初めは幼い復讐心だった。それはすぐに無力感になって潰えた。
まどろんだ焚火のゆらめきをまだ覚えている。
血の海と、硫黄と焦げた死臭が混ざっていたことも。
化物のように人を殺した美しい神様。
不死の秘薬と無垢な殺意。
こんなに明るい夜でなければ、昔のことなんて夢に見ることはなかったのだろう。
月が降ってくる。私の心臓を射抜きに堕ちてくる。
瞼の奥まで貫く白光。
湖に浮かぶ月を割れ。空に沈んでいるのは偽物だ。
瞼の裏でちらつく過去。
逃げて、逃げて、逃げるんだ。死に顔のように白い月光が届かない場所まで。
もっと狂おう?
きっとこんな目眩も永遠が赦してくれる。
ふらふらと、くらくらと。
恐怖に追い立てられて走れ。意識の明滅に合わせて踊るんだ。誰にも邪魔はさせない。
最果ての狼にまで聞こえるように、天高く。悪魔さえ訝しむくらい高らかに。生まれたての子供みたいに思い切り。
どうせ月へは届かない。
吠えているのか、笑っているのか、泣いているのかも分からない。分からなくていい。何も分からなくなってしまえばいい。
嗚呼、月に冷やされたように冷たい地面だ。お前も私を抱きしめてはくれないのか。
見るな、誰も私を見るな。何もかもが苛んでしまうから。人も永遠も過去も全てが全て、私を追いつめるためにある。狂気だけが私のよすがだ。
「……」
目くるめく星空が頭を揺らす。
「……」
たゆたっているようだ。
「……」
きっと一刻も過ぎれば正気だろう。
「……」
本当に狂えていたの?
「……………………助けて」
蓬莱の人の形。
魂だけの、がらんどう。
まどろんだ焚火のゆらめきをまだ覚えている。
血の海と、硫黄と焦げた死臭が混ざっていたことも。
化物のように人を殺した美しい神様。
不死の秘薬と無垢な殺意。
こんなに明るい夜でなければ、昔のことなんて夢に見ることはなかったのだろう。
月が降ってくる。私の心臓を射抜きに堕ちてくる。
瞼の奥まで貫く白光。
湖に浮かぶ月を割れ。空に沈んでいるのは偽物だ。
瞼の裏でちらつく過去。
逃げて、逃げて、逃げるんだ。死に顔のように白い月光が届かない場所まで。
もっと狂おう?
きっとこんな目眩も永遠が赦してくれる。
ふらふらと、くらくらと。
恐怖に追い立てられて走れ。意識の明滅に合わせて踊るんだ。誰にも邪魔はさせない。
最果ての狼にまで聞こえるように、天高く。悪魔さえ訝しむくらい高らかに。生まれたての子供みたいに思い切り。
どうせ月へは届かない。
吠えているのか、笑っているのか、泣いているのかも分からない。分からなくていい。何も分からなくなってしまえばいい。
嗚呼、月に冷やされたように冷たい地面だ。お前も私を抱きしめてはくれないのか。
見るな、誰も私を見るな。何もかもが苛んでしまうから。人も永遠も過去も全てが全て、私を追いつめるためにある。狂気だけが私のよすがだ。
「……」
目くるめく星空が頭を揺らす。
「……」
たゆたっているようだ。
「……」
きっと一刻も過ぎれば正気だろう。
「……」
本当に狂えていたの?
「……………………助けて」
蓬莱の人の形。
魂だけの、がらんどう。