太陽が頂上に登り始めた幻想郷。それは何処にあるかもわからない幻想の世界。
その世界にある、人間もいる寺。命蓮寺。仏門に下った妖怪達のいる奇妙な寺の一室で、雲ひとつない天候にふさわしい賑やかな声が聞こえてくる。
「だからさ、ここは違うのよー。ここの歌詞はもっとこう何と言ったらいいかしら?そうね……何かを訴えかける様にすればいいんじゃないかなー?」
アンプの繋がっていないギターの弦を、右手に持つピックで弾きながら夜雀の怪、ミスティローレライが文句を言う。
「えーじゃあ何がいいと思う?この前参考のために聞いた曲の歌詞も、こんな感じだったたから、私はこのままがいいと思うけどなー」
ミスティアの言葉にそう答える少女。その少女に頭に垂れ下がった耳は、明らかに人間の物ではなく、何処か動物を連想させる。
人間が山で叫んだ声を、嬉々として返す愉快な妖怪やまびこ。その妖怪である少女、幽谷響子は、先ほどのミスティアの言葉に耳を傾けながら、何度も紙に書いた文字を消し、そして新しく歌詞を入れていく。
激しい歌を好むミスティアと、大きな声で人間の言葉を返す響子。二人はその性格の所為か、出会ってすぐに気が合い、バンドを組む事になった。
不満と抑圧を声に出して叫ぶバンド、『鳥獣伎楽』はその騒音に近い爆音と、不満や抑圧への解放を歌詞に乗せて叫ぶ為、人間の里に住む若者や、不満を持った妖怪には好評であったが、それ以外の人間や妖怪、特に響子が住む寺では不評であった。
むしろ、そのやかましさから、響子の住みこんでいる寺の住職である聖によって、二人はきついお仕置きをされてしまった。
「そんな音程の外れた音楽あるか」
寺の住む者達の辛辣な感想に、深くプライドが傷ついてしまった二人は、自分の音楽を認めなかった者たちを見返す為に、再び新たな曲を作りだそうとしている。
「一緒に聞いていた狸の親分に外の世界の音楽を聞かせてもらえてよかったね、私もあんなかっこいい曲を歌いたいなー」
二人は外の世界からやって来た化け狸、二つ岩マミゾウのアドバイスと協力によって、外から流れてきた音楽を参考に、作曲を続ける。
彼女達がマミゾウによって聞かされた曲は、そのどれもが有名であり、そして外の世界では消えかかっているレコードの物であった。
響子は音楽を二つ岩マミゾウから手渡された紙を広げると、再び歌詞を考える。
そこにはマミゾウが個人的に気に行っている曲の名前と、その歌詞の意味が書かれていた。
「ハイウェイスターってどういう意味だろうね?」
「さあ?でもなんだか歌詞を見た感じ、歌いながら飛んでると事故を起こしそう。後よく分からないけど、何故かあの黒と白の魔法使いなイメージ」
歌詞とは全く関係の無い事を呟きながら、彼女達は作曲をつづけていく。
歌詞を書いては消し、新しく書きなおす。
二人は何度も書いては消していき、とうとう鳥獣伎楽に新たな曲が生まれた。
「出来たー!やっと完成だよ」
「ようやく形になったわねー。後は私達で題名を考えるだけね」
大きく背伸びをした後、ギターを抱きかかえながら、畳に身体を預けるミスティアは、仰向けになりながら響子にそう伝える。
窓から見える空の景色は夕闇に染まり始めており、そこから彼女達が如何に歌詞を作り上げる事に時間をかけたかが窺える。
「そうねー。今こんな時間に音の調整なんかやったらまたお仕置きになりそうだから、タイトルだけでも決めちゃおっか!ミスティアは何かいい題名ある?」
響子にそう言われると、ミスティアは身体を起こし、ギターを隣に置いてうめき声を上げる。
夕暮れ時の寺にはふさわしい、お化けの様なうめき声は、半時を過ぎるとやがて途切れた。
「そうねー。殺害。とかどう?」
「最近ストレスでも溜まっているの?ミスティア?そんなの題名にしたら、私達の曲をみんなに聞いてもらう前に、お仕置きされると思うよ?」
おおよそ音楽とはかけ離れた、物騒な言葉をタイトルにしようとするミスティア。
その様子を見て、普段は楽天的な性格をした響子も、流石に不安を覚えてしまう。
「何かカッコイイ題名は無いの?もっと狸の親分がすすめてくれた曲とかを参考にしようよ。ここにも書いてある『バイツァ・ダスト』とか、『ボヘミアン・ラプソディ」とか、『ドント・ストップ・ミー・ナウ』とか」
響子にそう言われ、再び呻きだすミスティア。
「じゃあ狂った怪物」
「……」
次第に頭を抱え出したミスティアが、苦悶の声と共にタイトルを挙げていく。しかしそのどれもが常軌を逸した物であった為に、思わず響子は閉口してしまう。
「ミスティアって素敵な名前なのに、なんて酷いネーミングセンスなのかしら」
呆れた響子は思わずミスティアに対してそんな文句を言いだす。
「何よ!そこまで言う事ないでしょ!」
そして文句を聞いたミスティアは、怒りながら響子に迫る。
「酷いものは酷いと言ってもおかしくないでしょ!」
「せっかく考えているのに、それは言い過ぎよ!謝りなさい!」
些細ないい争いであった二人の口論はやがて規模を大きくしていき、とうとう弾幕ごっこへと発展していく。
部屋を飛び出した二人によって突如行われる、夕闇に染まりかけた空の下で行われる音楽の題名が原因の争い。
寺に次々と降り注いでいく弾幕。夕闇の空の下で流れ星のように落ちていくそれらを見て、寺にいた妖怪達は二人に弾幕ごっこを止めるように促す。
しかし、二人はその制止を聞く事なく、徐々にその規模と激しさを広げていき、とうとう寺にある物を壊したり、寺に住みついた化け傘に流れ弾が当たると言った被害を広げていく。
「あらあら。二人とも元気ね。これだけエネルギーがあるなら、あなた達が散らかした境内を全部掃除しても問題は無いわね?」
そして、その争いは突如現れた聖によって、終わる。
響子とミスティアが行った惨状を見回した聖は、笑顔が顔に張り付いただけの作り笑顔で二人を見る。
その両手には悪戯をした子猫の様に、首根っこを聖に掴まれた二人が蒼ざめた顔をしながら縮こまっていた。
「全く。せっかくの傑作ができたのにあんまりだわー」
響子がぼやきながら境内を竹ぼうきで掃いていく。二人は聖に捕まった後、こってりとお仕置きをされ、喧嘩のあと片づけを行う様に言われた。
いつ終わるともわからない後片付けをしながら、響子は、こんな酷いネーミングセンスを持ったミスティアが、どうしてあんなにきれいな声色を出せるのか、疑問を持ってしまう。
「なら、今度は響子が決めなさいよね」
ミスティアは睨みながら響子にそんな事を言う。
その視線と、怒気を含んだミスティアの声を聞いて、響子はもしかしたら自分もミスティアの様な酷いネーミングセンスを持っているのではないか、という不安を覚えてしまう。
「題名も決めないといけないけれど、メンバーも増やさないとね」
脳裏の不安をかき消すように、響子は鳥獣伎楽としてやるべきことを挙げていく。
「それって私達の音楽を認めてもらわないと難しいわよ?新しく作った曲も、ドラムとかキーボードがいないと難しいから。それに響子も楽器を扱えるようにならないとね」
そしてミスティアに言われた言葉。それはいつ解決するかもわからない問題であった。
「はあ……。ぎゃーてーぎゃーてーはらぎゃー」
「私もその真似してもいい?」
そんな問題にため息をついて、二人はいつ終わるかもわからない後片付けを忘れるかの様に箒を掃きながら、習わぬ経を読み始めた。
その世界にある、人間もいる寺。命蓮寺。仏門に下った妖怪達のいる奇妙な寺の一室で、雲ひとつない天候にふさわしい賑やかな声が聞こえてくる。
「だからさ、ここは違うのよー。ここの歌詞はもっとこう何と言ったらいいかしら?そうね……何かを訴えかける様にすればいいんじゃないかなー?」
アンプの繋がっていないギターの弦を、右手に持つピックで弾きながら夜雀の怪、ミスティローレライが文句を言う。
「えーじゃあ何がいいと思う?この前参考のために聞いた曲の歌詞も、こんな感じだったたから、私はこのままがいいと思うけどなー」
ミスティアの言葉にそう答える少女。その少女に頭に垂れ下がった耳は、明らかに人間の物ではなく、何処か動物を連想させる。
人間が山で叫んだ声を、嬉々として返す愉快な妖怪やまびこ。その妖怪である少女、幽谷響子は、先ほどのミスティアの言葉に耳を傾けながら、何度も紙に書いた文字を消し、そして新しく歌詞を入れていく。
激しい歌を好むミスティアと、大きな声で人間の言葉を返す響子。二人はその性格の所為か、出会ってすぐに気が合い、バンドを組む事になった。
不満と抑圧を声に出して叫ぶバンド、『鳥獣伎楽』はその騒音に近い爆音と、不満や抑圧への解放を歌詞に乗せて叫ぶ為、人間の里に住む若者や、不満を持った妖怪には好評であったが、それ以外の人間や妖怪、特に響子が住む寺では不評であった。
むしろ、そのやかましさから、響子の住みこんでいる寺の住職である聖によって、二人はきついお仕置きをされてしまった。
「そんな音程の外れた音楽あるか」
寺の住む者達の辛辣な感想に、深くプライドが傷ついてしまった二人は、自分の音楽を認めなかった者たちを見返す為に、再び新たな曲を作りだそうとしている。
「一緒に聞いていた狸の親分に外の世界の音楽を聞かせてもらえてよかったね、私もあんなかっこいい曲を歌いたいなー」
二人は外の世界からやって来た化け狸、二つ岩マミゾウのアドバイスと協力によって、外から流れてきた音楽を参考に、作曲を続ける。
彼女達がマミゾウによって聞かされた曲は、そのどれもが有名であり、そして外の世界では消えかかっているレコードの物であった。
響子は音楽を二つ岩マミゾウから手渡された紙を広げると、再び歌詞を考える。
そこにはマミゾウが個人的に気に行っている曲の名前と、その歌詞の意味が書かれていた。
「ハイウェイスターってどういう意味だろうね?」
「さあ?でもなんだか歌詞を見た感じ、歌いながら飛んでると事故を起こしそう。後よく分からないけど、何故かあの黒と白の魔法使いなイメージ」
歌詞とは全く関係の無い事を呟きながら、彼女達は作曲をつづけていく。
歌詞を書いては消し、新しく書きなおす。
二人は何度も書いては消していき、とうとう鳥獣伎楽に新たな曲が生まれた。
「出来たー!やっと完成だよ」
「ようやく形になったわねー。後は私達で題名を考えるだけね」
大きく背伸びをした後、ギターを抱きかかえながら、畳に身体を預けるミスティアは、仰向けになりながら響子にそう伝える。
窓から見える空の景色は夕闇に染まり始めており、そこから彼女達が如何に歌詞を作り上げる事に時間をかけたかが窺える。
「そうねー。今こんな時間に音の調整なんかやったらまたお仕置きになりそうだから、タイトルだけでも決めちゃおっか!ミスティアは何かいい題名ある?」
響子にそう言われると、ミスティアは身体を起こし、ギターを隣に置いてうめき声を上げる。
夕暮れ時の寺にはふさわしい、お化けの様なうめき声は、半時を過ぎるとやがて途切れた。
「そうねー。殺害。とかどう?」
「最近ストレスでも溜まっているの?ミスティア?そんなの題名にしたら、私達の曲をみんなに聞いてもらう前に、お仕置きされると思うよ?」
おおよそ音楽とはかけ離れた、物騒な言葉をタイトルにしようとするミスティア。
その様子を見て、普段は楽天的な性格をした響子も、流石に不安を覚えてしまう。
「何かカッコイイ題名は無いの?もっと狸の親分がすすめてくれた曲とかを参考にしようよ。ここにも書いてある『バイツァ・ダスト』とか、『ボヘミアン・ラプソディ」とか、『ドント・ストップ・ミー・ナウ』とか」
響子にそう言われ、再び呻きだすミスティア。
「じゃあ狂った怪物」
「……」
次第に頭を抱え出したミスティアが、苦悶の声と共にタイトルを挙げていく。しかしそのどれもが常軌を逸した物であった為に、思わず響子は閉口してしまう。
「ミスティアって素敵な名前なのに、なんて酷いネーミングセンスなのかしら」
呆れた響子は思わずミスティアに対してそんな文句を言いだす。
「何よ!そこまで言う事ないでしょ!」
そして文句を聞いたミスティアは、怒りながら響子に迫る。
「酷いものは酷いと言ってもおかしくないでしょ!」
「せっかく考えているのに、それは言い過ぎよ!謝りなさい!」
些細ないい争いであった二人の口論はやがて規模を大きくしていき、とうとう弾幕ごっこへと発展していく。
部屋を飛び出した二人によって突如行われる、夕闇に染まりかけた空の下で行われる音楽の題名が原因の争い。
寺に次々と降り注いでいく弾幕。夕闇の空の下で流れ星のように落ちていくそれらを見て、寺にいた妖怪達は二人に弾幕ごっこを止めるように促す。
しかし、二人はその制止を聞く事なく、徐々にその規模と激しさを広げていき、とうとう寺にある物を壊したり、寺に住みついた化け傘に流れ弾が当たると言った被害を広げていく。
「あらあら。二人とも元気ね。これだけエネルギーがあるなら、あなた達が散らかした境内を全部掃除しても問題は無いわね?」
そして、その争いは突如現れた聖によって、終わる。
響子とミスティアが行った惨状を見回した聖は、笑顔が顔に張り付いただけの作り笑顔で二人を見る。
その両手には悪戯をした子猫の様に、首根っこを聖に掴まれた二人が蒼ざめた顔をしながら縮こまっていた。
「全く。せっかくの傑作ができたのにあんまりだわー」
響子がぼやきながら境内を竹ぼうきで掃いていく。二人は聖に捕まった後、こってりとお仕置きをされ、喧嘩のあと片づけを行う様に言われた。
いつ終わるともわからない後片付けをしながら、響子は、こんな酷いネーミングセンスを持ったミスティアが、どうしてあんなにきれいな声色を出せるのか、疑問を持ってしまう。
「なら、今度は響子が決めなさいよね」
ミスティアは睨みながら響子にそんな事を言う。
その視線と、怒気を含んだミスティアの声を聞いて、響子はもしかしたら自分もミスティアの様な酷いネーミングセンスを持っているのではないか、という不安を覚えてしまう。
「題名も決めないといけないけれど、メンバーも増やさないとね」
脳裏の不安をかき消すように、響子は鳥獣伎楽としてやるべきことを挙げていく。
「それって私達の音楽を認めてもらわないと難しいわよ?新しく作った曲も、ドラムとかキーボードがいないと難しいから。それに響子も楽器を扱えるようにならないとね」
そしてミスティアに言われた言葉。それはいつ解決するかもわからない問題であった。
「はあ……。ぎゃーてーぎゃーてーはらぎゃー」
「私もその真似してもいい?」
そんな問題にため息をついて、二人はいつ終わるかもわからない後片付けを忘れるかの様に箒を掃きながら、習わぬ経を読み始めた。
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