どうして、昨日までは館の門を守っていたのにこんなことになってしまったのだろうと美鈴は叫びたかったが、観光客の視線があって何もいえなかった。
浅草、大きな赤い提灯、そう、美鈴は起きたら雷門の門番になっていたのだった。
「美鈴、サボらないで門を守るのよ」
「咲夜さん、これはどういうことですか?」
「何を言ってるの? 変なこと言ってないで門を守りなさい」
突然現れた咲夜はそう言って人混みに紛れて観光地の闇に消えていった。
納得出来ないが、美鈴は生来からまじめなところがあるからひとまずは、雷門の前に立って門番を始めたのだった。
普段なら、まじめでも睡魔にには勝てないから寝てしまうところだが、流石にこれだけ観光客が居ると眠ることすら出来ない。
昨日の夜まではたしかに、紅魔館の門を守っていた。レミリアの野望である東京侵略も凍結したはずだった。
いや、もしかしたら、その東京侵略の話が復活して尖兵として自分は派遣されたのではないか?
だったら、あの高い電波塔に登って東京観光、おっと、敵情視察をしなくてはならないのではないか?
レミリアがいつか行きたがっていた、環八のラーメン屋を先に食べておく、おっと、味方につけて置かなければならないのではないか?
などと、美鈴は考えていた。
「ねえ、美鈴」
「あれ? パチュリー様」
「記念写真撮りたいから、シャッターを切ってくれる?」
「良いですよ」
「お願いね」
「……パチュリー様! さあ、笑って! 笑って!」
「ん? こう?」
「いいですね。はい、チーズ!」
パシャとシャッターが切られて写真は撮られてた。最近は余り見かけなくなった使い捨てカメラでも多分改心の撮れだ。
パチュリーは、カメラを受け取ると、お礼を言ったあと雑踏に紛れていった。
ふと思う。咲夜はメード服で、パチュリーは外で着るには目立つ服で、自分にいたってはスリットが腰まで開いているチャイナドレスを着ているのに、誰も気にしている様子はない。
これだけ観光客や地元住民がたくさんいるのに、まるで眼に入っていないかのようだ。
なんだか、自分達には住みやすい国に日本はなっているようだ。
これなら、東京侵略は存外簡単に行くのではないのか?
だったら、その尖兵である美鈴が活躍すれば、いつか夢の凱旋門の門番だって夢じゃないぞと思う。
「……あの、美鈴さん」
「あれ? 小悪魔さんじゃないですか?」
「あの、そろそろ起きた方が良いと思いますよ」
「え?」
「これ、貴女の夢ですよ。気付いていませんでしたか?」
「……ああ、やっぱり。そうでしたか」
「それと、さっき魔理沙さんが上空を通過して行きました」
「不味いですね」
小悪魔は美鈴に忠告すると、行きかう観光客に紛れてお土産屋で饅頭を買って帰った。
私の夢の中で買ったのだから後で分けて欲しいと思う。甘い饅頭を想像するとお腹が空いてきた。
そう、これは美鈴の見た夢だった。お腹が空いたし起きないとならないなと思う。
咲夜になんて言い訳するか考えてから美鈴は起きることにしたのだった。
しかし、美鈴が起きるとそこは京都で羅生門だった。
「ああ、京都侵略の話は凍結されたのではなかったのですか?」
「美鈴、サボらないで門を守るのよ」
「咲夜さん、これはどういうことですか?」
「何を言ってるの? 変なこと言ってないで門を守りなさい」
美鈴は、門を守ることにした。
お昼過ぎに小悪魔が持って来た東京土産が甘くておいしかった。
その前に守礼門を守るのです。