Coolier - 新生・東方創想話

音の理由

2014/04/05 22:42:16
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一人の騒霊が目を開いた。それが彼女の誕生の瞬間だった。薄く埃の積もったテーブル、灯りの消えたシャンデリア、純白のベッド。そして、淀んだ部屋の隅で涙を流す少女。

騒霊は少女に近づき、頬を伝う涙を拭い、尋ねた。

「貴方の名前は?」

少女は少し顔を上げ、震える唇を開き答えた。

「レイラ・プリズムリバー」

騒霊は小さく頷き、二つ目の問いを口にした。

「じゃあ、私の名前は?」

レイラは大きく目を開いたかと思うと、今までの涙が嘘であるかのように、眩しい笑顔を見せた。どこまでも明るく、透き通った笑顔だった。

「・・・ルナサ・・・姉様?」

===

その日から騒霊は、「ルナサ・プリズムリバー」としてレイラ・プリズムリバーと共に暮らすようになった。

「ほら、ルナサ姉様。懐かしいでしょう?」

或る日、レイラは「ルナサ」に一枚の写真を見せた。レイラの他に、三人の少女と一組の男女が映っている。皆溢れんばかりの笑顔で、何度も見返したせいか四隅が欠けてしまっていた。

「懐かしい?」

「ルナサ」は首を捻った。渡された写真は初めて見たものであったし、映っている人々もレイラ以外面識が無かった。

「ほら。ルナサ姉様も笑ってるじゃない」

レイラは写真の中の少女を指差した。ウェーブのかかった栗色の髪と、青い瞳を持った少女だった。

「え?だって私は・・・」
「もう、ルナサ姉様ったら忘れちゃったの!?私ルナサ姉様が帰ってくるまで、毎日見返してたんだから!」

「ルナサ」はレイラから写真を借りて、鏡に映る自分と比べてみた。身長も顔立ちも何一つ似ていない。鏡に映る「ルナサ」は明らかに別人だった。

===

レイラと「ルナサ」が共に暮らし始めて数カ月が過ぎた。二人は庭の花の手入れをしたり、本を読んだりしながら、縷々と流れる日々を過ごしていた。

そんな或る日、二人目の騒霊が生まれた。騒霊は、レイラと「ルナサ」が花を摘んでいる時に生まれた。

「メルラン姉様も、帰ってきてくれたのね!」

レイラは二人目の騒霊を「メルラン」と呼び、満面の笑顔で抱きしめた。「メルラン」は二回大きく瞬きをした後、レイラの髪を撫でながら言った。


「そう!メルランは帰ってきたわよ!」

===

こうして一人の少女と二人の騒霊の生活が始まった。レイラはことある毎に、二人にあの写真を見せた。

「私、この写真が大好きなの!」

写真を眺めるレイラはいつも笑顔だった。

「うん!私もこの写真大好き!」

「メルラン」もレイラと同じように笑う。「ルナサ」だけはうまく笑うことができず、いつも俯いてしまっていた。「メルラン」もまた、写真の中のメルランとは違っていた。

===

三人目の騒霊が生まれたのは、レイラが静かな寝息を立てながら、夢を見ていた時だった。目覚めたレイラは三人目の騒霊を「リリカ」と呼び、彼女にあの写真を見せた。「リリカ」はじっくりと写真を眺めた後

「良い写真だね」

と言った。レイラは嬉しそうに笑い、写真を自分のポケットにしまった。「ルナサ」はもう、その写真を見ようとはしなかった。

===

レイラはゆっくりと、しかし確実に歳を取っていた。動きが鈍くなり、腰が曲がり、髪に白髪が増えた。一日の大半をベッドの上で過ごすようになった。三人の騒霊はいつも、寝転ぶ彼女の傍にいた。

そしてレイラは死んだ。変わらない或る日の始まりに、お気に入りのベッドの上で。「メルラン」は大声で泣き、「リリカ」は冷たくなったレイラの手を握っていた。「ルナサ」は何もすることが出来ず、ただその場に立ち尽くしていた。

===

それから長い時間が過ぎた。三人の騒霊は幻想郷へと移り、プリズムリバー楽団を結成した。

音を奏でる時、「ルナサ」はいつもレイラのことを思い出す。初めてレイラと出会った時のことだ。レイラは大粒の涙を流しながら、たった独りで怯えていた。細い体を震わせていた。

「ルナサ」は鬱の音を奏でる。やり場のない悲しみを奏でる。今日もまた、そこに一つの涙が生まれた。
久しぶりに悲しい話を書いた気がします。どうも、しいなふみです。今回はできるだけ心理描写をしない文体を試してみました。自分の持ち味を殺しているような気がしないでもないです。

リアルが忙しくなりそうなので超短編として投下します。いつか同じテーマで長編を書いてみたいなと思います。
四一七二三
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コメント



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3.90絶望を司る程度の能力削除
これはこれは……鬱の音なのはこういう解釈もあるのか。面白かったです。短く丁寧にまとまっていたと思います。
5.70奇声を発する程度の能力削除
こういう感じのも悪くはないですね