手を伸ばし、そして――。
「まさか……」
「咲夜は、普段と変わらないように働いているわ。でも私には、普段よりもずっと明るい彼女の様子が、無理をしているようにしか思えないの……!」
なぜ、気が付けなかったのか。
なぜ、気が付いてやれなかったのか。
レミリアは自責の念を噛み殺すと、パチュリーを慰めるように背を撫でてやってから、紅魔館の自室を飛び出した。
真紅の廊下を抜け。
広大なホールを飛び。
荘厳と聳える玄関を潜り。
整然と手入れされた庭園を往く。
すると、紅魔館の裏手。
小さな花壇の前に、咲夜はいた。
「咲夜?」
「お嬢様? どうか、されましたか?」
咲夜は何も言わず、どこからか日傘を取り出す。
気化しかけていたことにすら気が付かなかった自分に、レミリアは自嘲した。けれどすぐに、まっすぐと咲夜を見る。
「なにか、隠していることはない?」
「ありませんよ?」
咲夜が抱えている事情を知る前だったら、すんなり信じていたであろう“なにも知らない”と言いたげな表情。
レミリアは余計な気を遣わせてしまっている自身に苛立ちながら、けれど顔には決して出さないように細心の注意を払いつつ、咲夜を抱きしめる。
「私はね、咲夜。主従である前に、あなたの家族だと思っているわ。パチェも美鈴もフランも小悪魔もみんなそう。紅魔館という、ひとつの家族」
「お嬢様……?」
「だから、自分だけで解決しようとしないで。嬉しかったことも悲しかったことも、本当に辛くてどうしようもないことも、私は聞きたい。家族のことを、聞いていたい」
悪魔、吸血鬼と恐れられなければならない時代は終わった。
教会からの追手はなく、適度に畏れられれば存在することはできるし、力も簡単に得られる世界に生きられるようになった。
だからこそ、とレミリアは思う。だからこそ、もう、甘くても良いのではないか、と。
「甘えなさい、咲夜。それとも、私じゃ不足かしら?」
不敵にそういうと、咲夜から流れていた空気が和らぐ。そしてそのまま、レミリアに体重を預けた。
そして、ゆっくりと、喋り出す。
「最近、仕事が少なくなって、なんとなく寂しくなってしまったのです」
「前は皆様、もっとのんびりとされていて走り回ってばかりだったのに、気が付けば自分のことは自分でされるようになられていました」
「運動できないから、気にしていたお腹周りだって増える一方だし、ダイエットも成功しないし」
「変に苛立って、でも誰かの手をそんなことで煩わせたくなくて、余った体力をダイエットに充てて痩せてみて」
「でも、状況は何も変わっていなくて」
咲夜はそこで一度切ると、膝を折ってレミリアと視線を合わせる。
「お嬢様、私は、必要ありませんか? お嬢様のお役に、立てていませんか?」
「そんなことないわ。でもあなたはいつも余計なものまで抱え込んでしまうから、少し休ませてあげたかっただけ」
「お嬢、様」
レミリアは、咲夜を抱きしめる。
落ち込んで、空元気になってしまった愛しい家族を。害悪から守るように抱きしめて――ふと、気が付いた。
「さ、咲夜」
「はい……なんでしょうか? お嬢様」
「貴方、さ……その、えと………………太った?」
レミリアの言葉に、咲夜は首をかしげる。それから、なにをいまさら、と言いたげに曖昧にほほ笑んだ。
「え、ええ、ですから先ほど申し上げたように、痩せたのですが……お嬢様?」
――言われてみれば、先ほど咲夜は言っている。
そう確かに、『気にしていたお腹周りだって増える一方』と、そう嘆いていた。
レミリアは、だらだらと流れる汗をごまかすようにかぶりを振る。そもそも事の発端は何だったか。全員の前で咲夜が妊娠しているなどと言い放ったのは――。
『もう、目を逸らす事は出来ないようね』
『十六夜咲夜は、妊娠している』
間違いなく、レミリアだった。
「咲夜」
「なんでしょうか?」
「私、みんなに謝らなければならないことがあるのよ」
「お嬢様が、ですか?」
「ええ、そう。だからお願い、一緒に謝ってくれないかしら?」
「他ならぬお嬢様のお願いでしたら、なんなりと」
自身満々にそう言い放つ咲夜の姿に、レミリアはどこか吹っ切れたように笑う。それから咲夜を引っ張ると、彼女の耳元で“謝らなければならないこと”を説明する。
「あのね、咲夜。実は――」
よく晴れた日。
今日も時間は騒がしくものんびりと過ぎていく。
そんな幻想郷の端っこで、一人の少女の叫び声が、青い空に響き渡った。
―了―
ちょっとベタだったかな、と。
面白かったです
仲睦まじく育児本を読むパチュこあを見て、咲夜はどんなリアクションをしたんだろう(ニッコリ
勘違いって誰でもあるよね・・・(しみじみ
さすがに、開幕5秒でオチが見えた点だけはマイナスでしたが。