Coolier - 新生・東方創想話

幼き蒼天のミゼラブルフェイト

2014/04/03 08:25:07
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冥界。死者しか住まぬ雲の上の楽園。
空は灰色の雲に覆われ、所々に陽光が細く差している。
季節は冬、白玉楼の庭一面に雪が降り積もっていた。

その広大な白い庭を、一人の幼い少女が走り回っていた。
雪を掬っては空中に放り投げ、地面に倒れこんで雪に自分の輪郭をつけたりなどして思うように遊んでいた。
緑色の服とスカート、白い髪にリボンがついたカチューシャを身に付けたその少女の後ろをふよふよと白い半透明の塊が追いかけていた。まだとても幼い頃の魂魄妖夢だ。
そんな元気で活発な妖夢を、幽々子は縁側に座って眺めていた。
幽々子は思う。


この娘に生きる選択を与えてやれないかと。


魂魄家の者は代々西行寺家に仕えるのがならわしで、妖夢も将来的には幽々子に仕えることになる。少なくとも、祖父である魂魄妖忌はそのつもりでいる。
幽々子はため息を吐いた。
いくらならわしとはいえ、あんな可憐な子を私を守る剣士にするだなんて... ...。
剣士としての修行や従者としての振る舞いなど覚えなければ、やらなければならない、とても辛い日々が待っている。
妖夢をそんな辛い目に遭わすなんて... ...考えただけで幽々子は胸が苦しくなった。

幽々子は顔を上げて庭ではしゃぐ妖夢を見る。
妖夢は、幽々子が亡霊になって初めてできた、とても身近な存在だった。
まるで妹のように幽々子は彼女を可愛がり、世話をしてきた。それは自分の愛娘と言ってもよかった。
彼女と共に、ずっと暮らしていたいとも思っていた。

だけど妖夢には妖夢の人生がある。
彼女が歩むべき道は彼女が決めるべきだと幽々子は考えている。
ならわしやしきたりに捕らわれず、自由に生きる権利がある。

しかしそれはできない。幽々子には妖夢を自由にすることができない。
幽々子はそんな自分をもどかしく思っていた。
妖忌に諭された、あの時からずっと。





数年前、幽々子は屋敷の居間でまだ生まれて間もない妖夢を抱いて同じ部屋にいる妖忌に問うた。

「... ...それじゃあやはり貴方はこの子に自分の役目を継がせるつもりなのね」
「左様でございます」

妖忌は幽々子の瞳をしっかり見据えて言った。

「... ...二人がいなくなった今、魂魄家としての役割を果たせるのは私だけでございます。しかし私が死ねば誰も幽々子様を守ることができなくなる。しかして私は魂魄家の血を引き継ぐ妖夢に、いずれ後を継がせる腹積もりでございます」

妖忌の言い方は真に迫るもので、また、絶対に考えを変えるつもりはないという意思がありありとこめられていた。
本来ならば妖忌は自身の息子と嫁。すなわち妖夢の両親に、自分の役割――西行寺家専属剣術指南役兼白玉楼庭師の役を継がせる予定だった。

しかし妖夢が生まれてから僅か一ヶ月後に二人は命を落とした。
二人の遺体を運んできた八雲紫によれば、冥界に結界を破って侵入しようとした妖怪と二人は戦い、一匹残らず始末した。しかし二人はその時の傷が元で、その場で亡くなったという。妖忌はこの時、屋敷を開けていた。
後継者がいなくなった妖忌は、やむを得ず孫である妖夢に自身の役目を継がせることに決めた。

その事情を当然ながら幽々子は知っている。
しかしそれでも幽々子は妖忌を睨めずにはいられなかった。
この子には自由に生きる権利がある、そう主張している。
何物をも射殺すようなその視線に見つめられても、妖忌は物怖じせずに続けた。

「幽々子様の言いたいことはわかっております。しかしですな」

妖忌は立ち上がり、上から目線で幽々子を見て言い放った。

「全ては幽々子様を守るためなのです。貴女様が最も恐れている恐怖、それを防ぐことができるのは魂魄家の者だけ。致し方のないことなのです... ...」

その言葉を最後に妖忌は居間から出て行った。
幽々子はただうなだれるだけであった。





私はあの子にしてやれることは何もないのだろうか?
幽々子は考える。
妖夢に自由な未来を与えてやりたい。
自分のなりたいものになって、好きな人と結婚して、子供が生まれて、何不自由のない幸せな生活を送る。
妖夢にはそういった幸福な時を過ごして欲しいと思う。
でも私の心は「妖夢を手放したくない」と思っている。

... ...そもそも私という存在は何なのだろう。

何故私は亡霊でいるのだろうか。父も母も、なぜ私を置いて逝ってしまったのだろうか。

彼女は生前の記憶を失っているため両親の顔も当然ながら覚えていないし何故自分だけ亡霊になったのかさえも知らない。
幽々子は右手で自分の心臓(?)の辺りの服を掴む。

私は亡霊にならずに彼岸へ行けばよかったと思う。
そうなれば私はこの恐怖を味わわずに済んだのに... ...

未来永劫亡霊としてこの地に留まり続ける幽々子が恐れる『孤独』という名の恐怖。

幽々子に親類はいない。今でこそ妖忌や妖夢といった家族に等しい存在はいるものの、それを失ってしまえば幽々子は涙し、陰鬱な生活を送るだろう。
長き時を生きる者にとって避けることのできない孤独という名の恐怖。だが幽々子はそれ以上に、自分が妖忌と妖夢の未来を縛り付けているという責め苦の感情のほうが大きかった。
幽々子はふと自分の手を見つめた。

... ...私のこの力は命だけでなく未来や人生をも奪うというの?私はここに居てはならない存在なのだろうか?

この力があるから私は死霊を操れ、その力を買われて閻魔様から冥界の幽霊管理を任されているけれどそれはあくまで事務。
根本的な存在意義を、私は見出せないままここにいる。

ならば私は一体何者なのだろうか?
私の心はどこにあるのだろうか?
私が存在し続けることを、妖忌と妖夢は心の底から望んでいるのだろうか?
私は... ...





           二人の人生を縛り付ける、ただの「鎖」なのだろうか










「............さま...........こさま............ゆゆこさま!」

自分を呼ぶ大きな声で幽々子は意識を現実へと引き戻して顔を上げた。
目の前に妖夢がいた。
年相応の幼い童顔だが、その表情はとても心配そうだった。後ろに何か隠しているらしく、両手を背中にまわしていた。

「ゆゆこさま... ...だいじょうぶですか?」

心配顔で妖夢に問われ、幽々子は笑顔を作って答えた。

「ええ、大丈夫よ」

そう言って頭を撫でる。
幽々子は妖夢の頭を撫でるのが好きで、妖夢が傍にいる度に幽々子はそうしている。妖夢の可愛らしい笑顔が見られるからだ。
だが妖夢は未だに心配そうな表情のままだった。

「でもゆゆこさま、とってもかなしそうだったよ... ...」
「妖夢は賢いわね、でも本当に大丈夫だから。心配してくれてありがとう」
「そう、ですか... ...」

妖夢はしぶしぶといった感じで引き下がるかのように俯いた。幽々子はその言葉を機に妖夢の頭から手を離した。
この娘に心配をかけさせてはならない。
これは私一人で背負うべきもなのだから... ...

「そういえば妖夢、貴女の後ろにあるのは何かしら?」

幽々子は妖夢の心配をかき消すため別の話題へと振った。
妖夢は今気付いたかのように後ろへちらと目をやってから答えた。

「えっと... ...これはね、ゆゆこさまへのおくりものなの」
「私への贈り物?」
「うん!」

妖夢は輝くような笑顔を見せると「はい!」と言って背中に回していた両手を前に出した。
その手にあったのは... ...

「... ...花冠... ...?」

幽々子は茫然とした声を出した。
今は冬、咲いている花の種類は当然ながら他の季節より少なく、さらにここは冥界。顕界よりも咲く花の種類はさほど多くない。
だがこの花冠は四種類の花で作られており、色も鮮やかだった。
その一つは薄桃色をした花弁が星のように五角形のように並んでいる。
幽々子にはそれがすぐに桜だということに気づいた。
しかし後の三種類は幽々子が見たことのない花だった。

紫色の花弁を見せる花は一つの柄から小花が円柱形に並んでいる花穂。
濃い赤色の花は桜よりもきれいな五角形をしているが、花弁同士でくっついておらずに離れている。
そして菊のような形をしている白と薄紅色の花。

それらをまじまじと見つめ、やがて顔を挙げて妖夢に聞いた。

「妖夢、これらの花は何かしら?教えてくれない?」

しかし口にした途端にしまったと幽々子は思った。
幽々子が見たことのない花を、妖夢が知っているはずがない。悲しげな顔でごめんなさいと言うのだろう。
それだけは避けたかった。幽々子は妖夢の悲しい顔を見るのが何よりもつらいからだ。

しかし妖夢は笑顔を見せて、「うん!教えてあげる!」と返事した。

予想と違った表情を見せられ、幽々子はあっけにとられた。そんな幽々子をよそに、妖夢は胸ポケットから二つ折りにした紙きれを取り出した。

「えっとねー」

相槌を打ちながら妖夢は紙きれを開いて目を走らせてから答えた。

「このむらさきのはね、『るぴなす』っていってそとではおまめとしてたべてるんだって。このあかいのは『もみじあおい』。もみじににてるからそうよばれてるの。きくみたいのは『でんとろびうむ』というなまえで... ...よくわかんないけど『たかめ』になったらはながさかなくなっちゃうんだって。そして『さくら』!ゆゆこさまがだいすきなおはなでわたしもだいすきな、すてきなおはな!」

最後の文章を読み上げると同時に顔を上げ、太陽な笑顔を見せる妖夢。その笑顔と博識さに、幽々子はぽかんと口を開けているだけだった。

この娘はいつの間にこんな素敵な物を... ...私の為に... ...。だけど... ...。

「どうしてこの四つなのかしら?」

幽々子は優しく妖夢に聞いた。妖夢は再び紙切れに目を落とし、すぐに顔を上げて答えた。

「えっと... ...このよっつのおはなはね、きせつをあらわしてるんだって。『さくら』は“はる”、『るぴなす』は“なつ”、『もみじあおい』は“あき”、『でんとろびうむ』は“ふゆ”のはななんだってゆかりさまが... ...あ!」

言ってしまった途端に妖夢はバツが悪そうにうつむいてしまった。しかし幽々子は表情を変えなかった。

やっぱり紫ね... ...。妖夢が自力でこの花を選んだり摘んだりできるはずがないとは思ってたわ。
まあこの花冠を手に取った瞬間からわかってたけどね。冠を象っている花に、枯れないように小さいながらも結界が張ってあるし。
でも珍しいわね、あいつがこの娘に手を貸すだなんて。
一応聞いてみようかしら。尋問のような真似はしたくないんだけど... ...。

「妖夢」

呼ばれた途端に目の前の少女はびくっと肩を跳ね上がらせ、恐る恐る顔を上げた。

「紫は貴女に何を言ったのかしら?説明してくれない?」

幽々子はできるだけ棘を含んだ声にならないように注意しながら質問する。
妖夢は少しの間、黙り込んで再び俯いたが、やがてぽつりぽつりと話しだした。

「... ...きょねん、にわをさんぽしながらゆゆこさまになにかおくりものをしたいなってかんがえてたの。でもなにもおもいつかなくてどうしようかなってつぶやいたら、きゅうにゆかりさまがあらわれてびっくりしたのをおぼえてる。」

幽々子は妖夢に聞こえないようにため息をついた。あれほど妖夢の前ではスキマを使って現れないでっていったのに... ...。
当時妖夢はスキマを怖がっており、そのようにして紫が幽々子の前に現れるたびに、妖夢は幽々子の背中に回ってしがみついていた。
妖夢は続ける。

「それでゆかりさまは『悩みがあるなら私が聞いてあげる』っていってきて、ゆゆこさまになにかあげたいんだけどいいものがありますか?ってゆかりさまにいったの。そしたらえがおで『少し時間がかかるけど、私にまかせて。このことは誰にも秘密よ』って言って私が頷いたら、あっというまにいなくなったの」
「それからずいぶん経ってからこれを渡されたのね」

幽々子は手に持った花冠を妖夢に見せ、妖夢は頷いた。

「うん... ...でもこれをわたされたの、ついさっきなの」
「え?」
「さっきにわであそんでたらゆかりさまがあらわれて『幽々子にぴったりなものを作ってきたわ』っていってこのはなかんむりを、せつめいをかいたかみといっしょにわたしてきたの。わたしがありがとうございますっていったら『頑張って』ていってまたきえちゃった... ...。それからわたし、すぐにゆゆこさまにわたしてこようっておもって... ...」

最後の言葉は尻すぼみになって消え、妖夢は押し黙ってしまった。
幽々子は首を伸ばして庭を見渡すが、紫の姿もスキマも見当たらない。
首を引っ込めてて一息吐いた途端、「ゆゆこさまごめんなさい!」と、妖夢は頭を下げて謝った。

「どうして謝るの?」
「だって... ...... ...だって... ...... ...」

妖夢は涙目で震えた声で答える。

「おじいさまがいってたもん。じぶんできめたことはじぶんでやりとげるものだって... ...それなのにわたし、ゆかりさまにめいわくをかけちゃって... ...。だから... ...」
「わかっているわ。妖忌には言わないでおくわよ。でも」

幽々子はそっと妖夢の頭に手を乗せた。妖夢は不思議そうに幽々子を見る。

「妖夢は何にも悪いことはしてないわ」
「え... ...でも... ...」
「確かに自分で決めたことは自分でやり遂げるものよ。でもそれは自分一人でできることだけ。それができないことなら、遠慮せずに、他の人の手を借りてもいいのよ」
「... ... ... ...そう、なの?」
「ええ、少なくとも私はそう思ってる。でもそんなことより」

幽々子は空いた片手で花冠を脇に避け、両手で妖夢の腰を抱えて自分の膝の上に乗せた。妖夢はきょとんとしている。

「妖夢が私の為に贈り物をくれたこと。それが何よりも嬉しいの。嬉しい気持ちで一杯で、他の細かいことなんて、気にもならないの。だから妖夢が気に病む必要は無いわ」

そう言って幽々子は妖夢の腰から手を離し、いつも被ってる帽子を取った。
代わりに、脇に置いといた花冠を手に取って頭に乗せた。
妖夢は驚いた目でそれを見つめる。

「貴女の私への感謝の気持ち、確かに受け取ったわ」

幽々子は妖夢を優しく抱きしめた。
途端に妖夢は嬉しさのあまり、泣き始めた。

「... ...ひっ、く... ...ぐすん... ...ゆゆこさま... ...ゆゆこさま... ...あり、がとう... ...ございます... ...ぐすっ」
「今はまだありがとうでいいのよ。そんなに気を張らないで」
「はい... ...ゆゆこさま... ...ありがとう... ... .... ...」

妖夢は泣きながらもおずおずと幽々子の背中に手を回した。
幽々子は静かに嗚咽を漏らして泣く妖夢の背中を優しくさすっていた。

この娘はいつのころからか、幼いながらに自立が出来始めている。
私はそれを素直に喜ぶことが出来るだろうか。
少なくとも今は、無理。

いえ、今だからじゃない。
私が悩んでいる内は、喜べないだろう。

こんなに幼いのに。こんなにも純粋で、可憐なのに。この娘は自分の誇りを持とうとしてる。

でもそれは一体誰の為なのかしら... ... ... ...

「ねえ妖夢」

幽々子は肩越しに妖夢に問う。
自分で問うのを禁じてきた、惜別の答えを恐れた心を。

「貴女は将来何になりたい?」





「... ...しょうらい?」
「これから何がしたいのか、大きくなったらどんな自分になりたいのか。妖夢の口から聞きたいの」

妖夢は目を丸くしながら、瞬きした。
幽々子は変わらず優しい表情を浮かべていたが、その心は複雑だった。

... ...私は何を考えてるのかしら。
この娘はまだそういうことは考えているはずがないのに。早計だったわね。
ただの自己満足でしかない、こんな馬鹿げた問いなど... ...するべきじゃなかったわね。

妖夢が答えずにいると幽々子は俯き、沈黙を破った。

「ごめんなさい... ...ちょっとつかれててつい... ...今の事は忘れて」
「わたし、ゆゆこさまのそばにずっといたい!」



... ...え?



この娘はいまなんて... ...

幽々子は顔を上げて呆気にとられる。そこには太陽のような笑顔があった。
妖夢は興奮した口調で語り始める。

「ゆゆこさまはわたしにとっておかあさんのようなかたなの。ゆゆこさまのおひざはあたたかくて、それでやさしくなでてくるゆゆこさまのてがきもちいいの。わたしはおかあさんをしらないけど、なんとなくおかあさんてこういうのなのかなってわかったの」
「妖夢... ...... ...」
「わたしね、ゆゆこさまにほんとうにかんしゃしてるの。それでいつか『ほんとうの』おんがえしがしたいなっておもってるの。おくりものをするだけじゃなくて、おおきくなったらできることをして、ゆゆこさまによろこんでもらいたいの」
「... ... ... ... ... ... 」
「それでいつかはおじいさまのあとをついでゆゆこさまをおまもりするの!」
「... ... ... ...ッ!?」
「いろんなことをおそわって、ゆゆこさまによろこんでいただけることをたくさんするの。それで... ...」
「妖夢」

幽々子は妖夢の話を中断させ、妖夢の肩を掴んだ。妖夢はきょとんとする。
幽々子は説き伏せるかのように語る。

「貴女は本気なの?」
「え?」
「私を守る剣士になる道のりは想像以上に厳しいわ。つらくて投げだすかもしれない。後悔するかもしれない。私は妖夢にそんな気持ちを持たせなくないの」
「ゆゆこさま... ...」

妖夢が寂しそうな表情を見せる。
それにあてられて、幽々子は口を閉じた。

この娘にはまだ自覚がない。
それなのに妖夢を責めるのは間違っているわ。
そう、全ては... ...

「私がいるから、いけなのね。私という存在が貴女達魂魄家を縛り付けている。私さえいなければ... ...」
「ゆゆこさま、いなくなっちゃうの?」

妖夢の問いに幽々子は俯いて答えた。

「... ...そうね、それが出来ればいいのにね。私が」
「ゆゆこさま!」

突然、妖夢が幽々子に抱きついた。
勢いがあったので後ろに倒れそうになったが、何とか踏み止まった。
幽々子は茫然として妖夢を見つめる。

「妖夢... ...」
「... ...いなくならないでください」

妖夢は顔を上げた。
涙でくしゃくしゃになっていて、とても悲しげだった。

「どこにもいかないでください!わたしは... ...わたしは、ゆゆこさまのことがだいすきなんです!ゆゆこさまがいなくなったら、わたしは... ...ひとりぼっちになってしまいます。そんなのいやです!」

妖夢は顔をうずめた。

「どんなことだってたえてみせます。つらいこともくるしいことがあっても、わたしはいっしょう、ゆゆこさまといっしょにいたいんです!だから,,, ,,,だから... ...」

幽々子の服を力いっぱい握りしめながら、妖夢は言葉を紡いだ。

「いなく... ...ならないでください... ...ゆゆこさま... ...おねがい、します... ...」

その言葉を最後に妖夢は泣き始めた。
しゃくりあげながらも、妖夢は幽々子にしがみつく手の力を緩めなかった。
幽々子は妖夢を見下ろしながら考えていた。

妖夢は私と一緒に居たいと言ってくれている。
間違いなく、本心だろう。

私はここに居てもいいの?存在してもいいの?
妖夢の悲しむ姿は見たくない。
答えは一体どこにあるのだろうか... ...?











... ... ... ... ... ... ... ...いや

答えは、私の目の前にある。

妖夢の為に生きる。

それで、いいわ。

私を愛してくれる人がいるのなら、私は鎖であってもいいのかもしれない。

それが例え一時に過ぎないものであったとしても... ... ... ... ... ... ...





「... ... ... ...大丈夫よ」

幽々子はそっと妖夢の背中に手をまわした。
妖夢が顔を上げて幽々子を見る。
涙で滲んだ視界の向こうに見えたのは子を安心させる、母親のような優しい笑みだった。

「私はどこにも行ったりしない。妖夢の傍に、ずっといるわ」
「... ... ... ...ほんとう?」
「ええ。約束するわ」

そう言ってその手の中に居る愛娘を抱きしめた。妖夢はしばし瞬きした。
やがて瞳を潤わせて泣き顔で顔が歪んだと思うと、幽々子の胸に顔をうずめて再び泣きだした。
体を震わせて泣く妖夢の背中をさすりながら、幽々子は涙を流していた。

絆が深まればそれだけ別れの時は悲しくなる。
でもそれを恐れていては過ごしていく時の中で、変わることができなくなる。
変化が抗いのないものならば、私はそれを甘んじて受け入れよう。

幽々子は妖夢を見下ろして思う。

例えこの娘が大きくなって今日の事を忘れてしまっても、私は決して忘れはしない。
妖夢が私の従者になった時は、私がこの娘を支えよう。
今と変わっていても、妖夢自身であることには変わりない。





精一杯に愛そう。この幼子を。私が鎖という十字架であっても。



この命が尽きるまで――



幽々子が被っている花冠に日が当たって僅かに煌めいた。




















あれから数十年の月日が流れた。
幼子は成長して剣士となり、失踪した祖父の跡を継いで、幽々子に仕える従者になった。

幽々子は少女となった彼女を変わらずに愛していた。
屋敷ではもちろんのこと、出かける時もなるべく彼女と一緒に居られるようにいつも強引に連れて行った。

しかし今、幽々子は一人でいた。
幽霊が溢れているがそこは白玉楼ではない。
早朝、まだ日が昇りきらないその土地に華胥の亡霊は佇んでいた。

誰にも知られたくなかったのだ。
自分がこれからやろうとしていることを、想いを。取り分け自分が溺愛している庭師には。

彼女は思い出してしまったのだ。
その少女にしてやりたいことを、望んでいたことを。

根本的な強迫観念に捕らわれた彼女は今、それを叶えようとしていた。

目の前に闇が見える。全てを飲む込む闇が。
幽々子は目を閉じて愛娘に想いを馳せた。





妖夢... ... ... ...ごめんね... ... ... ...










さよなら





目を開けると彼女は迷うことなく闇に向かって手を伸ばした。



闇はすぐに彼女を飲み込んだ。





幽冥楼閣の亡霊少女は、全てを闇に堕として、楽園から姿を消した。
桜(春)        心の美しさ
            精神の美
            優美な女性
 
ルピナス(夏)   あなたは私の安らぎ  
            いつも幸せ
            空想・想像
            母性愛

モミジアオイ(秋)   温和
            穏やかさ

デントロビウム(冬) 美人・わがままな美人
            天性の華を持つ
            真心・思いやり
         

二作目の合間に細々と書いてきた三作目。二作目終わってませんが。

新年に入って三日後、「牛に引かれて善光寺参り」の曲を聴きながら善光寺を参拝したときに思いつきました。

一応伏せてはいるんですが読まなくても問題ないです。この作品の続きを匂わせたかっただけです。
続き自体はまだ五分の二程度しか書いていません。いつになるやら... ...

二作品目は所事情で停滞気味になってしまって、現在執筆を中断しております。
ですが投げっぱなしにはしませんので完成はさせます。

ゆゆさまほど母性に溢れた方はそうそういないと思います(キリッ 

では読んでくださってありがとうございました!        

追記 4/9 一部修正しました。
非現実世界に棲む者
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コメント



0.240簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
漫画的な表現と逆接の接続詞が目立ちます、がテーマを絞って丁寧に描いていると感じます。
3.30名前が無い程度の能力削除
テンポが悪いなぁ。
情報を全て書くのではなく、読者の想像に任せる部分と必要不可欠な部分で取捨選択すると全体がすっきりして読みやすくなると思います。
それと、雪が降り積もる舞台で急に花の冠が出てくるのは、紫が持ってきたものだとしても違和感があります。
舞台を優先させるなら雪原らしい贈り物を、花を優先させるならそれに見合った舞台に統一してみてはいかがでしょう。
5.70絶望を司る程度の能力削除
面白かったです。幽々子様、貫禄あるなぁ……。
6.40名前が無い程度の能力削除
情報を全て列挙して繋げただけのものを面白いとは決して言えないかなぁ。
それにしたって一々リズム悪くてすんなり読めない。

前も言ったかもだけど、まるで報告書読んでる気分。地の文を少し見直してみるといいと思います。
8.100名前が無い程度の能力削除
良かったです
幽々子が本当に妖夢を愛してるのですね
本当に愛すれば繊細になるものです

両親が戦死したというの兵の哀愁がありますね
兵には任務があり戦うべくときに戦わないといけませんが人間はとても死に易いのでいくら強くてもその命は基本消耗品です まあ半霊ですが
そんな消耗品を愛する者にさせて良いのか自分のために消耗品になるからこそ愛せずにはいられないのか消耗品を深く愛するべきではないのではないか
東方の主従がはらんでいる魅力はどこかでそういう矛盾を意識があるからだと感じました
11.80名前が無い程度の能力削除
逆説にさらに逆説を重ねているところなど、読みづらく感じました。視覚的な表現が多すぎる気もしますね。小説は聴覚や嗅覚、触覚など絵では表現できないことを表現するといい、という話を聞いたことがあります。
幽々子様の能力が命のみならず人生まで奪ってしまっているのでは、という解釈には胸をうたれました。
12.無評価非現実世界に棲む者削除
皆さまコメントおよびアドバイスをありがとうございます。

文字でしか表わせない表現を並べただけでは中々伝わりづらいのだと痛感しました。
見直してはいますが、今の所四苦八苦してます。
自分で見る限りでは何の違和感がないように見えてしまって、改善点が見つけにくいものです。
文章の癖を改められるように努力します。

ちなみに雪庭にしたのは妖夢が庭中を駆け巡る状況にしたかったからで、紫がこの時に花冠を持ってきたのは四季を通して冬の花で完成したからです。
あまり待たせるのもよくないとはいえ、急過ぎましたね。

次回もよろしくお願いいたします。
14.60神社音削除
一人称と三人称が入り乱れてすぎていて、少し読みづらく感じます。
テーマ自体はとても良いと思います。