「ぷかぷかと浮かぶ玩具の船の夢を見たよ。」
妹は突然話しかけてきた。
「それで、どうしたの?こいし。」
そう声をかけると妹は何処かへすうっと消えてしまった。大方、無意識を操る能力を使ったのだろう。私の妹、古明地こいしは覚妖怪でありながら、心を読むことができない。覚妖怪の核である第三の眼を閉ざしたのである。それからというもの、妹は無意識を操る能力を得た。その代償というべきか自分の意志が酷く欠如してしまった。最近はましになってきた方だが、無意識に行動することが多く、気付いたら居なくなっている。そんなことに少し寂しさを感じたりするのだが。
「こいし。」
何となく呟いてみる。呟きはそのまま消えていく。
「こいし。」
また呟いてみる。やはり、返事はなくそのまま消え去ってしまう。突然、私は不安に襲われた。もしかして、妹も呟きと同じでふっと消えてしまうような気がして。
「こいし。」
呟けば、また生まれる。そして、すぐ消える。生まれては消えを繰り返すその場だけのもの。この先、記憶には残れど形をなして残ることは決してない。妹ももしかして、そんな存在ではないのか。ふらっと現れては消え、また現れて。自分が一日のうちに何を呟いたのか全て覚えていないように、妹の存在も忘れてしまうのではないか。
「こいし、こいし。」
もう一回呟く。やはり、すぐ消えてしまう。妹も消えてしまうのか。妹の顔が思い出せない気がする。
「こいし…こいし…」
妹は居る。確かに存在する。そう噛み締めるように呟く。それでも、呟きは消えて。落ち着こう。一体どうしてこんなことを考えているのか。妹とは毎日会っているではないか。偶に会わない日が会ってもいつも地霊殿に帰って来ているではないか。行くあてもなくふらふらしていても愛しい妹だ。心が読めなくても愛しい妹だ。そこではっと気付かされた。私は妹の心が読めないのだ。どんな動物、人間、妖怪であれ私は心を見ることができる。しかし、妹だけは見ることができない。妹は本当に存在しているのだろうか。これで、妹がいるかなどとペットたちに聞けば全員が口を揃えて当たり前じゃないかというに決まっている。だが、私は不安だった。もしかして、目を閉ざした日に妹は死んでしまったのではないかという妄想にすら取り付かれる。
「こいしっ…!」
力を込めて呟く。そうしなければ、私の中で妹が消えてしまいそうで。それこそが妹がこの世にいる存在証明であるがように。
「お姉ちゃん。」
優しい呟きが聞こえる。妹の声だ。普段聞いている妹の声だ。毎日聞いている筈なのにとても懐かしく感じた。
「こいし。」
私も優しく呟き返す。妹は私の目の前にいた。確かに存在した。
「こいし、貴方はこいしよね?自分で考えて自分の心を持つ私の妹よね?」
私は聞いた。聞かずにはいられなかった。妹は微笑んだ。
「愛してるよ、お姉ちゃん。」
妹は突然話しかけてきた。
「それで、どうしたの?こいし。」
そう声をかけると妹は何処かへすうっと消えてしまった。大方、無意識を操る能力を使ったのだろう。私の妹、古明地こいしは覚妖怪でありながら、心を読むことができない。覚妖怪の核である第三の眼を閉ざしたのである。それからというもの、妹は無意識を操る能力を得た。その代償というべきか自分の意志が酷く欠如してしまった。最近はましになってきた方だが、無意識に行動することが多く、気付いたら居なくなっている。そんなことに少し寂しさを感じたりするのだが。
「こいし。」
何となく呟いてみる。呟きはそのまま消えていく。
「こいし。」
また呟いてみる。やはり、返事はなくそのまま消え去ってしまう。突然、私は不安に襲われた。もしかして、妹も呟きと同じでふっと消えてしまうような気がして。
「こいし。」
呟けば、また生まれる。そして、すぐ消える。生まれては消えを繰り返すその場だけのもの。この先、記憶には残れど形をなして残ることは決してない。妹ももしかして、そんな存在ではないのか。ふらっと現れては消え、また現れて。自分が一日のうちに何を呟いたのか全て覚えていないように、妹の存在も忘れてしまうのではないか。
「こいし、こいし。」
もう一回呟く。やはり、すぐ消えてしまう。妹も消えてしまうのか。妹の顔が思い出せない気がする。
「こいし…こいし…」
妹は居る。確かに存在する。そう噛み締めるように呟く。それでも、呟きは消えて。落ち着こう。一体どうしてこんなことを考えているのか。妹とは毎日会っているではないか。偶に会わない日が会ってもいつも地霊殿に帰って来ているではないか。行くあてもなくふらふらしていても愛しい妹だ。心が読めなくても愛しい妹だ。そこではっと気付かされた。私は妹の心が読めないのだ。どんな動物、人間、妖怪であれ私は心を見ることができる。しかし、妹だけは見ることができない。妹は本当に存在しているのだろうか。これで、妹がいるかなどとペットたちに聞けば全員が口を揃えて当たり前じゃないかというに決まっている。だが、私は不安だった。もしかして、目を閉ざした日に妹は死んでしまったのではないかという妄想にすら取り付かれる。
「こいしっ…!」
力を込めて呟く。そうしなければ、私の中で妹が消えてしまいそうで。それこそが妹がこの世にいる存在証明であるがように。
「お姉ちゃん。」
優しい呟きが聞こえる。妹の声だ。普段聞いている妹の声だ。毎日聞いている筈なのにとても懐かしく感じた。
「こいし。」
私も優しく呟き返す。妹は私の目の前にいた。確かに存在した。
「こいし、貴方はこいしよね?自分で考えて自分の心を持つ私の妹よね?」
私は聞いた。聞かずにはいられなかった。妹は微笑んだ。
「愛してるよ、お姉ちゃん。」
最後の意味深な言葉の意味は何なのだろうか...
想像が捗るよ
いや、(意味深)じゃなくてね?
素敵な表現をなされているのでもったいないかんじです。
非常にきれいな描写が好みでした。