Coolier - 新生・東方創想話

水酒

2014/04/13 16:14:07
最終更新
サイズ
3.85KB
ページ数
1
閲覧数
1291
評価数
6/13
POINT
760
Rate
11.21

分類タグ

 二人は大酒飲みだった。
 ある宴会では、二人が酒の勢いに任せ、天狗の羽を一本ずつむしり取っていく凶行が行われ、他の妖怪達に全力で止められた。
 また、ある時には、二人で旧地獄街道で飲み比べをしていた。仮眠をとっていたら、天然の奈良漬が出来上がっていると、猫車を引く妖怪に連れ去られそうになった。
 日々の宴会を行い、様々な被害と丘のように積まれた請求書を見て、二人はしばらく禁酒を行うことにした。
 毎日、どちらかが相手の家へ行き、お互いが酒を飲んでいないかチェックするようにしていた。
 禁酒により、二人から受ける被害はほぼ皆無となっていった。

 禁酒を行ってからしばらくした、ある日の事である。
 いつものチェックを行いに、禁酒を言い出した相手の家へ行ってみると、縁側に一升瓶が鎮座していた。
 私は酒を断つため、肴も口にしなかったというのに。一方的に破るとは何事か。しかも、昼間から堂々と縁側で酒を飲むことが私には許せなかった。
 酒を飲んでいたことが我慢ならず、彼女を問い詰めると、酒瓶の中身は水だと言ってきた。
 そんな事があるか、と中身を確かめてみると、確かに無味無臭の水だった。
 彼女いわく、味のしない水で、せめて気分だけでも楽しもうとしていたのだ。
 なるほど、確かにこれならば、酒を飲まずに酒を飲んだ気分になる。
 私も酒が恋しくなってきた今日この頃、私も一緒に呑むことになった。

 まず一杯目。湯飲みに入れられた水を一気に飲み干す。口の中はスッキリとしていた。水である以上、辛さはなかったが、冷たさが喉を引き締めているようだった。
 続いて二杯目、肴となっている塩気の強い新香をかじりながら、ゆっくりと飲んでいく。
 三杯目、水なのに酒瓶にはいっているためか、酔った気分になってくる。念のために瓶の中身を聞くが、水だという答えが少し呂律の回らない口調で返事ってくる。不思議に思い、彼女の顔を見てみると、どことなく赤くなっているように見える。
 四杯目、を注ごうとしたところ、酒瓶から一滴も水が落ちてこなかった。気分だけでも味わったし、今日はこれで良しと思っていたところ、奥から彼女が新しい瓶を持ってきた。その瓶を見た瞬間、不意に喉に渇きを覚えた。さっきからかじっていた新香のせいだろうか。彼女の手に持った瓶の中身が、私の湯のみへ並々と注がれていく。そして間髪入れずに、それを飲み干した。
 その後の記憶は一切なくなった。


 日の光で目が覚めた時、彼女の家ではなく、赤い霧がかすかに見える館の前にいた。
 私の横には「鬼殺し」と、全裸に酒瓶で一部分を隠されている彼女がいた。
 そして、さらにその横には、口だけが笑っている閻魔がいた。そして、昨晩何があったのか、閻魔の前に二人で正座をして、日が暮れるまで懇切丁寧に説教を受けることとなった。
 話を聞くと、二人百鬼夜行のようになっていた私達は、村の里で酒を求めて暴れていたそうだ。里の人々は、かすかに酒のにおいのする私たちが暴れる様を、嵐が去るかのごとく、見守るしかなかった。
 そこへ、偶然通りかかった妙蓮寺の寅丸が私達を止めに入ろうとした。
 しかし、酒を求めていた私達の前に、寅丸は無力だった。私に羽交い絞めにされた後、彼女が宝塔を使って酒を集めようと試したものの、一滴も集まることはなかった。私達は酒が集まらないことへの腹いせとして、宝塔を五千個の立体パズルにしていたらしい。
 里で暴れた後、酒を求めて妖怪の山や竹林を荒らしまわっていたらしい。そして何を思ったか、赤い館の当主にオムツを穿かせるという暴挙に出ていたらしい。

 一通りのいきさつを聞いている間、足の痺れは痛みに変わり、そして痛みを感じなくなるほどになっていた。その頃にようやく、閻魔の説教が終わった。しかし、閻魔が帰り際に置いていった紙袋の中を見て、私達にとって地獄は続いていることを思い知らされた。
 以前よりもさらに高く積まれ、山と呼ぶのがふさわしいほどの請求書の束。返すのはいつになることか。

 途方にくれる私達。どうにもならず、沈んでいく太陽を見てみる。夕日は普段と変わらず綺麗だった。でも、請求書の山は綺麗に無くならない。
 この状況を彼女はどう思っているのだろうか。そう思い、彼女のほうへ顔を向けてみると、どこかスッキリとした顔をしていた。
 なぜ、こんなにも清々しい顔をしているのか。夕日を眺めながら理由を考えてみると、多分彼女の考えているであろう結論にたどり着いた。
 再び彼女のほうへ目を向けてみる。私の結論と同じだったのだろう。決心はついているらしい。
 彼女の顔を見て、私も覚悟を決め、空に向けて祝砲を上げる。


 こうして、博霊大結界は壊され、幻想郷は崩壊した。
お楽しみいただけましたら幸いです。

この話は、古典落語の「親子酒」が元となっております。
のん兵衛二人は霊夢・魔理沙です。
最初は勇儀と萃香にしようと思っていたのですが、出来上がってみると、この二人になりました。
コメディ系を初めてやってみましたが、難しいですね・・・

余談ですが、水飲み会は実際に行われていました。これも話のネタにさせていただきました。
http://portal.nifty.com/2006/04/18/a/

ご意見・ご感想・アドバイスなどありましたら、是非。
龍泡
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.240簡易評価
1.80絶望を司る程度の能力削除
な……なんというくだらない理由で幻想郷が崩壊してるんだ!
2.90名前が無い程度の能力削除
てっきり勇儀と萃香だと思ってた
3.70奇声を発する程度の能力削除
なんという…
4.90名前が無い程度の能力削除
なんて話だ(褒め言葉)
6.無評価名前が無い程度の能力削除
うーん単純に締めだけつまらない
7.90名前が無い程度の能力削除
三杯目にして酒、人を呑む。酒癖ほどどうしようもないものはない。
10.100名前が無い程度の能力削除
破滅はそこらに転がっている
狂気もそこらから湧いてくる
やはりお酒は破滅の元という西洋の古い言い伝えは正しかったんや!

酔ったときやギャグにこそ心底の本音が込められるというし案外破滅というか少女が幻想から醒めるのを望んでいたとか
少女が幻想の夢の世界で酒の夢に溺れることで逆に長い夢から覚めたという暗喩ですかね(完全な邪推)
やはりお酒は害悪な危険物
早く禁酒しなきゃ(二十世紀初頭のアメリカ並の使命感)