Coolier - 新生・東方創想話

バンドで死ね

2014/05/10 17:28:44
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「バンドやりましょう、バンド」

 守矢神社に乗り込んで来るなり、鈴仙さんは私に対してこんな事をのたまいました。
 まったくもって巫山戯た話です。何の前置きも無くバンドに誘われた私が「え、あ、はい」と答えるとでも思ったのでしょうか。

「いきなりそんな事言われても……私には風祝としての仕事もありますし」
「いいじゃない。現役風祝のバンドなんて、話題性バツグンだと思わない?」
「思いません。だいたい今バンドを始めたところで、鳥獣伎楽の二番煎じとか言われるのがオチじゃないですか」
「大丈夫。どんなブームであれ、最低でも二番手まではその恩恵に与れるものだから」

 志が低すぎます。まるでお話になりません。
 そういえばこの鈴仙さんって、鳥獣伎楽の追っかけか何かをやってるんでしたっけ。
 見る側から演る側にシフトするつもりなのでしょうが、私がそれに付き合ってやる必要なんてありませんね。 

「興味ねーです。帰ってください」
「もう早苗しか頼る相手が居ないのよ。他の皆には断られてしまったし……」
「ちょっと待ってください。他の皆ってどういう事ですか?」
「紅魔館の咲夜とか白玉楼の妖夢とか。あとは地霊殿のお燐に命蓮寺の寅丸さん。物部布都や鬼人正邪なんてのも居たわねえ」
「5ボスばっかりじゃないですか! それなのにこの私が最後ってどういう事です!? そこはかとなく悪意を感じるのですがっ!」
「失礼ね。5ボスだけじゃなくて、4ボスや3ボスの連中も誘ってみたわよ。もちろん結果は全滅だけどね」
「わたし! わたしを先に誘うべきでしょうがっ!」
「ぶっちゃけた話、私アナタの事嫌いだし」
「何ぶっちゃけてくれてるんですかっ!? そんな事だから他の皆にも断られるんですよっ!」

 傷つくとか腹が立つとかよりも先に、鈴仙さんの人望の無さに軽く引きました。
 そもそもバンドなんてものは、各勢力ごとにでも組めばいいんです。
 無理して他所のヒトを誘おうとなんてするから、こういった悲劇が起きてしまうんですよ。

「永遠亭でバンド組んだらいいじゃないですか。身内同士の方が何かとやりやすいでしょう?」
「やりやすい? またまたご冗談を。それこそ何が起こるか分かったもんじゃないわ」

“ねえねえ永琳。鈴仙のアレやコレやらを鍵盤にして、悲鳴で歌うオルガンを作ろうと思うのだけど……永琳はどう思う?”
“素晴らしい。それは良いアイデアよ輝夜”

 ……おおっと、なにやら猟奇的な想像を働かせてしまいました。流石にコレは無いですよね。無いと思いたい。
 まあ確かに、目上の人と一緒だと自由にやれないってのはありますよね。
 私だって神奈子様や諏訪子様とバンドを組むような事があったとしたら、やっぱり気を遣ってしまうと思います。

「まあそういう訳だから、よろしく頼むわよ早苗。この通り!」
「ちょっ、土下座なんかされても困りますって! あなたにはプライドってもんが無いんですかっ!?」
「フッ……そんなもの、大気圏突入時に燃え尽きてしまったわっ」
「全然カッコよくねーですよっ!」

 正直な話、ちょっとだけカッコいいかなーって思っちゃいました。だって大気圏ですよ大気圏。私も一度は突入してみたいものです。生身で。
 しかしこの土下座、こちらを向いているのは両耳だけで、肝心の頭はあらぬ方角に向いていますねえ。
 これはアレでしょうか。どこぞの傾き者よろしく「オマエに頭を下げるけど、本心から下げるわけじゃねーぜ」的なアピールなのでしょうか。
 だとしたら台無しです。ここは思いっきり踏みつけてやるべきしょうね。土の味を味わうがいいです。

「まあ、形式的な土下座は置いておくとして……何してるの?」
「何してるの? じゃありません! 自分で形式的とか言ってどうするんですかっ!」

 どうしましょう。いきなり頭を上げるもんだから、振り上げた足のやり場が無くなってしまいました。
 鈴仙さんむっちゃ見てます。ガン見です。主に私のスカートの中を。
 まあ相手は一応同性ですし、見られて減るもんでも無いのですが、やはり少々癪に障りますね。

「自己を表現するのに性的な手段を用いるのは結構だけど、どうせならニーソックスの一つや二つ履いてみようとは思わないわけ?」
「なに勘違いしてるんですか。何が悲しくて万年発情兎を相手に、自分を切り売りせにゃならんのです」
「幽谷響子やミスティア・ローレライのエロスを十とすると、今の早苗はどう贔屓目に見ても二か三てところね。エロスできるよう精進なさい」
「そりゃアンタの趣味でしょーがっ!」

 新聞でしか見たことありませんが、確かに鳥獣伎楽の二人の格好はエロかったです。
 このまま鈴仙さんとバンドを組んだ場合、私もあんな感じの衣装に身を包む事になるのでしょうか。

「『ウサギスティック・ミコ・バンド』というのはどうかしら?」
「……何の話ですか?」
「いや、バンド名よ。アナタと私の」
「だから組みませんって! それにその名前、めっさ有名どころのパクリじゃないですか! タイムマシンに一体何をお願いするつもりですかっ!?」
「早苗、歳がバレるわよ」
「年齢ネタを蒸し返さないでください! いいじゃないですか幽玄道士知ってようとミカバンド知ってようと! それは個人の自由ってもんでしょう!?」

 第一それを言うのなら、なぜ鈴仙さんが外の世界のバンドを知ってやがるのか、ってハナシですよ。
 もしメタの一言で片付けてしまうつもりなら、もう容赦はしません。お望み通りウサギにスティックをブチ込んでやります。ぐふふ。

「私の耳は特別製でね。外の世界から入り込んでくる電波を拾うことができるのよ」
「外の世界から? でも、確か幻想郷には結界が張ってあって……」
「あんなガバガバユルユルの駄目結界なんて、あって無いようなものじゃない」

 なんというか、霊夢さんや紫さんが聞いたらブチ切れそうな発言ですねえ。
 まあ確かに、幻想郷は外の世界からエネルギー的なものを頂戴しているらしいですからね。
 テレビやラジオの電波が入って来ていても不思議ではないでしょう。鈴仙さんがどのような形で受信しているのかは謎ですが。

「早苗の出身地は諏訪ってところだったっけ。って事は甲斐国のバンドだから、甲斐バン……」
「言わせませんよ!? あと諏訪は甲斐じゃねーです。わざわざ令制国まで持ち出してボケないでください」
「ああ、諏訪は信濃国だったわね。じゃあ信濃バンド……信濃町バンド!?」
「わああああああああぁっ! いけません! それ以上はいけませんよっ!」
「みんおん!」
「やめろっつってんでしょうが馬鹿ウサギがっ! 例の宗教法人を呼び込むつもりですかアナタは!?」
「宗教なんてくだらねえぜ! 私の歌を聞けー!」
「過激にファイヤー!?」

 強引な締め括り方だとは思いますが、正直な話、この話題が終わってくれてホッとしました。
 幻想郷の宗教戦争には、いつまでも牧歌的であって欲しいものです。妙なしがらみや圧力に囚われる事無く、あくまでノビノビと。

「早苗にはボーカルをやって貰おうかしら。どうせ楽器なんて弾けないだろうし」
「馬鹿にしないでください。私だって一応義務教育は受けてるんですから、縦笛くらい吹けますって」
「男性教諭のアルトリコーダーを楽器に含めるのは、正直どうかと思うわ」
「いきなり下ネタにもっていかないでください!」
「ああ、妖力スポイラーってそういう……」
「まだ言うか!」

 念のため申し上げておきますが、そのような事実は一切ありませんのでごあんしんください。
 まあ、リコーダーの吹き方なんて忘れてしまいましたけどね。もちろん楽器の方です。念のため。あくまで念のため。

「でも私、歌唱力に自信なんてありませんよ」
「信州生まれJ-POP育ち、悪そうな奴は大体友達のアナタなら、カラオケくらい行った事あるでしょう? その程度で十分よ」
「またそういう懐かしいネタを……」
「なんならラップでもいいのよ? 博麗霊夢でも聖白蓮でも豊聡耳神子でも、好きなヤツを公開処刑してやったらいいわ」
「物理的なアンサーが返って来そうな人ばっかじゃないですか!」

 そういえばこの間、霊夢さんと飲酒の是非を巡って小競り合いになりましたっけ。
 あれはヒップホップで言うところのビーフに当たるのでしょうか。日本ではあまり流行しなかったアレに。
 家族や友人にマジ感謝している方が平和でいいですよね。平和が一番です。うん。

「とりあえず早苗はボーカルで決定ね。あとバンドに足りないものは……」
「ボーカル以外の全部でしょう。最低でもギターとドラムくらい居ないと……」
「ドラムならもう居るわよ。ここへ来る道中で拾ってきたから」
「……えっ!?」

 鈴仙さんは徐に薬箱の蓋を開け、中から何かを……違う! 誰かを引きずり出した!
 今更こんな事言うのもアレですが、薬が入っているにしては妙に大きいなーって思ってたんですよ。
 でも、人が入っていたなら納得ですね……いや、納得いかない。そこまで常識捨てちゃあいません。

「……ん~? ここどこ……?」
「紹介するわ。こちらはドラムの付喪神、堀川雷鼓さん。ラインハルト堀川って呼んでね」
「ラインハルトっていうか、むしろキルヒアイス広中って感じですよね。髪の色とか」
「早苗、歳が……」
「いい加減年齢ネタがしつこいですよ、鈴仙さん!」
「アー……ジークいいわよねジーク、マジ可愛い……ところでお嬢チャン歳いくつ?」
「アナタもです!」

 何でしょうコレは。馬鹿が二人に増えたとみるべきでしょうか。
 しかしこの雷鼓さんとやら、それほどドラムの付喪神って感じには見えませんねえ。
 どうせならもっと分かりやすくすればいいのに。例えば……そう、太鼓腹とか。

「……なんにせよ、これでようやくバンドが組めるというものね。ボーカルの早苗に、ドラムの雷鼓。ギターは……まあ、私が何とかするわ。波長使って」
「いや、だから私はやりませんって。話の勢いに呑まれそうにはなりましたけど」
「ん~……私もパスかな。あまり他人とつるむのって好きじゃないのよね、雷鼓的に」

 ははは、鈴仙さんフラれちゃってやんの。
 まあ、当然の結果と言えるでしょうね。彼女の様なド外道兎と組んだところで、何もいいコトありませんから。

「私は風の様に自由気ままでいたいのよ。雷鼓・ア・ウィンドみたいな?」
「自由に束縛されているようでは、本当の意味で自由になったとは言えないわ」
「それもそうね。いいわ、ドンちゃんのバンドに加わってあげましょう」
「ドンちゃんじゃなくて優曇華院……つうか鈴仙と呼びなさい」
「ウフフ、気にしない気にしない」

 えっ? そんな軽いノリでいいんですか?
 鈴仙さんへの呼称はどうでもいいとして、あっさり前言を撤回しちゃうとか、幾らなんでもフリーダム過ぎるでしょう。

「流石は私が見込んだ女。それに比べて早苗の煮え切らないこと……」
「な、なんですかその非難がましい眼差しは。私はぜーったいに嫌ですからね!」
「そんな素直になれない早苗ガールのために……雷鼓ねえさんから素敵なビートのプレゼント」

 あっ! 雷鼓さんってばいつの間にやらドラムセットを取り出して……ドラムかなぁ。
 なんか大太鼓らしき物体に腰掛けて、そんでもって周囲に浮かぶお盆めいた何か……どこかで見たような……そうだ、ドリフだ!
 まるで今の雷鼓さんは、まるでまるで雷様のようじゃありませんか! ウクレレとか弾けそうですね。

「それじゃあ叩くわよ……ほうら叩き始めた」
「いや、見れば分かりますって……はっ! こっ、このビートはまさか……!」
「どうも。えー、司会の鈴仙・優曇華院・イナバババ……出演は東方Projectの堀川雷鼓さん、それと東風谷早苗さんです。どうも」
「どうも」「どうも」
「まず、堀川さんから伺いますが、U・Tという言葉をご存知じじじじじ?」
「えー、Y・Tなら知っていますが、U・Tというのは初めて聞きました」
「そうですか。東風谷さん、U・Tというのは、あーどんな意味みみみみ……?」
「はい、あー……超地球的存在です」
「そうおですかあぁぁ……ところで、この曲の堀川さんのドラムすごいですね」
「えぇ、すごいです」
「う~。じゃ、BGMのこの曲お聞きになりますか?」
「「まさかっ!」」

 今の寸劇は何だったのでしょうね。うら若き娘である私には、何が何やらさっぱり分かりませんでした。ホントですよ?
 ただ、雷鼓さんの大鼓叩きテクニックがスゴイって事だけは分かりました。身体の奥底から何かが湧き上がってくるような、まさに始原のビート、みたいな?
 鈴仙さんは兎も角、このヒトと一緒だったら……私でもヤレるんじゃないかって気がしてきちゃいました。なんていうか、こう……ノリと勢いだけでも。

「どうするコッチン。やっちゃう? 雷鼓とドドンガドンちゃんと一緒に、バンド旋風巻き起こしちゃう?」
「コ、コッチン? う~ん……じゃあ、ちょっとだけ……」
「かくして、ウサギスティック・ミコ・バンドは目出度く結成へと漕ぎ着けたのであった」
「鈴仙さん何故にナレーター調?」

 兎、棒、巫女……ああ、棒ってのは雷鼓さんのドラムスティックの事か。ちょっと強引な気がしますね。
 しかし、バンドを組んでまず何をすればいいのでしょうね? いきなりライブなんて無理だろうし、とりあえず練習?

「早速だけど、今晩催される鳥獣伎楽のライブに殴り込むわよ」
「いきなりですか!? ま、まだ心とか技術とかの準備が……」
「その辺はおねーさん達に任せておきなさい。という訳でドンドコドンちゃん、運搬ヨロシクね」

 そう言って雷鼓さんは、元々入っていた薬箱の中へと器用に身体を収納して……気に入ってしまったのでしょうか。
 呼称へのツッコミを諦めたとみえる鈴仙さんは、何も言わずに薬箱を担ぎ上げ……あっ、微妙にシェイクしてる。やっぱり少々ご立腹?
 そんなこんなで、私たちは鮮烈なデビューを飾るべく、麓に向けて歩き始めたのでしたが……。

「あっ守矢の巫女だ侵入者も一緒だ待て撃て殴れ斬れ殺せ捕まえろ拷問だとにかく拷問にかけろ!」

 巡回中の白狼天狗の一団に捕捉されてしまいました。
 相手は五人でこちらは二人(加えて、予備戦力が一人)なのですが、所詮は雑魚なので楽勝で蹴散らしちゃいました。

「ごふっ……我々を倒したくらいでいい気になるなよ。天狗を敵にまわした以上、お前達は生きて山から出られない……」
「死んでも出てやるわよ」
「我々は単なる名無しだが、すぐに名前持ち(ネームド)の仲間がやってきてお前達は死ぬ」
「死んだらバンドが出来ませんね……」

 しばらく進むと、また白狼天狗さんが現れました。
 ただし今度は一匹、いや失礼、一人だけです。コイツがネームドとやらでしょうか?

「私の名前は犬走椛……お前達の無法っぷりは千里眼でバッチリ見ていたぞ」
「見られていたとは……」
「私は他の白狼天狗の三倍強い。スペカもセリフもあるから自機経験者であろうと簡単に殺せる」
「アンタ、立ち絵無いジャン」
「うあああああどうでもいいだろ死ね!」

 椛さんは体力が通常の三倍あって、エクスペリーズカナンやレイビーズバイトなどの技も使いますが、所詮は中ボスなので楽勝でした。

「ごふっ……許してくれ。私は上に命令されて仕方なくお前達を襲ったのだ。私は悪くない被害者だ」
「悲しい物語ですね」
「だが、私が敗れた事によりすぐに次の追っ手がくる。今度は鴉天狗が二人だハハハお前達絶対死んだぞ」

 彼女の言った通り、今度はカメラを携えた天狗が二人やってきました。
 一人はよく見かける射命丸文さんで、もう一人は姫海棠はたてさんのようです。

「これは珍しい組み合わせですね。是非とも取材したいところですが、今は任務が優先なのでアナタ達には死んでもらいます」
「私的にはどっちでもいいんだけど、文に手柄取られるのも癪だから死んでもらおうかな」
「なんで皆さん殺意剥き出しなんですかね? やっぱりバンドやめようかしら……」
「諦めちゃ駄目よ、サナティ。雷鼓も箱の中から応援してあげるから」

 文さんもはたてさんも流石に強く、撮影の技でこちらの攻撃を消したりして苦戦は避けられません。
 ただ、はたてさんは射程距離が短めなので、前列に鈴仙さんを出して攻撃を受けてもらい、私が遠距離からはたてさんを倒して形勢逆転。
 残った文さんは二人掛かりでボコボコにして、結果的には楽勝でした。

「ごふっ……はたてが先にやられさえしなければ勝てたのに……」
「ごふっ……文の分際でヒトの所為にするんじゃないわよ……」
「まあ地上の生き物だし、この程度が関の山……あっまた誰か来た」
「私は大天狗だが、お前達には部下が世話になったようだな」
「天狗の親玉でしょうか。見るからに強そうですね……」
「ハハハ私は実際強い。射命丸と姫海棠を足して三倍したよりモットモット強いので死ね」

 体力も攻撃力も高く、時間が経つと部下の天狗を呼んだりするのですが、精神耐性を持たないため鈴仙さんの狂気の瞳で混乱させられます。
 しかも、混乱中に呼ばれた天狗は何故か私たちの味方扱いになるため、終わってみれば楽勝でした。

「ボスの分際で耐性ガバガバとか、生きてて恥ずかしくないの?」
「ごふっ……私に勝った程度でいい気になるな。実は私は天狗の親玉ではない。あの御方が来たらお前達など怪獣一食、もとい鎧袖一触」
「あっまた誰か来ましたよ。しかもかなり強そう」
「私は天魔……妖怪の山の真の支配者……守矢の風祝よ、お前達はそろそろ目障りになってきたので死ね」

 ナントカ倒しました。

「流石は天魔……油断ならぬ強敵だったわ」
「雷鼓も心臓バックバクよ。箱の中から出る気はないけど」
「ごふっ……よくぞ私を打ち負かした。実は我々はお前達の力を試していたのだ」
「そうだったのですか」
「お前達なら辛く厳しいバンドの世界でも生きてゆけよう。私の敷いたレールはここまでだ。後はお前達自身の力で未来を……グハァ苦しい死にそう」

 天魔さん達を埋葬するのに手間取った所為で、麓に辿り着く頃にはすっかり日が落ちていました。
 鳥獣伎楽のライブは真夜中に行われると聞いていたのですが、私たちが会場入りしてみると、もう既に始まっており酷い雑音の嵐が襲う!

「もう茨歌仙でも茨木華扇でもどっちでもいいよ~♪」
「「「いいよ~イエー!」」」
「オギワラとハギワラくらいどっちでもいいよ~♪」
「「「いいよ~イエー!」」」

 会場の盛り上がりはピークに達しているようです。あんな歌でねえ……。
 正直な話、歌唱力であのバンドに負ける気がしません。確かに衣装はエロティックではありますが、それ以外に評価すべき点が見当たらないのです。
 これなら勝てる……もしかしたら私、バンドで天下取れちゃうかも?

「鈴仙さん、雷鼓さん、お二人とも準備はよろしいですか? いよいよ私たちウサギスティック・ミコ・バンドのお披露目と洒落込みま……」

 ふと気づくと、私の横には空になった薬箱が放置されていました。
 お二人は何処へ行ってしまったのでしょう。ひょっとして、もう既に殴り込みを決行してしまったとか?
 慌てて辺りを見回してみると、ステージ上に何やらキルヒアイスめいた頭髪の女……大太鼓に腰掛けて、お盆を叩きまくって……エエ~ッ!?

「イエー! 雷鼓・ザ・ライトニングイエー! 鳥獣伎楽とまさかのコラボイエー!」
「何よこのドラマー!? まあいいや。ミスティア! 新入り! 新曲いくわよ!」
「新曲イエー! 任せて頂戴イエー!」
「何をどう任せろって言うの~♪」

 あのアマ……本当に私たちのコト裏切りやがったんですかー!?
 いや待った。ひょっとしたら油断させておいて、後ろからスタブ・ユア・バックの算段かもしれない。
 とにかく、鈴仙さんと合流せねば。彼女は最前列に陣取り、屈強な妖怪さん達に混じってモッシュ的な行為の真っ最中。
 アレも作戦の内なら良いのですが……人混みを半ば泳ぐようにして、ナントカ彼女の元へ。

「鈴仙さん! ……って、何故に突然体勢を低く?」
「この位置で屈んでいると響子のパンツが拝めるのよね~。まあ、周りの客に踏み殺されるリスクが高いのだけど。二律背反……」
「こっ、この万年発情兎がっ!」

 なにライブをエンジョイしてるんですか。それも極めて駄目な方向に。
 私たち殴り込みに来たんですよ? それともアレですか、これも相手を油断させるための作戦?
 とてもそうは見えない。鈴仙さんも雷鼓さんも、殴り込みの事なんかすっかり忘れているのではないでしょうか。

「雷鼓さんが裏切ってしまったようですが、これは何かの作戦ですか?」
「いやホラ、彼女は自由に生きてるからね。自分の気持ちを裏切れなかったというか、まあそんなカンジ?」
「私たちを! 裏切って! いるじゃないですか!」
「う~ん……ではこうしましょう。不毛な殴り込み行為は中止にして、私たちも鳥獣伎楽のライブを存分に楽しむ。これなら誰も傷つかず、誰も裏切られずで皆ハッピー」

 何を……この……ええと……なんですかコレは?
 そもそも私をその気にさせたのは、他ならぬ鈴仙さんと雷鼓さんではありませんか。
 そのお二人が揃って私を裏切って……裏切ったな。私の気持ちを裏切ったんだ!

「どうしたの早苗? 気分が悪いなら先に帰った方が……」
「アンタが宇宙に帰れ! うっおーっ早苗アッパー!」
「ごふっ……!?」

 錐揉み回転しながらブッ飛んだ鈴仙さんは、そのまま低い軌道の放物線を描きつつ雷鼓さんの大太鼓に頭からブッ刺さり死ね。
 周りでモッシュしてた連中も驚いて静まり返り死ね。鳥獣伎楽の響子さんも私を指さして何か言おうとして死ね。

「そこの緑色! ケンカなら客席の中でやりなさい!」
「ああ!? ゴチャゴチャうっせーんですよ、このタコ!」
「ゴチャゴチャうっせーんですよ、このタコ……? ゴチャゴチャうっせーんですよ、このタコですって!?」
「いちいち復唱するんじゃねーです、この緑頭!」
「こらこら二人とも~♪ 緑色の頭同士でケンカはやめて~♪」
「オメェーはお黙りやがりなさい! このピンク頭!」
「ピ、ピンク頭!? ……上等だコラァ~♪ テメェちょっくら上がって来いやボケェ死なすゥ~♪」

 言われなくても花道オンステージ。裏切り雷鼓さんに一瞥を呉れた後、改めて鳥獣伎楽のお二人と対峙。
 ここからは音ゲーです。響子さんとミスティアさんが発射する音弾を、パンチとキックでタイミングよく破壊しましょう。
 タイミングを外すと私にダメージ。一曲終わった時点で私の体力ゲージが一定の値残っていれば私の勝ち。
 そして私は勝った! 負けた場合は私が爆発四散して死ぬみたいですが、勝ったのでどうでもいいです。

「ファックオフ! 私たちの新曲が通用しないだなんて……!」
「さあ、ここからは私のステージですよ!」

 どこからともなく飛来したマイクを受け取り、今度は私が音弾を発射する側に。
 これまた音ゲーでして、伴奏に合わせて歌声を発しなければなりません。タイミングや音程を外すとマイクが爆発して私にダメージ。
 一曲終わった時点で観客のテンションゲージが一定の値を越えていれば私の勝ち。
 もしも足りなかった場合は……怒った観客達によるRー18めいたお仕置きがあるとかないとか。
 まあ、今回は私が勝ったので問題なし。東風谷早苗は本日も健全なり。

「ごふっ……ま、まさか私たちが敗れるなんてなんてなんて(残響音含む)」
「ごふっ……も、もう歌すら聞こえない~……♪」
「やった……! ついに、ついに鳥獣伎楽をこの手で討ち滅ぼしてやりましたよ!」
「フフフ、おめでとう早苗チャン」

 私が喜びに打ち震えていると、雷鼓さんと鈴仙さんがアホ面並べて拍手なんぞしてやがって……また裏切ったんですかー!?
 どこまでフリーダムなのでしょうか、この人達は。誰かが教えてあげるべきなのでしょうね。自由には常に責任が伴うという事を。

「実は私たちは、アナタを試すために敢えて裏切ったフリをしていたのよ」
「そっ、そうだったとは!」
「全ては私のシナリオ通り。幻想郷最強のバンドマン……その称号は、今のアナタにこそ相応しい……」
「私が最強……」

 ふと気づくと観客席から私に向かって大歓声。
 よく見ると、先ほど倒した筈の天狗さん達や、鳥獣伎楽のお二人も加わっているようです。

「我々は名無しの白狼天狗だがおめでとう」
「私は犬走椛だけどおめでとう」
「私は射命丸文ですがおめでとうございます」
「私は姫海棠はたてだけどオメデトウ」
「私は大天狗だがいやぁめでたい」
「私は天魔だがめでたいめでたいうっ苦しい」
「私は鳥獣伎楽の幽谷響子だけどおめでとうとうとうとう(残響音含む)」
「私は鳥獣伎楽のミスティア・ローレライだけどおめでとう~♪」
「私は通りすがりのリリーホワイトですよオメデトウございますですよー」

 ありがとう。この場に集まった全ての方々に……マジ感謝。
 打ち震えながらマイクを握り直し、雷鼓さんと鈴仙さんの演奏に合わせて、私は喉よ裂けよとばかりに歌いまくりました。
 パンクロック、グランジ、ジャズ、R&B、ラップ、アニソン、演歌、懐メロ、浪曲、沖縄民謡、そしてカントリーミュージック……。
 するとどうでしょう。にわかに暗雲が立ち込め、雷鳴が轟き、空の彼方から異様な風体の一団が現れたではありませんか!

「グオォ……我々はワイルドハント……オマエが歌いし『ゴースト・ライダーズ・イン・ザ・スカイ』によって召喚されし者達……」
「そんな馬鹿な。『ブルース・ブラザース2000』じゃあるまいし……」
「オマエ達の歩むべき道は二つに一つ。即ち我々と共に永遠の狩猟と洒落込むか……若しくは死ね」

 ワイルドハントさん達はカウボーイ、中世の騎士、ヴァイキング、マサイ族、竹の子族、平家の落ち武者などで構成されておりゴキゲンに強そうです。
 ですが……百鬼夜行っぷりならコチラも負けてはいません。客席の面々が我先にとステージに上がり、私のバックにて戦いのダンスを開始。
 それらに加えて神奈子様と諏訪子様、霊夢さん、命蓮寺や神霊廟の皆さん、さらには永遠亭など幻想郷の各勢力がこぞって駆けつけ、ステージはまさしく混沌の坩堝!

「その程度の戦力で我々と戦う気なら……オマエ達は正真正銘のバカだな」
「ポッと出のコスプレ集団風情が何を生意気な! 1発でKOしてやりますよ!」

 私が啖呵を切ったと同時に、DJ気取りの鈴仙さんが「メキシカンフライヤー」を“放送”開始。この兎ホント何なんでしょうね?
 プリズムリバー楽団や九十九姉妹(雷鼓さんのお知り合いだとか)の演奏も加わり、弥が上にもテンション↑↑。
 キレッキレのダンスを披露する私たちに触発されたか、ワイルドハントの皆さんも負けじと暗黒舞踏めいた動き! 両軍共に一歩も譲らぬ構えです。

「征くぞ小娘! 狩られて死ね!」

 ワイルドハントさん達の禍々しいオーラと、私たちの神聖なる……ちょっとだけ禍々しいのも混じったオーラが激突する!
 吹き飛ばされそうになりつつも、私は金色に光り輝くマイク片手に前進し、あらん限りの力を込めて歌って踊れる現人神!
 轟音の中、鬩ぎ合っていた二つの力の均衡が破られ、突如として発生した衝撃波が此の世の全てを吹き飛ばす――!
 天が荒れ狂い、地が吼え猛り、そして幻想郷は崩壊した……。






 ふと気づくと辺りは荒野……満天の星空の下、幻想郷の住民達やワイルドハントの皆さんが入り乱れて死屍累々。
 幻想郷のみならず、まるで世界が終わってしまったかのような気分に打ち震えていると、どこからともなく調子外れの歌声が。

「パンを焼きながら~待ち焦がれている~♪ やってくる時を~待ち焦がれているぅ~♪」

 鈴仙さん、雷鼓さん、そして鳥獣伎楽のお二人が、一仕事終えたかのような表情で私の許へと歩み寄ってきました。
 彼女たちの歌や演奏に呼び起こされたのか、倒れていた方々も続々と息を吹き返し、一様に困惑の表情を浮かべつつ大集結を始めます。
 私の眼前に形成された人妖の群れは、争いの続きを始めるでもなく、ただひたすらに何かを待っているようです。しばらく経った後、誰かが声を上げました。

「よう、これからどうする?」

 発言の主が誰であろうと、この言葉が一群の総意である事に疑いの余地はありません。
 何しろ、それは私とて同じ事なのですから。それなのに……この心の昂ぶりは何なのでしょう。とても素晴らしいというか、ハラショーな気分というか……。
 チッチッという音に振り向いてみると、そこにはスティックを打ち鳴らす雷鼓さんの姿が。その隣には鈴仙さんが居て、私にウインクなんかをしてやがります。
 さて、どうしたものでしょう。とは言っても、私の心は既に決まっているのですけどね。私は己が魂の叫ぶままに、皆さんに対してこんな事を言ってやりました。

「バンドやりましょう、バンド!」

 まるでその言葉を待っていたかの如く、誰も彼もがイエーイエーの大合唱!
 改心したとみえるワイルドハントの皆さんも、武器の代わりに楽器を掲げて歓喜の雄叫び! さしずめワイルド“バンド”の結成とでも言っておきましょうか。
 その時大地が崩壊し、ついでに世界も崩壊して、私たち全員が宇宙空間へと放り出されてしまいました。
 ですが、恐れる必要はありません。私たちの足元には虹色に輝く道が存在し、果てしない銀河の彼方へと、どこまでもどこまでも続いているのですから!

「早苗、曲は何にするの?」
「また『メキシカンフライヤー』でいいですよ。その後は……歩きながら考えましょう。歌も時間もタップリある事ですし」
「まさに腕が鳴ること雷鼓の如しね……それでは、ミュージックスタート!」

 かくして、「ウサギスティック・ミコ・バンド」改め「東風谷早苗とワイルドバンド」の一団は、今ここに記念すべき第一歩を踏み出しました。
 私を先頭に鈴仙さんと雷鼓さんが続き、その後に他の皆様が列を成して、力強いステップを踏みながら星々の海を練り歩く。
 これより先、私たちは幾つもの惑星、幾つもの宇宙、そして幾つもの世界を渡り歩き、人々に音楽の素晴らしさを伝えていく事となるでしょう。

「あっ何か見えるあっアレは宇宙最大最強のバンド軍団! メンバーの数は無量大数を優に超え天の光は全て敵!」
「ククク……待っていたぞ東風谷早苗とワイルドバンド。リーダーにしてボーカルでもある私が直々に歌を披露するので死ね」
「こんなところで負けるワケにはいかないのです! アナタ達こそバンドで死ね!」

 ナントカ倒し、改心した彼らを仲間に迎え入れて宇宙が崩壊。
 このところ色々なモノが崩壊してばかりいる気がしますけど、私たちの旅はまだまだ続きます。
 次にお邪魔する先は……ひょっとしたら、アナタの世界かもしれませんね。
 ふと気づくとあとがきの世界……。

「わたし作者だけどあっ二年前に書きかけのまま放置してた作品が加筆されているいったいなぜ」
「ククク……私はエクス平安座……エクスニズムの過剰摂取によりエクスしたSS投稿者の成れの果て」
「そっそうだったとは! くっ堀川雷鼓や天狗の出番などが追加され見るも恐ろしい!」
「ハハハ中途半端にFFSネタを使いこなせず死ね」

 音楽ネタ、ドラマーネタ、鈴サナ成分などが不足してオチも酷くヤバイがナントカ書き上げて投稿した……。

「ククク……実はこの作品こそがお前にとって記念すべき東方創想話での通算三十作品目になる作品だったのだという事だ」
「くっ騙された!」

 驚愕の事実を知り創想話は崩壊した……。
平安座
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コメント



0.630簡易評価
3.50名前が無い程度の能力削除
ひでええ
死蔵すべきネタ缶・内容カオス・恥をカナグリ捨てての投稿・誕生日ケーキをパイ投げヨロシク投げ吐ける・身体を張った自虐芸・あんたぜったい莫迦だwww
(意訳:作者生きろ!)
4.80名前が無い程度の能力削除
まさに「死ね」な内容でした。他にどうこのカオスを形容しろと。
5.70奇声を発する程度の能力削除
うーむ、何とも
6.50名前が無い程度の能力削除
深刻なスピード感不足だよッ
7.70名前が無い程度の能力削除
前半のパロ・ラッシュ(自作品含む)は何時も通り軽快でしょーもなくってベネ。
ただ、後半に入って失速気味だったので、ちょっと残念かなぁ、と感じました。
11.50ぴよこ削除
東方クラスタにもエクス者が増えてきたな
19.80名前が無い程度の能力削除
次回作でもまた雷鼓さん書いて欲しい
20.100名前が無い程度の能力削除
全体的に狂気が満ちている(確信)