尾花が薫るようになった。夕日は寒気に急かされて家路を急いでいる。
早苗は境内の石畳をぼんやりと掃いていた。社殿の影は長く落ち、鳥居を超えて湖にまで背伸びをしている。
背伸びを、している。
最古の秋の記憶は、四つか五つのときのものだろうか。
それから数えて十数回。
思い返してみれば、秋はもっと、樂団の演奏のように壮大で、濡れた絵の具のように鮮やかで、しかし胸板を潰すように物悲しいものであったような気がする。
幻想郷に来て数年。
はたして、自分はどれほど成長しただろう。
ざりざりという音に気づいた。葉の音がしない。見回せば、掃くべき落ち葉はとうに無くなっていた。
思い返せば昼過ぎから掃いていた気がする。
空を見上げた。東の空は既に紫がかっていた。
風よ吹け、となんとなく願った。早苗が風を起こすのではだめなのだ。
何か、世界からの働きかけを感じたかった。
秋の夕暮れは冷たかった。早苗などいないかのようにふるまっていた。
「掃除と共に考え事か。悲しいな」
振り返った。軽装の神奈子がぺたんぺたんとサンダルの音をさせて歩み寄った。縦じまのセーターとレギンス。夕餉の催促にでも来たのだろうか。
「あら、神奈子さま……悲しいって、何がですか?」
「なに、掃除を通じて悟りを開いた仏徒がいてな。その真似事かと思った」
宗旨替えしたのか、という意味か。
「あの、あの、わたしも一応、神様なんですけども。かんながらの道の」
「しかし人でもある」
「そりゃそうですけど」
未熟者めと言われているような気がして、早苗は腹立たしさを覚えた。
神奈子は早苗から箒を奪い、くるくると器用に振り回した。舞踏のような、演武のような、流々としてつかみどころのない動きだった。
ひととおり舞って、神奈子は箒を肩に担いだ。
「それで。若いおのこが見れば十人に九人は惚れてしまいそうな物憂げな顔をして、いったい何を悩んでいた」
「例えがなんか嫌らしいですよ神奈子さま……」
ええとですね、と口ごもり、言葉を探した。手を後ろに組んだ。足元に視線を落とし、ごにょごにょと言った。石畳の線をつま先でなぞった。
ついに大きく息をついた。
「大人になるって、どういうことなんでしょうね」
ほう、と感嘆の声。見れば神奈子は箒を天秤のように担ぎ、意地の悪い笑顔をしていた。
「そうかそうか。お前もそういうことを考える歳になったか。熱いな。青春だな」
うんうんと感慨深げに頷く神奈子。早苗はむっとして頬を膨らませた。
「熱病(はしか)にうかされているみたいに言わないでください。わたしは真面目かつ冷静に考えているんです」
「若いやつは皆、自分こそが特別なのだと思うものだ」得意げに片眉を上げた。
「神ですけど!」
「神など掃いて捨てるほどいるさ」
そうだな、と呟いて神奈子は唇に示指を当てた。いくばくか考えた。やがてにやりと笑った。嫌な予感がした早苗は言葉を準備した。
「答えるのはたやすいが、まずは訊こう。早苗、お前はどう思う」
「いまの神奈子さま、持ち掛けられた相談ごとすべてに『で、アンタはどう思うの』って返す、やさぐれた独身三十路OLみたいですよ」
ひく、と神奈子の口の端が歪んだ。
「……言うようになったな、早苗」
「諏訪子さまに鍛えられていますから」
「悪いところばかり見習いおって……お前こそ世界と自分を混同して『世界にも人生にも意味なんて無い!』などと叫ぶ偏屈な青二才そのものだぞ」
「世の哲学者はみんなそうです」
「学問の萌芽をお前」
「だいたい、哲学者なんてみんな精神的潔癖症なだけじゃないですか」
「倫理学と混同しているフシがあるが大丈夫か」
「万物の根源は水だ、っていかにも安直じゃありません?」
「最初に提唱したからこそ価値があるのだが」
「でも間違いだったじゃないですか。私が認めるのはデカルトだけです」
「お前もたいがい外の唯物論に冒されているな……神ともあろうものが」
「都合よく人と言ったり神と言ったり」
む、と神奈子が言葉に詰まった。小指で耳の裏を掻いた。
「まったく、ああ言えばこう言う。そんな子に育てた覚えはないぞ」
「いまの神奈子さま」
「うるさい黙れ馬鹿娘」拳骨が落ちた。
「いたい!」
やれやれ、とかぶりを振った。受け取り、今度は早苗が天秤にかついだ。
「私の見解だがな」と前置いて「子供は子供のふりをし、大人は大人のふりをし、そして老人は老人のふりをする」
「……唯心的すぎません? 体は育ちますし、老いますよ」
「ソフィーの世界を再現するつもりはないのだが」
「あんな夢見る乙女が書いたような妄想全開小説と一緒にしないでください」
「ベストセラーをお前」
鏡を見ろ、鏡を、と神奈子はぼやいた。
「ま、結論から言うとだな。お前はもう大人だ」
「なぜにホワイ?」
「その言い方ムカつくなあ……お前はもうおっぱいも大きいし生娘でもないだろう」
「体の話なんかしてません! あと文さんには生えてません! そもそもまだBです!」
早苗は顔を真っ赤にして箒を振り回した。神奈子はひらひらとかわす。諏訪子いわく、神様的コミュニケーションとは拳を交えることなのだという。ゆえに神奈子と諏訪子は非常に仲が良い。
むきになって箒を振り回していたが、神奈子が手刀で柄の中ほどを叩き折った。
「やあ、すまんすまん。からかって悪かった。でも今どきの娘が恋のABCはどうよ」
「小屋にこもってワラ敷いて座ってた時代の人が何言ってるんですか」
「今日はやけにいらいらしているな。月の障りか?」
「おととい終わりました!」
お互いに気づいた。氏子が聞いたら腰か魂を抜かす会話だ。
「……やめよう」
「はい……」
咳払いをひとつ。早苗は折れた箒を社殿の裏手、社務所の隣に捨てた。神奈子もついてきた。
山の端の陽は、もはや半分ほど隠れていた。
社務所の縁側に並んで座った。
「ええとだな。お前が大人であるというのは本当だ」
「なぜにホ」
「うるさい。子供は早く大人になりたいとは願うが、大人になるとはどういうことかなどと考えない。プロセスを想像するだけの成長を経ていないのだ」
早苗は半眼になって神奈子をねめつけた。
「親に向かってなんだその目は」
「神奈子さまこそ宗旨替えですか」
「して、その心は」
「禅問答みたいなこと言っちゃって」
やれやれ、と両手を天に向けて肩をすくめる。
「たわけ。禅の何たるかも知らずに問答などと言うな」
「知ってますよ。草履を頭に載せるんですよね」
「あほう。だからお前は知らないのだ」
早苗はぽかんと口を開けて首を捻った。容易に超論理のトラップへ陥ってしまうあたりがまだ禅を知らないということなのだ、ということが分からない。
「ええい、いちいち話がズレる。仰ぎ見るだけでなく、背伸びをすることを覚えたならば、いずれその丈になるものだ。その頃にはまた背伸びをしているわけだが」
「それ大人じゃなくて、大人見込みじゃないですか。仮免じゃないですか」
赤い斜線が入った名札を額に貼った大人たちの姿を想起した。そのプレートは仮ナンバーであることを早苗は知らない。
「お前の言葉を借りるならば、大人仮免の連中を大人という」
「いや、おかしいです。仮免なんでしょう。大人じゃないじゃないですか。免許取ってから大人と呼ばれるべきでしょう」
「そうだな、大人ではないな。ゆえに振りをしている、というわけだ。子供は子供の振りをするから子供なのであり、大人は大人の振りをするから大人であり、そして老人は老人の振りをするから老人である。せいぜい、無理をしているかしていないかの違いだ」
早苗はぐんにょりと体を曲げた。
「あのー、思いっきりトートロジーなんですがー」
「大人を大人と定義する論理が存在すると思っているから悩むのだ。そういう意味ではお前はまだ子供だな。事象を何でもはっきりさせようとしすぎる」
「まあ、わたしは理系ですから」
「文理の分類こそがまさにデカルト的だ。この世はもっと曖昧にできている。そんなでは、いずれ神でいられなくなるぞ」
「はあ……そーですか……」
眉根を寄せて唸る早苗の頭頂を、神奈子が優しく撫でた。
指などは女性的であるのに、力強い手のひら。幾たびも軍刀を振るってきた手。
「まあ、安心した。諦念や妥協を大人と観ずるようなら叱るところだった」
「どうして諦めたり手を抜いたりするのが大人なんですか?」
神奈子は巫女が護摩木を投げつけられたかのような顔をして、それからカラカラと笑った。わしわしと早苗の髪をかき回した。
「なっ、なんですか! やめてください! 毎朝二時間かけてセットしてるんですから! わたし、何か変なこと言いましたか!」
「いやいや。感心しただけだ。そうだな、諦念と妥協は僵尸(キョンシー)のようなものを生む」
ぐちゃぐちゃになった髪を直しながら思い出す。
「僵尸というと、あの命蓮寺の墓にいる」
宮古芳香といっただろうか。脳が腐り、命ぜられるがままに行動するという。彼女と戦ったことがあるが、どちらかというと吐き気との戦いだった。あれを溺愛している霍青娥とかいう邪仙は頭がおかしい。
「ぞっとしませんね」
「改宗しなくてよかったろう?」
「だから最初からそんなつもりありませんってば」
とうとう陽が山の端に落ちた。空はいよいよ紫色を深め、一番星が輝き始めた。
すう、と神奈子が深く息を吸った。腰に手を当てて、背筋を反らした。
「やれやれ、夏も終わったというのに、まだまだここは青臭いな」
「神奈子さまのお尻も青いじゃないですか」
「えっ嘘っ」
神奈子は慌てて尻を押さえた。
乙女らしいその様がおかしくて、早苗はくすくすと笑って立ち上がり、去り際に
「嘘ですよ」
と言った。
早苗は境内の石畳をぼんやりと掃いていた。社殿の影は長く落ち、鳥居を超えて湖にまで背伸びをしている。
背伸びを、している。
最古の秋の記憶は、四つか五つのときのものだろうか。
それから数えて十数回。
思い返してみれば、秋はもっと、樂団の演奏のように壮大で、濡れた絵の具のように鮮やかで、しかし胸板を潰すように物悲しいものであったような気がする。
幻想郷に来て数年。
はたして、自分はどれほど成長しただろう。
ざりざりという音に気づいた。葉の音がしない。見回せば、掃くべき落ち葉はとうに無くなっていた。
思い返せば昼過ぎから掃いていた気がする。
空を見上げた。東の空は既に紫がかっていた。
風よ吹け、となんとなく願った。早苗が風を起こすのではだめなのだ。
何か、世界からの働きかけを感じたかった。
秋の夕暮れは冷たかった。早苗などいないかのようにふるまっていた。
「掃除と共に考え事か。悲しいな」
振り返った。軽装の神奈子がぺたんぺたんとサンダルの音をさせて歩み寄った。縦じまのセーターとレギンス。夕餉の催促にでも来たのだろうか。
「あら、神奈子さま……悲しいって、何がですか?」
「なに、掃除を通じて悟りを開いた仏徒がいてな。その真似事かと思った」
宗旨替えしたのか、という意味か。
「あの、あの、わたしも一応、神様なんですけども。かんながらの道の」
「しかし人でもある」
「そりゃそうですけど」
未熟者めと言われているような気がして、早苗は腹立たしさを覚えた。
神奈子は早苗から箒を奪い、くるくると器用に振り回した。舞踏のような、演武のような、流々としてつかみどころのない動きだった。
ひととおり舞って、神奈子は箒を肩に担いだ。
「それで。若いおのこが見れば十人に九人は惚れてしまいそうな物憂げな顔をして、いったい何を悩んでいた」
「例えがなんか嫌らしいですよ神奈子さま……」
ええとですね、と口ごもり、言葉を探した。手を後ろに組んだ。足元に視線を落とし、ごにょごにょと言った。石畳の線をつま先でなぞった。
ついに大きく息をついた。
「大人になるって、どういうことなんでしょうね」
ほう、と感嘆の声。見れば神奈子は箒を天秤のように担ぎ、意地の悪い笑顔をしていた。
「そうかそうか。お前もそういうことを考える歳になったか。熱いな。青春だな」
うんうんと感慨深げに頷く神奈子。早苗はむっとして頬を膨らませた。
「熱病(はしか)にうかされているみたいに言わないでください。わたしは真面目かつ冷静に考えているんです」
「若いやつは皆、自分こそが特別なのだと思うものだ」得意げに片眉を上げた。
「神ですけど!」
「神など掃いて捨てるほどいるさ」
そうだな、と呟いて神奈子は唇に示指を当てた。いくばくか考えた。やがてにやりと笑った。嫌な予感がした早苗は言葉を準備した。
「答えるのはたやすいが、まずは訊こう。早苗、お前はどう思う」
「いまの神奈子さま、持ち掛けられた相談ごとすべてに『で、アンタはどう思うの』って返す、やさぐれた独身三十路OLみたいですよ」
ひく、と神奈子の口の端が歪んだ。
「……言うようになったな、早苗」
「諏訪子さまに鍛えられていますから」
「悪いところばかり見習いおって……お前こそ世界と自分を混同して『世界にも人生にも意味なんて無い!』などと叫ぶ偏屈な青二才そのものだぞ」
「世の哲学者はみんなそうです」
「学問の萌芽をお前」
「だいたい、哲学者なんてみんな精神的潔癖症なだけじゃないですか」
「倫理学と混同しているフシがあるが大丈夫か」
「万物の根源は水だ、っていかにも安直じゃありません?」
「最初に提唱したからこそ価値があるのだが」
「でも間違いだったじゃないですか。私が認めるのはデカルトだけです」
「お前もたいがい外の唯物論に冒されているな……神ともあろうものが」
「都合よく人と言ったり神と言ったり」
む、と神奈子が言葉に詰まった。小指で耳の裏を掻いた。
「まったく、ああ言えばこう言う。そんな子に育てた覚えはないぞ」
「いまの神奈子さま」
「うるさい黙れ馬鹿娘」拳骨が落ちた。
「いたい!」
やれやれ、とかぶりを振った。受け取り、今度は早苗が天秤にかついだ。
「私の見解だがな」と前置いて「子供は子供のふりをし、大人は大人のふりをし、そして老人は老人のふりをする」
「……唯心的すぎません? 体は育ちますし、老いますよ」
「ソフィーの世界を再現するつもりはないのだが」
「あんな夢見る乙女が書いたような妄想全開小説と一緒にしないでください」
「ベストセラーをお前」
鏡を見ろ、鏡を、と神奈子はぼやいた。
「ま、結論から言うとだな。お前はもう大人だ」
「なぜにホワイ?」
「その言い方ムカつくなあ……お前はもうおっぱいも大きいし生娘でもないだろう」
「体の話なんかしてません! あと文さんには生えてません! そもそもまだBです!」
早苗は顔を真っ赤にして箒を振り回した。神奈子はひらひらとかわす。諏訪子いわく、神様的コミュニケーションとは拳を交えることなのだという。ゆえに神奈子と諏訪子は非常に仲が良い。
むきになって箒を振り回していたが、神奈子が手刀で柄の中ほどを叩き折った。
「やあ、すまんすまん。からかって悪かった。でも今どきの娘が恋のABCはどうよ」
「小屋にこもってワラ敷いて座ってた時代の人が何言ってるんですか」
「今日はやけにいらいらしているな。月の障りか?」
「おととい終わりました!」
お互いに気づいた。氏子が聞いたら腰か魂を抜かす会話だ。
「……やめよう」
「はい……」
咳払いをひとつ。早苗は折れた箒を社殿の裏手、社務所の隣に捨てた。神奈子もついてきた。
山の端の陽は、もはや半分ほど隠れていた。
社務所の縁側に並んで座った。
「ええとだな。お前が大人であるというのは本当だ」
「なぜにホ」
「うるさい。子供は早く大人になりたいとは願うが、大人になるとはどういうことかなどと考えない。プロセスを想像するだけの成長を経ていないのだ」
早苗は半眼になって神奈子をねめつけた。
「親に向かってなんだその目は」
「神奈子さまこそ宗旨替えですか」
「して、その心は」
「禅問答みたいなこと言っちゃって」
やれやれ、と両手を天に向けて肩をすくめる。
「たわけ。禅の何たるかも知らずに問答などと言うな」
「知ってますよ。草履を頭に載せるんですよね」
「あほう。だからお前は知らないのだ」
早苗はぽかんと口を開けて首を捻った。容易に超論理のトラップへ陥ってしまうあたりがまだ禅を知らないということなのだ、ということが分からない。
「ええい、いちいち話がズレる。仰ぎ見るだけでなく、背伸びをすることを覚えたならば、いずれその丈になるものだ。その頃にはまた背伸びをしているわけだが」
「それ大人じゃなくて、大人見込みじゃないですか。仮免じゃないですか」
赤い斜線が入った名札を額に貼った大人たちの姿を想起した。そのプレートは仮ナンバーであることを早苗は知らない。
「お前の言葉を借りるならば、大人仮免の連中を大人という」
「いや、おかしいです。仮免なんでしょう。大人じゃないじゃないですか。免許取ってから大人と呼ばれるべきでしょう」
「そうだな、大人ではないな。ゆえに振りをしている、というわけだ。子供は子供の振りをするから子供なのであり、大人は大人の振りをするから大人であり、そして老人は老人の振りをするから老人である。せいぜい、無理をしているかしていないかの違いだ」
早苗はぐんにょりと体を曲げた。
「あのー、思いっきりトートロジーなんですがー」
「大人を大人と定義する論理が存在すると思っているから悩むのだ。そういう意味ではお前はまだ子供だな。事象を何でもはっきりさせようとしすぎる」
「まあ、わたしは理系ですから」
「文理の分類こそがまさにデカルト的だ。この世はもっと曖昧にできている。そんなでは、いずれ神でいられなくなるぞ」
「はあ……そーですか……」
眉根を寄せて唸る早苗の頭頂を、神奈子が優しく撫でた。
指などは女性的であるのに、力強い手のひら。幾たびも軍刀を振るってきた手。
「まあ、安心した。諦念や妥協を大人と観ずるようなら叱るところだった」
「どうして諦めたり手を抜いたりするのが大人なんですか?」
神奈子は巫女が護摩木を投げつけられたかのような顔をして、それからカラカラと笑った。わしわしと早苗の髪をかき回した。
「なっ、なんですか! やめてください! 毎朝二時間かけてセットしてるんですから! わたし、何か変なこと言いましたか!」
「いやいや。感心しただけだ。そうだな、諦念と妥協は僵尸(キョンシー)のようなものを生む」
ぐちゃぐちゃになった髪を直しながら思い出す。
「僵尸というと、あの命蓮寺の墓にいる」
宮古芳香といっただろうか。脳が腐り、命ぜられるがままに行動するという。彼女と戦ったことがあるが、どちらかというと吐き気との戦いだった。あれを溺愛している霍青娥とかいう邪仙は頭がおかしい。
「ぞっとしませんね」
「改宗しなくてよかったろう?」
「だから最初からそんなつもりありませんってば」
とうとう陽が山の端に落ちた。空はいよいよ紫色を深め、一番星が輝き始めた。
すう、と神奈子が深く息を吸った。腰に手を当てて、背筋を反らした。
「やれやれ、夏も終わったというのに、まだまだここは青臭いな」
「神奈子さまのお尻も青いじゃないですか」
「えっ嘘っ」
神奈子は慌てて尻を押さえた。
乙女らしいその様がおかしくて、早苗はくすくすと笑って立ち上がり、去り際に
「嘘ですよ」
と言った。
諏訪ちゃん何鍛えてんの……w
神奈子様の「~をお前」ってツッコミが好きです
>>4さん 高二病を更にこじらせたのがこんな感じになりますNE
>>6さん と、とーとろじーっぽい
この早苗さん好きだわー