「暇なの?」
腕を枕に寝ていた彼女は、起きるなりそう聞いてきたのだった。
「そんなことはないけど」
そう。そんなことはこれっぽっちもない。
暇ではないけど、仕方がないのだ。
「あんたがいるから何もできない」
「そう。なら良かった」
「どこが」
「もう少し蓮子は休まないと」
休んじゃいるけど?
「どうだか」
「心配性だから」
「そんなんじゃないと思う」
「心配性だから、色々やってしまいたくなるの」
言い訳じみた自分の言葉と、非難の目。視線を感じて、顔だけ逆にほっぽる。
……どこの方言だったろう、ほっぽる。
「まあ、なんでもいいけど。蓮子は言っても聞かないし」
「そんなことは」
「あるでしょ?聞いてるわよ、マエリベリーさんから色々」
余計な……。
「今日ぐらいそのまんま寝ときなさい。わかった?」
「わかったから腕から頭どけてよ。重いし、痛い」
「重いは余計」
「そろそろ痺れてきついんだけど」
あら、それはごめんなさい。だなんて
「紫、出掛ける用事があるんだけど」
「そう」
「どいてよ」
「わかったわよ、もう。親友を置いて何処とでも行けばいいわ」
まあ、言われなくても置いて出るのだけど。
「煙草吸いたい」
「吸わないでしょうが、蓮子は、昔から」
体を起こした紫の背中に読み終わっていた文庫本を投げ当ててから、腕を曲げ伸ばしてみる。
一回、二回、さん、
「痛いんだけど、腕」
「こんな美少女と一緒に眠れたのだから感謝して欲しいぐらいなのだけど」
「そういう趣味はないから」
「知ってる。だから安心して泊まれるんだし」
そう。まあ、なんでも、どうでも、いいけど。
「紫、珈琲」
「インスタント?」
「ドリップのやつ」
「りょおかい。飲んだらすぐ出るんでしょ?服着たりとか、顔洗ったりとかやっときなさいな」
ひらひらと旗でも振ってるのかと言いたくなるように八の字に手を振って、ベッドからするりと抜け出て行く。
用意なんて言っても、上に何か羽織って、帽子でも被って、靴を履くぐらいなんだけど。
「……眠い」
「眠いなら顔洗いなさいよ。で、化粧」
「しない。化粧水塗るぐらい」
「もう少ししっかりしなさい。ほら、珈琲」
もう、淹れれたの?
「お湯沸かしたりで五分以上経ってるでしょ」
マグを受け取って、口に。
「ステンレスとか久々に見たんだけど。もう少しいい素材のあるんじゃないの?今の時代なら」
「何使おうが勝手」
あと、今の時代ってあんた何歳よ。
「知ってる通りの歳よ?ただ、ほら。引きこもってたから。今は、」
「引きこもる必要、ないと」
「言い方悪いけどそう。……これ美味しい。今度買ってこよう」
「貰い物だから売ってるとこ知らないけど」
そんなの、
「ここでて探すわ。今日もぼうっといさせてもらおうと思ってたけど、用があるっていうなら」
「…………三時には、戻るわよ。たぶん」
「そ。なら珈琲の他に、なんか食材買ってこようかしら」
「また帰らないと」
こいつ、何日泊まってく気なんだろう。
ご飯勝手に作ってくれるし、そのお金も紫持ちだからまあ、うん、いや、実際のところ、すごい助かってるけど。
ただ、猫かなにかのように、人のベッドに潜り込んでくる。
ならと、私が床に寝れば、やっぱり床に。
「ねぇ、紫」
「なぁに」
「あんた」
「うん」
はっ、と短く息を吐いて、ふぅと長く息を吐いて、やっぱり、言うのをやめた。
「鍵、持っといて。今日は紫の方が早く返ってくるんでしょうし」
「そうね。今日も泊まると思うし」
「たまに、カレーが食べたい」
「カレー?たまにとか言ってよく食べてないかしら」
かもしれないけど、
「紫の作ったのがいいのよ」
珈琲を飲み干して、私は立ち上がった。
腕を枕に寝ていた彼女は、起きるなりそう聞いてきたのだった。
「そんなことはないけど」
そう。そんなことはこれっぽっちもない。
暇ではないけど、仕方がないのだ。
「あんたがいるから何もできない」
「そう。なら良かった」
「どこが」
「もう少し蓮子は休まないと」
休んじゃいるけど?
「どうだか」
「心配性だから」
「そんなんじゃないと思う」
「心配性だから、色々やってしまいたくなるの」
言い訳じみた自分の言葉と、非難の目。視線を感じて、顔だけ逆にほっぽる。
……どこの方言だったろう、ほっぽる。
「まあ、なんでもいいけど。蓮子は言っても聞かないし」
「そんなことは」
「あるでしょ?聞いてるわよ、マエリベリーさんから色々」
余計な……。
「今日ぐらいそのまんま寝ときなさい。わかった?」
「わかったから腕から頭どけてよ。重いし、痛い」
「重いは余計」
「そろそろ痺れてきついんだけど」
あら、それはごめんなさい。だなんて
「紫、出掛ける用事があるんだけど」
「そう」
「どいてよ」
「わかったわよ、もう。親友を置いて何処とでも行けばいいわ」
まあ、言われなくても置いて出るのだけど。
「煙草吸いたい」
「吸わないでしょうが、蓮子は、昔から」
体を起こした紫の背中に読み終わっていた文庫本を投げ当ててから、腕を曲げ伸ばしてみる。
一回、二回、さん、
「痛いんだけど、腕」
「こんな美少女と一緒に眠れたのだから感謝して欲しいぐらいなのだけど」
「そういう趣味はないから」
「知ってる。だから安心して泊まれるんだし」
そう。まあ、なんでも、どうでも、いいけど。
「紫、珈琲」
「インスタント?」
「ドリップのやつ」
「りょおかい。飲んだらすぐ出るんでしょ?服着たりとか、顔洗ったりとかやっときなさいな」
ひらひらと旗でも振ってるのかと言いたくなるように八の字に手を振って、ベッドからするりと抜け出て行く。
用意なんて言っても、上に何か羽織って、帽子でも被って、靴を履くぐらいなんだけど。
「……眠い」
「眠いなら顔洗いなさいよ。で、化粧」
「しない。化粧水塗るぐらい」
「もう少ししっかりしなさい。ほら、珈琲」
もう、淹れれたの?
「お湯沸かしたりで五分以上経ってるでしょ」
マグを受け取って、口に。
「ステンレスとか久々に見たんだけど。もう少しいい素材のあるんじゃないの?今の時代なら」
「何使おうが勝手」
あと、今の時代ってあんた何歳よ。
「知ってる通りの歳よ?ただ、ほら。引きこもってたから。今は、」
「引きこもる必要、ないと」
「言い方悪いけどそう。……これ美味しい。今度買ってこよう」
「貰い物だから売ってるとこ知らないけど」
そんなの、
「ここでて探すわ。今日もぼうっといさせてもらおうと思ってたけど、用があるっていうなら」
「…………三時には、戻るわよ。たぶん」
「そ。なら珈琲の他に、なんか食材買ってこようかしら」
「また帰らないと」
こいつ、何日泊まってく気なんだろう。
ご飯勝手に作ってくれるし、そのお金も紫持ちだからまあ、うん、いや、実際のところ、すごい助かってるけど。
ただ、猫かなにかのように、人のベッドに潜り込んでくる。
ならと、私が床に寝れば、やっぱり床に。
「ねぇ、紫」
「なぁに」
「あんた」
「うん」
はっ、と短く息を吐いて、ふぅと長く息を吐いて、やっぱり、言うのをやめた。
「鍵、持っといて。今日は紫の方が早く返ってくるんでしょうし」
「そうね。今日も泊まると思うし」
「たまに、カレーが食べたい」
「カレー?たまにとか言ってよく食べてないかしら」
かもしれないけど、
「紫の作ったのがいいのよ」
珈琲を飲み干して、私は立ち上がった。