Coolier - 新生・東方創想話

サマーレクイエム

2014/04/14 02:03:55
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1.吸血鬼の噂
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マコト君はさ、妖怪っていると思う?



茂みをかき分けて進んでいると、粟田(アワタ)の言葉が頭に浮かんだ。

「ああ、いるかもな」

自分に言い聞かせるように、わざと声に出して言った。

高い木々が生い茂って太陽の光があまり届かない森の中。

まだ昼を過ぎたくらいな時間だが、森は暗闇が支配し始めていた。

真夏の晴天にもかかわらず、森の中はひんやりとしていた。

こんな森を一人で歩いていれば、本当に妖怪か何か出てきそうな気がしてくる。

風で木や茂みが揺れて音がするたびに、音のする方向を振り向かずにはいられない。


近くには粟田を殺したやつがいるかもしれないのだから。


背中に冷えた汗がすっと流れるの感じる。

(早いところこの森を出ないと、なんかやばいかも)

この森に入ってから10分ほどは進んだと思う。

生い茂る植物で見通しの悪い森を進んで来た結果、もはや入ってきた場所は見えなくなっていった。

道のようなものは無く、茂みと木の隙間を通ってここまで来たのだが、先を見ても相変わらず見通しは悪く、どこまで続いている森なのかよくわからない。


ここまで進んできても目当ての建物は見当たらなかった。

もしかして、いや、やっぱり、噂は所詮は噂なのかとも思う。

もう戻ろうかとさっきから何度も思っている。

森も不気味で、さっきから胃と背中にピリピリするような妙な緊張を感じる。

早く引き返したかった。

だけどそう思う度に、生きていた頃の彼女との会話が思い出される。



妖怪なんてほんとにいたのかな。昔話なんじゃないの?

そっかぁ、マコト君もやっぱりそう思うかぁ。

なんだよ、じゃあ粟田は妖怪っていると思ってるんだ?



まだ日が落ちるまでに時間はある。

もう少しだけ進んで、それで何もなかったら帰ろう。



そうしてしばらく茂みをかき分けて進んだところで、それを見つけた。

森の中に開けた場所がある。

高い木が刈り取られているのだろうか、陽の光が届くようになっていて、暗い森の中でそこだけ明るい。

引き寄せられるようにして進んだ。

「なんだ、ここは・・・」

高い木々で円形に囲まれた一角。

上を見上げると昼過ぎの明るい空が見えた。

茂みも処理されているようで、歩きやすいように均されている。

明らかに人の手が入っている。

空き地の角に、ひっそりと家のようなものが建っているのが見えた。

(もしかして、これは、噂の・・・)

ドクン、と胸が鳴った。

もし噂が本当なら、あれは吸血鬼の家だ。

ポケットの中のナイフを握りしめる。

家の倉庫にあった中で、唯一使い物になりそうだったものだ。

高価そうな装飾が施されたナイフで、倉庫の奥で埃を被っていたが切れ味は鋭かった。

試し切りをした壁にやすやすと切れ目を入れ、手に軽く当てただけでチクリと痛みを感じた。

吸血鬼には銀の武器が効くらしいことは何かに書いてあったのを覚えている。

銀でできているかどうかは分からない。

だが、倉庫の中の何に使うのかわからないガラクタや、何の言葉で書かれているのか分からない本よりも、この場合ははるかに実用的だった。



家は2階建てのようだった。

どことなく洋風な雨よけと玄関が正面に見える。

玄関からすぐ後ろは森の中に埋め込まれているようなので後ろがどのくらい続いているのかよくわからない。

今見える位置からは窓はないようだ。

(家の中はどうなってるかな・・・誰かいるのかな?)

家の周りを回って、どこかで窓を見つけて中を確認することにした。

音を立てないように注意しながら、家の周りを見て回る。

古くなってはいるものの、朽ち果てている感じではなさそうだ。

森の中に埋め込まれるようにして建っているので家の壁のすぐ近くまで木が生えている。

家はそれほど大きいものではなかったので、家の周囲はそれほど苦労せずに一回りできた。

だが、一周しても窓は見当たらなかった。

壁の高い位置には明かり取りの小さな窓はあるが、とても届きそうにない。

(これじゃ家の中の様子はわからないな)

森はしんと静まっている。

(さて、どうする)

噂が正しければ、粟田を殺した吸血鬼がいるのかもしれない。

もしいたとして、果たして自分一人でなんとかなるものなのかわからない。

つい三日前までは生きていたはずの粟田。

一番最後に見た姿は、夏休みに入る直前の終業式から一緒の帰り道だった。



私さ、休みになったらね、ちょっと試してみたいことがあるんだ。

お、なんだそれ、何かするの?

うん、今は秘密なんだけど、うまくいったら後で教えるから。



いつになく元気そうだった粟田。

(楽しみにしてた夏休みになったってのに、なんであんなことになったんだろうな)

ナイフを握り、玄関に向かった。



玄関から辺りを見るが、当然、誰もいない。

森は静まっている。

胸の中でドンドンとうるさい鼓動を感じる。

体が少し震えている。

古びた玄関の雨よけとドア。

よく見るとドアはそれなりに綺麗だった。

掃除されているのかもしれない。

(やっぱり誰か住んでいる?)

念のため、家の中から物音がしないことを確認する。

ドアに耳を押し当てる。

「・・・」

音はしない。

右手はナイフを握り、左手でドアノブを握る。

そっと回すして押すと、ゆっくりとドアは開いていった。

(鍵がかかっていない)

玄関から家の中の薄暗い様子が見えてきたところだった。



「ちょっと!何してんの!」



後ろから声をかけられて、飛び上がりそうになった。

「うあっ!うああああ!」

思わず叫んでしまい、後ろを振り向いてナイフをかざした。



「何よ・・・大げさね」

少し離れたところにフードをかぶった人影があった。

逆光で顔はよく見えない。

その人影は近づいて来た。

人影は両手から大きく膨らんだビニール袋を下げている。

袖なしのフードからは白い腕が露出している。

腕に2,3本ブレスレットが巻きつけられているのが見えた。

格好と声からして、女のようだ。

「君は、人の家で何してるのかな?」

「え、ひ、人の家?」

ここは、人が住んでる家なのか?

じゃあ、吸血鬼は?

「え・・・その、こ、ここに住んでる人なんですか?」

「そうよ」

近づいて来たので、逆光の中でもうっすらとフードの中の顔が見えた。

若そうだった。

学校の高等部の生徒くらいのように見えた。

手を見ると、ビニール袋からはスーパーで買ってきたらしい飲み物のパックや野菜が詰まっている。

服装といい、この買い物袋といい、どうみても吸血鬼とは思えなかった。

「あの、ここって、吸血鬼の住んでるって噂の・・・」

「吸血鬼・・・?何よそれ?」

女は噂のことは知らないようだ。

「君は・・・この家に吸血鬼がいると思って、それを確かめるために入ろうとしてたのかな?」

よく見ると整った顔だちだ。

綺麗だと思った。

焦っていたせいもあるかもしれないが、また鼓動が早くなった。

「あの、その、噂もそうだし、最近あった殺人事件で、粟田が・・・クラスメイトだけど、吸血鬼に殺されたって噂があって・・・」

慌てていて、ところどころ断片的にしか話せないのが自分でもわかる。

「殺人事件?最近そんなことがあったの?ふーん・・・それで?吸血鬼だって?」

「ここは吸血鬼が住んでて、粟田を殺したのはそいつだって・・・」

話ながら、どう見てもこの女が犯人とは思えないし、ここに吸血鬼が住んでいるとは思えなかったからつい話してしまった。

「なるほどね、それで、ここにいる吸血鬼を一人で殺しに来たってことね」

「あ、うん、そういうことに、なります・・・」

年格好的に同じくらいの年な気がするが、なんとなく敬語になってしまう。

「ふーん・・・まあ、いいけど。ここは私が住んでる家よ。残念ながらお目当ての吸血鬼はいないわ。」

「そう、ですか・・・」

体から緊張が解けていくのがわかる。

汗をかいていたらしく、額から汗が伝ってくる。

「ねえ、家に入りたいんだけど、ちょっとどいてもらえるかな」

自分がドアの前に立っていて塞いでることに気がついた。

「あ、すいません。じゃあ、これで。どうもすいませんでした」

ドアの前からどいて、立ち去ろうとした。

「ちょっと待って」

女がじっとこちらを見ている。

「そのナイフ、どこで見つけたもの?」

「えっ」

女が俺の持っているナイフを見つめてた。

「あ、これは、家の倉庫にあったものです」

「家の倉庫・・・?ねえ、君の名前はなんていうの?」

なぜ急にナイフや名前に興味を持ったのか不思議に思いながら答えた。

「えっと、霧雨マコトです」

「霧雨・・・」

女は目を大きくした。

女は何か引っかかったらしく、少し考えているようだ。

それからややあって、こんなことを言い出した。

「霧雨君さ、ちょっと家によっていかない?さっきの事件の話とかさ、聞かせてよ」








家に入るとリビングらしきところに通された。

「ちょっと座って待っててね。お茶でも出すね」

台所があるのだろうか、彼女はすぐ隣の部屋へ買い物袋を持って入っていった。

隣の部屋からははガサガサと買い物袋の音がした。



とりあえず、ソファに座った。

ふわりとしてすわり心地がいい。


何となく部屋を見る。

ソファはやテーブル、絨毯など、どれも年季の入ったもののようだ。

少し古い感じはするが、よく手入れがされていて、質の良さそうな家具だ。

装飾などから察するにかなり高級そうな印象を受けた。

窓が無く、電灯の灯りが全てなので何か奇妙な感じもする。

一体、どういう家なんだろう?

外を見て回った感じからするに、昔からここにある家ようだ。

家具などの印象からだと、裕福な家のように思える。

彼女は買い物からの帰りのようだが、彼女以外は住んでいるのだろうか?



そんなことを考えていると、女が両手にソーサーを持って台所から出てきた。

「紅茶淹れてきたよ」

彼女はティーカップとソーサーをマコトの前のテーブルに置いた。

そして彼女もマコトの隣に座る。

「自分じゃミルクも砂糖も入れないから、家においてないんだけど、そのままでも飲める?」

「え、あ、そうなんですか。まあ・・・多分大丈夫です」

紅茶なんてほとんど飲んだことがなかった。

大体はコーヒーかジュースだ。

それも、砂糖を多めに入れた甘いものばかりだ。

苦い飲み物は苦手だ。

でもせっかく出されたものだし、紅茶一杯くらい飲めるだろう。

女が紅茶を飲んでいる様子を見て、自分も真似てすすってみる。

うっすらと赤茶色い液体を口に入れると香りが口中に広がる。

いい香りだったけど、ちょっと苦い。

「ああ、やっぱり苦いか。まあ、そういう味の良さも少しは知っておきなよ」

顔に出てしまったのだろうか、バレてしまったらしい。

彼女が少し笑っている気がする。

「いや、飲めますよ」

何となく苦いのが苦手なのがばれて、子供っぽく見られたみたいで、少し恥ずかしい。

改めて彼女を見る。

今はフードを下ろしてるから顔がはっきり見える。

銀髪のショートカットに整った顔立ち。

黒い袖なしフードとカラフルなTシャツ。

ショートパンツにストッキング。白い腕にはブレスレットが巻き付いている。

顔もそうだが、格好からして若い。

せいぜい自分と同じくらいか。

だが、うちの学校の高等部ではこんな学生は見たことがなかった。

卒業生だろうか。

「あの、すいません、えーっと、その」

学校について聞こうとして、名前を聞いてないことに気がついた。

「あの、お名前を聞いていいですか?」

「ああ、まだ言ってなかったか。十六夜咲夜よ」

とりあえず名前は分かった。

「十六夜さんって、その、学生ですか?それとも、卒業されてるんですか?」

「えっ、いやっ、学生ではないね」

冷静に考えれば、今うちの学校の生徒なら粟田の事件も知ってるはずだから、生徒じゃないのだろう。

とすれば卒業生だろうか。

「ってことは、卒業生なんですね。働いてるんですか?」

この辺りの商店などでも見たことがない気がした。

「いや、うちはちょっと変わっててね・・・仕事は、まあ、ちょっと変わったことをね・・・」

なんとも歯切れの悪い答えだ。

もしかしたら、働いていないのかもしれない。

家がなんとなく豪華だし、親のすねをかじって家で働かずに過ごしているのかも。

あまりこの辺りは聞かないほうがいいのかもしれない。

「そんなことよりさ、霧雨君。事件についてさ、聞かせてもらえるかな」

「あ、はい」

十六夜さんに事件のことを話し始めた。





二日前のこと。

昼くらいに担任から電話があった。

粟田が死んだと伝えられた。

最初は信じられなかった。

夏休みに入る前、病気がちだった粟田にしては珍しく登校してた事が多かった。

粟田は何か病気か、体がもともと弱いのか、学校に来ないことが多かった。

だから、最初は何かの病気で急に具合が悪くなって死んだのかと思った。

だが話を聞くと、どうやら殺されたらしい。

家の外で死んでいたらしく、遺体がその日の朝に見つかったらしい。

詳しい話はあまり聞けなかったし、担任も詳しく把握してたわけじゃないようだった。

家の外にはなるべく出ないようにするのと、不審者がいたら警察に連絡するように言われた。



しばらくは呆然としてた。

粟田とはなんとなく気があった仲でよく二人で話をしたり一緒に出かけたりしてた。

俺はよく話す友達なんて、そんなにいるわけじゃないし、粟田も同じような感じだったと思う。

お互いなんとなくクラスでは浮いてた感じだし、似たもの同士だったのかもしれない。



その日と次の日はずっと家でぼーっとしてた。

唐突過ぎて現実感がなかった。

何か他のことをしながら、頭には粟田のことがひっかかっていた。



新聞とかネットの掲示板を見ていると、事件のことはなんとなくわかってきた。

事件現場は粟田の家のすぐ近くの林らしい。

そこで朝に遺体が見つかった。

粟田は前日の夜は普通に家族と食事をしたとのこと。

その後、夜のうちに家を出ていたのか、朝早くに家を出たのかは分からないが、朝には林の中で粟田は死んでいた。

近所の人が朝に犬の散歩をさせていて見つけたらしい。

警察は他殺と断定したらしく、付近の住民は注意するようにとのことだった。

新聞に載ってたのはこのくらいだった。



ネットの掲示板を見ると嘘かホントかわからない情報が色々と流れていた。

現場には魔法陣がかかれていて、何かの儀式の生贄になったのだとか。

遺体からは衣服が剥ぎ取られて下着だけになっていたらしく、暴行された跡があったとか。

近くの林で怪しい影を見つけたとか。


そんな噂の中に吸血鬼に関するものがあった。

遺体の首筋には噛み傷があったらしい。

そこから、吸血鬼のしわざじゃないかっていう話になったようだ。

その昔、里に妖怪がいたとされていた時代には吸血鬼がいたらしい。

そうして今も里の外れの森の奥にひっそりと吸血鬼が住んでいるって噂があった。

もちろん、さすがにこんなことをいきなり信じるわけじゃなかった。



そうして、家の中で二日ほど過ごして、無性に何かしなければいけないと思った。

粟田とは自分がいちばん親しかった人間なはずだった。


(私さ、休みになったらね、ちょっと試してみたいことがあるんだ)


もしかしたら、自分だけが何かわかることがあるのかもしれないとも思った。

今日、粟田の家の近くの林、事件現場に行った。

もちろん遺体はすぐに運びだされたはずだし、証拠品とかも残ってるはずはないけど、何かあるかもしれないと思った。

そして、魔法陣が本当に描かれていたようだった。

地面に奇妙な模様が描かれた跡が残っていた。



「それで、本当に魔法陣みたいなものが描かれてたから・・・もしかしたら吸血鬼の噂も本当かも・・・って思って」

「ふーん、なるほどね、それでここに来たってことね」

「そうです。それから・・・」



魔法陣の近くに、木と地面に赤黒くなった染みは見つけた。

学校での粟田を思い出す。

病気がちで休むことが多かったけど、それでもできるだけ学校に来ていた。

顔が白くて具合悪そうにしながらも授業受けてた粟田。

休み時間はよく本を読んでた。

林の中、魔法陣、血の跡。

体育はいつも見学して、みんなをどこか羨ましそうに見てた。

林で倒れている粟田を想像した。

開かれているその目はもう動くことはない。

粟田が襲われたであろう光景が勝手に頭に浮かんでくる。

地面に倒れこむ粟田。

彼女に覆い被さる影。

剥ぎ取られる服。

悲鳴。

飛び散る血液。

首から血を流して動かなくなる粟田。

青白い首から流れるどす黒い血が地面に染みを作る。



口の中に苦い香りが上がってきた。

気持ち悪い。

目の前が白くなってくる。

目の前が回る。

顔に衝撃。

絨毯の感触を感じる。

「ちょっと・・・ちょっと!大丈夫!?」

頭が痛い。気持ち悪い。

ドクンドクンと心臓が脈打つたびに頭痛がする。

喉に紅茶の匂いが上がってくる。

あっという間に逆流してきたそれは、口の中でとどめようと思ったが、無理だった。

「おぇっ・・・おぇ”ぇ”ぇ”ぇ”」

粟田の生前の綺麗だった顔と死んで無表情になった粟田の顔が交互に頭に浮かぶ。

「げぇぇっ・・・うぇぇっ!」

「しっかりして!落ち着いて!」

十六夜さんの悲鳴みたいな声が聞こえる。

(ああ・・・高そうな絨毯汚してごめんなさい)

倒れてるところで吐いたので顔についてヌルヌルする。

(汚いなあ)

粟田が首から血を流して倒れているところを想像した。

「うっっぷぅ・・・うぇぇぅっ」

粟田が倒れてるところを想像すると面白いくらい吐き気がする。

「ちょっと!なんなのよ!もう!」

十六夜さんがどこか別の部屋へ走って行く足音がする。





おー、お前ら付き合ってんのかよ?

一緒に粟田と帰ってるとよくクラスメイトにからかわれた。

そ、そんなんじゃねえよ。

もちろん、そういう関係ではなかった。

本当に仲のいい友だちという関係だっと思う。

ただ、粟田は何も言わなかったけど、少し寂しそうな顔をしてたかもしれない。





「げぇっ、うぇぇっ・・・うっっ、ひっく、ぐすっ」

吐き出そうとするものは体には残っていなかったが、体は勝手にえずいた。

「うぇぇっ、ぇぇっ、・・・うぅぅっ、ぐすっ、うぅっ・・・」

しばらくすると吐き気は、だんだんしゃっくりみたいな呼吸に変わって、今度は勝手に涙が流れ出してきた。

それから、十六夜さんが走ってくる足音が近づいてきた。






「どう?少し落ち着いた?」

十六夜さんが上から覗き込んでくる。

「ええ、だいぶ。もう大丈夫です」

しばらくソファに横になってたら落ち着いてきた。

「すいません、汚して。ほんとすいません」

絨毯はさっき十六夜さんが拭いていたけど、跡が残るかもしれない。

「ああ、これは別に気にしなくていいよ。多分、跡は残らないし」

「そうですか・・・」

あんまり吐いたものがなかったのが良かったのかもしれない。

なんとなく食欲がなかったから今日は飯を食べてなかった。

「ねぇ、霧雨君さ、その・・・思い出したくなかったらいいんだけどさ」

十六夜さんが何か言いづらそうにしている。

事件のことかもしれない。

「あ・・・事件のことですか?もう大丈夫ですよ。多分」

「そう・・・じゃあさ、その事件現場の魔法陣ってさ、どんなものだったか覚えてる?」

「魔法陣ですか?えーっと」

現場にあった模様を思い出す。

「確か・・・円の中によくわからない文字がたくさん書いてあって・・・それから中にまた円があって」

「ちょっと紙に書いてもらえる?」

近くのテーブルの上にペンと紙があった。

少し上体を起こして腕を伸ばし、テーブルの上の紙に書いていった。

「うーん、あんまり覚えていないけれど・・・」

はっきりと覚えていたわけでもないし、よくわからない文字ばかりだったから、大雑把な感じしか書けなかった。

その雑な魔法陣を見ながら、十六夜さんは険しい顔をしている。

「ふーん、なるほどね。ちなみにさ、魔法陣って、これしかなかった?」

「え?ええ・・・あそこにはこれしかなかったですね」

林の空き地の真ん中にあった魔法陣。

その近くには特に目立つようなものは他にはなかった。

「そう・・・」

「十六夜さん、何か知ってるんですか?」

事件のことは今知ったのに、魔法陣については色々と聞いてくる。

そこが少し気になった。

「んー、いや、何も分からないけど、ちょっと気になってね」

十六夜さんは魔法陣の紙から目を離すと肩をすくめた。

「そうですか」

何か知ってそうな気がする。

だが、今はそれを聞いていいものか分からないし、そんな元気もなかった。





「今日はどうもすいませんでした。それに、わざわざ送ってもらって」

「いや、別に気にしないで」

近道を教えてもらうため、森の外まで送ってもらった。

十六夜さんの家から森を出るための細い道が存在していた。

その道をたどって簡単に森から出れたし、里へも近い場所だった。

既に外は夕暮れとなっていた。

「じゃあさ、さっきの事件もあるしさ、暗くなる前になるべく早く家に帰りなよ」

「はい。そうします」

「んっと、ちなみに君さ、霧雨商店の息子かい?」

「え、知ってるんですか?うちの店」

意外だった。

お客さんとして来たことがあるのだろうか。

だが、たまに店を手伝ったりするが、十六夜さんを見た記憶は無い。

「うん、一応知ってるよ。あんまり行ったことは無いけど。それに珍しい苗字だから」

「なるほど、そうですよね」

確かに苗字は珍しいだろう。他にこんな苗字の人は見たこと無い。

「じゃあさ、私もこの事件についてはちょっと調べてみるよ」

「えっ、どうして?」

なぜ十六夜さんが調べようとするのかちょっと不思議に思った。

「うん、いや、もしかしたら昔の知り合いに関係ある話かもしれないんだ」

「知り合いですか?」

粟田と何か関係あるのだろうか?

「そう。知り合い。気のせいかもしれないけどさ」

古い知り合い・・・。

目の前のいかにも若者な格好をした十六夜さんが言うと何か違和感を感じる。

一体何歳なんだろう?

「それに、変な噂を信じた人が家にやってきて襲われたりしたらたまらないからね。早く犯人捕まえないとさ」

「うっ・・・すいません」

痛いところをつかれた。

確かに冷静に考えれば、吸血鬼の噂なんてオカルトもいいところだ。

それを真に受けて、ナイフを持って人の家に入るとか、客観的に見れば犯罪以外の何物でもない。

「ははっ。まあ、それは冗談だけど、この事件は何か気になるし・・・。あ、早く帰りなよ。特に夜は危ないかもしれないからさ」

そこだけ、十六夜さんは真面目な顔をして言った。

そして彼女は森の中に帰っていった。

俺はそれを見た後、家に戻ることにした。

夕暮れ時に一人になると急に心細く感じて、人の往来があるところまで急いだ。











2.粟田の葬儀
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妖怪って、ほんとにいたと私は思ってるんだ。

本当かよ。妖怪なんて昔話じゃないのか?

んふふ、私の家って分家でね、本家の稗田家に色々本があってさあ、そこにある本に色々書かれててね。





十六夜さんの家を訪ねた次の日、久しぶりに学校の白シャツと学生ズボンを着た。

粟田の葬式だった。



斎場のお寺に着くと、クラスメイトが既に何人か来ていた。

数人で固まって話してたり、一人で座ってる奴もいる。

受付を済ませて座って待っていると、周りの会話が耳に入ってくる。

「・・・殺されたって話らしいじゃん」

「・・・犯人はまだ捕まってないんだよな」

「・・・粟田と家が近かったやつは警察に色々聞かれてるってさ」

何となく入ってくる話を聞きながら考える。

粟田はなぜ殺されたんだろう。

粟田が死んで得をする奴なんているのだろうか?

もちろん自分が知らないことがあるのかもしれないから絶対無いとは言い切れない。

だが、俺の知っている限り、粟田が殺されるような動機は全く思いつかない。

それに魔法陣は何のために描かれたんだろう。

そして誰が描いたんだろう?

粟田か?犯人か?それともそれ以外の誰か?

そもそも粟田は何をしに外に出たんだろうか。

誰かに呼び出されたのか?

だとしたらそれは犯人の可能性が高い。

もし自分で外に出たのだとしたら、何かの事件に巻き込まれたのだろうか。

だが、いくら考えても、どれも憶測の域を出ない。

実際にあの現場で何が起こったのかを知るすべがないのだ。

警察はもっと詳しい情報を掴んでいるのだろうが、警察を訪ねたとしても、仲が良かったとはいえ一般人の俺に何か教えてくれるとも思えない。



そんなことを考えているうちに葬儀が始まる時間になった。

粟田の親族が集まって前方の席に座り、クラスメイトは後ろの席に座る。

会場の席が埋まってから程なくして、司会が出てきた。

「本日はご多忙中のところを、ご臨席いただきましてありがとうございます。只今より、故粟田亜美様のご葬儀を執り行います」

「・・・故人は子供の頃から生まれつき体が弱いところもありましたが、それにも負けずに懸命に勉学に励み、学校では・・・」

「・・・家では両親の仕事を手伝い、稗田家にもよく手伝いに・・・」

粟田の紹介が軽くされ、お坊さんが出てきてお経を唱える。

葬式は出たことがなかったので何をするものなのかよくわからなかったが、周りに合わせて、手を合わせたり、頭を下げたり、前に出て焼香した。

式が進むに連れて、だんだんと本当に粟田は死んだんだなって思えてきた。

ここ三日ほど粟田のことを考えていたせいだろうか、葬儀だからといって改めてショックを受けるということはなかった。

もう少しショックを受けるものだと思っていたので自分でも意外だった。

前を見ると最前席では肩を震わせている人がいる。

後ろ姿だけではわかりづらかったが、恐らく座っている場所的に粟田のお母さんだろう。

粟田の家に遊びにいったときに何度か話したことがあった。

(やっぱり、あれが普通の反応だよな。親はショックだよな・・・。俺って、もしかして、意外と薄情なのかな)



最後の対面となった。

親族から順に花を棺に埋めていく。

俺もそれに加わった。

棺の扉が開けられており、近づいていくと粟田の顔が見えた。

事件後、初めて見る粟田。

白く化粧された顔に傷は見えない。

顔に表情はなく、ただ眠ってるだけのように見えた。

棺の中で、花に満たされて両手を組んで眠っている。

単純な印象として、綺麗だと思った。

白い装束に白い花を敷き詰めた棺の中にいる彼女はまるでお姫様のようだ。

だけど、粟田は目が開いてる時のほうがもっと魅力的だった。

粟田は色んなことに興味を持って、大きな目がよく動くのが可愛かった。

そんな粟田が好きだった。

粟田が具合が悪くて学校を休んだときに何度か見舞いに行った。

粟田は寝てるのはつまらなと言って、色んなことを話した。

体が丈夫になったら色んな所に行くんだと言っていた。

粟田はきっと寝てるよりも起きて動いてるほうが似合うはずだった。

でも目の前の彼女はもう動かないらしい。

(そうだよな、死んだんだよな)

粟田の顔を、忘れないようにじっと見つめてから花を置いた。

お別れが終わると、棺に釘が打たれ、火葬のために親族達に担がれて出棺されていった。

(そんなに釘を打ったら粟田が出れなくなっちゃうし、燃やしたら粟田の体がなくなっちゃうじゃないか)

釘打ちと火葬をやめさせたいと思った。

だけど、粟田はもう、そうされるのが当たり前の状態らしいとわかってたから、止めることはできなかった。



出棺され棺が火葬場運ばれていくと、学校の関係者は解散となった。

後は親族だけで葬儀が続くらしい。

お寺からぞろぞろと夏服の学生たちが出て行く。

帰ろうとした時、ふと、粟田のお母さんを思い出した。

粟田のお母さんに会って少し話そうかと思った。

粟田の友達として、何か言ったほうがいいのかもしれい。

ただ、何を言うべきなのかよくわからなかった。

それに、粟田のお母さんは火葬場に行っただろうし、いつ戻ってくるのかわからない。

また後で家に行って話すことにしよう。

俺も学生服の集団に混じって帰ることにした。



お寺から出てしばらく歩いていると、同級生の姿も減ってきて、前を歩く学生服も一人二人になってきた。

「さて、これからどうするかな」

もう事件現場には行ったし、怪しい噂も調べた。

これ以上、彼女のためにできることはなんだろう?

(とりあえず、知っていることが少なすぎるよな)

結局、今知っていることと言えば、新聞で読める情報と出処の怪しいネットの情報、後は現場を見て分かったこと、くらいしかない。

これだけの情報では真相を探るのは無理なように思えた。

(というか、そもそも俺が調べることなのか?)

俺はただの学生であり警察ではない。

事件の調査は警察の仕事だろう。

(もう、おとなしくしてるくらいしか無いのかな)



「あ、マコトじゃん」

前から声が聞こえてきた。

目の前に一人、同級生が立ち止まってこっちを見ていた。

考え事をしていたから気が付かなかった。

白ブラウスと紺のスカート。

うちの学校の制服だ。

それに頭に赤いリボン。

「あ、おう。レイカか」

彼女は俺と一緒に歩いて話し始めた。

「なんていうかさー、大変なことになったね」

「うん、そうだな」

博麗霊夏。

博麗神社の一人娘。

今まで学年は一緒だったが、同じクラスになるのは高等部になってからだった。

レイカとはたまに話すことはあるが、そんなに接点はなかった。

「レイカって帰り道こっちなのか?」

「うん、そうだよ。マコトもこっちなんだ」

「ああ、途中まで一緒に行くか」

レイカは誰とでも普通に話すし、結構かわいいから人気はある。

ただ、特定のグループに入っているわけではないようだった。

どこかのグループと一緒の時もあるけれど、一人でいる姿を見ることも多い。

人を避けてるわけでも、積極的に関わるようでもなかった。

俺がレイカを名前で呼んでるのは特別親しいからではない。

単に博麗って言いづらいし、みんなもそう呼ぶし、レイカ自身もそう呼んで欲しいらしかった。

そしてレイカはよく人のことを下の名前で呼ぶ。

つまり、お互いに下の名前で呼び合ってはいるが、俺はレイカのことをよく知らなかった。

(粟田とは付き合いあったのかな?)

「なぁ、レイカってさ、粟田とは、どうだった?」

「どうだったって?」

「なんつーか・・・何か話をしてたとか、遊んだとかある?」

「いやー、亜美とはあんまり話したことないよ」

「そっか」

とりあえず予想通りだった。

「マコトはさ、亜美とはよく話してたよね」

「ああ、うん、まあ、そうだな」

「ふーん、仲よかったんだよね。こんなことになっちゃってさ、ショックだよね」

「ああ、まあ、ね。ショックっていうか、なんかよくわからないけどね」

「わからない?」

レイカがこっちを見ながら聞き返した。

「うーん、なんだろうなぁ、死んだっていうのはわかってるんだけどさ。気持ちが落ち着かないっていうか、今まであったと思ってたものが急になくなりましたって言われてもさ・・・」

「ふーん、そっかぁ」

「実感がないっていうのかな。さっきの葬式で何となくわかってきたかもしれないけど」

「ふーん」

「もしかしたら葬式って、もうこの人は死んだんですよ、って周りに知らせるためのものなのかな」

それは単に自分がそう感じただけだが、思ったことが口から出た。

「そうねぇ、そういう意味はあるかもね」

もう粟田はいない。

棺の中、花に埋もれた粟田を思い出した。

(今頃燃やされてるのかな)

最後の眠ってるみたいだった粟田の顔。

(最後は綺麗な顔になっててよかった・・・のかな)

そんなことを思ってたら、頭の中がぼーっとしてくるような感じがして、目のあたりがじんじんしてきた。

それから目の前が滲んできた。

何となく見られるのも恥ずかしいような気もしたので、手で抑えて涙を拭いた。

でもしゃっくりみたいな震えはあまり抑えれなかったかもしれない。

それからしばらくの間、何も話しかけて来なくなったから多分バレてたんだろう。



お寺から歩いていると町中に入っていた。

「ねぇ、今暇?」

「えっ、ああ、うん」

「じゃあさ、あたし甘いのが何か食べたいからちょっと付き合ってよ」

そう言ってレイカは近くにあった喫茶店を指さした。

「あ、ああ、いいよ」

夏休み中だし、特に予定はなかった。

むしろ、これからどうすればいいかもわからなかった。

「じゃあいこっか」





店内は空いていた。

ボックス席とカウンター席があるが、客はカウンターに一人いるだけだった。

学生は夏休みだが、世間的には平日だからそんなに客が入っていないのは当然か。

凝った照明や革張りの椅子、よくわからないが静かな音楽が流れている。

何となくおしゃれな店だと思った。

レイカと俺は一番奥のボックス席に入っていった。

マスターが注文を取りに来ると、レイカはパフェを、俺はコーヒーを頼んだ。

「レイカってこういう店によく来るの?」

「いや、全然」

「え」

「今日はたまたま」

「ふーん、そうなんだ・・・この店は何度か来てるの?」

「いやー、今初めて入った」

「あ、そう・・・」

甘いのが食べたいって言って、いきなり知らない店に入るものなのだろうか?

もしかして、レイカは気分屋なのかもしれない。

「マコトは?喫茶店とか入るの?」

「いや、あんまりこないよ」

「ふーん。亜美とはこういう店に入ったりしてなかったの?」

「あー、そういえば、粟田とは、たまにだけど、こういう店に来たかな」

「お、やっぱり」

レイカは微笑んでこっちを見た。

「な・・・なんだよ」

「なんかー、仲いいなあとは思ってたからさー、二人でなんか色々してるのかなって」

「いや、ほんとたまにだよ。せいぜい2,3回くらいだって」

何となく恥ずかしくて、慌ててしまって否定するような答え方になってしまう。



そんなことを話しているとマスターがパフェとコーヒーを運んできた。

「お待ちどうさま」

レイカの前にパフェを、俺の前にコーヒーを置くとマスターはカウンターの奥へ戻っていった。

レイカは細長いスプーンでイチゴとクリームをすくって一口頬張る。

「ん~あま~い」

なんだか嬉しそうにパフェを食べている。

意外、というのも変だが、女の子っぽい一面もあるんだな、と妙な気分になった。

恐らくあまりレイカのことを知らないせいだろう。

「そ、そんなに甘いのか・・・」

どう反応していいかよくわからない。

とりあえずコーヒーを飲むことにした。

ブラックは苦手なので砂糖とミルクを多めに入れる。

「ねぇ、亜美のどんなところが好きだったの?」

レイカはパフェを食べながら唐突に聞いてきた。

もし粟田が生きてたら単にからかってるだけに聞こえて、真面目には答えなかっただろう。

だけど、葬儀が終わって彼女のことを考えてたところだったし、少し恥ずかしくはあったが、思ったことをそのまま話すことにした。

「うーん・・・粟田のことは・・・好きっていうのとは違うかもしれないけど」

一口コーヒーをすすってから続ける。

「似てる気がしたのかもしれない」

「似てる?」

「粟田はさ、体が弱くてあんまり学校来なかったりしててさ。ちょっと性格的にも変わってたし、なんとなく周りから浮いてるようなところはあったんだよ」

「へー、そうなんだ」

「俺もあんまり周りとうまくやってるわけじゃないし、俺も粟田もそういう似たようなところがあって、二人で話すことが多くなったんだと思う」

レイカはパフェを食べながらではあるが、じっと俺を見て、話を聞いている。

「それでさ、俺もあいつも変なことに興味あって、例えば俺はパソコンとかさそういうの好きだからよくいじってるんだけど、周りは全然そういうのに興味ないし・・・レイカもあんまり興味ないだろ?」

そもそもパソコンを持ってる家自体がほとんどないはずだ。

「ええ、パソコンって確か、箱に何か映像を映す機械だっけ?」

「ん・・・まあ、そんな感じだ・・・。それで、粟田は話したらさ、見たいって言ってさ、それでよくうちに来てパソコンいじってたよ。それに、あいつはあいつで変わっててさ、里の昔の話とか、妖怪の話とかをするんだ」

「妖怪・・・」

レイカのパフェを食べる手が止まった。

「うん、妖怪だよ。そんな話を信じるなんて子供じみてるって思うか?まあ、そう思っても仕方ないかもしれないけどさ、なんでも、粟田の家にはそういう古い本がたくさんあるらしくってさ」

「・・・粟田家・・・稗田家の分家」

レイカはパフェを見つめながらつぶやく。

「ああ、そう、よく知ってるな。それで、俺もそういう話って結構好きだからさ、あいつとよく話してたんだ。だからそんな感じで、お互いに周りから浮いてて、ちょっと変わった趣味持ってるようなところが似てて、気があったのかもな」

レイカはじっと何かを考えて、スプーンを咥えたままで止まっていた。

「まあ、俺と粟田は、お互いに色々話せる友達って感じだったと思う」

「ふーん・・・そうだったんだ」

「でも、最後に会った時にさ、粟田は何かやりたいことがあるって言ってたんだよ。うまくいったら教えるって言ってたけど、あんなことになって・・・。結局わからずじまいだ。あいつ、何やろうとしてたんだろうなぁ」

俺はそこまで言って、コーヒーをすすった。

レイカは考え事をしているようだった。



しばらくしてから、レイカはパフェを見たままつぶやいた。

「あたし、亜美のやりたかったこと・・・何か手がかりくらいは言えるかも」

「えっ」

驚いてレイカを見た。

「本当はあんまり話しちゃいけないんだろうけどさ、マコトは亜美と特別な仲だったみたいだから・・・」

そういって、レイカはちらりとカウンターの方を見た。

俺もカウンターを見ると、客が一人新聞を読んでいた。

マスターもカウンターの奥に座って何かを読んでいる。

レイカはパフェを一口食べると、少し声を潜めて話し始めた。

「あたしさ、昨日、警察に呼び出されたんだ。粟田の事件で」

「えぇっ?なんで?」

思わず変な声が出た。

レイカが事件に関わっているとは想像していなかった。

「うーん、警察で事件に関して色々と聞かれたんだけど、その辺りの話、聞きたい?」

「うん、聞きたい。教えて」

今は事件に関する情報はなんでも知りたかった。

特に警察の話ならなおさらだった。

「そっか。じゃあ話すよ。あたしもさ、驚いたんだけどさ、警察署に行ってびっくりしたよ。事件現場にさ・・・あたしの物が落ちてたらしいんだ」

「レイカの物?」

「うん」

(事件現場にレイカの持ち物?・・・なぜ?)

「なんで?レイカの物って何があったの?」

「なんでなのか、あたしもわからないんだけどさ」

レイカの声が少し小さくなる。

「あたしの・・・リボンがあったって」

「え?」

一瞬意味がわからなくなった。

「リボンって、その、レイカがいつもつけてるやつ?」

「うん」

レイカはこくりと頷く。

「レイカのリボンが、現場にあったの?」

「うん、落ちてたらしいんだ」

確かに、レイカはいつも赤くて大きいリボンをつけていた気がする。

だが、事件現場にあったと言われると、よくわからない。

「・・・」

(どういうことだ?)

普通に考えてレイカが事件に関わっているとは考えづらい。

「それ、ほんとにレイカの?粟田がよく似たものを持ってたってことはない?」

似たものを持ってた、というほうが可能性としてはありえそうだ。

「実は、そのなくしたリボンには心当たりがあってさ、夏休みに入る前に水泳の授業があったじゃん」

「あ、ああ、そういえば女子は何回か水泳の授業あったな」

その時も粟田は見学してたはずだ。

「うん、そのときにさ、あたし、リボン盗まれたときあったの」

「はぁ?盗まれた?」

そんな話は聞いたことはなかった。

「え、それ、ほんとかよ?全然そんな話聞いたことないよ。なんでクラスのみんなに言わなかったの」

もしそれが本当なら問題になってるはずだ。

「いや、あたしはさ、あんまり騒ぐのも嫌だったし、もしかしたらあたしが勝手になくしただけかもしれないって思ったしさ」

「ん・・・なるほど」

そう言われると、確かにそう思うかもしれない。

「でさ、その事件現場にあったリボンを見たんだけど、そのときなくしたやつだったんだ」

(そうなると粟田が盗んだという可能性が高いのか?)

粟田が人のものを盗むとは思えなかった。

「その落ちてたリボンって、ほんとにレイカのものだったの?」

「うん、多分間違いないよ。形と模様も同じだったし、家でママが作ったやつだから、他で売ってるわけないし」

「そうか・・・」

何が起こっているのかは分からないが、あまり良いことではなさそうな気がしてきた。

「えっと、夏休みの前に盗まれたレイカのリボンが粟田の事件現場にあった、ってことは、可能性としては」

思いついたことをとりあえず言ってみることにした。

「まずは、粟田がリボンを盗んで、それを現場まで持っていったってことかな」

意味は分からないがとりあえず可能性としてはそんな感じだ。

「うん、そうね」

「次に、粟田以外の誰か、恐らく犯人がリボンを盗んで、現場に置いていったということ」

さらに意味はわからないが一応の可能性だ。

「それは、亜美を殺してからわざわざ置いていったってこと?どうなんだろう」

「まあ、事件現場にレイカのリボンが落ちてたって時点で既に説明付けが難しいからな・・・ちなみに、盗むなんてのは簡単にできるの?」

水泳の授業なら女子更衣室で着替えるはずだが、盗むなんて実際できるものなのか。

「うん、クラスの人なら誰でもできたかもね。ただ、亜美は見学だったし、他の人よりはやりやすいかも」

「逆に言うと、学校関係者じゃないとやりづらいよな」

外部の人間が学校に侵入というのは考えづらそうだった。

「そうね、亜美の事件とは無関係にクラスの誰かが、あたしのリボンを盗んで、なんかの偶然でたまたま現場に置かれたとか・・・」

「うーん、聞けば聞くほど意味が分からないな」

そもそもなぜそんなことをするのかがわからない。

そしてなぜレイカのものである必要があったのか。

「うん、あたしも意味はわからないけどね。ただ、警察から帰ってママに話したらちょっと怖い顔してたな」

「ママ・・・レイカのお母さんって、神社の巫女なんだっけ?」

確か、代々博麗神社の巫女になってるってどこかで聞いた気がした。

「そうだよ」

「ん?レイカのお母さん、事件のこと何か知ってるのか?」

「あたしのリボンが現場に落ちてたって話を聞いて真剣な顔して何か考えてたけど。でも、事件のことは何も言ってなかった」

「そっか」

まあ、自分の娘の私物が事件現場にあったりしたら当然の反応だろう。

「それ以外でもさ」

「え、まだ、何かあるのか?」

レイカは頷く。

「御札っていうかカードっていうか、そんな感じのが落ちてたみたい」

「カード?」

「うん、警察の人に何か知らないか、って聞かれてさ、トランプのカードくらいの大きさでさ」

レイカが両手で四角を作って大体の大きさを見せる。

「古びた感じのカードで、変わった文字とかで書かれてて」

「古びたカード?」

「うん、なんて言ったらいいかわからないけど、ちょっと光ってるみたいでさ。知らないから、分からないとしか言えなかったんだけど」

何か引っかかる感じがした。

(どこかでそんな感じのものを見た気が)

レイカは額に手を当てて少し考えている。

「あたし、はっきり覚えてはいないんだけど、どこかで何か似たようなものは見た気がするのよ」

どこか遠い記憶、薄暗い場所でカードを見た気がする。

不思議な文字の刻まれたカード。

だが、どこかは思い出せなかった。

仕方ないので、事件との関係を考えた。

「それって、どんな感じで落ちてたんだ?何枚くらい?」

「現場に落ちてたとしか聞いてない。私が見せてもらったのは3枚だった」

「うーん、それって、粟田の持ち物なのかな」

「それはわからないって。亜美が持ってきたものかもしれないけど、犯人のものかもしれない」

「そっか・・・」

何か引っかかるものは感じるが、カードについては正直何も分からない。

「まぁ、そのカードはあんまり事件に関係ないかもしれないから、考えても仕方ないかもしれないけどさ。それとね」

レイカがちらりとこっちを見る。

「ん、なんだよ」

レイカは俺の方を見て何か口を動かしかけてはやめている。

「なんだよ、ここまで話しておいてさ。まだ何かあるなら教えてくれよ」

「いや、隠すつもりはないんだけど・・・」

レイカは何か心配そうな表情でこっちを見ている。

「その、亜美のさ・・・遺体の様子、知りたい?」

(粟田の遺体)

粟田が横たわって血を流しているシーンが頭に浮かんだ。

みぞおちの辺りが冷えて気持ち悪い感触がする。

「ん・・・うん、教えてくれよ」

「そう?嫌なら話さないでおくけど」

知らないほうがいいかもしれない。

だけど、これは知らなければいけない、と頭の中で声がした。

「い、いや・・・大丈夫だ。教えて」

何かが口にあたっていた。

自分の手だった。

いつの間にか口を片手で抑えていた。

レイカはそんな俺の様子をじっと見ていた。

ややあってからレイカは話しだした。

「そう、じゃあさ、あたしも直接見たわけじゃないからさ、警察から聞いた話だよ。亜美はほとんど外傷はなかったみたい。ただ」

「ただ・・・?」

「ただ、首筋に噛まれた跡があったって」

口を抑える手の力が強くなった。

コーヒーの苦味が喉の奥を伝って頭の中まで上がってくるような気がした。

「外傷はそれだけだったらしくてさ、それで、そこから出血はあったみたいなんだけど、致命傷になるくらいの血は出てなかったらしくてさ」

吐き気とコーヒーの香りが登ってきた頭で、レイカの言葉を考える。

「致命傷ではない・・・?」

「うん、そうらしい。事件現場と、亜美の遺体を調べた結果、死ぬほどの血は流れていないみたいなんだよ」

ついさっき見てきた粟田の綺麗な顔。

化粧でわからなかったのかもしれないが、確かに傷はほとんどなかった。

それに言われてみれば、事件現場の血の跡もそんなに多いわけではなかった。

「え?じゃあ、一体何で、粟田は・・・死因は?」

「実は、詳しいことは分からないらしいよ。警察は、亜美は何かのショックで心臓発作を起こしたのかもしれないって疑ってるみたい」

「心臓発作?」

「それと、亜美は下着姿だったらしいんだけど、暴行されたような跡はなかったって。だけど・・・衣類が現場にはなかったんだって」

下着、暴行という単語を聞いて、口を抑える手に力が入る。

事故現場に横たわる下着姿の粟田。そして周りに衣類はない。

「そ、そう、なのか・・・ん?」

何か違和感を感じた。

「衣類がない?」

レイカは頷いた。

「うん・・・そうなんだよね。亜美は最初から下着姿で来たか、もしくは服は着てたけど誰かが持ち去った、ってことなんだよね」

(服を持ち去った・・・?)

「意味がわからないよね。まあ、下着姿でうろつくなんて普通はありえないから、多分、服だけ持っていかれたってことだろうけど」

「あ、ああ・・・そうだな」

何かの影が倒れた粟田に覆いかぶさって、血を流して動かない粟田から上着とスカートを脱がすところを想像した。

苦味が喉の奥に登ってきた。

砂糖のせいか、ちょっと甘みもあるしミルクの味もする。

顔の表面が冷たくなっていくのを感じる。

両手で口を抑えた。

「マコト?」

目の前が暗くなったり白くなったりし始める。

(やばい)

気持ち悪くなってきた。

そのとき、肩を叩く感触があった。

「ちょっと!兄ちゃん、大丈夫か?」

聞きなれない声がする。

顔だけなんとか上げると、マスターが席の近くに来ていた。

どうやら俺の様子がおかしいので見に来たようだ。

「大丈夫かい?真っ青だよ」

俺の顔を覗きこんでくる。

「ぅ・・・だ、大丈夫です」

声が震えているのが自分でもわかる。

しゃべるのもやっとだ。

「ほんとに大丈夫かい?病院は近くにあるけど、連れて行くか?」

「いえ、ちょっと、休めば、大丈夫です」

「そうか・・・何かあったらすぐ連れて行くからね」

そういってこっちを見ながら、マスターはまたカウンターの奥へいった。

奥に行ったが、こっちを意識して見ているような気がする。

口で意識して呼吸をしないと苦しい。

頭の中が気持ち悪い。

「マコト・・・」

レイカが心配そうにこっちを見ていた。

「ああ・・・大丈夫だよ。少しすればさ・・・」

しばらくは呼吸にだけ意識を集中した。

(今回はなんとか吐かずにすんだな)






「ごめんね。やっぱり、黙ってれば良かったかな」

「いや、いいんだ。喋ってくれっていったのは俺だし。それより、変なところ見せちまったな。逆にすまない」

あの後、しばらくしたら落ち着いてきたので喫茶店から出た。

今は帰りの道だった。

「ううん。あたしは別に。パフェは美味しかったしさ」

「そういえばレイカはちゃんと全部食べてたもんな」

俺はコーヒーは残した。

「当たり前でしょ。せっかく、お小遣い使って食べるんだから。たまにしかああいうお店に行かないし」

「そうなのか」

レイカのことはよく知らなかったが、どうにもとらえどころがない感じだ。

そうしてしばらく一緒に歩きながら、色々と考える。

結局、レイカから聞いた話でさらにわけがわからなくなった。

とはいえ、期せずして警察の情報が入った。

これだけ話を聞いておいて、何も行動しないのはありえないと思った。

(さて、次はどうするかな・・・)

色々と分からないことは多いのだが。

(結局のところ、粟田は何をしたかったのか?)

今頃、粟田の体は灰となり、煙となって空へ登っていったのかもしれない。

そう思って、空を見上げた。

まだ午後の太陽が明るく輝いていた。

(もう、粟田の体もなくなったんだろうな)

ふと、火葬場へ行く人々の姿と、粟田のお母さんを思い出した。

「あ、そうだ・・・。粟田の家に行ってみるか」

思いついたことが自然と口に出た。

「え、家に行く?」

独り言だったのだが、レイカが反応した。

「あ、いや・・・粟田のお母さんにさ、まだ何にも言ってなかったからさ。一応、家に行ったりしてたし、友達だったって思ってくれてるはずだから、何か言いに行かないといけないかなって」

「ふーん、そうね。それなら確かに行ったほうがいいかもね」

「今日は忙しいだろうから、明日とか行ってみようかな。もしかしたら、粟田が何しようとしてたのか、お母さんは知ってたかもしれないし」

そうじゃなくても何かわかることがあるかもしれないし。



しばらく歩くと、博麗神社と俺の家との分かれ道になった。

「じゃあ、あたしこっちだから」

「あ、おう」

レイカと別れて、家へ向かおうとした。

「あっ・・・マコト」

「ん、どうした?」

「ねぇ、明日、亜美の家にいくの?」

レイカがこっちを伺うような目で訪ねてくる。

「ああ、そのつもりだけど」

「ふーん、あたしも行っていいかな?」

「お。行くか?でも、なんで?」

「一応クラスメイトだしさ。それに、事件現場にあたしの物があったってのも気になるし、何かわかるなら聞きたいじゃん」

確かに自分の持ち物が事件現場にあったりしたら事件のことも気になるかもしれない。

「そっか、じゃあいこっか。いつぐらいにする?」

「んっと、じゃあ昼過ぎくらいでいいかな?あたしがマコトの家に寄るよ」

「分かった。じゃあ待ってるよ」

「うん、じゃあ明日」

そう言って、レイカは神社へ続く道へ入っていった。

神社までは長い森を通る道だ。

レイカの後ろ姿を眺めていたが、やがて見えなくなっていった。





家に帰ってから、今日のレイカの言動を何となく思い出した。



あ、マコトじゃん。

じゃあさ、あたし甘いの食べたいからちょっと付き合ってよ。

いやー、今初めて入った。

ふーん、あたしも行っていいかな?



何となく、最初から全部教えてくれるつもりで一緒に帰ったように思える。

俺が粟田と一番仲が良かったから教えてくれたのかもしれない。

情報がなかったところなので、ともかくありがたかった。



その夜は、昼の葬式を何度か思い出した、

悲しいという実感はあまりなかった。

ただ、粟田がこの世から消えたと思うと、涙が自然と出て頬を伝っていった。











3.粟田の一面
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妖怪ってさ、人間より長寿で丈夫なんだってさ。

まあ、架空の存在だしな。もしいたとしてもさ、人間より長寿なんだとしたらなんで今いないんだろ。

う、それを言われると・・・きっと何か理由があるんだよ。









レイカは昼過ぎにやってきた。

「こんちはー。マコトいる?」

玄関を叩く音とレイカの声がした。

「はーい」

玄関を開けると、レイカが立っていた。

「お、マコト、こんにちは。もう出かけれる?」

「あ、ああ・・・レイカか、うん、行けるよ」

玄関の前にいた人影を見て、一瞬、誰かわからなくてつい慌ててしまった。

「じゃあいこっか」




外は夏らしい晴天だった。

明るい日差しの中でレイカを見る。

白いワンピースにサンダル。

それに手提げ袋を一つ腕にかけている。

制服姿しか見たことがなかったから、普段のイメージとのギャップがあった。

俺はと言うと、制服の白ワイシャツと黒ズボンだ。

粟田の家への道すがら、何回かレイカを見てしまう。

正直言うと少し見とれてた。

「レイカ・・・なんか、学校と全然印象違うな」

「ん~、そう?」

レイカが少し笑いながら聞いてくる。

見とれてたのがバレたかと思うとちょっと恥ずかしくなった。

「いや、なんていうか、学校でしか見たことなかったからさ」

「そっかー。でも、そうだよね。あたしもあんまり休みの日に友達と出かけたりしないし。同級生の私服姿って案外知らないよね」

(そう言われると粟田の私服姿ってどうだったかなあ)

記憶の中の彼女の私服を思い出す。

幾つか思い出せるものがある。

休みの日も何度か会ったが、今のレイカほど違和感は感じなかった。

制服と私服にそんなに印象の違いがなかったのか、それとも、もう見慣れてしまって違和感を感じなかっただけなのか。






「へぇー、亜美の家ってこんな家だったんだ」

粟田の家を見るとレイカはちょっと驚いていた。

粟田の家は年季を感じる屋敷だった。

この辺りの家では大きい方だ。

自分は何度か来ているから珍しくは感じないが、最近じゃこういう本格的な日本家屋は少ないかもしれない。

「ごめんください」

玄関を叩くとややあってから声がして玄関が開いた。

粟田のお母さんが出てきた。

「あら、マコト君じゃない」

親子だから当然なのだが、大きな瞳や色白で小柄なところはよく似ている。

見た目も若いし、後ろ姿はそっくりだった。

だが、いつもと違ってやはり顔色はあまり良さそうではなかった。

服装もさっぱりした感じの白と黒で統一されている。

今日も葬儀関係で何かあるのかもしれない。

「どうもこんにちは。あの、亜美さんがこんなことになってしまって・・・少しだけお話できればと思ってきましたが、お忙しいですか?」

「ああ、そうなの・・・ありがとうね。今は大丈夫よ。そっちの子は?」

レイカのほうを見て訪ねる。

「あたしは亜美さんの同級生で博麗霊夏って言います。今日はマコトくんと一緒にお話を聞ければと思って来ました」

「あら、博麗さんのところの娘さん。同級生だったのね。うん、上がって頂戴」



俺とレイカは居間に通された。

家の中も日本家屋らしく座敷の部屋だった。

粟田のお母さんが出してくれたお茶を飲みながら話をする。

「亜美はねぇ、よくマコト君のことを話してたよ」

「えっ、そうなんですか」

自分の話がされていると聞くのはちょっと意外だった。

「うん、マコト君のことはね、ちょっと変わっててパソコンが好きなんだけど、色々話をしてくれて楽しいって」

「変わってるって・・・はは、そうですね、そういう話はしてたし・・・亜美さんはよく色んな本の話をしてました」

「うんうん、そうねぇ、あの子は本読むの好きだったから。うちには昔から里に伝わってる本がずっと取って置いてるから、よく倉庫から本持ってきて読んでたのよ」

「そうですね。よく昔の里の話とか妖怪の話をしてました」

「あの子はそういうの好きだったし、とはいっても、そういう文字ばっかりの本は小さい頃はあんまり読まなかったんだけどね」

「あ、そうなんですか?亜美さんとは中等部から一緒で、しばらくしてから遊ぶようになったから昔の話はそんなには知らなくて」

「そうね、小さかった頃はそんなに学校休まなかったし、外で遊ぶのも好きな子だったのよ」

「へぇー、それは初めて知りました」

意外な一面だった。

子供の頃から病弱だったのかと思ってた。

「うん、なんていうか、中等部に入ったくらいかしらね。うちの家系ってそのくらいの歳になると、体がだんだん弱ってくるらしいのよ」

「えっ、そうなんですか?」

「うん、うちの家系は代々短命の人が多くってね。まあ、それでも代々続いてるってことは何とかなってるんだけどね。はは」

大変そうな話だが、粟田のお母さんは笑いながら話す。

(代々短命・・・)

軽く話してはいるが、実はかなり大変なことに聞こえた。

確かに粟田も軽く話していた気がする。

だが、あまり詳しくは聞いていなかった。

「あの、代々短命っていうと、何か理由があるんですか?」

「うーん、実はよくわかってないのよ。粟田の性で別れる前の稗田家のときからずっとある問題らしくってね。何度も病院で検査はしているんだけどね、何もわかってはいないわ。古くからの言い伝えでは、転生する存在を生み出す代償っていう話だけど・・・」

古くからの言い伝えと転生。

この事件の噂、妖怪や超常現象といい、何か引っかかった。

「あ、でも、亜美さんのお母さんはお元気そうですよね」

レイカが話しかける。

確かに、色白ではあるものの、具合悪そうな様子は見たことがなかったし、今も葬儀で大変なはずだがしっかりしている。

「そうね、体の具合は今は少し落ち着いたかなあ。でも、子供の頃はあたしも体弱くてね」

「あ、そうなんですか」

「うん、でも学校卒業したくらいから少し落ち着いたかな。学校は休むこと多かったから高等部のときに一年留年しちゃったんだけどね。はは」

「そ、そうなんですか。それは・・・大変だったんですね」

留年するくらい休むってことは、かなりの日数を寝込んでいたはずだ。

「んー、まあねぇ、でもそんなに悪いことばっかりでもなかったのよ」

「え、というと?」

「うん、今の旦那がね、留年したときの同じクラスの人だったの」

「へえぇ、同級生だった人と結婚したんですか」

結婚なんてほとんど意識したことのない言葉だった。

「ふふ、うちの家系ってさ、さっきも言ったとおり代々短命なの。だから早いうちに結婚するのが習わしなの。だから、あたしもお母さんから、早めに良さそうな奴を捕まえておけって言われてたし」

「そうなんですねぇ。そうですよねぇ」

レイカは何やら神妙に頷いている。

粟田のお母さんが若いのも納得できた。

「ふふ、あたしもそうだったからさ、亜美にも言ってたのよね。それでね、マコト君のことをよく話してたからさ、何かそういうことは話してるかなって思ってたけどねぇ」

粟田のお母さんは微笑んでこっちを見る。

(粟田と結婚!?)

「い、いや、確かに亜美さんとはよく話してたけど、そういう話は全然・・・」

つい慌ててしまった。

「うん、そうよねぇ。あの子にもそれとなく聞いてたけど、あんまりそういう感じじゃなかったし・・・」

なんとなくわかってた様子で頷く。

「まあ、でも、マコト君が何回か家に来たり、あの子がマコト君の話をしたりしてさ、あの子にもこういう友達ができて良かったって思ってたの」

粟田のお母さんはお茶に視線を落とした。

手が少し震えていた。

「あたしね・・・マコト君なら亜美と一緒になっても、悪く、ないかななんて、勝手に・・・思っててね・・・それで、あの子も・・・きっと可愛い子を生んで・・・」

最後の方は声がかすれてた。

粟田のお母さんは目を抑えて肩を震わせていた。

俺もレイカも何も言えず、黙っていた。

俺と粟田が一緒にいるとよく同級生にからかわれた。

あの時の粟田のなんとも言えない表情は、こういう話と関係あったのかもしれない。

(もし、俺がもっと粟田にはっきりした好意を示してたら・・・)

もしかしたら何か変わっていたのかもしれない、と少し考えてしまう。

「・・・ごめんなさいね。ちょっと前から覚悟はできてたつもりだったけど、でも、あんな事件で亡くなっちゃうなんて・・・やっぱりショックでね」

粟田のお母さんの目は赤かった。

しっかりしているように見えて、寝不足や精神的なショックもたまっているのかもしれない。

「あの、ちょっと前から覚悟ができてたっていうと・・・」

レイカがためらいながら尋ねる。

「うん・・・実はね、夏休みに入ったくらいからかしらね、亜美は具合が悪くなって寝こみ出したの。いつものことかと思ってたけど、今回はいつもより具合悪そうにしててね」

「えっ」

夏休みに入ってからは粟田には会っていなかったから初めて知った。

「だから、もしかしたらって思ってたから、少しだけは覚悟してたの」

「そうだったんですか・・・」

具合が悪かったとはいっても、あんな事件になるとは思っていなかっただろう。



少し話した後、あまり長居するのも良くないので俺達は帰ることにした。

「あの、最後に亜美さんの部屋を見せてもらってもいいですか?亜美さんが過ごしてた部屋をちょっと見ておきたいなって思って」

粟田の部屋は何度か来たことはあるが一応見ておきたかった。

「ええ、いいわよ」

粟田のお母さんに案内されて俺達は粟田の部屋に通された。

粟田の部屋も和室だ。

部屋は10畳くらいだろうか。

ただし部屋の壁際はほとんど本棚で埋まっているから実際はもっと狭く感じる。

「すごい数の本ですね」

レイカが本棚を見ながらつぶやく。

「あの子、寝てるのは好きじゃなかったの。寝てるのはつまらないし退屈だっていうから、せめてと思って本だけは買ってきてあげてたの。それに、うちの書庫から古い本も持ってきて読んでたみたい」

本棚の本は最近の本屋で売られてるようなものもあれば、数年前に購入したような本もある。

その中に混じって、明らかに数十年から数百年前のものと思われる古い本もあった。

部屋の角には敷きっぱなしの布団がある。

布団は乱れており、今まさに起きだしていったという感じだ。

その枕元に古めかしい本が置いてある。

(粟田が最後に読んでいた本かも)

その本を手にとって開いて見た。

中身はいかにも昔の本で、引きずったような、黒い墨の文字で埋められていた。

パラパラとめくるとところどころに妖怪らしき絵が描き込まれており、昔の里と妖怪に関する本とわかる。

そうしてめくっているうちに、ふと気になるページがめくれた。

胸がざわついた。

それは、ついこの間、見た図形だった。

(現場の魔法陣・・・)

現場にあった魔法陣を思い出すと、この本に描かれているものと似ている気がする。

ということは、あの魔法陣を描いたのは、やはり粟田だろうか。

そして布団の状態は粟田が寝ていた状態から起きだしたことを示している。

(どうしてわざわざ夜に起きて出かけた?)

粟田が言っていた、休みになったらやろうと思ってること、と関係があるのだろうか。



「マコト、どうしたの?」

レイカが声をかけてきたので我に返った。

「あっ・・・いや、何でもない、ちょっと本を見ててさ」

それから少しして、そろそろ部屋を出ることにした。

ただ、この本だけは気になった。

「あの、この本をちょっとだけ貸してもらってもいいですか?亜美さんが最後に見てたものかもしれないので気になって。読み終わったらすぐ返しますので」

粟田のお母さんは本を少し眺めてから意外そうに言った。

「んー・・・あら、それ、稗田家のものみたいね」

「えっ、稗田家?」

「ええ、その本の感じからして、うちの書庫にあるものよりもっと古いものだわ。そういえば、あの子、妖怪に関する本を稗田の家からよく借りてきてたからね」

(妖怪に関する本は稗田家のものか)

「あの子、妖怪の本とか好きでよく読んでたわね。あたしは、妖怪のこととかはさっぱりだったけど・・・。うん、持って行ってもいいわ。ただ、うちのじゃないからあげることはできないの。だから読み終わったら返してね」

「あ、はい。もちろんです」

そうして俺達は粟田の部屋を後にした。



「今日は大変なところを、色んなお話ありがとうございました」

玄関で粟田のお母さんに見送られた。

「いえいえ、こちらこそ、話ができて良かったわ」

粟田のお母さんの顔色が来た時より少しよくなっていたような気がした。




外へ出ると、日が傾きかかっているものの、まだ明るかった。

「亜美って、なんか、大変な家系だったんだね」

粟田家から少し離れてからレイカが話しだした。

「そうだな、俺も初めて知ったことばっかりだったよ」

自分ではそれなりに粟田のことを知っているつもりだったが、実際のところは知らないことだらけだった。

「亜美ってさ、あたしたちとは世界の見え方が全然違ってたのかなあ」

「え」

「ふと思ったんだけどさ、自分が長くは生きられないってわかってたら、見るもの、感じ方も全然違うんじゃないかなって」

粟田の大きな、よく動く瞳を思い出した。

「確かに・・・」

「そして、長く生きられないってわかってるのにずっと寝てなきゃいけないとしたら、さぞかし辛かっただろうね」

寝ているのはつまらないと言っていた彼女。

「そうだろうな・・・」

「あたしはあんまり学校に行きたいとか思ったことはなかったけど、きっと亜美にとっては学校って特別な時間だったのかも」

「うん・・・きっとそうだったんだろうな」

具合が悪くて寝込んでいた時、そして、最後の数日間、粟田はどんな思いであの部屋で本を読んでいたんだろう。

(本・・・そうだ)

自分が手に持っている本のことを思い出した。

「ちょっとさ、寄って行っていいかな」

「ん?何かしたの?」

「ちょっと思いついたことがあってさ」

さっきの魔法陣の件は確認しておかなければならない。

「んー、まあ、いいけどさ。どこいくの?」

「すぐそこだよ」

俺は粟田家からそう遠くない場所にある、少し小高い場所を指さした。

その丘の上には高い木々が並び、その林の中はこの夏の日差しにもかかわらず暗かった。

「あっ・・・もしかしてあそこって」

レイカも気づいたようだった。

「うん、例の現場だよ」

二日前にも一人で訪れた場所だった。

「ちょっと確認したいことがあってさ」

「うん、いいよ。あたしも見ておきたかったし」

俺とレイカは林に続く小道に入っていった。









4.魔法陣
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林の中心へ小道が続いている。

道を進むと次第に日の光が届かなくなり薄暗くなってくる。

「なんか、ちょっとした森みたいだね」

周りを見ながらレイカが言う。

林の中は暗く、湿っぽい風が吹いている。

ちょっと前に十六夜さんの家に行った時の記憶がよみがえる。

ただ、今はあの時と違って、林の中から民家や往来が見えるので少し安心感はある。

進むに連れて少し足が重くなっていく気がした。

呼吸が苦しい気がする。

「ふーん、ここかぁ」

林はそう広くはないので、少し歩くとすぐに目的の場所に着いた。

林の中心部は少し開けた場所になっている。

そこの地面に円形の模様が描き込まれているのが見える。

それは土に棒か何かで描いたらしかった。

たくさんの人が歩きまわってせいだろう、踏み固められて、今はうっすらとしか見えない。

「ふぅーん、不思議な模様ね」

レイカは珍しそうに魔法陣の跡を眺めている。

俺は既に一度見ているから、これだけでは新しい情報はない。

そこで粟田の家から持ってきた本を開く。

例の魔法陣のページを開く。

「やっぱり」

思わず声が出た。

実際の魔法陣と比べて見ると、そっくりだった。

「何か分かったの?」

レイカが近寄ってきて本を見た。

レイカは本と地面の魔法陣を交互に見た。

「え?何これ。この模様ってこの本のものを写したの?」

「うん、多分そうだ」

「え、じゃあ、これって、ここに描いたのは・・・」

「粟田だろうな」

それから少し二人とも黙った。

レイカも俺と同じことを考えていたのかもしれない。

(なぜ?なんのために?)



そのとき、何か違和感を感じた。

誰かに見られてるような気がした。

何か物音がしたのかもしれない。

辺りを見渡す。

だが、そこには木々と茂みがあるだけだった。

風があるのだろうか、林が少しざわついている。

何も無いはずだが、何か気になる。

(何か、変な感じだ)

レイカは本を見ていた。

だが、俺の視線を感じたのか顔を上げる。

「どうかしたの?」

「いや、なんでもないんだけど・・・何か変な感じが・・・」

「あれ、あの人こっちに向かってる」

レイカは俺の後ろ、俺達が歩いてきた道を見ていた。

俺もそっちを見ると、黒いフードをかぶった人影がいた。

袖なしの黒いフードにカラフルなTシャツ、露出した腕にブレスレット。

俺はその人に見覚えがあった。

その人はこっちまで来て声をかけてきた。

「また会ったね。霧雨君」

「こんなところで会うと思ってませんでした。十六夜さん」

「誰?」

レイカが小声で俺に聞いてくる。

「ああ、この人は・・・」

十六夜さんを説明しようとして気がついた。

俺は十六夜さんが何者なのかを実はよく知らなかった。

「その・・・外れの森に住んでる十六夜さん」

あまり大した説明ができていない。

「外れの森?・・・あんなところに住んでる人いたんだ」

レイカにとっても意外だったようだ。

あの辺りはまだ開発が進んでおらず、ほとんど人が住んでいない。

「そう、あたしは外れの森で静かに暮らしてるの。たまにしか町中にでないから、あまり知られてないかも」

小声で話していたけど十六夜さんには聞こえていたようだった。

「近くのスーパーとかにはよく行くんだけどね。今日みたいにこっちまで来ることはほとんどないよ」

この辺りと十六夜さんの住んでる森は少し離れているから、普通に暮らしてる分にはあまりこっちには来ないのだろう。

「それにしても・・・あなた、どこかで見た気がする」

十六夜さんの青い瞳がじっとレイカを見つめていた。

「えっ、いえ、初めてだと思います」

「そう・・・名前聞いてもいいかしら?」

「あ、はい、博麗霊夏です」

レイカが答えると十六夜さんは一瞬、目を大きくした。

「ああ・・・なるほど。どうりで」

そして一人納得して頷いている。

「ねぇ、マコト、十六夜さんとはどういう知り合いなの?」

レイカが少し警戒するように十六夜さんを見ている。

「この間、外れの森に行ってさ、そこで会ったんだ」

「なんでそんなところ行ったの?」

「それは、話すと長くなるんだが、粟田の事件の関係でちょっと」

さすがに吸血鬼の噂を信じて行ったとは言いづらい。

「そう、あたしは霧雨君にあってこの事件のことを聞いたの。それで今は調べてるところ」

そういえば、知り合いが関わってるとか、そんなことも言ってた気がする。

「そうなんですか・・・何か分かりました?」

「まだなんとも言えないわね。とりあえず、色々たどってここまで来たけど、ここで何が起こったのかを調べないとね」

十六夜さんは地面の魔法陣に目を向けた。

「なんとも懐かしい感じのする魔法陣ね」

まるで昔から知っているかのようにつぶやく。

十六夜さんは魔法陣の中に入り、端から端までさっと見て回った。

魔法陣の円に添って歩き、ひと通り見て回ると俺とレイカのところに戻ってきた。

「うーん・・・」

十六夜さんはちょっと眉を寄せている。

「やっぱり、これ、ここにしか無いよね。他に魔法陣は無いよね」

十六夜さんは辺りを見回している。

「多分、これしかないですよ。この林の中って他に空き地はないし」

以前会った時も魔法陣の数を気にしていたのを思い出した。

「そう・・・」

十六夜さんは少し顔が険しくなった気がした。

何か嫌な予感がしてくる。

(一つだけだと何かまずいのか?)

しかし、その前にそもそも魔法陣の意味がわからない。

「あの、この魔方陣ってどういう意味があるんですか?」

正直に聞くと、十六夜さんは俺とレイカをじっと見た。

「この魔方陣の意味、知りたい?」

薄暗い森の中で青い瞳が光った気がした。

一瞬、十六夜さんが得体のしれない存在に見えて、後ずさりしそうになった。

「え、ええ・・・知りたいです」

それでもなんとか答えることができた。

十六夜さんは俺を見つめながら言った。

「じゃあさ、霧雨君は、妖怪っていると思う?」

その瞬間、粟田の顔を思い出した。



マコト君はさ、妖怪っていると思う?



粟田からも同じことを言われた記憶がある。

(妖怪?)

一体なぜ妖怪?

答えれないでいると十六夜さんが話しだす。

「迷信みたいな話だけどさ、魔法陣って扉なんだよ」

「扉?」

レイカが聞き返す。

「そう。本来は繋がっていないはずの世界とつなぐための扉」

本来は繋がっていない世界・・・妖怪の存在・・・。



妖怪って、ほんとにいたと私は思ってるんだ



頭の中で粟田の声がした。

不意に自分の手にある本を思い出した。

(粟田・・・やりたかったこと)

「仮にの話だけどさ、一方通行の入ってこれる扉だけあって、戻りの扉が無いとしたら、どうなると思う?」

十六夜さんは淡々と語るが、暗い森の中でフードをかぶっているため表情が見えづらく、なんとも不気味だった。

「扉を通ってきた者が戻れなくなる?」

レイカが答えた。

「そう。その通り」

十六夜さんが頷く。

「えっ、それって、つまり・・・」

何か嫌な予感はするが、はっきりとは答えが見えない。

(魔法陣、妖怪、扉、戻れない者)

俺が考えていると、先にレイカが口を開いた。

「亜美を殺したのは妖怪で、そいつはまだ里をうろついてるってことですか?」

レイカの言葉で胸がざわついた。

(粟田を殺した奴、妖怪)

風でざわざわと林が揺れる。

「さあねぇ、そこまでは言ってないよ。あくまで仮にの話よ」

十六夜さんは肩をすくめる。

「そもそも本当に妖怪がいるのかどうか、そしてそんなものを呼び出すことができるのか、さらに、亡くなった粟田って子はそんなことをしていたのか・・・。そう考えると、ずいぶんと突拍子もない考えと思わない?」

言われてみると、可能性は低いのかもしれない。

でも、十六夜さんはさっきまで扉とか妖怪とか言っていた。

とりあえず十六夜さんが何を知っているのかが気になった。

「十六夜さんはどう思ってるんですか?」

「もう少し調べて見ないとなんとも言えないね」

俺が聞くとあっさりと答えて、また魔法陣に目をやった。

「・・・もう少し探さないといけないか」

そうつぶやくと、十六夜さんは空き地を囲んでいる茂みに向かっていく。

何をするのかと思っていたら、十六夜さんは茂みを手で掻き分けて入っていった。

ガサガサと生い茂る枝をかき分け、パキパキと植物を踏みながら入っていく。

「えぇっ」

思わず声が出た。

大きく露出した腕、ショートパンツにストッキング。

とても茂みに入っていくような格好ではないのに全く躊躇がない。

俺は十六夜さんを追って茂みのそばまで寄る。

「十六夜さん何を探すんですか?」

「特に何って言うあては無いんだけど、何か手がかりは無いかなって思って」

手がかり、という言葉が何か自分のなかで引っかかった。

(粟田は何をしたかったんだろう)

自分も何か調べないといけない気がした。

「俺も探します」

自然と体が動いていた。

十六夜さんの後を追おうとした。

「え、ちょっと、マコトも行くの?」

レイカが声を上げて茂みの近くまで来る。

そこで、ちょうど粟田の本を持ったままだということに気がついた。

「そうだ、レイカ、これ持ってて」

本を持ったまま入れば汚れたり傷ついてしまうだろう。

レイカに本を渡すと再び十六夜さんの後を追った。

「もー、仕方ないなぁ、待ってるから早く戻ってきたよ」

さすがにワンピースにサンダルのレイカは茂みに入ってくるわけにはいかず、待っていることにしたようだ。



十六夜さんを後ろ姿を見ると、かなり先の方まで進んでいた。

急いで追いつこうとするも、茂みの枝に引っかかって半袖から出てる腕がこすれた。

なんとか怪我しないように進むのが、十六夜さんは大丈夫なのだろうか。

(十六夜さんもかなり軽装備なんだけどな)



しばらく進んだところで十六夜さんは止まっていた。

しゃがみこんで何かを見ていた。

「どうしたんです?」

何かを手に持っている。

「これ、枝に引っかかってたんだけど、何かなって思ってさ」

布の切れ端か何かのようだ。

淡い黄色の布だった。

(あれ、これはどこかで・・・)

どこかで見覚えがある気がする。

十六夜さんは布をポケットに突っ込むとまた進みだした。

自分もその後を追う。

しばらく進んでいて気がついた。

十六夜さんの進み方にはあまり迷いといったものがない。

即座に進む方向を決定してどんどん進んでいる。

まるで何か目印があるかのようだ。

「十六夜さん、何か当てがあって進んでるんですか?」

不思議に思って訪ねてみる。

「そうね、単なる勘と、ちょっとした目印をたどって進んでるよ」

こちらを振り返らず答えて進む。

勘にしてはずいぶんと早い。

(目印ってなんだ)

そうしてしばらく進んでからまた立ち止まった。

今度は地面を見ていた。

「今度は何ですか?」

十六夜さんは、それを拾い上げた。

「これ、何かわかる?」

十六夜さんはそれを見せた。

今度は淡い赤い布の切れ端だった。

「なんだろう・・・何か、服の切れ端とかかな」

さっきと同じく、何か気にかかるが、やはりそれ以上はわからない。

再び十六夜さんは進みだした。

今度はしばらくの間は止まらなかった。

ずいぶんと長く林の中を進んだ。

そして止まった時には、林の端まで来ていた。

林の外、丘の下には少し日が暮れ始めた里を見ることができた。

そこで十六夜さんは里を見たまま止まっていた。

「ふーん・・・」

しばらく里を見てからこちらを振り返った。

「もう見るものは無いかもね。戻ろっか」

「えっ、もう何かわかったんですか?」

「ええ、なんとなくはね」

いま来た道を引き返し始めた。

「何がわかったんです?」

十六夜さんに追い付きながら尋ねた。

今までのことでは、せいぜい布を拾ったくらいだ。

「うーん、そうねぇ、何かがいるね」

「何か?」

「私は闇雲に林を進んでたわけじゃなくってさ、跡をたどってたんだよ」

「跡?」

勘で林と進んでいたようにしか見えなかった。

「うん、ごくごく小さな跡、草の踏まれ方、枝の微妙な曲がり方、独特の匂い」

「え、そんなのありました?」

今言った、どれも全くわからなかった。

「まぁ、どれも小さなものばかりだったからね。気が付かなくても仕方ないよ」

そういうものなのか。

逆に、なぜ十六夜さんはわかるのだろう。

そして、跡があるということは。

「跡があるっていうことは・・・つまり」

「うん、そうだね。跡を付けた者がいるってことだね」

「それって・・・もしかして」

それが、この事件の犯人なのだろうか?

「いやぁ、まだわからないよ。跡は比較的新しかったけど、事件と関係あるかどうかわからないし」

「あ、そうなんですか」

てっきり犯人なのかと思った。

「うん、それに、犯人だったらさ、なんでちゃんとした道で里に帰らなかったのかな。わざわざ林を通るのかな」

確かにそうだ。

ガサガサと林を戻りながら話を続ける。

「でも気をつけないとね」

「気をつけるって?」

「あの跡、林の外に続いてたよ」

林の外、すなわち里。

「え、すると」

「うん、何かが里に入ったってことよ」

胸が重くなったような気がした。

何か得たいの知れない者が里に入った。

しかもそれは粟田の事件と関係があるかもしれない。





「お、戻ってきた」

事件現場まで戻ってくるとレイカが退屈そうにして待っていた。

「うわ、ひっどい格好」

「え?うわ、ほんとだ」

レイカに言われて気がついたが、茂みのせいで服がひどく汚れていた。

白の半袖シャツのあちこちに緑と茶色の跡ができていたし、靴は土で汚れていた。

「あー、やっぱりあたしは一緒に行かなくて良かったぁ」

レイカは自分の格好を見ながら言う。

でもそんなこと言ったら十六夜さんは自分よりひどいはずだ。

「あれ?」

十六夜さんは全く汚れていなかった。

服は擦れた跡もなさそうだし、露出した腕も全く汚れていない。

(なんで?)

「それで?そんな格好になってまで入っていって、何か分かった?」

レイカが尋ねてくる。

「あ、ああ。まあちょこっとは」

「お、何かわかったんだ。何々?」

しかし、はっきりと何かが言えるほどのものでもない。

あまり推測で怖がらせるようなことを言うのもどうかと思い、レイカに言うべきかどうか少し悩んだ。

「うーん、そんなにはっきり言えることはあまりないんだけど・・・」

俺が話そうとすると、十六夜さんが言った。

「ここで話すのもいいけど、帰りながらにしない?そろそろ暗くなるよ」

ふと気が付くと、日が落ちかかっており、林も闇が濃くなり始めていた。









5.遭遇
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「ふーん、何かが里にいるのね。不気味」

俺とレイカと十六夜さんは一緒に帰りながら、林の中で見つけたものを話した。

「うーん、でも、はっきりとは、なんとも言えないよ」

冷静に考えると、粟田の事件と関係があるのかどうかも分からない。

夕暮れの里は往来も少なく、商店もそろそろ閉まりだす頃だった。

3人は話しながら夕暮れの里を進む。



そのうち、外れの森へ続く道との分岐点になった。

「じゃあ、私はこっちだからここでお別れね」

森へ続く道へ十六夜さんは進む。

しかし、ちょっと進んでから振り返って、俺とレイカを見て言った。

「私の思い過ごしならいいんだけどさ。なるべく早く家に帰ってね」

「あ、はい。もちろんです」

もちろん今の状況で夜に歩く気にはなれない。

だが、今までと少し違って、少し強く言っているように聞こえた。

「それじゃあまたね。霧雨くんに霊夏ちゃん」

そう言って十六夜さんは外れの森へ続く道に行ってしまった。



十六夜さんを見届けて俺とレイカは歩き出した。

「なんか変わった人だね。咲夜さんって」

レイカはどんな相手でも名前で呼ぶようだ。

何かこだわりがあるのかもしれない。

「そんなに変わってるか?」

「うーん、うまく言えないけど、見た目は私達と年が近そうだけど、雰囲気が全然違うね」

俺もうすうす感じていたことをレイカも思っていたらしい。

十六夜さんはどこか雰囲気が独特だ。

そして林での探索。

あれだけ茂みを歩きまわったのに、十六夜さんは全く汚れていなかった。

最初は黒い服だから汚れが目立たいのかと思ったが、近くで見ても全く汚れていなかったし、露出した腕には何の跡もなかった。

(一体どういうことだろう。茂みとかを進むのに慣れてるとか?)

「咲夜さんは何か亜美の事件のことを知ってるような感じもしたね」

レイカも十六夜さんが何か知っていそうな雰囲気を感じていたようだ。

「うーん、確かにそうかもしれないけど」

「マコトはそう思わなかった?」

「事件については何か知ってるようだったんだけど、粟田のことは知らないみたいだったね」

「そうなんだ?」

「うん、粟田とは別の理由で事件を調べてるみたい」

昔の知り合いとか言ってたこととと言い、魔法陣について知っていたことと言い、何かを知っているのは間違いないだろう。

だけど粟田のことはあまり知らないようだった。

「それにしても・・・」

十六夜さんのことも謎だが、やっぱりそもそものこの事件のことが今ひとつわかっていない。

今日は粟田のお母さんと会ったり、事件現場を見たりして幾つか情報は手に入ったが、どう考えればいいんだろう。

「レイカはどう思う?」

自分だけの考えでは行き詰まってしまいそうで、レイカに聞いてみた。

「どう思うって?十六夜さんのこと?」

「それもあるけど、今回のことについて何でも」

「うーん、そうねぇ」

レイカは腕を組んで考え出した。

横を歩くレイカの顔を見た。

夕日を受けて少し赤みがかった髪と横顔。

少しふっくらした頬と唇が柔らかそうだった。

ワンピースから出た腕と足は綺麗な肌をしている。

気がつくと彼女に見とれていた。

学校では同じクラスだし、彼女を何度も見ているのだが、今みたいなことはなかったと思う。

私服姿を見たことがなかったから、今日は新鮮に感じたのだろうか。

(そういえば、粟田はどうだったっけ)

ふと粟田の私服姿を思い出そうとした。

記憶の中の彼女は、露出の多い服はあまり着ていなかったようだ。

あまり肌を晒すのが好きではなかったのかもしれない。

そのせいかもしれないが、彼女は色白で病的な印象はあった。

だが、性格は行動的で、服は明るい色のものを好んでいた。

赤や黄色、たまに紺色の服が多かった気がする。

(もし粟田が今のレイカと同じ服を来ていたらどう見えただろうなあ)

やっぱり見とれていただろうか。

ふと葬儀のときにみた粟田の顔を思い出した。

何の表情もなく、ただでさえ白い肌に化粧がされていて不自然だったが、それでも粟田は綺麗だった。




「そうねぇ、あたしは亜美のことをあまり知らなかったからかもしれないんだけど」

レイカが話しだしたので、意識がそっちに戻った。

「やっぱり、亜美が何をしたかったかを知らないといけないんじゃないかな」

「粟田がしたかったこと、か」

「うん、分からないことが色々あるかもしれないけど、結局は亜美がやりたかったことに全て原因があると思うの」

「うん、確かにそうかも」

確かに、事件現場に落ちてた物や、魔法陣も、ほとんど粟田が用意したものなはずだ。

「だからさ、事件現場とか証拠とかも大事だけど、亜美のことをもっと考えてあげることも必要なんじゃないかな」

「粟田のこと・・・」

「亜美のことをわかってる人って少ないと思うからさ、マコトが考えてあげないといけないかもよ」

レイカが俺をじっと見ていた。

(粟田のことを考えてあげる)

言われてみると、事件が起きてから現場や状況については調べたりしていたが、粟田についてあまり考えていなかったかもしれない。

「確かにレイカの言うとおりかもな。粟田が何を考えていたのか、何をしたかったのか、そこを調べるのが一番いいかもしれない。それが結局は色々と分からないことを説明してくれるのかも」

「うん、マコトならそれができるよ」



話しながら歩いているうちに、いつの間にか分かれ道に来ていた。

レイカの家、博麗神社と俺の家はここで道が別れる。

「じゃあ、今日はここまでお別れね」

「ああ、気をつけて帰れよ。と言っても、もうすぐそこか」

ここから神社までは森を抜ければすぐだ。

「うん。ねぇ、マコトは明日はどうする?どこか行って調べたりするの?」

「あ、そうだな。どうしよう」

明日以降のことは全く考えていなかった。

まだどこか調べることがあるだろうか。

と言っても、どこかを調べるというより粟田のやりたかったことを考えるのが先決だった。

だが、それでも情報が足りなければ、どこかに出かけるなり、また粟田のお母さんを訪ねるかもしれない。

「正直、どうするか決めてない」

「ふーん、そっか・・・どこかに調べにいくなら、あたしもついていこうかなって思ってたけど」

「あ、そうなのか、ああ、そういえば、気になるって言ってたか」

事件現場に自分のものがあったから、と昨日は言っていたような。

「んー、それもあるけど、あたしも何か手伝えることあるかなーって」

言葉は適当そうだったが、俺のことを心配してくれているのかもしれない。

意外とレイカは優しいところがあるんだな、と変なところで感心した。

(手伝えること、か)

手伝うも何も、これから何をすればいいかもはっきりとしていない。

「うーん」

結局どこか調べに行くとすれば、後は警察か再び粟田の家くらいしか思い浮かばない。

だが、どちらに行っても今以上の情報が手に入るとは思えない。

「そうだなあ、明日何するかは決めてないけど、どこか行くことにしたら電話するよ」

「お、そうね、それがいいかもね」

レイカも頷く。

「じゃあ、どこか行くことにしたら連絡してね」

「ああ。そうするよ」

そうして話しながらレイカは森に続く道に進む。

「じゃあ今日はおつかれさん。ありがとうねー」

レイカが笑顔で手を降って去っていった。

「ああ、こっちこそ」

俺も手を振って返した。

博麗神社へ続く道にレイカは進んでいく。

彼女の後ろ姿を見送ってから俺も家へ帰ることにした。






「さて、粟田のことか」

帰り道で粟田のことを考えた。

粟田とよく話すようになったのは中等部の最後の学年くらいからだろうか。

それまではクラスは同じでもそんなに親しくしていたわけではなかった。



その頃の俺はクラスで親しくしてる奴はあまりいなかった。

ちょうどパソコンを親に買ってもらったときで、そればっかりいじって遊んでいて、あまり友達と付き合いがなかったせいなのかもしれない。

少し話をするような奴がクラスに2,3人いたくらいだ。

別に友達が欲しいとは思ったことはないが、その頃から何となく学校が面白くなくなっていった。

義務的に学校に行くが、まじめに勉強するわけでもなく、早く家に帰ることばかり考えていた気がする。





たまたま休みの日に本屋に行った時だったと思う。

パソコンとかネットについて書いてある本がないか探してた時だった。

「あれ、粟田?」

「あ・・・霧雨君」

粟田が何冊も本を持っているところに出くわした。

そこで色々と話をして、粟田が体が弱くてよく学校を休むことや、本だけは親からいくら買ってもいいと言われてることを知った。

それとパソコンについて話すと、興味を持ったようで俺の家に見に来たいと言った。

それから学校でもよく話すようになった。

粟田はよく休む奴、という印象しかなかったがだいぶ変わった。

粟田は活動的な性格で、具合さえ悪くなければ外で走り回って遊んでることも多かったらしい。

好奇心旺盛で俺のパソコンのこともそうだけど、それ以外でも興味を持って動き回っていた。

よく二人して里の昔の遺跡を見に行ったりした。

紅い館の跡地とか妖怪の山の跡地とかを見に行ったのもついこの間だった。

紅い館に行った時は遠かったし、自転車漕いでたら粟田が具合悪くなってどうしようかと思った。

二人乗りで後ろに粟田乗せて帰ってきたけど、背中でずっと謝ってた。



「ごめんね、マコト君。あたしからが言い出したのに」

「いいよ。気にするなよ。また具合がいい時にいこう」

「うん、ごめんね」



そんな活動的な粟田の一面は、自分の寿命が残り少ないことを知っていたからなのかもしれない。

少しだけ粟田は自分の寿命が短いことも話してた。



詳しくは知らないけど、あたしの家は代々そういう家系らしいの。早く死んじゃう人が多いんだってさ。まいっちゃうよね。



粟田は笑いながら話してたけど、そんな話を聞いた時は寂しくなった。

せっかくよく話すようになった奴がいなくなると思うと辛かった。

そんな話は嘘だと信じたかったし、実際、半分は冗談だと思っていた。

だけど今日粟田のお母さんに会って分かったが、粟田は残り時間を意識してたのだろう。

粟田の家系については詳しくは知らないが、昔から里の歴史を扱っていたりするらしいということはどこかで聞いていた気がする。

だから妖怪に関する本も多く読んでいたみたいだし、よく妖怪の話をしていた。


・・・っていう妖怪がいてさ、なんでも何百年も生きてるんだって。



人間にとって恐怖の対象だったはずの妖怪だが、粟田はどこか憧れるように話していた気がする。



(粟田の家、妖怪の本・・・)



そこで気がついた。

「あれ・・・ない?」

粟田で借りた本を持っていなかった。

ポケットにも入っていない。

そうして記憶を辿って行くと、林の中でレイカに本を預けたことを思い出した。

(しまった、レイカに預けたままだ)

レイカから返してもらうのを忘れていた。

引き返して走れば、レイカに追いつけるかもしれない。

道を振り返ると、夕日が沈みかかって暗くなっていることに気がついた。

背中に何か嫌な感覚がした。

得体のしれない存在が里にいるらしいことを思い出した。

(なるべく早くに帰らないと)

自分の家はもうすぐそこだ。

とりあえず今日は帰っておくほうがいいかもしれない。

だが、なるべくなら早く粟田が読んでいた本を確認したくもあった。

(どうする)

来た道と家への道を交互に見る。

しばらく考えてから、結局、本を取りに引き返すことにした。

なるべく早いうちに本を読んでおきたかった。

そのほうが粟田のやりたかったことに近づけると思った。

それに急いでレイカを追いかければ、暗くなる前に帰ってこれると思った。





レイカと別れた場所まで戻ってきた。

さっきレイカが進んでいった方向、博麗神社に向かう道に進む。

道は森の中に入っていく。

数百年も昔から、里と神社との間にあった森らしい。

森の中に入ると周囲の高い木のせいで一気に暗くなった。

暗さに比例して不安も増してくる。

さっさとレイカに追い付きたい。

レイカと別れてそんなに経っていないから、すぐに追いつけるはずだと思った。

だが、思っていたよりも森の道は長く、暗かった。

森の中はもう夜と変わりなかった。

背後に得体のしれない者がついてくる気がして何度か振り返ってしまう。

何もいるはずはないのだが、どうしても不安になってしまう。

森の道は思ったよりも上がり下りがあり、曲がりくねった道だった。

ちゃんと整備されて作られた道ではなく、人が歩いて自然に出来上がった道のようだ。

走って進むと木々の隙間に神社の石段と白い人影が見えた。

(レイカに追いついた)

曲がり道を通って石段の前で追いついた。

「おーい、レイ・・・」

声をかけようとしたが、その場を見て、固まってしまった。

レイカは倒れていた。

倒れた、と言っても尻もちをついて、手を後ろについて上体を支えている状態だった。

そばには手提げと粟田の本が落ちている。

倒れているレイカを見下ろす人影があった。

レイカは引きつった顔で、そいつを見上げていた。

その人影は倒れたレイカを見ており、俺に背を向けている。

レイカが俺に気がついてこっちを見た。

「あ・・・マコト・・・」

俺はそれの後ろ姿を見て体が固まった。

肩くらいまでの白い髪、長袖の黄色いブラウス、赤いスカート。

その服はところどころ破れていた。

(林の中に残っていた布の色・・・)

心臓の鼓動が早まり、こめかみ辺りがズキンと痛んだ。

血液が駆け巡り、不安と恐怖でみぞおちが気持ち悪くなる。

レイカの視線に気がついたそれは、俺の方を振り返った。

それは女の顔立ちで、レイカくらいの年頃の女みたいだった。

だが、明らかに人ではなかった。

真っ白と言っていいくらい青白い顔に、血走って赤く光る目。

直感的に悟った。

(粟田を殺した犯人だ・・・)

状況的には、レイカが襲われるところだったのだろう。

そいつは俺を見ると、口の両端を釣り上げた。

笑ったのかもしれない。

その口から伸びた犬歯が見えた。

「ひっ」

胸が勝手に痙攣して息が漏れた。

(吸血鬼・・・本当にいたなんて)

恐怖で力が抜けて目の前が暗くなった気がした。

そいつは俺の方に近づいてきた。

「わっ、うわ」

後ずさりしようとしたが、足がうまく動かなくて後ろに倒れた。

俺もレイカと同じような体勢になってしまった。

そいつは倒れた俺に変わらぬ歩調で近づいてくる。

「わぁっ」

後ろに下がろうとしたが手足がうまく動かない。

バタバタと手足を動かしてもほとんど移動できず、そいつからの距離は離れなかった。

そいつはついにそばまでやって来て、俺を上から覗きこんできた。

「はぁっはぁっ・・・ひぃ・・・」

恐怖で呼吸が早くなる。

そいつは屈んで顔を俺の方に近づけてきた

近づいてきたので顔と体がよく見えた。

傷ついているようで、ところどころ皮膚にヒビのようなものが入っていたり、赤黒い染みができている。

だが、それがかえって不気味だった。

そいつが近づくとひんやりとした空気が伝わってきて、ますます人間でないことがはっきりした。

この状況が信じられず、何かの間違いじゃないかと思って意識が遠ざかる。

レイカはその場から動けず、青ざめてこっちを見ているだけだった。

その吸血鬼は唐突に俺に抱きついてきた。

「わっ・・・うわあああああああああっっっ!!!」

恐怖で暴れるが、そいつの力は尋常ではなく、全く振りほどけなかった。

ひんやりとして冷たい体だった。



「・・・ニゲテ・・・」

冷たい息でそいつが何か囁いた。

「え」

ささやかれた言葉の意味を考えようとしたとき、ブツッと音が聞こえた。

首に鋭い痛み。

噛み付かれていた。

首の肉を食い破って歯が進んでくる感触がする。

首。噛み付き。

粟田の首筋の噛み傷を思い出した。

「わああああああっっ!!」

恐怖で叫んでいた。

「きゃああああああっっ!」

レイカも悲鳴を上げる。

パニック状態で力の限り暴れた。

だが、俺がどれだけ暴れても冷たい体は万力のように俺を押さえつけて離してくれなかった。

不意にギュンっという音が体を伝って聞こえてきた。

「・・・っ!」

血が吸い上げられるような感覚がして、顔から血が引いていくのを感じる。

あっという間に抵抗する力が失われて、そいつにしがみつくことしかできなくなった。

体の血が強制的に吸い上げられていく。

血と同時に体温も奪われていくようで体が冷たくなっていく気がした。

手足が冷たくなっていく感覚と同時に、違和感を感じた。

(あれ・・・どうしたんだろ)

冷たくなっていく体が心地よく感じ始める。

「あ・・・・あ・・・」

血を吸われているのが気持ちいい。

体がだるくなって、色々なことがどうでもよく感じてくる。

再び血を吸われる感覚がした気がするが、もうそんなに痛くなかった。

自分の体なのに、どこか遠くのことのように感じる。

(やばいこれ、気持ちいいけど、絶対やばい・・・)



突然、吸血鬼から開放されて体を地面に投げ出された。

そいつは俺を離して後ろに飛んだ。

吸血鬼の肩に銀の刃が刺さっていた。

「霧雨君!」

声がして、黒いフードと銀髪が見えた。

十六夜さんだった。

十六夜さんの手が素早く動いて一瞬光った。

次の瞬間に銀色の軌跡が吸血鬼に突き刺さっていた。

そいつは甲高い悲鳴を上げた。

十六夜さんは悲鳴を無視してさらに腕を振る。

一瞬で吸血鬼に突き刺ささる銀線が増した。

そいつは再び悲鳴を上げると、十六夜さんを睨んだ。

十六夜さんはそいつの赤い視線にも全く動じなかった。

「好きで来たんじゃないのかもしれないけど、ここは人を襲っていい世界じゃない」

そう言って再びナイフを手に持った。

吸血鬼はそれを見ると道の脇の茂みに飛び込んだ。

そいつは茂みの中をガサガサと掻き分けて、あっという間に森の中へ入っていった。

「逃げるか!」

十六夜さんはそいつの後を追うようにして森に入ろうとしたが、俺を見て戻ってきた。





「大丈夫!?」

「十六夜さん・・・どうしてここに」

立ち上がろうとしたところで、膝から力が抜けた。

そのまま崩れ落ちて地面に這いつくばった。

体に力が入らない。

「霧雨君!」

体のだるさが増して視界がぼんやりしてきた。

世界が揺れだして、夕暮れ時の暗い森がぐるぐると回り出す。

吸血鬼がいなくなってから、急に気分が悪くなった気がする。

吐き気とめまいがしてきた。

ボタリボタリと地面に液体が滴っている。

それは自分の首から垂れているようだった。

首を触ってみると、ヌルヌルした感触があって手が真っ赤に染まった。

それが自分の傷口から出たものだと思うとますます気分が悪くなった。

「はぁっはぁっはぁっはぁっ」

苦しくて呼吸が浅く早くなる。

「マコト!しっかりして!」

レイカもそばまで来てくれた。

呼吸をするのに精一杯で返事ができなかった。

苦しい。

呼吸をしても、体内に酸素が取り込まれる感じがしない。

十六夜さんが黒いフードを脱いで俺の首を抑えてくれた。

「しっかりして!これくらいなら助かるから!」

(これくらいって言われても、すごい気持ち悪いんですけど)

胸中でつぶやくが声を出すことはできない。

体が冷たくなっていくのを感じる。

目の前がぱちぱちとして視界が白くなってきた。

(やばい、これほんとやばい、死ぬ、俺死ぬ)

「ちぃっ・・・霊夏ちゃん!神社に行って血止めに使える布か何か持ってきて!あと毛布も。それから応急セットとか、役に立ちそうな物なら何でもいいから!」

「はい!」

レイカが少しふらつきながらも石段を駆け上がっていくのが見えた。





「はぁっはぁっはぁっ」

体を支えることができなくなって仰向けに倒れた。

「しっかりしなさい!霧雨君!」

気持ち悪い。

苦しい。

(ああ、俺、死んじゃうのかな・・・)

暗闇の中で、少しづつ意識が遠ざかっていく。

死ぬ、と意識したとき、粟田のことが頭に浮かんだ。

(あいつも、死ぬときはこんな感じだったのかな)

目の前が暗くなって目を開けているのか閉じているのかわからなくなる。



「霧雨君、助かりたいなら・・・」

十六夜さんの声も遠くに聞こえてきた。

冷たくてだるい感覚が体を包んでいく。

(ああ、もうやばい・・・粟田・・・もう少しで、お前のことわかってあげれたのかもしれなかったのに)



「妖怪や吸血鬼の存在を信じて。その強い生命力を意識して」

十六夜さんの言葉を聞いて粟田の言葉を思い出す。



マコト君はさ、妖怪っていると思う?

妖怪って、ほんとにいたと私は思ってるんだ。

妖怪ってさ、人間より長寿で丈夫なんだってさ。



(妖怪?ああ、今見たよ。もう信じるしかないよ)

粟田、お前は正しかったよ。



「そして、生きたいと強く思って」

言われるまでもなく、生きていたい。

死にたくない。

でも、こんな状態になって粟田の気持ちが少しわかったかもしれない。

あいつはずっと死を身近に感じて生きていたのかもしれない。

生きようとして懸命にもがいていたのかもしれない。



「霧雨の血が流れるあなたなら、私の血も受け入れることができる」

首の傷口に温かい感触を感じた。

冷たい体の中でそこだけ温かいものに触れられている。

(なんだろうこれ、気持ちいい)

やがて温かいもの少しづつが体を巡りだす。

少しづつ首から胴体を通り手足に広がっていく。

冷たかった体が少しづつ温められていく。



唐突に思い出した。

黄色の服に赤のスカート。

いつか見た粟田の私服姿だった。

(ああ、そうだった、いつか一緒に遺跡に行った時にその服着てたよな)

普段は人の服を褒めることなんてないが、珍しく可愛いと褒めたのを覚えている。

服というよりは粟田が可愛いという意味だったのだが、粟田も喜んでくれてたようだった。





意識が闇溶けこんで、それ以上は考えることができなかった。














6.博麗家と吸血鬼
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目が覚めると見知らぬ部屋で布団に寝かされていた。

和風な天井と障子が見える。

どうやら和室のようだ。

(ここはどこだ?)

何が起こったのか覚えていない。

ずっしりと頭が重く感じる。

頭痛がする上に全身がだるくてとても起きれそうにない。

首を左右に傾けてみる。

すぐ近くのテーブルにレイカと十六夜さんがいた。

それに知らない女の人がいる。

(ああ、そうだ、さっきはレイカを追いかけて石段の下で・・・)

それから、どうなったんだっけ?

少し意識がはっきりしてきた。

それと同時に体のだるさもかなりのものだとわかった。

布団に寝かされているようだが、体が熱く感じるのは布団のせいではないだろう。

(どうなってるんだ?)

「レイカ・・・」

声をかけると三人がこっちを見た。

「起きた!」

レイカがそばまでよってくる。

「大丈夫?」

「あ、ああ・・・大丈夫なのかな?」

声は出せるようだ。

「頭が重くて頭痛がする。それに、なんか、やたら体がだるいんだ」

「そりゃ、あれだけ血を流したら・・・でも良かったよ、ほんと死んじゃうんじゃないかって思ったから」

「本当にびっくりしたわ。いきなり血だらけで運ばれてくるから」

知らない女の人が言った。

格好は巫女らしい紅白の服装をしている。

顔立ちがレイカに似ている。

レイカのお母さんかもしれない。

「そんなに血が出てたのか・・・ここは?」

「ここはあたしの家よ」

(レイカの家か)

じゃあこの知らない女の人は、レイカのお母さんなんだろう。

「そっか・・・なぁ、一体何が起こったんだ?確か、レイカを追いかけて、石段の下までいって・・・」

「そこで霧雨君は吸血鬼に襲われたのよ」

十六夜さんも布団のそばまで来た。

「吸血鬼・・・」

ぼんやりとした頭で思い出す。

確かに何か、異様なものに組み付かれたような気がする。

「血を吸われたのを覚えてる?」

「血を吸われた・・・」

そこで思い出した。

首に噛み付かれたはずだった。

血が首から溢れだしていたのを覚えている。

首を確かめようとして腕を動かすと腕と肩が痛んだ。

(なんだこの痛みは?)

体中が痛い。

とりあえず痛みを我慢して首を触ると布が巻かれていた。

包帯のようだ。

「傷口はまだ塞がりきってないから触らないで」

傷口、噛み付かれたときのものだろうか。

「傷口って、そんなにひどいの?」

自分では分からないが血だらけだったとか、血を吸われたとか聞くと不安になる。

「うん、すごく血が流れててマコトの顔色が青くて・・・ほんとに死ぬんじゃないかって思ったよ」

レイカが心配そうにこっちを見ながら言う。

「頸動脈まで達してたからね。それに、吸血の場合は傷口が塞がりにくくされるから余計に血が止まりづらくなるの」

十六夜さんがあっさりという。

頸動脈、血が止まらない、などと聞くとなかなかに深刻そうだなと、どこか他人ごとのように聞こえる。

「そっかぁ。よく助かったなあ」

「十六夜さんが助けてくれたのよ」

レイカのお母さんが言う。

「ああ、そうだった・・・十六夜さんがあいつを追い払ってくれた」

ナイフを使って撃退してくれた光景を思い出した。

「それだけじゃないわ。霧雨君に咲夜さんの血を分けたのよ。そうじゃなかったら、今頃、死んでるか、吸血鬼になってるかのどっちかだったわ」

「えっ」

十六夜さんを見ると、手首に包帯が巻かれていることに気がついた。

そこから血が流れていたらしく赤く染まっている。

「まぁ、うまくいくかどうかはわからなかったけど、とりあえずあの場ではあれしかなかったからね」

「そっか、輸血をしてくれたんですね」

うっすらと十六夜さんが触れてくれた箇所が暖かかったのを思い出した。

「そういう意味もあったしけど、あたしの血を使って霧雨君の中に入ったあいつの血を打ち消したの」

「打ち消した?」

「吸血の後に血が注入されたの。それが完全に回ると霧雨君も吸血鬼になるか、死ぬかのいずれかよ」

「そういえば・・・血を吸われていた時、なんか不思議な感じだったような」

「それは吸血の恍惚感ね。今は霧雨君の中であいつの血とあたしの血が戦っているところよ。体がだるいのはそのせいね」

言われると、改めて感じるが体が重く、痛い。

(それにしても、十六夜さんて何者?)

吸血鬼について色々と知っているようだし、それになぜあの場に現れたんだろう。

俺は不思議そうな目で十六夜さんを見つめていたのだろう。

十六夜さんは察したようだ。

「まぁ、色々と説明しないといけないことは多そうね。ただ、今はしんどそうだから、もう少ししてから話そうか。明日の朝には起き上がれるようになるでしょう」

十六夜さんは立ち上がった。

「あいつがまた来るかもしれないから、この家に入ってこれないように細工してくる」

そう言って、部屋を出て行った。

「霧雨君、今日はもう遅いし、とても帰れるような具合じゃないでしょうから今晩は泊まって行きなさい」

レイカのお母さんが話す。

「私が霧雨君の家には電話しておくから。そうだ、お腹空いてるでしょ?後で何か持ってくるから」

そう言って、レイカのお母さんも出て行った。



レイカと二人だけになった。

「あ、レイカ・・・助けてくれてありがとうな」

とりあえずお礼をしておく。

だが、レイカは首を振った。

「ううん、助けてもらったのはあたしだよ。マコトが来なかったら、あたし絶対やられてたよ」

そう言われて思い出した。

確かに、俺がレイカに追いついたときはちょうど襲われそうなところだった。

「そっか・・・じゃあ、一応助けたことになるか」

助けたというよりは、身代わりという感じだが。

「うん・・・でもさ、マコトはなんで追いかけてきたの?」

そういえば、なぜ追いかけたんだっけ。

確か、何かを返してもらいに。

「ああ・・・そうだった。あれだよ。粟田の本を預けたままにしてたのを忘れててさ。あれを返してもらおうと」

そう考えると、あの本が原因でこんな目にあったのかもしれない。

「本・・・そのためにわざわざ追いかけてきたの?」

「ああ、何となくだけど、今日のうちに読んだ方がいいって思ったからさ」

「そっかぁ・・・どうしよう、今持ってこようか?」

今持ってきてもらっても体がたいそうだるいので、読めるかどうかは微妙だった。

だけど一応持ってきてもらったほうがいいかもしれない。

「うーん・・・うん、お願いする」

「分かった、持ってくるね」

レイカは部屋を出て行った。



(まさかこんなことになるとは)

本当に起こったことなのか現実感がない。

だけど、こうして重体で横になっているのだから実際に起こったことなのだろう。

(本当に、妖怪っているんだな・・・)

信じがたいが、確かに存在するらしい。

そうなると、粟田の読んでいた本も信ぴょう性を帯びてくる。

(やっぱりあの本は読んでおかないといけないみたいだな)



少しして、レイカが戻ってきた。

「マコト・・・あの本、どこかに置いてきたみたい」

「置いてきた?」

「うん、多分、襲われたところ、石段の下だと思う。マコトを急いでここに運んできた時に持ってくるのを忘れたんだと思う」

そう言われて思い出した。

レイカが襲われたとき、手提げと一緒に本が落ちていたのを見た記憶がある。

「そっか・・・じゃあ仕方ないな」

早く本の内容を確認したい気持ちもある。

だが実際のところ具合が悪く、本を読むのもしんどそうだから諦めがついた。

「明日取りに行くね。今日はちょっと・・・」

「ああ、いいよ。明日明るくなったら俺も一緒に行くよ・・・具合が良くなってたら」

さすがにあんなのに襲われた後で、夜に取りに行く気はしないだろう。

今はただ横になっていることしかできないようだ。

そう思うと、体のだるさに意識が向いてしまう。

体中が重く、首や頭、体のふしぶしで鈍痛がする。

(しんどいな・・・)

仰向けにして手足を伸ばし、目をつぶった。

これが一番楽な状態だった。

そのままじっとしていると、重い頭に膜がかかってくるように眠気がやってきた。

体が布団に沈み込んでいくような感覚とともに意識が途切れがちになっていく。



・・・



「マコト・・・」

レイカの声が少しだけ聞こえた気がした。

「妖怪って、本当に・・・いるんだね」

何か答えようとしたが、意識が闇の中に沈んでいった。











学校の教室にいた。

誰もいない教室。

机と椅子だけが並び、ガランとしている。

夕暮れ時だろうか。

開いている窓から赤い日差しが差し込んでいる。

気が付くと目の前に粟田がいた。

制服姿のいつもの粟田だった。

彼女は微笑んで手を差し出す。

俺もその手を握り返す。

彼女は片方の手で窓の外を指した。

彼女の言いたいことは不思議と伝わった。

外に飛び出そうと誘っていた。

彼女となら空を飛べるということを知っていた。

彼女は俺の手を引いて窓際へ駆け寄る。

俺もそれに合わせて走りだす。

窓から飛び出した。

俺と粟田は手をつないだまま飛んでいた。

空高く上がり、下には校庭が見える。

横を見ると粟田の服が変わっていた。

黄色いブラウスに赤いスカート。

違和感を感じて彼女の顔を見る。

彼女は微笑んだままこっちを見ていた。

彼女の顔にヒビが入り、髪が白く染まっていく。

服がボロボロになり汚れていく。

彼女の目が赤く染まり、犬歯が伸びていく。

慌てて手を振り解こうとしたが彼女は離してくれなかった。

彼女は俺を抱き寄せると口を開けた。

抵抗をするが彼女は全く気にせず、その牙を首筋に近づけてくる。

冷たい吐息が首筋に近づいて来るのを感じる。

















「うわあああああああああああっっっ!!!」

自分の声で目が覚めた。

「はぁっはぁっ」

荒い呼吸をしながら上体を起こすと、そこはレイカの家の和室だった。

電気の消えて薄暗い部屋に窓の外から明るい日差しが差し込んでいる。

朝のようだった。

いつの間にか寝ていたらしい。

部屋の外からドタドタと足音が近づいてくる。

部屋の扉が開いて足音の主が入ってくる。

「マコト君!大丈夫!?」

足音はレイカのお母さんだった。

自分の声を聞いてやってきたのだろう。

「あ・・・はい。大丈夫です」

「何かあったの?」

「いえ、ちょっと夢を見てうなされたみたいです」

それを聞くとレイカのお母さんはふーっと息をついた。

「それなら良かった。何かあったらどうしようって・・・」

心配させてしまったようだ。

「あ、ごめんなさい。大丈夫です」

「まあ、昨日あんなことがあったからね。あっ、もう少ししたら朝ごはんできるよ。起きれる?」

体の感覚を確認すると、昨日のようなだるさは消えていた。

頭痛もなくなっている。

「なんか、治ってるかも。起きれそうです」

「そう、よかったぁー。じゃあもう少ししたら呼ぶからね」

そう行って彼女は部屋を出て行った。

一人になったところで、改めて体調を確認する。

起きて立ち上がってみる。

何の違和感も感じなかった。

首を触ってみると包帯が巻かれている。

血が乾いてカサカサしていた。

噛まれたところを触っても痛みはない。

寝る前はあれだけひどかったのに、今は完全に回復しているようだった。

もしかして昨日は何もなかったのではないかとさえ思えてしまう。

(いや、そう思いたいだけなのかも)

自分の記憶、レイカの家で寝ていること、そしてついさっき見た悪夢が、昨日のことは真実だと告げている。





何となく起きだして、知らない家を音を頼りに台所に行く。

朝ごはんは台所近くのテーブルに用意されていた。

目玉焼きと焼き魚が4人分用意されている。

(これが博麗家の朝ごはんか)

それを見て、だいぶ腹が減っていることに気がついた。

考えてみれば昨日は昼から何も食べていない。

食欲が湧いてきて目の前のご飯がうまそうに見えてきた。

食欲があるということは回復している証拠だろう。

レイカのお母さんが用意をして、準備ができるとレイカを呼びに行ってきた。

少しするとレイカがやってきた。

ジャージ姿で眠そうな顔だった。

俺を見ると驚いていた。

「あーっ・・・マコト、大丈夫なの?」

「ああ、なんか治ったみたいだ」

「本当?ほんとにほんと?」

驚いて眠そうな顔で目を大きくする。

「ああ、大丈夫だって」

「うへぇー、あんなに血を流してたのに」

そんなことを言いながら席に座る。

驚くということは、昨日それだけひどい状態だったのだろう。

「それだけあたしの血が強かったってことよ」

そう言いながら十六夜さんが入ってくる。

十六夜さんも泊まったようで昨日と同じ服装のままだ。

「あ、十六夜さん、昨日はありがとうございます。おかげで」

「あぁ、いいのよ。いえ、むしろごめんなさいね。本当ならもっとちゃんと助けれるはずだったんだから」

「えっ・・・」

お礼を言おうとしたが逆に謝られてしまった。

(もっとちゃんと助けれるはずだった?)

「はい。マコト君、ご飯」

「あ、ありがとうございます」

十六夜さんに聞きたいことがあったが、レイカのお母さんにご飯をよそってもらって受け取っているうちに聞きづらくなった。

レイカと十六夜さんにもご飯と味噌汁が渡される。

「はい。じゃあ食べましょうか。召し上がれ」

「はーい。いただきます」

レイカが早速食べ始める。

俺もいただきますを言ってから食べ始める。

「いただきます」

十六夜さんも食べ始めた。

しばらくはみんな黙々とご飯を食べていた。

俺は色々聞きたいことがあるのだが、どう聞いていいのやら何となく言いづらかった。

それでご飯を食べていたのだが、レイカのお母さんが作った朝飯はうまかった。

腹が減っていたのもあって、黙ってご飯を食べ続けた。

「あら、やっぱりお腹空いてたのね。マコト君は昨日すぐ寝ちゃって食べてないもんね。ふふ、おかわりもあるからね」

「あ、はい・・・」

レイカのお母さんに言われて、ガツガツと食べているのを見られたと思うと何となく恥ずかしくなった。

人の家での食事って、たくさん食べたほうがいいのか、食べないほうがいいのかよくわからないし、何かと自分の家とは勝手が違うからやりづらい。

「咲夜さんもちゃんと食べてくれてますね。作ったかいがあったわ」

十六夜さんは普通に食べている。

「ええ、そりゃあね、あたしだってご飯は食べますよ」

「ふふ、咲夜さんにご飯を出すなんて、代々の博麗家でもなかなかないことかもね」

「そうかしら・・・たまにここには来るけど、前に来たのはいつだったかな。霊春にはあんまり会いに来なかったかもね。ごめんなさいね」

「いえいえ、お気になさらず」

どうやらレイカのお母さんと十六夜さんは知り合いらしかった。

レイカのお母さんは霊春と言うらしい。

なるほど、だから霊夏なのか。

じゃあレイカに子供ができたら霊秋なのか、などと思った。

「ママ、昨日から気になってたんだけどさ。咲夜さんとはどういう関係なの?」

レイカが尋ねる。

レイカは昨日初めて会ったので、十六夜さんのことは知らない。

「そうねぇ、レイカには話してたわよね。外れの森にいる番人のお話」

「番人?里を見守ってる人が出てくる昔話?」

「そうそう。そのお話。博麗家に昔から伝わってる話よ。そうねえ、あたしも滅多に咲夜さんに会うことはないんだけどね。この前会ったのはいつだったかしら。20年くらい前かしら」

「そのくらいだったかしらね。あなたがまだ霊夏ちゃんを生む前だったと思うから」

そう言って十六夜さんは隣の席のレイカを見る。

「えっ?」
「えっ?」

俺とレイカが声を同時に上げる。

(十六夜さんが20年前にレイカのお母さんと会ってた?)

目の前の十六夜さんはどう見ても二十歳前後に見える。

「そのくらいですか。だいぶ経ちましたね。あたしはだいぶ年取っちゃったけど、咲夜さんは20年前と変わらない姿ね。少し羨ましいわ」

「んー、そうかしら?あたしだってそれなりに苦労はあるし、見た目には結構気を使って色々ごまかしてるつもりよ」

(20年前にこの姿?十六夜さんの年って・・・?)

レイカも同じ疑問を抱いたようだ。

「あの、咲夜さんてお幾つですか?」

「こら、霊夏、もうちょっと遠回しに聞きなさい」

レイカが十六夜さんに尋ねるとレイカのお母さんにたしなめられた。

そういうたしなめ方もどうかと思うが。

「いえいえ、別にいいのよ。今更隠したってしょうがないし。えーっと、でも正確にはもうよく覚えてないのよね。多分、500は過ぎてると思うけど」

レイカの目があからさまに疑いの眼差しになる。

「えーっ、咲夜さーん、本当のところを・・・」

そう言いながら、レイカは何かに気づいて一点を凝視する。

俺もレイカの視線の先を見る。

それは十六夜さんの口元だった。

ご飯を食べて味噌汁をすする口。

やけに青白い肌と唇。

僅かに開いた口から見える歯。

伸びた犬歯。

それを認識した時、俺の体は硬直した。

胸が叩かれるような鼓動を感じる。

ガタッと音を立ててレイカは立ち上がり、レイカのお母さんのところへ後ずさる。

レイカの顔は緊張で固まっている。

「こーらっ、霊夏。失礼でしょ」

レイカのお母さんのたしなめ方がシュールだった。

「だ、だってだって・・・」

レイカの手が震えて母親を掴んでいた。

俺は緊張で動けなくなっていた。

十六夜さんは俺とレイカを見て笑った。

「まぁ、それが普通の反応だよね」

わざと歯を見せるようにして笑ったのだろう。

釣り上がった唇から、長く伸びた犬歯がはっきりと見えた。

十六夜さんの青かったはずの瞳が紅く輝いている。

「でもね、あなた達のご先祖様は妖怪と仲良く遊んでたんだぞ」

そう言って、何事もなかったように、また朝食を食べだした。

「ほらっ、霊夏も席に戻って。ご飯食べなさい」

そう言ってレイカのお母さんもご飯を食べる。

俺とレイカだけ状況が飲み込めず、お互いに見つめ合った。









7.幻想郷
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「わぁ・・・本当に冷たい!夏は良さそうね。でも、冬はどうかしら?」

「うーん、冬は・・・寒さはあんまり感じないんだけどね。人間だった頃の名残でなんとなく暖房つけてるよ」

レイカが十六夜さんの腕や首に触っている。

あの後、ともかく朝食を食べ終わり、食器を片付けるとお茶を飲みながら色々と話をすることになった。

霊春さんから、十六夜さんは決して人を襲わないと聞かされて、俺とレイカはようやく落ち着いた。

考えてみれば、昨日は俺のことを助けてくれたし、一緒にいた時も襲うような素振りは全くなかった。

危険がないと分かると、レイカは持ち前のマイペースと好奇心を発揮して十六夜さんに遠慮なく触ったり質問しだした。

「全く、困った子ね」

霊春さんは、レイカが十六夜さんに慣れてるので何となくホッとしているようだ。

「咲夜さんて普段は何してるの?普通にお仕事してるの?」

レイカが咲夜さんに触りながら尋ねる。

「うーん、そうね、普通の仕事はしてないわね。暇つぶしやら研究やらしてるけど、でも今回みたいな事件があったらちゃんと働いてるわよ。誰からも給料は出ないけど」

「今回みたいな事件って?」

「里に外部からの侵入者が入ってきた時ね。それを元の場所に戻したり、場合によっては始末してるわ」

始末という単語を聞いて昨日のことを思い出した。

吸血鬼に一瞬で大量のナイフを打ち込んだ腕前。

実戦で何度もやっていることなのだろう。

「じゃあ、昨日助けてくれたのは、あいつのことを知ってて追ってきてたの?それとも偶然?」

昨日、襲われてから割りとすぐに駆けつけてくれたのを思い出した。

「あいつを見たのはあの時が初めてよ。気配を追っていったらあそこに着いたの。昨日の事件現場で霧雨君たちと会った時から変な気配は少し感じてたんだよ。私達についてきてるみたいだった」

昨日の林、事件現場で感じた気配。

どこか、林の景色に違和感を感じた。

あのときは十六夜さんが現れたから、十六夜さんのせいかと思っていたが、そうではなかったらしい。

「林から出るときもつけてきてたみたいだったけど、私達が別れてから気配を感じなくなってね。もしかして、霊夏ちゃんか霧雨君を追ってるのかもしれないと思って追いかけたの」

(林からつけられていたのか)

そして俺たちが分かれていってからレイカを追いかけて行ったということか。

「そうだったんですか・・・それと、侵入者っていうと、あの吸血鬼はやっぱり外から来た奴?」

俺が尋ねると十六夜さんは頷いた。

「多分ね。事件現場にあった魔法陣は外部から呼び出すためのものだった。あれで召喚されたんでしょうね」

外部、召喚とあっさり言うがなんとなくピンと来なかった。

「外部の世界って、その、どういう世界なんですか?」

「そっか、霧雨君は生まれも育ちも里だもんね」

十六夜さんは一人頷く。

「博麗家は代々結界を扱ってるから、霊夏ちゃんは外のことは知ってるよね?」

レイカはいつの間にか十六夜さんにべったりとくっついていたが、十六夜さんはさして気にしていないようだ。

「んー、ママから少し聞いてる。でもあんまり詳しいことは教えてもらってない」

「霊夏にはもう少ししてから話すつもりだったわ。学校を卒業して少ししたら正式に巫女になりますからね」

「そうなの。少し早いかもしれないけど、今話しても別に問題はないかしら?」

「ええ、この機会に知っておいたほうがいいでしょう」

霊春さんの了解を取ると、十六夜さんは話し始めた。



もともと里は幻想郷と呼ばれていて、人間の世界から隔離された世界だったこと。

そしてその世界には妖怪が存在し人間と共存していたこと。

それが数百年ほど前から妖怪の力が弱まりだし、300年ほど前に妖怪だけの別世界を作りそちらに移住したこと。



「どうして妖怪は別の世界にいったの?」

レイカが十六夜さんにもたれかかったまま尋ねる。

十六夜さんはすっと天井を指さす。

「照明」

さらに台所の様々なものを指していく。

「冷蔵庫、電子レンジ、ガスコンロ、洗剤、窓ガラス、栓抜き、紙パック」

「?」

俺もレイカもどういうことかわからずに十六夜さんを見つめる。

「外の世界からやってきた人間の力だけで作った物。妖怪や精神的存在を科学的な解釈で塗り替えていった物。そうしたものが徐々に妖怪の存在を否定し、彼らが存在できる領域を狭めていったの」

少し理解が追いつかず戸惑ってしまう。

「人間の力で作ったものが妖怪の存在を否定したんですか?」

「例えば、氷を作ったり辺りを冷たくできる妖怪がいるとするじゃない」

「うん」

「その妖怪にお願いすればものを凍らせたり、冷たくできるとするよ。そして昔は氷や冷気は妖怪や自然が扱うものだってみんな思ってたのよ」

「うん」

「でも、そこに冷蔵庫っていうものが現れるとする。そうなると、人間はいちいち妖怪にお願いするより、そっちばっかり使うようになる」

「うーん、うん」

「そうやってだんだん冷蔵庫が増えてくると、人間の常識も変わってくる。昔は氷と冷気は妖怪が扱うものだったものが、次第に冷蔵庫で扱うものってみんな思うようになるのさ」

「なるほど・・・」

自分も、氷は冬にできるものか冷凍庫で作るもの、という認識しかない。

「そして次第に人間は、自分たちの科学で解釈できるものがあると、それだけが正しいと認識を塗り替えていった。氷と冷気は冷蔵庫で扱うものであってその原理はこれこれこうだ。あの妖怪が氷を使っているのは嘘かごまかしているんだ、ってね」

「ふーん・・・」

何か悲しい話な気がしてきた。

「そうなると、氷を扱う妖怪は次第に人間から相手にされなくなってくる。原理は違っていたとしても、人間の力で実現できるものだし、科学的解釈が正しいと思っているからその妖怪を相手にしなくなるんだ」

「それが妖怪を科学的解釈で塗り替えるっていうことですか」

「そう。そして、塗り替えられてしまった存在は人間から信じてもらえなくなり、相手にされなくなり、弱っていく。そして存在そのものが消えてしまうの」

「それが妖怪の否定ですか」

確かに同じ事象でも、根拠の分からないものと、科学的解釈ができるものと2つあれば、根拠のわかっている方を信じるだろう。

「そういうことね。今のは氷とか冷気のたとえだけど、火とか光とか音とか、妖怪が司っているとされたものにどんどん解釈が与えられていったの。そして、力の弱いものから少しづつ存在が失われていったわ」

「なるほど・・・でも、うまく解釈が与えれない妖怪や現象だってあるんじゃないですか?」

「もちろんそうよ。強力な妖怪の力はそう簡単に人工の力で再現できるものじゃないわ。だけど、部分的には再現されていったの」

「部分的に?」

「例えば、怪力無双の妖怪がいたとして、単純な力比べじゃとても人間では敵わない。でも、様々な道具を使えば同じだけの馬力を再現できるようになっていったの。千里先を見る目を人間は持っていないけれど、望遠鏡や電信が発達すれば同じことが実現できる。妖怪の扱う力や能力が人間でも扱えるようになっていったの。たとえ限定的だとしても」

確かにそうかもしれない。

今は、使う場合に応じて様々な道具がある。

「そうして追い詰められていった妖怪たちは別の世界を作る決心をしたの。それが300年くらい前の話。そして妖怪たちがそこに移って以来、ここは幻想郷ではなく、里とだけ呼ばれるようになったの。妖怪は滅多に出現することはなくなり、新しい世界と里とのつながりも失われたままよ」




なんとも複雑な心境だった。

昔話では恐ろしい力を持つ者として描かれる妖怪が、人間に認識されることで存在できる、ある意味で脆い存在だったとは。

そして昨日の輸血してもらったときの咲夜さんの語りかけた言葉を思い出す。



妖怪や吸血鬼の存在を信じて。その強い生命力を意識して。



吸血鬼の力を信じることで咲夜さんの血が力を発揮することができたのだろう。

それなしではただの輸血に過ぎなかったのかもしれない。

「んーっと、じゃあさ、咲夜さんはなんでここにいれるの?」

レイカが尋ねる。

確かにそうだった。

今の里が妖怪が存在できない世界ならば、吸血鬼たる十六夜さんはなぜ存在できているのか。

「うーん、あたしの場合は純正の吸血鬼じゃなくて元人間だからかもね」

なんとも微妙な顔をする十六夜さん。

「まあ、実はよくわかってないわ。暇な時に調べてはいるんだけどね。私の存在もいつ失われても不思議ではないわ」

(失われる・・・)

今、目の前で十六夜さんが話しているけれど、なんとも不思議だった。

明らかに超自然的な存在が目の前にいるのも不思議だし、それが自分が消えるときのことを語っているのも何か矛盾している。

そして、失われると聞いて昨日の吸血鬼の様子を思い出した。

「そういえば、昨日出会ったあの吸血鬼、弱ってたかも」

ひび割れた皮膚に汚れた肌。ボロボロの服。

(粟田の服・・・)

「そう。あなた達は昨日のあれを見たわよね。里に来た妖怪は次第に存在を維持できなくなっていく」

「じゃあ、ほっとけばあいつは消えるの?」

レイカが尋ねる。

「ええ、そのうちね。ただね、どんな生き物だって死には抵抗するわ。妖怪だってそうよ。生き延びるためならなんだってする」

「それって、つまり・・・?」

消えていくことに対する抵抗とは?

「うーん、妖怪によるんだけどね。自分の生きれる場所を求めて彷徨うものもいれば、生命を維持するエネルギーを求めるものもいる。昨日の霧雨君から血を吸ったみたいにね」

昨日の血を吸われたときのことを思い出す。

首筋に近づく冷たい吐息。

血を吸い上げられるときの脱力感。

思わず手で首を抑えてしまう。

「じゃあ、あいつは人の血を求めて今もさまよっている?」

「多分ね。だから、いずれ消えていくとわかっていても人が襲われないようにしないといけない。それがあたしの仕事よ。それに、あたしとしてはそういった存在は貴重だからね。調べたいのよ」

「調べる?」

「そう。本家の妖怪がどうやってこっちの世界に来たのか、新しい幻想郷はどんな世界になっているのか、どうやったらそっちに行けるのか。そういうことを調べたりもするの」

どうやったらそっちに行けるのか、というところが引っかかった。

「咲夜さんは向こうの新しい世界に行きたいの?」

レイカが十六夜さんくっついたまま尋ねる。

レイカも俺と同じことを考えたらしい。

「んー、そうねぇ、ずっと向こうで暮らしたいかって言われると微妙なんだけどね。向こうには長い付き合いの知り合いが沢山行ったのよ。もうずいぶんと昔の話だけどね。でもきっと生きてるはずだし、やっぱり会いたいって思うときがあるよ」

「そっかぁ、咲夜さんの大切な人がいるのね」

「人じゃないけどね」

そう言って笑う十六夜さん。

咲夜さんがこの事件に関わってくる理由がなんとなくわかった。

きっと手がかりが欲しいんだろう。

300年前に妖怪たちが別世界に移ったということは、それからずっと会っていない人(妖怪)がいるんだろう。

向こうへの扉を長い間探し続けているのかもしれない。

自分が粟田のことを追いかけているのに少し似ているのかもしれない。






8.収斂
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「まあ、そういうわけでね。あたしはあの吸血鬼を探しに行くよ」

そう言って、お茶をすする。

「あ、マコトはどうするの?何かする?」

レイカに急に話をふられた。

「え・・・っと」

どうするか全く考えていなかった。

というか昨日襲われて以来、何か考えるような時間はなかった。

そもそも昨日は何をしようと考えていたっけ。

「マコトはさぁ、粟田の事件を調べてたんだよね」

「あっ・・・ああ、そうだよ」

レイカから言われてそもそもの動機を思い出した。

粟田の事件の真相を知るためにやってたんだ。

「じゃあさぁ、もう原因はわかっちゃったじゃん」

「え」

「昨日、マコトを襲ったあいつが犯人だよ。きっとそうだよね」

「あ、うん。そうだな。きっと」

状況的に言って、それが妥当だろう。

「それに、今の咲夜さんの話でわかったけどさ。本当に妖怪はいるんだね。そして、粟田はそれを呼びだしちゃったってことでしょ」

「確かにそうだな」

「そしたらさ、後は危ないことはしないで、あいつの存在が消えるか、咲夜さんに捕まえてもらうまではおとなしくしてるほうがいいんじゃない?」

確かに調査に出かけて昨日みたいな目に会うのは嫌だ。

「うん・・・そうだな、でもおとなしくしてるっていっても、向こうが襲ってくるってことはあるんじゃないかな?」

「ああ、マコト君は昨日寝てたからね。知らないと思うけど・・・」

霊春さんが説明してくれた。

「昨日の夜のうちに神社とその周辺に結界を張っておいたの。咲夜さんと協力してね」

「結界?」

「そう。妖怪、というか吸血鬼が特に嫌がるようなおまじない。だからここにいれば安全よ」

そういえば、昨日、十六夜さんがそんなことを言ってたような気がする。

そういうことであれば、しばらくここにいたほうがいいのかも。

「うーん、なるほど。それって、どのくらい待っていればいいんですか?」

「それはなんとも言えないわね。ただ、昨日のあの様子からして2,3日持つかどうかだと思う」

それならそう無理な話でもない。

それに次にどう動くかも決めていなかった。

今は無意味に危険なことをするよりは、十六夜さんに頼んで、おとなしくしている方がよさそうに思えた。






結局、神社で待っていることを選んだ。

十六夜さんはお茶を飲み終わると早速出かけていった。

出かける間際に注意をしていった。

どうしても外を出歩かなくてはいけなくなったら、暗い場所は避けることと、日没までに必ず帰ってくること、と。




とりあえず、家には電話をして昨日急に泊まることになったこと、ちょっとわけあって少し泊まるかもしれないことを話した。

親父からは、泊まるのは構わないけど連絡くらいはちゃんとしろと注意された。

放任主義に見えて割りと気にしていたようだった。

昨日の粟田のお母さんのことを少し思い出した。

(やっぱり子供のことは気になるものなんだな)

連絡なく帰ってこないのは、子が思っている以上に親は心配なのかもしれない。



「さて、なにしようかな・・・」

縁側に座って、博麗家の庭を眺めながらつぶやいた。

特にやることがないので、こうして庭を眺めている。

博麗家の庭は敷石や砂利、飛び石などが設置された和風の庭だった。

その奥には山の傾斜に添って林や茂みが見える。

博麗神社が高いところにあるため眺めもいい。

侘び寂びとか、庭の難しいことはわからないが、いい景色だと思った。

ちょっとした名所と言っていいかもしれない。

のんびりと庭を眺め、そのうち少し庭に降りて見て回ったりしていた。




「マコトー」

しばらく庭を見ているとレイカがやってきた。

さっきと変わらずジャージ姿だ。

学校指定のものではなく、市販のものでゆったりしたサイズのものだった。

陽光の元でジャージ姿のレイカを見ると、昨日のワンピース姿とのギャップが激しい。

髪も櫛を通していないのようで、少しぼさぼさだった。

だらしない、といえばそうなのだが、いつも見てるのとはまた違った一面なので何となく得した気分になった。

「昨日の本、取ってきたよ」

粟田家から借りてきた本を持っていた。

「えっ、今、石段を降りて取ってきたの?」

「うん」

明るいとはいえ、昨日の襲われた現場に戻るというのは少し抵抗があるものと思っていた。

「ん、まあ、私も手提げとか落としてたから気になって早く取りに行きたかったし」

そういえば、確かに襲われて色々落としていた気がする。

「そっか、ありがとうな。じゃあ、早速読んでみるよ」

「うん、なにかわかったら教えてね」

そう言ってレイカは家の中に入っていった。



「さて・・・と」

他にやることがないので早速本を読むことにする。

縁側に腰掛けて本を読み出す。

最初のほうからページをめくるものの、昔の本だから文字が読みづらい。

漢字が多い上に、手書きで縦につながるように書かれているから、何が書かれているなんとなくしか分からず、推測しなければいけない。

所々で妖怪らしき絵が描かれているので、文字を追うのは諦めて絵だけ見ることにした。

絵は色が使われており妖怪がカラーで描かれている。

オドロオドロしい絵ではなく、普通のスケッチように描かれている。

細かいところまでしっかり描かれているのが気になった。

(まるで目の前に立っているのを描き写したみたいだ)

もしかしたら本当に妖怪を見ながら描き写したのかもしれない。

あるいは、日常的に妖怪を見れる環境で、思い出しながら描いたのかもしれない。

大半の絵で、妖怪は化け物じみた姿はしておらず人間に近い姿をしている。

しかも普通に服や帽子を着おり、人間っぽい姿で描かれている。

(昔は一体どんな世界だったんだ?)

そうしてめくっていると何かが本から落ちた。

「なんだこれ」

ひらりと縁側に落ちたのは札のようなものだった。

手にとって見ると、ちょうどトランプか何かのカードに似ている。

御札には文字や模様が刻まれている。

ずいぶんと古いものらしく、紙が変色したりしている。

だが、うっすらと輝いているように見える。

不意に喫茶店でのレイカとの会話を思い出した。

(事件現場にあったカードだ)

事件現場のカードは警察に回収されているから、似てはいるが別のものだろう。

レイカの話を聞いてもよく分からなかったが、実際に見ても一体何に使うのかわからない。

(でも、これに似たものを確かどこかで・・・)

ずっと子供の頃、暗くて不思議なものに囲まれた場所で見た気がした。

「・・・倉庫だ」

家の倉庫で子供の頃に見たことがあった。

霧雨家の倉庫には何に使うか分からないものがたくさん取ってある。

いつの時代のものか分からないものが無秩序に収められている。

子供の頃はそこに入り込んで遊んだりしていたが、危ないものもあるという理由で親が鍵をかけた。

そのため、最近になるまでずっと倉庫には入っておらず、すっかり忘れていた。

確かに昔そこで見たカードもこんな感じだった。

一体なぜ、粟田が同じようなものを持っているのか。

だいぶ古いようだが、もしかしたら昔はこんなカードが何かの理由で何枚か作られたのかもしれない。

「しかし・・・何に使うんだ?」

少しの間眺めていたが、結局何に使うものなのかはわからない。



とりあえず、そのカードは取っておいて本に目を戻す。

開いたページに気になる絵があった。

ちょうどカードが挟まれていたページだ。

赤い瞳。

長く伸びた牙。

口から滴る血。

青白い肌。

ついさっきまでいた十六夜さんにそっくりな特徴。

吸血鬼のページらしい。

ここだけはしっかりと文字を追って読んだ。

おおよその特徴、強力な腕力と妖力、驚異的な生命力、そして数少ない弱点がいくつか書かれている。

気に入った人間がいれば同族にし、気に入らなければ血を吸い尽くす。

妖怪の中でも危険な存在らしく、一時は幻想郷でもかなりの勢力だったようだ。

「しかし・・・なんでまた、そんな危ない存在を呼び出したんだか」

粟田が呼び出したのは間違いない。

だが、なぜ呼び出したのかは分かっていない。

「そうだな・・・まだこの事件は終わってないんだよな」






「おーい、マコト」

しばらくの間、本を読んだり、庭を眺めているとレイカがやってきた。

相変わらずジャージのままだったが、今度はちゃんと髪も整えていつものリボンもしていた。

「もう昼だよ。そろそろご飯できるからもう少ししたら台所来て」

「あ、もうそんな時間か、分かった。すぐ行くよ」

縁側の日陰だったので気が付かなかったが、日が高く上がり、外はいかにも暑そうな日差しになっていた。



台所に行くと霊春さんとレイカがテーブルに昼食を運んでいるところだった。

「あ、マコト君、ちょうど今できたの」

テーブルに置かれたボウルには白いそうめんが載っていた。

「今日は暑いからね。冷やしそうめんにしたの」

「あ、はい。ありがとうございます」

外の暑そうな日差しを見た後だったので、食べやすそうなものでありがたかった。

席に着き、3人揃ってから食べ始めた。

「いただきます」

霊春さんとレイカが手を合わせていただきますをした。

自分もそれに合わせる。

(この一家はちゃんと手を合わせて頂きますをするんだな)

朝食のときもそうだったのを思い出した。

家が神社だし、礼儀正しい生活をしているのかもしれない。

学校のレイカとは別の一面が見れて面白い。

そうめんは上にきゅうりを刻んだものを載せただけのシンプルなものだったが、うまかった。

普通、人の家に行くと味付けが違ったりしてなかなか馴染めないものなのだが、朝食のときといい、博麗家のものは癖が少なくて食べやすかった。

「マコトー、何か分かった?」

食べながらレイカが聞いてくる。

「うーん、そうだな、吸血鬼は強い妖怪だったってことと、あと、カードが出てきた」

俺は持ってきていた本からカードを取り出して見せる。

「これって、確かレイカが警察で見たって言ってたカードと似てるものだと思うけど」

カードを見るとレイカが驚いた。

「あっ、それっ、そう。警察で見たのと同じだ」

レイカが手にとってじっと見る。

「警察で見たのとは少し色とか文字とか違うけど、やっぱり似てるよ」

「あら、それはスペルカードじゃないかしら」

霊春さんがそうめんを食べながら話す。

「スペルカード?」

「ええ。うちにも昔のものが何枚かあったと思うけど」

「えっ、うちにもあるの?これなんなの?」

レイカは知らなかったらしい。

「うちの蔵にもあるけど、ただ、今はもう使わないものだからね。ご先祖様が昔使ってたものが残ってるだけよ」

「あっ、蔵かー。確かに子供の頃に見たと思ってた」

レイカの家にも昔のものがあるらしかった。

つまり、その昔の里にはたくさんあったということだろうか。

「これって、一体何に使われてたんですか?」

「うーん、あたしも実際は見たこと無いんだけどね。なんでも決闘に使われてたみたいよ」

そうめんを食べながら霊春さんが答える。

「決闘に?カードを使って?」

「ええ、なんでも当時の人間や妖怪はそのカードから弾幕っていうものを出せたらしいのよ。今はもうそんなことできる人なんていないんでしょうけど。弾幕をお互いに当てたり避けたりしながら勝負をしたらしいわ」

「え・・・このカードから?弾幕?」

俺もレイカもジロジロとカードを見ている。

「まあ、伝え聞く話だからね・・・なんでも、問題が起こった時に普通に戦うと死んだり傷ついたりして大変だから、それを避けるためにそんな変わった決闘ルールができたっていう話よ」

決闘、と言われてもピンと来ない。

(一体どういうときに決闘するもんなんだ)

「あっ、これが事件現場にあったってことは・・・」

レイカが何か思いついたらしい。

「亜美はもしかして・・・」

「もしかして?」

「妖怪と決闘するつもりだったんじゃ?」

「えっ?」

(決闘?粟田が?妖怪と?)

「いや、だって、妖怪を呼び出す魔法陣と決闘用のカードがあるってことは、一番素直に考えたらそういうことじゃない?」

「うーん・・・」

わざわざ危険な存在を召喚してやることが決闘だとは思いづらい。

とは言え、事件現場にカードが落ちていることをうまく説明することも難しい。

「うーん、決闘って言っても、亜美ちゃんは弾幕なんて出せなかったでしょうからね。ありそうなのは護身用かしら」

「護身用?」

霊春さんも何か思いついたらしい。

「うん、召喚した妖怪に襲われたとしても、一応これで決闘っていう形にすれば命までは取られることはない、っていうことだったんじゃないかしら」

「・・・なるほど」

確かに、そのルールが通じる相手なら命は確保できるのかもしれない。

だけど、そんなルールが通用しなかったら?

そのルールがあるのはあくまでも昔の里の話。別の世界にあるとは限らないし、無視されたら結局は危険なことに変わりはない。

とはいっても、これ以上はあまり合理的な説明をつけることは難しそうだった。

そのカードの話とは別で、レイカと霊春さんを見て気がついたことがあった。

「そういえば、事件現場って言えば、レイカのリボンが落ちてたんだよね」

今もレイカと霊春さんが頭につけているリボン。

それを見ていて、現場にあったという話を思い出した。

「あー、そういえば、確かにあたしのリボンがあったね」

リボンが落ちていた理由もわかっていなかったはずだ。

「ああ、それね・・・。霊夏のリボンがあったのは、多分、外の世界との扉を開くために使われたのよ」

「え」
「え」

俺とレイカが同時に声を上げる。

霊春さんが話し始めた。

「霊夏にはちゃんと巫女を継いでもらってから教えようと思ってたんだけどね。まあ、仕方ないか」

そう言いつつもそうめんを食べる霊春さん。

レイカも俺もそうめんを食べながら聞く。

「うちは代々、この里と外の世界との境界を管理するのが仕事なの。だから博麗家は特殊な血筋でね。境界や結界を操作できる力を生まれつき持った家なのよ」

「うーん、薄々はそんな感じの話しとかは聞いてたけど、あたしにもそんな力あるの?」

「あるわよ。今回の事件が何よりの証拠よ。ただ魔法陣を描いただけじゃ、そんな簡単に外の世界から何かを召喚するなんてできない。魔法陣に力を与えて起動させるためにはエネルギーがいるのよ」

「エネルギーって何よ」

「霊夏とあたしが毎日つけてるこのリボンに溜まってるのよ」

「え?これに?」

レイカは自分の頭についているリボンを触りだした。

「そう。それ。まあ、リボンじゃなくてもいいんだけどね。博麗の血筋のものが常に身につけてるものには少しづつ力が溜まっていくの。だから毎日必ずつけなさいって言われてるの」

「ええっ、これにそんなものが・・・」

「子供の頃からずっと付けさせてるのはそういうわけよ」

「そうだったんだ・・・。うちの家の変わった風習かなってずっと思ってた」

レイカは理由も知らずに、子供の頃からつけていたらしい。

でも、霊春さんもずっとつけてるし、親と一緒ということで違和感がなかったのかも。

「だから霊夏のリボンが盗まれたって聞いた時は、境界と博麗家の力を知ってるものがやったんじゃないかとは思ってた」

「そうか・・・。じゃあ粟田は結構前から今回のことを考えていて、それで事前にレイカのリボンを盗んでおいたのかな」

あんまり粟田が人のものを盗むとは思いたくなかったが、状況的には間違いなさそうだ。

「そういうことでしょうね。亜美ちゃんは粟田家よね。稗田の家によく出入りしてただろうから、昔の資料から境界とか博麗家のこととかも知ってたんでしょうね」

確かに、粟田は稗田家から本を借りたりしていたんだった。

(あの粟田が、人のものを盗んででもやりたかったこと)

「そういうことだから、霊夏、そのリボンは無くさないように注意するのよ」

「はーい。気をつけます」

(粟田、吸血鬼、稗田、境界、魔法陣・・・)

そうめんを食べながら、なんとく今の話に出てきたキーワードを考えていた。







昼飯を食べた後は再び縁側にやってきた。

レイカと霊春さんは二人で居間に行き、博麗家の役割について話をしているようだ。

本当はレイカが学校を卒業して、次期博麗の巫女になったときに話すはずだったらしいが、今回の事件があって先に軽く話すことにしたらしい。

「それにしても・・・」

さっきから何か気になったことがあるはずなのだが、思い出せずにいる。

何かさっきの昼食の話に関係あることな気がする。

縁側に寝そべって庭を眺めながら考える。

頭の中で色々な思考がグルグル回り出した。



リボン

吸血鬼

粟田家



吸血

稗田

転生



(あと少しで何か思い出せそうな気がする)

昼食を食べたせいだろうか。

眠くなってきた気がする。











気が付くと暗くなっていた。

庭を夕暮れ時の赤い光が照らしている。

家の中も電気をつけていないらしく暗かった。

庭の茂みに何かがいた。

紅く暗い目がじっとこちらを見ていた。

(あいつだ!)

慌てて家の中に逃げ込もうとしたが、体が動かない。

そいつは茂みから出てくるとこっちに近づいて来る。

ボロボロ服。

傷だらけの体。

(吸血鬼が嫌がるおまじないが・・・)

こいつは家の中に入れないはずだった。

だが何も起こらずに、そいつは庭を進み俺に近づいて来た。

縁側で動けなくなっている俺に抱きつく。

冷たい吐息が耳元に触れる。

「・・・マコト・・・クン・・・」










目が覚めると縁側だった。

辺りはまだ明るく、日は高い。

庭の茂みを見ても誰もいない。

「夢か・・・」

少し寝てしまっていたようだ。

心臓が荒く脈打っている。

あんな夢を見るなんて、よっぽど昨日の出来事がショックで印象に残ったのかもしれない。

「今朝も見たじゃん・・・」

今朝見た夢でもあいつに襲われる夢だった。

「しかし、なんだってこんな立て続けに」

立て続けに襲われる夢。

吸血鬼、そして粟田に。

「ん・・・」

何かが引っかかった。

粟田と吸血鬼。

何か思いつきそうだ。

頭の中で色々な連想が連なっていく。

粟田、吸血鬼、召喚、吸血、命、転生。

ごちゃごちゃに混ざったキーワードをつなげて理屈付けをしていく。

吸血鬼と出会った時の表情、囁き。

色々な古くからの言い伝えも本当のことだと仮定する。

一つの考えが浮かんだ。

「まさか・・・でも、もしかしたら・・・」

(可能性はゼロじゃないかも)

さらに思考が進み、その次を考え始める。

(仮に仮定が正しいとして、俺は何をすればいい?)

そう、重要なのは考えが合っているかいないかではない。

俺はどう行動するべきか、だ。



と、そこで声をかけられた。

「ずっとここで寝てたの?」

後ろを見ると、レイカがいた。

どうやら、居間での霊春さんとの話は終わったらしい。

つまり、博麗の巫女としてのお話はひと通り聞いたということか。

レイカ、博麗の巫女。

境界、リボン。

俺が次に取るべき行動が見えた。

「レイカ、ちょっと頼みがあるんだけど」

それはレイカの協力なしではできないことだった。

「えっ、何?」










9.送還
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マコト君はさ、妖怪っていると思う?



粟田の言葉が頭の中に浮かんだ。

これを言った時の粟田はどんな気持ちだったんだろう。

今はもう想像するしかないが、本当にいるかどうかという意味ではなくて、「いて欲しい」という願いだったのかもしれない。

まだ夕暮れ前だが、林の中は暗い。

例の魔法陣は林の暗さと、踏み固められているせいで、ほとんど見えなくなっていた。

俺は持ってきた粟田の本を開いた。

魔法陣のページを開ける。

ただし、今度は粟田の描いた「召喚の魔法陣」ではなく、その隣のページにある「送還の魔法陣」だ。

林は暗いがまだ本を見ることはできた。

落ちていた木の枝を拾い、古い魔法陣の上に新しい魔法陣を描き直していく。

粟田と外に出ていた時に、発作か何かで具合が悪くなった時の彼女の姿を思い出した。

咳き込み、顔が青くなっていたのを覚えている。

粟田がここで魔法陣を描いていた時はどんな気持ちだったんだろう。

深夜に一人で、立つのもやっとな状態で描いていたはずだ。

自分の命を長らえる手段を求めて必死に魔法陣を描いていたのだろうか。

「いや、そんな単純なものじゃないのかもな」

いずれにせよ、当人でない自分に全て理解できるはずがない。

今はただ、自分ができることをやるしかなかった。





林の外に見える里が夕暮れで紅く染まっていった。

林の中は闇が支配し始めている。

もう十分に暗い。

ドキドキと心臓が跳ねている。

(もし、推測が間違っていたら?)

だが、間違っていたとしてもやるしかなかった。

何度か考えたが、間違っていたとしても試しておかなければ後悔すると思った。



風が林に吹き、木と茂みがガサガサと音を立てる。

そして、ガサリと、茂みから何かが這い出てくるような音がした。

音のほうを振り返る。

心臓が一段と高く鳴る。

「ああ・・・やっと来たな」

あいつだった。

俺の姿を認めると、よろよろと近づいてくる。

それはもう歩くのもやっとな状態に見えた。

相変わらず服はボロボロだが、体の崩壊が昨日よりはっきりと進んでいた。

皮膚がところどころ落ちて赤黒い組織が見えている部分もある。

体の維持ができなくなっているらしかった。

(これが、妖怪がこの世界で生きれないっていうことか)

昨日、十六夜さんが打ち込んだ銀のナイフも何本かはそのまま刺さっていた。

抜くことができないのかもしれない。

そんな状態でも紅い瞳は俺を見つめたまま近づいてきた。

強い意思を持って俺を見つめる大きな目。

その目を見て確信を持った。



「お前・・・粟田だろ?」



そいつは止まった。

表情のなかった顔に僅かだが動きがあった。

驚いたのかもしれない。

あるいは、笑ったのかもしれないし、泣いたのかもしれなかった。

それはさっきよりも少しだけ早く、体を引きずるようにして俺に近づいてくる。

手を伸ばして俺に倒れかかるようにして抱きついてきた。

受け止めると、冷たくて、とても軽かった。

「マコトクン・・・」

低いガラガラした声だったが、はっきり聞こえた。

もう声もまともに出せないのかもしれない。

「ああ、やっぱりそうだったんだな、粟田・・・」

顔の皮膚が崩れだしているし、髪もボサボサでところどころ抜けている。

粟田の面影なんて全くない。

だけどこいつは粟田なんだ。



正確には何が起こったのかは分からない。

粟田が吸血鬼を召喚したのは間違いない。

そして、血を吸ってもらったのだろう。

命の限界を感じた粟田は最後に妖怪の存在と吸血鬼の生命力に賭けた。

そして吸血が済み、粟田が吸血鬼化したら、この吸血鬼は元の世界に送り返すつもりだったのかもしれない。

だが、何かの原因で吸血の途中で命を失った。

ちょうど死が訪れたのか、弱った体が吸血に耐えれなかったのか。

そして、そのまま死ぬはずだった粟田は、粟田の血に流れる転生の力が作用した、としか思えないが、吸血鬼の中に入り込んだ。

魂か、記憶か、それとも別の何かは分からないが、ともかくこいつの中に入った。

そして、こいつは粟田の魂と吸血鬼の魂を持ったまま、元の世界に帰れず彷徨っていた。

死んだ粟田から服を取ったのは、自分の服だったからかもしれない。

あるいは、自分が粟田だということに気づいて欲しかったのかもしれない。

俺とレイカを追ってきたのは、記憶に残っている人間だったからついてきたのかもしれない。

そして昨日襲われたときの囁き。

(・・・ニゲテ・・・)

恐らく完全に粟田の思い通りには動いていないのだろう。



改めて彼女を見る。

既に林は暗くなっていたが、これだけ近ければなんとか見える。

青白い顔にところどころドス黒い染みと崩れている皮膚。

冷たい呼吸を繰り返しており、力は昨日と違って弱々しい。

紅い瞳はじっと俺を見つめている。

「粟田・・・ああ、生きてた、ってのとは違うけど、お前はまだいたんだな」

一瞬、彼女の顔が昔の粟田に重なって見えた。

だが、彼女は力を失い、その場に崩れ落ちていく。

「お、おい」

抱きかかえていた俺も膝を着く。

もう彼女は立つこともできないようだった。

彼女を仰向けに寝かせた。

ちょうど魔法陣の中央だったので都合がよかった。

「粟田・・・もっともっとたくさん話したいことはあるし、一緒にいたいけど・・・お前はここでは生きられないんだな」

彼女はこっちを見つめたまま苦しそうに呼吸をしている。

彼女の片手が俺の服の裾を掴んでる。

「今、お前が来た世界に送り返すからな。そっちなら生きていけるだろう」

彼女は僅かに頷いたように見えた。

(これで本当に粟田とはお別れなんだ)

次の行動に移るのに躊躇した。

「粟田・・・」

せっかく粟田と再開できたのに。

だけどもう彼女は限界のようだった。

迷っている時間はなかった。

俺はポケットからリボンを取り出した。

さっき博麗神社を出るときに、レイカに無理言って借りたリボン。

魔法陣もリボンも使い方は全く分からなかった。

だけど粟田だってできたんだ。

俺にもできるはずだと思って借りてきた。

「えっと、こうすればいいのかな」

とりあえず、リボンを掲げたり、振ってみたりした。

だが何も起こらない。

(じゃあ、こうか?)

倒れている彼女の手に巻いてみた。

だが相変わらず何も起こらない。

(参ったな・・・やり方くらいもう少し調べておくべきだった)

今度はリボンを持って魔法陣を回ってみることにした。

彼女の手が俺の服を掴んでいたが、俺が立ち上がると力なく手が離れていく。

(これは急がないとまずいな)

急いでリボンを掲げたまま魔法陣を回ってみる。

だが、やはり何も起こらなかった。

(くそ・・・粟田は一体どうやって魔法陣とリボンを使ったんだ?)

彼女の弱った姿を見ると焦りが募る。

「それはそう使うものじゃないわよ。マコト君」

林の入り口から声がした。

「霊春さん!」

振り返ると、霊春さんがこっちに走って来た。

レイカと十六夜さんも一緒だった。

「マコトー、間に合った?」

レイカへの他のお願いもちゃんと聞いてくれたみたいだ。

十六夜さんを探してくること、霊春さんを連れてきてくれることをお願いしていた。

3人が駆けつけて魔法陣の中央に集まる。

「魔法陣はできてるけど、使い方が分からなくて・・・こいつが、粟田が、もう限界みたいだから、急がないと」

3人は倒れている彼女を見る。

「ええ、もう時間はないようね。急ぎましょう。それを貸して」

霊春さんは俺からリボンを受け取った。

「魔法陣は世界と世界をつなぐ設定を書いたものよ。他に必要なものはエネルギー。そしてもう一つ起動の呪文が必要よ。魔法陣の書いてある本は持ってるわよね?」

「あ、はい」

確かに、魔法陣のページにはよく読めなかったけど、難しい文が書かれていた。

あれが起動の呪文だろうか。

俺はポケットから粟田の本を出し、魔法陣の載っているページを開ける。

開けた拍子に栞代わりに使っていたスペルカードがひらりと地面に落ちた。

「これです」

霊春さんに魔法陣のページを見せる。

じっと見つめていたが、やがて本を受け取って見始めた。

顔を近づけたり、本の位置を変えたりしている。

「暗くて字が読めないわ」

林の中は既に真っ暗に近かった。

その上、この本は墨で文字が書かれているからなおさら見難いだろう。

「何か灯りになるものはないかしら?」

言われてポケットを漁るが何も持っていない。

レイカと十六夜さんもポケットを探ったりしているが何も持っていないようだった。

(まずいな・・・どうしよう)

ややあって、十六夜さんが落ちているカードに気づいて拾い上げる。

「スペルカードじゃない。懐かしいわね」

十六夜さんはそのカードを知っているらしかった。

昔、決闘のために使われていたというカードを。

「しかも簡単な構成のカードね。これなら私でも使えそう。私がいてよかったわね」

カードを高く掲げ、何かつぶやいた。

その瞬間、辺りにぼうっと光るものが一斉に湧き上がる。

その光で林の中が照らされた。

「うわ、なんですか、これ?」

「弾幕というものよ。その昔、妖怪もあなた達の先祖もよくこれで遊んでたものよ」

色の異なる様々な弾がフワフワと浮いている。

その鮮やかな輝きはつい見入ってしまいそうだった。

観賞用の芸術作品か何かみたいで決闘用とは思えなかった。

それが暗い林を照らし幻想的な風景だった。

「言っとくけど触ったらダメよ。痛いし、消えてしまうわ。さあ、そんなに長く出せてるものじゃないから早く呪文を読んで」

「ええ、もう読んでますとも」

霊春さんは本の文字を追いながら呪文を確認していた。

「20年ぶりの送還の儀式ね。慎重にね」

「ええ、久しぶりだからちょっと緊張するわね」

そういえば、20年前に霊春さんと十六夜さんと会ったと言っていた。

その時もこうして妖怪を送り返していたのだろうか。

霊春さんはやがて呪文を確認し終わると、片手でリボンを持ち、印を切りながら呪文を唱え始めた。

林の中に霊春さんの声が響く。



陣の心にいる者

そはこの世のものならず外より来しものなり

そを元の世にもどしはべり

その世は正になりはべり

この世は正になりはべり



唱え終わると、魔法陣の中心で横たわっていた彼女の上に光の輪が現れた。

それは彼女が横たわっている魔法陣の中心の円と同じ大きさだった。

光の輪が彼女のところまでゆっくりと降りて来る。

(これが外の世界との通信なのか・・・)

弾幕の光に照らされた林の中、不思議な光景だった。

切羽詰まってる時なのだが、その光景に一瞬見入ってしまう。

そして彼女を包んでいた光が消える。

「あれ」

霊春さんが驚いた声を上げる。

彼女はまだそこにいた。

魔法陣の中心で倒れたまま、さっきと変わった様子もない。

「おかしい。元の世界に転送されるはずよ」

霊春さんも想定外のことだったようだ。

十六夜さんを見ると、口に手を当てて考えている。

霊春さんはもう一度さっきと同じ呪文を唱えた。

再び魔法陣の中央に光の輪が現れる。

だが、結果はさっきと同じだった。

光が消えると、相変わらず彼女は魔法陣の中心で横たわったままだ。

「そんな、どうして・・・」

霊春さんはもう一度本を確認しだす。

呪文をつぶやきながら確認するが、間違っていないようだった。

「呪文は間違えていないわ・・・魔法陣は・・・」

今度は本の魔法陣と地面に書かれたものを見比べている。

魔法陣は俺が描いたものだからドキッとした。

もしかしたら間違っているのかもしれない。

俺も本を見て確認しようとした。



「いいえ。どっちも間違えてはいないわ」



どこからか声がした。

静かだがしっかり通る声だった。

霊春さんの声ではない。

レイカの声でもなかった。

どこから発せられた声なのかわからなかったので周りを見回す。



「その、私の世界に送ろうとしているその子よ。問題は」



声の元を辿ると、空中に行き着いた。

空中に異様なものがいた。

空中から上半身だけ乗り出しているような人影がある。

「え・・・なにあれ・・・」

レイカもあっけにとられている。

空中に裂け目のようなものができていて、その暗い空間から体を乗り出しているようだった。

うっすらと弾幕の光で照らされているそれは、女性の人影のようだった。

「久しぶりじゃないの。八雲紫」

十六夜さんはそれの名前を知っているようだった。

「久しぶりね。咲夜。100年ぶりくらいかしら?」

そして、それも十六夜さんのことを知っているらしかった。

「八雲様!お久しぶりです。なぜここに?」

霊春さんも知っているようだった。

「霊春、お久しぶりね。元気かしら。さっきから送還の儀式でその子をこっちの世界に送ろうとしてるみたいね。引っかかってるみたいだから確認しに来たのよ」

「それは大変申し訳ありませんでした」

霊春さんが頭を下げる。

よくわからないが、この八雲と呼ばれる存在は悪いものではなさそうだった。

「ママ、あれは何なの?」

レイカも初めてみるものらしい。

「八雲様よ。この世界の神よ」

「えっ?神・・・えぇぇぇっ?」

「あなたが霊春の娘ね。はじめまして。私は八雲紫よ。正確には元・神かしらね。今は霊春に任せきりでこの世界の管理はあまりしていないわ。あなたが正式な巫女を継いだらちゃんと会いに行くつもりだったのよ」

「えっ、あっ、はい。それは、よろしくお願いします・・・」

さすがにこの異常な状況ではレイカもいつもとは調子が違うみたいだ。

「さて、本題だけどね。そこに倒れてる子をこっちの世界に送り返そうとしてるのよね。だけど今その子には元の世界のものでないものが混じってるわ」

(混じっている・・・)

「粟田の魂・・・」

思わず口からでた。

「そう、今その子の体にはこの世界の魂が混じってる。そしてその魔法陣は非常に簡単なもので、元の世界のものをそのまま返すことしかできないの。だから、混じっている魂のせいで途中で止まってしまうのよ」

何となくは言っていることがわかった。

「今その子についている魂を分離するわ。それから改めて送ってちょうだい」

(えっ、魂の分離って・・・そしたら、粟田は・・・)

粟田はあの体に入ったままでも、向こうの世界でなら生きれるはずだと思っていた。

分離されたらどうなるのか。

「分かりました」

霊春さんはあっさりと了承している。

(まずい、このまま分離と送還をさせたらダメだ)

「ちょっと待って下さい!」

霊春さんと神に向かって言った。

「分離したら・・粟田の魂はどうなるんですか?」

神がじっとこちらを見つめてくる。

正面から見ると外見は若い女に見えた。

だが、それは普通でない異質な存在に感じた。

若そうにも見えるがひどく年老いていそうでもあり、小さな体に見えて大きな存在にも感じる。

見た目が意味を成さない存在なのかもしれない。

その存在感に圧倒されて、少しまずいことを言ったのかもしれないと思った。

やがて神は口を開いてゆっくりと語った。

「この魂の元の肉体は、既に無いようね。分離されてしばらくすれば、魂は浄化され次の転生を待つ存在になるわ」

「それって・・・つまり・・・死んじゃうってことですか」

「わかりやすく言うとそういうことになるわね」

「そんな・・・」

体から力が抜けそうになった。

(せっかく生きてたのに・・・)

「どうにか、ならないん・・・ですか?」

口が震えてうまく言葉が出ない。

神の表情は弾幕の薄い灯りではほとんど見えない。

「この魂の肉体は既に無く、本来なら死すべき運命の魂だわ。それが、転生する力を誤って使って、その肉体に入ったみたいね。一つの体に2つの魂という異常な状態は肉体に過剰な負荷をもたらす。仮に、今のままで元の世界に戻ったとしても、魂と肉体の不整合はいずれ死を招くでしょう」

働かない頭で神の言葉を考える。

(つまり、結局、粟田は助からない・・・)

「死すべき定めならそれを受け入れるべきだわ。私の力で生死の境界を曖昧にすることはできなくはない。けれど、それをすれば世界の秩序が失われ、魂と肉体と生死が曖昧に交じり合う世界になる」

もう何を言っているのかよく分からなかった。

ただ一つ理解できたのは、この神は粟田を助けないと言っているということだ。

力が抜けて膝が折れた。

そのまま膝と両手地面についた。

「マコト・・・」

「マコト君・・・」

(どうすれば・・・どうすればいいんだ)

混乱した頭で何をすればいいのかを考えようとした。

だけど、そもそも何がどうなればいいのかわからなかった。

「あなたの大切な人なのね。でも、かわいそうかもしれないけど、一人のために世界のルールを破るわけには行かないの」

無情な声が上の方から聞こえてきた。

「さあ、もうその子も限界みたいだから魂を分けるわ」

(ああ、粟田が・・・失われる)

力が抜けてぼんやりとしか動かない体で彼女のほうを見た。

目があった。

紅い瞳が俺を見つめていた。

彼女の唇が何か動いているのが見えた。

(何かしゃべってる)

「まって!もう少しだけ」

魔法陣の中心で横たわる彼女に近づいた。

うまく立つことができず、這いずるような格好で彼女に近づいた。

横たわった彼女に近づくと彼女は震える手を伸ばしてきた。

その手を両手で掴むと彼女は少し表情を変えた。

きっと微笑んだんだと思う。

粟田にそっくりな笑い方だった。

口がパクパクと動いている。

声が聞こえないので耳を近づけた。

震える、小さな声でかすかに聞こえた。



「・・・マコトクン・・・アリガトウ・・・イキテ・・・」



「粟田・・・」

何か言ってやりたかった。

だけど、何を言ってあげればいいのかわからない。

「霊春、もうその子の体が限界なの。時間よ。唱えて」

「はい・・・マコト君、その子から離れて」

後ろから声がしたが、体が動かせなかった。

肩を支えられる感覚があって体が浮く。

肩を担いでいるのはレイカと十六夜さんだった。

後ろに下がらされて彼女の手を握っていた手が離れてしまった。

俺が彼女から離れると、霊春さんの呪文を唱える声が聞こえた。

光が彼女を包み始めた。

何かを最後に言わなければいけない気がした。

もう考えている時間はなかった。

思ったことを思いつくままに叫んでいた。

「粟田・・・粟田っ!ありがとう!お前といて楽しかった!もっとお前と一緒にいたかった!好きだった!」

最後に光に包まれたとき、粟田の姿が見えた気がした。

パアッとひときわ大きく光る。



光が消えると彼女の姿はなくなっていた。

彼女のいた辺りからうっすらと煙のようなものが揺らいでいる。

その煙のようなものは俺の近くまでやってくると、ゆっくりと漂っていた。

やがてそれは薄くなり見えなくなっていった。



サヨウナラ



かすかに声が聞こえた気がした。

後には粟田の服と銀のナイフだけが残った。





呆然として何も考えれなかった。

レイカと十六夜さんに肩を支えられていたが、一人なら立っていられなかっただろう。

何か会話が耳に入ってくるが、理解したり考えたりすることはできず、頭をすり抜けていく。

「あの子は無事にこっちの世界に届いたわ。しばらくすれば元通りに回復するでしょう。うちの世界の子を助けてくれて感謝するわ」

「いえ、元々こちらに呼び出されたようですから」

「そう、それじゃあまたね、霊春とその娘。少しして次期博麗の巫女が正式に決まったら会いに来るから、その時はよろしくね」

「あ、はい・・・」

「それと咲夜。あなたはこっちの世界には来ないの?」

「ここで私が存在できるということは、私はまだ人間のようだからね。こっちの世界で生きれるうちはこっちにいるわ」

「そう。あなたなら新しい世界でも生きていけると思うから気が向いたら来なさい」

「考えておくわ。・・・ねぇ、お嬢様とみんなは元気かしら?」

「ええ、相変わらずよ。妖怪って何百年たっても変わらないものね」

「そう・・・それならよかった。じゃあ、お嬢様に伝えておいて。あなたの咲夜は元気です、って」

「分かったわ。伝えておくわ。それと、マコト君」

神が俺の方をじっと見て話した。

「あの魂の最後のメッセージは聞こえたわね。あなたならあの言葉の意味を汲み取ることができる。霧雨の血が流れるあなたならね。私が言うまでもないことだけど」

「えっ・・・霧雨って、どうして・・・」

どうして俺の家のことを知ってるんだろう、と一瞬思ったが、神ならなんでも知っていて当然かと思い直す。

「あなたともまた後で会うかもしれないわ。その時はよろしくね」

そう言って手を振ると、空間の裂け目とともに神は姿を消した。

それと同時に周囲を照らしていた弾幕も消えた。

幻想的だった風景は消え去り、暗く静かな林に戻った。













10.レクイエム
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子供の頃から見慣れている天井の模様を眺めていた。

何をするでもなく布団に寝転んでいる。

目はつぶらない。

色々なことが頭に浮かんでしまい、やるせない思いで悶えることになるからだ。

あれから三日がたった。

あの日、林から帰ってから、何をするでもなく寝て過ごしている。

もし休みでなければ、登校して学校の授業でも聞いてるうちに気も紛れたのかもしれない。

あいにく今は夏休みの真っ最中だった。

あれ以来、何をする気も起こらない。

心に大きな穴が開いてしまったような感覚がする。

今もふとした拍子に粟田が消える瞬間を思い出してしまう。

あるいは、もし彼女の事情を知っていたら事前に何かできたかもしれないと、過去に遡って彼女を助ける妄想が走りだす。

ぼうっとしているとそんなことばかり頭に浮かんでくる。

夜も布団にはいっても、ずっと眠れずにそんなことばかり頭に浮かぶ。

眠れないせいだろうか、昼近くに起きると体がだるい。

親も粟田のことがあったせいか、店を手伝えとも言わなかった。

それで結局何をするでもなく、ずっとこうして寝転がっていた。

(粟田・・・)

今更もう彼女に何もしてあげれない。

俺はどうすればいいんだろう。





玄関を叩く音がした。

だが、起きる気がしなかったので無視して寝ていた。

しばらくしてから再び叩く音。

(誰だよ・・・)

新聞の勧誘とか回覧板とか、今はそんなものを迎える気にはなれない。

少しすると声が聞こえた。

「すいませーん、マコトいるー?」

(レイカの声だ)

のろのろと布団から起きだして玄関に向かう。

玄関に向かう途中で再び玄関が叩かれる。

「はーい、今出るよ」

玄関を開けるとレイカがいた。

「おぉ、マコト、元気にしてた?」

一瞬、俺を見て驚いたような表情をした後、レイカが微笑んで話しかけてくる。

何となくその笑顔がレイカっぽくなくて、きっと無理に笑ってるんだろうなと思った。

「あ、ああ・・・元気だよ」

口を開くのも久しぶりな気がする。

まともに声も出ていない。

きっと俺の外見もひどいことになっているから、言葉とは逆の状態を伝えてしまっただろう。

「そう・・・ねぇ、ちょっとあたしと出かけない?」

レイカは俺の様子には突っ込まなかった。

「どうしようかな・・・どこかいくの?」

「んー、特に決めてはいないんだけどさ、あ、そうだ、咲夜さんの家とか行ってみない?あたし場所知らないから連れてってよ」

「十六夜さんの家か・・・」

特に外に出たいわけではないが、かと言って、家の中にいても何もすることはない。

何かしてたほうが気が紛れるかもしれない。

「うん、行こうか。ちょっと待ってて」







外は夏らしい熱い日差しだった。

久しぶりに外に出たこともあって、ギラギラとする日差しの中を歩いているだけでも辛い。

レイカは平気なようで元気に歩いている。

今日はつば広帽子に黒いワンピースだった。

「ああ、咲夜さんに会えるの楽しみ。あたし、あの人の冷たい体が気に入ったの。あぁー、早く触りたいなあー」

「そ、そうなのか・・・」

レイカが話してくるのは事件のことには触れない話題ばかりだった。

俺は自分から話しだす元気もなく、適当な相槌を打つくらいしかできなかった。

道の途中ぽつりぽつりと適当に話をするものの、途切れ途切れの会話になる。

やがて、外れの森にやってくる。

前回は森の中をひたすら無理に進んだが、今回は十六夜さんに送ってもらった時の道を進むことにした。

記憶を頼りに例の道を探り当てると、そこから細い道を通って十六夜さんの家へ向かう。

道が細いのは、きっと十六夜さん一人だけが通ってできた道だからだろう。

道を通り抜けると前に来たことがある森の開けた場所にたどり着く。

そこには森に溶けこむようにしてひっそりと建っている十六夜さんの家があった。

「森のなかにこんな場所があったんだー」

「十六夜さんがいるかどうかはわからないけどね」

前回来た時もそうだったが、とても静かな森だ。

家の玄関までやって来て戸を叩く。

コンコンとノックする音が辺りに響いた。

「はーい」

すぐに反応があって戸が開いた。

「あら、霧雨君と霊夏ちゃん。どうしたの?」

ジャージ姿の十六夜さんが現れた。

(家にいるときはジャージなのか・・・)

「あーん、咲夜さーん!あたし、咲夜さんに会いたかったのー」

レイカは早速十六夜さんにくっついている。

「あら、あら、そう。まあいいわ。上がって」





「もしかしたら霧雨君がまた来るかもしれないと思ったから、砂糖を買っておいたの」

この間と同じ居間に通してもらうと十六夜さんが紅茶を淹れてくれた。

今回は砂糖のポットも一緒に出てきた。

「へぇー、紅茶ですか。あたし、あんまり飲んだことがないから楽しみー」

俺は紅茶にたっぷりと砂糖を入れた。

今の精神状態でこの間の味と記憶を思い出したらやばいと思ったから、砂糖を多めにして味をごまかすことにした。

「そうねぇ、昔は里のお店でも置いてたんだけどね。あんまり飲む人がいなくなったせいかしらね。だんだん取り扱いが少なくなっていったわね」

「昔はみんな飲んでたんですかー?」

レイカは十六夜さんに会えて興奮しているようで、いつもより口数が多い。

「みんなってわけじゃないんだけどね。昔はあたしが働いてた館があってね、そこに住んでる者は紅茶を飲むことが多かったの。館でたくさん買ってたから、里でも取り扱いがそこそこあったの」

「へー、館ですか。どんな館で、どんなお仕事だったんですか?」

「うん、吸血鬼が主の紅い洋館でね。そこでメイドをしていたわ」

紅い洋館、吸血鬼という言葉に反応しそうになる。

(粟田と行った洋館の跡地、この間の吸血鬼・・・)

「へぇー、吸血鬼の館でメイドって、なんかすごそう。どんな感じだったんですか?」

「うーん、そんなに変わってたわけでもないと思うよ。普通にメイドの仕事だったし。吸血鬼の他に妖精とか、他の妖怪とかもたくさんいたけど、意外とみんな普通よ」

妖精や妖精が日常的にいた世界。

今の里からすると想像もできないような世界だ。



(マコト君はさ、妖怪っていると思う?)



粟田の言葉が浮かんだ。

何となく、彼女の言葉の意味がわかってきた気がする。

それは、妖怪がいるかいないかではなく、自分がどう思いたいのか、ということを問いかけていた言葉だった気がしてきた。

きっと粟田は、そういう世界があってもいいし、自分はそう信じたい、と思って行動したのかもしれない。

自分を振り返ると、何をどう考えればいいのか、これからどうすればいいのかよくわからなくなった。

(俺は、どうすればいいんだろう)

目の前で紅茶を飲んでいる十六夜さんを見て、何となく聞いてみたくなった。

数百年生き、過去の世界を知る十六夜さんは、今までどんなことを思って生きてきたのだろう。

「あの、十六夜さん」

「うん?」

「その、昔、妖怪がいたときって、どうでした?」

「どうって?」

「なんて言ったらいいかわからないけど・・・昔の世界のほうが好きとか、昔みたいになってほしいとかってありますか?」

十六夜さんが俺の方をじっと見た。

真剣な顔で、紅い瞳が見つめている。

それは俺の言葉の意図を読み解こうとしていたのかもしれない。

そして頷いてから話し始める。

「それは、あまり考えたことはないよ」

「え、ない?」

意外な答だった。

昔の世界のほうがいいと言うかと思っていた。

「まあ、あたしも長く生きて色々思うところはあるんだけどね。大事なことはね、周りがどうなっているかじゃないのよ」

「え」

「その時その時の状況の中で、どういうことに目を向けるかということなの。昔の妖怪のいた世界にもいいところもあれば悪いところもある。今の世界もいいところも悪いところもある」

妖怪がいる世界は何がよくて何が悪いか、具体的にはわからないが、確かに色々とあるだろう。

「その世界の中で、辛いこと悪いところにばかり目を向けていたらどんなに素晴らしい世界にいても悲惨な世界としか感じないでしょうね。反対に、どんなに辛い世界だったとしても、その中でいいところを見つめてれば、希望を持って生きていけるの」

(いいところ、希望)

「だからね、昔のようになってほしいとか、今が変わらないようにとか、そういうことは考えないようしてるの。自分がどうしたいか、自分の周りに起こったことをどう解釈するかなの。それによって、明るく希望に満ちた世界になるか、暗い陰鬱な世界になるか変わるわ」

そう言うと、十六夜さんは紅茶を一口飲んだ。

そして表情を崩してから、また続ける。

「まあ、そんなこと言ったって、昔は良かったとか、今のほうが便利だとか、適当な事言ったりするけどさ。ははっ」

笑った十六夜さんの牙が無邪気に白く輝いた。






しばらく十六夜さんと話をしていたが、そろそろ遅い時間になってしまうので帰ることにした。

レイカはだいぶ残りたがっていたが、暗くなってしまうし、また今度来ればいいと言われてしぶしぶ帰ることにした。

「それじゃあね。何かあったらまた遊びに来てよ」

「はい」
「はーい。また来ます」

外に出るとまだ明るかったが、もうじき夕暮れになりそうな空だった。

里へ出る小道を戻る。

「いやー、楽しかったー。咲夜さんて色んな話知ってるんだね。すごく触り心地いいし」

「ああ、そうだな。・・・レイカ、ありがとうな」

「んー?何が?」

「いや、なんでもない。あ、そうだ、ちょっと寄り道して帰っていいか?」







林の中は暗くなりかかっていた。

林の外を見ると、沈み始めた太陽に照らされて里は赤く染まり始めている。

中央の空き地には、この間の魔法陣がうっすらと残っていた。

「ああ、やっぱりこの辺りにあったか」

魔法陣の中心から少し離れたくらいの場所に、赤と黄色の服が落ちてあった。

穴だらけな上に土埃を被って汚れていた。

その服をなるべく丁寧にたたみ、魔法陣の中央に置いた。

その横に花束を置く。

ここに来る途中の花屋で買ったものだった。

ちょうどよく赤と黄色の花があったので一束買ってきた。

「粟田はこの色好きだったのかも。よくこんな色の服を着てた気がする」

「へー、そうだったんだ」

実際のところは彼女が何の色が好きだったのかはわからない。

もしかしたら、この服は俺が褒めてからよく着るようになったのかもしれない。

「あいつがさ、最後にここで消える直前にさ、生きて、って言ったんだ」

「生きて?」

「うん、粟田は生きてやりたいこともたくさんあったと思うんだ。だから、俺にあんなことを言ったのかも」

「そっか・・・そうね。亜美の分も生きないとね」

「そうだな」

俺は途中の雑貨屋で買ったマッチをポケットから取り出した。

マッチに火を起こすと、それを服の上に近づけて火を移す。

土で汚れた服はなかなか火が移らなかったが、やがてゆっくりと燃え始めた。

両手を組み合わせて祈った。



彼女が安らかに眠り、次は健康な体で生まれ変われるように。

彼女からもらった思い出と言葉を忘れないように。

彼女が生きたがっていた明日を自分は生きている、ということを忘れないように。



やがて服が燃え尽きて、彼女の煙は全て空へ登った。

「じゃあ、帰ろうか」

「あ、うん。もういいの?」

「うん」

林から出ると、夕日で赤く染まった里に迎えられる。

「あ、マコト、花」

服にさっきの花びらがついていた。

花びらは服から離れると、風に乗ってひらひらと舞った。

赤と黄色の花びらはしばらく俺の周りを飛んだ後、やがて空に消えていった。





















おしまい
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
ここからはだらだらとしたあとがきです。

ちょっと長めのお話になりましたが、楽しんでいただければ幸いです。
普段は夜伽話の方に投稿していましたが、R18要素の入らない作品になったのでこっちに投稿となりました。
設定やお話に色々突っ込みはあるかと思いますので、思ったことを思ったとおりに指摘してもらえれば次から活かそうと思います。

それにしても早く書けないのが悩みです。
書きながら時間と文字数計ったりしますが、500~800(文字)/1時間くらいでした。
やたら長くなって、7万文字くらいになったので、書くだけでおおよそ100時間前後。
構想と見直し含めたら120~140時間位かかってるんじゃないでしょうか。
仕事しながらだと1日1,2時間取れるかどうか。
おおよそ3ヶ月くらいかかった気がする。
もっと早くたくさん書けるようになりたい。

主要な登場人物を紹介したいので書いておきます。
設定とかって考えてると結構楽しいですよね。

■霧雨マコト:きりさめ まこと
最後まで下の名前が漢字にできなかった不遇の主人公。
魔琴とか魔古都とか、魔のついた名前にしたかったけどしっくりくるのが浮かばなかった。
霧雨家は商魂たくましいので家は結構裕福。
ショックなことがあるとすぐに貧血を起こして嘔吐する虚弱体質になってしまった。
いざっていうときの頭の回転と行動力は霧雨の血の証。

■粟田亜美:あわた あみ
開幕から死んでいる不遇のヒロイン。
稗田家の分家の血筋ということにしてあるが、別に分家にする必要はなかった気がしてきた。
粟田(あわた)を栗田(くりた)と見間違えやすいことに書き終わってから気がつく。
五穀つながりで稗から粟という苗字に設定したので変えるわけにもいかず。
いざっていうときの転生の力は稗田の血の証。

■博麗霊夏:はくれい れいか
マコトの世話焼き係。
だるそうな話し方をするが、周りへの気配りと面倒見はよい。
好きなものは、ママとおしゃれすることと咲夜の冷たい肌。
でもめんどくさがりでもあるので家ではジャージ。
いざっていうときのマイペースとなんでも受け入れる力は博麗の血の証。

■博麗霊春:はくれい れいしゅん
レイカのママ。
現博麗神社の巫女で、巫女の仕事とは別で里の結界と侵入してきた部外者の送還などをしている。
お賽銭やら参拝やら収入はあるので生活は普通。
レイカの父親はどうなっているかは決めてない。博麗の血を守るために紫が色々やって子供を産ませてる、と妄想してるくらい。
好きなものは、レイカと料理と八雲様。

■十六夜咲夜:いざよい さくや
ほんとは咲夜メインの話で始めたのに、お助けキャラ的ポジションになってしまった。
数百年前にレミリアから吸血鬼化された設定。
レミリアから莫大な遺産をもらっているので働く必要のない、いい身分。
完全な吸血鬼ではないので食べることは必要。あまり人に見られないように夜に近所のスーパーで買い物をすることが多い。
おしゃれが好きでファッション誌を読んではこっそりと里に服を買いに行っている。
でもめんどくさがりでもあるので家ではジャージ。

■吸血鬼
呼び出されてボロボロになって体も乗っ取られる不遇の存在。
特に設定は考えていなかった。吸血鬼ならなんでもよかった。
レミリアに関わりを持たせようかと思ったが展開的にちょっと無理があるので断念。


以下コメントへの返し
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>2 誤字の指摘ありがとうございます。りボンがたくさんあった。google日本語入力は便利な半面間違って覚えさせると大変なことに。
高評価ありがとうございます。嬉しいです。

>4 とりあえず読み物として面白いと言ってもらえるのは嬉しいです。
キャラからじゃなく、話から作り始めたので、話しに既存キャラを当てはめる感じになってしまいました。
もうちょっと原作設定に沿って作れると違和感なく見てもらえたのかも。

>5 実は、詩みたいな綺麗な文章はあまり自信はないので、簡易な表現でわかりやすく伝えることを心がけてます。
意識のくだりは、確かにちょっと強引なところはありますね。もっと納得感のある筋書きに詰めれればよかったかも。

>6 楽しんでもらえれば幸いです。意図的に長くしたいわけじゃないけれど、わかりやすく説明したり納得ある伏線を用意してるとどうしても長くなってしまいました。

>7 中身が面白いと言ってもらえるのは嬉しいです。
改行は、あんまりぴったりだと読みづらいかなと思って意図的にやってますが、読むの早い人だとスクロールが多くて煩わしいかも。
確かに設定はもう少し原作に近づけたほうが良かったかも。

>9 気に入っていただけたみたいで嬉しいです。確かに、ストーリー先行で作っていたせいか、キャラは立っているのかもしれないですね。色々と他の方の指摘でもありますが、うっすらとしか原作の設定やキャラを絡めれなかったので、もう少し原作要素入れたほうがバランス良かったかもとは思います。でも逆にそこがいいと言ってもらえてるみたいで、作品そのものをしっかり見てもらえたようで嬉しいです。

>10 気に入らないものなのに、こんな長いものをわざわざ読んで、コメントまでしていただいてありがとうございます。次は楽しんでもらえる作品を作ります。ただ、もうちょっと具体的な指摘だと次に活かしやすいのでよろしくお願いします。
ベタ褒めのコメントと酷評の両方があると、尖った個性のある作品にできたかなという感じもして意外といいかなとも思います。

>13 楽しんでもらえれば幸いです。最初は森の吸血鬼の噂を確かめに行くオリジナルの少年が咲夜と会って、というシーンだけ想像して作り始めました。後から設定を追加し続けて長くなり今に至ります。
霊春の好きな八雲様という設定は、博麗の血を守るために紫が色々とここでは書けないようなR18的な内容を夜な夜なやっているおり、そのせいで、ということ設定もありかなと思って適当に書きました。

>16 楽しんでもらえれば幸いです。他の方のコメントでもありますが、話の内容はともかく、設定はオリジナル要素が多すぎたようですね。ただ、東方は受け入れてもらえる余地が大きいとも捉えてもらえてみたいで幸いです。
やっぱり「くりた」に見えますよね。五穀つながりなら、稲田とかもありなんですが、ちょっと彼女のイメージに合わない。そういう意味ではネーミングでちょっとミスったなあ。

>17 面白く感じてもらえればよかったです。冥界や無縁塚とかの異界はあまり考えてなかったですね。恐らく人間に取って無害で平凡な場所に変わってしまっていると思います。次は原作要素をもう少しわかりやすく取り入れることを検討します。

>21 高評価ありがとうございます。自分としても面白くなることを重視して書いたので伝わったみたいで嬉しいです。他の方のコメントを見るにちょっとオリジナル成分が過ぎたようですが、認めてもらえてありがたいです。

>24 楽しんでいただけたら幸いです。ら抜き言葉は全く意識しておらず、自分が普通に使う言葉で書いてたらこうなりました。ちょっと気をつけてみます。
なるべく原作に依存せずに面白くしたかったのでこうなりましたがアリと言われて嬉しいです。そして、やっぱりくりたさんに見えますよね。読み方を冒頭で表現するシーンでも入れればよかったかな・・・。

>28 ありがとうございますー。たまに見に来るので後からでも評価されるのは嬉しいですし、面白いと言われると次に書く意欲につながります。

>29 ちょっと前の作品なのにコメントありがとうございます。幻想郷のキャラは性格的にも魅力があって、現代に近い世界で動かしてみたいと思うことが多いです。それとなく幻想郷の匂いを残しつつ、人間として描いてみたかったのです。
乙杯
otsupai@gmail.com
http://pixiv.me/ophidian
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コメント



0.710簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
黒いの袖なしフード
りボンが

 設定を丁寧に積み上げて美しいシーンを構成した、良く出来たライトノベルでした。無駄なく話がまとまっていて、とても良かったです。
4.50名前が無い程度の能力削除
読み物としては面白いのですが、東方の二次創作としては「うーん?」と言わざるを得ない内容でした。
なので半々としてこの点数で。
5.60名前が無い程度の能力削除
文章自体がとても上手くて、意識の乗り移りのくだり以外はオリ設定も割とすんなり受け入れて読めました。
6.70奇声を発する程度の能力削除
中々の長編で楽しめました
7.60名前が無い程度の能力削除
改行の多さがちょっと気になったぐらいで中身自体は面白かったです
ただ、他の方がチラッと言ってますがそそわで二次としては微妙な題材ですね
なんせオリジナルキャラばかりで世界も幻想境というより現代社会とほぼ同様ですので
9.100パレット削除
 すっごくおもしろかったです!
 東方原作の、お祭りのような、輝いていた日々があって、だけどそれはそれとして、お祭りが落ち着いた、ひと段落ついた場所も、当たり前に続いていく。霊夢や魔理沙たちがいなくなった後も、咲夜や紫は普通に生きつづけているし、霊夢の子孫や魔理沙の子孫も、霊夢や魔理沙たちがいた舞台とは違う、自分たちの場所で生きている。それはどちらがよかったりとかどちらかを否定したりとかそういうものではなくて、だけどしっかりとつながっている。そんな雰囲気が全編に漂っていて、とても素敵でした。
 後書きでも触れてらっしゃいますが、吸血鬼がレミリアと特に関わりなかったあたりなんかが、個人的にとても好きです。
 例えばこれがレミリアと関わりがあったりして、咲夜がここにいるのにもとてもシリアスというか、過去に根ざしたなんか真面目っぽい理由があって、今回の件でいろんな歯車が一気にかみ合って動き出して、なんかいろいろあって今こそ霧雨と博麗の子孫たる二人の力が必要に──みたいな感じになってない、原作の物語、この話の過去の物語にあまり連動していない感じがよかったです。マコトと霊夏は、霧雨の子孫と博麗の子孫という物語上の役割を持たされた何かではなく、ちゃんと霧雨マコトと博麗霊夏でありました。それは二人だけではなく粟田亜美についてもそうでした。粟田は言うなれば、短命という稗田の運命に囚われていて、先に述べた「過去の物語に連動」に近い感なのですが、それでも粟田がちゃんと粟田であったため、稗田の子孫である誰かではなく粟田亜美というキャラクターだと感じられました。総じて、東方原作に寄っかかりすぎていないという点が、私にこの作品を楽しませてくれたように思います。素敵な作品をありがとうございました。
10.10名前が無い程度の能力削除
なんかもう、役満で満願全席って感じ。痛々しさが。あらゆる意味で。不快、ただそれだけ。
13.90絶望を司る程度の能力削除
これはなかなかの大作ですね……楽しませていただきました。とても設定を練ったと容易に想像できました。
あと霊春の好きな物に八雲様入ってるww
16.90名前が無い程度の能力削除
最初タグを見たときは読むかどうか迷ってしまいましたが、読後の今は読んで良かったと素直に思っています。
えぇ、キャラや展開など全てにおいて非常に面白かったですよ。
やはり、間口の広い東方という世界を使った二次創作には、まだまだ可能性と面白さが詰まっているのだと実感させていただきました。

…あとがきまで、ずっと「くりたさん」と読んでいました、ごめんなさい。
17.無評価非現実世界に棲む者削除
何か久々にこういった壮大な二次作品を読んだ気がする。
というか、初めて?
それはそうとして中々に面白かったです。ただ、細かい事を追及すると冥界や無縁塚といった異界(につなかる場所)はどうなったとかが気になります。切り離されたのかな?
次はなるべく原作風味でお願いします。二次とはいえキャラがいない世界は耐えられないので。
つまらないことを言ってすみませんでした。
ではこれにて
19.80非現実世界に棲む者削除
点数入れ忘れ
21.100名前が無い程度の能力削除
面白けりゃいいと思う。東方らしさなんて匙加減。
24.80名前が無い程度の能力削除
少し『ら抜き』言葉が多いかも?
そこが少し気になったけど、全体的に楽しく読めました。
確かに原作成分はうっすいですが、
都合のいい設定・キャラだけ借りて自己満足ストーリーというワケではなかったので
個人的にはアリですね。

最初、クリタだと思って読み進めてましたが
稗田の分家が出たあたりで思わずコピペ検索して、穀物繋がりなのかと感心しましたw
28.100名前が無い程度の能力削除
面白かったです
29.100名前が無い程度の能力削除
幻想郷崩壊後スキーの私としてはこの話はかなり理想に近かった。丁度こういう話が読みたかった