Coolier - 新生・東方創想話

そっくりさん

2014/01/28 09:33:14
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「ばか」

 妙に幼い口調で、そう言われたので。
 言葉を失って、ただ、瞬きを数回、繰り返した。

「……小悪魔の、ばか」

 彼女は、そんな言葉をまた一つ重ねて、俯いた。
 銀の髪が、サラリと硬質な音をたてた気がした。
 なんだか、いつもの彼女より、小さく感じて。
 彼女が本当に小さかった頃を、思い出した。




「――……あなたが、本物の、あくま?」




 見上げてくる青い瞳に浮かんでいたのは、純粋な疑問符だった。

「ええ、正真正銘の、悪魔さんですよ」

 私は、そう言葉を返しながら、背中の羽根を軽くはばたかせて見せた。
 すると、幼い彼女は、眉を下げて「おかしい」と口にした。
 私はその時、会話をするのが面倒臭いと思っていた。

 ――館の主の『お気に入り』のようだから、邪険には出来ないが。
 読書もしたことのないような浮浪児あがりにかまっていても、時間の無駄だ。
 そんな時間があれば、蔵書の整理を行うか、読書をしたい。

 本の虫の魔女と契約した、本の悪魔の私は、本気で、そんなふうに、思っていたので。
 投げやりな口調で、促したのだ。

「なにが、おかしいんですか」

 さっさと話を聞いて、手早く切り上げよう、そう考えていた。
 ――……だけど。

「だって、あなた、綺麗だもの」

 彼女は、そんなことを、真剣な顔で口にした。

「……は?」

 予想外の台詞に、固まった私に向けて、連ねられる言葉。

「お嬢さまは、赤いあくまって言われているらしいけど、吸血鬼だから。だから、綺麗なお顔をしているのだと、そう思っていたの。でも、おかしい。だって、あなた、とっても綺麗だもの。あくまなのに」

 そして、また、おかしい、おかしいと、繰り返す。

「……」

 私は、軽く眉間をもんでから、口を開いた。

「なんですか、貴女は、悪魔ってのは、そんなに醜いものだと思っていたんですか?」
「うん。――……だって」

 間髪入れず返事をした彼女は。

「わたし、色んな人から『醜い悪魔の子』って言われたもの。だから、きっと、わたしみたいに。汚い生き物だと、思っていたの」

 そう言って、小さな肩を落とした彼女を見て。

「……」

 意識せず、私は手を伸ばしていた。
 月光を束ねたみたいな銀髪を、クシャクシャと撫でまわす。

「……っ」

 息を詰まらせた彼女の、真ん丸になった青い目を見詰めながら、こぼすように口にした。

「綺麗でしょう、貴女みたいで」

 ――彼女は。
 眉を下げ、唇を震わせて、俯いた。
 そして、少し経ってから。

「……ううん、ぜんぜん、似てない」

 小さな声で、そう答えた。
 俯いていたので、顔は見えなかったが。
 耳が、赤く染まっていた。


 ――それから。
 最初に感じた忌避感は、なんだったのかと思う程。
 彼女は、自然に、私の世界に馴染んだ。


 きっと、彼女が幼く、小さかったからだろう。
 大抵の生き物は、幼くて小さい程、愛らしい物なのだ。
 悪魔である自分が、そのような物にほだされるとは、想像したこともなかったが。
 その愛らしさに、ほんの少し、目が眩んだのだと、思った。
 本を読んだことがないのなら、読ませればいい。
 文字が読めないのなら、教えればいい。
 考えてみれば、単純なことなのだし。
 ――なかなか、心地の良い日々だった気がする。


 しかし、生き物とは、個々の種族によって速度こそ異なるが、成長する物なので。
 数年経過した頃には、彼女もすっかり大きくなっていた。


 初夏、だったように思う。
 あてがわれた私室で寝ていると、下唇を噛んで嗚咽こそこらえているが、涙で顔をぐちゃぐちゃにした彼女に、いきなり叩き起こされた。
 なにごとかと思ったが、人間より優れた嗅覚で、鉄錆の臭いを嗅ぎ取ったので、彼女に詰め寄った。

「敵襲ですか!?」

 しかし、彼女は首を振るばかりで。
 問いを重ねているうちに、臭いの出所に気が付いて、溜息を吐いた。
 少々、言葉に悩んだが。

「……おめでとうございます」

 そう言葉を贈った。
 そして、タオルを用意するために、歩き出そうとして。

「……」

 寝巻の裾を握られて、動きを止められた。
 またひとつ、大きな溜息を吐き出した私は。
 仕方がなく、シーツを掴んで、タオルの代わりにした。
 なされるがままの彼女の足を上げさせて、汚れた下着を脱がせて、処理をしていく。
 一通りの作業が終っても、彼女は自室に戻ろうとはせず。

「……いい加減、泣き止んでください」

 そう言って、頭を撫でるほど、彼女は泣き続けて。
 結局、その日は眠ることが出来なかった。



 その出来事からだろうか。
 彼女は、私にあまり寄ってこなくなった。



 それ以前の彼女は、ことある毎に私の傍に寄ってきて、ねだるような顔をして、頭にのばされる手を今か今かと待っていた。

「……まあ、もう、撫で辛くもなっていたし」

 身長的に、と。
 誰に聞かせるでもなく、呟いた。
 以前は、軽く頭を撫でられたけれど。
 今は、腕を持ち上げないと撫でられないくらいの身長差だったから。
 これが、成長という物なのだろう、なんて。
 そんなふうに、受けとめることにした。


 贔屓目ではなく。
 彼女は、目を疑う程美しい生き物へと成長を遂げた。


 きっと、昔の私だったなら、言葉のあやなどではなく食欲の対象になっただろう。
 しかし、今の私は、契約主の魔女から十分な魔力《食事》を与えられているし、読書さえ出来れば概ね満足だし、彼女を可愛がっている館の主も恐ろしいし。
 なにより、今更彼女を食いたいとも思えなかったので。
 まあ、幸せになればいいのではないかな、と。
 そんな風に思っていた、から。

「いい加減、好い人でも作ったらどうですか」

 ――蔵書整理中に。
 本棚の影に隠れるようにして『恋愛小説』を読んでいる彼女を見つけた私は。
 自然と、そう声をかけたのだ。

 しかし。
 なにが、いけなかったのだろう。

「ばか」

 妙に幼い口調で、そう言われたので。
 言葉を失って、ただ、瞬きを数回、繰り返した。

「……小悪魔の、ばか」

 彼女は、そんな言葉をまた一つ重ねて、俯いた。
 銀の髪が、サラリと硬質な音をたてた気がした。
 なんだか、いつもの彼女より、小さく感じて。

 彼女が本当に小さかった頃を、思い出したからかもしれない。

 意識せず、伸ばした手で。
 いつかのあの日のように、月光を束ねたみたいな銀髪を、クシャクシャと撫でまわした。

 でも、やっぱり、昔とは違うので。

「……かがんでくれませんか、咲夜ちゃん」

 小さく溜息を吐き出して、続ける。

「腕が疲れます」

 彼女は、咲夜ちゃんは。
 なんにも答えずに。
 でも、言われたとおりに、頭を下げた。
 俯いていたので、顔は見えなかったが。
 耳が、赤く染まっていたので。

「――……綺麗な、紅葉色ですね」

 そう囁いたら、余計に赤く染めて。


「貴女の髪に、似ているでしょう」


 そんな風に、返してきたから。
 かあっと、熱が上がるのが、わかった。
 自分の顔は、見れないけれど。


 ――……きっと、ホントにそっくりな色に、染まっただろう。
前回の投稿からかなり間があきましたが、久々に書きたくなったので。
現パロの第二弾も、ちみちみ書いてたりします。
ご読了ありがとうございました。
鬼灯
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コメント



0.1820簡易評価
1.80名前が無い程度の能力削除
珍しい組み合わせですけど良い感じです。瀟洒ー。
3.90ぺ・四潤削除
こあ咲!
なんだろう。光景を想像してただけで胸の奥が苦しい・・・
4.100名前が無い程度の能力削除
いい感じですね。咲夜ちゃん、可愛い。
7.100名前が無い程度の能力削除
こあ咲……
いいなあ。お幸せに、といいたくなる
9.80奇声を発する程度の能力削除
良いですね
11.100絶望を司る程度の能力削除
良いねぇ!
21.90満月の夜に狼に変身する程度の能力削除
小悪魔が適度に大人で繊細

小悪魔視点から見ると頭割れるくらい咲夜が愛しいわ
23.100名前が無い程度の能力削除
いいね
25.80とーなす削除
こあ咲とはまた珍しい組み合わせ。
ほっこりするSSでした。
27.100名前が無い程度の能力削除
いいなあ、こあ咲いいなあ。
現パロも楽しみにしてます。紅い館の核爆弾。
28.100名前が無い程度の能力削除
いつまでも咲夜ちゃんと言える関係が素敵だなぁ
33.90Admiral削除
こあさくゴチです!
34.100名前が無い程度の能力削除
キャーと叫びたくなりますな。
41.100名前が無い程度の能力削除
差別が生んだ出会い。
56.100名前が無い程度の能力削除
にょほ~^^