Coolier - 新生・東方創想話

天壌夢弓ノ嫉妬ヲ抱キ

2014/04/23 00:22:55
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 私は鬼人正邪。
 地上にて弱者が強者を支配する理想郷を作り上げようとしたのだが、後一歩のところで失敗した、救世主になれなかった天邪鬼だ。
 そんな私は今、地獄の旧都を歩いている。
 色々とあって流れ着いたこの地底だが、元々は地上から忌み嫌われた妖怪たちの作り上げた場所。
 実に居心地のいい雰囲気をしている。
 ――だが、この旧都は別だ。
 ここは絶対の力に飽かせた最大の強者。『鬼』が作り上げた栄華の都。
 奴らだけは地上に追いやられたのではなく、地上に見切りをつけてここまで来た。
 そして嘘を嫌うというのは本当にふざけたことだと思う。自分に力があるからそんなことが言える。自分に力があるからそんなことを自然と他人に強要できる。
 自分が一番嫌いな奴らだ。
 みんな死ねばいいのに。
 ああ、実に

「妬まっすぃーーーーーーーい!!!」

 こまくがやぶれるかとおもいました。


『天壌夢弓ノ嫉妬ヲ抱キ』



「なぁ、妬ましいでしょ!? ほら、あそこのカップル! こんな昼間からいちゃいちゃしちゃって! くぅー! 妬ましい! あんたも妬ましいでしょ!? ねえ!?」
「は、はい。そうですね」
「ひゃっはぁー!!!」
 いっつも薄暗いのに昼間もクソもあるのか。とか思いながらも勢いに圧されて同意すると、勢いよくパーンとハイタッチさせられた。いてえよ。なんだこいつ。
 そいつ……なんか農民みたいなカッコをした、金髪と緑色の眼が目立つ妖怪。
 顔立ちは……まぁ一応美をつけてやってもいいくらいの少女。
「おおっ、あの人美人さん! お化粧の乗りもよさそう! 妬ましい! そこのミセス! 特売の野菜をゲットできるなんて妬ましい! 主婦としての嗅覚に磨きがかかってるのね! 妬ましい! あそこの子鬼はベーゴマ強いわね! このあたり一帯では敵なしの強さで、この前の大会ではぶっちぎりの優勝よ! 妬ましい! ひゃっはああああー!!」
 そいつは道行く奴らを眺め回しながら、どうでもいいことを妬ましい妬ましいと喚きたてていた。
 ほんとなんだこいつ。
「時にそこの妬ましいほどかわいらしいあなた!」
「ふぇい!?」
 突然こっちに向いて発言するのでびっくりした。
 思わず後ろを振り返ってしまう。
「あんたよあんた! まったくとぼける様もあざとくてかわいらしいわね! 妬ましい!!」
 そいつは私の肩をつかんでがっしがっしと揺らしまくる。ぐえええええ。
「やめてくれ!」
 たまりかねて私はその手を払いのける。
「なんなんだあんたは! 私があざとくてかわ……っなど、人をからかうのもいい加減にしろ!」
 割と全世界からお前が言うなと指差された気がしたが、その想像は心地よい。
 逆に、目の前の妖怪が放つその緑色の視線は、ひたすらに気持ちが悪かった。
「照れて赤くなるさまもかわいいわぁ! どうやったらそんなにかわいい反応が出来るのかしら! 妬ましいわね!」
「やめろ! やめろ気持ち悪い!」
「鮮やかに染め分かれた髪も美しいわ! 妬ましい! あら、妬ましいほどにかわいらしい小さな角。あなた鬼なのかしら?」
「っ! あんなやつらと一緒にすんじゃねええええええ!!!」
 気持ちの悪い賞賛に加えて、鬼なんぞと同じにされて思わずカッとなった。
 私は能力を使って、そいつをすこーんと天地逆へとひっくり返してやる。
「ひゃああああ!?」
 そいつは情けない声をあげて、無様にも地面へと転がり、はいつくばった。
「あーっはっはっは! いいざまだ! さっきの声の情けなさといったら、笑いがとまらねえ! ほら、ほらほらほら! どんな気持ちー!?」
「あーっ、もう、あなた!!!」
 煽りまくってやると、さしものアホ妖怪も怒気を漲らせて立ち上がった。
 さぁこい。罵るがいい! 人に嫌われることこそ天邪鬼の本懐よ!
「そんなに堂々と嫌がらせできるなんて! その胆力が妬ましい! こんなに簡単に私をひっくり返せるなんて、その能力が妬ましい!! そんなかわいい声で罵声を紡げるのが妬ましいいいいいいいいいいい!!!」
「だぁーっ、もーーーーっ! こいつはぁあああああああああっ!!!!!」
 罵り返してくるどころか、ただハンカチを噛んで妬んでくるだけ。
 ほんと何なのこいつ。何なのこいつ。なんなんだこいつはあああ!!!
「そこの妖怪ども! 何を騒いでいるんだ!!」
 旧都の雑踏の中とはいえ、あんまりにも私らが騒がしくしてたもんだから、鬼の警備員がこちらへと走ってくる。
 まずいな。
「警備のお兄さん、今日も職務に熱心ね! 打ち込めるものがあって妬ましいわ!!」
「なんだ橋姫か。妖力を貰いに来てるのはわかるが、ほどほどにしておけよ」
「ありがとう、その優しさが妬ましい!」
 標語かよ。
「そして……お前は、天邪鬼か。旧都はフリーダムだからな。じゃんじゃん騒ぎを起こしてくれていいぞ。それと一つ忠告しておくと、こいつと真面目にやりあっても疲れるだけだからな?」
「ご忠告痛み入ります」
 私ともあろうものが普通に感謝を示してしまった。
 しかも騒ぎを起こしてくれていいとか完全に天邪鬼的な釘を刺しやがった。しかもたぶんそれも一応嘘じゃないんだろう。ちくしょう悔しい。
 警備のお兄さんに別れを告げると、なんだかどっと疲れて息を吐く。
「そっかー、あなた天邪鬼だったのね。なかなかのネタマシックエネルギーを感じるわ」
「そんなエネルギーを私の中に存在させないでくれ!」
「私は橋姫。嫉妬の鬼よ。鬼のようで鬼でない半端もの同士、私たち、似てるわね!」
「一緒にすんじゃねえええええええ!!!!」
 私にはわかる! 私にはわかるぞ! こいつは絶対に私と相容れない奴だ!
 ある意味鬼以上に相容れない奴だ!
「ちくしょうばーかばーか!」
 身の危険すら感じて、私はもうなりふり構わずに捨て台詞を残して走り去った。
「ああっ、走り去る姿も妬ましい!」
 おぞましい言葉を背後に浴びながら。


 後日、私は気を取り直して旧都を離れ、縦穴の方角へとやって来ていた。
 鬼がいる以上、地底の中にだってヒエラルキーは存在する。
 絶対支配者の鬼が一番上。そして鬼にへつらう旧都の妖怪どもが中っくらい。そして旧都の恩恵の受けられない旧都の外――たとえばこの縦穴の近くで暮らしている妖怪たちが一番下といえるだろう。
 ここを拠点にまずは旧都とのパワーバランスをひっくり返し、ゆくゆくは地底をまとめて地上を制圧する。
 小槌があった頃と違って今は特に頼りはないが、夢はでっかく持っておかねばなるまい。
 それにここは、きっと自分に近しい妖怪たちが暮らす場所。
「あー、この前の妬ましい天邪鬼!」
 すいません、前言をひっくり返させていただいてもよろしいでしょうか?
「げぇっ、この前の橋姫! 何でお前がここにいるんだよ!」
 縦穴へと続く橋が見えたところで、再びあの緑色の視線が私を射抜く。
「だって私、橋姫だもの。ここの橋の番人をやっているわ」
 地底に来たときは、旧都に出かけていていなかったのか。
 ちくしょう、旧都暮らしとばかり思っていたのに、こいつが私に近しい妖怪だと!? 誰がそんなウソをいったんだ! 私か! さすが私!!!
「今日もちっちゃくて可愛らしいわね! 妬ましい!!!」
「うるせええええ! 気持ち悪いんだよ! 褒めるのをやめろ!!」
「私はあなたを褒めてなんかいないわよ! ただ妬んでるだけ! ああ、ストレートに物を言えるその性格が妬ましい!」
「うるせー! だれがストレートだ! 私はひん曲がってナンボの天邪鬼、鬼人正邪様だぞ! 言葉に気をつけろ!!」
「姫神聖邪? 名前を『†』で囲めそうなくらいにきらきらした名前ね! 妬ましい!」
「勝手に人を痛々しいオンラインにするな!!! 鬼人正邪だ! 鬼と人! 正と邪! 正反対の概念をひっくり返す! それが私の名だ!」
「私の名前は水橋パルスィ!!」
「誰もお前の名前なんか聞いてねーよ!!!」
 またまたイライラが募って、このアホ橋姫をすこーんとすっころばしてやる。
 でもやっぱりまた起き上がって開口一番に「妬ましい!」。
 もうやだこの橋姫。


「馴れ馴れしくすんじゃねえ! 私は地上で大異変を起こした偉大な妖怪だぞ!!」
「いよっ、妬ましい!」
「弱者が強者を支配する理想郷の実現のため、レジスタンスを立ち上げた我々は!」
「いよっ、妬ましい!」
「地上の妖怪たちのほとんどの賛同を得て快進撃につぐ快進撃!」
「いよっ、妬ましい!」
「妖怪の賢者すら震え上がらせたこの私はぁ……」
「いよっ、妬ましい!」
「うがああああああああああああああああああああ!!!!」
 何で私はこいつとの会話を続けるなんて選択をしてしまったんだ!?
 私の脳内選択肢が全力で私の下克上ライフを邪魔しているのか!?
 ちくしょう、人の嫌がることを信条とするこの私が、逆に嫌なことをされて追い詰められているなんて何の冗談だ!
「ちくしょう、こんなに嫌がらせが通じないなんて、妬ましいやつめ!」
「はあはあ、こんなに妬ましい天邪鬼が私に嫉妬してる……はあはあ……」
 また喜ばせちまった! 妬むのも妬まれるのもバッチコイかよ見境なしだな!
 きぃー! どうやったらこいつに嫌がらせが出来るんだ!?
 大体、人の成功を妬む嫉妬心の妖怪が、なんだって私とこうまで相性が悪いんだよ!? おかしいじゃないか!
 表舞台に立つ、華やかな存在に焦がれ、嫉妬するのは私だって同じだったはずだろう?
 その時、私はふと思い立って、パルスィへと問いかける。
「おいお前。鬼は妬ましいだろう」
「もちろん。あの強大さはこの世で一番妬ましいかも」
「その上にお前が立てるとしたら、どうする?」
 こいつの飽くなき嫉妬パワー。もしかしたら使えるかもしれん。
「私が、鬼の上に。鬼から嫉妬心を抱かれるような、そんな妖怪に?」
「そうだぞ、素晴らしいことだろう?」
 そう言ってにやりと笑いかけると。

「妬まっすぃーーーーーーーい!!!」

 うるちゃい。
「ダメよ、ダメダメ。そんなの妬ましすぎてダメよ」
「え、何でだよ。妬まれるのも好きなんだろ」
「好きだけど! そんな状況になったら確実に食べすぎで死ぬ!」
 えー。
「身の丈にあった健やかな嫉妬ライフを。これがこの水橋パルスィの人生哲学、文句あっか?」
 身の丈にあった健やかな嫉妬って何だよ。
「元々弱い人間の卑しい感情から生まれたのが私たち嫉妬妖怪。妬まれるのもいいけれど、やっぱり妬んでこそナンボよね!」
「嫉妬妖怪のクセに何悟ったようなこと言ってんだよ!!! 上を妬んで、上を踏みつけて、上に行こうとする意思! それが嫉妬だろ!」
「そうよ。私は嫉妬心。地殻の下の、嫉妬心。うーん、あなたの嫉妬も、煽りがいがありそうねぇ。うふふふふふ……」
「……!」
 そういう、ことか。
 私はついに得心が行った。
 こいつはただの嫉妬心そのものであって、嫉妬心を抱いた『何か』じゃない。
 嫉妬心は確かに上を妬み、上に行こうとする、私に近しいエネルギー。
 だが、たとえそれが満たされたところで、嫉妬心まで強大になるわけでもない。むしろそいつの抱く嫉妬心は低下してしまうだろう。
 上に行こうとさせながらも、自らはその動きに付き合うことのない。
 その身を滅ぼしかねない危険な要素を孕みながらも、上手く目標と合致さえすればただひたすらに走りつづける力をくれる、ある種お人好しとさえ言えるエネルギー。
「あなたはどうなのかしら正邪? 下克上を貫き通して、ひっくり返したその先は」
 黙れ。
「あなたが抱く飽くなき嫉妬心は、きっとずっと、満足することはない」
 うるさい。
「延々と、世界をひっくり返そうとし続けるの? ふふ、妬ましい行動力ね」
「っあああああああああああああああああああっ、ちっくしょおおおおおおおおおお!!」
 三度、パルスィをひっくり返す。
「ああんっ」
 パルスィは、もはや慣れた感じですっころんだ。
「やっぱり私はお前が大嫌いだ。水橋パルスィ」
「それは本当なの? 嘘なの? 妬ましい天邪鬼さん?」
 応えず、私はぴょいっと距離をとる。
 何を言ったって、無駄なんだ。
 病的なまでに人の長所しか見ない、この馬鹿みてえな嫉妬妖怪には!
「ああ、行ってしまうの? 妬ましい正邪」
 逃げるように、私はその場から走り出す。
「ああ、あなたの抱く嫉妬心は、とても妬ましい!」
 うっさい!
「私を忘れないでね鬼人正邪、その心の中の燃え滾る嫉妬心がある限り!」
 一秒でも早く忘れてやるよ!
「ああ、妬ましい妬ましい! ひゃっはああぁぁー!!!」
 っだああああああああああああああああっ!!!


 下克上。
 強者を妬み、取って代わらんとする。
 この天邪鬼たる鬼人正邪にとっての最終目標。
 この私を突き動かす、飽くなき夢。

『呆れたわ。そんな誰も得をしない事をする妖怪がいるなんて』

 野望をぶち壊していった巫女に言われた、心無い言葉が脳裏をよぎる。
 それでも上へ、それでも上へ。
 天地の逆転した頂上を目指して。
 だがこの心の中では、あの馬鹿が燃え滾っているという。
 離れない。
 あの緑色の眼が!
 嫉妬に塗れた視線が!
 あああああああああああああああ!!
 ああアアアアアアああああああああああああああああ!!!!









「ああ、いらっしゃい。また会えて嬉しいわ。妬ましい正邪」

 忘れられない。私が私である限り。

 逃げられない。

 緑色の眼をした怪物からは。



『現在、地下666階――

 ――逆さ摩天楼の果てまでようこそ』
原作の会話を見る限り、パルスィはよく二次で見かけるほど陰気な奴ではないように思う。
むしろ彼女は前向きに嫉妬することを楽しんでいるのではないだろうか。
いやまぁ、さすがにここまで楽しんでるとは言わないけれど。
パル正邪の可能性はたまに耳にしますよね。下克上と嫉妬心。正邪が逆さ城を使ったように、パルスィも『逆さ摩天楼』という言葉を使ったことだし、何かにつけお似合いの二人かもしれません。
まぁこの作品では人の長所しか見えないパルスィと、好かれることが大嫌いな正邪のせいで、よくわからない結果になりましたが。
†姫神聖魔龍†
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コメント



0.680簡易評価
5.100名前が無い程度の能力削除
嫉妬もこれくらいさっぱりしていると見ていて気持ちが良いですねぇ
突き抜けている感じのパルスィと、まだまだ歪んでいそうな正邪という組み合わせはなかなか相性が良いかもしれません
9.100名前が無い程度の能力削除
こういうパルスィが好きです
他人の嫉妬を煽り操るときでさえケラケラと楽しんでそうでたまりません
正邪は割と真面目というか理詰めで考えてそうですね
からかうはずなのに空回りする様が似合いすぎる。てゐとからませるのも面白そうです
12.90奇声を発する程度の能力削除
こんなパルスィも良いですね
13.100絶望を司る程度の能力削除
ギャグかと思いきや最後のバットエンド……持ち上げて、投げ落とす的な。不覚にも恐怖を感じました。
14.80非現実世界に棲む者削除
恐るべしグリーンアイドモンスター。
目をつけられたら最後までつきまとわれる。
この二人、最恐のコンビだと思う。
20.無評価名前が無い程度の能力削除
パル正!
そういうのもあるのか
21.80名前が無い程度の能力削除
点数忘れたので
22.100名前が無い程度の能力削除
原作絵のパルスィが見える…