世界とは、一体何なのだろうか。
暗闇に閉鎖された真夜中の地下室。
きっと外の空には、美しい月が浮かんでいるのだろう。
外なんてもう、随分見ていないから、月の形なんて覚えちゃいないけど、確か凄く綺麗だった。
私、フランドール・スカーレットは今日も平淡な一日が過ぎるのを体育座りで待っていた。
朝が来て昼が来て夜が来る。
当たり前の一日。
幻想など、ありゃしない。
愉快な文字の綴られる事の無い、情景も心情も何一つ綴られる事の無い白紙の本。
例えるのならそれが私。
私にとってはどこか物悲しさを感じさせる本だけど、他人から見たら、只の紙切れ。
何だか悲しくて、今日も私はただ暗い部屋の殻に閉じ籠る。
目を閉じて意識を手放せば、今日も朝が来る。
吸血鬼を苦しめる太陽の光は、ここには届かない。
それ故、朝が来ているかなど確かめる術は無い。
ただ今が朝だと信じて目を覚ます。
また空っぽで虚しいだけの一日が始まる。
もう何故起きるのかさえ、生きるのかさえ解らない退屈な日々。
ずっと眠っていれたら、どれだけ幸せだろうか。
外の世界の空は、今何色をしているだろう。
遠くで聞こえる筈の妖精逹の喧騒は、まだ眠っている。
静かな静かな地下室は、小さな世界から遮断されて私と供に孤立する。
私は今日も独りぼっちでここを生きます。
だけどたまにはお外に出たいから、私はドアノブに手を掛けてみる。
確か、昨日もこんな事したっけ。
いや、一昨日も、何年もだ。
けれど、開いた先の世界がもしも、今より暗く、虚しく寂しい結末しか与えてくれないのなら、私はここに閉じ籠る事を選ぶ。
だってその方が、幸せだから。
もう、耐えられない。
これ以上苦しむくらいなら、妄想の中の皆と暮らしていく事を選ぶ。
この扉を開いたら、皆は居るのだろうか。
騒がしい妖精逹の声はここまで響くけど、もしも、もう誰もこの館に居なくて、この明るい音楽逹は、皆私の作り出した幻聴なら、私は何も見たくない、知りたくない。
お姉様、お姉様、もし居るのなら、ここに来て、昔みたいに外の世界を教えて下さい。
私一人じゃ開く事の出来ない扉を、供に開けて下さい。
苦しくて溢れ出した涙は止まらなく、足元に、小さな跡を付ける。
私は今日もここで独り眠る。
明日こそ、扉を開いてみせるから。