Coolier - 新生・東方創想話

死神の送迎

2014/02/23 11:57:43
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 おや、アンタが新しいお客さんかい?

 ………。

 ん? 少し混乱しているのかな?
 まぁ、そりゃあそうだよね。いきなりの事に戸惑う気持ちも分からないでもないけど……、取りあえず、ここがどんな場所だってことぐらいは理解してるね?

 ああ、そうだね。無理に返事をしようとしなくてもいいよ。今のアンタは喋る事が出来ないのはちゃんと承知してる。と言うより、そもそも肉体がないからね。現世に干渉できないのは当たり前だよ。

 ………。

 取りあえず、今は私の言う事を聞いていればいい。アンタを案内するのが私の仕事だから。
 んー? なんか疑問だらけの顔だね。そりゃ無理もないか。なにせその体は初めての経験だろうし。
 
 うん、と。まずは自己紹介。まぁ自己紹介と言っても、語る事は殆どないんだけど……。ほら、この大きな鎌と質素で貧相な渡し船、それに向こう岸すら見えない程の大きな川。コレを見れば私が何者なのか、おおよその想像は付くでしょう?
 
 ………。
 
 うん、うん、そういう事だ。アンタは物分かりがいい様だね。説明が楽で助かるよ。こう言うのは口で説明しても、本人が納得しなきゃ意味が無い事だからね。
 
 それでだ。
 アンタはこれから私の船に乗ってこの川を渡らなければならない。この川はこの世とあの世のちょうど境目で、向こう岸は死後の世界。つまり、"あの世"って訳さ。もちろん、一度行ったらもうコッチの世界に戻ってくる事は出来ない。
 早い話、ここは今まで生きてきた世界にサヨナラをするための終着点。そんな場所なんだよ。それは分かるね?
 
 ………。
 
 うーん、そんな困った顔するなよ。大体のことは理解できてるんだろう?
 そりゃ急な状況に対応できない気持ちは分からなくもないけどさ。いずれにせよ、アンタは船に乗って向こう岸まで行かなきゃならないんだよ。そういう決まりだからね。ここで悩むのは余り意味の無い事だぞ?
 
 あー、それともアレかい? 生前に未練があるからまだ成仏したくないと。そう言う事かな? もしそうなら、それは余りお勧めしないな。
 今のアンタはひどく不安定な状態だからね。その状態のまま何日も過ごしていると、いずれ悪霊になっちゃうんだよ。悪霊になると本人の意思に関わらず誰かを襲うようになる。そうなると、私に迷惑がかかるし、アンタはとても痛い思いをしなくちゃいけない事になる。だからお勧めしない。
 
 でもまぁ、今すぐ悪霊に変化するって訳でもないから。もう少し考える時間が必要なら、時間をかけて思いっきり悩むといい。その時は私も付き合ってあげるよ。幸い、アンタの他にお客さんが来る気配もないし、ちょうど私も暇してたんだ。
 
 アンタは生前の記憶を思い出して感傷に浸ってもいいし、友人や家族たちの幸福を祈ってもいい。なんなら、逆に嫌いなヤツを恨んでみてもいい。ゆっくり時間をかけて自分の気持ちを整理するこったね。成仏する前に、未練はなるべくスッキリさせておいた方がいいだろう?
 
 後は……、そうだね。『最後に一目会いたい人がいる』とか、『思い出の風景を眼に焼き付けておきたい』とか、そんな種類の未練があるなら、私を頼ってくれて構わない。アンタの望む場へ一瞬にして連れて行ってあげるよ。私の能力はそういうのが得意なんだ。こう、距離を操ってさ、好きな場所へピューンと一っ飛びで行けちゃうんだよ。
 
 んで、アンタはどうするんだい?
 もう少し悩んでみるのか? 行きたい場所があるのか? それとも、覚悟を決めて今すぐ船に乗るのか?
 アンタの好きに決めるといいさ。

 ………。

 了解。それがアンタの選択――今すぐ船に乗る――だね。なかなか潔くて良い選択だよそれじゃ、ちょっとコッチへ来てね。船を出す準備をするから。
 
 それにしても、アンタは随分と変わったお人だね。何も迷わず、何処へも立ち寄らずに船に乗るって選択が出来るヤツはなかなか居ないよ。大抵の場合、人は迷うものだし、最後に行きたい場所は一つや二つあるものなんだけどねぇ。アンタにはそれが無いようだ。
 
 よし、じゃあソコ。ソコに座って。
 
 それに随分と落ち着いてる。普通の人たちならもっと取り乱しているはずなんだよ。なにせ魂だけの体なんて皆はじめての経験だからね。状況を理解してもらうだけで半日以上も掛かる事だって珍しくもないんだ。それ比べたらアンタは、肝が据わってると言うかなんと言うか……、まっ、私としては説明が楽で助かるんだけどね。
 
 さぁ、準備完了。後は出発するだけ――っと、その前に、アンタには渡し賃を払ってもらうよ。これを貰わないと向こう岸に届けるわけにはいかないからね。
 渡し賃はアンタの手持ち全額、つまり今のアンタの全財産だ。がめついと思われるかもしれないけど、これが決まりだからね。さっ、渡してもらえるかな。
 
 ………。
 
 ん、どうしたんだい? 首を横に振って。今さら渡し賃を払いたくない、って感じの表情でもないけど……。まさか、手持ちに一銭もないとか?

 ………。

 いや。そこで頷かれてもねぇ。それはあり得ないはずだよ、生前のアンタがどんな人生を過ごしてきたにせよ、その人生の価値に見合うだけの金銭がアンタには用意されているはずなんだ。
 ほら、もう一度探してみて。
 ポケットの中は?
 前袖の裏側に縫い付けられていたりしない?
 ………。

 うーん、おっかしーな。何も出てこない……。本来なら何かしら金銭を持ち合わせているはずなんだけどね。
 ……と言う事はアレかな。アンタが例のビップな客人なのかな?

 と、アンタに訊いてもサッパリだろうね。
 いやさ、つい先日に私の上司から通達があったんだ。その内容を要約すると、
『近日中に渡し賃を持たない霊がここに訪れます。その霊に渡し賃は必要無いので、貴方は気にせずいつも通り仕事に励んでください』って、そんな事が書いてあったんだよ。
 多分、その便りに書かれていた"渡し賃を持たない霊"ってのがアンタなんだろうね。きっと。
 何か心当たりは有るかな? 
 って、訊いてもその様子じゃ何も知らなそうだね。まぁ、その話はおいおい聞くとして、まずは出発しようじゃないか。話はそれからだ。
 
 んじゃあ、船を出すよ。出す時は船が少し揺れるから、縁にしっかりとつかまっててね。オーライ、しゅっぱーつ。
 
 ―――。
 
 ――。
 
 ―。
 
 
 よーし、無事に船を出せたようだね。天気は晴れ、風は微風で波は穏やか。川霧が少し出ているのが気になるけど、まあまあ悪くない門出だね。きっとお前さんは、少々のんびり屋な性格の持ち主のようだ。
 どうだい? 当たらずとも遠からずって所だろう。
 
 ………。
 
 ふふーん、何で分かったのか気なるかい? 
 実は、って程の事でも無いんだけどさ、この川は渡る者の気質を反映して天候や川の流れを変化させるんだ。もしも、アンタがせっかちな性格なら川の流れが速くなるし、まっすぐで正義感の強い人なら日差しの強い日本晴れになる。私はそれを読み取って言い当てているだけ。
 んで、アンタの場合は何て言うかこう、スローライフ的な感じ?
 風も川の流れも決して停滞している訳じゃないが、ゆっくりと進んでる。たぶん、お前さんはどんな場所でものらりくらりと面倒事の隙間をすり抜けながら、上手い具合に人生を楽しんできたんだろうね。そんな感じのする天候だよ。
 
 ともあれ、アンタの場合なら岸にたどり着くまでに対して長い時間は掛からなそうだ。見たところ、悪人って面をしているわけでもないしね。こちらとしても気が楽だよ。サンキューね。
 なんせ極悪人を乗せちまった時は、コレがなかなか骨が折れる仕事になるんだわ。この川はね、渡る者の罪の大小に応じてその川幅を変化させるんだけど、悪人の場合は言わずもがな、対岸に着くまでに何日も掛かる事だってあるんだよ。
 想像できる? それに付き合わされる私の気苦労。
 まぁ、それが仕事だからって思えば我慢できるっちゃ出来るんだけどね。なによりしんどいのは、乗せた魂がその長旅に耐えきれずに消滅しちゃった時なんだ。なかなか虚しいものだよ……、空席になった船の座席を見つめるのはね。
 それにさ、私たちの仕事のノルマは送り届けた者たちの人数で決められているから、途中で消滅されちゃった場合はノルマに加算されないんだよ。つまり、その数日間の仕事はすべて水の泡。まったく泣けてくるよね。何かしら手当があってもいいと思うんだけど、アンタもそう思わないかい?

 おっと。申し訳ない。なんだか愚痴っぽくなっちゃったね。私の仕事話なんて聞かされても面白くないだろ?

 ………。

 そうそう、アンタにはちょっと訊きたい事あるんだよ。アンタの素性について。
 ほら、私だって長いこと船頭をやっているけど、渡し賃無しで三途の川を通過出来るヤツなんて初めての経験でさ、だから少し気になっちゃってね。
 本来なら、無料で渡れるってのはあり得ないはずなんだよ。そう考えると、アンタは例外中の例外って訳。多分、何か特別な理由があるんだろうけど……、アンタ自身、何も心当たりが無いんだろう?

 ………。

 ま、そうだろうね。アンタも困った顔してたし。
 うーん、じゃあ他の可能性となると……。アンタ自身、何か特別な人物だったりしたのかい? 町の権力者とか、超絶パワーを持ち合わせた修行僧とか?
 
 ………。
 
 これも違うか……。まぁそりゃそうだよね、見たところ普通の町娘って風貌だし、アヤカシの類でもなさそうだ。
 うーん、こりゃあ駄目だ、分かりそうにないね。手掛かりが少なすぎる。ギブだ、ギブ。後で私の上司に訊くことにするよ。そっちの方が手っ取り早いし、煩わしさもないから。
 あっそうそう、私の上司の事は知ってるかい? 四季映姫って名前の閻魔さまなんだけどさ。
 
 ………。

 ほう、こりゃ以外だねぇ。もしかして、生前は四季様とはお知り合いだったり?

 ………。

 なるほど、知り合いか。これは大きなヒントになりそうだ。四季様と関係のあった人物となるとだいぶ限られて……。あー、でもダメだ。よく考えると、私ってば四季様の交友関係ってほとんど知らないんだよね。
 
 んー、ソコ。そんな呆れた顔をしない。
 『おいおい、上司の友好関係を把握しておくのも部下の立派な仕事だろう』って、そう言いたいんだろう?
 ま、アンタの言いたい事は御尤(ごもっと)もですよ。でも、こればっかりはしょうがない事でね。なにせ、私がコッチに配属されたのはここ最近の事なんだよ。なんでも、前任の船頭担当の死神さんが居なくなっちゃったらしいのさ。それで急遽、私の仕事場がコッチに移されたって訳。つまり、私が四季様の部下になったのもごくごく最近でね、上司と部下の関係を築き上げるのはこれからの事なのよ。これから。
 ……まぁ、そう言はっても、四季様の下についてから、はや一週間。四季様と仲良くなれた気は全くしないんだけどね。
 なにせ、話す内容は事務的な要件ばかりで、いつも仏頂面をキープ。なんかさ、話しかけるなオーラが凄い出てるんだよ。そりゃ真面目な性格だっての分かるよ。けど、四季様と交流を深めるチャンスがなくてね。
 私としては気さくに呑みに誘ってくれるフレンドリーな上司を期待していたんだけど、それは高望みだったようだ。

 アンタは四季様とお知り合いだったんだろ。だったらさ、何かこう、四季様とお近づきになれるような妙案を教えてくれないかな?

 ………。

 あーそんな真面目に考えなくてもいいよ。私だって真剣に質問している訳でもないしね。軽い愚痴みたいなもんだよ。
 それにさ、新しい上司と上手くやっていけそうに無いってのは、薄々分かってたからね。
前の上司とそりが合わない事が多かったんだよ。だから多分、今回の上司もそうなんだろうな、ってね。

 ん? なんか興味ありげな顔だね。別に面白い話でもないんだけど……、詳しく訊きたいかい?

 ………。

 んーわかったよ。つまらない話だけど文句を言わないでくれよ。

 ええと、前の上司とはそりが合わない、って話だね。
 うん、たしかに良好な関係だとは言えなかった。彼らにとって、私はいつも仕事をサボってる不良娘としか思われてなかったから。まぁ、その責任は少なからず私にもあるんだけどね。

 ほら、最初、アンタと出会った時、船に乗るかどうかをアンタに選ばせたでしょう? 
 たとえ霊体と言っても、そこには魂と精神が存在するからね。なるべくなら尊重してあげたいんだ。だから最後の意思決定は本人にゆだねる。それが私なりの誠意ってヤツさ。

 けど、普通の死神ならそんな事をしない。普通の場合、霊の意思なんか無関係にさっさと船に乗せて、さっさと三途の川を渡るんだ。それで暴れたりしたら見捨てて、新しい霊を探す。
 そっちの方が楽だし、面倒も無いからね。

 でも、そう言うのって違うと思うんだ。なんか、こう、粋じゃないって言えばいいのかな。まぁとにかく、私は私なりのやり方で船頭の仕事をやっていたんだよ。
 けど、それが良く無かったみたいでね。

 ええと、何て説明すればいいかなぁ。
 
 例えば、最初、船に乗るかどうか――つまり、成仏するかどうかをアンタに選ばせたでしょう?
 アンタの場合はすぐに船に乗る決断が出来たけど、それは稀なことでね、普通はそうならない。みんな、成仏する決心がつくまで心の整理が必要なんだよ。もちろん、心の整理なんて事を私が手伝えるはずが無いから、私は邪魔にならないよう近くの木陰に退散して、お客さんの決心がつくのを待つ訳さ。

 ここまでは分かるだろ? んで、ここからが問題なんだよ。

 待っている間、すごい暇なんだよ。すごく、ね。
 そりゃ、心の整理にかかる時間は人それぞれで、すぐ終わる時もあれば、何時間もかかる時もあるのは理解できるよ。でも、やっぱり暇なんだ。我慢できないくらいにね。
 それで暇つぶしに、魚釣りを始めたり、昼寝をする事にしたんだけど、それが不味かったね。
 そうやって時間をつぶしている私の姿は、どう見たって仕事をサボってる様にしか見えないんだよ。現に仕事をサボっていると思われて上司に叱られちゃったしね。それも何度も。私にとっては仕事の一環で仕方なく暇つぶしをしているにも関わらず、だよ。

 ん? おいおい、そんな呆れた顔をしないでくれよ。私からすれば重要問題なんだからさ。「退屈は人を殺す」、そんな言葉があるけど、どうやら退屈は人だけじゃなく死神をも殺せるようだね。泣けちゃうだろ?

 ………。

 まぁ、とにかく。そんな事を続けていたせいでサボり魔と呼ばれるようになったのよ。それでその後は想像通り、サボり疑惑が原因で上司との関係も悪化してしまいましたとさ。

 とまぁ、大体こんな感じ。
 今思えば、私の仕事場がコッチへ移る事になったのも、それが原因なんだろうね。名目上は四季様が私を引き抜いた形になってるけど、本当のところはただの厄介払いだと思うよ。

 どうだい、つまらない話だろう。アンタが望むなら話題を変えるけど、どうする?

 ………。

 うん、そこで首を横に振ってくれるのは嬉しいね。
 だけど、私の仕事話じゃなくて、アンタがこれから行う事になる裁判の雰囲気とか、輪廻転生の手順とか、そんな話をする事も出来るけど?

 ………。

 うん、了解。それにしてもアンタは随分と変わったお人だね。私の仕事話を聞きたいって答える人はそうそう居ないよ。
 まぁ私は喋ってて楽しいから、別にかまわないけどね。

 んじゃ、次は何について話そうかな……、そうだ、私が送り届けた霊たちの話をするね。
 船頭の仕事をはじめてもう何百人霊たちと知り合って来たんだけど、その中でも特に変わった奴がいてね。そいつの話を紹介してあげるよ。
 
 そいつはさ…………。

 ――――。

 ―――。

 ――。

 ―。

 。


 よぅーし、到着だ。
 当初の見通し通り、すぐに着いたね。
 ほら、アンタも船から降りなよ、足元に気を付けてね。
 んんーーっと。やっぱりこの地面に降り立つ瞬間は心地よいね。仕事が一段落ついた事を実感出来るよ。
 こんなボロ船でも、乗り心地は悪く無かっただろう? それが唯一の自慢だからね。情けないけどさ。

 それでだ。
 これで私の仕事は終わり。
 後はアンタ自身の足で進むんだよ。大丈夫、目的地はすぐ近くだから。この道に沿って真っすぐ進むだけ。んで、真っすぐ進むと大きな建物が見えて来るんだけど……。

 ん、訊いてる? どうしたのさ、そんな驚いた顔をして――

 って四季様!? え、えっと……、執務室に居なくてもよろしいのですか?

「ええ、執務室に居ても仕事になりそうに無いので、少し散歩をしていました」

 そうですか。四季様にもそのような時があるんですね。ところで四季様? 目の下が少し赤い様ですけど……もしかして散歩と言いつつ昼寝してサボり、痛いっ!

「貴方と一緒にしないでください。それより、彼女を連れて来てくれたようですね」

 彼女? ああ、先ほど私が乗せてきた霊の事ですね。彼女って一体何者ですか? 渡し賃が無料だなんて私には初めての経験でしたよ。

「これを。貴方が気になると思って持ってきました」

 裁判資料? 準備いいですね、確かにこれなら彼女の詳細が書かれていますからね。拝見いたしますよ。
 えっと名前は……小野塚、って種族が死神じゃないですか、それにこの勤務地って……

「ええ、貴方の察する通り、前任の船頭担当の死神です」

 え? えっと……ええ、心中お察しします。

「……訊かないのですね」

 訊きたい事は色々ありますが、それを訊くほど野暮では無いつもりです。


 ………。

「……ふう、そうですね。原因はとても些細な、そして不幸な事故でした。誰が悪いでもない、ただただ運が悪かった、そんな事故です。 貴方の疑問は、なぜ三途の川を渡る必要のない死神の霊体が彼岸に現れたのか。そんな所でしょうか?」

 ……。

「その答えは単純で、私がそうなるように指示したからです。ですが何故そのような指示を出したのかと言うと、その理由は私自身よく分かりません。多分、それが私なりの送迎だったのだと思います。あるいは単なるエゴだったのかもしれません。
 それに、私自身ひどく動揺していたのも要因の一つでしょうね。仕事上の関係と言えど、長年一緒に苦楽を共にしてきた、いわば親友と呼べる存在でしたから。
 彼女の訃報を聞いた時、ある酒の席で彼女が呟いていた台詞を思い出しました。一度でいいから、送迎される側も体験したいもんだね、と。私はそれを訊いた時、くだらないブラックジョークだと気にも止めませんでしたが、後々になって考えてみると、あれは本心で言っていたのではないかと思えたのです。その後も何度か同じようなジョークを聞かされましたから。
 もちろん、それが酒の勢いと悪ふざけから出た冗談だとは理解しています。ですが、私の耳にはこのように言っていると感じられたのです。『送迎される側も体験してみたいから、もし私が死んだ時はヨロシクな』と。元々、人間好きで俗世的な風習にも関心がある彼女でしたから、その可能性は大いにあり得た訳です。
 その事を思いだしてからの私の行動は迅速でした。死神の魂はわざわざ三途の河を渡る必要が無いので、それ曲げるために様々な手続きを済まして、気付いた時にはもう、その指示を出していました。……そんな所です」

 なるほど。渡し賃が無料だったのも、それが理由だったんですね。

「ええ、そうです」

 ああ、そう言えば、私の仕事話に興味を示したのも、同じ船頭の仕事だったからか。

「そのようですね。彼女は貴方の不満話を楽しそうに聞いていました。……あっそうそう、貴方は不満話の中で、移送中に霊が消滅してしまった時は何かしら手当が欲しい、と。そう言っていましたね。それは前向きに考えておきますよ」

 ん? えっと、もしかして私が彼女を移送する様子を見ていらしたのですか? あのー、私の愚痴話とか、全部?

「はい。少し彼女が心配になったので、覗き見させてもらいました。最初から最後まで、全部です。
 その中で気になった点が一つ、貴方の仕事場がコッチへ移る事になった理由は、以前の上司から厄介払いされたからだと貴方は考えている様だけれど、それは堪違いですよ。貴方の仕事方針が前任の死神の考え方と非常に似通っていたから、それを高く評価して私は貴方を引き抜いたのです」

 ええと……それは、つまり?

「貴方も前任の死神と同様にサボり癖がある、と言う事です。ただし、理由も無く仕事をサボるのは許しませんけどね。良い仕事ぶりを期待していますよ」

 はは……、そう言う事ですか。

「私はもう行くわね。仕事も残っているし、彼女の案内もしなければならないから」

 了解です。

「ああ、それと、この近所に美味しいお酒が頂けるお店があるんですよ。今度一緒に行きませんか?」

 いいんですか?

「ええ、この一週間は私自身の事で頭いっぱいでしたから、新人さんと交流をはかる機会を忘れていました。 それに、気さくに呑みに誘ってくれるフレンドリーな上司が、良い上司の条件なのでしょう?」

 本当に良い上司なら、そんな事を訊いたりしませんよ。

「ふふっ、そうですね。では、また」

 はい。では、また。


 ―――――。


 ――――。


 ―――。


 ――。


 ―。


 そうだねー、あの時はホント驚いたよ、送り届けた霊がまさか死神のものだなんてね。しかも前任の船頭担当の死神で、それに名字まで一緒とはね。まぁ、死神で「小野塚」の名字は珍しくもないんだけどさ。

 とにかくアタイの死神人生の転機ってヤツはそこだったね。
 まったく、人生ってのは分からないもんだよねぇ。なっ、お客さん。アンタもそう思うだろう。

 んー、元気だしなよ。事故死のお客さんにゃ気の毒だけど、人生ってものは殆ど「運」だからねぇ。今回の不運は忘れて、次の人生で精一杯生きればいいさ。もしそれでもダメだったら、このナンバーワン船頭の小野塚小町が、くだらない話でアンタを慰めてあげるよ。何回でもね。
 ほら、もうすぐ到着するから、胸をはって、シャキッとするんだよ。そう、前を向いて、自分の足で進むんだ。アタイはいつでも応援してるからね。



 了

読了、お疲れ様です。

本作を読んで、意味不明だったらゴメンナサイ。
会話文オンリーの難しさを知りました。

あと、登録タグは 小野塚 / 小町 / 四季映姫 となっていますが、間違いではありません。
主要登場人物が三人なので、三人分登録しただけです。つまりそう言うこと。
三回転ひねり
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コメント



0.310簡易評価
3.80名前が無い程度の能力削除
確かにひねった作品でした。淡々と語りかける感じが良かったです。
5.90名前が無い程度の能力削除
小町らしい雰囲気の作品というか、飄々としてていいですね!
9.100名前が無い程度の能力削除
いいですね。会話だけで雰囲気がガンガン伝わってきます。