Coolier - 新生・東方創想話

みすちーは全てであり、全てはみすちーである

2014/06/09 00:48:47
最終更新
サイズ
18.37KB
ページ数
1
閲覧数
3713
評価数
21/43
POINT
3000
Rate
13.75

分類タグ

※横書きでお楽しみください。
※なお、スマホ等の環境では、一部の文章がずれます。その場合は雰囲気でお楽しみください。

 第百二十九季、葉月の十五。
 草木も眠る丑三つ時に、永遠亭でちょっとした騒動があった。
 頭痛、めまい、吐き気等を訴える患者、三十から四十名が一挙に押し寄せてきたのだ。
 患者は全員、鳥獣伎楽の野外コンサートに参加していたとのこと。
 鳥獣伎楽結成から三周年を記念したものであったため、普段より長時間かつ大音量のライブであったらしい。
 この晩は永遠亭の薬師見習いが治療にあたり、患者たちの症状が改善されたことが記録されている。
 しかし、ここにはいくつかの見落としがあった。
 この日は中秋の名月ということもあり、一年で最も強い狂気の光が観客に降り注いでいたのだ。
 その環境下において、人を狂わすミスティアの歌を長時間にわたって聴いたことが何よりの問題だった。
 患者たちは表面的な自覚症状こそ治ったものの、精神の深層が汚染されていたのである。
 そうした人間が、何も知らずに里に帰ってしまった。これが、全ての始まりであったと言ってよいだろう。

 葉月の十六。
 この日の人里では、際立った変化は見られなかった。
 一部、ミスティアの熱狂的なファンが現れていただけであった。彼女らは頭や胸元にリボンを付けている。それらはミスティアの服や靴にあるのを模したものであった。
 ワンポイントみすちーをあしらったファンは、二、三人程度。しかし、人里に住む者たちは、一日に何度も似たリボンを目にし、記憶の奥底に刷り込まれていった。

 それから三日後。
 今や三分の一以上の男女が、服飾のどこかにリボンが結ばれていた。
 流行というよりは、里の仲間意識に近いものがあったらしい。鳥獣伎楽に詳しくない者は孤立化を防ぐため、知識人やファンブックを頼って情報を仕入れていた。
 一方、熱心なファンの一人はみすちーの服装一式を作り上げてしまっていた。
 彼が里に出歩けば、たちまち流行の最先端扱いである。みすちーブームはさらにエスカレートすることとなった。

 二週間ほどが経っただろうか。
 里では、みすちーを模した物であれば何でも売れるという、空前のみすちー現象が起こっていた。
 服飾屋では当然、みすちーの服そのものが売られている。
 酒屋では、みすちーにあやかった雀酒が品切れになっている。
 和菓子屋ではみすちー顔の饅頭とともに、みすちー色のお茶が人気を博している。
 みすちー型にくりぬかれた肉や魚は予約でいっぱいになっている。
 半数以上の家庭の物干しざおには、みすちー等身大羽毛布団がかかっている。
 人里では、みすちーの格好をした者としか、すれ違うことができない。
 なお、この頃は妖怪にもみすちーの波が押し寄せていた。
 河童たちは龍神の石像を、動くみすちー像に改修した。これにより、人間との友好関係をさらに深いものとした。
 ある妖怪は蛍を立体的に配置することでバーチャルみすちー弾幕を生成し、一躍有名となった。
 その他、みすちー楓にみすちー氷像、みすちー新聞にみすちー入道など、妖怪社会にもみすちーインフレーションが巻き起こったのだ。

 狂乱のみすちー熱風を、宗教家たちが利用しない手は無かった。
 はずれの神社では、みすちーは八百万の神の一柱であると謳っていた。彼女のご利益が得られるとのことで、参拝客で賑わうようになった。
 妖怪寺にとっても、みすちーは特別な存在である。人間と妖怪の橋渡しとなり得るキーパーソンとして扱われた。
 住職は肉体に魔法をかけることにより、みすちーに変身を遂げた。寺の新たなマスコットとして人気が高まっている。
 こうした状況に頭を痛めたのは、道士たちである。民衆が妖怪に心を奪われている。これは、幻想郷の人間社会が崩壊する前触れではないかと考えたのだ。
 ある道士によると、このムーブメントは、みすちーのようになりたいという人間の欲望が発端であるとのことであった。
 そこで開発されたのが、みすちーの仮面である。
 ペルソナという言葉を聞いたことがあるだろうか。仮面を意味するこの言葉は、心理学において、周囲に適応するための人格ということを表す。
 みすちーの仮面を使えば、自分を偽ることで、理想的な人格になりきれる。結果として、心の表層――つまり、感情をみすちーにすることができるのだ。
 民衆の欲望を一度でも満たしてしまえば、このブームは収束するという目論見であった。
 だが、皮肉にもその期待は裏切られることになってしまう。

 第百二十九季、長月の十五。
 鳥獣伎楽のマンスリーライブは、これまでと一線を画すものとなった。
 会場は太陽の畑を改めて作られた、みすちーの畑である。観客席の周囲には、みすちー型の花が辺り一面に咲き誇っている。
 席はみすちーの畑の端から端まで、キロメートル単位で用意されており、里の人間全員で埋め尽くされていた。
 観客は地上だけではない。上空にはみすちーの虜になった妖怪が雲のように連なっている。
 異様なのは、観客の恰好である。人妖の全てが、みすちーの衣装と仮面をつけていたのだ。
 観客だけではない。ボーカルの山彦までもが、身も心もみすちーになり切ってステージに現れた。
 ライブ内容も、みすちー一色だ。ミスティアの人を狂わす歌を増幅させるがごとく、山彦が負けじと吠えてゆく。観客までも、ともに声を枯らしながら歌についてくる。
 この晩、会場は一体となってみすちーになったのだ。まさしく、歌に心を奪われていたのだ。
 会場の全員がみすちーとなった今、偽りの自分というものは無くなってしまった。
 ペルソナは、いつしか本当の自分を乗っ取る。心の全ては、今やみすちーに塗り替わってしまった。

 ライブから一週間。多数の人妖から精神的疾患がうったえられるようになった。
 自己意識はみすちーであるのに、身体がみすちーでない。その不一致が強い自己嫌悪感を生み出していたのだ。
 この問題に対し、永遠亭の薬師は、身体をみすちーに変化させる薬の開発に取り組んだ。
 これは、蓬莱の薬がベースとなっている。
 蓬莱の薬は、服用者の細胞から遺伝子等の身体的情報を抜き取り、それを魂に記録する。肉体損傷時は魂から修復プログラムを実行させるという仕組みである。
 これを改変し、ミスティアの身体情報を蓬莱の薬にあらかじめ埋め込めんでおけば、服用者の全身の細胞はみすちーとなるのだ。
 すでに蓬莱の薬を服用している者に対しても、修復すべき身体の情報を上書きすれば、無事、みすちーとなれる。
 完成したみすちー変化薬は、当然のように、あらゆる人妖に行き渡った。
 これにより、幻想郷の人妖は、心身ともに健康なみすちーとなったのである。

 世界は一つ。我々は皆、同じ仲間である。妖怪たちはこれを胸に、幻想郷をよりよいものに変えたかった。
 みすちーは、虫たちにみすちー薬を行き渡らせた。幻想郷の虫たちは、全てみすちーとなった。
 みすちーは、人々に豊穣を約束した。幻想郷の作物は、全てみすちーとなった。
 みすちーは、魔法の開発に成功した。弾幕では、みすちーが飛び交うようになった。
 毒はみすちー変化薬しかなくなった。病気も、みすちー変化病だけになった。
 歴史を創るみすちーは、過去の歴史を無かったことにし、過去をみすちーとした。すなわち、元から全員、みすちーということになった。
 神であるみすちーは、天をみすちーへと変えた。雲はみすちーとなり、天気によってはみすちーからみすちーが降ってくる。
 大地も、みすちーとなった。土も、平原も、山も、今やみすちーだ。時々、山は噴みすちーすることがある。
 当時の宇宙では、ちょっとした気持ちで、物質が変化しやすかったのだ。
 さて、中でも世界のみすちー化に貢献したのは、密と疎を操るみすちーだ。彼女は、素粒子の結びつき方を変化させた。そのため、原子や分子の世界は、みすちーに染まった。
 また、ある種の原子のみすちーに対し、中性みすちーをぶつけると、同位体のみすちーとして分裂しながら放射みすちーをエネルギーとして放出することが分かった。
 原子みすちーが大量に生成されるだけではない。放射みすちーを浴びると、他の物質もまた放射性みすちーとなるのだ。
 これにより、あらゆる物質が、みすちーへと生まれ変わっていった。


 ある日、ミスティアは長い眠りにつかされた。


 幻想郷はいまや、みすちー郷だ。みすちーであるものと、そうでないものを境界で分けられていた。
 みすちー郷は確実に広がっている。外の世界の物質はみすちー郷の影響でみすちーに変化し、みすちー郷に取り込まれている。
 世界は、みすちーに飲みこまれつつあった。全ては、みすちーであるか、そうでないかの二つで出来ていた。
 そうした精神の中で、数学の世界はみすちーとして理解されるようになった。すなわち、公理系が、全てみすちーで再構築されたのだ。
 人々の思考がみすちーとなりつつある今、みすちー二進法が普及するのは時間の問題であった。
 みすちー二進法では、例えば5は、次のように表される。


  みすちー
 み
 すみすちー
 ち    
 ーみすちー


 縦に並んだみすちーは、これから表すものが一文字であることを表現する記号である。最上段のみすちーは、下の部分が一の位であることを示す。
 みすちーで囲まれた部分にある、みすちーである部分とそうでない部分の二進法で数字が表現される。
 縦に並んだみすちーの「ー」の部分は2^0の有無、「ち」の部分は2^1の有無、「す」の部分は2^2の有無……と、続いてゆく。
 この場合では、みすちーは「す」と「ー」の部分にあるため、2^2 + 2^0 = 4 + 1 = 5 となる。
 1みすちーバイトでは15まで表現できる。16を超える場合は、以下のように表現する。


  みすちーみすちー
 み    みすちー
 すみすちーみすちー
 ち
 ー    みすちー


 この場合、最上段の左側のみすちーは、下のブロックが十六の位であることを示している。
 先の2みすちーバイトは、2^6 + 2^3 + 2^2 + 2^0 = 64 + 8 + 4 + 1 = 77 を表す。
 数値をみすちーとして表現できるようになれば、あらゆるものがみすちーとして理解することができる。
 音や光といったものも、デジタルみすちーとして解釈できる。
 この宇宙では精神が全てだ。みすちーとして解釈されるものは、全てみすちーとなるのだ。炎や波といった現象も、もはやみすちーでしかない。
 みすちー二進法の活用の中で特に重要だったのが、言葉である。言葉もまた、みすちーとなったのだ。
 例えば、「あ」から「ん」までを数値1から46、「が」から「ぽ」までを47から71というように順に割り振れば、みすちーバイトにより文字を表現できる。
 この場合、みすちー表記で「みすちい」は32、13、17、2となるので、次のようになる。


  みすちーみすちー みすちー みすちーみすちー みすちー
 み        みみすちーみ        み    みみ
 す        すみすちーす        す    すす
 ちみすちー    ち    ち        ちみすちーちち
 ー        ーみすちーーみすちーみすちーー    ーー


 縦のみすちーで囲まれた区間が一文字である。ただし、最後に二つ並んでいる縦のみすちーは、一つの文章が終わりであることを表す。
 発音は至って容易で、新生児みすちーもみすちーとだけ発音できればよい。
 あとは、四分の四拍子のリズムに合わせて、左上からみすちーと休みを発音していけばよい。
 ただし、最上段のみすちーは無視する。また、縦書きのみすちーを四拍かけて言い、他のみすちーはまとめて一拍で発音する。
 先の「みすちい」を発音するには、次のように話せばよい。ただし、休みを「ウン」で、一拍を読点、一小節をスラッシュで示す。
 
 み、す、ち、い / ウン、ウン、みすちー、ウン / ウン、ウン、ウン、ウン / み、す、ち、い / みすちー、みすちー、ウン、みすちー /
 み、す、ち、い / ウン、ウン、ウン、みすちー / ウン、ウン、ウン、みすちー / み、す、ち、い / ウン、ウン、みすちー、ウン /
 み、す、ち、い / み、す、ち、い /

 最初は日本語の置き換えにすぎなかったが、年月が経つにつれて、独自のみすちー語へと変わっていった。
 言語がみすちーになれば、思考もみすちーになる。思考がみすちーになれば、世界の全てはみすちーとして映る。
 みすちー語には形容詞が存在しない。全てがみすちーであるため、みすちーを限定する必要性がないからだ。
 宇宙の全ては、みすちー二進法のように、みすちーと無だけになってしまった。
 存在するものは全てみすちーだ。無は、みすちーという輪郭を識別するための背景にすぎない。
 みすちー数とみすちー語の誕生により、みすちー郷は人妖だけでなく、文化や現象、正義や真理までもがみすちーとなったのだ。
 宇宙がみすちーとなる日は、近い。この宇宙は現在のそれよりずっと小規模だ。光速でみすちーが広がれば、宇宙は数年でみすちーとなるだろう。

 第みすちー季、みすちー月のみすちー。夜空に浮かぶ星々までもが、みすちーとなった日。
 目に見える全てがみすちーとなり、みすちー郷の結界が宇宙を浸食したこの日に、初めてみすちーの祭典が開かれようとしていた。
 この世界の創造主を復活させる。それにより、みすちー世界が完成すると信じられていた。
 大理石だったみすちーで作られた神殿の奥深くに、霧状のみすちーが立ち込めている。
 床、壁、天井にいたるまで、グリーンに光る機械のパネル、ロボみすちーが設置されている。
 ロボみすちーからは何本ものコードみすちーが部屋の中央に伸びており、これらは円柱状のガラス装置につながれている。
 そこには、冷凍保存されているミスティアがいた。
 みすちーたちは、古来から本能的な恐怖を持っていた。オリジナルのミスティアがいなくなれば、この世界はどうなるのか。無くなってしまうのではないか。
 その恐怖心から、ミスティアを冷凍保存し、決して消えぬように管理していたのだ。
 研究者かつ神官のみすちーが、ロボみすちーにパスワードを入力する。すると、装置は次第に熱を帯び、ちょうどお風呂ほどの温度となった。
 現在、ミスティアの体内には血液や水分が抜き取られ、カラカラの状態だ。水分を凍らせると膨張し、細胞や血管が破壊されるためである。
 そのため、血液の代わりに、固体と液体とで体積の変わらない、特殊な麻酔剤が注入されている。
 ミスティアに繋がっているいくつかのコードは、解凍された麻酔剤を吸い取ってゆく。それと並行して、保管されていた血液を点滴の要領で注ぐ。数十分ほどで、ミスティアに桃色の血色が取り戻された。
 解凍が終わり、装置のロックが解除される。まだ目の覚めぬミスティアの体を、神官はタオルみすちーで覆う。そして、彼女を抱きかかえ、柔らかなベッドに横たえる。最後に、当時ミスティアがしていた、オリジナル衣装を着せる。全ては手順通り。後は、目覚めるのを待つだけだ。

「……うー。あれ、ここは?」

 目覚めたミスティアを見て、神官、ガッツポーズ。みすちーの表情を浮かべている。
 しかし、ミスティアはさっぱり状況が飲みこめない。自分と全く同じ格好の者がいて、「みすちーみすちー」としかしゃべらない。
 理解不能の状況に、身の危険を感じてしまった。ミスティアはあわてて、部屋の外に逃げ出した。逃げ出そうとした。
 冷気で覆われた保管室の外は、溢れんばかりの熱気で包まれていた。保管室はちょうど、神殿の二階に位置している。ミスティアの飛び出した先は、バルコニー。その下から、割れんばかりの拍手が送られたのだ。
 祭典とあって、あらゆるみすちーが駆けつけていたのだ。皆、ミスティアを崇拝するような眼差しを送っている。
 「みすちー! みすちー!」と言われるものの、ミスティアは何をしていいのか全く分からなかった。しかし、歓迎されていることだけは確かであった。

「み……。みすちー!」

 拳を突き上げながら、ノってみた。訳の分からぬ状況だが、とりあえずノってみた。
 夜雀としての本能が、大勢の客を相手にしてきた記憶が、彼女をそうさせたのだ。
 みすちーたちは一瞬静まり返ったが、再び熱狂とともにみすちーコールが返った。

「みすちー! みすちー!」
「そ、そうよ。私がみすちーよ! イェーイ! みすちー!」

 最初はノリの良いミスティアであったが、次第にその表情に陰りがさした。
 観客が全員、自分とそっくりな風貌をしているのだ。最初は、単に熱心なファンが多いと思っていたのだが、どうやらそういうわけではないらしい。
 脳が目覚めてきたところで辺りを見ると、草木や雲、遠くの山までもが、自分と同じ姿になっている。
 ぞっとしてハッと声を出すと、息に含まれる水分が湯気となり、その一滴一滴がみすちーに見えた。

「ちょ、ちょっと待ってー! これ、どうなってるの!? 夢でも見ているんじゃないの!?」

 頬をつねっても、痛いだけ。周囲のみすちーは首をかしげ、みすちーみすちーとみすちー語を繰り返すだけだ。
 とうとう我慢できなくなってしまい、ミスティアは何も見なかったことにして、バルコニーから飛び立った。

 分け入っても分け入ってもみすちー。かつての森では、木々の一本一本がみすちーだ。みすちーがみすちーから生え、みすちーが咲いている。
 避けるように方向転換し、他の場所をあたる。だが、かつての館はみすちーで積まれたみすちー館だ。神社に助けを求めても、そこはみすちーを崇めるための、みすちーやしろだ。
 かつての友人の家に転がり込むも、そこにはみすちーがいるだけだ。
 やけくそでかつての冥界に飛んでいくも、すでに死者という概念が存在しない。冥界はすっかり荒れ果て、石だったみすちーがその辺りをごろごろしている。
 どうしたらよいのか分からなくなって、ミスティアはとかく遠くを目指して飛び続ける。ふと、なかなか結界に突き当たらないことに気が付いた。
 おそらく、以前は外の世界だった場所だろう。みすちービルやみすちータワーが立ち並んでいる。みすちーの崇拝心からか、大仏みすちーや、みすフィンクスまで造られている。
 もはや、廃墟でも眺めているかのような心地であった。
 飛び疲れた頃には、すっかり夕暮れだ。大きくなったみすちーが、海の向こうに沈んでゆく。
 ミスティアは砂浜に体育座りし、初めての海をぽーっと眺めた。膨大な量のみすちーが押しては引いてを繰り返し、砂のみすちーに覆いかぶさっていく。
 気分が悪くなって、ぷいと見上げる。だが、空を眺めてみても、広大なみすちーと、幾人かのみすちーがふわふわと浮いているだけ。

「……なんで? 私でいっぱいなのに、そのはずなのに、何だかすっごく寂しいよ……」

 ミスティアは立ち上がって、ふらふらと海に向かった。仰向けになって、大勢の自分とともに、ゆらゆらと揺れる。
 みすちーにまみれ、ふよふよと流され、ぐるぐると渦を巻き、最後に、ぶくぶくと沈んでいく。
 みすちーの海に飲みこまれる。飲みこまれながら、ミスティアは、自分が誰なのか分からなくなっていた。
 何もかもがみすちーの世界。みすちー以外の無い世界。そこでは、自分の、ミスティアとしての輪郭を奪われてしまった。
 大勢のみすちーに見下されながら、底へ、底へと沈んでいく。無数に映る鏡像に、自分は誰なのかと問いかけていた。
 
「あなたはみすちーだよ。皆と同じ、全てと同じ、みすちーだよ」

 みすちーの波に揺さぶられながら、みすちーの底にミスティアの背中が着いた。
 この世界の奥底に到着し、すっかりみすちーに埋もれてしまった。
 もう誰も「このミスティア」という自分に気づいてくれない。そのことで頭がいっぱいになった。
 この世界から、自分が消えてなくなってしまう。そう思えて、ミスティアは涙をこぼした。
 それがきっかけだった。
 今や世界の全てがみすちーだ。ミスティアの自我が崩れゆくことは、世界も同様に、みすちーとしてのあり方が揺らぐのだ。
 ミスティアが泣き叫ぶとともに、海は消え、山は消え、みすちー郷のあらゆる人妖が消え、地球も月も太陽も、そして宇宙もが、無に帰ったのだ。
 ミスティアは、無となったのだ。

 キャンパスをみすちーで埋め尽くすには、どうすればよいか。
 ありったけのみすちーを描いたとしても、みすちーの輪郭がなくなってしまい、最後はみすちーと識別できなくなってしまう。
 しかし、キャンパスそのものをみすちーとみなせば、みすちーで埋め尽くされたことになる。
 消えてしまった宇宙は、まっさらなキャンパスだ。全てが無であり、無がみすちーである。
 有が存在すれば、みすちー二進法のように、みすちーでないものを想定しなければならない。だが、全てが無なら、みすちーだけで、無という全てを表現できる。
 みすちーが全てで、全てがみすちーの、無の世界。
 ここに、かつて人々の望んだ理想世界が誕生したのだ!

 どれほどの月日が経っただろうか。
 それでも、私たちはこうして存在している。それもそのはずで、ある時、完全な無の世界もまた、崩壊してしまったのだ。
 現在の宇宙は、無のゆらぎから生まれたと考えられている。確率的な無と有のゆらぎに偏りが生じ、宇宙の卵が生まれたのだ。
 無、すなわちミスティアは、最後まで揺らいでいたのだ。
 現在の科学では解明されていないが、ミスティアは悩んでいたはずである。
 全てが自分という無の世界のままにして、宇宙を閉ざすか。あるいは、無という自分の一部を殺し、あらゆる存在を生み出すか。
 少なくとも、ミスティアは今の宇宙を望み、あらゆる存在を創った。それだけは確かだ。
 無こそ、我々の母である。
 我々は皆、ミスティアから生まれた兄弟、姉妹なのかもしれない。

 我々が自分という存在を自覚できるのは、自分と自分でない外の境界を示す、輪郭があるからである。
 今も、無は確実に存在している。我々の輪郭を保つために、キャンパスの白地のように、見えないけれども存在している。
 しばらく生きていると、急に孤独感に襲われることもあるだろう。愛情に飢えていると感じることもあるだろう。
 しかし、安心してほしい。
 我々の周りには、今もなお、無という名のミスティアが包み込んでくれているのだから……。
 


  みすちー みすちーみすちー みすちーみすちー みすちーみすちー みすちーみすちー
 みみすちーみ    みすちーみ        み        み    みすちー
 す    す    みすちーす    みすちーすみすちー    す    みすちー
 ちみすちーちみすちーみすちーち        ち        ちみすちーみすちー
 ー    ー        ーみすちーみすちーー        ー

  みすちー みすちーみすちー みすちー みすちーみすちー みすちーみすちー
 みみすちーみ        み    み        み    みすちー
 すみすちーすみすちー    す    す    みすちーす    みすちー
 ち    ち        ちみすちーち    みすちーち    みすちー
 ー    ーみすちー    ーみすちーーみすちー    ーみすちーみすちー

  みすちーみすちー みすちーみすちー みすちーみすちー みすちーみすちー
 み        み        み        み    みすちー
 す    みすちーす    みすちーす    みすちーすみすちーみすちー
 ちみすちー    ち    みすちーち        ち        
 ーみすちーみすちーーみすちー    ーみすちーみすちーー    みすちー

  みすちーみすちー みすちー みすちーみすちー みすちーみすちー
 み        みみすちーみ    みすちーみ        
 す        す    す        す        
 ち    みすちーち    ちみすちーみすちーち    みすちー
 ーみすちーみすちーー    ー        ーみすちーみすちー

  みすちー みすちーみすちー みすちーみすちー みすちーみすちー みすちー
 み    み    みすちーみ    みすちーみ        み    みみ
 す    す        す    みすちーす    みすちーす    すす
 ち    ちみすちー    ちみすちーみすちーち        ちみすちーちち
 ーみすちーー        ー    みすちーーみすちー    ーみすちーーー



(お読みいただき、ありがとうございます。コメント返しはリンク先のブログにて行っています)
飛び入り魚
http://sosowafish.blog.fc2.com/blog-entry-31.html
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.990簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
ホラーだった…
2.100名前が無い程度の能力削除
みすちー
あとがきにみすちー三連締めがないって事は、まだ隠された文章があるという事なのか…
5.90奇声を発する程度の能力削除
おおう…
6.100リペヤー削除
最初はギャグかと思ってたら……
なんという混沌。
8.100名前が無い程度の能力削除
オレは今、一体なにを見たんだ……
9.100名前が無い程度の能力削除
みすちー
11.90名前が無い程度の能力削除
どうかしてるぜ(誉め言葉)
みすちー
12.80さとしお削除
疎と密を操るみすちー好き
15.90名前が無い程度の能力削除
飛び入り魚さん、たまにこういう話書くから好き
16.100絶望を司る程度の能力削除
訳がわからないよ......。カオスでしたが、どこか恐ろしさも同居してる感じでした。
私だったら即発狂しそうです((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
19.100みすちーをみすちーする程度のみすちー削除
想像の斜め上をいくみすちーだった
20.100名前が無い程度の能力削除
10こ46ん21な64ぶ46ん
12し80?3う22に31ま
53じ22に21な77?
19て8く42れ19て
1あ40り47が20と3う

72-76が「ぁ-ぉ」、77が「っ」、78-80が「ゃ-ょ」ですかね。ま、風神録のルナをクリアするよりは
簡単に解読できました。クリアできてませんし。

自己と非自己の境界って大切だなぁ。もうみすちーしか見られない。
21.無評価飛び入り魚削除
>20.さん
パーフェクト賞です!
文章も元ネタもまさにその通りです。
この場を借りてその根気と原作愛に敬意を表します。
「あんたはエライ!」
22.100みすちーみすちーみすちーみすちー削除
ワケガワカラナイヨ
いったい何がどうなって……みすちー!みすちー!
23.100名前が無い程度の能力削除
みすちー愛に感動した
24.100名前が無い程度の能力削除
狂気極まるならば殉じよう
すべてがみすちーになり始めた辺りで「もっとやれ」と声援を送り始める自分がいた
みすちー2進法にいたってはもう感心するしかない
26.100名前が無い程度の能力削除
カオスww
久しぶりにいい感じにきてるSSを読んだw
これはまさに愛だねw
27.80名前が無い程度の能力削除
みすちーみすちー?みすちー!
33.100名前が無い程度の能力削除
ミスティー
36.90名前が無い程度の能力削除
きっとクッキークリッカーみたいにみすちー錬金術とかみすちー宇宙からポータルでみすちーを取ってきたりとか、タイムマシンで過去のみすちーを連れてきたりとかするんですね
39.100はと削除
とても良い
44.100名前が無い程度の能力削除
みすちー可愛いよみすちー、こんなにもみすちーがみすちーなんだから我々も何もかもみすちーになればいい、みすちーみすちー嗚呼みすちー。
とっても面白かったです。