なんでもない日の、朝。
紅魔館門番長、紅美鈴は館内を歩いていた。
ご主人がおねむになってしまう前に門番妖精部隊関連の報告をしておこうと思ったからだ。
まぁあの主のことだし、気まぐれで夜寝してずっと起きているかもしれないが……。
「えーと、新入り組のことと、訓練の日程……。給与のことも相談しないと。あ、新人門番部隊の御前演習ごっこの都合も確認しておきましょう」
結構ウケがいいんですよねアレ、などとほくそ笑みながら廊下を歩いていると。
「……!」
美鈴の背中にゾクリと怖気が走る。
とっさに振り返って飛んできた何かを二本指で止めた。
「これは……ナイフ!」
咲夜さん!?
と思うが、特にナイフを投げられることに覚えがない。それにこれは咲夜のナイフではない。
では襲撃か!? 自分がいない間に門番妖精部隊が突破されたか!? 美鈴が頭をめぐらせていると、再び光が煌き、更に三本のナイフが美鈴を襲う。
「はっ! はっ!」
再び、それを右手の指で止めて左手に回収していく。
「ん……これは、フォーク?」
止めたうちの一本が、異質なものであることに気づく。確かに凶器ではあるが……
「あれ、そういえばこのナイフも食事用のような……」
いぶかしむ美鈴に、またナイフ、フォークに混ざって、今度は円盤状の何かが多数飛んできた。
「……ああ、そういう……」
美鈴は理解した。正確には、それらが飛んでくる先、地に伏しているめいどちょうを見て――
咲夜さんが転んで食器ぶちまけただけだこれ。
「ええいこうなったら! 見よ、中国四千年が育んだ大道芸の力の応用をー!」
口や指にナイフやフォークを挟み、受け止められる箇所を大幅拡大。そして、飛んでくる円盤――皿を待ち受ける。
「はあ、ひははい(さあ、来なさい)――!」
がちゃんぱりーん
美鈴はがんばった。褒めてやってください。率にして七割の皿を救ったのだから。
「えー、大丈夫ですか。咲夜さん」
食器をまとめて脇に置きつつ、倒れたままの咲夜をゆさゆさと揺する。
咲夜はむくりなうと起き上がると、ふるふると首を振った。
「ええと……違うのよ。美鈴」
「はい?」
美鈴が首を傾げると、咲夜は真剣な表情で話す。
「違うの。私は転んでいないのよ」
「はぁ。では、なんでこんなところに寝ていたんですか」
合点がいかず、尋ねる。
「話せば……長くなるわ……」
「かかってもいいですから話してください」
「……ええ、あれは不幸な事故だったの……」
「ちーいーさな銀のかいちゅー時計♪ さくやーさんのーとけいー♪」
十六夜咲夜は鼻歌を歌いながら、食器を運んでいた。
しかし、突如足がもつれる。
(はっ、このままでは転んでしまう!)
咲夜はしっかりと気づいていた。どうにかしなければいけないと思った。
そして、自分にはどうにかできる力がある!
「時よ、止まれ――!」
そして、ぶちまけられようとしていた食器類はピタッと停止し、咲夜さんはそのまま地面に激突した。
「うう……今思い出してもあまりの不運……」
「つまりこけたんですよね」
「違うのよ。こけそうなことには気づいていて、対策は打ったのよ」
「つまりこけたんですよね」
「違うのよ。ちゃんと時を止めたんだけど、肝心の私が止まらなくて」
「つまりこけたんですよね」
「……はい、こけました」
再三のツッコミについに屈し、咲夜はしょぼんと白状する。
「はいよろしい」
美鈴は苦笑しながら、咲夜の頭をさらさらと撫ぜる。
「ちょ、美鈴。私はもう子供じゃないのよ!?」
「私に比べれば十分子供だと思いますが」
「そ、そりゃそうだけど……」
言葉を濁す咲夜に、美鈴はため息をつく。
「ちゃんと食器用ワゴンで運べばいいじゃないですか……」
「だってこっちの方が、なんか私運んでる! って気分になって……」
「それでこけてちゃ世話ないですよ。ほら、これだけ運んでください」
「はぁい」
割れてしまった分を片付けて、改めて半分こして食器を運び始める。
(能力は高いはずなんですけど、どうにも抜けてるんですよねえ)
並んで歩きながら、横目で咲夜の顔を見る。
透き通るような白き肌。涼しげな蒼い瞳。しゃらしゃらと揺れる銀の髪。
(うーん、落ち着いて見れば美人なんですけどねえ)
まぁ、考えてみれば黙ってりゃ美人なんてやつは、幻想郷にはそう珍しくもないか、と美鈴は思った。
神社の巫女しかり、白黒の魔女しかり。
そんなことを思いながら咲夜の横顔を眺めていると、ふとそれがこちらを向いてにこりと笑いかける。
「美鈴、今日の朝食のカレーはどうだった? 隠し味につぶあんを入れてみたんだけど」
「ええ、全然隠れてませんでした」
美鈴は遠い目で答える。しかも朝食にカレーて。
「そっかぁ。やっぱり粒が目立つからこしあんの方がよかった?」
「まったくもってそういう問題ではないというか、どっちにしろ隠れないと思いますが」
咲夜はうむむ、と唸ると、またにこっと笑顔を浮かべて答えた。
「じゃあ今度はがんばって隠すわね!」
「隠す努力をしてどうするんですか! あなた普通に作ったら普通においしいんですから、変な事する必要ないんですよ」
「普通じゃ物足りないお年頃なのよ」
「私は普通で満足なんですが……」
美鈴がそう言うと、咲夜は困ったようにもじもじし始める。
「だってこう、何か工夫があったほうが愛が伝わるというか……あっ、愛といっても家族的な、ね?」
完膚なきまでのメシマズの罠である。
美鈴はふぅ、とため息をついた。
「咲夜さん」
「は、はい」
なぜかかしこまる咲夜。
「久しぶりに一緒に食事でも作りませんか」
「ほう、それで今日は咲夜と一緒に食料の買い出しに行きたい、と」
レミリアの私室。
美鈴はとりあえず当初の目的である業務報告に訪れた後、咲夜と一緒に料理をするべく、買いだしに行きたい旨を伝えた。
ナイトキャップとパジャマ装備で寝る準備万端なレミリアは、カリスマ溢れる威容をもって鷹揚に頷いた。
「まぁたまにはいいんじゃないの。あなたならちゃんと部下も仕込んでいるでしょうし、多少席を外すくらい無問題よ」
「ありがとうございます」
美鈴が深々と一礼するのを見て、レミリアはひらひらと手を振る。
「いやいや、最近咲夜は何かと迷走してるからね。よろしく頼むわよ、美鈴」
レミリアの様子に、美鈴はふと気づく。
「……もしや、お嬢様も?」
「うん、隠れてなかった……」
「参考までに、何に、何が?」
「ピザに、バウムクーヘンが」
「Oh……」
重症だ。
「というわけで、みっちりとデートして咲夜を復調させておあげなさい」
「デートじゃないです。買い出しです」
「似たようなものよ。お出かけするんだからあなたも少しおしゃれをしなさい。ほら、腕にシルバー巻くとか!」
「ちょっとセンス古いですよお嬢様!?」
「美鈴ーお待たせー」
時刻は昼。
紅魔館の門に、妖精メイドやホフゴブリンたちへの業務指示を終えた咲夜がぱたぱたと走ってくる。
午前中は準備期間と業務指示に当てる必要があるし、昼食時はレミリアたちも寝ているので、一緒に作るのは夕食ということになった。
「いやぁ、せっかくのお出かけだから少しおめかししちゃったわ」
「……失礼ですが、どこがですか?」
美鈴の見る限り、いつも通りのメイド服に身を包んだ十六夜咲夜なのだが。
「ほら、腕にシルバーを」
「あんたもかい!」
思わずツッコむ。
館内で流行っているのか。今更。
「……じゃあ行ってくるけど、留守番よろしくね」
「お任せください! どうぞ行ってらっしゃいませ、隊長、咲夜様!」
美鈴が門番妖精部隊の中隊長に声をかけると、彼女は元気に敬礼をとって応えた。
「それじゃあ行きましょ」
「はい」
そうして美鈴と咲夜は連れ立って紅魔館を飛び立ち、人里へと向かった。
「咲夜さんは何か作るものとか決めてますか?」
「おでんを」
「なんでそのチョイス」
「なぜか無性に食べたくなって……」
などと、他愛もない会話を交わしながら、二人は人里の商店を覗いていく。
「美鈴と一緒に作るのだったら、やはり中華尽くしにしてみた方がいいのかしら。中華風おでん……ふむ」
「お願いだから変なことを考えないでくださいよ」
途中でイタズラな妖精に咲夜さんが仕返しにいたずらしたり、八百屋で命蓮寺の買いだしの人たちと大根を争奪したりと細々としたハプニングを経ながらも、二人は安いもの、使えそうなものを買い込んでいく。
「どうだいそこのお嬢さん方。豚肉が安いよ!」
「あ、ホントだ安い」
精肉店のおっちゃんの呼び込みを受けて美鈴がケースを覗きこむと、確かに豚肉がお買い得な値段だった。
「セールか何かですか?」
「いや、ちょっと女房が無双状態でな。それでノリノリで屠殺しすぎてな」
「なにそれこわい」
とりあえずせっかくなのでいっぱい買っておいた。
「大体目ぼしいものは買いましたし、あとは紅魔館に備蓄してあるもので十分ですかね」
「ごめんね美鈴。色々と持ってもらって」
リュックや手提げにいろいろと詰め込んでいる美鈴を見て、咲夜が少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいんですよ。妖怪ですし、体力自慢ですし」
「うん、ありがと。それじゃ、帰りましょうか……あっ」
咲夜は何かに気づいたように目を少し見開き、ちらっちらっと美鈴の様子を伺う。
美鈴がその視線の先を追ってみると、そこには甘味処が見て取れた。
とりあえず美鈴は咲夜の頭をさらさらと撫でくってみる。
「ひゃわ、何をするのよ!」
「行ってみましょか」
「え、でも一応職務中だし……」
そうやって誘惑に抗う姿勢を見せる咲夜に苦笑しながら、美鈴は優しく声をかける。
「あはは、誰も怒りゃしませんよ」
「一緒に甘味処に入って妖精に噂とかされると恥ずかしいし……」
「完膚なきまでに断られた!」
「ああ、違うの、そういうことじゃなくて……えと、その」
しどろもどろになって言葉を濁した後に、突然びしっとポーズを決めて美鈴を指差す。
「あなたがどうしてもというなら、付き合ってあげないこともないわっ!」
「あ、ども、ありがとうございます。じゃあ行きましょうか」
「ちょっと~、なんか突っ込んでよ~、恥ずかしいじゃない~」
鷹揚に手を振って歩き出す美鈴に、咲夜は小走りでついていった。
「いらっしゃいませー。甘味処『桜花八卦掌』にようこそ!」
「何だその必殺技みたいな店名」
和服の給仕さんがにこやかに挨拶してくれる。
とりあえず店名の割には、中身は普通の甘味所のようだった。とりあえず二人は案内された席に座る。
「何かお勧めはあるかしら?」
咲夜が店員さんに尋ねると、メニューを指し示して答えてくれた。
「お勧めはこちらのうなぎパフェになります」
「なんかものすごいのをお勧めされた!」
「じゃあそれで」
「ためらいもなく頼んだ!」
美鈴は咲夜の豪胆さに舌を巻きながらも、自分はとりあえず杏仁豆腐を頼んだ。
「やれやれ、さすがに久々の人里は、結構驚かされることが多いです」
美鈴がふぅー、と人心地ついたように息を吐く。
「そっか、美鈴はずっと門にいるからあまり出かけられないのよね」
「あまり出かけようとも思いませんしねえ」
紅魔館の門に立っているのは、美鈴にとってはなかなかにそれだけで満足なことだった。
妖精部隊もいるし、退屈はしない。
「でもそれだけに、咲夜さんとこうしてゆっくりするのも久しぶりと言うか」
「そうねぇ」
お互いに多忙で基本は休みもなく、持ち場が館内と館外と分かれていることから、挨拶程度に顔を合わせることはあっても、ゆっくりと話をするに至るのは本当に久しぶりのことだった。
「咲夜さんが小さいころはずっと一緒にいたんですけどねえ」
「小さい頃の話はいいでしょ」
咲夜が赤くなって膨れる。
そういうところもまだまだ子供だなぁ、と美鈴は内心で微笑んだ。
「もしかして、寂しかったんです?」
「な、何を言っているのよ!? そんなわけないじゃない!」
美鈴の一言に、咲夜が狼狽して大きな声を出す。
図星だといってるようなものだ。
「私は完全で瀟洒を二つ名にしたメイド長よ! そんな軟弱な考えは持ってないのっ!」
どんっ、と甘味処の誘惑に負けてたメイド長は胸を叩く。
「ふぅん、そうですかぁ。ふーん」
「ああんっ、視線が生あったかい!」
――『だってこう、何か工夫があったほうが愛が伝わるというか』
美鈴は咲夜が言ったメシマズの言い訳を思い出す。
それは本当に、彼女なりの愛の模索の結果だったのかもしれない。
それとももしかしたら、単純にそういうアホをしでかして、盛大にツッコんで欲しかったのかもしれない。
そうすることによって、もっとコミュニケーションを図ろうとしていたのかもしれない。
「……愛を取り戻さなきゃいけませんね」
「え?」
そう呟いた美鈴を、咲夜は首を傾げて見ていた。
悪魔の館、紅魔館。その厨房。
そこで君は、炎の料理人を見る。
「よっ、ほっ、はっ」
じゅわああああああんっ、と音を響かせて、美鈴が中華鍋を振るっていた。
咲夜は基本的に下ごしらえなどを担当し、美鈴が一気に仕上げていく。
既に八宝菜やシュウマイ、水餃子などが並び、咲夜によって出来立てのまま保存されている。
咲夜は最近メシマズの気が出たとはいえ基本的には当然料理上手である。
美鈴との豪華料理人タッグに、使用人の妖精やホフゴブリンたちが圧倒されるやらよだれをたらすやらでその様子を見守っていた。
やがて美鈴は炒めたブロック状の豚肉に、調味料と湯を混ぜて煮たものを取り出し、お皿にあけていく。
「あっ、それ……」
肉の一つ一つが濃厚なタレに包まれた、柔らかそうな豚肉。
それは、豚の角煮と見えるもの。
「それって、紅焼肉(ホンシャオロウ)?」
だが咲夜は、それに対して角煮とは違う単語を出す。
「はい。さすがに覚えてくださっていましたか」
にこりと美鈴が笑う。
紅焼肉は豚の角煮に似た上海料理の一種。かの毛沢東さんも大好物だったとか言われる一品である。
「ええ、美鈴の名前入ってるし」
「そこすか」
「ええ当然。……そして」
そして何よりも、美鈴が咲夜に初めて振舞った料理だった。
部屋の隅で幼い少女が震えている。
先ほどまで泥だらけで、色あせた襤褸をまとっていた少女。
洗って服を着せれば多少はサマになったが、それでも痩せていてみすぼらしい印象はぬぐえない。
「愛も知らず、ただ主への恐怖と敵の壊し方しか知らない、使い捨ての対魔ハンターねえ。まったく、これではどちらが悪魔なのやらわかりやしませんねぇ」
中華風の衣装を纏った赤髪の女が、トレイを持って少女を捕らえている部屋へと立ち入った。
「『この十六夜の月の下、我が夜を咲かす礎となれ』。ご主人様はあなたにそうおっしゃいました」
女は主の気まぐれに苦笑しながら、しゃがんで少女に目線を合わせ、手に持ったトレイを差し出す。
「あなたがこの先我々にとってどういう存在になるのか、私にも想像はつきませんが……。とりあえずまぁ、お食べなさい。何をするにも、まずは食べなきゃ始まりませんよ!」
トレイの上に乗っていた皿に盛られていたのは、そう。
肉の一つ一つが濃厚なタレに包まれた、柔らかそうな豚肉――
「ああ、この味、香ばしさ……」
咲夜はそれを味わい、小さな涙をこぼした。
口に入れるととろけんばかりで、脂身もしつこくない。全部あのときのまま。
久しぶりに食べる、美鈴の得意料理。
「ククク……確かに美鈴の料理は久しぶりに食べる気がするわ。長生きはするものね」
レミリアが冗談めかして美鈴にウインクを投げかける。
一般の使用人への配膳は彼ら自身に任せ、レミリアや咲夜、美鈴など紅魔館の幹部級は、揃って夕食の席についていた。
「そんなお嬢様。私が作ったものなんて大した料理じゃないでしょう?」
美鈴の謙遜に、レミリアはこくりと頷く。
「料理の難易度的には、まぁそうかもしれないわね」
「だけど、美鈴が作ってることに意味がある!」
その隣で元気よく、フランドールが言葉を継いだ。
「普通の料理でも……美鈴が作っていることに意味がある」
咲夜は、はっとしたようにフランドールの言葉をもう一度、反芻するように呟く。
そしてそれを聞いたパチュリーが、上品にわざわざナイフとフォークで紅焼肉を食べながら、
「むきゅー(そうね、モノが普遍であればあるほどに、誰が作るかは大いに意味を持ち。そしてそこに込められた気持ちもまた意味を持つ)」
一声、鳴いた。
「そうか……」
咲夜はそうして、隣の美鈴を見た。
美鈴は微笑んで咲夜に言う。
「咲夜さん。愛は、取り戻せましたか?」
「……ええ、もちろん。これは、私を人間にしてくれた料理」
――私に愛をくれた、料理ですもの。
「ひゃああああああん!」
「わー!? 咲夜さーん!?」
がちゃんぱりーん。
今でも結局めいどちょうはめいどちょうで。やっぱりどうでもいいとこでたまーにポカをする。
でも、決してもう咲夜はメシマズには、戻らない。
「……いつもごめんなさい、美鈴」
また無駄に無理して食器を運んでいた咲夜は、厨房まで付き合ってくれた美鈴に頭を下げる。
「いえいえ。咲夜さんのお役に立てれば、それはうれしいことですから」
咲くような美鈴の笑顔に、咲夜ははにかんで下を向く。
「全然だめだなぁ……たまには私が役に立ちたいのに……」
「ん? 何か言いました?」
「い、いえ、何も。忙しいところ手を煩わせて悪かったわね」
「いえいえ、では私はこれで」
美鈴は手を振ってその場を辞し、自分の持ち場である門へと戻っていく。
それを見送った咲夜は、ふぅ、とため息をついた。
「どうしても美鈴の前だと変な背伸びをしちゃうわ」
咲夜はそうして自分の頬をぴしゃりと叩き、気合を入れなおす。
今はまだ、完全で瀟洒の名にちょっぴり恥じてしまっているけど。
「がんばらなきゃ。そうじゃないと」
厨房の中に戻ろうとしながら、再び美鈴の去っていった方向をちらりと振り返る。
「いつまでたっても私の憧れに、追いつけないものね」
『ダメ咲夜さんに中華の祝福を』――fin
紅魔館門番長、紅美鈴は館内を歩いていた。
ご主人がおねむになってしまう前に門番妖精部隊関連の報告をしておこうと思ったからだ。
まぁあの主のことだし、気まぐれで夜寝してずっと起きているかもしれないが……。
「えーと、新入り組のことと、訓練の日程……。給与のことも相談しないと。あ、新人門番部隊の御前演習ごっこの都合も確認しておきましょう」
結構ウケがいいんですよねアレ、などとほくそ笑みながら廊下を歩いていると。
「……!」
美鈴の背中にゾクリと怖気が走る。
とっさに振り返って飛んできた何かを二本指で止めた。
「これは……ナイフ!」
咲夜さん!?
と思うが、特にナイフを投げられることに覚えがない。それにこれは咲夜のナイフではない。
では襲撃か!? 自分がいない間に門番妖精部隊が突破されたか!? 美鈴が頭をめぐらせていると、再び光が煌き、更に三本のナイフが美鈴を襲う。
「はっ! はっ!」
再び、それを右手の指で止めて左手に回収していく。
「ん……これは、フォーク?」
止めたうちの一本が、異質なものであることに気づく。確かに凶器ではあるが……
「あれ、そういえばこのナイフも食事用のような……」
いぶかしむ美鈴に、またナイフ、フォークに混ざって、今度は円盤状の何かが多数飛んできた。
「……ああ、そういう……」
美鈴は理解した。正確には、それらが飛んでくる先、地に伏しているめいどちょうを見て――
咲夜さんが転んで食器ぶちまけただけだこれ。
「ええいこうなったら! 見よ、中国四千年が育んだ大道芸の力の応用をー!」
口や指にナイフやフォークを挟み、受け止められる箇所を大幅拡大。そして、飛んでくる円盤――皿を待ち受ける。
「はあ、ひははい(さあ、来なさい)――!」
がちゃんぱりーん
美鈴はがんばった。褒めてやってください。率にして七割の皿を救ったのだから。
「えー、大丈夫ですか。咲夜さん」
食器をまとめて脇に置きつつ、倒れたままの咲夜をゆさゆさと揺する。
咲夜はむくりなうと起き上がると、ふるふると首を振った。
「ええと……違うのよ。美鈴」
「はい?」
美鈴が首を傾げると、咲夜は真剣な表情で話す。
「違うの。私は転んでいないのよ」
「はぁ。では、なんでこんなところに寝ていたんですか」
合点がいかず、尋ねる。
「話せば……長くなるわ……」
「かかってもいいですから話してください」
「……ええ、あれは不幸な事故だったの……」
*
「ちーいーさな銀のかいちゅー時計♪ さくやーさんのーとけいー♪」
十六夜咲夜は鼻歌を歌いながら、食器を運んでいた。
しかし、突如足がもつれる。
(はっ、このままでは転んでしまう!)
咲夜はしっかりと気づいていた。どうにかしなければいけないと思った。
そして、自分にはどうにかできる力がある!
「時よ、止まれ――!」
そして、ぶちまけられようとしていた食器類はピタッと停止し、咲夜さんはそのまま地面に激突した。
*
「うう……今思い出してもあまりの不運……」
「つまりこけたんですよね」
「違うのよ。こけそうなことには気づいていて、対策は打ったのよ」
「つまりこけたんですよね」
「違うのよ。ちゃんと時を止めたんだけど、肝心の私が止まらなくて」
「つまりこけたんですよね」
「……はい、こけました」
再三のツッコミについに屈し、咲夜はしょぼんと白状する。
「はいよろしい」
美鈴は苦笑しながら、咲夜の頭をさらさらと撫ぜる。
「ちょ、美鈴。私はもう子供じゃないのよ!?」
「私に比べれば十分子供だと思いますが」
「そ、そりゃそうだけど……」
言葉を濁す咲夜に、美鈴はため息をつく。
「ちゃんと食器用ワゴンで運べばいいじゃないですか……」
「だってこっちの方が、なんか私運んでる! って気分になって……」
「それでこけてちゃ世話ないですよ。ほら、これだけ運んでください」
「はぁい」
割れてしまった分を片付けて、改めて半分こして食器を運び始める。
(能力は高いはずなんですけど、どうにも抜けてるんですよねえ)
並んで歩きながら、横目で咲夜の顔を見る。
透き通るような白き肌。涼しげな蒼い瞳。しゃらしゃらと揺れる銀の髪。
(うーん、落ち着いて見れば美人なんですけどねえ)
まぁ、考えてみれば黙ってりゃ美人なんてやつは、幻想郷にはそう珍しくもないか、と美鈴は思った。
神社の巫女しかり、白黒の魔女しかり。
そんなことを思いながら咲夜の横顔を眺めていると、ふとそれがこちらを向いてにこりと笑いかける。
「美鈴、今日の朝食のカレーはどうだった? 隠し味につぶあんを入れてみたんだけど」
「ええ、全然隠れてませんでした」
美鈴は遠い目で答える。しかも朝食にカレーて。
「そっかぁ。やっぱり粒が目立つからこしあんの方がよかった?」
「まったくもってそういう問題ではないというか、どっちにしろ隠れないと思いますが」
咲夜はうむむ、と唸ると、またにこっと笑顔を浮かべて答えた。
「じゃあ今度はがんばって隠すわね!」
「隠す努力をしてどうするんですか! あなた普通に作ったら普通においしいんですから、変な事する必要ないんですよ」
「普通じゃ物足りないお年頃なのよ」
「私は普通で満足なんですが……」
美鈴がそう言うと、咲夜は困ったようにもじもじし始める。
「だってこう、何か工夫があったほうが愛が伝わるというか……あっ、愛といっても家族的な、ね?」
完膚なきまでのメシマズの罠である。
美鈴はふぅ、とため息をついた。
「咲夜さん」
「は、はい」
なぜかかしこまる咲夜。
「久しぶりに一緒に食事でも作りませんか」
「ほう、それで今日は咲夜と一緒に食料の買い出しに行きたい、と」
レミリアの私室。
美鈴はとりあえず当初の目的である業務報告に訪れた後、咲夜と一緒に料理をするべく、買いだしに行きたい旨を伝えた。
ナイトキャップとパジャマ装備で寝る準備万端なレミリアは、カリスマ溢れる威容をもって鷹揚に頷いた。
「まぁたまにはいいんじゃないの。あなたならちゃんと部下も仕込んでいるでしょうし、多少席を外すくらい無問題よ」
「ありがとうございます」
美鈴が深々と一礼するのを見て、レミリアはひらひらと手を振る。
「いやいや、最近咲夜は何かと迷走してるからね。よろしく頼むわよ、美鈴」
レミリアの様子に、美鈴はふと気づく。
「……もしや、お嬢様も?」
「うん、隠れてなかった……」
「参考までに、何に、何が?」
「ピザに、バウムクーヘンが」
「Oh……」
重症だ。
「というわけで、みっちりとデートして咲夜を復調させておあげなさい」
「デートじゃないです。買い出しです」
「似たようなものよ。お出かけするんだからあなたも少しおしゃれをしなさい。ほら、腕にシルバー巻くとか!」
「ちょっとセンス古いですよお嬢様!?」
「美鈴ーお待たせー」
時刻は昼。
紅魔館の門に、妖精メイドやホフゴブリンたちへの業務指示を終えた咲夜がぱたぱたと走ってくる。
午前中は準備期間と業務指示に当てる必要があるし、昼食時はレミリアたちも寝ているので、一緒に作るのは夕食ということになった。
「いやぁ、せっかくのお出かけだから少しおめかししちゃったわ」
「……失礼ですが、どこがですか?」
美鈴の見る限り、いつも通りのメイド服に身を包んだ十六夜咲夜なのだが。
「ほら、腕にシルバーを」
「あんたもかい!」
思わずツッコむ。
館内で流行っているのか。今更。
「……じゃあ行ってくるけど、留守番よろしくね」
「お任せください! どうぞ行ってらっしゃいませ、隊長、咲夜様!」
美鈴が門番妖精部隊の中隊長に声をかけると、彼女は元気に敬礼をとって応えた。
「それじゃあ行きましょ」
「はい」
そうして美鈴と咲夜は連れ立って紅魔館を飛び立ち、人里へと向かった。
「咲夜さんは何か作るものとか決めてますか?」
「おでんを」
「なんでそのチョイス」
「なぜか無性に食べたくなって……」
などと、他愛もない会話を交わしながら、二人は人里の商店を覗いていく。
「美鈴と一緒に作るのだったら、やはり中華尽くしにしてみた方がいいのかしら。中華風おでん……ふむ」
「お願いだから変なことを考えないでくださいよ」
途中でイタズラな妖精に咲夜さんが仕返しにいたずらしたり、八百屋で命蓮寺の買いだしの人たちと大根を争奪したりと細々としたハプニングを経ながらも、二人は安いもの、使えそうなものを買い込んでいく。
「どうだいそこのお嬢さん方。豚肉が安いよ!」
「あ、ホントだ安い」
精肉店のおっちゃんの呼び込みを受けて美鈴がケースを覗きこむと、確かに豚肉がお買い得な値段だった。
「セールか何かですか?」
「いや、ちょっと女房が無双状態でな。それでノリノリで屠殺しすぎてな」
「なにそれこわい」
とりあえずせっかくなのでいっぱい買っておいた。
「大体目ぼしいものは買いましたし、あとは紅魔館に備蓄してあるもので十分ですかね」
「ごめんね美鈴。色々と持ってもらって」
リュックや手提げにいろいろと詰め込んでいる美鈴を見て、咲夜が少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいんですよ。妖怪ですし、体力自慢ですし」
「うん、ありがと。それじゃ、帰りましょうか……あっ」
咲夜は何かに気づいたように目を少し見開き、ちらっちらっと美鈴の様子を伺う。
美鈴がその視線の先を追ってみると、そこには甘味処が見て取れた。
とりあえず美鈴は咲夜の頭をさらさらと撫でくってみる。
「ひゃわ、何をするのよ!」
「行ってみましょか」
「え、でも一応職務中だし……」
そうやって誘惑に抗う姿勢を見せる咲夜に苦笑しながら、美鈴は優しく声をかける。
「あはは、誰も怒りゃしませんよ」
「一緒に甘味処に入って妖精に噂とかされると恥ずかしいし……」
「完膚なきまでに断られた!」
「ああ、違うの、そういうことじゃなくて……えと、その」
しどろもどろになって言葉を濁した後に、突然びしっとポーズを決めて美鈴を指差す。
「あなたがどうしてもというなら、付き合ってあげないこともないわっ!」
「あ、ども、ありがとうございます。じゃあ行きましょうか」
「ちょっと~、なんか突っ込んでよ~、恥ずかしいじゃない~」
鷹揚に手を振って歩き出す美鈴に、咲夜は小走りでついていった。
「いらっしゃいませー。甘味処『桜花八卦掌』にようこそ!」
「何だその必殺技みたいな店名」
和服の給仕さんがにこやかに挨拶してくれる。
とりあえず店名の割には、中身は普通の甘味所のようだった。とりあえず二人は案内された席に座る。
「何かお勧めはあるかしら?」
咲夜が店員さんに尋ねると、メニューを指し示して答えてくれた。
「お勧めはこちらのうなぎパフェになります」
「なんかものすごいのをお勧めされた!」
「じゃあそれで」
「ためらいもなく頼んだ!」
美鈴は咲夜の豪胆さに舌を巻きながらも、自分はとりあえず杏仁豆腐を頼んだ。
「やれやれ、さすがに久々の人里は、結構驚かされることが多いです」
美鈴がふぅー、と人心地ついたように息を吐く。
「そっか、美鈴はずっと門にいるからあまり出かけられないのよね」
「あまり出かけようとも思いませんしねえ」
紅魔館の門に立っているのは、美鈴にとってはなかなかにそれだけで満足なことだった。
妖精部隊もいるし、退屈はしない。
「でもそれだけに、咲夜さんとこうしてゆっくりするのも久しぶりと言うか」
「そうねぇ」
お互いに多忙で基本は休みもなく、持ち場が館内と館外と分かれていることから、挨拶程度に顔を合わせることはあっても、ゆっくりと話をするに至るのは本当に久しぶりのことだった。
「咲夜さんが小さいころはずっと一緒にいたんですけどねえ」
「小さい頃の話はいいでしょ」
咲夜が赤くなって膨れる。
そういうところもまだまだ子供だなぁ、と美鈴は内心で微笑んだ。
「もしかして、寂しかったんです?」
「な、何を言っているのよ!? そんなわけないじゃない!」
美鈴の一言に、咲夜が狼狽して大きな声を出す。
図星だといってるようなものだ。
「私は完全で瀟洒を二つ名にしたメイド長よ! そんな軟弱な考えは持ってないのっ!」
どんっ、と甘味処の誘惑に負けてたメイド長は胸を叩く。
「ふぅん、そうですかぁ。ふーん」
「ああんっ、視線が生あったかい!」
――『だってこう、何か工夫があったほうが愛が伝わるというか』
美鈴は咲夜が言ったメシマズの言い訳を思い出す。
それは本当に、彼女なりの愛の模索の結果だったのかもしれない。
それとももしかしたら、単純にそういうアホをしでかして、盛大にツッコんで欲しかったのかもしれない。
そうすることによって、もっとコミュニケーションを図ろうとしていたのかもしれない。
「……愛を取り戻さなきゃいけませんね」
「え?」
そう呟いた美鈴を、咲夜は首を傾げて見ていた。
悪魔の館、紅魔館。その厨房。
そこで君は、炎の料理人を見る。
「よっ、ほっ、はっ」
じゅわああああああんっ、と音を響かせて、美鈴が中華鍋を振るっていた。
咲夜は基本的に下ごしらえなどを担当し、美鈴が一気に仕上げていく。
既に八宝菜やシュウマイ、水餃子などが並び、咲夜によって出来立てのまま保存されている。
咲夜は最近メシマズの気が出たとはいえ基本的には当然料理上手である。
美鈴との豪華料理人タッグに、使用人の妖精やホフゴブリンたちが圧倒されるやらよだれをたらすやらでその様子を見守っていた。
やがて美鈴は炒めたブロック状の豚肉に、調味料と湯を混ぜて煮たものを取り出し、お皿にあけていく。
「あっ、それ……」
肉の一つ一つが濃厚なタレに包まれた、柔らかそうな豚肉。
それは、豚の角煮と見えるもの。
「それって、紅焼肉(ホンシャオロウ)?」
だが咲夜は、それに対して角煮とは違う単語を出す。
「はい。さすがに覚えてくださっていましたか」
にこりと美鈴が笑う。
紅焼肉は豚の角煮に似た上海料理の一種。かの毛沢東さんも大好物だったとか言われる一品である。
「ええ、美鈴の名前入ってるし」
「そこすか」
「ええ当然。……そして」
そして何よりも、美鈴が咲夜に初めて振舞った料理だった。
*
部屋の隅で幼い少女が震えている。
先ほどまで泥だらけで、色あせた襤褸をまとっていた少女。
洗って服を着せれば多少はサマになったが、それでも痩せていてみすぼらしい印象はぬぐえない。
「愛も知らず、ただ主への恐怖と敵の壊し方しか知らない、使い捨ての対魔ハンターねえ。まったく、これではどちらが悪魔なのやらわかりやしませんねぇ」
中華風の衣装を纏った赤髪の女が、トレイを持って少女を捕らえている部屋へと立ち入った。
「『この十六夜の月の下、我が夜を咲かす礎となれ』。ご主人様はあなたにそうおっしゃいました」
女は主の気まぐれに苦笑しながら、しゃがんで少女に目線を合わせ、手に持ったトレイを差し出す。
「あなたがこの先我々にとってどういう存在になるのか、私にも想像はつきませんが……。とりあえずまぁ、お食べなさい。何をするにも、まずは食べなきゃ始まりませんよ!」
トレイの上に乗っていた皿に盛られていたのは、そう。
肉の一つ一つが濃厚なタレに包まれた、柔らかそうな豚肉――
*
「ああ、この味、香ばしさ……」
咲夜はそれを味わい、小さな涙をこぼした。
口に入れるととろけんばかりで、脂身もしつこくない。全部あのときのまま。
久しぶりに食べる、美鈴の得意料理。
「ククク……確かに美鈴の料理は久しぶりに食べる気がするわ。長生きはするものね」
レミリアが冗談めかして美鈴にウインクを投げかける。
一般の使用人への配膳は彼ら自身に任せ、レミリアや咲夜、美鈴など紅魔館の幹部級は、揃って夕食の席についていた。
「そんなお嬢様。私が作ったものなんて大した料理じゃないでしょう?」
美鈴の謙遜に、レミリアはこくりと頷く。
「料理の難易度的には、まぁそうかもしれないわね」
「だけど、美鈴が作ってることに意味がある!」
その隣で元気よく、フランドールが言葉を継いだ。
「普通の料理でも……美鈴が作っていることに意味がある」
咲夜は、はっとしたようにフランドールの言葉をもう一度、反芻するように呟く。
そしてそれを聞いたパチュリーが、上品にわざわざナイフとフォークで紅焼肉を食べながら、
「むきゅー(そうね、モノが普遍であればあるほどに、誰が作るかは大いに意味を持ち。そしてそこに込められた気持ちもまた意味を持つ)」
一声、鳴いた。
「そうか……」
咲夜はそうして、隣の美鈴を見た。
美鈴は微笑んで咲夜に言う。
「咲夜さん。愛は、取り戻せましたか?」
「……ええ、もちろん。これは、私を人間にしてくれた料理」
――私に愛をくれた、料理ですもの。
*
「ひゃああああああん!」
「わー!? 咲夜さーん!?」
がちゃんぱりーん。
今でも結局めいどちょうはめいどちょうで。やっぱりどうでもいいとこでたまーにポカをする。
でも、決してもう咲夜はメシマズには、戻らない。
「……いつもごめんなさい、美鈴」
また無駄に無理して食器を運んでいた咲夜は、厨房まで付き合ってくれた美鈴に頭を下げる。
「いえいえ。咲夜さんのお役に立てれば、それはうれしいことですから」
咲くような美鈴の笑顔に、咲夜ははにかんで下を向く。
「全然だめだなぁ……たまには私が役に立ちたいのに……」
「ん? 何か言いました?」
「い、いえ、何も。忙しいところ手を煩わせて悪かったわね」
「いえいえ、では私はこれで」
美鈴は手を振ってその場を辞し、自分の持ち場である門へと戻っていく。
それを見送った咲夜は、ふぅ、とため息をついた。
「どうしても美鈴の前だと変な背伸びをしちゃうわ」
咲夜はそうして自分の頬をぴしゃりと叩き、気合を入れなおす。
今はまだ、完全で瀟洒の名にちょっぴり恥じてしまっているけど。
「がんばらなきゃ。そうじゃないと」
厨房の中に戻ろうとしながら、再び美鈴の去っていった方向をちらりと振り返る。
「いつまでたっても私の憧れに、追いつけないものね」
『ダメ咲夜さんに中華の祝福を』――fin
気軽に楽しめる良い短編でした
まだ無窮の法使ってるパチェさんに吹いたww
これから長編の方も読んできます
最近こういうのがなかったので面白かった
…お腹が空いたよ
ほんわか心温まるめーさくでした。
そしておなかが空きました。
「愛を取り戻さなきゃいけませんね」なんて台詞をさらっと言えてしまう美鈴も素敵でした