ひとりぼっちでいる人には大きく分けて2種類あると思う。
1つ目が、1人でも全然平気な人。
2つ目は、1人でいることが恥ずかしくて、本当は誰かと一緒にいたい。自分を認めて欲しいと思っている人。
それでね、わたしのおねぃちゃんは間違いなく後者に分類されると思うんだ。
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
「あら、こいし。ちょうど良い所に戻ってきました」
家に帰ってきたわたしに、おねぃちゃんは椅子に座ったまま話しかけてきた。
おねぃちゃんに見つかると面倒なことになるかもしれないから、一応バレないようにこっそり帰ってきたつもりだったんだけど気づかれていたみたい。
気配を消したわたしに話かけられるのは、どれだけ幻想郷が広いとは言っても、おねぃちゃんを他においてないのが、わたしにはうざくもあり、ちょっと嬉しくもある。
「なぁに? おねぃちゃん」
「実はですね。今朝、私も少し地上に出てきたのですが……」
「また地上に行って来たの? 懲りないね、おねぃちゃんも」
おねぃちゃんは基本的に出不精だけれど、最近はたまに地上に出かけては色んな所を回っている。おねぃちゃんは隠しているみたいだけど、おねぃちゃんは地上の友達を欲しがっているんだと私は思っている。
おねぃちゃんは友達がいない。少ないんじゃなくて、いない。
完全にゼロである。
それはまぁ本人の性格が悪いのが原因だからしょうがない。
でも、おねぃちゃんは強がっているけれど、本当は友達が欲しいみたい。
だからまぁ、地上で友達探しをしてるみたいなんだけど、おねぃちゃんは空気が読めないし人当たりも良くないから上手くいくはずもなく、毎回浮かない顔で家に帰ってくる。
この間なんてすごい形相したお巡りさん5人くらいに連れられて家に戻ってきたらしいよ。わたしはその時は家にいなかったから分からないんだけど、お燐がお巡りさんにガミガミ怒られたらしいから、地上でロクでもないことをしてきたんだろうね。
わたしには迷惑はかかっていないから別にいいんだけどさ。
「ふむ……」
おねぃちゃんは椅子から立ち上がって、私の全身を見回した。
「いいですね。流石私の妹です。舞台映えするでしょうね」
「? どういうこと?」
「実はですね。地上に行った時に寺子屋に寄りまして」
「寺子屋に?」
「ええ、里の人間が寺子屋で文化発表会をするそうで、出し物の募集をしていたのですよ」
「へぇ〜文化発表会なんて、そんなことやるんだ」
「はい。例年、書道や焼き物から、合唱や舞踊などを発表する場として好評で大勢の人が来るそうです。賓客として鳥獣伎楽も来るらしいですよ」
「ふ〜ん、それで?」
「その場で私も演劇の出し物で申し込んでおきました。地霊殿みんなで参加しましょう」
「やっぱりおねぃちゃんってアホでしょ」
おねぃちゃんはキョトンとした顔で、不思議そうに首を横に向けた。
「こいしは舞台に出たくないんですか? 面白そうじゃないですか」
「そういう問題じゃなくってさ。わたしたちに何の相談もなくなんでそう勝手に決めちゃうのさ〜?」
「いいじゃないですか。大勢の人が来る前で見事舞台を成功させれば地上の間にも『地底にさとりあり』……いえ地霊殿の名前が広がるというものじゃありませんか」
やっぱり、そういう狙いだったかー。
「わたしは演劇なんてやったこともないし出来るとも思えないよ」
「大丈夫ですよ。ちゃんと練習すれば、こいしなら出来るようになります」
「いや、そもそもわたしはやる気ないし」
なんでわたしがおねぃちゃんの自己陶酔と自己顕示欲のためのそんな出し物に出なきゃならないのか。
「やるのはいいけど、おねぃちゃん一人でやってよね。かわいそうだからペットに押し付けるのも禁止だよ」
「え……」
おねぃちゃんはわたしに断られるとは全く考えていなかったようで、驚きの表情を見せた。
「そうですか、分かりました……嫌がる妹に無理矢理に出演させるわけにはいけませんよね」
おねぃちゃんはそう言って、もう一度椅子に座った。そしてすぐさま頭を抱えてなにかブツブツつぶやき始めた。
「はぁ……どうして私はこうなんでしょう……何をやっても上手くいかない……せっかく演劇で私ももっと地上の人に好かれようになると思ったのに。まさか一番信頼していた妹に裏切られるなんて。いつもそうです。私がなにかやろうとするたびに私は裏切られる……不運続きのこんな人生なんていっそ……」
おねぃちゃんの目は虚ろで、背中はかすかに震えている。
この呟きもわたしに対するイヤミなんかじゃなくって本気だから困る。
こんなだからメンドクサイ子って思われて人から避けられていることにそろそろ気付いてほしい。
でも、わたしがここで見捨てられないからおねぃちゃんもそれに気付かないんだから、わたしもしょうがないんだよねぇ。
わたしは一つ大きなため息をついておねぃちゃんに話かけた。
「もう、わかったわかったよ。やってあげるよ。出てあげるよ。そのおねぃちゃんの演劇」
「え、本当ですか!?」
おねぃちゃんは勢いよく振り返って、ぱぁ〜っと嬉しそうな顔をした。
「うん、いいよ。どうせしばらくすることもないし。暇つぶしくらいにはなりそうだしね」
「ありがとう、こいし。やっぱりあなたは私の妹です」
さとりおねぃちゃんがわたしに抱きついてきたが、それを華麗に避けてわたしはさっさと話を続ける。
「それで、演劇をやるっていっても問題が一杯あるよね? 大体何の劇をやるの? 素人のわたしたちがそんな大層なもの出来ないからね」
「なんで避けるんですか……まぁそうですね。その点は大丈夫です」
「なんで?」
「脚本は私が書いた完全オリジナルのものを使うからです。ほら、こいしにもこのあいだ、読ませてあげたでしょう? あの私の小説を舞台風にアレンジして使おうと思っています。あれは中々の自信作でしたからね。きっと里の人たちにも面白がってもらえるんじゃないですか」
「その脚本ってこれのこと?」
わたしはおねぃちゃんが座っていた机の上に置いてある原稿用紙の束を手に取った。
「はいそうですよ」
そしてそのまま原稿用紙を4つに破いて、部屋の隅にあるゴミ箱にバコンと叩き込んだ。
「……何をするのですか」
「何をするのですかじゃないよ! この前おねぃちゃんに無理やり読ませられた時にも言ったでしょ! おねぃちゃんの小説は中身が携帯小説並にからっぽなくせに無駄に難しい言葉使って無駄に読みづらくしてる存在自体が無駄な大々駄作って! しかもあれって確かエログロナンセンスなひっどいお話でしょ!? そんなもの子ども達がいる寺子屋で演じようとしてたの!?」
「エログロナンセンスなんて酷いですね。あれは哲学的エッセンスをメタファーに用いながら男女の情愛を描写した純文学作品ですよ」
「具体的にどんな話だっけ?」
「学校で虐められていた主人公はある日、街で手に入れたドラッグに夢中になって全身に入れ墨を……」
「あ、もういいから。それ以上言わなくていいから」
「復讐のために殺した、いじめっ子の潰れたトマトのような生首に対しておもむろにズボンを脱ぎ男性器をあらわにして……」
「もういいって言ってるじゃん! それ以上わたしの耳を汚さないで!」
そんなことばっかり考えてるからおねぃちゃんに人が寄り付かないんだよ! と大きい声で言いたくなったけど、言ったらまた面倒なことになりそうだったから言わない。
でもおねぃちゃんが「なんでこいしはこんなに怒っているんでしょう?」みたいな顔してるのが本当にムカついちゃう。
「ねぇ、おねぃちゃん。わたしたちは演劇初心者なんだからさ。オリジナル脚本はやめてもっと普通のやつにしようよ。ね?」
「なるほど、貴女の言うことにも一理ありますけれど……では何をしますか? わたしの小説よりすぐれた脚本など世の中にそうはないと思うんですが」
「まぁ星の数ほどあると断言できるけど。代わりに何を……う〜ん」
言われてみれば答えに困ってしまう。わたしも演劇にはそんな詳しくないから初心者向けの脚本なんてすぐには浮かんでこない。
さてどうしたものかな?
「そうだね。子ども向けに桃太郎とかどう?」
「桃太郎は普通過ぎて面白くありませんし、何より鬼退治のお話というのは憚られますね」
「あ〜確かに」
地底には鬼が何人か暮らしているから鬼を悪者にする桃太郎は却下せざるをえない。
「他のメジャーなお伽噺でいいんじゃないの? 浦島太郎とかかぐや姫とか」
「そういうおとぎ話は幻想郷には大抵関係者いますからねぇ」
「じゃあ何をやろうかなぁ……。演技が初心者ならストーリーが大事だし脚本選びに失敗するわけにはいかないし」
「そうだ、ピーターパンとかどうでしょう? ディズニーの名作、子どもの憧れ」
おねぃちゃんがしたり顔でそう提案するけど、
「ネバーランドに憧れる子どもが幻想郷にいると思う?」
「……いないですね」
幻想郷じゃあ妖精や空を飛ぶことなんてありふれてるし。
「やっぱりさっきの私の小説で……」
「却下!!!!」
おねぃちゃんの妄言は即却下だ。
「そんなすぐにダメって言わなくても……あ、そうだ! いい脚本を思いつきました! あれならきっといけるはずです!」
「一応聞くけど、なに?」
「私も大好きなあのお話です! こいしも知ってるはずですよ」
「だから何さ?」
「忠臣蔵ですよ! 忠臣蔵! 子どもから大人まで知名度が高くかつ人気作品、しかも分かりやすい勧善懲悪ですし」
「……忠臣蔵ねぇ」
忠臣蔵と言えば、君主である浅野匠頭の恨みを晴らす為に大石内蔵助をはじめとした家来たちが敵の吉良上野介を討つという、時代劇ではあるけれど確かに分かりやすい話だ。
子ども相手に見せる劇だから却下しようかと思ったけれどわたしも良い案が出せてないので仕方ないからもうちょっと考えてみようかな。
「まぁ忠臣蔵なら大人にも受けはいいし、年長の子どもならちゃんと理解できるとは思うけど……色々問題がない?」
「問題なんか何もありませんよ。いいじゃないですか忠臣蔵。私決めました。地霊殿のみんなで忠臣蔵をやりましょうよ! わたしが主人公の大石内蔵助で、こいしが吉良をやってください!」
おねぃちゃんはすっかり一人で盛り上がって忠臣蔵に決めていた。そういえばおねぃちゃん、一時期時代劇にはまってた時期があったなぁ、と思いながら、わたしはいつものように一人熱くなるおねぃちゃんを冷めた目で見る。
しかも、いつの間にかわたしを悪役にしてるし。まぁ吉良は目立つから美味しい役といえばそうなんだけどさ。
「でも忠臣蔵をやろうと思ったらさ配役で50人以上必要だと思うんだけど。うちにそんなに数いないでしょ。お燐や空みたいなのも含めても全然足りないよ」
主人公の大石内蔵助には46人の部下がいる。数を減らすにしても討ち入りに行くなら10人はいないと格好がつかないだろう。けれど、地霊殿には役をこなせそうなのはその数すらいない。
「もちろん47人全員出しますよ。忠臣蔵の47人にはそれぞれに役割がある重要人物なんですから」
「いやだからうちにはそんなに人がいないって話なんだけど」
「別に人である必要はないでしょう? うちのペットたちは賢いですからねぇ。舞台上でもちゃんと動いてくれますよ」
「じゃあおねぃちゃんは40匹以上の動物を引き連れて吉良邸に討入るの!?」
まるで動物大行進だよ。子どもには確かに受けそうだけどさ。
自分に恨みをもった侍がイヌやらネコやらカラスやらハシビロコウやらハクビシンやらタヌキやらアライグマやらイタチやらゴリラやらを引き連れて自分を殺しにやってくるとか、吉良からすれば普通に来るより恐怖だろうね。
「ふむふむ、いい感じに話が纏まってきましたねぇ。服装は私の持っている和服を使うとして、足りない分はどなたから貸して頂きましょう……小道具はたしか倉庫に日本刀が何本かありましたね。そういえばここにも資料に使おうと思ってた日本刀が1本ありました」
おねぃちゃんは机に立てかけてあった日本刀をおもむろに手に取った。
確かおねぃちゃんの小説は学園青春ものを謳ってたような気がするんだけど。一体どこでどうやって使うつもりだったのか聞きたくもない。
「ふふふ……日本刀はかっこいいですよねぇ。『私は大石内蔵助! 吉良っ! 我が主君、浅野内匠頭の敵!』」
おねぃちゃんは日本刀を抜き身にして大石内蔵助になりきって気持ち悪い笑みを浮かべていた。
小説やらに触れすぎると発症する病気の一つで自分を、物語の登場人物と勘違いしてしまうアレだ。いい歳してごっこ遊びなんて恥ずかしいからせめて地霊殿の中でのみに留めて欲しいと常日頃からわたしは考えている。
ヒュン
私の頭上の空気を、刀が撫でた。
数本の髪の毛がふわりと地面に落ちる。
「ふふふ……吉良め、とうとう追いつめましたよ。覚悟を決めて、大人しく討たれなさい」
おねぃちゃんがそう言ってわたしに向かって意味不明なことを呟きながら、刀を振りかぶっていた。
どうやら、今の斬撃はおねぃちゃんによるものだったらしい。
はぁ〜、こういう時のおねぃちゃんは言葉で言っても無駄だからなぁ……
仕方ないのでわたしは、おねぃちゃんの二撃目の横薙ぎをダッキングでかわし、体重を乗せた右フックをおねぃちゃんの脂肪のついていない胸に叩き込んだ。
わたしの右拳はカウンター気味に直撃し、おねぃちゃんはゲフっと呻いて片膝をついた。
「な、何をするんですか。痛いではないですか……」
「急に日本刀で斬り掛かっといてそれを言うかなぁ?」
「だって仕方がないではないですか。貴女は私の主人の敵なのですから」
「それは役の話でしょ。今は全く関係が……あ、おねぃちゃん鼻血でてるよ」
今の攻防で刀を鼻にぶつけたのかもしれない。
「え? あら、本当ですね」
おねぃちゃんは右手袖でごしごし血をぬぐった後、ティッシュを一枚ねじって血の出ている鼻の孔にグリグリと突っ込んだ。
おねぃちゃんも一応女の子なんだから、もう少し見た目を気にして欲しいんだけどなぁ。袖も血だらけだし。でも、これまで散々言ってきたのに効果はないから、もうわたしも注意はしない
「はぁ〜、まぁ何にしろおねぃちゃんがそこまでやりたいたな、お題目は忠臣蔵でいいよ。でも何度も言うけどわたしは演劇なんてしたことないんだから期待しないでよね? やるからには一応練習は真面目にはやるけどさ〜。そういえばその文化発表会って日にちはいつなの? もし近いならもう今日から演技の稽古をしないといけないと思うんだけど」
「文化発表会ですか? 私たちの出番は18時からですけど」
「時間じゃなくて、日にちは?」
「今日ですよ」
私は机に拳を叩き付けたくなった。
「ちょっといい加減にしてほしいんだけど」
「?」
「『?』じゃないよ! はぁ!? なんで今日の夕方6時なの!? もう3時間もないじゃん。さっきおねぃちゃん朝申し込んだって言ってたよね? なんで当日の、しかも演劇みたいな大きい出し物をその場のノリで申し込んじゃうの!?」
「何だか面白そうだったですし」
「そんなフワフワした理由でわたしたちを巻き込まないでよ! そもそも当日申し込んでよく通ったね。もうスケジュールとか決まってたんじゃないの!?」
「それはまぁ、実行委員会の方の心を読んで脅しをかけたら簡単に通りましたよ」
「だからそういうことするの止めてって言ってるじゃん! おねぃちゃんの悪いことしたの全部わたしにも迷惑かかるんだから!」
覚妖怪が嫌われる原因の一割くらいはおねぃちゃんのせいだと言われてもわたしは驚かない。
「知ってましたか、こいし。実行委員会の権兵衛さんには一人息子がいらっしゃいますが、実は権兵衛さんとは血が繋がっていないそうですよ。息子さんもそのことは知らないようで、うふふ」
「何が可笑しいのさ! 全然面白くないよ。笑えないよ!」
「そのことを息子さんに言った時の顔ったら……あはは、おかしい。貴女にも見せてあげたかったですよ」
しかもバラしたのかよ。サイテーすぎるよ、この女。わたしの姉ながら。
私がこれだけ慌てているのに、おねぃちゃんはまるで落ち着き払っている。
「こいし、貴女の言うことも分かります。確かに当日申し込んでその日の夕方までに演劇の準備をするのは大変だと思いました。しかし私はこれを地霊殿の宣伝の良いチャンスだと考えたのです。もしこの演劇が成功したら『地霊殿にはこんなに愉快な人たちがいるのか』となって私にも人気がでるとは思いませんか?」
「おねぃちゃんの人気は今や地の底まで落下してるから安心していいと思うよ。てかこんなことしてる場合じゃないよ。文化発表会までもうほとんど時間がないんだから。どうするの!? 題目が今さっき決まった状態で、しかもペット達にはまだ何にも言ってないんでしょ!? これじゃあどうしようもないよ!」
「あらあら、そうでしたねぇ。ふむふむ……」
おねぃちゃんは焦るわたしを尻目にゆったりとした様子でアゴに手をあて考え込んだ。
このおねぃちゃんは人付き合いのトラブルを増やす天才だけど、神様もそこまで不公平じゃなかったのか、結構おつむが良い。
いつも本を読んでいるから知識量はわたしの何倍もあるし、なにか悪いことがあった時にはいつもこうやって考え込んだ後に妙案を出してくれる。
確かに、性格も悪くって仕事も出来ないパッパラパーっていうんじゃあ流石に地獄の地霊殿の主は任せてもらえないんだろうね。
さて、おねぃちゃん、今回はどんな解決策を出してくれるのかな?
「そのへんは、まぁ適当にその場の空気でなんとかなるでしょう」
「ならないよ! 絶対ならないから」
まさかの衝撃的な言葉にわたしは驚きを隠せない。
「出来るわけないよ。素人のわたしたちがそんなこと」
「こいし、すぐに『無理』とか『出来る訳ない』とか言うもんじゃありません」
「いや、本当そういうのいいから。配役は!? 脚本は!!? 衣装は!!!?」
「配役は、わたしが大石内蔵助、こいしが吉良上野助、お燐が浅野内匠頭、お空が将軍さま。ペット達が残りの赤穂浪士。はい、決まりました。これで大丈夫です」
「適当すぎだってば! 大体、吉良の家来はどうするの。47匹の動物で無防備のおじいちゃんを嬲り殺しにするつもり!?」
「あら忘れていました。それではわたしのペットの半分は吉良の護衛につけましょうか」
「吉良の家来も全部動物なんだ……大石内蔵助の家来も全員動物なのに」
もう忠臣蔵じゃなくて『ワンにゃん大戦争』にタイトルを変えた方がいいんじゃないかぁ。それか『ビーストウォーズ』とか。地霊殿でティラノサウルスを飼ってないのが惜しいところだね。なぜかゴリラはいるのに。
あんまりな状況にわたしもアホなことを考えてしまう。
「貴女は私の部屋や倉庫から使えそうな小道具や服装を用意しておいて頂けますか? 用意が出来たらそのまま寺子屋に行ってください」
「え、本当にこのまま舞台にでるつもりなの?」
正気とは思えないよこの、おねぃちゃん。
「っていうか小道具や服装って、そんなのうちにあったっけ?」
「和服なら私のコスプレ用のものが確か10着程あるのでそこから持ってきて下さい。小道具も倉庫に大概揃っているはずですよ。私はペットたちを集めて演劇のことを話して連れて行きますから寺子屋で合流しましょう」
おねぃちゃんはそう言って、満足げに笑みを浮かべながらペット達の方へ歩を向けた。
一体どこから湧いてくるのはわたしには不思議でたまらないのだが、おねぃちゃんは本当に自信たっぷりなで、失敗することなんてまるで考えていないようだった。
はっきり言って、この演劇はめちゃくちゃだよ。
リハーサルやセリフ合わせどころか、台本や出演者の承諾すらまだ存在しないのだ。限りなく即興劇に近い。
それを演劇素人のわたしたちがやろうっていうんだから、まぁどうなるかは簡単に想像ついちゃうね。
子どものお遊戯くらいならまだいいけど、グダグダな空気のまま演劇を最後まで続けるなんて恥ずかしいったらありゃしない。
わたしは今からでもおねぃちゃんを追いかけていって、「やっぱりわたしは参加しない」と言い放ちたかった。
でも、わたしはそれをしない。
だって、おねぃちゃんの思いつきでむちゃをやらされるのはいつものことだから。
それが地霊殿だから。
「まぁ、やるしかないのかなぁ……」
わたしは悲しく独りつぶやいて、おねぃちゃんに言われた通り和服を取りにおねぃちゃんの部屋に向かった。
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
文化発表会はわたしが思っていたよりもずっと大規模なもので既にかなり盛況していた。
寺子屋で開かれると聞いていたからせいぜい50人かそこらが集まって、子どもたちに混じったおじいちゃんおばあちゃんが中心になって日頃の趣味を披露するくらいかなと思っていたけど、実際は運動場に特設ステージが作られて大勢の人でにぎわっていた。並べられたベンチに座っている観客は200を超えているんじゃないだろうか。
文化発表会は朝から始まっていたようで、わたしが到着した時は変なおじさんが得意気にパントマイムでやってみんなを大いに湧かせていた。
それが終わった後は、青年隊による縄跳びパフォーマンス。その次は農家のたくましいお兄さんたちの組体操。
たぶんみんなすごい練習してきたんだろう。動きはスムーズで、終わった後はみんな汗だくになりながらも充実感あふれる笑顔でステージから降りていた。もちろんお客さんたちも拍手喝采で彼らを褒め称えている。
そこに約二時間後、目も当てられない酷い演劇を披露するのが、わたしたちこと地霊殿である。
……う〜っむ、今からでも帰りたくなってきてしまったなぁ。
とは言っても、もう衣装も持ってきちゃったし、やるだけやってさっさと帰るのが一番かな。
わたしは「出演者受付」と書かれた張り紙を見つけて受付のおじさんに声をかけた。
「すいませ〜ん、参加者なんですけど」
「はいはい、じゃあ名前おしえてもらえるかな」
「え〜っと、地霊殿、かな? 地霊殿で申し込んでると思うんだけど」
「ちれいでん、ちれいでん……ん? も、もしかして地霊殿ってあのさとりっこのいるところか?」
「そうだけど」
がたん!
受付のおじさんは返事をきくなり椅子から転げ落ちた。
「う、うわあああああぁああぁあああぁぁ。や、やめてくれぇ。俺の秘密をバラすの止めてくれぇ」
おじさんは亀のように地面に身を屈めて震えていた。
「だ、大丈夫か又兵衛さん」
別のおじさんが、受付のおじさん(又兵衛さんと言うらしい)に駆け寄った。
そのおじさんは又兵衛さんの背中をさすって何かを語りかけてから、怯えと怒りが入り交じった表情でわたしの方を向いた。
「やい、この覚妖怪やろうめ。よくも又兵衛さんを脅してくれたな!? 権兵衛さんがどうしてもと言うからわざわざ無理して出してやったってのに、この恩知らずめ。大体俺はお前らみたいなのが大っ嫌いなんだ。この辺にゃあ色んな妖怪がいるが、お前らみたいに人の心を読む不気味なのは最悪だぜ。さっさと舞台に出て、とっとと帰ってくれ! おい、誰か塩もってこい、塩」
そういって二人目のおじさんに塩をかけられながら、わたしは退散をせざるを得なかった。
…………まぁ、わたしは覚妖怪だし?
嫌われ者なのは当然っていうか、もう慣れちゃってるし。むしろ人間なんかと仲良くなんかしたくないんだから。妖怪なんて嫌われて一人前ってよく言われるじゃん? え、なに、人間に好かれる妖怪って、もうそれ妖怪じゃないよね? ってのがわたしの妖怪哲学だからさ。嫌われてる妖怪のほうがある意味格が上だっていってもいいんじゃないかな? そもそもわたしって感情ってものがないし、心もないし、嫌われたからって響くものなんて欠片もないんだよね。だからさ、あんな風にひどいこと言われたからって、まぁ、気にしてなんかないんだからね、グスン……。そもそもさっきのだってほとんどおねぃちゃんのせいじゃん……わたし悪くないし……
普段は気配を消して大人からは気づかれないようにしてたから、まさかおねぃちゃんと一緒にわたしもこんなに嫌われていたとは思ってもみなかった。
周りから楽しげな笑い声が聞こえてくると、まずます自分がみじめに思えてくる。
うう……本気で帰りたくなってきたなぁ。
「あ、こいしちゃんだ」
「ほんとだ」
後ろからわたしを呼ぶ声が聞こえてきたので振り返ってみると、3人の子どもたちがいた。
里で知り合ったわたしの友達の太郎くん達だ。
落ち込んでいたところに見知った顔と出会えたので、ちょっとだけほっとする。
「こいしちゃんも文化発表会でるの? 俺達はあれやったぜ。リコーダーの演奏!」
太郎くんはそう言って、わたしに期待の眼差しを向けた。
この子はきっとわたしに「うん出るよ」と言って欲しいのだろう。
知り合いが出し物をするというのは出来のよしあしに関係なく面白いものだから。
「うん、まぁ一応でるよ。みんなで演劇をするつもりなの」
「うっそ、マジかよ。こいしちゃん演劇なんて出来るの!? スゲー!!」
子ども達が揃って騒ぎだす。
わたしとしては内状を知っているだけに、期待されるだけ辛いんだけどなあ。
「こいしちゃんたち演劇ってなにやるの!? デンジャラスじーさん!?」
「ちがうよ。わたしたちがやるのは赤穂浪士」
言われて三人はポカンとした顔をする。
赤穂浪士はたしかに有名な演劇だけど、年齢が10にもいってないこの子たちが知らなくってもしょうがない。
「アコーローシってのがどんなのか知らないけどさ、こいしちゃんが出るなら俺ら見に行くぜ」
「あ、うん、どうもありがとう」
来ないで欲しいとは言えないのがわたしのダメなところ。
なんだか心が痛くなってきたので退散でも図るとするかな。
あ〜もう、心なんて本当捨てちゃいたいよ
「じゃあ、わたしそろそろ準備があるからいくね」
「え〜、まだ時間あるでしょ。それまで俺らと遊んでようぜ」
しかし回り込まれてしまった。
いつもならこの子たちと遊ぶのはすごい楽しいんだけど、実際、今から衣装合わせに、リハーサルをやらなければいけないし、何よりこの子たちとおねぃちゃんを会わせたくない。
なので空を飛んでピューっと逃亡。
まだ空を飛べない子ども達が下でキャーキャー騒いでいる。ごめんだけど今回は無視。
うわぁぁっと、石が飛んできた。
子どもというのは容赦がないんだなぁ。
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結論から言えば、やっぱりと言うべきか、当然と言うべきか、わたしたちの演劇は大失敗に終わった。
いいわけかもしれないけど、わたし個人としては結構うまくできていたと思う。お空やお燐も拙いなりに頑張ってくれたし、ペットたちも動物とは思えないほど賢くって舞台を盛り上げてくれた。
そもそも、こういう文化発表会みたいなところは、そこまで芸の上手さは求められない。
お互い見知った顔だから、一生懸命やりさえすればお客さんたちも客席の側から頑張って盛り上げてくれるのだ。
失敗もまた笑い話になる。途中でお空が「ねぇ、お燐次のセリフなんだっけ?」と大声で聞いて観客の爆笑を誘ってもいた。
わたしは自分でいうのも何だけど友達が多いほうだし、お空やお燐をはじめとしたペットたちも地上によく出かけているから、それぞれ見知った顔があるらしく、舞台に出た時にはわたしも知らない子どもたちの歓声がとんでいた。
大人の中にはわたしの顔を見て、イヤな顔をした人もいたけど、子ども達が楽しげな様子に感化されたのか、途中から柔らかい顔になっていた。
それに気づいた時、わたしは結構嬉しかったんだよ。
全体的にわるくなかったと思う。みんな演技もそれなりに出来ていた。
ただそれは前半の話。
後半でてきた主役がどうしようもなくダメだっただけ。
主役というのは赤穂浪士のリーダー大石内蔵助。
要するに、おねぃちゃんである。
前半の部分はわたしとお空とお燐しかいなかったからお客さんたちも結構楽しんでくれていたんだけど、後半大石内蔵助が出てきたら、一瞬にして場が凍った。
わたしは演劇は素人だけど、舞台っていうのは演じる人だけじゃなくって、お客さんも一緒に作っていくものなんだって聞いたことがある。
そういう意味では、あの瞬間に舞台は壊れたんだなぁと思う。
まず、おねぃちゃんの顔を見るなり、お客さん、特に大人の人達はみんな露骨に顔を苦々しくしかめた。舌打ちをして会場から出て行った人も何人かいた。
きっと以前おねぃちゃんにひどい目にあわされたんだろうね。さっきの子どもみたいに石が飛んでこないだけマシだったのかもしれない。
それに肝心要のおねぃちゃんの演技だけど、まぁ下手だったね。
セリフは棒読みだし、うごきもぎこちない。照れの残るおねぃちゃんの演技は、見てる方も恥ずかしくさせた。
というか、よくよく考えれば、なんであがり症で大勢の人に見られるだけで顔を真っ赤にしちゃうおねぃちゃんが舞台なんてやろうとしたんだろう。
途中でおねぃちゃんは舞台の途中で緊張が極まっちゃったのか、セリフが飛んで立ちすくんでしまった。
観客も、もう痛々しくて見ていられないので、早く終わって欲しかったと思う。
最終的には、わたしを含めた周りのフォローもあって無理矢理最後まではもっていったけど、当然拍手もなく、極寒の空気の中、次の出番の人が舞台にあがってきた。
わたしはその人に心の中で「ごめんなさい」と言っておいた。
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「うう……失敗してしまいました……」
私の背中でおねぃちゃんがつぶやいた。
あの後わたしたちは逃げるように会場を出た。おねぃちゃんは失望の余り自分で歩くこともできなくなったので、仕方なくわたしがおねぃちゃんをおぶって帰ることになった。
ペット達もこの状態のおねぃちゃんに関わると面倒くさいことを知っているので、全部わたしに丸投げしてそれぞれ解散してしまった。
動物たちは意外とその辺はドライなんだよね。
「一体何がいけなかったのでしょうか……? わたしの計画では大賞賛を浴びて地霊殿に凱旋するはずだったのですが」
「まぁ失敗しちゃったものは仕方ないよ」
計画なんてものがあったとは思えないんだけど、こんなに落ち込んでるおねぃちゃんにもう何も文句をいうつもりはない。
背中にいるおねぃちゃんは普段よりも軽く感じた。相当がっかりしているんだろう。
「仕方ないじゃないですよ、こいし。次やるときはこうならないようにきちんと反省会をしないと」
「え、またやるの?」
勘弁してほしいんだけど……
全く懲りていないおねぃちゃんは、次もきっとわたしたちを巻き込もうとするんだろう。
まぁいいんだけどね。いつものことだし。
「あれ、こいしちゃんじゃん」
後ろから声が聞こえてきた。
わたしが顔を向けようとする前に、子ども達がわたしの前に回り込んできた。
舞台の前にわたしに石を投げてきた太郎くん達だった。
「こいしちゃんの劇みてたぜー。赤穂浪士ってのははじめてみたけどさ、結構面白いのな」
「こいしちゃんの和服かっこよかったよ。お燐のねーちゃんやお空のねーちゃんもいつもと違って、なんかキリ! って感じだったし」
「そうそう、刀振り回しててチョー興奮した」
どうやら、この子達にはわたしたちの舞台はそこそこ好評だったようだ。
おねぃちゃんが小声で「ふふふ、やっぱり感受性の高い子ども達にはやはり私の魅力は分かってしまうものなのですね」とか呟いてた。
「でもよ、途中から全然つまんなくなったぜ。あのムラサキの髪のねーちゃんが出てきてからだよ」
「あ、それ俺も思った。なんだよあの大根。あんまり酷すぎて逆に冷めた笑いがでちまったよ」
「なんかセリフどもってばっかだったしな。『あ、あ、あ……』みたいによ」
その感受性の高い子どもにはおねぃちゃんの演技はダメに映ったみたいだね。
おねぃちゃんがわたしの背中で「離しなさいこいし、その子達は私が責任をもって妖怪のエサにしますから」と言って、背中から逃げようとしてるけど、わたしががっちり足を掴んでいるので逃れることはできない。
「あれ、ていうかこいしちゃんがおんぶしてるのって、そのねーちゃんじゃねえの?」
しまった、気付かれてしまった。
よくよく考えたら、わたしはおねぃちゃんと一緒にいて、子ども達とのんきに喋ってちゃいけないのだ。
すぐに空に飛んで逃げようとするも、なぜか上手く飛べない。
あ、おねぃちゃんの分の体重があるからか。ど、どうしよう。
「あれ、このねーちゃん、どっかで見たことあると思ったら、今日お昼に俺に話しかけてきたねーちゃんじゃんか」
「ん、お前このねーちゃん知ってるの?」
「いやな、なんかこのねーちゃんが急にとーちゃんと俺は血が繋がってないとか言いはじめてよ」
まさかまさか、太郎くんは権兵衛さんの一人息子だったようだ。
身内の恥に、申し訳ない気持ちで胸が一杯になる。
しかし太郎くんは続けて、
「いやぁ、俺も最初はビビったけどさ。よく考えたら血が繋がってなくてもとーちゃんはとーちゃんだしな」
鈍感なのか器が大きいのか太郎くんは、余り気にしていないようだった。
どうやらわたしは太郎くんに謝る必要はなくなったようだ。おねぃちゃんの悪行が無為に終わったことで、わたしは少しだけ安堵する。
「つーかそのねーちゃん誰なん? こいしちゃんとちょっと似てるけど……家族なん?」
「ううん、この女は地獄に住むザコ妖怪のサトランちゃんだよ。わたしとは一切関係ないよ。この子は子どもの肉が大好物だから気をつけてね」
「私は地霊殿のあるじ、古明地さとりです。こいしの姉です。あと、人間なんて不味そうなものは私は食べません」
おねぃちゃんが肩から身を乗り出して、名乗ってしまった。
ちっ、余計なことを。
「え、あのさとり? マジかよ」
「はじめてみたわ〜、意外と小さいのな」
「うちのとーちゃんが言ってたぜ、古明地さとりを見たら全速力で逃げろって」
子ども達はおねぃちゃんを見て、色々な感想を持ったようだ。しかし、逃げ出す気配はまるでない。こんな人気のない場所で地獄の妖怪と話しているなんて、危ないことこの上ないんだけどなぁ。
もしおねぃちゃんが本当に危ない妖怪だとしても、わたしがいれば大丈夫だとでも考えているんだろう。わたしは子ども達にずいぶん信用されているらしい。
子ども達は、おねぃちゃんを物珍しげにジロジロ見るので、おねぃちゃんは顔を真っ赤にしていた。
「こいしちゃんからいつも話聞いてるけど、実際見るとずいぶん違うよなぁ」
子ども達がふいにそう呟いた。
その言葉におねぃちゃんが素早く反応した。
「こいしは私のことをどう話しているのですか?」
わたしは思わず「あ……」と零してしまった。
こうなるのが嫌で、わたしはおねぃちゃんと子どもたちが話すのを避けていたのに。
ここまできたら、最早おねぃちゃんの能力を防ぐ手段は何もない。
おねぃちゃんは、ふふっと微かに笑い声をあげて、
「そうですかそうですか、こいしはいつも私のことをそんな風に話していたのですか。まぁまぁ、こいしはツンデレですねぇ。私の前でも素直になればいいのに」
おねぃちゃんに心を読まれるなんて、一体いつぶりだっただろう。その時のわたしの顔は、多分リンゴのように真っ赤になっていたと思う。
子どもたちはおねぃちゃんの能力を知らないのか、なんで何も言ってないのに勝手に盛り上がっているんだろうと不思議そうにしていた。
「ありがとう、貴方たち。久しぶりにこいしの心が見れて嬉しかったですよ」
おねぃちゃんは子どもたちにそうお礼を言った。
わたしは一刻も早くこの場から立ち去りたかったので、子どもたちにサヨナラも言わず、足早にその場を離れた。
子ども達も何がなんやら分からないので、口を開けたまま私たちを見送った。
「さぁ、帰りましょうか、こいし。私たち姉妹の家、地霊殿へ」
そういっておねぃちゃんは、わたしの背中をギュッと抱きしめた。
1つ目が、1人でも全然平気な人。
2つ目は、1人でいることが恥ずかしくて、本当は誰かと一緒にいたい。自分を認めて欲しいと思っている人。
それでね、わたしのおねぃちゃんは間違いなく後者に分類されると思うんだ。
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
「あら、こいし。ちょうど良い所に戻ってきました」
家に帰ってきたわたしに、おねぃちゃんは椅子に座ったまま話しかけてきた。
おねぃちゃんに見つかると面倒なことになるかもしれないから、一応バレないようにこっそり帰ってきたつもりだったんだけど気づかれていたみたい。
気配を消したわたしに話かけられるのは、どれだけ幻想郷が広いとは言っても、おねぃちゃんを他においてないのが、わたしにはうざくもあり、ちょっと嬉しくもある。
「なぁに? おねぃちゃん」
「実はですね。今朝、私も少し地上に出てきたのですが……」
「また地上に行って来たの? 懲りないね、おねぃちゃんも」
おねぃちゃんは基本的に出不精だけれど、最近はたまに地上に出かけては色んな所を回っている。おねぃちゃんは隠しているみたいだけど、おねぃちゃんは地上の友達を欲しがっているんだと私は思っている。
おねぃちゃんは友達がいない。少ないんじゃなくて、いない。
完全にゼロである。
それはまぁ本人の性格が悪いのが原因だからしょうがない。
でも、おねぃちゃんは強がっているけれど、本当は友達が欲しいみたい。
だからまぁ、地上で友達探しをしてるみたいなんだけど、おねぃちゃんは空気が読めないし人当たりも良くないから上手くいくはずもなく、毎回浮かない顔で家に帰ってくる。
この間なんてすごい形相したお巡りさん5人くらいに連れられて家に戻ってきたらしいよ。わたしはその時は家にいなかったから分からないんだけど、お燐がお巡りさんにガミガミ怒られたらしいから、地上でロクでもないことをしてきたんだろうね。
わたしには迷惑はかかっていないから別にいいんだけどさ。
「ふむ……」
おねぃちゃんは椅子から立ち上がって、私の全身を見回した。
「いいですね。流石私の妹です。舞台映えするでしょうね」
「? どういうこと?」
「実はですね。地上に行った時に寺子屋に寄りまして」
「寺子屋に?」
「ええ、里の人間が寺子屋で文化発表会をするそうで、出し物の募集をしていたのですよ」
「へぇ〜文化発表会なんて、そんなことやるんだ」
「はい。例年、書道や焼き物から、合唱や舞踊などを発表する場として好評で大勢の人が来るそうです。賓客として鳥獣伎楽も来るらしいですよ」
「ふ〜ん、それで?」
「その場で私も演劇の出し物で申し込んでおきました。地霊殿みんなで参加しましょう」
「やっぱりおねぃちゃんってアホでしょ」
おねぃちゃんはキョトンとした顔で、不思議そうに首を横に向けた。
「こいしは舞台に出たくないんですか? 面白そうじゃないですか」
「そういう問題じゃなくってさ。わたしたちに何の相談もなくなんでそう勝手に決めちゃうのさ〜?」
「いいじゃないですか。大勢の人が来る前で見事舞台を成功させれば地上の間にも『地底にさとりあり』……いえ地霊殿の名前が広がるというものじゃありませんか」
やっぱり、そういう狙いだったかー。
「わたしは演劇なんてやったこともないし出来るとも思えないよ」
「大丈夫ですよ。ちゃんと練習すれば、こいしなら出来るようになります」
「いや、そもそもわたしはやる気ないし」
なんでわたしがおねぃちゃんの自己陶酔と自己顕示欲のためのそんな出し物に出なきゃならないのか。
「やるのはいいけど、おねぃちゃん一人でやってよね。かわいそうだからペットに押し付けるのも禁止だよ」
「え……」
おねぃちゃんはわたしに断られるとは全く考えていなかったようで、驚きの表情を見せた。
「そうですか、分かりました……嫌がる妹に無理矢理に出演させるわけにはいけませんよね」
おねぃちゃんはそう言って、もう一度椅子に座った。そしてすぐさま頭を抱えてなにかブツブツつぶやき始めた。
「はぁ……どうして私はこうなんでしょう……何をやっても上手くいかない……せっかく演劇で私ももっと地上の人に好かれようになると思ったのに。まさか一番信頼していた妹に裏切られるなんて。いつもそうです。私がなにかやろうとするたびに私は裏切られる……不運続きのこんな人生なんていっそ……」
おねぃちゃんの目は虚ろで、背中はかすかに震えている。
この呟きもわたしに対するイヤミなんかじゃなくって本気だから困る。
こんなだからメンドクサイ子って思われて人から避けられていることにそろそろ気付いてほしい。
でも、わたしがここで見捨てられないからおねぃちゃんもそれに気付かないんだから、わたしもしょうがないんだよねぇ。
わたしは一つ大きなため息をついておねぃちゃんに話かけた。
「もう、わかったわかったよ。やってあげるよ。出てあげるよ。そのおねぃちゃんの演劇」
「え、本当ですか!?」
おねぃちゃんは勢いよく振り返って、ぱぁ〜っと嬉しそうな顔をした。
「うん、いいよ。どうせしばらくすることもないし。暇つぶしくらいにはなりそうだしね」
「ありがとう、こいし。やっぱりあなたは私の妹です」
さとりおねぃちゃんがわたしに抱きついてきたが、それを華麗に避けてわたしはさっさと話を続ける。
「それで、演劇をやるっていっても問題が一杯あるよね? 大体何の劇をやるの? 素人のわたしたちがそんな大層なもの出来ないからね」
「なんで避けるんですか……まぁそうですね。その点は大丈夫です」
「なんで?」
「脚本は私が書いた完全オリジナルのものを使うからです。ほら、こいしにもこのあいだ、読ませてあげたでしょう? あの私の小説を舞台風にアレンジして使おうと思っています。あれは中々の自信作でしたからね。きっと里の人たちにも面白がってもらえるんじゃないですか」
「その脚本ってこれのこと?」
わたしはおねぃちゃんが座っていた机の上に置いてある原稿用紙の束を手に取った。
「はいそうですよ」
そしてそのまま原稿用紙を4つに破いて、部屋の隅にあるゴミ箱にバコンと叩き込んだ。
「……何をするのですか」
「何をするのですかじゃないよ! この前おねぃちゃんに無理やり読ませられた時にも言ったでしょ! おねぃちゃんの小説は中身が携帯小説並にからっぽなくせに無駄に難しい言葉使って無駄に読みづらくしてる存在自体が無駄な大々駄作って! しかもあれって確かエログロナンセンスなひっどいお話でしょ!? そんなもの子ども達がいる寺子屋で演じようとしてたの!?」
「エログロナンセンスなんて酷いですね。あれは哲学的エッセンスをメタファーに用いながら男女の情愛を描写した純文学作品ですよ」
「具体的にどんな話だっけ?」
「学校で虐められていた主人公はある日、街で手に入れたドラッグに夢中になって全身に入れ墨を……」
「あ、もういいから。それ以上言わなくていいから」
「復讐のために殺した、いじめっ子の潰れたトマトのような生首に対しておもむろにズボンを脱ぎ男性器をあらわにして……」
「もういいって言ってるじゃん! それ以上わたしの耳を汚さないで!」
そんなことばっかり考えてるからおねぃちゃんに人が寄り付かないんだよ! と大きい声で言いたくなったけど、言ったらまた面倒なことになりそうだったから言わない。
でもおねぃちゃんが「なんでこいしはこんなに怒っているんでしょう?」みたいな顔してるのが本当にムカついちゃう。
「ねぇ、おねぃちゃん。わたしたちは演劇初心者なんだからさ。オリジナル脚本はやめてもっと普通のやつにしようよ。ね?」
「なるほど、貴女の言うことにも一理ありますけれど……では何をしますか? わたしの小説よりすぐれた脚本など世の中にそうはないと思うんですが」
「まぁ星の数ほどあると断言できるけど。代わりに何を……う〜ん」
言われてみれば答えに困ってしまう。わたしも演劇にはそんな詳しくないから初心者向けの脚本なんてすぐには浮かんでこない。
さてどうしたものかな?
「そうだね。子ども向けに桃太郎とかどう?」
「桃太郎は普通過ぎて面白くありませんし、何より鬼退治のお話というのは憚られますね」
「あ〜確かに」
地底には鬼が何人か暮らしているから鬼を悪者にする桃太郎は却下せざるをえない。
「他のメジャーなお伽噺でいいんじゃないの? 浦島太郎とかかぐや姫とか」
「そういうおとぎ話は幻想郷には大抵関係者いますからねぇ」
「じゃあ何をやろうかなぁ……。演技が初心者ならストーリーが大事だし脚本選びに失敗するわけにはいかないし」
「そうだ、ピーターパンとかどうでしょう? ディズニーの名作、子どもの憧れ」
おねぃちゃんがしたり顔でそう提案するけど、
「ネバーランドに憧れる子どもが幻想郷にいると思う?」
「……いないですね」
幻想郷じゃあ妖精や空を飛ぶことなんてありふれてるし。
「やっぱりさっきの私の小説で……」
「却下!!!!」
おねぃちゃんの妄言は即却下だ。
「そんなすぐにダメって言わなくても……あ、そうだ! いい脚本を思いつきました! あれならきっといけるはずです!」
「一応聞くけど、なに?」
「私も大好きなあのお話です! こいしも知ってるはずですよ」
「だから何さ?」
「忠臣蔵ですよ! 忠臣蔵! 子どもから大人まで知名度が高くかつ人気作品、しかも分かりやすい勧善懲悪ですし」
「……忠臣蔵ねぇ」
忠臣蔵と言えば、君主である浅野匠頭の恨みを晴らす為に大石内蔵助をはじめとした家来たちが敵の吉良上野介を討つという、時代劇ではあるけれど確かに分かりやすい話だ。
子ども相手に見せる劇だから却下しようかと思ったけれどわたしも良い案が出せてないので仕方ないからもうちょっと考えてみようかな。
「まぁ忠臣蔵なら大人にも受けはいいし、年長の子どもならちゃんと理解できるとは思うけど……色々問題がない?」
「問題なんか何もありませんよ。いいじゃないですか忠臣蔵。私決めました。地霊殿のみんなで忠臣蔵をやりましょうよ! わたしが主人公の大石内蔵助で、こいしが吉良をやってください!」
おねぃちゃんはすっかり一人で盛り上がって忠臣蔵に決めていた。そういえばおねぃちゃん、一時期時代劇にはまってた時期があったなぁ、と思いながら、わたしはいつものように一人熱くなるおねぃちゃんを冷めた目で見る。
しかも、いつの間にかわたしを悪役にしてるし。まぁ吉良は目立つから美味しい役といえばそうなんだけどさ。
「でも忠臣蔵をやろうと思ったらさ配役で50人以上必要だと思うんだけど。うちにそんなに数いないでしょ。お燐や空みたいなのも含めても全然足りないよ」
主人公の大石内蔵助には46人の部下がいる。数を減らすにしても討ち入りに行くなら10人はいないと格好がつかないだろう。けれど、地霊殿には役をこなせそうなのはその数すらいない。
「もちろん47人全員出しますよ。忠臣蔵の47人にはそれぞれに役割がある重要人物なんですから」
「いやだからうちにはそんなに人がいないって話なんだけど」
「別に人である必要はないでしょう? うちのペットたちは賢いですからねぇ。舞台上でもちゃんと動いてくれますよ」
「じゃあおねぃちゃんは40匹以上の動物を引き連れて吉良邸に討入るの!?」
まるで動物大行進だよ。子どもには確かに受けそうだけどさ。
自分に恨みをもった侍がイヌやらネコやらカラスやらハシビロコウやらハクビシンやらタヌキやらアライグマやらイタチやらゴリラやらを引き連れて自分を殺しにやってくるとか、吉良からすれば普通に来るより恐怖だろうね。
「ふむふむ、いい感じに話が纏まってきましたねぇ。服装は私の持っている和服を使うとして、足りない分はどなたから貸して頂きましょう……小道具はたしか倉庫に日本刀が何本かありましたね。そういえばここにも資料に使おうと思ってた日本刀が1本ありました」
おねぃちゃんは机に立てかけてあった日本刀をおもむろに手に取った。
確かおねぃちゃんの小説は学園青春ものを謳ってたような気がするんだけど。一体どこでどうやって使うつもりだったのか聞きたくもない。
「ふふふ……日本刀はかっこいいですよねぇ。『私は大石内蔵助! 吉良っ! 我が主君、浅野内匠頭の敵!』」
おねぃちゃんは日本刀を抜き身にして大石内蔵助になりきって気持ち悪い笑みを浮かべていた。
小説やらに触れすぎると発症する病気の一つで自分を、物語の登場人物と勘違いしてしまうアレだ。いい歳してごっこ遊びなんて恥ずかしいからせめて地霊殿の中でのみに留めて欲しいと常日頃からわたしは考えている。
ヒュン
私の頭上の空気を、刀が撫でた。
数本の髪の毛がふわりと地面に落ちる。
「ふふふ……吉良め、とうとう追いつめましたよ。覚悟を決めて、大人しく討たれなさい」
おねぃちゃんがそう言ってわたしに向かって意味不明なことを呟きながら、刀を振りかぶっていた。
どうやら、今の斬撃はおねぃちゃんによるものだったらしい。
はぁ〜、こういう時のおねぃちゃんは言葉で言っても無駄だからなぁ……
仕方ないのでわたしは、おねぃちゃんの二撃目の横薙ぎをダッキングでかわし、体重を乗せた右フックをおねぃちゃんの脂肪のついていない胸に叩き込んだ。
わたしの右拳はカウンター気味に直撃し、おねぃちゃんはゲフっと呻いて片膝をついた。
「な、何をするんですか。痛いではないですか……」
「急に日本刀で斬り掛かっといてそれを言うかなぁ?」
「だって仕方がないではないですか。貴女は私の主人の敵なのですから」
「それは役の話でしょ。今は全く関係が……あ、おねぃちゃん鼻血でてるよ」
今の攻防で刀を鼻にぶつけたのかもしれない。
「え? あら、本当ですね」
おねぃちゃんは右手袖でごしごし血をぬぐった後、ティッシュを一枚ねじって血の出ている鼻の孔にグリグリと突っ込んだ。
おねぃちゃんも一応女の子なんだから、もう少し見た目を気にして欲しいんだけどなぁ。袖も血だらけだし。でも、これまで散々言ってきたのに効果はないから、もうわたしも注意はしない
「はぁ〜、まぁ何にしろおねぃちゃんがそこまでやりたいたな、お題目は忠臣蔵でいいよ。でも何度も言うけどわたしは演劇なんてしたことないんだから期待しないでよね? やるからには一応練習は真面目にはやるけどさ〜。そういえばその文化発表会って日にちはいつなの? もし近いならもう今日から演技の稽古をしないといけないと思うんだけど」
「文化発表会ですか? 私たちの出番は18時からですけど」
「時間じゃなくて、日にちは?」
「今日ですよ」
私は机に拳を叩き付けたくなった。
「ちょっといい加減にしてほしいんだけど」
「?」
「『?』じゃないよ! はぁ!? なんで今日の夕方6時なの!? もう3時間もないじゃん。さっきおねぃちゃん朝申し込んだって言ってたよね? なんで当日の、しかも演劇みたいな大きい出し物をその場のノリで申し込んじゃうの!?」
「何だか面白そうだったですし」
「そんなフワフワした理由でわたしたちを巻き込まないでよ! そもそも当日申し込んでよく通ったね。もうスケジュールとか決まってたんじゃないの!?」
「それはまぁ、実行委員会の方の心を読んで脅しをかけたら簡単に通りましたよ」
「だからそういうことするの止めてって言ってるじゃん! おねぃちゃんの悪いことしたの全部わたしにも迷惑かかるんだから!」
覚妖怪が嫌われる原因の一割くらいはおねぃちゃんのせいだと言われてもわたしは驚かない。
「知ってましたか、こいし。実行委員会の権兵衛さんには一人息子がいらっしゃいますが、実は権兵衛さんとは血が繋がっていないそうですよ。息子さんもそのことは知らないようで、うふふ」
「何が可笑しいのさ! 全然面白くないよ。笑えないよ!」
「そのことを息子さんに言った時の顔ったら……あはは、おかしい。貴女にも見せてあげたかったですよ」
しかもバラしたのかよ。サイテーすぎるよ、この女。わたしの姉ながら。
私がこれだけ慌てているのに、おねぃちゃんはまるで落ち着き払っている。
「こいし、貴女の言うことも分かります。確かに当日申し込んでその日の夕方までに演劇の準備をするのは大変だと思いました。しかし私はこれを地霊殿の宣伝の良いチャンスだと考えたのです。もしこの演劇が成功したら『地霊殿にはこんなに愉快な人たちがいるのか』となって私にも人気がでるとは思いませんか?」
「おねぃちゃんの人気は今や地の底まで落下してるから安心していいと思うよ。てかこんなことしてる場合じゃないよ。文化発表会までもうほとんど時間がないんだから。どうするの!? 題目が今さっき決まった状態で、しかもペット達にはまだ何にも言ってないんでしょ!? これじゃあどうしようもないよ!」
「あらあら、そうでしたねぇ。ふむふむ……」
おねぃちゃんは焦るわたしを尻目にゆったりとした様子でアゴに手をあて考え込んだ。
このおねぃちゃんは人付き合いのトラブルを増やす天才だけど、神様もそこまで不公平じゃなかったのか、結構おつむが良い。
いつも本を読んでいるから知識量はわたしの何倍もあるし、なにか悪いことがあった時にはいつもこうやって考え込んだ後に妙案を出してくれる。
確かに、性格も悪くって仕事も出来ないパッパラパーっていうんじゃあ流石に地獄の地霊殿の主は任せてもらえないんだろうね。
さて、おねぃちゃん、今回はどんな解決策を出してくれるのかな?
「そのへんは、まぁ適当にその場の空気でなんとかなるでしょう」
「ならないよ! 絶対ならないから」
まさかの衝撃的な言葉にわたしは驚きを隠せない。
「出来るわけないよ。素人のわたしたちがそんなこと」
「こいし、すぐに『無理』とか『出来る訳ない』とか言うもんじゃありません」
「いや、本当そういうのいいから。配役は!? 脚本は!!? 衣装は!!!?」
「配役は、わたしが大石内蔵助、こいしが吉良上野助、お燐が浅野内匠頭、お空が将軍さま。ペット達が残りの赤穂浪士。はい、決まりました。これで大丈夫です」
「適当すぎだってば! 大体、吉良の家来はどうするの。47匹の動物で無防備のおじいちゃんを嬲り殺しにするつもり!?」
「あら忘れていました。それではわたしのペットの半分は吉良の護衛につけましょうか」
「吉良の家来も全部動物なんだ……大石内蔵助の家来も全員動物なのに」
もう忠臣蔵じゃなくて『ワンにゃん大戦争』にタイトルを変えた方がいいんじゃないかぁ。それか『ビーストウォーズ』とか。地霊殿でティラノサウルスを飼ってないのが惜しいところだね。なぜかゴリラはいるのに。
あんまりな状況にわたしもアホなことを考えてしまう。
「貴女は私の部屋や倉庫から使えそうな小道具や服装を用意しておいて頂けますか? 用意が出来たらそのまま寺子屋に行ってください」
「え、本当にこのまま舞台にでるつもりなの?」
正気とは思えないよこの、おねぃちゃん。
「っていうか小道具や服装って、そんなのうちにあったっけ?」
「和服なら私のコスプレ用のものが確か10着程あるのでそこから持ってきて下さい。小道具も倉庫に大概揃っているはずですよ。私はペットたちを集めて演劇のことを話して連れて行きますから寺子屋で合流しましょう」
おねぃちゃんはそう言って、満足げに笑みを浮かべながらペット達の方へ歩を向けた。
一体どこから湧いてくるのはわたしには不思議でたまらないのだが、おねぃちゃんは本当に自信たっぷりなで、失敗することなんてまるで考えていないようだった。
はっきり言って、この演劇はめちゃくちゃだよ。
リハーサルやセリフ合わせどころか、台本や出演者の承諾すらまだ存在しないのだ。限りなく即興劇に近い。
それを演劇素人のわたしたちがやろうっていうんだから、まぁどうなるかは簡単に想像ついちゃうね。
子どものお遊戯くらいならまだいいけど、グダグダな空気のまま演劇を最後まで続けるなんて恥ずかしいったらありゃしない。
わたしは今からでもおねぃちゃんを追いかけていって、「やっぱりわたしは参加しない」と言い放ちたかった。
でも、わたしはそれをしない。
だって、おねぃちゃんの思いつきでむちゃをやらされるのはいつものことだから。
それが地霊殿だから。
「まぁ、やるしかないのかなぁ……」
わたしは悲しく独りつぶやいて、おねぃちゃんに言われた通り和服を取りにおねぃちゃんの部屋に向かった。
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
文化発表会はわたしが思っていたよりもずっと大規模なもので既にかなり盛況していた。
寺子屋で開かれると聞いていたからせいぜい50人かそこらが集まって、子どもたちに混じったおじいちゃんおばあちゃんが中心になって日頃の趣味を披露するくらいかなと思っていたけど、実際は運動場に特設ステージが作られて大勢の人でにぎわっていた。並べられたベンチに座っている観客は200を超えているんじゃないだろうか。
文化発表会は朝から始まっていたようで、わたしが到着した時は変なおじさんが得意気にパントマイムでやってみんなを大いに湧かせていた。
それが終わった後は、青年隊による縄跳びパフォーマンス。その次は農家のたくましいお兄さんたちの組体操。
たぶんみんなすごい練習してきたんだろう。動きはスムーズで、終わった後はみんな汗だくになりながらも充実感あふれる笑顔でステージから降りていた。もちろんお客さんたちも拍手喝采で彼らを褒め称えている。
そこに約二時間後、目も当てられない酷い演劇を披露するのが、わたしたちこと地霊殿である。
……う〜っむ、今からでも帰りたくなってきてしまったなぁ。
とは言っても、もう衣装も持ってきちゃったし、やるだけやってさっさと帰るのが一番かな。
わたしは「出演者受付」と書かれた張り紙を見つけて受付のおじさんに声をかけた。
「すいませ〜ん、参加者なんですけど」
「はいはい、じゃあ名前おしえてもらえるかな」
「え〜っと、地霊殿、かな? 地霊殿で申し込んでると思うんだけど」
「ちれいでん、ちれいでん……ん? も、もしかして地霊殿ってあのさとりっこのいるところか?」
「そうだけど」
がたん!
受付のおじさんは返事をきくなり椅子から転げ落ちた。
「う、うわあああああぁああぁあああぁぁ。や、やめてくれぇ。俺の秘密をバラすの止めてくれぇ」
おじさんは亀のように地面に身を屈めて震えていた。
「だ、大丈夫か又兵衛さん」
別のおじさんが、受付のおじさん(又兵衛さんと言うらしい)に駆け寄った。
そのおじさんは又兵衛さんの背中をさすって何かを語りかけてから、怯えと怒りが入り交じった表情でわたしの方を向いた。
「やい、この覚妖怪やろうめ。よくも又兵衛さんを脅してくれたな!? 権兵衛さんがどうしてもと言うからわざわざ無理して出してやったってのに、この恩知らずめ。大体俺はお前らみたいなのが大っ嫌いなんだ。この辺にゃあ色んな妖怪がいるが、お前らみたいに人の心を読む不気味なのは最悪だぜ。さっさと舞台に出て、とっとと帰ってくれ! おい、誰か塩もってこい、塩」
そういって二人目のおじさんに塩をかけられながら、わたしは退散をせざるを得なかった。
…………まぁ、わたしは覚妖怪だし?
嫌われ者なのは当然っていうか、もう慣れちゃってるし。むしろ人間なんかと仲良くなんかしたくないんだから。妖怪なんて嫌われて一人前ってよく言われるじゃん? え、なに、人間に好かれる妖怪って、もうそれ妖怪じゃないよね? ってのがわたしの妖怪哲学だからさ。嫌われてる妖怪のほうがある意味格が上だっていってもいいんじゃないかな? そもそもわたしって感情ってものがないし、心もないし、嫌われたからって響くものなんて欠片もないんだよね。だからさ、あんな風にひどいこと言われたからって、まぁ、気にしてなんかないんだからね、グスン……。そもそもさっきのだってほとんどおねぃちゃんのせいじゃん……わたし悪くないし……
普段は気配を消して大人からは気づかれないようにしてたから、まさかおねぃちゃんと一緒にわたしもこんなに嫌われていたとは思ってもみなかった。
周りから楽しげな笑い声が聞こえてくると、まずます自分がみじめに思えてくる。
うう……本気で帰りたくなってきたなぁ。
「あ、こいしちゃんだ」
「ほんとだ」
後ろからわたしを呼ぶ声が聞こえてきたので振り返ってみると、3人の子どもたちがいた。
里で知り合ったわたしの友達の太郎くん達だ。
落ち込んでいたところに見知った顔と出会えたので、ちょっとだけほっとする。
「こいしちゃんも文化発表会でるの? 俺達はあれやったぜ。リコーダーの演奏!」
太郎くんはそう言って、わたしに期待の眼差しを向けた。
この子はきっとわたしに「うん出るよ」と言って欲しいのだろう。
知り合いが出し物をするというのは出来のよしあしに関係なく面白いものだから。
「うん、まぁ一応でるよ。みんなで演劇をするつもりなの」
「うっそ、マジかよ。こいしちゃん演劇なんて出来るの!? スゲー!!」
子ども達が揃って騒ぎだす。
わたしとしては内状を知っているだけに、期待されるだけ辛いんだけどなあ。
「こいしちゃんたち演劇ってなにやるの!? デンジャラスじーさん!?」
「ちがうよ。わたしたちがやるのは赤穂浪士」
言われて三人はポカンとした顔をする。
赤穂浪士はたしかに有名な演劇だけど、年齢が10にもいってないこの子たちが知らなくってもしょうがない。
「アコーローシってのがどんなのか知らないけどさ、こいしちゃんが出るなら俺ら見に行くぜ」
「あ、うん、どうもありがとう」
来ないで欲しいとは言えないのがわたしのダメなところ。
なんだか心が痛くなってきたので退散でも図るとするかな。
あ〜もう、心なんて本当捨てちゃいたいよ
「じゃあ、わたしそろそろ準備があるからいくね」
「え〜、まだ時間あるでしょ。それまで俺らと遊んでようぜ」
しかし回り込まれてしまった。
いつもならこの子たちと遊ぶのはすごい楽しいんだけど、実際、今から衣装合わせに、リハーサルをやらなければいけないし、何よりこの子たちとおねぃちゃんを会わせたくない。
なので空を飛んでピューっと逃亡。
まだ空を飛べない子ども達が下でキャーキャー騒いでいる。ごめんだけど今回は無視。
うわぁぁっと、石が飛んできた。
子どもというのは容赦がないんだなぁ。
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
結論から言えば、やっぱりと言うべきか、当然と言うべきか、わたしたちの演劇は大失敗に終わった。
いいわけかもしれないけど、わたし個人としては結構うまくできていたと思う。お空やお燐も拙いなりに頑張ってくれたし、ペットたちも動物とは思えないほど賢くって舞台を盛り上げてくれた。
そもそも、こういう文化発表会みたいなところは、そこまで芸の上手さは求められない。
お互い見知った顔だから、一生懸命やりさえすればお客さんたちも客席の側から頑張って盛り上げてくれるのだ。
失敗もまた笑い話になる。途中でお空が「ねぇ、お燐次のセリフなんだっけ?」と大声で聞いて観客の爆笑を誘ってもいた。
わたしは自分でいうのも何だけど友達が多いほうだし、お空やお燐をはじめとしたペットたちも地上によく出かけているから、それぞれ見知った顔があるらしく、舞台に出た時にはわたしも知らない子どもたちの歓声がとんでいた。
大人の中にはわたしの顔を見て、イヤな顔をした人もいたけど、子ども達が楽しげな様子に感化されたのか、途中から柔らかい顔になっていた。
それに気づいた時、わたしは結構嬉しかったんだよ。
全体的にわるくなかったと思う。みんな演技もそれなりに出来ていた。
ただそれは前半の話。
後半でてきた主役がどうしようもなくダメだっただけ。
主役というのは赤穂浪士のリーダー大石内蔵助。
要するに、おねぃちゃんである。
前半の部分はわたしとお空とお燐しかいなかったからお客さんたちも結構楽しんでくれていたんだけど、後半大石内蔵助が出てきたら、一瞬にして場が凍った。
わたしは演劇は素人だけど、舞台っていうのは演じる人だけじゃなくって、お客さんも一緒に作っていくものなんだって聞いたことがある。
そういう意味では、あの瞬間に舞台は壊れたんだなぁと思う。
まず、おねぃちゃんの顔を見るなり、お客さん、特に大人の人達はみんな露骨に顔を苦々しくしかめた。舌打ちをして会場から出て行った人も何人かいた。
きっと以前おねぃちゃんにひどい目にあわされたんだろうね。さっきの子どもみたいに石が飛んでこないだけマシだったのかもしれない。
それに肝心要のおねぃちゃんの演技だけど、まぁ下手だったね。
セリフは棒読みだし、うごきもぎこちない。照れの残るおねぃちゃんの演技は、見てる方も恥ずかしくさせた。
というか、よくよく考えれば、なんであがり症で大勢の人に見られるだけで顔を真っ赤にしちゃうおねぃちゃんが舞台なんてやろうとしたんだろう。
途中でおねぃちゃんは舞台の途中で緊張が極まっちゃったのか、セリフが飛んで立ちすくんでしまった。
観客も、もう痛々しくて見ていられないので、早く終わって欲しかったと思う。
最終的には、わたしを含めた周りのフォローもあって無理矢理最後まではもっていったけど、当然拍手もなく、極寒の空気の中、次の出番の人が舞台にあがってきた。
わたしはその人に心の中で「ごめんなさい」と言っておいた。
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
「うう……失敗してしまいました……」
私の背中でおねぃちゃんがつぶやいた。
あの後わたしたちは逃げるように会場を出た。おねぃちゃんは失望の余り自分で歩くこともできなくなったので、仕方なくわたしがおねぃちゃんをおぶって帰ることになった。
ペット達もこの状態のおねぃちゃんに関わると面倒くさいことを知っているので、全部わたしに丸投げしてそれぞれ解散してしまった。
動物たちは意外とその辺はドライなんだよね。
「一体何がいけなかったのでしょうか……? わたしの計画では大賞賛を浴びて地霊殿に凱旋するはずだったのですが」
「まぁ失敗しちゃったものは仕方ないよ」
計画なんてものがあったとは思えないんだけど、こんなに落ち込んでるおねぃちゃんにもう何も文句をいうつもりはない。
背中にいるおねぃちゃんは普段よりも軽く感じた。相当がっかりしているんだろう。
「仕方ないじゃないですよ、こいし。次やるときはこうならないようにきちんと反省会をしないと」
「え、またやるの?」
勘弁してほしいんだけど……
全く懲りていないおねぃちゃんは、次もきっとわたしたちを巻き込もうとするんだろう。
まぁいいんだけどね。いつものことだし。
「あれ、こいしちゃんじゃん」
後ろから声が聞こえてきた。
わたしが顔を向けようとする前に、子ども達がわたしの前に回り込んできた。
舞台の前にわたしに石を投げてきた太郎くん達だった。
「こいしちゃんの劇みてたぜー。赤穂浪士ってのははじめてみたけどさ、結構面白いのな」
「こいしちゃんの和服かっこよかったよ。お燐のねーちゃんやお空のねーちゃんもいつもと違って、なんかキリ! って感じだったし」
「そうそう、刀振り回しててチョー興奮した」
どうやら、この子達にはわたしたちの舞台はそこそこ好評だったようだ。
おねぃちゃんが小声で「ふふふ、やっぱり感受性の高い子ども達にはやはり私の魅力は分かってしまうものなのですね」とか呟いてた。
「でもよ、途中から全然つまんなくなったぜ。あのムラサキの髪のねーちゃんが出てきてからだよ」
「あ、それ俺も思った。なんだよあの大根。あんまり酷すぎて逆に冷めた笑いがでちまったよ」
「なんかセリフどもってばっかだったしな。『あ、あ、あ……』みたいによ」
その感受性の高い子どもにはおねぃちゃんの演技はダメに映ったみたいだね。
おねぃちゃんがわたしの背中で「離しなさいこいし、その子達は私が責任をもって妖怪のエサにしますから」と言って、背中から逃げようとしてるけど、わたしががっちり足を掴んでいるので逃れることはできない。
「あれ、ていうかこいしちゃんがおんぶしてるのって、そのねーちゃんじゃねえの?」
しまった、気付かれてしまった。
よくよく考えたら、わたしはおねぃちゃんと一緒にいて、子ども達とのんきに喋ってちゃいけないのだ。
すぐに空に飛んで逃げようとするも、なぜか上手く飛べない。
あ、おねぃちゃんの分の体重があるからか。ど、どうしよう。
「あれ、このねーちゃん、どっかで見たことあると思ったら、今日お昼に俺に話しかけてきたねーちゃんじゃんか」
「ん、お前このねーちゃん知ってるの?」
「いやな、なんかこのねーちゃんが急にとーちゃんと俺は血が繋がってないとか言いはじめてよ」
まさかまさか、太郎くんは権兵衛さんの一人息子だったようだ。
身内の恥に、申し訳ない気持ちで胸が一杯になる。
しかし太郎くんは続けて、
「いやぁ、俺も最初はビビったけどさ。よく考えたら血が繋がってなくてもとーちゃんはとーちゃんだしな」
鈍感なのか器が大きいのか太郎くんは、余り気にしていないようだった。
どうやらわたしは太郎くんに謝る必要はなくなったようだ。おねぃちゃんの悪行が無為に終わったことで、わたしは少しだけ安堵する。
「つーかそのねーちゃん誰なん? こいしちゃんとちょっと似てるけど……家族なん?」
「ううん、この女は地獄に住むザコ妖怪のサトランちゃんだよ。わたしとは一切関係ないよ。この子は子どもの肉が大好物だから気をつけてね」
「私は地霊殿のあるじ、古明地さとりです。こいしの姉です。あと、人間なんて不味そうなものは私は食べません」
おねぃちゃんが肩から身を乗り出して、名乗ってしまった。
ちっ、余計なことを。
「え、あのさとり? マジかよ」
「はじめてみたわ〜、意外と小さいのな」
「うちのとーちゃんが言ってたぜ、古明地さとりを見たら全速力で逃げろって」
子ども達はおねぃちゃんを見て、色々な感想を持ったようだ。しかし、逃げ出す気配はまるでない。こんな人気のない場所で地獄の妖怪と話しているなんて、危ないことこの上ないんだけどなぁ。
もしおねぃちゃんが本当に危ない妖怪だとしても、わたしがいれば大丈夫だとでも考えているんだろう。わたしは子ども達にずいぶん信用されているらしい。
子ども達は、おねぃちゃんを物珍しげにジロジロ見るので、おねぃちゃんは顔を真っ赤にしていた。
「こいしちゃんからいつも話聞いてるけど、実際見るとずいぶん違うよなぁ」
子ども達がふいにそう呟いた。
その言葉におねぃちゃんが素早く反応した。
「こいしは私のことをどう話しているのですか?」
わたしは思わず「あ……」と零してしまった。
こうなるのが嫌で、わたしはおねぃちゃんと子どもたちが話すのを避けていたのに。
ここまできたら、最早おねぃちゃんの能力を防ぐ手段は何もない。
おねぃちゃんは、ふふっと微かに笑い声をあげて、
「そうですかそうですか、こいしはいつも私のことをそんな風に話していたのですか。まぁまぁ、こいしはツンデレですねぇ。私の前でも素直になればいいのに」
おねぃちゃんに心を読まれるなんて、一体いつぶりだっただろう。その時のわたしの顔は、多分リンゴのように真っ赤になっていたと思う。
子どもたちはおねぃちゃんの能力を知らないのか、なんで何も言ってないのに勝手に盛り上がっているんだろうと不思議そうにしていた。
「ありがとう、貴方たち。久しぶりにこいしの心が見れて嬉しかったですよ」
おねぃちゃんは子どもたちにそうお礼を言った。
わたしは一刻も早くこの場から立ち去りたかったので、子どもたちにサヨナラも言わず、足早にその場を離れた。
子ども達も何がなんやら分からないので、口を開けたまま私たちを見送った。
「さぁ、帰りましょうか、こいし。私たち姉妹の家、地霊殿へ」
そういっておねぃちゃんは、わたしの背中をギュッと抱きしめた。
でも、苦労人なこいしもありだなぁ
ですが話は面白かったです。
ダメなさとり様もいいですよね。
>>3
こいしちゃんも能天気にみえて色々苦労してそうです。
>>4
さとり様は性格は悪くないのです。ただ距離感が掴めないだけなんでしょう。
>>8
こいしちゃんをツッコミに出来るのはおねぃちゃんだけ。
>>13
お互い家族として信頼しあってる感じが好きです。
>>17
ありがとうございます。
>>22
忠臣蔵いいですよね。かっこいいです。
>>23
ありがとうございます。最初は実際忠臣蔵やろうとしたんですけど結局こうなりました。
それと、うまく行かない現実の中に、なにかしら得るものがあるという話が好物です。
演劇は滑るし、子供には馬鹿にされるけど、妹はちゃんと自分のことを好いてくれている。
こいしちゃんの冒頭の独白は、自分こそが姉を認める者であるという自負の現れなのかもしれません。
心温まるいいお話でした。