蝙蝠一匹分の肉片さえ残れば復活する私の、脳や心臓といった部品《パーツ》に、価値はあるのか。
ぼんやりと、考える。
最後に鼓動の高鳴りを感じたのは、いつのことだったか。
ただただ、退屈だった。
――だから。
「れ、レミリアお嬢様っ?」
頬を染める妖精メイドの腰に回した腕を、強く引き寄せた。
――昨日の女より、肉付きが良いな。
そんなことを思考しながら、牙を覗かせて微笑みかける。
満更でもなさそうに俯く様子は、それなりに愛らしいと感じられたので。
暇潰しには、ちょうど良いと思いつつ、太腿に手を滑らせた。
「――……いつか刺されるわよ、レミィ」
眉を顰めて非難の目を向けてきた親友にも、鼻で嗤って返す。
「刺されたくらいじゃ、死にもしないよ」
親友は、疲れたように溜息を吐いた。
――薄く積もった雪に、月光が反射して、足元を仄かに輝かせる夜。
その輝きに惹かれ、下を向いて飛んでいたから、みつけられたのだと思う。
凍えて縮こまる、子犬のような銀髪の少女と、視線が交わった。
「捨てられたの?」
問い掛けに、返答はなく。
牙の代わりに向けられた銀のナイフの切っ先は、震えていた。
「……可愛いなあ」
その様子に、自然と笑みがこぼれたので。
これも、ひとつの運命か、と。
向けられたナイフの切っ先を、自ら喉に食い込ませつつ、囁いた。
「おいで。愛人候補にしてやろう」
十年も待てば、かなりの上玉になりそうだ。
――……そう、思っていたのだけど。
「時間と場所を、考えていただけませんか、お嬢様」
十年前の私は、想定していなかったのだ。
「……ごめんなさい、咲夜」
あの銀髪の少女が、ただの珠玉にとどまらず、銀の弾丸にまで成長を遂げる、などとは。
「きゃあっ!」
腕の中で甲高い悲鳴を上げる、半裸の妖精メイド。
空き部屋にて。
適当に連れ込んだ彼女と、遊ぼうとしていたところ。
はたきを手に持った咲夜が入ってきて、咎めるような視線と共に先程の台詞を放ってきた。
場所を変えて仕切り直してもいいけれど、なんだかヤル気が萎えてしまったので。
目の前に曝け出されたままの乳房をひとつ揉んでから、自室へと戻ることにして。
不貞寝でもしようと考えつつ、溜息を吐き出した。
――……夢を視た。過去の夢だ。
「お嬢様」
幼さの残る声を、微笑ましく感じながら、折れそうな喉に指を這わせた。
「なあに?」
こそばゆさからか、小さく体を震わせながらも、されるがままのその姿は、非常に愛らしくて。
すぐにでも『食べて』しまいたくなったほどだ。
――しかし。
「前に仰せになった、愛人とは、どういったものでしょうか?」
私は、その問い掛けに対して。
深く考えることもせず、答えを返した。
「そうね、愛人とは、一時の愉悦を与えてくれる存在かしら」
その返答を聞いて。
数瞬、黙り込んだ咲夜は。
「そうですか」
ハッキリとした口調で、断言した。
「ならば、私は――そんな存在になるなど、願い下げです」
――……目を覚ます。
寝床から身を起こしながら、呟いた。
「……可愛くない」
ふらりと館内を散策していると。
窓越しに、咲夜の姿をみつけた。
「……」
その隣には。
古参の従者である、門番の姿があって。
花壇の花を見ながら、何事かを語り合っている二人は、とても親しそうだった。
私は、咲夜から、あんなに朗らかな笑顔を向けられたことなんて――……。
「……やっぱり、可愛くない」
そう溢した後。
小さな痛みを感じたので、己の手に視線をやると。
「……」
知らない間に、強く握りしめていたようで。
爪が食い込み、血が滲んでいた。
「お嬢様、何回も申し上げておりますが、慎みを持った行動を――……」
廊下の片隅で、妖精メイドの尻を撫でていたら、いつも通り咲夜から咎められた。
――それは、本当に、いつも通りのことだったのに。
「うるさい」
妙に、苛立ちが込み上げてきて。
「私のやることに、余計な口を出すな」
気付くと、強い口調でそう返していた。
驚いたのか、目を見開いている咲夜に。
「ホント、おまえは」
そのまま、負の感情をぶちまける。
「可愛くないよ」
――すると。
「……っ」
咲夜の、大きな瞳から。
輝く雫が、零れ落ちた。
「えっ?」
予想外の反応に、間抜けな声を漏らす。
「咲夜……?」
名前を呼んでも、返答はなく。
俯いてしまった咲夜は、決して顔を上げようとしなかった。
――……結局。
妖精メイドと咲夜を放置して、自室へと舞い戻った私は。
年甲斐のない行動をとった自分自身への苛立ちと、理解出来ない咲夜の反応に対する困惑を抱えたまま。
いつも通り、不貞寝を決め込んだのだった。
――……空腹を感じ、覚醒する。
「……はあ」
大きな溜息を吐き出しつつ、体を起こして。
「うわあっ!?」
寝台の隣で、正座して三つ指をついている咲夜に気付き、悲鳴を上げた。
「な、なにをしてるのよ、おまえはっ!」
動揺しながらも問いかけると。
咲夜は、顔を上げないまま、問い返してきた。
「……楽しいですか」
「はあっ?」
「不特定多数の女に手を出すのは、そんなに楽しいかと、お聞きしているのです」
――……わけが、わからない。
しかし、その声があまりにも真剣な様子だったので。
数瞬悩んだ後、素直に返答した。
「……暇は潰せるよ。それなりに、楽しいと感じる」
五百年、生きてきた。
物事は、日々新鮮さを失っていく。
ただただ、退屈だったのだ。
だから、何か気を紛らわせる物はないかと、周りを見回して。
視界を飛び回る可憐な乙女達に、目を留めることになった。
「その程度、ですか」
返答を聞いた咲夜が、吐き捨てるようにそう溢して。
その上から、言葉を重ねていく。
「暇潰し――……やはり、貴女にとっては、一時の愉悦でしかないのですね」
一方的な台詞に。
再び、苛立ちが込み上げてきた。
「さっきから、何が言いたいんだ。食い殺されたいのか!」
軽く殺気を込めながら、声を荒げた私にも、構わずに。
「私は、そんなのいやです」
咲夜は、自分自身の心情を、吐露し続けた。
「貴女にとって、たった一時の娯楽で終わる……そんな女には、なりたくありません。そう言ったはずです」
「……え?」
――……数日前にも夢に視た、過去の記憶が、よみがえる。
『愛人候補にしてやろう』
『愛人とは、どういったものでしょうか?』
『一時の愉悦を与えてくれる存在かしら』
『ならば、私は――そんな存在になるなど、願い下げです』
――……ああ。
「私は、貴女より先に、逝くけれど」
まさか、そういう意味、だったの?
「貴女にとっての、一生の存在でいたいのです」
――……そこまで語り、咲夜はやっと、顔を上げた。
潤みきった瞳から溢れる涙が、頬を伝う。
もしかして、私が眠っている間も、泣き続けていたのだろうか。
顔が、鼻まで真っ赤だ。
「だから!」
一際大きな声を発した後。
「貴女の――……お嫁さんにしてください」
とても小さな声で、そう言った。
語尾も、掠れていた。
「……可愛い」
強く、大きく。
鼓動が高鳴るのを、感じた。
「では、これにサインを」
「婚姻届け!?」
ぼんやりと、考える。
最後に鼓動の高鳴りを感じたのは、いつのことだったか。
ただただ、退屈だった。
――だから。
「れ、レミリアお嬢様っ?」
頬を染める妖精メイドの腰に回した腕を、強く引き寄せた。
――昨日の女より、肉付きが良いな。
そんなことを思考しながら、牙を覗かせて微笑みかける。
満更でもなさそうに俯く様子は、それなりに愛らしいと感じられたので。
暇潰しには、ちょうど良いと思いつつ、太腿に手を滑らせた。
「――……いつか刺されるわよ、レミィ」
眉を顰めて非難の目を向けてきた親友にも、鼻で嗤って返す。
「刺されたくらいじゃ、死にもしないよ」
親友は、疲れたように溜息を吐いた。
――薄く積もった雪に、月光が反射して、足元を仄かに輝かせる夜。
その輝きに惹かれ、下を向いて飛んでいたから、みつけられたのだと思う。
凍えて縮こまる、子犬のような銀髪の少女と、視線が交わった。
「捨てられたの?」
問い掛けに、返答はなく。
牙の代わりに向けられた銀のナイフの切っ先は、震えていた。
「……可愛いなあ」
その様子に、自然と笑みがこぼれたので。
これも、ひとつの運命か、と。
向けられたナイフの切っ先を、自ら喉に食い込ませつつ、囁いた。
「おいで。愛人候補にしてやろう」
十年も待てば、かなりの上玉になりそうだ。
――……そう、思っていたのだけど。
「時間と場所を、考えていただけませんか、お嬢様」
十年前の私は、想定していなかったのだ。
「……ごめんなさい、咲夜」
あの銀髪の少女が、ただの珠玉にとどまらず、銀の弾丸にまで成長を遂げる、などとは。
「きゃあっ!」
腕の中で甲高い悲鳴を上げる、半裸の妖精メイド。
空き部屋にて。
適当に連れ込んだ彼女と、遊ぼうとしていたところ。
はたきを手に持った咲夜が入ってきて、咎めるような視線と共に先程の台詞を放ってきた。
場所を変えて仕切り直してもいいけれど、なんだかヤル気が萎えてしまったので。
目の前に曝け出されたままの乳房をひとつ揉んでから、自室へと戻ることにして。
不貞寝でもしようと考えつつ、溜息を吐き出した。
――……夢を視た。過去の夢だ。
「お嬢様」
幼さの残る声を、微笑ましく感じながら、折れそうな喉に指を這わせた。
「なあに?」
こそばゆさからか、小さく体を震わせながらも、されるがままのその姿は、非常に愛らしくて。
すぐにでも『食べて』しまいたくなったほどだ。
――しかし。
「前に仰せになった、愛人とは、どういったものでしょうか?」
私は、その問い掛けに対して。
深く考えることもせず、答えを返した。
「そうね、愛人とは、一時の愉悦を与えてくれる存在かしら」
その返答を聞いて。
数瞬、黙り込んだ咲夜は。
「そうですか」
ハッキリとした口調で、断言した。
「ならば、私は――そんな存在になるなど、願い下げです」
――……目を覚ます。
寝床から身を起こしながら、呟いた。
「……可愛くない」
ふらりと館内を散策していると。
窓越しに、咲夜の姿をみつけた。
「……」
その隣には。
古参の従者である、門番の姿があって。
花壇の花を見ながら、何事かを語り合っている二人は、とても親しそうだった。
私は、咲夜から、あんなに朗らかな笑顔を向けられたことなんて――……。
「……やっぱり、可愛くない」
そう溢した後。
小さな痛みを感じたので、己の手に視線をやると。
「……」
知らない間に、強く握りしめていたようで。
爪が食い込み、血が滲んでいた。
「お嬢様、何回も申し上げておりますが、慎みを持った行動を――……」
廊下の片隅で、妖精メイドの尻を撫でていたら、いつも通り咲夜から咎められた。
――それは、本当に、いつも通りのことだったのに。
「うるさい」
妙に、苛立ちが込み上げてきて。
「私のやることに、余計な口を出すな」
気付くと、強い口調でそう返していた。
驚いたのか、目を見開いている咲夜に。
「ホント、おまえは」
そのまま、負の感情をぶちまける。
「可愛くないよ」
――すると。
「……っ」
咲夜の、大きな瞳から。
輝く雫が、零れ落ちた。
「えっ?」
予想外の反応に、間抜けな声を漏らす。
「咲夜……?」
名前を呼んでも、返答はなく。
俯いてしまった咲夜は、決して顔を上げようとしなかった。
――……結局。
妖精メイドと咲夜を放置して、自室へと舞い戻った私は。
年甲斐のない行動をとった自分自身への苛立ちと、理解出来ない咲夜の反応に対する困惑を抱えたまま。
いつも通り、不貞寝を決め込んだのだった。
――……空腹を感じ、覚醒する。
「……はあ」
大きな溜息を吐き出しつつ、体を起こして。
「うわあっ!?」
寝台の隣で、正座して三つ指をついている咲夜に気付き、悲鳴を上げた。
「な、なにをしてるのよ、おまえはっ!」
動揺しながらも問いかけると。
咲夜は、顔を上げないまま、問い返してきた。
「……楽しいですか」
「はあっ?」
「不特定多数の女に手を出すのは、そんなに楽しいかと、お聞きしているのです」
――……わけが、わからない。
しかし、その声があまりにも真剣な様子だったので。
数瞬悩んだ後、素直に返答した。
「……暇は潰せるよ。それなりに、楽しいと感じる」
五百年、生きてきた。
物事は、日々新鮮さを失っていく。
ただただ、退屈だったのだ。
だから、何か気を紛らわせる物はないかと、周りを見回して。
視界を飛び回る可憐な乙女達に、目を留めることになった。
「その程度、ですか」
返答を聞いた咲夜が、吐き捨てるようにそう溢して。
その上から、言葉を重ねていく。
「暇潰し――……やはり、貴女にとっては、一時の愉悦でしかないのですね」
一方的な台詞に。
再び、苛立ちが込み上げてきた。
「さっきから、何が言いたいんだ。食い殺されたいのか!」
軽く殺気を込めながら、声を荒げた私にも、構わずに。
「私は、そんなのいやです」
咲夜は、自分自身の心情を、吐露し続けた。
「貴女にとって、たった一時の娯楽で終わる……そんな女には、なりたくありません。そう言ったはずです」
「……え?」
――……数日前にも夢に視た、過去の記憶が、よみがえる。
『愛人候補にしてやろう』
『愛人とは、どういったものでしょうか?』
『一時の愉悦を与えてくれる存在かしら』
『ならば、私は――そんな存在になるなど、願い下げです』
――……ああ。
「私は、貴女より先に、逝くけれど」
まさか、そういう意味、だったの?
「貴女にとっての、一生の存在でいたいのです」
――……そこまで語り、咲夜はやっと、顔を上げた。
潤みきった瞳から溢れる涙が、頬を伝う。
もしかして、私が眠っている間も、泣き続けていたのだろうか。
顔が、鼻まで真っ赤だ。
「だから!」
一際大きな声を発した後。
「貴女の――……お嫁さんにしてください」
とても小さな声で、そう言った。
語尾も、掠れていた。
「……可愛い」
強く、大きく。
鼓動が高鳴るのを、感じた。
「では、これにサインを」
「婚姻届け!?」
どうせなら寝てる内に拇印くらい捺させてしまえば……
やっぱり純愛っていいなー
あえて言うなれば、さいご
ラストをもう少し書き込んで欲しかったなぁ…と
そうかこれが真理か。
でもやっぱり強かだった。怖い!
淡々としながらもお嬢様の内を描けていて非常に良かったと思います。
可愛い咲夜さんも手の早いレミリアも良い!
よく言った咲夜さああああん!!!
お嬢様は尻に敷かれちゃえばいいと思うよ。上に立てるのは夜だけとかになるとすごくいいと思うよ