Coolier - 新生・東方創想話

ノーフューチャー・ネバー・ダイズ

2014/06/08 01:52:00
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 幻想郷が総力を挙げて捕獲に乗り出したにも関わらず、鬼人正邪は虜囚の辱めを免れ、まんまと逃げ果せた。
 数多くの不可能弾幕を投入し、美意識の低さを露呈した結果、幻想郷にまたひとつ敗北の歴史が刻まれたのだ。

 だが、運よく当事者を回避した事によって、名誉を保った者たちも少なからず存在する。
 今回の舞台となる永遠亭もその一つだ。主である蓬莱山輝夜は、今回の一件についてどのような感想を抱いたのであろうか?


「どうして……どうして私も誘ってくれなかったのよおおおおおおおおおぉッ!」

 畳に爪を立て、全身をわなわなと震わせる輝夜の姿を見て、藤原妹紅の口元が意地の悪そうな笑みに歪む。
 本日の嫌がらせは効果覿面なり。わざわざ永遠亭まで足を運び、騒動の顛末を語って聞かせた甲斐があったというものだ。

「悪いね輝夜。ウチらの班は三人行動がモットーなんだ」
「アナタと上白沢慧音と……あと誰よ!?」
「今泉影狼ってヤツがウロウロしてたから、そいつと一緒に戦ったよ」
「私を! 誘いなさいよ!」
「オマエより影狼の方がキューティクルだったし」
「どういう理由よ!?」

 自らの頭髪を掴んで抗議する輝夜に対し、妹紅は嘲りの笑みを隠そうともしない。
 他の者たちはいざ知らず、妹紅にとっては遊びの延長でしか無かった今回の一件。
 得意の死に芸を披露し、適当なタイミングで切り上げた彼女の心中には、敗戦による屈辱感など微塵も存在していなかった。

「そんな楽しそうなイベントがあったのに、私だけハブるなんて酷過ぎるわッ! 妹紅のバカ! 恩人殺し!」
「いっ、岩笠は関係無いだろ! いい加減にしろ!」
「うっうっ……どうせなら永遠亭まで追い込んでくれればよかったのに。そうしたら私、また天井とかブン投げて大活躍できたのにぃ……」

 畳に突っ伏して嗚咽する輝夜の頭頂部を眺めつつ、妹紅は言い様の無い征服感に打ち震えていた。
 長きに亘り大小さまざまな嫌がらせを行ってきたが、これ程までに輝夜を動揺、あるいは落胆させたのは初めてである。

「かくなる上は……かくなる上はこの私も……」
「天邪鬼を捕まえる? そんな今更……」
「否! わたし自ら反逆者となって、幻想郷の全てを敵に回してやるんだからっ!」
「……エエ~ッ!?」

 勢い良く身を起こし、なにやら不穏な宣言を発する輝夜。
 妹紅は些か面食らいながらも、宿敵に対しややオーバー気味なリアクションで答えた。

「いや、あのね? オマエ反逆の意味分かってる?」
「悪逆非道の現体制を討ち滅ぼして、世に正義を示す事よ!」
「オマエも体制側の一員だろうが! このブルジョワジーがっ!」
「ノンノン♪ わたし幻想郷の体制とは一切無関係。ただのアワレで無力な地上人ですぅ♪」
「むきー! その言い方が鼻につくぅ!」

 いつの間にやら立場は逆転し、今度は妹紅が歯噛みする側に立っていた。
 輝夜の強さは、妹紅自身が誰よりも良く理解出来ている。少なくとも、アワレで無力などとは口が裂けても言えるレベルではない。

「冗談はさておき、やると決めたらトコトンやるわよ。永遠の叛逆の物語の始まりってね」
「何の劇場版だよ。そもそも立場的に反逆とかありえないでしょ。そりゃ確かに、オマエは人間的にド底辺ではあるけれど」
「ド、ド底辺!? そこまで言っちゃう!?」
「人間的にド底辺ではあるけれど……そこは否定しないけど……」
「二回も言うコト無いでしょ!」

 客観的に見てどのような評価が相応しいのかは、高潔であらせられる読者諸兄にお任せするとしよう。

「元々は月のお偉いサンで、地上に在っても一勢力の長を気取ってるオマエが、どのツラ下げて反逆とか口にしちゃうワケ?」
「反逆者としての在り方に、敢えて真っ向から反逆する! ……ってのはどう?」
「どうせなら反逆自体やめちゃえよ。反逆しない反逆者とか、斬新すぎて格好イイじゃん。逆にね」
「反逆って言葉がゲシュタルト崩壊を起こしそうだわ。この勢いで幻想郷も崩壊させようかしら」
「やめて!」

 ただでさえルナティックな元・月の姫君にして、永久不滅の蓬莱人。
 そんな輝夜を敵に回した幻想郷は、果たしてこの先生きのこることが出来るのだろうか?

「志半ばで果てた正邪さんに代わって、腐った体制を完膚なきまでにブチ壊すのよっ!」
「アイツまだ死んでないよ! ……多分だけど。まあ別に死んでても構わないけどね」
「クックックッ……所詮アヤツは四天王の中でも最弱。地上の生き物如きに敗れるとは、我ら四天王の面汚しよ……」
「四天王って何だよ!? そもそもアイツは負けてないし!」
「ええ、アナタが負けたんでしょ? 我ら蓬莱人の面汚し……」
「今すぐそのツラ汚してやろうか? オマエ自身の血とか体液とかで!」

 体液で輝夜を汚す! 猟奇的な部分を取り除けば、残るのは何やら妖しげなフレーズ。
 どうせなら私の体液で……などと妹紅が口にしなかったのは、ひとえに彼女が乙女であったからだろう。

「でもさ輝夜、反逆ったって具体的に何をするつもりなの?」
「そうねえ……とりあえずは偉そうにしてる連中をリストアップして、片っ端から死に追いやっていけばいいんじゃない?」
「やめろよそういうの! オマエが言うと冗談に聞こえないんだよ!」
「数々の受難を乗り越えた正邪さんに対抗して、私は無理難題を吹っかけるスタイルで行こうと思うの」
「反逆っつーか……むしろ圧政だな、それは」

 輝夜の難題、それすなわち弾幕。
 では、無理難題とは? 答えは簡単、不可能弾幕。
 不思議道具ごときでナントカなるようでは甘い。本物の不可能弾幕(ぼうりょく)を教えてやろう。

「各勢力の長を難題による死……難Dieに処す。いつぞやの五人の公達のように、惨めでブザマな最後を遂げるのよ」
「さりげなくヒトの父上を貶すな! だいたいあの人たち死ななかったし……あれ? 誰か死んだっけ?」
「いい公達は死んだ公達! ……なーんちゃって」
「そんなブラックなジョークはいらない!」
「アナタの御父上は、なんだかんだで生き残ったのよね。サイテーだわ」
「も、もうみんな死んでるからいいだろ! ……いや、よくなーい! うわーんちちうえー!」

 妹紅は泣いた。辛酸を嘗め尽くした幼年期の終りを思い出して、ただひたすらに泣きじゃくった。
 その様子を見て、輝夜が嗤う。日本最古と伝わりし物語のヒロインは、ややサイコにしてサイコーであった。

「それはそうと、正邪さんは不思議道具の数々でもって窮地を脱したそうね。それなら私も……」
「そんなところで張り合おうとするなよ。大体オマエの持ち物ったって、殆どが偽物っつーかレプリカっつーか」
「じゃじゃーん! これぞ本物の蓬莱の玉の枝! 妹紅は父親の行いを恥じて死ぬ」
「私に特効かよ! ただの嫌がらせじゃないか!」
「ピコーン、トロフィーゲット! 『ロリコン親父と変態娘』の異名を手に入れた……なにコレいらない」
「だからさぁ! 事ある毎に父上貶すのやめてくれないマジで! 私ってば本当に傷ついてるんだからね!?」

 実年齢を考慮に入れた場合、妹紅の父親はむしろ年上好みになるのでは? などとお考えの紳士淑女も多いことだろう。
 外見に惑わされず中身に拘るか、それとも寛大な心で受け入れるか。ロリコンの道とは、複雑怪奇な冥府魔道である事だなぁ……。

「他にも道具はあるのよ? 例えばこの……超小型プランク爆弾とか」
「小型っつー割には結構でかいじゃん。ちなみに、威力はどんなもんなの?」
「地上では使ったこと無いから未知数ね。まあ、幻想郷の一つや二つ位なら余裕で消し飛ぶと思うのだけど」
「うっ、うわああああああああああぁ!? やめろよこの馬鹿! そんなモン仕舞え! 今すぐ封印してしまえ!」

 プランクエネルギー……それは、時空に存在し得るエネルギーの限界量を指し示す言葉。その名を冠した爆弾の威力はおいくらメガトン?
 近所の某大学に通うマエリベリー・ウサミさん(仮名)に話を伺ったところ、「失せろ、ケーキが不味くなる」との回答を得た。やったね。

「幻想郷には余りに多くの因子が集まり過ぎた……そろそろリセットが必要だと思わない?」
「リセットっつーか、むしろアンインストールだろそれは! この先二度と出番が無くなってもいいのか!?」
「私が活躍できない歴史に価値は無い! 全てを得るか、全てを失うか! 一世一代のビッグゲームと洒落込みましょう!」
「やっ、やめろぉーっ!」

 妹紅が制止する間も無く、輝夜は懐から古式ゆかしい起爆装置を――透明カバーのついた赤ボタンのやつだ――取り出した。
 そして、己の拳で勢い良くカバーを叩き割り、そのままスイッチ・オン!
 輝夜は本当にやってしまった。多くのものが終息し――ここに至る道も、共に歩んだ歴史も消滅……していない!?

「あら? おかしいわね。起爆装置を間違えたかしら……」
「クックックッ……そのプランク爆弾は『偽物』だぜ? オマヌケな自称反逆者サンよ」
「あっ! お、オマエは……!」

 天井の一部を突き破り、上下逆さまの上半身をヌッと覗かせたのは……ああッ! 幻想郷を震撼させた正真正銘の反逆者、鬼人正邪その人ではないか!
 行方も消息も不明だった筈の彼女は、あろう事か永遠亭に潜伏していたのだ! まさに灯台もと暗し!

「本物を探しても『無駄』だよ。なぜならお目当てのプランク爆弾はさっき見つけて、跡形も無く破壊してしまったからだ~~~~~~!!!」
「なっ、なんということを! よくも私の反逆の邪魔をする気ねッ!」
「反逆だァ? ネゴト言ってんじゃねーぞ箱入り娘ッ! お前がやろうとしていたのは、単なる虐殺だ! 反逆者の風上にも置けねぇ巨悪の所業よッ!」
「ごふっ!? そ、そうだったとは……」
「すごいな……あの天邪鬼が正論を吐くなんて」

 失意の余り畳に倒れこみ、グネグネと身を捩じらせる輝夜。
 そんな彼女をよそに、妹紅はいつの間にやら腕を組み、正邪の活躍にいたく感心してしまっていた。
 鬼人正邪は単なる小悪党などではない。理不尽を強いる体制側を相手取り、たったひとりで戦い続ける、幻想郷最大最後にして唯一のアンチヒーローだったのだ!

「主役になりたいというお前の気持ちは理解出来んでもない。だがな、世の中にはやっていい事と悪い事ってのがあるんだよ。ホラ、手ェ貸してやるから立ちな」
「せ、正邪サン……」
「これからは私がお前に道を示してやる。恵まれた出番に胡坐を掻く連中を、正々堂々とブッ潰してやろうじゃないか!」
「はは~ッ! 永遠亭を代表してアナタ様に忠誠を誓います。必要な人員・技術・兵器など御座いましたら、何なりとお申し付けくださいませ」
「ウム、いい返事だ! さあこれから忙しくなるぞォ! 何せやるべき事は山のようにあるからな! セ~イジャッジャッジャッ……!」
「あー、ちょっといいかな天邪鬼チャンよ」

 高笑いする正邪の肩に、妹紅はやや遠慮気味に手を掛けた。

「なんだよ変態自爆女。お前に用は無いから帰れ帰れ」
「話が纏まったところ悪いんだが……オマエを逮捕する」
「えっ? ……エエ~ッ!?」

 言うが早いか、妹紅はモンペから取り出した荒縄でもって、正邪をグルグル巻きにしてしまった。
 目の前の勝利に浮かれるあまり、敵の存在を失念するとは何たる迂闊! まさに禍福は糾える縄の如し!

「ちょっ、ちょっと妹紅! 正邪様に無礼なマネを働くのはよしなさい!」
「目を覚ましなよバカグヤ。コイツを幻想郷の馬鹿どもに差し出せば、オマエは一躍英雄になれるんだよ?」
「へっ? そ、そうなの?」
「そりゃそうよ。何せコイツはお尋ね者で、救いようのないノーフューチャー……」
「待てよお前ら!」

 海老反りで跳躍しながら訴えかける正邪に、二人の視線が集中する。
 片や妹紅の無慈悲なる眼差し、片や輝夜の泳ぎまくった目。どちらもあまり嬉しいものではない。

「お前ら本当にそれでいいのか? こんな卑怯な手を使っておいて、どのツラ下げて皆に手柄を誇るつもりだ?」
「今回の一件において、卑怯な手を使わなかったヤツなんて居やしないよ。勿論、オマエも含めてね」
「だからってコレは……コレは無いと思うよマジで! オイお姫様! お前だってそう思うだろ!?」
「それは……」
「思わないのか?」
「う~ん……」
「本当は思ってるんだろう?」
「……まあ、いいかなって」
「何がだよ!」

 蓬莱山輝夜、あっさり変節するの巻。
 冷静になって考えてみれば、こんなチャンスを逃す手など無い。誰だってそーする、彼女もそーする。

「はなせーっ! ちくしょう、こんな理不尽あってたまるか! 私は幻想郷を、いや地球を救った英雄サマだぞっ!」
「うはははは。飛んで火に入る天邪鬼、鬼人も鳴かずば撃たれまいってね……どうした輝夜?」
「ピコーン、トロフィーゲット!」
「うわっ、このタイミングで何だよ」
「『究極反則生命体』の異名を手に入れた……ねえ妹紅、究極と生命体は兎も角として、反則って何のことかしら?」
「さあ? 皆目見当もつかんよ」
「なにすっとぼけてやがる! どう考えてもお前らの事だろうが! ええい、こんな終わり方認めねえ! 断じて認めてなるものかああああああああああぁッ!」

 戦いは終わった。
 転覆と滅亡の危機に瀕していた幻想郷は、二人の少女の活躍によって辛くも難を逃れたのである。
 だがしかし! これで全ての脅威が取り除かれたわけではない。幻想郷の平和など、所詮は砂上のバベルに過ぎないのだから!

「次なる戦いに備えて、超小型プランク爆弾を沢山拵えておかないと……妹紅も暇なら手伝って頂戴ね?」
「いや、手伝えって言われても……チョット待て! アレ手作りだったの!?」
「ええ、昔お爺さんに教わったの」
「竹取のジジイ何者だよ!」

 戦え、蓬莱山輝夜! 負けるな、藤原妹紅!
 幻想郷の未来は、君たち二人の手の中だ!
(プランク爆弾的な意味で)

 本編と関係ないけど、ネバーダイズって何だか納豆みたいだね。
平安座
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コメント



0.680簡易評価
3.70絶望を司る程度の能力削除
カオスww
4.90奇声を発する程度の能力削除
勢いもあって面白かったです
7.60名前が無い程度の能力削除
>「さあ? 皆目見当もつかんよ」
明らかにスルーする気満々のこの台詞だけ面白かった
8.80名前が無い程度の能力削除
究極反則生命体は強敵でしたね・・・
10.90名前が無い程度の能力削除
こういうくだらない話大好きだww
13.100名前が無い程度の能力削除
正邪ェ…
まあ、確かに蓬莱人って究極反則生命体ですよね
15.80爆撃!削除
いい感じのてるもこでした。
竹取の翁を出してくるのは卑怯ですよ!
17.90名前が無い程度の能力削除
結論:竹取の翁最強
安定の平安座さんクオリティ。次回作もお待ちしております。
20.90非現実世界に棲む者削除
ノリが凄い。すらすらと読んでしまうほどに。
面白かったです。
25.100名前が無い程度の能力削除
思わず真似したくなるノリ。