――ああ、今日はその日かも、と私は白く眩しい空を見上げて思った。
⋆*自意識過剰と言うけれど*⋆
三月、まだまだ肌寒さはあるけれど、昼間は大分暖かくなった。
朝から門番をする身にとっては、ありがたい限り。
でも、できれば早く庭園に行って体を動かしたいな。
立ってばかりだと、嫌でも考えちゃうよ、その日のこと…。
考えると、手のひらに変な汗が滲むから、できるだけ考えたくない。
でも、注射をする直前に似ていて、嫌でも考えて、緊張してしまう。
「……いっそのこと、立ったまま寝ちゃう? 」
なーんて……
「あら、いい度胸ね」
「ひゃ!!」
突然、目の前に咲夜さんが現れた。
いつの間にか時を止められていたみたい。
腕を組み、目を細めて私の顔を覗き込んでくる。
――ち、近い!
思わずのけぞると、距離を詰められた。
門に背中が当たり、どきっとする。
「今日はいいお天気だものね、眠くもなるわよね」
そんな涼しい顔をして言われても。
咲夜さん、全然眠そうじゃない……。
「あ、えと、今のは、違くてですね」
「違うって何が?」
「その、別に眠くはなく……」
咲夜さんは不思議そうに首を傾げて言った。
「眠くないのに、立ったまま寝るの?」
「え!? そっ、それは……」
あああ、しまった! 余計な事を言っちゃった。
このままじゃ、私、頭のおかしな子だと思われちゃう!
でも、言えないよ……。咲夜さんに関係することなんだもん。
「何、慌ててるのよ」
咲夜さんは苦笑すると、すっと体を離した。
あ、何か言わなきゃ。でも上手い言葉が見つからない。
自分の言語能力のなさが悲しい……。
「――まあ、いいわ。ところで、今日は午後から時間あるわよね?」
気を取り直したように咲夜さんは言った。
「あ、はい。お昼までの勤務ですから」
来た、と、思った。
やっぱり今日はその日だった。
「なら、午後からまた付き合ってくれる?」
「はい、私でよければ」
「貴女しかいないでしょ」
「あ、そうですよね」
これは、私が咲夜さんにとって特別な存在という意味じゃない。
紅魔館のメンバーで咲夜さんにつき合える人物が、私しかいないという意味だ。
ただ、それだけなんだけど……言われると、どきっとしてしまう。
何でどきっとするかは、よく分からないけど、多分、憧れているからだと思う。
格好よく、完璧に仕事をこなす咲夜さんに……。
「それじゃ、いつもの時間に、ここで待ち合わせね」
「はい! 分かりました」
こくこく頷くと、次の瞬間には、ふっといなくなる咲夜さん。
また、時を止められたみたい。
「……はあ、緊張するなぁ」
呟いて、門に寄りかかった。
誰も見ていないのをいいことに、はああ、と盛大に息を吐き出す。
そして、咲夜さんと二人きりの午後の一時に思いを馳せた。
*
頬にするりと滑る風を感じながら、木々の上を飛んでいく。
無理にスピードは出さず、心地よいスピードで、春の陽気を感じながら。
目の前には、ラタンバスケットを片手に飛ぶ咲夜さん。
縁に白いレースがついた可愛いバスケットで、私も同じものを持っている。
中には何が入っているのかな? 今日は。
うーん、どきどきする。
「今日はあそこら辺に行きましょうか」
「そうですね」
咲夜さんが指し示したのは、森をくり抜いたように広がる野原。
上空からでも、白や黄色の草花が咲いているのが分かる。
大地を渡る風で野草が白く波打っていて、綺麗だ。
人里からは遠く、何の力も持たない普通の人間では、中々立ち入れないだろう。
咲夜さんに続いて野原に降り立ち、野原の端にある木立の下を選んでバスケットを置く。
そして、中から若草色のチェックのシートを取り出して敷き、座る場所を確保した。
――うん、いい眺め。野原全体が見渡せる。
木の葉から、ちらちら漏れる木漏れ日もいい感じ。
「……気持ちいいわね」
バスケットをシートに置いて一つ伸びをすると、咲夜さんは私に振り返った。
「真っ昼間からのんびりピクニックなんて贅沢よね」
「そうですね。お嬢様たち、日の光が駄目なの、残念ですよね」
「そうねぇ。パチュリー様も、図書館にこもってばかりだし、もったいないわよね」
「ですね」
……でも、だからこそ、こうして私が一緒に来られる。
もし、お嬢様たちが積極的に外に出るようなタイプなら、私の出番はなくなってしまう。
だから、お二人には悪いけど、役得だな、と思ってしまう。
「それじゃ、食べましょうか」
「はい!」
咲夜さんがバスケットを開けるのを、シートの上に正座して待った。
中から一段小さなバスケットを取り出す。中身は卵サンドだった。
パンの間に、ちぎったレタスと、半熟卵とマヨネーズをあえた具がぎゅっとつまっている。
一口食べたら、具がパンから落ちてしまいそうなくらい、たっぷりと。
「……」
どうしよう……。
思わず、ごくっと喉が鳴る。
美味しそうだからというのも、もちろんあるけど、もう一つ。
料理を零さずに食べる自信がない……!
そう、朝から私を悩ましていた原因はこれなのだ。
この麗らかな陽気と、二人の勤務スケジュールから、午後に出かける予想はついた。
咲夜さんと出かけること自体は嫌じゃない。むしろ嬉しい。
だけど、こういう食べ辛い料理を出されると、困ってしまう。
ちゃんと綺麗に零さず食べられるかなって思って、緊張してしまうのだ。
この前、魔理沙にそれとなく話してみたら、気にし過ぎだって鼻で笑われたけど。
気にしすぎなのは、分かっているんだけど……。
ポットから、小花柄のカップに紅茶を注ぐ咲夜さんを見つめる。
これで、相手が魔理沙だったら、私も緊張しないけど……。
それに二人きりだから、余計に緊張しちゃうのよね。
「さ、召し上がれ」
「いただきます」
咲夜さんが淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。
「……おいしい」
ふんわりと甘い紅茶の香りが、緊張した体をほぐす。
そして次は、問題の卵サンド。
……えっと、手に卵がつかないようにして。
後、一気に食べると横から卵が飛び出すから、それも気をつけないと……。
でも、レタスはちゃんと噛み切らないと出てきちゃうし。
口の周りに卵がつかないように注意もしなきゃ……。
意を決して卵サンドを手に取ると、じっとこちらを見つめる咲夜さんと目が合った。
口元に運ぶ手を止めて、訊ねる。
「ど、どうしましたか?」
「いえ、別に。食べたら?」
「は、はい……」
そんな、見つめられると、余計に食べ辛い。
でも、いつまでも持ったままではいられないし、はむっと齧りつく。
あ、美味しい……と思考が解けたのは一瞬。
次の瞬間、みゅっとパンの端から卵が零れて、ぽたっと緑色のスカートの上に落ちた。
「……! ……!」
もごもご口を動かして、ごくりと飲み込む。
嘘……。私、そんなに勢いよく齧ったっけ??
いや、それよりも、早くスカート拭かなきゃ。
あ、卵サンドは、ナプキンの上に置いて。
もうもう! 私ったら何してるのよ。
「……ふっ」
声が聞こえて、はっと顔を上げると、咲夜さんが口元に手を当てて笑っていた。
「あ……」
思わず、かああっと頬が熱くなる。
「ふ、本当、貴女って……」
咲夜さんの手が伸びてきて、スカートの上に落ちた卵をひょいとつまんだ。
そしてナプキンに包むと、ハンカチで拭ってくれる。
「す、すみません!」
「別に、構わないわよ。染みになったのは洗わないと駄目ね」
「うう、お恥ずかしいところをお見せして……」
「そんな恥ずかしいことでもないでしょ」
咲夜さんは首を傾げて言った。
「ねえ、どうしてそんなに緊張してるの?」
「えっ?」
「私といる時は、いつもそうよね」
「そう……でしょうか?」
「そうよ。正確に言うなら、二人きりでいる時にね」
「…………」
それは、憧れているから、情けないところを見せたくなくて……。
でも……本当に、それだけなの……?
本当に、それだけ?
咲夜さんの目を見つめていると、分からなくなる。
「…………」
さぁっと、少し強い風が吹いて、反射的に目を伏せた。
次の瞬間、目の前に迫っていた咲夜さんが、再度訊ねてくる。
「ねえ、どうして?」
「それは……」
「それは?」
距離をつめられ、膝の上に乗せていた左手に咲夜さんの手が重なった。
金縛りに遭ったみたいに動けなくなる。咲夜さんのブルーの瞳から目を逸らせない。
咲夜さんの手が伸びてきて、半開きの唇に、つっと触れた。
驚き、瞬いた次の瞬間、手のひらが頬に滑り、引き寄せられると同時に口づけられた。
目を閉じた咲夜さんの顔が大写しになる。
「……えっ」
咲夜さんは顔を離すと、可笑しそうに笑った。
「え、今の、な、何ですか?」
「何って、キス?」
「き、き、キス……?」
「もっとして欲しい?」
「そそそそ、そんな……!」
「ふふ」
笑いながら、元の場所に戻ると、咲夜さんは卵サンドを一口齧った。
「うん、我ながら美味しいわ」
満足気に頷くと、咲夜さんは、にやっと意地悪な笑みを浮かべた。
「私に、はい、あーんをされたくなければ、固まってないで食べなさい」
「…………!」
だ、誰のせいだと思ってるんですか、誰の……!
へなへなっと肩から力が抜けた。
激しい脱力感に襲われる。
「……いただきます」
ナプキンに置いたままの卵サンドに手を伸ばす。
色々と、気にするのが馬鹿馬鹿しくなって、思いっ切り噛みついた。
パンから溢れて指先についた卵を舐め取ると、愉快げに笑う咲夜さんと目が合った。
つられて笑ってしまった私のスカートに、再び卵が、ぽとりと落ちた。
<了>
⋆*自意識過剰と言うけれど*⋆
三月、まだまだ肌寒さはあるけれど、昼間は大分暖かくなった。
朝から門番をする身にとっては、ありがたい限り。
でも、できれば早く庭園に行って体を動かしたいな。
立ってばかりだと、嫌でも考えちゃうよ、その日のこと…。
考えると、手のひらに変な汗が滲むから、できるだけ考えたくない。
でも、注射をする直前に似ていて、嫌でも考えて、緊張してしまう。
「……いっそのこと、立ったまま寝ちゃう? 」
なーんて……
「あら、いい度胸ね」
「ひゃ!!」
突然、目の前に咲夜さんが現れた。
いつの間にか時を止められていたみたい。
腕を組み、目を細めて私の顔を覗き込んでくる。
――ち、近い!
思わずのけぞると、距離を詰められた。
門に背中が当たり、どきっとする。
「今日はいいお天気だものね、眠くもなるわよね」
そんな涼しい顔をして言われても。
咲夜さん、全然眠そうじゃない……。
「あ、えと、今のは、違くてですね」
「違うって何が?」
「その、別に眠くはなく……」
咲夜さんは不思議そうに首を傾げて言った。
「眠くないのに、立ったまま寝るの?」
「え!? そっ、それは……」
あああ、しまった! 余計な事を言っちゃった。
このままじゃ、私、頭のおかしな子だと思われちゃう!
でも、言えないよ……。咲夜さんに関係することなんだもん。
「何、慌ててるのよ」
咲夜さんは苦笑すると、すっと体を離した。
あ、何か言わなきゃ。でも上手い言葉が見つからない。
自分の言語能力のなさが悲しい……。
「――まあ、いいわ。ところで、今日は午後から時間あるわよね?」
気を取り直したように咲夜さんは言った。
「あ、はい。お昼までの勤務ですから」
来た、と、思った。
やっぱり今日はその日だった。
「なら、午後からまた付き合ってくれる?」
「はい、私でよければ」
「貴女しかいないでしょ」
「あ、そうですよね」
これは、私が咲夜さんにとって特別な存在という意味じゃない。
紅魔館のメンバーで咲夜さんにつき合える人物が、私しかいないという意味だ。
ただ、それだけなんだけど……言われると、どきっとしてしまう。
何でどきっとするかは、よく分からないけど、多分、憧れているからだと思う。
格好よく、完璧に仕事をこなす咲夜さんに……。
「それじゃ、いつもの時間に、ここで待ち合わせね」
「はい! 分かりました」
こくこく頷くと、次の瞬間には、ふっといなくなる咲夜さん。
また、時を止められたみたい。
「……はあ、緊張するなぁ」
呟いて、門に寄りかかった。
誰も見ていないのをいいことに、はああ、と盛大に息を吐き出す。
そして、咲夜さんと二人きりの午後の一時に思いを馳せた。
*
頬にするりと滑る風を感じながら、木々の上を飛んでいく。
無理にスピードは出さず、心地よいスピードで、春の陽気を感じながら。
目の前には、ラタンバスケットを片手に飛ぶ咲夜さん。
縁に白いレースがついた可愛いバスケットで、私も同じものを持っている。
中には何が入っているのかな? 今日は。
うーん、どきどきする。
「今日はあそこら辺に行きましょうか」
「そうですね」
咲夜さんが指し示したのは、森をくり抜いたように広がる野原。
上空からでも、白や黄色の草花が咲いているのが分かる。
大地を渡る風で野草が白く波打っていて、綺麗だ。
人里からは遠く、何の力も持たない普通の人間では、中々立ち入れないだろう。
咲夜さんに続いて野原に降り立ち、野原の端にある木立の下を選んでバスケットを置く。
そして、中から若草色のチェックのシートを取り出して敷き、座る場所を確保した。
――うん、いい眺め。野原全体が見渡せる。
木の葉から、ちらちら漏れる木漏れ日もいい感じ。
「……気持ちいいわね」
バスケットをシートに置いて一つ伸びをすると、咲夜さんは私に振り返った。
「真っ昼間からのんびりピクニックなんて贅沢よね」
「そうですね。お嬢様たち、日の光が駄目なの、残念ですよね」
「そうねぇ。パチュリー様も、図書館にこもってばかりだし、もったいないわよね」
「ですね」
……でも、だからこそ、こうして私が一緒に来られる。
もし、お嬢様たちが積極的に外に出るようなタイプなら、私の出番はなくなってしまう。
だから、お二人には悪いけど、役得だな、と思ってしまう。
「それじゃ、食べましょうか」
「はい!」
咲夜さんがバスケットを開けるのを、シートの上に正座して待った。
中から一段小さなバスケットを取り出す。中身は卵サンドだった。
パンの間に、ちぎったレタスと、半熟卵とマヨネーズをあえた具がぎゅっとつまっている。
一口食べたら、具がパンから落ちてしまいそうなくらい、たっぷりと。
「……」
どうしよう……。
思わず、ごくっと喉が鳴る。
美味しそうだからというのも、もちろんあるけど、もう一つ。
料理を零さずに食べる自信がない……!
そう、朝から私を悩ましていた原因はこれなのだ。
この麗らかな陽気と、二人の勤務スケジュールから、午後に出かける予想はついた。
咲夜さんと出かけること自体は嫌じゃない。むしろ嬉しい。
だけど、こういう食べ辛い料理を出されると、困ってしまう。
ちゃんと綺麗に零さず食べられるかなって思って、緊張してしまうのだ。
この前、魔理沙にそれとなく話してみたら、気にし過ぎだって鼻で笑われたけど。
気にしすぎなのは、分かっているんだけど……。
ポットから、小花柄のカップに紅茶を注ぐ咲夜さんを見つめる。
これで、相手が魔理沙だったら、私も緊張しないけど……。
それに二人きりだから、余計に緊張しちゃうのよね。
「さ、召し上がれ」
「いただきます」
咲夜さんが淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。
「……おいしい」
ふんわりと甘い紅茶の香りが、緊張した体をほぐす。
そして次は、問題の卵サンド。
……えっと、手に卵がつかないようにして。
後、一気に食べると横から卵が飛び出すから、それも気をつけないと……。
でも、レタスはちゃんと噛み切らないと出てきちゃうし。
口の周りに卵がつかないように注意もしなきゃ……。
意を決して卵サンドを手に取ると、じっとこちらを見つめる咲夜さんと目が合った。
口元に運ぶ手を止めて、訊ねる。
「ど、どうしましたか?」
「いえ、別に。食べたら?」
「は、はい……」
そんな、見つめられると、余計に食べ辛い。
でも、いつまでも持ったままではいられないし、はむっと齧りつく。
あ、美味しい……と思考が解けたのは一瞬。
次の瞬間、みゅっとパンの端から卵が零れて、ぽたっと緑色のスカートの上に落ちた。
「……! ……!」
もごもご口を動かして、ごくりと飲み込む。
嘘……。私、そんなに勢いよく齧ったっけ??
いや、それよりも、早くスカート拭かなきゃ。
あ、卵サンドは、ナプキンの上に置いて。
もうもう! 私ったら何してるのよ。
「……ふっ」
声が聞こえて、はっと顔を上げると、咲夜さんが口元に手を当てて笑っていた。
「あ……」
思わず、かああっと頬が熱くなる。
「ふ、本当、貴女って……」
咲夜さんの手が伸びてきて、スカートの上に落ちた卵をひょいとつまんだ。
そしてナプキンに包むと、ハンカチで拭ってくれる。
「す、すみません!」
「別に、構わないわよ。染みになったのは洗わないと駄目ね」
「うう、お恥ずかしいところをお見せして……」
「そんな恥ずかしいことでもないでしょ」
咲夜さんは首を傾げて言った。
「ねえ、どうしてそんなに緊張してるの?」
「えっ?」
「私といる時は、いつもそうよね」
「そう……でしょうか?」
「そうよ。正確に言うなら、二人きりでいる時にね」
「…………」
それは、憧れているから、情けないところを見せたくなくて……。
でも……本当に、それだけなの……?
本当に、それだけ?
咲夜さんの目を見つめていると、分からなくなる。
「…………」
さぁっと、少し強い風が吹いて、反射的に目を伏せた。
次の瞬間、目の前に迫っていた咲夜さんが、再度訊ねてくる。
「ねえ、どうして?」
「それは……」
「それは?」
距離をつめられ、膝の上に乗せていた左手に咲夜さんの手が重なった。
金縛りに遭ったみたいに動けなくなる。咲夜さんのブルーの瞳から目を逸らせない。
咲夜さんの手が伸びてきて、半開きの唇に、つっと触れた。
驚き、瞬いた次の瞬間、手のひらが頬に滑り、引き寄せられると同時に口づけられた。
目を閉じた咲夜さんの顔が大写しになる。
「……えっ」
咲夜さんは顔を離すと、可笑しそうに笑った。
「え、今の、な、何ですか?」
「何って、キス?」
「き、き、キス……?」
「もっとして欲しい?」
「そそそそ、そんな……!」
「ふふ」
笑いながら、元の場所に戻ると、咲夜さんは卵サンドを一口齧った。
「うん、我ながら美味しいわ」
満足気に頷くと、咲夜さんは、にやっと意地悪な笑みを浮かべた。
「私に、はい、あーんをされたくなければ、固まってないで食べなさい」
「…………!」
だ、誰のせいだと思ってるんですか、誰の……!
へなへなっと肩から力が抜けた。
激しい脱力感に襲われる。
「……いただきます」
ナプキンに置いたままの卵サンドに手を伸ばす。
色々と、気にするのが馬鹿馬鹿しくなって、思いっ切り噛みついた。
パンから溢れて指先についた卵を舐め取ると、愉快げに笑う咲夜さんと目が合った。
つられて笑ってしまった私のスカートに、再び卵が、ぽとりと落ちた。
<了>