「ごめんくださいな」
「いらっしゃいま……何だ阿求か」
「何だとは何よ。友人に対して」
人里の一角。
少女が一人、カウンターに腰掛けた、ここは鈴奈庵。
大量に並べられた本棚には、文字通り、本が一杯、山のよう。
汗牛充棟のこの世界。世界の主は、一人、ぺらぺらと本をめくっている。
「新しい本が入ったと聞いて」
「ああ、これ? 面白いわよ」
主人の名は本居小鈴という。
彼女の友人である、本日のお客様、稗田阿求は『へぇ』と声を上げた。
「どんな本?」
「色々な武術とか、道具とかの由来について書かれているの。
内容もすごく詳しいし、『そうなんだ!』って驚くことばかりよ」
「それは面白そうね」
「全部集めるの、すごい苦労したの。
入り口の、一番いいところに入れておくのよ。きっと、みんな、借りていってくれるわ」
小鈴が読んでいるその本は、どれもそれなりの分厚さだ。
タイトルを見るに、その本の中には、たくさんの歴史と時代が詰まっているのだろう。
わたしも読んでみたいな、と阿求はこの時、思った。
ちなみに、その本の出版社は『民明書房』。初めて聞く出版社である。
「ん~……! っと」
椅子の上で大きく伸びをして、よいしょ、と立ち上がる。
彼女は本を抱えると、よいしょよいしょと本棚へ。
「大変そうね」
「そう思うなら手伝って」
「やーだ。わたし、病弱だもん」
「病弱な人間が、夜の深夜まで筆を取って物書きしてるなんて、不思議なこともあるものね」
「……〆切の怖さを知らぬ愚か者めが」
阿求は、そう、呪いの言葉をぽつりと吐いた。
ちなみに、その〆切は、今日から三日後、新たにやってくる。
その時までに仕上げなければいけない原稿の紙面は、現在、真っ白であった。
――友人の元に訪れたのは、所謂現実逃避である。
「そういえば、前々から疑問に思ってたんだけど」
「うん」
「あなた、普段、どうやって本を仕入れているの?」
ちょいちょい、とカウンターの上に残されている本を指先でつつきながら、阿求。
「色々だよ。
たとえば、行商の人から買ったりとか、近くの本屋から売れ残ったものを格安で譲ってもらったりとか。
あとは外から流れてきたものを拾ったりとか」
「うんうん」
「そういえばこの前、銀髪の眼鏡の男の人と本の取り合いになったことがあったわ。
じゃんけんで負けちゃった」
「おとなげない人もいるものね」
小鈴の見た目は、どう見ても子供。
彼女が『男の人』というのだから、その相手は立派な大人なのだろう。
子供に対してむきになる大人というのは、それはそれで情けないものだ。
「あとは……」
「すみませーん」
ちょうどその時、新たなお客様のご来店である。
「あら、あなた」
その相手に、阿求は見覚えがあった。
特徴的なその衣装。赤の長い髪。人畜無害そのものの面構え。
言うまでもなく、とある紅の館の図書館に勤める司書である。
「先日、お借りした本をお返しに来ました」
「はーい」
「それで、本のお礼に」
「わー! ありがとうございます!」
一冊の本が、小鈴に渡される。
本は重厚な装丁がなされており、ご丁寧に鍵つきだ。タイトルの文字は全く読めないため、どのような本なのかもわからない。
そして、その司書は、反対側の手に持った3冊の本をカウンターへと返した。
「いつも助かっています」
「いいえ」
「そういえば、小鈴。ここの本って、写すのは自由だったわよね?」
「貸本屋ってそういうものでしょ?」
幻想郷では、本というものは、それなりに高価なものである。
一般の『本屋』というものを訪れるのは、それなりのお金を持った者たちだ。一般庶民は、そうそう、これらに手を出すことはない。
そこで、小鈴の出番となる。
彼女のところから本を借りていって、その中身を書き写す。
普通に本屋で買うよりも安上がりで、手間はかかるが、お手軽な『本の買い方』であった。
「あなた、これ、写したんですか?」
「ええ」
「小鈴」
「二週間」
阿求は目を丸くすると共に、肩を軽くすくめてみせる。
本のレンタル期間は二週間。その間に、この司書は、一冊500ページはあろうかという分厚い本を3冊、手元に書き写したのだ。
大したものだなと思うと同時に、『その速筆の腕前、分けて欲しい』と、阿求はこの時、真剣に思っていた。
「その本、もらうの?」
「はい。今回は、レンタル代金の代わりに、ということで」
なるほど、と阿求は首肯する。
手に入りづらい本は、お金の換わりに物々交換。
この司書が勤めている図書館には、それこそ、ここの比ではないくらいに本が山のようにある。世の中に出回らない本や貴重な本も数多あることだろう。
なるほど、小鈴は賢いな、と阿求は感心していた。
「鍵は……」
「どうぞ」
「よいしょ」
早速、彼女は手に入れた本に興味を持つ。悪魔から渡される本など、ろくでもないものに違いあるまいに。
全く、好奇心というのは厄介なものだな、と思う阿求の前で、その本から七色の光が溢れ出す。
そして、
『わははははは! ようやく封印が解けたぞ! このまま世界を滅ぼしてくれる――!』
ぱたん。
「あ、妖魔本ですね」
「そうですね。
ちょっと、取り扱いが面倒かなー、と思っていたんですけど。書いてあることは面白いので」
「助かりますー」
今何か出てきたような気がするが、それは多分、気のせいだろう。
閉じた本の中から『ちょ、おま、こういう扱いはないだろ、おい!』とかなんとか声が聞こえているが、きっと空耳だ。
小鈴は本にがちゃりと鍵をかけると、「それじゃ、これ、霊夢さんにお祓いしてもらったほうがいいですね」とあっけらかんと言う。
「そうですねー。
実は、最近、本の魔力が高まってきていて。パチュリー様も、『ああ、もう、これ面倒だから、小悪魔、あなたの好きにしていいわよ』って」
「あはは、そうだったんですか」
がたごと暴れる本をビニールのヒモでむぎゅりと縛り、小鈴は笑顔で司書の女性と話しをしている。
本を心から愛するビブリオマニアを自称しているくせに、彼女はその本を思いっきり踏みつけているような、何か不思議な光景を見ているような気がするのだが、それはきっと、冬の寒さが生み出した幻想なのだろう。
「また何か面白い本、手に入りましたか?」
「入りましたよ!
入り口の本棚にある本なんですけど! 今、お勧めです!」
「あ、じゃあ、それを」
「はーい」
本をがんじがらめに縛って、ぺんと『封印』と書かれた御札を貼り付けた後、小鈴は彼女を案内して、入り口付近の書棚に導いて行く。
そして、先ほど、そこに入れた本の一冊を手にとって『どうですか?』と彼女に勧めていた。
――そして。
「あんな感じで」
「なるほどね」
人脈というのは大切なものだな、と阿求は思う。
小鈴と彼女の商売は成立。両者、ほくほく笑顔の結末がそこにあった。
「あとは……やっぱり、オークションかな?」
「オークション?」
「あの人が『貴重な本を手に入れたいなら、ぜひ』って持って来たんだけど……」
先ほど、小鈴が勧めた『民明書房』の本、全巻、片手に持って帰った司書の女性。
彼女から渡されたのだという、一抱えほどもあるガラスの球が、カウンターの上に現れる。
「……何これ」
「正規のルートには、なかなか流れない貴重品を取り扱っているオークションがあるのだけど。
そこの会場につながっているんですって」
その辺りの技術についてはよくわからない、と小鈴。
彼女は『そういう便利なものなのね』ということで納得しているらしい。
「へぇ……。
それ、大丈夫なの?」
「犯罪とかには関わってないつもりよ」
聞けば、単に『貴重すぎて表のルートに流れている数だけでは手に入りづらいもの』を売っているだけなのだという。その『オークション』とやらは。
彼ら――つまり、開催者――が、どうやってそれらの品物を入手しているのか、小鈴は知らない。
ただ、品物が売っていれば買う、それだけだ。
「どっかから盗まれたものかもしれないわね」
「そうかも。
けど、それをこっちが確かめる手段はないし。それに、あの人が、そんなものをわたしに薦めてくると思う?」
「なさそう」
あの司書の人当たりのよさと人格のよさは折り紙つきだ。
この、一癖も二癖もある人間妖怪ばかりな幻想郷の中で、数少ない『常識人』だ。あの彼女が、他人に犯罪を勧めてくることはまずないだろう。
「今度、またオークションがあるんだけど。
阿求、見に来ない?」
「面白そうね。やるやる」
「うん。
じゃあ、決定ね」
そう言って、にこっと笑う小鈴。
そしてちょうどその時、建物の入り口から、『ようやく見つけましたよ、稗田先生』という言葉と共に、眼鏡をかけた細身の紳士が現れるのだった。
そして、それから一週間後。
「阿求ー、始まるよー」
「はーい」
鈴奈庵の一室、小鈴の部屋で、二人はオークションへの参加の用意をしていた。
といっても、座布団や座椅子を置いて、おせんべいとお茶を用意する程度である。
目の下に隈を作った阿求が、今日のオークションを目当てに、目を輝かせている小鈴の隣に座る。
「すいっちおーん」
小鈴が、あのでっかいガラス球――よく見ると、水晶か何かで作られていたようだ――の頭をぽこぺんと叩く。
すると、それが一瞬、ぱっと光を放った。
光は球の中心に向かって収束し、ぐるぐると回転した後、ぱちんと弾けて散る。
「あ、すごい」
すると、その球の中に、別の場所の映像が浮かび上がる。
そこは、何かの会場だった。
司会が上がると思われる壇上を、球は映している。
「始まるよ」
小鈴が言うと、球が映す会場が暗闇に覆われる。
続いて何やらにぎやかな音楽が鳴り響き、ぱっと壇上にスポットライトが当たる。
ライトの中、やってきたのは、バニースーツ姿の金髪少女。よく見ると胸元と肩の位置をつなぐ透明のひものようなものが見える。
つってるのだろう。バニースーツは平坦だとめくれるのだ。どう頑張っても。
『はーい! レディースアーンドジェントルメーン!
今宵もエレンちゃんのふわふわオークションへようこそー!』
何か竹○泉っぽいポーズを取って、少女はマイクパフォーマンスをする。
なぜか、顔に仮面などをつけている彼女は、『今夜も、皆さんの物欲を刺激する名品逸品を取り揃えました!』とアピールしている。
「今回の目的はね、これよ」
今回のオークションの品物が書かれていると思われるカタログをめくる小鈴。
彼女が開いたページには本が一冊、掲載されている。
そのタイトルには、こう書かれている。
『コンビーフの謎』
「……これは!」
「そう……。今まで、この幻想郷で、謎の一つとされていたコンビーフについて書かれた本よ。
一説にはただの偽書とされているのだけど、それならそれで、ネタとして価値があるわ」
「確かに読んでみたいけど……高いんじゃないの?」
「今回のもち玉は7000よ」
ちなみに、このオークションでは、『10』単位から入札が出来る。
1単位は現実の通貨に換算すると『1000円』なのだとか。
「700万!?」
「ええ」
「……あなた、意外とお金持ちだったのね」
「うまく落札できれば、これなら、それくらいすぐ稼いでくれそうだもの」
貸本屋だからといって、貸す本の値段を一律にする必要はない。
基本は『低価格で皆様の元に』だが、超高価な本、超貴重な本まで低価格で廉価に取り扱っていて、もしも破られたり汚されたりしたら泣くに泣けないだろう。
なるほど、と阿求はうなずく。
そして、この幻想郷には、所謂好事家が多い。それこそ、『面白いものならいくらでも出す』という連中だ。
この本は、そうした連中に、高値で貸し出すことが出来るだろう。
『それじゃ、オークション、はじめまーす! ひゅーひゅー!』
オークションが始まった。
最初は、特にこれといって面白いものはない。
『爆発するスイカ』だの『爆発するお金』、『爆発する椅子』などはそこそこの値段で売れた。
つーかやたら爆発物取り扱ってるな、このオークション、と阿求は思っていた。
『続きまして、霊験あらたかな御守一式! 10単位から!』
どこの誰が作ったかわからない御守が出てくる。
ほとんど入札がなされない中、『あ、はーい?』と司会者が後ろでごにょごにょ。
『えー、出品者より、今なら落札された方には守矢神社の巫女の水着姿写真を10枚プレゼントとの言葉が……』
一瞬で、『100!』『いや、200だ!』『300!』と入札が集まり、最終的に、御守セットは『1000』というかなりの高額で落札される。
やはり、購入者の触手を動かすための手段は重要である。
「一体どこでやってるのかしらね」
「さあ?」
会場も不明、主催者のこの少女の正体も不明。ついでに取り扱っている品物も、出所がよくわからない、と。
そんな怪しいもの満載のこのオークションに、よくもこれだけの『人』と『物』が集まるものだと阿求は感心していた。
「幻想郷ってさ、ほら、娯楽が少ないから」
どこから持ち込まれたのか『三輪車』なる幼児用のおもちゃも出品されている。これはあっさり、『10』という最低単位で落札される。
「出所不明の正体不明の物体でも、面白そうなら、とりあえず参加してみる、か。
一歩間違ったら破滅よね」
「そうならない理性は必要だよね」
ぱきん、とおせんべいもぐもぐ。
二人、のんびりオークションの映像を眺め、そして――。
『さあ、それでは、今夜のオークション目玉商品の一つ、「コンビーフの謎」のオークションを始めたいと思いまーす!』
「……来たわね」
小鈴が居住まいを正した。
彼女は目元を飾る眼鏡をくいっと上げる。ちなみにこの仕草に意味はない。強いてあげるなら『かっこいい』ってことだ。
『では、100からどうぞ!』
『110!』
『120!』
『150!』
『200!』
順調に、値段がつりあがって行く。
たかが本に10万だ20万だと常人から考えれば正気の沙汰ではないが、こと、これを趣味とする好事家たちにとっては、それこそ『喉から手が出るほど欲しい』品物。
いくらでも払ってやろうホトトギスという道楽者は数多い。
『500!』
『おーっと! 500出ました! 500! さあ、他にいらっしゃいませんか!』
『510!』
『520!』
『530!』
小刻みな値動きが続く。
参加者同士、互いの状況を探り合っているのだろう。
相手はどこまで出せるのか。
自分はどこまで出していいのか。
オークションの熱狂度合いは。
それらを見定めているのだ。
熱狂したオークションでは、しばしば、適正価格以上に金額がつりあがることがある。場の空気に呑まれ、出せもしない金額を出してくるものがいるせいだ。
しかし、それをブラフとして使う強者もいる。
それを、彼らは見定めようとしているのだ。
『700!』
『700! ずいぶん上がりました! さあ、他には!?』
ここでしばし、沈黙。
参加者たちは、どうやら、この辺りがこの本の適正価格だと考えているらしい。
そこへ、
『710!』
『はい、710! 710です! 710! 他にいらっしゃいませんか! 710!』
司会の少女が『710』という言葉を連呼する。
『720!』
『720が出ました! さあ、720です! 720! 720! いらっしゃいませんか!? 720!』
どこかから『くっ』とかいう声が聞こえたが、それはさておき、720の入札後、しばらく言葉が出ない。
小刻みな値上げ、空白の時間。
――そろそろ潮目か。
『1000』
『おーっとぉ! ついに大台に乗りましたぁー!』
小鈴が動いた。
他の参加者たちが熱狂して大声を張り上げる中、彼女は小さな声で、淡々と『1000』の大台を告げた。
大声を上げて場を盛り上げる司会者。
反対に、水を打ったように静まり返る会場。
『1010!』
『1500』
『一気に上がります! 1500です!』
対抗してきた参加者の意思をねじ伏せる。
小鈴は相手が値段を吊り上げた瞬間、その何倍もの入札を叩きつける。
迷わず、ただ、冷静に。機械的に。
場の空気に流されるわけでもなく、ただ淡々と。
――正直、この手の相手とはやりあいたくない。そう、誰もに思わせる雰囲気で。
『せ、1800!』
『2500』
『さあ、どなたかいらっしゃいませんか!? 2500です! 2000の大台を超えました!』
なけなしの金と見栄を振り絞り、声を上げた参加者をねじ伏せる。
一気に値段を吊り上げ、場を平定する。
小鈴の戦略はかなりのものだ。
これでは、相手は、『こいつを相手にしても勝てない』と思うことだろう。
「それでは、2500! あと3回です! 2500! 2500!』
最後のコールがなされる、その瞬間、
『3000』
『きたぁぁぁぁー! 3000です! 3000が出ました!』
「……来たわね」
「え?」
静まり返った空間に、小鈴と同じように、凛と響く涼やかな声が響き渡る。
『3200』
『3500』
『3800』
『4000』
『すごい! すごい! どんどん上がっていく! 4000の大台です! 突入しましたぁー!』
「……この人、手ごわいのよ」
小鈴はつぶやく。
勝負は、顔も見えぬ相手と小鈴の一騎打ち。
彼女は腕組みし、悩む。
「前もね、面白い本が出ていたことがあったの。
3000を目安にやっていたんだけど、2500で乱入してきたわ」
「へぇ」
「あっさり3000まで上げられちゃって。
ブラフで3200を出したら4000で落札されちゃった」
「すごいわね」
「うん」
この人は手ごわいのだ、と小鈴。
相手は恐らく、女だろう。声の質からわかる。響く声音から、そこそこの、妙齢の年頃の女性だ。
ちなみにこのオークションでは、入札に際して、値段のところに参加者の名前が表示される。相手の名前は『Little』とあった。
彼女は小鈴と同じく、オークションを見つめながら、じっと機会を伺っていたのだ。
最初の有象無象などどうでもいい。己の『敵』がいないか、それを見つめていたのだ。待っていたのだ。
そして、『小鈴』という敵が現れた。
『彼女』は、この敵を打ちのめすために腰を上げた。
『4100』
『4500』
「……まだ余裕があるか」
小鈴は小刻みに値を上げようとする。
だが、相手は一気に、それを上回る金額を叩きつけてくる。
先ほど、小鈴が行なっていた戦法と同じだ。
彼女は小鈴の心を折りに来ているのだ。
こういう相手との勝負は、なかなか、面白い。いつしか、品物を落札するより、相手との勝負を楽しむことに意識が向いてしまうほどに。
わずかな逡巡。
だが、それは、たとえ数秒であろうとも相手にとって余裕を感じさせる空間となる。
ならば――。
『5000』
『ついに5000! ついに5000です! さあ、どこまで上がるのか!』
小鈴の一言で、相手の動きが止まった。
すぐさま、出せる金額ではなくなったのだ。
『彼女』にとって、『5000』という値段が、一つの分け目だったのだろう。
ここまでなら相手がどれほど食い下がろうとも叩き潰す。
だが、それ以上なら、戦略を変えなくてはならない。
『5100』
『6000』
『おーっと! これはー! これはきたぞーっ! なんと、6000だぁぁぁぁぁ!』
「小鈴、いいの?」
「いいのいいの。予算は7000よ」
相手は恐らく、画面の向こうで舌打ちしていることだろう。
自分が追い詰めたと思っていた相手は、まだ余力を残していたのだ。
反撃に出てきた。
相手はそう思っていることだろう。
そして、一気に『6000』という途方もない金額へと吊り上げてきた。
自分を負かしにきたのだ、と。
『6000です! 6000! 6000! 驚きの金額です!
さあ、他にいらっしゃいませんか! 6000! 6000! 6000!』
『6100』
ちっ、と、今度は小鈴が舌打ちする。
熱狂する司会者とは反対に、相手は冷静であった。
ここで相手が一気に金額を吊り上げてきたとしたら、考えうる選択肢は二つ。
まず一つが、小鈴のように反撃ののろしを上げてきた可能性。
これではもう勝ち目がない。降りるしかないだろう。
そしてもう一つが、破れかぶれのブラフ――あるいは、自爆。こちらでも落とすことの出来ない金額にまで吊り上げて『相打ち』を狙うパターンだ。
だが、敵はやはり、侮れなかった。
小刻みに金額を動かすパターンに変更してきたということは、小鈴と同じく、限界が近いことを示している。
所謂、チキンレース。どちらが先に下りるかの勝負を仕掛けてきたのだ。
『6200』
『6300』
『6400』
『6500』
「……まずいなー」
司会者は熱狂して、場の空気を盛り上げようとする。
これを眺める観客たちのどよめきも聞こえてくる。皆、場の雰囲気に呑まれ、興奮し、熱狂している。
それに反して、冷静なのは、相手ただ一人。
小鈴は焦っていた。
「どうしたの?」
「……チキンレースじゃないかもしれない」
『6600』
『6700』
「ほらね?」
小鈴が値段を口にするのと同時、ほぼ間髪入れずに、相手はそれに次の値段をかぶせてくる。
「相手、きっと、まだ猶予がある」
「けど……さすがに、ねぇ?」
「いや、阿求とかから見たら、本一冊にこの値段は、って思うかもしれないけどさ。
うちらにとっては違うんだなー」
じっと、球を見つめてうなる小鈴。
そして、小鈴が口を開く。
『6800』
彼女の値段提示に、会場にどよめきが起きる。
まだやるのか! と。
彼らは内心で思っているのだろう。
この声の主は、どこまで、たかが本を買うために金を出すつもりなのか。
バカか? 愚か者か? そして好き者か?
己がその領域に属するものである以上、彼らは、彼女を『評価』している。
己の趣味のためなら、金を惜しまない『大バカ野郎と』として。
『さあ、6800です! これは、まだまだ上を目指すつもりかー!? さあ、さあ! 6800! 他にいらっしゃいませんか!』
声は、ない。
小鈴は腕組みし、難しい顔で球を見つめている。
そして、
『6900』
相手の声。淡々と、感情を感じさせない声。
会場の声が、さらに大きくなる。
小鈴に聞こえてるのと同じく、このオークションを見つめる者たちは、女二人が賞品を争っていることを知っている。
彼らは、オークションではなく、彼女たちの『戦い』に熱狂しているのだ。
女二人の激しいにらみ合い。心理戦。それが、彼らのボルテージを上げて行く。
「6900……か」
小鈴が考えているリミットまで、あと100。
10単位で吊り上げることも出来るが、それでは盛り上がった場の空気に水を差す。
そうなれば、そこを相手がついてくる可能性がある。
『弱気になった』
そう取られたら負けなのだ。
「……よし」
会場では、司会者によるコールが続いている。
大きく、小鈴は息を吸った。
『それでは、あと一度のコールで締めさせていただきます!
ろく……!』
『7000!』
会場が、しん、と水を打ったように静かになる。
司会者も息を飲み、観客たちは目の前の映像を食い入るように固唾を呑んで見守っている。
『ななぁぁぁぁせんっ! 7000です! ついに出ました!
さあ、さあ、いらっしゃいますか!? 7000ですよ! 7000以上! いらっしゃいませんかー!?』
小鈴が、ぐっと、拳を握り締める。
もう、これ以上の値段を提示することは出来ない。相手が降りるのを願うしかない。
コールは続く。
1回。2回。3回。
あともう一回。
もう一回のコールで、この勝負は終わる。
『では、最後のコールです!』
小鈴は目を見張り、息を呑んだ。
司会者が右手を大きく振り上げて、叫ぶ。
『ななぁぁぁぁぁぁぁぁせんっ!
おめでとうございます! 7000の方! 落札されましたっ!』
「……ぷはぁ~」
いつの間にか、息をすることすら忘れていたらしい。
大きく息を吐いて、小鈴は脱力する。
「やったじゃない!」
隣では、友人の勝負に、その雰囲気に飲まれ、我がことのようにこの勝負を見守っていた阿求が破顔する。
ありがとー、と小鈴は笑うと、
「運がよかった」
彼女はその視線を天井に向け、小さくつぶやいた。
「え?」
「多分、相手も、今回は7000を上限にしてたんじゃないかなぁ」
根拠はないけれど、と小鈴。
よいしょ、と彼女は姿勢を正す。
「小刻みに値段を吊り上げてくる姿勢に変わった時にね、わたしは『リミットが近いんだな』って思ったのよ。
相手のことだから、多分、余裕があるなら一気に飛ばしてくる。
そうじゃないってことは、予算の限界に、値段が近づいていたってことなの」
「うんうん」
「で、多分、切りのいいところで切ってくるはず。
6000以上で切りのいい、次の値段は?」
「……7000」
「そういうこと」
オークションは次の品物に移っている。
だが、これほどの名勝負が行なわれた後のそれは、やはりあんまり盛り上がらない。
そのためか、出てくる品物に入札が行なわれないこともしばしば。入札が入っても安値での落札が続く。
「こっちが先に動いたから勝った。
逆なら、多分、負けてた」
「なるほどね」
「勝負は時の運だよね。
まぁ、考えていることとは全然違って、相手はまだまだ余裕があって、こっちを蹴るために、値段を小刻みに出して様子を伺っていたのかもしれないけど」
それも全ては過ぎたこと。
勝利は勝利、なのだ。
「よーし! じゃあ、あの本で、ばりばり稼ぐぞー!」
「おー!」
突き上げる小鈴の拳に阿求が同調する。
少女二人は勝利を祝うために、おせんべいとお茶で祝杯を挙げる。
その後ろで続くオークションが『それでは、本日のオークション、最後の品物でーす!』と告げられるのは、それから少し、後のこと。
「パチュリー様」
「何? 小悪魔」
「珍しく負けました」
「あら、そう」
「魔界でも、未だ謎とされているコンビーフ……。何が書かれているのか、興味があったんですけどねー」
「ふーん」
「あら、興味がない?」
「ないわ」
「そうですか」
「魔法に関係なさそうだもの。
そのコンビーフとやらが、異世界の魔王の名前だとかいうのなら、いくらでも出していいから落札しろと言うところだったけど」
ひょいと肩をすくめる魔女の傍らで、一冊の本がふよふよ浮かんでいる。
「けれど、この『すずちゃん』っていう人、強いですねー。
こんなにオークションが強い子、初めてですよ」
「そういうあなたは、どうしてその手のことに詳しいわけ?」
「それは秘密です」
「……こいつは」
そして魔女は思う。
この司書、一体、どれほどの隠し技を持っているのだろう、と。
「まぁ、今回はお疲れ様。残念だったわね」
「はい。
けど、この前、鈴奈庵から借りてきた『民明書房』の本! これがまた面白いんですよね~。
こっちで、正直、いいかな、って。怪我の功名?」
「ただのラッキーよ」
「ですね!」
にこやかに笑う司書は『じゃあ、私、本の書写に戻りますのでー』とたったか去っていく。
やれやれとそれを見送った魔女は、つと、『だけど、魔法の起源が痲津火胡とかいう中国の人間にあったなんて初耳だったわね』とぽつりつぶやくのだった。
「ふんふんふ~ん♪」
「あら、楽しそうね。小鈴」
「あら、阿求……って、えらいやせこけてない?」
「……ふふふ。原稿突っ返されてね……」
それならば、その分、充実させて返してやるまでだと逆境精神を発揮し、『全面フルカラー』にして原稿を再提出してやったのだという。
それを受け取った、彼女の紳士な担当曰く、『さすがです、稗田先生』とにっこり笑っていたとか。
「それ、例の本?」
「ええ、そう。さっき届いたの」
分厚い本が、カウンターの上に載っている。
『コンビーフの謎』と書かれたその本からは、ただならぬオーラが漂っていた。
下手な妖魔本などあっという間に駆逐してしまいそうな威圧感を放つそれを、小鈴はいとおしそうにためつすがめつし、表紙にすりすりほお擦りしている。
「中身はどうだった?」
「読めなかった」
「へっ?」
「多分、わたし達の知らない言語で書かれているのね。
さっぱりだったわ」
「残念って話じゃないわね」
「仕方ないわよ。神代の頃から続いている謎だというし」
「そうなのよね」
だから、今の時代の人間ごときが、それを読み解けなくても仕方ない、というのが小鈴の言葉であった。
というわけなので、この本は、読むものではなく『飾るもの』にするのだという。
要するに、本棚の一番いいところに置いて客寄せとすると共に、本を多くの人に『借りられる』ようにするのだとか。
「お値段高めなのに?」
「高めなのにね」
「持って行く人はいるものね」
「いるいる。
たとえば……」
「おーっす。小鈴ー、何か面白い本、入ったかー? 死ぬまで借りたりしないから、本、貸してくれー」
「……ってな人とかね?」
「なるほど」
にっこりにんまり笑う二人は、その言葉に振り返り、『はーい』と笑顔で声を上げるのだった。
「いらっしゃいま……何だ阿求か」
「何だとは何よ。友人に対して」
人里の一角。
少女が一人、カウンターに腰掛けた、ここは鈴奈庵。
大量に並べられた本棚には、文字通り、本が一杯、山のよう。
汗牛充棟のこの世界。世界の主は、一人、ぺらぺらと本をめくっている。
「新しい本が入ったと聞いて」
「ああ、これ? 面白いわよ」
主人の名は本居小鈴という。
彼女の友人である、本日のお客様、稗田阿求は『へぇ』と声を上げた。
「どんな本?」
「色々な武術とか、道具とかの由来について書かれているの。
内容もすごく詳しいし、『そうなんだ!』って驚くことばかりよ」
「それは面白そうね」
「全部集めるの、すごい苦労したの。
入り口の、一番いいところに入れておくのよ。きっと、みんな、借りていってくれるわ」
小鈴が読んでいるその本は、どれもそれなりの分厚さだ。
タイトルを見るに、その本の中には、たくさんの歴史と時代が詰まっているのだろう。
わたしも読んでみたいな、と阿求はこの時、思った。
ちなみに、その本の出版社は『民明書房』。初めて聞く出版社である。
「ん~……! っと」
椅子の上で大きく伸びをして、よいしょ、と立ち上がる。
彼女は本を抱えると、よいしょよいしょと本棚へ。
「大変そうね」
「そう思うなら手伝って」
「やーだ。わたし、病弱だもん」
「病弱な人間が、夜の深夜まで筆を取って物書きしてるなんて、不思議なこともあるものね」
「……〆切の怖さを知らぬ愚か者めが」
阿求は、そう、呪いの言葉をぽつりと吐いた。
ちなみに、その〆切は、今日から三日後、新たにやってくる。
その時までに仕上げなければいけない原稿の紙面は、現在、真っ白であった。
――友人の元に訪れたのは、所謂現実逃避である。
「そういえば、前々から疑問に思ってたんだけど」
「うん」
「あなた、普段、どうやって本を仕入れているの?」
ちょいちょい、とカウンターの上に残されている本を指先でつつきながら、阿求。
「色々だよ。
たとえば、行商の人から買ったりとか、近くの本屋から売れ残ったものを格安で譲ってもらったりとか。
あとは外から流れてきたものを拾ったりとか」
「うんうん」
「そういえばこの前、銀髪の眼鏡の男の人と本の取り合いになったことがあったわ。
じゃんけんで負けちゃった」
「おとなげない人もいるものね」
小鈴の見た目は、どう見ても子供。
彼女が『男の人』というのだから、その相手は立派な大人なのだろう。
子供に対してむきになる大人というのは、それはそれで情けないものだ。
「あとは……」
「すみませーん」
ちょうどその時、新たなお客様のご来店である。
「あら、あなた」
その相手に、阿求は見覚えがあった。
特徴的なその衣装。赤の長い髪。人畜無害そのものの面構え。
言うまでもなく、とある紅の館の図書館に勤める司書である。
「先日、お借りした本をお返しに来ました」
「はーい」
「それで、本のお礼に」
「わー! ありがとうございます!」
一冊の本が、小鈴に渡される。
本は重厚な装丁がなされており、ご丁寧に鍵つきだ。タイトルの文字は全く読めないため、どのような本なのかもわからない。
そして、その司書は、反対側の手に持った3冊の本をカウンターへと返した。
「いつも助かっています」
「いいえ」
「そういえば、小鈴。ここの本って、写すのは自由だったわよね?」
「貸本屋ってそういうものでしょ?」
幻想郷では、本というものは、それなりに高価なものである。
一般の『本屋』というものを訪れるのは、それなりのお金を持った者たちだ。一般庶民は、そうそう、これらに手を出すことはない。
そこで、小鈴の出番となる。
彼女のところから本を借りていって、その中身を書き写す。
普通に本屋で買うよりも安上がりで、手間はかかるが、お手軽な『本の買い方』であった。
「あなた、これ、写したんですか?」
「ええ」
「小鈴」
「二週間」
阿求は目を丸くすると共に、肩を軽くすくめてみせる。
本のレンタル期間は二週間。その間に、この司書は、一冊500ページはあろうかという分厚い本を3冊、手元に書き写したのだ。
大したものだなと思うと同時に、『その速筆の腕前、分けて欲しい』と、阿求はこの時、真剣に思っていた。
「その本、もらうの?」
「はい。今回は、レンタル代金の代わりに、ということで」
なるほど、と阿求は首肯する。
手に入りづらい本は、お金の換わりに物々交換。
この司書が勤めている図書館には、それこそ、ここの比ではないくらいに本が山のようにある。世の中に出回らない本や貴重な本も数多あることだろう。
なるほど、小鈴は賢いな、と阿求は感心していた。
「鍵は……」
「どうぞ」
「よいしょ」
早速、彼女は手に入れた本に興味を持つ。悪魔から渡される本など、ろくでもないものに違いあるまいに。
全く、好奇心というのは厄介なものだな、と思う阿求の前で、その本から七色の光が溢れ出す。
そして、
『わははははは! ようやく封印が解けたぞ! このまま世界を滅ぼしてくれる――!』
ぱたん。
「あ、妖魔本ですね」
「そうですね。
ちょっと、取り扱いが面倒かなー、と思っていたんですけど。書いてあることは面白いので」
「助かりますー」
今何か出てきたような気がするが、それは多分、気のせいだろう。
閉じた本の中から『ちょ、おま、こういう扱いはないだろ、おい!』とかなんとか声が聞こえているが、きっと空耳だ。
小鈴は本にがちゃりと鍵をかけると、「それじゃ、これ、霊夢さんにお祓いしてもらったほうがいいですね」とあっけらかんと言う。
「そうですねー。
実は、最近、本の魔力が高まってきていて。パチュリー様も、『ああ、もう、これ面倒だから、小悪魔、あなたの好きにしていいわよ』って」
「あはは、そうだったんですか」
がたごと暴れる本をビニールのヒモでむぎゅりと縛り、小鈴は笑顔で司書の女性と話しをしている。
本を心から愛するビブリオマニアを自称しているくせに、彼女はその本を思いっきり踏みつけているような、何か不思議な光景を見ているような気がするのだが、それはきっと、冬の寒さが生み出した幻想なのだろう。
「また何か面白い本、手に入りましたか?」
「入りましたよ!
入り口の本棚にある本なんですけど! 今、お勧めです!」
「あ、じゃあ、それを」
「はーい」
本をがんじがらめに縛って、ぺんと『封印』と書かれた御札を貼り付けた後、小鈴は彼女を案内して、入り口付近の書棚に導いて行く。
そして、先ほど、そこに入れた本の一冊を手にとって『どうですか?』と彼女に勧めていた。
――そして。
「あんな感じで」
「なるほどね」
人脈というのは大切なものだな、と阿求は思う。
小鈴と彼女の商売は成立。両者、ほくほく笑顔の結末がそこにあった。
「あとは……やっぱり、オークションかな?」
「オークション?」
「あの人が『貴重な本を手に入れたいなら、ぜひ』って持って来たんだけど……」
先ほど、小鈴が勧めた『民明書房』の本、全巻、片手に持って帰った司書の女性。
彼女から渡されたのだという、一抱えほどもあるガラスの球が、カウンターの上に現れる。
「……何これ」
「正規のルートには、なかなか流れない貴重品を取り扱っているオークションがあるのだけど。
そこの会場につながっているんですって」
その辺りの技術についてはよくわからない、と小鈴。
彼女は『そういう便利なものなのね』ということで納得しているらしい。
「へぇ……。
それ、大丈夫なの?」
「犯罪とかには関わってないつもりよ」
聞けば、単に『貴重すぎて表のルートに流れている数だけでは手に入りづらいもの』を売っているだけなのだという。その『オークション』とやらは。
彼ら――つまり、開催者――が、どうやってそれらの品物を入手しているのか、小鈴は知らない。
ただ、品物が売っていれば買う、それだけだ。
「どっかから盗まれたものかもしれないわね」
「そうかも。
けど、それをこっちが確かめる手段はないし。それに、あの人が、そんなものをわたしに薦めてくると思う?」
「なさそう」
あの司書の人当たりのよさと人格のよさは折り紙つきだ。
この、一癖も二癖もある人間妖怪ばかりな幻想郷の中で、数少ない『常識人』だ。あの彼女が、他人に犯罪を勧めてくることはまずないだろう。
「今度、またオークションがあるんだけど。
阿求、見に来ない?」
「面白そうね。やるやる」
「うん。
じゃあ、決定ね」
そう言って、にこっと笑う小鈴。
そしてちょうどその時、建物の入り口から、『ようやく見つけましたよ、稗田先生』という言葉と共に、眼鏡をかけた細身の紳士が現れるのだった。
そして、それから一週間後。
「阿求ー、始まるよー」
「はーい」
鈴奈庵の一室、小鈴の部屋で、二人はオークションへの参加の用意をしていた。
といっても、座布団や座椅子を置いて、おせんべいとお茶を用意する程度である。
目の下に隈を作った阿求が、今日のオークションを目当てに、目を輝かせている小鈴の隣に座る。
「すいっちおーん」
小鈴が、あのでっかいガラス球――よく見ると、水晶か何かで作られていたようだ――の頭をぽこぺんと叩く。
すると、それが一瞬、ぱっと光を放った。
光は球の中心に向かって収束し、ぐるぐると回転した後、ぱちんと弾けて散る。
「あ、すごい」
すると、その球の中に、別の場所の映像が浮かび上がる。
そこは、何かの会場だった。
司会が上がると思われる壇上を、球は映している。
「始まるよ」
小鈴が言うと、球が映す会場が暗闇に覆われる。
続いて何やらにぎやかな音楽が鳴り響き、ぱっと壇上にスポットライトが当たる。
ライトの中、やってきたのは、バニースーツ姿の金髪少女。よく見ると胸元と肩の位置をつなぐ透明のひものようなものが見える。
つってるのだろう。バニースーツは平坦だとめくれるのだ。どう頑張っても。
『はーい! レディースアーンドジェントルメーン!
今宵もエレンちゃんのふわふわオークションへようこそー!』
何か竹○泉っぽいポーズを取って、少女はマイクパフォーマンスをする。
なぜか、顔に仮面などをつけている彼女は、『今夜も、皆さんの物欲を刺激する名品逸品を取り揃えました!』とアピールしている。
「今回の目的はね、これよ」
今回のオークションの品物が書かれていると思われるカタログをめくる小鈴。
彼女が開いたページには本が一冊、掲載されている。
そのタイトルには、こう書かれている。
『コンビーフの謎』
「……これは!」
「そう……。今まで、この幻想郷で、謎の一つとされていたコンビーフについて書かれた本よ。
一説にはただの偽書とされているのだけど、それならそれで、ネタとして価値があるわ」
「確かに読んでみたいけど……高いんじゃないの?」
「今回のもち玉は7000よ」
ちなみに、このオークションでは、『10』単位から入札が出来る。
1単位は現実の通貨に換算すると『1000円』なのだとか。
「700万!?」
「ええ」
「……あなた、意外とお金持ちだったのね」
「うまく落札できれば、これなら、それくらいすぐ稼いでくれそうだもの」
貸本屋だからといって、貸す本の値段を一律にする必要はない。
基本は『低価格で皆様の元に』だが、超高価な本、超貴重な本まで低価格で廉価に取り扱っていて、もしも破られたり汚されたりしたら泣くに泣けないだろう。
なるほど、と阿求はうなずく。
そして、この幻想郷には、所謂好事家が多い。それこそ、『面白いものならいくらでも出す』という連中だ。
この本は、そうした連中に、高値で貸し出すことが出来るだろう。
『それじゃ、オークション、はじめまーす! ひゅーひゅー!』
オークションが始まった。
最初は、特にこれといって面白いものはない。
『爆発するスイカ』だの『爆発するお金』、『爆発する椅子』などはそこそこの値段で売れた。
つーかやたら爆発物取り扱ってるな、このオークション、と阿求は思っていた。
『続きまして、霊験あらたかな御守一式! 10単位から!』
どこの誰が作ったかわからない御守が出てくる。
ほとんど入札がなされない中、『あ、はーい?』と司会者が後ろでごにょごにょ。
『えー、出品者より、今なら落札された方には守矢神社の巫女の水着姿写真を10枚プレゼントとの言葉が……』
一瞬で、『100!』『いや、200だ!』『300!』と入札が集まり、最終的に、御守セットは『1000』というかなりの高額で落札される。
やはり、購入者の触手を動かすための手段は重要である。
「一体どこでやってるのかしらね」
「さあ?」
会場も不明、主催者のこの少女の正体も不明。ついでに取り扱っている品物も、出所がよくわからない、と。
そんな怪しいもの満載のこのオークションに、よくもこれだけの『人』と『物』が集まるものだと阿求は感心していた。
「幻想郷ってさ、ほら、娯楽が少ないから」
どこから持ち込まれたのか『三輪車』なる幼児用のおもちゃも出品されている。これはあっさり、『10』という最低単位で落札される。
「出所不明の正体不明の物体でも、面白そうなら、とりあえず参加してみる、か。
一歩間違ったら破滅よね」
「そうならない理性は必要だよね」
ぱきん、とおせんべいもぐもぐ。
二人、のんびりオークションの映像を眺め、そして――。
『さあ、それでは、今夜のオークション目玉商品の一つ、「コンビーフの謎」のオークションを始めたいと思いまーす!』
「……来たわね」
小鈴が居住まいを正した。
彼女は目元を飾る眼鏡をくいっと上げる。ちなみにこの仕草に意味はない。強いてあげるなら『かっこいい』ってことだ。
『では、100からどうぞ!』
『110!』
『120!』
『150!』
『200!』
順調に、値段がつりあがって行く。
たかが本に10万だ20万だと常人から考えれば正気の沙汰ではないが、こと、これを趣味とする好事家たちにとっては、それこそ『喉から手が出るほど欲しい』品物。
いくらでも払ってやろうホトトギスという道楽者は数多い。
『500!』
『おーっと! 500出ました! 500! さあ、他にいらっしゃいませんか!』
『510!』
『520!』
『530!』
小刻みな値動きが続く。
参加者同士、互いの状況を探り合っているのだろう。
相手はどこまで出せるのか。
自分はどこまで出していいのか。
オークションの熱狂度合いは。
それらを見定めているのだ。
熱狂したオークションでは、しばしば、適正価格以上に金額がつりあがることがある。場の空気に呑まれ、出せもしない金額を出してくるものがいるせいだ。
しかし、それをブラフとして使う強者もいる。
それを、彼らは見定めようとしているのだ。
『700!』
『700! ずいぶん上がりました! さあ、他には!?』
ここでしばし、沈黙。
参加者たちは、どうやら、この辺りがこの本の適正価格だと考えているらしい。
そこへ、
『710!』
『はい、710! 710です! 710! 他にいらっしゃいませんか! 710!』
司会の少女が『710』という言葉を連呼する。
『720!』
『720が出ました! さあ、720です! 720! 720! いらっしゃいませんか!? 720!』
どこかから『くっ』とかいう声が聞こえたが、それはさておき、720の入札後、しばらく言葉が出ない。
小刻みな値上げ、空白の時間。
――そろそろ潮目か。
『1000』
『おーっとぉ! ついに大台に乗りましたぁー!』
小鈴が動いた。
他の参加者たちが熱狂して大声を張り上げる中、彼女は小さな声で、淡々と『1000』の大台を告げた。
大声を上げて場を盛り上げる司会者。
反対に、水を打ったように静まり返る会場。
『1010!』
『1500』
『一気に上がります! 1500です!』
対抗してきた参加者の意思をねじ伏せる。
小鈴は相手が値段を吊り上げた瞬間、その何倍もの入札を叩きつける。
迷わず、ただ、冷静に。機械的に。
場の空気に流されるわけでもなく、ただ淡々と。
――正直、この手の相手とはやりあいたくない。そう、誰もに思わせる雰囲気で。
『せ、1800!』
『2500』
『さあ、どなたかいらっしゃいませんか!? 2500です! 2000の大台を超えました!』
なけなしの金と見栄を振り絞り、声を上げた参加者をねじ伏せる。
一気に値段を吊り上げ、場を平定する。
小鈴の戦略はかなりのものだ。
これでは、相手は、『こいつを相手にしても勝てない』と思うことだろう。
「それでは、2500! あと3回です! 2500! 2500!』
最後のコールがなされる、その瞬間、
『3000』
『きたぁぁぁぁー! 3000です! 3000が出ました!』
「……来たわね」
「え?」
静まり返った空間に、小鈴と同じように、凛と響く涼やかな声が響き渡る。
『3200』
『3500』
『3800』
『4000』
『すごい! すごい! どんどん上がっていく! 4000の大台です! 突入しましたぁー!』
「……この人、手ごわいのよ」
小鈴はつぶやく。
勝負は、顔も見えぬ相手と小鈴の一騎打ち。
彼女は腕組みし、悩む。
「前もね、面白い本が出ていたことがあったの。
3000を目安にやっていたんだけど、2500で乱入してきたわ」
「へぇ」
「あっさり3000まで上げられちゃって。
ブラフで3200を出したら4000で落札されちゃった」
「すごいわね」
「うん」
この人は手ごわいのだ、と小鈴。
相手は恐らく、女だろう。声の質からわかる。響く声音から、そこそこの、妙齢の年頃の女性だ。
ちなみにこのオークションでは、入札に際して、値段のところに参加者の名前が表示される。相手の名前は『Little』とあった。
彼女は小鈴と同じく、オークションを見つめながら、じっと機会を伺っていたのだ。
最初の有象無象などどうでもいい。己の『敵』がいないか、それを見つめていたのだ。待っていたのだ。
そして、『小鈴』という敵が現れた。
『彼女』は、この敵を打ちのめすために腰を上げた。
『4100』
『4500』
「……まだ余裕があるか」
小鈴は小刻みに値を上げようとする。
だが、相手は一気に、それを上回る金額を叩きつけてくる。
先ほど、小鈴が行なっていた戦法と同じだ。
彼女は小鈴の心を折りに来ているのだ。
こういう相手との勝負は、なかなか、面白い。いつしか、品物を落札するより、相手との勝負を楽しむことに意識が向いてしまうほどに。
わずかな逡巡。
だが、それは、たとえ数秒であろうとも相手にとって余裕を感じさせる空間となる。
ならば――。
『5000』
『ついに5000! ついに5000です! さあ、どこまで上がるのか!』
小鈴の一言で、相手の動きが止まった。
すぐさま、出せる金額ではなくなったのだ。
『彼女』にとって、『5000』という値段が、一つの分け目だったのだろう。
ここまでなら相手がどれほど食い下がろうとも叩き潰す。
だが、それ以上なら、戦略を変えなくてはならない。
『5100』
『6000』
『おーっと! これはー! これはきたぞーっ! なんと、6000だぁぁぁぁぁ!』
「小鈴、いいの?」
「いいのいいの。予算は7000よ」
相手は恐らく、画面の向こうで舌打ちしていることだろう。
自分が追い詰めたと思っていた相手は、まだ余力を残していたのだ。
反撃に出てきた。
相手はそう思っていることだろう。
そして、一気に『6000』という途方もない金額へと吊り上げてきた。
自分を負かしにきたのだ、と。
『6000です! 6000! 6000! 驚きの金額です!
さあ、他にいらっしゃいませんか! 6000! 6000! 6000!』
『6100』
ちっ、と、今度は小鈴が舌打ちする。
熱狂する司会者とは反対に、相手は冷静であった。
ここで相手が一気に金額を吊り上げてきたとしたら、考えうる選択肢は二つ。
まず一つが、小鈴のように反撃ののろしを上げてきた可能性。
これではもう勝ち目がない。降りるしかないだろう。
そしてもう一つが、破れかぶれのブラフ――あるいは、自爆。こちらでも落とすことの出来ない金額にまで吊り上げて『相打ち』を狙うパターンだ。
だが、敵はやはり、侮れなかった。
小刻みに金額を動かすパターンに変更してきたということは、小鈴と同じく、限界が近いことを示している。
所謂、チキンレース。どちらが先に下りるかの勝負を仕掛けてきたのだ。
『6200』
『6300』
『6400』
『6500』
「……まずいなー」
司会者は熱狂して、場の空気を盛り上げようとする。
これを眺める観客たちのどよめきも聞こえてくる。皆、場の雰囲気に呑まれ、興奮し、熱狂している。
それに反して、冷静なのは、相手ただ一人。
小鈴は焦っていた。
「どうしたの?」
「……チキンレースじゃないかもしれない」
『6600』
『6700』
「ほらね?」
小鈴が値段を口にするのと同時、ほぼ間髪入れずに、相手はそれに次の値段をかぶせてくる。
「相手、きっと、まだ猶予がある」
「けど……さすがに、ねぇ?」
「いや、阿求とかから見たら、本一冊にこの値段は、って思うかもしれないけどさ。
うちらにとっては違うんだなー」
じっと、球を見つめてうなる小鈴。
そして、小鈴が口を開く。
『6800』
彼女の値段提示に、会場にどよめきが起きる。
まだやるのか! と。
彼らは内心で思っているのだろう。
この声の主は、どこまで、たかが本を買うために金を出すつもりなのか。
バカか? 愚か者か? そして好き者か?
己がその領域に属するものである以上、彼らは、彼女を『評価』している。
己の趣味のためなら、金を惜しまない『大バカ野郎と』として。
『さあ、6800です! これは、まだまだ上を目指すつもりかー!? さあ、さあ! 6800! 他にいらっしゃいませんか!』
声は、ない。
小鈴は腕組みし、難しい顔で球を見つめている。
そして、
『6900』
相手の声。淡々と、感情を感じさせない声。
会場の声が、さらに大きくなる。
小鈴に聞こえてるのと同じく、このオークションを見つめる者たちは、女二人が賞品を争っていることを知っている。
彼らは、オークションではなく、彼女たちの『戦い』に熱狂しているのだ。
女二人の激しいにらみ合い。心理戦。それが、彼らのボルテージを上げて行く。
「6900……か」
小鈴が考えているリミットまで、あと100。
10単位で吊り上げることも出来るが、それでは盛り上がった場の空気に水を差す。
そうなれば、そこを相手がついてくる可能性がある。
『弱気になった』
そう取られたら負けなのだ。
「……よし」
会場では、司会者によるコールが続いている。
大きく、小鈴は息を吸った。
『それでは、あと一度のコールで締めさせていただきます!
ろく……!』
『7000!』
会場が、しん、と水を打ったように静かになる。
司会者も息を飲み、観客たちは目の前の映像を食い入るように固唾を呑んで見守っている。
『ななぁぁぁぁせんっ! 7000です! ついに出ました!
さあ、さあ、いらっしゃいますか!? 7000ですよ! 7000以上! いらっしゃいませんかー!?』
小鈴が、ぐっと、拳を握り締める。
もう、これ以上の値段を提示することは出来ない。相手が降りるのを願うしかない。
コールは続く。
1回。2回。3回。
あともう一回。
もう一回のコールで、この勝負は終わる。
『では、最後のコールです!』
小鈴は目を見張り、息を呑んだ。
司会者が右手を大きく振り上げて、叫ぶ。
『ななぁぁぁぁぁぁぁぁせんっ!
おめでとうございます! 7000の方! 落札されましたっ!』
「……ぷはぁ~」
いつの間にか、息をすることすら忘れていたらしい。
大きく息を吐いて、小鈴は脱力する。
「やったじゃない!」
隣では、友人の勝負に、その雰囲気に飲まれ、我がことのようにこの勝負を見守っていた阿求が破顔する。
ありがとー、と小鈴は笑うと、
「運がよかった」
彼女はその視線を天井に向け、小さくつぶやいた。
「え?」
「多分、相手も、今回は7000を上限にしてたんじゃないかなぁ」
根拠はないけれど、と小鈴。
よいしょ、と彼女は姿勢を正す。
「小刻みに値段を吊り上げてくる姿勢に変わった時にね、わたしは『リミットが近いんだな』って思ったのよ。
相手のことだから、多分、余裕があるなら一気に飛ばしてくる。
そうじゃないってことは、予算の限界に、値段が近づいていたってことなの」
「うんうん」
「で、多分、切りのいいところで切ってくるはず。
6000以上で切りのいい、次の値段は?」
「……7000」
「そういうこと」
オークションは次の品物に移っている。
だが、これほどの名勝負が行なわれた後のそれは、やはりあんまり盛り上がらない。
そのためか、出てくる品物に入札が行なわれないこともしばしば。入札が入っても安値での落札が続く。
「こっちが先に動いたから勝った。
逆なら、多分、負けてた」
「なるほどね」
「勝負は時の運だよね。
まぁ、考えていることとは全然違って、相手はまだまだ余裕があって、こっちを蹴るために、値段を小刻みに出して様子を伺っていたのかもしれないけど」
それも全ては過ぎたこと。
勝利は勝利、なのだ。
「よーし! じゃあ、あの本で、ばりばり稼ぐぞー!」
「おー!」
突き上げる小鈴の拳に阿求が同調する。
少女二人は勝利を祝うために、おせんべいとお茶で祝杯を挙げる。
その後ろで続くオークションが『それでは、本日のオークション、最後の品物でーす!』と告げられるのは、それから少し、後のこと。
「パチュリー様」
「何? 小悪魔」
「珍しく負けました」
「あら、そう」
「魔界でも、未だ謎とされているコンビーフ……。何が書かれているのか、興味があったんですけどねー」
「ふーん」
「あら、興味がない?」
「ないわ」
「そうですか」
「魔法に関係なさそうだもの。
そのコンビーフとやらが、異世界の魔王の名前だとかいうのなら、いくらでも出していいから落札しろと言うところだったけど」
ひょいと肩をすくめる魔女の傍らで、一冊の本がふよふよ浮かんでいる。
「けれど、この『すずちゃん』っていう人、強いですねー。
こんなにオークションが強い子、初めてですよ」
「そういうあなたは、どうしてその手のことに詳しいわけ?」
「それは秘密です」
「……こいつは」
そして魔女は思う。
この司書、一体、どれほどの隠し技を持っているのだろう、と。
「まぁ、今回はお疲れ様。残念だったわね」
「はい。
けど、この前、鈴奈庵から借りてきた『民明書房』の本! これがまた面白いんですよね~。
こっちで、正直、いいかな、って。怪我の功名?」
「ただのラッキーよ」
「ですね!」
にこやかに笑う司書は『じゃあ、私、本の書写に戻りますのでー』とたったか去っていく。
やれやれとそれを見送った魔女は、つと、『だけど、魔法の起源が痲津火胡とかいう中国の人間にあったなんて初耳だったわね』とぽつりつぶやくのだった。
「ふんふんふ~ん♪」
「あら、楽しそうね。小鈴」
「あら、阿求……って、えらいやせこけてない?」
「……ふふふ。原稿突っ返されてね……」
それならば、その分、充実させて返してやるまでだと逆境精神を発揮し、『全面フルカラー』にして原稿を再提出してやったのだという。
それを受け取った、彼女の紳士な担当曰く、『さすがです、稗田先生』とにっこり笑っていたとか。
「それ、例の本?」
「ええ、そう。さっき届いたの」
分厚い本が、カウンターの上に載っている。
『コンビーフの謎』と書かれたその本からは、ただならぬオーラが漂っていた。
下手な妖魔本などあっという間に駆逐してしまいそうな威圧感を放つそれを、小鈴はいとおしそうにためつすがめつし、表紙にすりすりほお擦りしている。
「中身はどうだった?」
「読めなかった」
「へっ?」
「多分、わたし達の知らない言語で書かれているのね。
さっぱりだったわ」
「残念って話じゃないわね」
「仕方ないわよ。神代の頃から続いている謎だというし」
「そうなのよね」
だから、今の時代の人間ごときが、それを読み解けなくても仕方ない、というのが小鈴の言葉であった。
というわけなので、この本は、読むものではなく『飾るもの』にするのだという。
要するに、本棚の一番いいところに置いて客寄せとすると共に、本を多くの人に『借りられる』ようにするのだとか。
「お値段高めなのに?」
「高めなのにね」
「持って行く人はいるものね」
「いるいる。
たとえば……」
「おーっす。小鈴ー、何か面白い本、入ったかー? 死ぬまで借りたりしないから、本、貸してくれー」
「……ってな人とかね?」
「なるほど」
にっこりにんまり笑う二人は、その言葉に振り返り、『はーい』と笑顔で声を上げるのだった。
幻想郷には読書家、知識層が意外に多いですからね。本に対する需要は大きいのでしょう。インターネット無いし。手に汗握るオークションの戦いが面白かったです。
まさかのエレンで笑いました。
面白かったです。
つか読ませろその本
というか、題名の割に熱い展開で驚きました
面白かったです
そしてもっと増えろすずあきゅ!
コンビーフ、こいつは一体何なんだ…
能力覚醒前ということにすれば矛盾はなくなりますが、ご自身のSS書きあるいは小鈴スキーのプライドはそれを許しますかね?
コンビーフ、一体ナニモノなんだ……w
ところで民明書房はどのくらい出せば貸して頂けるんで?