Coolier - 新生・東方創想話

星降る夜に

2014/05/24 01:55:45
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 さらさらと笹の葉が静かに揺れる音がする。夜の竹林は月に照らされ、柔らかな青白い光りに包まれている。まるで静かな水底を連想させ、月の海を想像させる。
 そんなことを考えながら一人の少女が歩いて行く。艶やかな黒髪は月の光を受けて輝き、桃色の上着と赤色のロングスカートは和服に似たデザインで、月や桜、竹などの金色の刺繍が美しく輝いている。まるで平安貴族の娘のような出で立ちの少女は名を蓬莱山輝夜と言い、この迷いの竹林にある永遠亭と呼ばれる建物に住む月からやって来た姫君だ。
 輝夜は夜の散歩としてこの竹林をどこに行くかを決めている訳でもなく、右に左に時には道を外れながら、気の向くままにふらふらと歩いていた。
「はぁ、どこかに面白い事って無いかしら?」
 ため息混じりに空を見上げれば、夜空には沢山の光の雨が降っていた。月が出ているにもかかわらず星まで流れているとは滅多に無い状況で、最初はその美しさに感動していた流星群だったが、それも光の如く感動もすぐに過ぎ去り、再び暇を持て余していた。
「海に飽き、空に飽き、退屈は人を殺すというけれど、本当に毎日こうだと精神が崩壊してしまいそうだわ。いっそ一回退屈に殺されてみたら新しい刺激があるんじゃないかしら……」
 ぼやいては道を曲がり、ため息をついては道を外れ、どこにあるとも知れぬ面白い何かを求めて姫は退屈の海原を行く。
輝夜はずっと探していた。不死の存在、永遠を生きる自分がずっと夢中になれる何かを。自分の従者から教えられた『やりたい事を探す事をすればいい』という言葉にしたがって。けれども、何をしようとも満たされる事は無く、どれもこれも数日で飽きてしまっていたのだった。
そんな時、再び海原を漂う彼女に向かい灯台の明かりが輝いた。はるか向こう、流星の流れる先へ、星の流れに逆らうように一筋の光が空を駆けていた。それは意思を持つかのように曲がりくねり、空を自由に飛び回った後に再び地上へと戻っていった。
「今のは一体……」
 そう呟いた時、まるで目が覚めたかのように輝夜の体はぴんと背筋が伸びた。そしてその目は夜空の星に負けぬほどに輝き、表情は子供用に生き生きとしていた。
「きっと何かあるに違いないわ、早速行ってみましょう!」
 言葉の途中から大地を蹴り、ふわりと体を中に浮かべる。そして流星と並走するかの如く竹林を飛び出し、空を飛んでいったのだった。

 * * *

 風の一つも無い夜の草原に、一陣の風が吹き込んでくる。空から押さえつけるようにふく風は、一人の少女から流れていた。
「よっと、まだ速さが足りないな、やっぱり手に触れていないと出力を上げるのは難しいか……」
 風の吹く方、空から降りてきたのは箒に乗った魔女。金髪に黒いとんがり帽子、まるで絵本からそのまま取り出してきたかのような見た目の魔法使い、霧雨魔理沙だった。
 宙に浮いた箒から飛び降りた魔理沙は、すぐにポケットから小さな手帳とペンを取り出すと何かをメモし始める。開かれたページには既に沢山の文字が乱雑に、方向もバラバラに書かれていて、彼女以外には読解が不可能に近い書かれ方をしていた。
「さて、どうやったら箒にミニ八卦炉を取り付けても出力を保てるのか……」
 彼女は悩んでいた。新しい魔法を開発しようと奮闘しているのだが、それがなかなか上手くいかなかった。
「操作性はいいんだけどなー、どうしようか。あまり早くても風の抵抗が……」
 ああでもないこうでもない、メモ帳片手にうんうん唸っていると、不意に風が頬を撫でる。しかし今日は風が吹いてはおらず、風が起こるなら何かが動いているに他ならない。魔理沙はその正体を探るべく辺りを見回す。すると、夜空の星とは別に、小さな人影が見える。
「ん? 誰かこっちに来る?」
 その人影は徐々に大きくなると、見覚えのある姿になっていった。
「あれは、確か永夜異変の……」
 それは前に起きた永夜異変の時に出会った竹林の姫、蓬莱山輝夜だった。

 * * *

 光の落ちていった方へ飛んで行くと、開けた草原が見えてくる。そしてそこに一つの人影が見える。
「あれは、確か魔法使いの……」
 遠くからでも魔法使いと分かる格好の人物を前に見たことがあった。永夜異変の際に自分の場所まで乗り込んできた何人もの人や妖怪の中にその人を見た。
「霧雨魔理沙だっけ、その後の異変でもよく話を聞いてたっけ」
 距離が近づくに連れてその姿と記憶がはっきりとして来る。向こうもこちらに気がついたのか、途中からずっと自分の方を見ていた。側に降り立ち、とりあえず挨拶を交わす。
「こんばんは、こんな夜に何をしているの?」
「蓬莱山輝夜だったか、魔法の練習をしていたんだ。星がよく見える時は特に力が出しやすくってね」
新しい魔法を試すには丁度いいんだと魔理沙は言う。確かに彼女が使っていた魔法は星をモチーフとしていたのを輝夜は覚えていた。しかし輝夜が気になっていたのはそこでは無く、新しい魔法の方だった。
「へえ……ところで、その新しい魔法って何なの? 確か私と弾幕ごっこしていた時は、凄く大きな光線を使ってたけど」
「ああ、これの事?」
 魔理沙は箒から箱のようなものを空に向ける。すると、次の瞬間まばゆい光が箱から空に向けて放たれた。それは周りを明るく照らしながら空に浮かぶ雲を散らし、どこまでも真っ直ぐに飛んで行く。そして満足したかのように光線は徐々に細くなっていくと、最後には月と星が照らす静かな夜へ戻った。
「軽くだけど、これくらいならすぐに出せるようになったんだ」
「これくらいって……」
 にこりと笑う魔理沙を輝夜は驚いたように見つめていた。軽くと本人が言っていた今の光線は、確かに自分が初めて魔理沙と戦っていた時に見た技と全く同じように見えたからだ。
「貴女、これ私と戦っていた時と殆ど同じ勢いに見えるわよ? いや、今の方が力強くさえ見える……」
「私の魔法の力の源は星だからね。それに、私はいつまでも昔のままじゃない。いつもこうして練習してるから」
 魔理沙はなんでもない事のように輝夜に話す。
 昔のままではない、その言葉が輝夜の胸を激しく叩いていた。
「……そんな簡単に変わる事が出来るものなの?」
「うん?」
「私はきっと、貴女よりもずっと生きているわ。ずっと色んな物を見てきた。だから言うけれど、何も変わらないわ。いつの時代も人なんて、みんな同じ事を同じようにしかしてない」
 私もその中の一人なのだ、どんなに長い歴史を隔てても、大きな事件が起ころうとも、人は必ず同じ事を繰り返す。なんて退屈なのだろう。だから何をやっても飽きてしまう。
 それこそ輝夜が何をしても飽きてしまう全ての原因。結果を知っているからこそ全てを諦めてしまうことだった。
だからこそ輝夜は疑問を抱いた。目の前の魔法使いはさらりと昔とは違うと言い切った。人なんてそう変わるものでもないのに。何故変わったと言い切れるのか。その疑問と、答えを同時にぶつける。
「結局長い目で見れば人なんて変わることなんてありえないのよ。なのにどうして貴女はそう簡単に変わったと分かるの?」
「……えーっと、ようするに私に人生相談をしろって言ったの?」
 魔理沙の困ったことを伝える苦笑いで輝夜は我に返る。
「……あ」
輝夜は思わず顔を赤くする。ついムキになってしまった。普段こんなに人に自分の心の内を話すことなんてなかった。どこかで自分でも知らないうちにずっと溜め込んでいたのだろうか、視線を外しながらそんなことを考えていると、魔理沙が話し始める。
「まあ、私より長生き……だと思うお前に人生相談をするのも変な話だけど、言えるとしたら、私が変わったかどうかはさっきお前が教えてくれたよ」
「私が?」
「ああ。さっき私が空に向けて軽く魔法を撃っただろう? 私は軽く撃ったつもりだけどお前はあの時と変わらないって言ってくれた。つまり力を入れなくてもあの頃と同じくらいのものは撃てるように成長したってことだろう?」
「確かに、そうね……」
「自分で変わったかどうかなんて、人から教えてもらえない限り私には分からないよ」
 だからこそ、と言って魔理沙は輝夜の方をしっかりと見据える。
「私は人から認められたい、大魔法使いと言ったら私が出てくるようになりたい。まあ、その為にはまだまだ超えないと行けない奴らはいっぱいいる。それこそ、星の数くらい」
まだまだ先は遠い。それでも魔理沙は笑っていた。それは輝夜には月よりも美しく、姫である自分よりも輝かしい物に見えた。
「……貴女は楽しいの? そんな先が見えない事をしていて、不安になったりしないの?」
「ああ、楽しいね。そりゃあ自分よりもはっきり強いと分かる奴はたくさんいる。そんな奴を見て不安になることだってある。でも魔法そのものが私にとっては楽しいからな、不安より楽しいって事の方が大きいよ。お前にはそういうの無いのか?」
「私は……」
 正直に言えば無かった。この長い生涯、そんな感覚も既に無くなっていた。努力しても最後には無駄になる。時間の流れの前では、どんなものだって失われていく、輝夜はそう思っていた。
 そうして、思い返すことしばらく、既に記憶は地上に赤ん坊として落とされた私を拾ってくれたお爺さんとお婆さんに出会った頃まで遡っていた。
 見るもの全てが新しくて、自分から新しい事に挑むほど二人は私を褒めてくれた。それが嬉しくて、他の事にも次々と挑戦していった。気がつけば私は真面目な子だという評価を受けていた。大罪を犯したにもかかわらずだ。お爺さんとお婆さんが私の事を他の人にも話して聞かせたからだ。照れくさかったけれど、沢山の人から真面目だと言われて嬉しかったことを覚えている。何よりも私と同じくらいの笑顔になっていた二人の顔がとても印象的だった。
「こんな私にも、あったのね……」
 小さく、人には聞き取れないほどに小さく、けれどはっきりと自分には聞こえるような声で呟いていた。それを自分の中で確信に変えるように、魔理沙に向かって同じ事を伝える。
「私にも、私にもあったわ。人から認められて嬉しいと思ったこと。もっと続けてみようって、そう思えることが……」
「だろう? 最後には自分がそれが好きかどうかだけど、やっぱり人に認めてもらうのが一番なんだよ。はっきり自分がやった事に対して実感があるからさ」
「そうね……なんで忘れてたんだろう、あんなに嬉しかったのに……」
「長生きしてボケたからとか?」
「酷いわね、こんな美少女を年寄り扱い?」
「自分で長く生きてるって言ったのに……」
 静かな夜に笑い声が響き渡る。誰かと笑い合うことでさえ、輝夜は久しぶりに感じていた。
「で、どうだった? 私の人生相談は」
「ええ、とても為になったわ。ありがとう」
「あ、あれ、結構真面目に返ってきたな……」
 心から言ったことが逆に予想していなかったのか、魔理沙は少しだけ動揺した。それが可笑しくて輝夜は小さく笑う。
「ふふ、まさかこんなにしっかり答えて貰えるなんて思わなかったわ。私も見つけたいわね、貴女みたいに夢中になれる何かを」
「その内見つかるだろ、お前なんていくらでも時間があるんだし」
「見つからないから困ってるんじゃない」
「まあ、そうじゃなかったら人生相談なんて持ちかけないだろうな。とりあえず暇なら空でも眺めてみればいいんじゃないか? 星は見てて飽きないと思うけど?」
 そう言って魔理沙が空を指差す。空は徐々に紫色へ変わり、徐々に夜が明け始めていた。星の輝きは全く見えない。
「……どこにあるのかしらね?」
「……あれだ、太陽が眩しいだけだ」
「全く……さっきまで尊敬していたのに」
「それはずっとしていていいんだけど」
 けれど二人は空から目を離さなかった。これから来る夜明けを待とうと思ったからだ。
「そろそろ夜明けね」
「だな。普段なら家で寝てるんだが、偶にはこういうのもいいな」
「ええ。本当に、夜明けの美しさだけはいつの時代も変わらないものね……」
 山の向こうから静かに太陽が登る。柔らかな光が静かに二人を包み込む。草原の朝露が日の光によって輝き、星がそのまま地に落ちたようにも見えた。いつもより軽やかな気分で朝を迎える輝夜の横で、魔理沙は大きなあくびをする。
「ふわあ……はあ。やっぱり寝てないのかと思うと急に眠気が襲ってきた……私はもう帰るかな。寝不足は乙女の天敵だからな」
「あら、可愛いことを言うのね」
「私だって立派な乙女なんだけどな。ふわあ……はあ、ダメだ冗談抜きで眠い。じゃあな」
「ええ、おやすみなさい」
 本当に眠そうな魔理沙は飛び方も夜の力強い動きはどこへ言ったのか、かなりのんびりした速さでゆっくりと箒で飛んでいってしまった。一人残された輝夜はもう一度空を眺める。
 空は徐々に青くなり、太陽もゆっくりと高く登っていた。新しい一日の始まりだ。
「誰かに認められたい、か……お姫様なんだからそれが当たり前だと思ってたけど、ぜんぜん違うのね」
 帝の求婚を受けた事もあった。何をすることもなく愛でられていた事もあった。
 けれどそれはあまりに特別なだけで、本当は魔理沙のように努力しなくてはいけなかったのだ。人から認められるためには、それ相応の努力が必要だったのだ。
「……永琳、私見つけたわ。自分のやりたい事。そうと決まれば、早速準備しないとね」
 沢山の人から注目されたい、凄いのだと賞賛されたい。ならばみんなに見せてやればいい。月から来た姫はとてもすごい存在であるということを。
「私の集めた月の宝物をみんなに見せびらかせないと、ああでも優曇華の盆栽を育てて自慢するのもいいかも? ふふ、ああ忙しいわ、やることがいっぱいね!」
 輝夜はこれからの事を想像して笑顔になる。そして軽やかに空を飛び出すと、昨夜の魔理沙に負けないほどのスピードで竹林へと飛び立っていった。
 それから数日後、『月都万象展』と呼ばれる博覧会が開かれたと言う。
初めましての方は初めまして。そうでない方はどうも、折り畳み傘です。
月日は流れるもので、私もついに社会人になりました。その記念すべき社会人初作品です。
初めは輝夜に『命短し恋せよ乙女』を歌わせたかった所に始まり、書いているうちにどんどん話が迷い、気がつけばこのような結果に。最初のセリフはどこ行った……?
でも結果としてはちゃんと纏まったし、私も満足した出来なのでいいかなと思いました。
不慣れなこともありますが、定期的に作品を書くことを目指して魔理沙みたいに私も頑張ろうかなと思います。
最後にここまで読んでいただき、ありがとうございました。またお会いする時がありましたらよろしくお願い致します
折り畳み傘
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コメント



0.250簡易評価
1.90非現実世界に棲む者削除
とても素敵な作品でした。
3.80名前が無い程度の能力削除
不老不死は本当に生きがいを失いそうですよね。
どんなに強い相手でも50年もすれば絶対に勝てるもしくはいなくなってるのですし、旬を楽しみ続けるしかないのでしょうが…。
今を必死に生きているという意味では、魔理沙ははまり役なのでしょう。
6.90奇声を発する程度の能力削除
うん、良いですね
7.80車に轢かれる程度の能力削除
どんどん投稿して下さい。あなたの作品もきっと変わっていく筈です。
8.100名前が無い程度の能力削除
どんなに先が長くても、魔法が好きで、不安よりも楽しさが勝り、努力し続けて、人に認められ、大魔法使いとなりたい。素敵な生き方ですね。読んで元気になれました。ありがとうございます。
9.無評価折り畳み傘削除
皆さんコメントありがとうございます!
今後もいい作品が作れるように頑張ります!
10.90名前が無い程度の能力削除
魔理沙にはいつか夢を叶えて欲しいですね。