「うおッ。野生の痴少女があらわれた!」
そんなことを言われたのは初めてだったので、私は驚いた。
発言したのは里の人間で、私がふらふらと人里で舞にいい場所を探しているとそんなことを言われてしまったのである。
「野生のというのはわかるにしても、痴少女、これがワカラナイ」
わたし、秦こころは決して痴少女などという名前でもなければ、そういう職種についているわけでもないのだ。
「いや、あんた、胸元があいとるじゃないか」
「ん?」
「いやその□やら☆やらのよくわからんボタンが全部はずれてしまっておるじゃないか。しかも下着の類も着ている様子はないし」
「確かにあいてた。それが痴少女という状態か?」
「いやいや、違うとも」
「ならば、なにが痴少女か」
「おまえさん、羞恥心がないのか?」
「なにそれ?」
私は素直に気持ちを声に出した。
確かに『羞恥』の面は存在するから、その感情を知らないとはいえない。
けれど、その感情を知っているのはお面のほうであって、私自身は羞恥という感情がよくわからなかったのだ。
「あー、おまえさん。そうやって無防備に恥ずかしいって何とか言ってくるのも危険だぞ」
「どうして?」
「そりゃ……、年ごろの娘さんが、胸元をさらけだしながら『恥ずかしいこと教えてください』と言ってくれば、里の若いもんは勘違いするかもしれん」
「なにをどう勘違いするの?」
「おまえさん天然か」
「違う。れっきとした人工物だ!」
「お、おう……、ともかくわしゃ、妻子もちなんでよかったが、若い衆の前じゃあんな恰好はまずい。おまえさんはもっと羞恥心というものを学んだほうがいい」
「教えて?」
「いやいや、だから男に教えてなどと言ってはいかんぞ」
「どうしてだ?」
「そりゃ……、そうだな。そういう感情は自ら見て学ぶものだからな」
「なるほど深いな」
学ぶとは真似ぶという言葉を語源としていると聞いた覚えがある。
私が『羞恥心』なる感情を学ぶためには、それを言葉で教えてもらうだけでなく、
体感として経験する必要があるのだ。
私はその人にお礼を言って、それから『羞恥心』を観察するために行動することにした。
さて、まず『羞恥心』についてだが、
これはお面からの情報によると、おおよそ恥ずかしいということと同義らしい。
では、恥ずかしいとはどういう感情か。
コレガワカラナイ。
お面が知っていても私自身が知らなければ、意味がないのだ。
一応、お試しとして『恥ずかしい』の面をつけてみた。
その瞬間、体温があがり、意味不明な汗がだらだらと流れ、心臓がドキドキした。
なんだかよくわからない。
感情そのものはつかめても、それがどうして生じるのかとか、どういう状態のときに陥りやすいのかがわからなければ、意味がない。
こういうときどうすればいいのか……。
やはり私のライバルに聞くのが一番いいだろう。
古明地こいしである。
こいしは、いつものように寺の周辺をフラフラしていたので、たいして苦労することもなく話を聞くことができた。
「恥ずかしいって何だ?」
「どうしたの?」
「恥ずかしいこと知りたいの」
「ヤダこころちゃん、かわいい。恥ずかしいことしちゃう? ココロックスしちゃう?」
「ん?」
「そういう小首を傾げたりする動作、こころちゃん超うまいね」
「それはおそらく、舞の中で動作が洗練されているからだろう」
「そっかー。じゃあキスしちゃう?」
「ん?」
「キスしてみたらわかるかもしれないよ」
「ふーむ。つまり、恥ずかしいという状態はキスをすれば生じるのか?」
「そういうわけでもないけど、そういう場合も多いかもしれないね」
「わかった。じゃあしてみる」
「眼をとじてみようか。私の第三の瞳みたいに」
「わかった」
「ちゅ」
軽く触れ合うだけの接触だった。
これが接吻やらキスと呼ばれるのは知っているが、しかし、単なる肉体的な接触であることは論を待たない。
それで私の中に何かが生じたわけではなかった。
眼をあけてみても、こいしは特段変わった様子はない。
なんとなく微笑の具合があがっているようだが、それだけだ。
「どう? 恥ずかしいって思った?」
「いやよくわからない」
「そっかー。じゃあ、しょうがない。ほかの人間を観察しよう」
「妖怪じゃダメなのか?」
「妖怪でもいいけど、人間の感情を学ぶなら人間のほうがいいでしょう」
「なるほど道理だ」
やはりわからないことは聞くに限る。
ケース1 霧雨魔理沙の場合
いつものように博麗神社で宴会がおこなわれていた。
新年早々の宴会だけあって、そうそうたる顔ブレである。
私を創った神子様もきているが、それだけでなくどこかの吸血鬼、亡霊、魔女、天人、鬼、妖怪、妖精、薬師、神様、小人とともかく多くの人妖がいりみだれていた。
宴会は自由参加である。もちろん、酒やつまみを持参するのが望ましい。
霧雨魔理沙はその宴会に参加している。
「みててね」
こいしがニコっとわらった。
「わかった」
こいしはとことこと魔理沙の前に近づいた。
そこで、おそらく無意識の能力をオフにした。
「うお。いきなりあらわれるな。びびるだろうが」
「黒想起――」
「黒……想起?」
「恋の泥棒さんマジック」
「ん?」
特別でもなんでもない普通の日。
魔理沙はアリスの家に遊びに来てたの。
それで、なんとはなしにとしか言いようがないタイミングで、
魔理沙は髪をすいてくれるようにアリスにお願いしてた。
「お、おい。なに話してるんだ」
アリスは人形さんを操るときのようにやさしく丁寧にすいていく。
そうすると魔理沙はひなたぼっこする猫さんみたいに眠たげな表情になって言ったわ。
アリスって本当になんでもできるんだな。
そんなことないわ。
でも、ほらこんなにかわいくされちまったぜ。
ま、魔理沙はいつだってかわいいわよ。
お、おう。
お、お嫁さんにしたいぐらい。
お、おう。
それしかいえないの。
私としてはどちらかといえば、アリスの方がお嫁さんのほうがいいな。
え?
だって、私なんかよりアリスのほうがかわいいし。
そんなことない。魔理沙のほうがかわいい。
アリスのほうがかわいい。
魔理沙。
アリス。
魔理沙。
アリス。
魔理沙なの!
このわからずやめ。
わからずやなのは魔理沙じゃない。こんなにかわいいくせして。
アリスのほうこそわからずやだ。こんなにかわいいくせして。
小さくて、ふわふわしてて、猫みたいで。
お人形さんみたいに綺麗で、里の人間にも大人気。
人間なのは魔理沙のほうでしょ。おうちに帰ったらどうなの。
いやだ。アリスのそばにいる。私はアリスのお嫁さんになるんだからな。
なにいってんの。私が魔理沙のお嫁さんになるの。
さっきは私のほうがお嫁さんにしたいって言ってたじゃないか。とるなよ。
なにいってるの。魔理沙のほうがどう考えたって私より年下でしょ。
年で決めるな。私のほうがすぐにばばあになっちまうんだから。
見た目年齢いってるんじゃないの。お子様のくせに。おこさまりさ!
ふざけんな。このマザコン。
マザコンは関係ないでしょ。
じゃあわかった。どっちが大人か勝負しよう。
どうやって。
大人のキスがどちらがうまいか勝負だ。
ええ、わかったわ。勝負よ。
ええい、マスタースパーク!
なんの。リターンイナニメトネス!
というわけで、なんだかすごく楽しそうにいちゃいちゃしてた。
「うおおおお、なに言ってるんだ。これは罠だ。こいしが私を陥れるために仕組んだ罠だ。そうに違いない!」
私が観察する限り、魔理沙は顔を真っ赤にしてその場でこいしを罵倒していた。
魔理沙の隣に座っていたアリスはポカンと口を開けて放心状態。
うーん、これでは恥ずかしいというのがどっちの状態を指すのかいまいちわからない。
しかし、他の人間の視線というものがわりと重要なことに私は気づいた。
鬼の人がやたらとゲラゲラ笑っており、他の妖怪もなにやらニヤーとした笑いを浮かべていることから、
もしかすると恥ずかしいとは人に笑われることなのかもしれない。
ふむ。つまり見られている自分を意識するということが必要なのか。
想像上の自分に対する視線が、恥ずかしいという感情の源泉なのか。
ケース2 十六夜咲夜の場合
「地底のやつらはみんな陰険だと聞きますが、まさにそんな感じなんですね」
「素敵なお姉さん」
「う、なんで私のところに来るんですか」
「たいしたことじゃないの。ただ、お姉さんは人間だから」
「私は世にも恐ろしい吸血鬼につかえるメイドですよ。そこで息絶えている魔法使いとは違います」
「黒想起」
「うっ」
「召しませ主様♪」
※解説しよう。黒想起においては情景が心のスクリーンに投射されるのだ! 慈悲はない。
咲夜さんは紅魔館で一番のはたらきもの。
妖精さんたちは遊びが好きで、あまり働かないし、今日も今日とて家事雑用に追われている。
やれやれ、あの子たちに頼んでも洗濯ひとつまともにやってくれないんだから。
そんなことを言いながら咲夜さんが手にとったかごの中には、こんもりと山のように積まれた衣服類。
フワフワのフリルたっぷりの洋服は、この館に住んでいるかわいらしい吸血鬼姉妹のものに違いないの。
咲夜さんが紅魔館の一室に入ると、そこはお洗濯をする場所だったわ。
川で手洗いってわけじゃなくて、河童さんがつくった二層式の洗濯機。
そして――、
スッと一息。
たとえるなら、そう……、淑女がワインをたしなむようなそんな優雅な動作。
そんな感じで、咲夜さんは衣服のひとつをかいでいた。
ん、これはお嬢様産の三日ものね。
お嬢様の持つ本来的な甘い匂いに対して、ほんのり汗ばんだことによる甘酸っぱい香りも混ざっている。
思うに、衣類とは人間や妖怪と同じように、それぞれが異なる『構造』を持っている。
それは、生まれ――例えば、レミリア産か、フランドール産などというふうに、
産地が異なることが最も大きいだろう。
ああ、なだらかな山脈で脈々と流れている吸血鬼としての高貴な香り。
それがいつも使っている弱酸性の石鹸の匂いと奇妙なほど上品に混ざり合い、なんとも言えない味をかもしだしている。
それに加え、時の熟成。
私は衣服に付着した歴史の重みを想い、涙を禁じ得ない。
これが衣服というものの魔性なのだ。
神様ありがとう。
吸血鬼の天敵に祈りを捧げつつ、咲夜さんはすべての香りを堪能しつつ、
孤高のソムリエのように、それらをいつくしんでいた。
そして――暗転。
無意識の能力が発動したわけではなくて、咲夜さんの能力のひとつ時間停止。
そこには、フランちゃんのお姉さん――レミリア・スカーレットのショーツが握られていたわ。
そして、咲夜さんの歪んだ笑顔。
まさかお嬢様も時間を停止している間に、おパンツを脱がせられ、新しいものに変えられているとは思うまい。
そして、ああ、時間の熟成を待たない、この青い果実のようなおパンツこそが至高の存在。
ピンク色をしたフリルつきのかわいいショーツは、まるで生贄に捧げられた豚のように二本の指でつりさげられていたわ。
陶酔しきった表情でうっとりと、ソレを見つめ……
「パクッ。もぐもぐって……」
と、こいしが咀嚼の動作をしていると、ナイフ一線。
鋭い一撃がこいしを襲う。
が、それをヌルリと避けた。
まったくもって不可解な動きであるが、こいしは無意識超センスによって、反射の速度で動けるのであるから、
たとえ時を止めようが、そのコンマ数秒があれば十分なのである。
「おまえを殺して、私も死ぬ!」
「そんなことより咲夜……」
振り返るとそこには鬼がいた。
いや、吸血鬼だ。
「お、お嬢様。これは誤解です。ええ、誤解ですとも」
「いや、誤解ではない」
「なぜ……わかったんですか。私が時間を停止してお嬢様のお召し物を変えているなど」
「ぬくもりだよ」
「ぬくもり?」
「おまえがパンツ変えたら、いきなりヒュっと寒くなるからわかるに決まってるだろうが!」
「そんなバカな。ひと肌で温めておいたのに!」
「愚か!」
レミリアは激怒の表情で咲夜を叱った。
「吸血鬼の体温は人間のそれに比べて極端に低いんだ。それでも無いわけではないから装着しているパンツよりは暖かい。その絶妙な温度差を貴様は理解していなかったのだ! 私のマニアを呼称するのであれば、それはそれでよい。しかし、スカーレット家のメイドであるなら完璧であれ! いかなる瑕疵も許さん!」
「そんな、オジョウサマニアを自称するわたしが鼠の糞にも劣る簡単なミスをするなんて!」
うーん。
これは恥ずかしいというよりガッカリといった感じに見えるんだが、違うんだろうか。
「失敗しちゃったね」
チロっと舌をだして、ウインクするこいし。
どうもやはり失敗だったらしい。
単純に秘されたものが解放されることを恥ずかしいというのではないようなのだ。
十六夜咲夜は隠れて『行為』に及んでいたようだが、それはレミリアに知られたくなかったからであって、
我々第三者のことなどどうでもよかった。
だから、レミリアに知られてしまえば、あとはどうにでもなーれってことなのかもしれない。
よくわからぬ。
ケース3 東風谷早苗の場合
「緑の巫女さん」
「あ、こいしちゃん。私を公開処刑しようとしても無駄ですよ。だって私には秘すべき点など無いのですから」
「うーん? そうかなー」
「そうですよ。神職につかえるものが恥ずべき行為をしているわけがないでしょう? 例えば、私は巨大ロボットが好きですが、だからってそのことを誰かに知られたからって女の子の趣味じゃないとか思われても、まったく恥ずかしいとは思わないんです。それに私はそこのメイドさんのように、神奈子様や諏訪子様の衣服を嗅ぐような変態じゃありませんし……」
「変態じゃない! 衣服ソムリエもメイドの立派なスキルなのよ!」と咲夜。
ふうむ。
つまり、恥ずかしいというのは劣等感から生まれるものなんだろうか。
自分に対するみじめな気持ちを防衛しようとして生まれる感情なのだろうか。
「じゃあ、黒想起試してみるね。黒想起は心の中にある自分が黒想起だって思ってる事象がスクリーンに投射されるの。その選択は無意識にされるものだから、抵抗は無意味だ♪」
「はいはい。試してみていいですよ。こいしちゃんはかわいいですね」
「黒想起……」
ノイズ……。
何も見えない。
早苗は勝ち誇った顔になる。
でも、本当にそう思ってるとしたら甘い。
黒想起を持っていない人間など極少数しか存在しないのだから。
――黒想起 早苗のサナエトリウム
そこは白くて巨大な建物だった。
鬱蒼とした森を抜けた先にある開けた平野に、まるで巨大な城のようにその建物は立っている。
とはいえ、城のようにとんがっているわけではない。
まるでコロッセウムのように丸い円形の形をしている。
「な、なんです、これ! こんな建物なんてどこにもないじゃないですか!」
「想起なんだから、べつに実際にやったことに限定されるわけじゃないよ。妄想も具象化されるの」
「やめてください」
「んー」こいしは何秒か考える。「無理♪」
「あばばばばばばばばばばばば」
さて、サナエトリウムの中を探索してみよう。
視点はもちろん、無意識マスターこいしです。
一階は光あふれる巨大なホールだったわ。
そこにはなぜか一糸まとわぬ妖精さんたちがたくさんいて、あははうふふと楽しそうに遊んでいた。
べつにたいしたことはない情景なので、地下に向かうことにする。
地下に来ると、なんだか様子が変だった。
妙に重苦しい空気。
時折、空耳なのか呻くような声が聞こえてきて、ちょっと不気味なの。
壁には汚れたような後があるし、たとえ妄想の世界だと思ってもちょっぴり怖いかもしれない。
そして、地下の奥深くには鉄でできた重苦しい扉があった。
開ける、と。
なぜか早苗さんは裸で、そこにはなぜか霊夢さんもいて、
霊夢さんも裸で、なぜか縛られていて、なんだろうって思った。
早苗さんが邪悪としか言いようのない顔になる。
さて霊夢さんこれからどうなるかわかっていますね。
早苗、やめて早苗。
べつにたいしたことをするわけじゃないんですよ。ちょっとだけ気持ちいいことをするだけなんです。
気持ちいいってなによ。
霊夢さんの××に××して、泣きわめくまでやめてあげないだけですよ。
いやー。やめてー。早苗やめてー。
それから早苗さんは霊夢を××して××が××するまで××した。
早苗さんは霊夢さんの××を吸い、霊夢さんの瞳がうるんだものになる。
あ、やめて……と言いつつ、しかし、白い躰はなぜか陸にあがったお魚さんのように時折跳ねた。
早苗さんは右手で霊夢さんの両腕を固定しつつ、残った左手を霊夢さんの躰の上をツーッと這わせた。
それから左手はなぜか下のほうに向かい、××に達する。
よくわからないんだけど、なんだかせつなそうな霊夢さん。
そして息が荒い、早苗さん。
召喚術的な何かで、早苗さんの股間からは××な××が生えていて、
霊夢さんの顔が恐怖にひきつったものになる。
さあひとつになりましょう。
くそ、こんな結界ごときで。早苗のくせに。ちくしょう。
ちくしょうって英語で言ったらファックユーですよね。つまり了承が得られたってことでいいですよね。
ノー!
霊夢さんは早苗さんに××されました。
「こんなのただの妄想じゃないですか! 妄想するのもダメっていうんですか!」
「いいんじゃないかな? 人間だもの」
と、こいしは言う。
しかし、あのよくわからない情景はいったいなんだったのだろう。
ふむん。
こいしが前に言ってたココロックスというものなのだろうか。
ともかく恥ずかしいとは、自分の妄想が誰かに知られることなのかもしれない。
「霊夢さん、これは違うんですよ」
「あ、そう……」
「なんですか。その冷たい目は。私を汚物を見るようなその目は! 霊夢さんだってちょっとはそんな妄想したことあるでしょ」
「いや、私はべつにないけど」
「うそだ!」
早苗はいきなり豹変し、霊夢をにらみつける。
「霊夢さんだって、人の子でしょう。恥ずかしいことを思い浮かべたことくらいあるでしょ!」
「いや、べつに? それに早苗が私をオカズにしようがナニしようが私にとっては無関係だからどうでもいいわ」
「どうでもいいってそれはそれで傷つく……」
「面倒くさいわね。どうしろっていうのよ」
「こいしちゃん。霊夢さんにも黒想起をお願いします」
「うん。わかった」
「いっとくけど、私は自分のことを恥ずかしいなんて思ったことないからね。どこかのゴシップじゃ、紫といちゃいちゃしているとか言われたことあるけど、そんなのただの噂よ。私は紫をパートナーとしてしかとらえていないし、紫だって私のことをなんとも思ってないわ」
「そこで紫さんのことがすぐでてくるのが怪しいです!」
と、早苗はいきまいている。
「好きにすればいいじゃない」
「じゃあお言葉に甘えて」
黒想起――霊夢さんの大好きな
冬。
澄み切った青空には一点の曇りもなかった。
霊夢さんは人里に向かっていた。
寒いわねーとか何とか云いながら。
だって、霊夢さんだって人の子なのだから、肉や野菜やその他の生活用品が必要になるの。
人里に到着する。
すると、何人かの子供たちが霊夢さんの傍を駆けていく。
博麗の巫女様とみんながみんな言いながら、霊夢さんはお母さんのような優しい表情になってた。
ひとりの女の子が転んだ。
痛くて泣いていた。
大丈夫かな。立てるかな。
霊夢さんはその子が立ち上がるまで待ってあげてた。
泣きそうだったその子は、最後には立ち上がり、涙を拭いた。
霊夢さんはその子の頭をそっと撫でて、
偉いわねって言って、それだけだった。
なんだこれだけ?
私の疑問は多数の者と同じだったらしく、みんなの顔には怪訝としかいえない表情が張りついている。
とりあえず、怪訝のお面をつけて私も対応することにした。
しかし、よく見るとひとりだけ違う者がいた。
霊夢だ。
霊夢は両の手でまるで少女のように(れっきとした少女なのであるが)顔を覆い、耳まで真っ赤にして小さく震えていた。
「妖怪に、み、見られてたなんて、博麗の巫女として不覚だわ」
「わたしも霊夢さんに撫でてほしーな」
「だまりなさい。あなたは妖怪でしょうが」
「えー、でも霊夢さんって見た目が子どもだと優しいよね?」
「違うわよ。わ、私は誰にでも優しいの」
「だったら、私にも優しくしてほしーな。霊夢おねーさん♪」
「ぐ……」
非常に雑な態度で、それでも霊夢はこいしの頭を撫でていた。
ふむ。ロリコンなのか。
つまり恥ずかしいとはみんなの前でロリコンであることがバレることを言うのか?
私は天啓を賜った気分だった。
よし、さっそく実践だ!
「こいし」
「ん?」
「頭撫でるがよいか?」
「ん?? いいけど」
「じゃあ撫でる」
こいしが帽子を脱いだので、容赦なくグリグリした。
グリグリグリグリ。
うーん。全然恥ずかしい気分にならない。
「こいし、キスするけどよいか?」
「んん? なにかこころちゃんが勘違いしている気がする」
「いいか?」
「いいけど」
神子様や聖が何か言っていたが、とりあえずやってみた。
むちゅー。
「恥ずかしいよ。こころちゃん」
「うーん。私は全然恥ずかしくない! そんなバカな。こいしより私のほうがロリだったのか!?」
体型的にはどう考えても私のほうが大人だし、
差胸的に言えば、20パーセントほど盛り上がりがあるはずなのだが。
「こころちゃん。恥ずかしいっていうのはね。自分が心の中で大事に思っているものがみんなの前に露わになるときに生じるんだよ」
「大事なもの?」
「そう。べつに物じゃなくてもいいよ。観念や関係や概念でもいいの。本当に大事なものは誰にも知られちゃいけないの」
「私には大事なものなんて……ないかもしれない」
だから、私には恥ずかしいって感情がなかったのか。
ガッカリだ。
あまりにもガッカリ過ぎてガッカリのお面をつけるのを忘れるぐらいガッカリだ。
私にとって大事なものといえば、『私であること』くらいなものだが、
しかし、私が私であることは公開し続けていることであって、隠すことは原理的にできないじゃないか。
いや……本当にそうだろうか。
私は私を隠すことができる。
このお面で、私を隠してしまえばいい。
そうすれば、私は『私であること』という大事なものを隠すことができる。
スッと取り出し、お面を装着。
これは、羞恥のお面。
私は汗がふきでて、動悸がし、おろおろとするほかなくなる。
「こいし、お願い」
「お、こころちゃんが何をしたいのかなんとなくわかったよ!」
こいしは私の意思をすぐさま汲み取ってくれた。
すなわち、お面の剥ぎ取り。
「いやぁ、恥ずかしい。恥ずかしいよぉ!」
みんなの前で無理やりお面をはぎ取られ、素肌を晒し、それから真っ赤になった顔を見られた。
こいしが謳うように宣言する。
「他人の恥は蜜の味」
なるほど私は甘かった。
そんなことを言われたのは初めてだったので、私は驚いた。
発言したのは里の人間で、私がふらふらと人里で舞にいい場所を探しているとそんなことを言われてしまったのである。
「野生のというのはわかるにしても、痴少女、これがワカラナイ」
わたし、秦こころは決して痴少女などという名前でもなければ、そういう職種についているわけでもないのだ。
「いや、あんた、胸元があいとるじゃないか」
「ん?」
「いやその□やら☆やらのよくわからんボタンが全部はずれてしまっておるじゃないか。しかも下着の類も着ている様子はないし」
「確かにあいてた。それが痴少女という状態か?」
「いやいや、違うとも」
「ならば、なにが痴少女か」
「おまえさん、羞恥心がないのか?」
「なにそれ?」
私は素直に気持ちを声に出した。
確かに『羞恥』の面は存在するから、その感情を知らないとはいえない。
けれど、その感情を知っているのはお面のほうであって、私自身は羞恥という感情がよくわからなかったのだ。
「あー、おまえさん。そうやって無防備に恥ずかしいって何とか言ってくるのも危険だぞ」
「どうして?」
「そりゃ……、年ごろの娘さんが、胸元をさらけだしながら『恥ずかしいこと教えてください』と言ってくれば、里の若いもんは勘違いするかもしれん」
「なにをどう勘違いするの?」
「おまえさん天然か」
「違う。れっきとした人工物だ!」
「お、おう……、ともかくわしゃ、妻子もちなんでよかったが、若い衆の前じゃあんな恰好はまずい。おまえさんはもっと羞恥心というものを学んだほうがいい」
「教えて?」
「いやいや、だから男に教えてなどと言ってはいかんぞ」
「どうしてだ?」
「そりゃ……、そうだな。そういう感情は自ら見て学ぶものだからな」
「なるほど深いな」
学ぶとは真似ぶという言葉を語源としていると聞いた覚えがある。
私が『羞恥心』なる感情を学ぶためには、それを言葉で教えてもらうだけでなく、
体感として経験する必要があるのだ。
私はその人にお礼を言って、それから『羞恥心』を観察するために行動することにした。
さて、まず『羞恥心』についてだが、
これはお面からの情報によると、おおよそ恥ずかしいということと同義らしい。
では、恥ずかしいとはどういう感情か。
コレガワカラナイ。
お面が知っていても私自身が知らなければ、意味がないのだ。
一応、お試しとして『恥ずかしい』の面をつけてみた。
その瞬間、体温があがり、意味不明な汗がだらだらと流れ、心臓がドキドキした。
なんだかよくわからない。
感情そのものはつかめても、それがどうして生じるのかとか、どういう状態のときに陥りやすいのかがわからなければ、意味がない。
こういうときどうすればいいのか……。
やはり私のライバルに聞くのが一番いいだろう。
古明地こいしである。
こいしは、いつものように寺の周辺をフラフラしていたので、たいして苦労することもなく話を聞くことができた。
「恥ずかしいって何だ?」
「どうしたの?」
「恥ずかしいこと知りたいの」
「ヤダこころちゃん、かわいい。恥ずかしいことしちゃう? ココロックスしちゃう?」
「ん?」
「そういう小首を傾げたりする動作、こころちゃん超うまいね」
「それはおそらく、舞の中で動作が洗練されているからだろう」
「そっかー。じゃあキスしちゃう?」
「ん?」
「キスしてみたらわかるかもしれないよ」
「ふーむ。つまり、恥ずかしいという状態はキスをすれば生じるのか?」
「そういうわけでもないけど、そういう場合も多いかもしれないね」
「わかった。じゃあしてみる」
「眼をとじてみようか。私の第三の瞳みたいに」
「わかった」
「ちゅ」
軽く触れ合うだけの接触だった。
これが接吻やらキスと呼ばれるのは知っているが、しかし、単なる肉体的な接触であることは論を待たない。
それで私の中に何かが生じたわけではなかった。
眼をあけてみても、こいしは特段変わった様子はない。
なんとなく微笑の具合があがっているようだが、それだけだ。
「どう? 恥ずかしいって思った?」
「いやよくわからない」
「そっかー。じゃあ、しょうがない。ほかの人間を観察しよう」
「妖怪じゃダメなのか?」
「妖怪でもいいけど、人間の感情を学ぶなら人間のほうがいいでしょう」
「なるほど道理だ」
やはりわからないことは聞くに限る。
ケース1 霧雨魔理沙の場合
いつものように博麗神社で宴会がおこなわれていた。
新年早々の宴会だけあって、そうそうたる顔ブレである。
私を創った神子様もきているが、それだけでなくどこかの吸血鬼、亡霊、魔女、天人、鬼、妖怪、妖精、薬師、神様、小人とともかく多くの人妖がいりみだれていた。
宴会は自由参加である。もちろん、酒やつまみを持参するのが望ましい。
霧雨魔理沙はその宴会に参加している。
「みててね」
こいしがニコっとわらった。
「わかった」
こいしはとことこと魔理沙の前に近づいた。
そこで、おそらく無意識の能力をオフにした。
「うお。いきなりあらわれるな。びびるだろうが」
「黒想起――」
「黒……想起?」
「恋の泥棒さんマジック」
「ん?」
特別でもなんでもない普通の日。
魔理沙はアリスの家に遊びに来てたの。
それで、なんとはなしにとしか言いようがないタイミングで、
魔理沙は髪をすいてくれるようにアリスにお願いしてた。
「お、おい。なに話してるんだ」
アリスは人形さんを操るときのようにやさしく丁寧にすいていく。
そうすると魔理沙はひなたぼっこする猫さんみたいに眠たげな表情になって言ったわ。
アリスって本当になんでもできるんだな。
そんなことないわ。
でも、ほらこんなにかわいくされちまったぜ。
ま、魔理沙はいつだってかわいいわよ。
お、おう。
お、お嫁さんにしたいぐらい。
お、おう。
それしかいえないの。
私としてはどちらかといえば、アリスの方がお嫁さんのほうがいいな。
え?
だって、私なんかよりアリスのほうがかわいいし。
そんなことない。魔理沙のほうがかわいい。
アリスのほうがかわいい。
魔理沙。
アリス。
魔理沙。
アリス。
魔理沙なの!
このわからずやめ。
わからずやなのは魔理沙じゃない。こんなにかわいいくせして。
アリスのほうこそわからずやだ。こんなにかわいいくせして。
小さくて、ふわふわしてて、猫みたいで。
お人形さんみたいに綺麗で、里の人間にも大人気。
人間なのは魔理沙のほうでしょ。おうちに帰ったらどうなの。
いやだ。アリスのそばにいる。私はアリスのお嫁さんになるんだからな。
なにいってんの。私が魔理沙のお嫁さんになるの。
さっきは私のほうがお嫁さんにしたいって言ってたじゃないか。とるなよ。
なにいってるの。魔理沙のほうがどう考えたって私より年下でしょ。
年で決めるな。私のほうがすぐにばばあになっちまうんだから。
見た目年齢いってるんじゃないの。お子様のくせに。おこさまりさ!
ふざけんな。このマザコン。
マザコンは関係ないでしょ。
じゃあわかった。どっちが大人か勝負しよう。
どうやって。
大人のキスがどちらがうまいか勝負だ。
ええ、わかったわ。勝負よ。
ええい、マスタースパーク!
なんの。リターンイナニメトネス!
というわけで、なんだかすごく楽しそうにいちゃいちゃしてた。
「うおおおお、なに言ってるんだ。これは罠だ。こいしが私を陥れるために仕組んだ罠だ。そうに違いない!」
私が観察する限り、魔理沙は顔を真っ赤にしてその場でこいしを罵倒していた。
魔理沙の隣に座っていたアリスはポカンと口を開けて放心状態。
うーん、これでは恥ずかしいというのがどっちの状態を指すのかいまいちわからない。
しかし、他の人間の視線というものがわりと重要なことに私は気づいた。
鬼の人がやたらとゲラゲラ笑っており、他の妖怪もなにやらニヤーとした笑いを浮かべていることから、
もしかすると恥ずかしいとは人に笑われることなのかもしれない。
ふむ。つまり見られている自分を意識するということが必要なのか。
想像上の自分に対する視線が、恥ずかしいという感情の源泉なのか。
ケース2 十六夜咲夜の場合
「地底のやつらはみんな陰険だと聞きますが、まさにそんな感じなんですね」
「素敵なお姉さん」
「う、なんで私のところに来るんですか」
「たいしたことじゃないの。ただ、お姉さんは人間だから」
「私は世にも恐ろしい吸血鬼につかえるメイドですよ。そこで息絶えている魔法使いとは違います」
「黒想起」
「うっ」
「召しませ主様♪」
※解説しよう。黒想起においては情景が心のスクリーンに投射されるのだ! 慈悲はない。
咲夜さんは紅魔館で一番のはたらきもの。
妖精さんたちは遊びが好きで、あまり働かないし、今日も今日とて家事雑用に追われている。
やれやれ、あの子たちに頼んでも洗濯ひとつまともにやってくれないんだから。
そんなことを言いながら咲夜さんが手にとったかごの中には、こんもりと山のように積まれた衣服類。
フワフワのフリルたっぷりの洋服は、この館に住んでいるかわいらしい吸血鬼姉妹のものに違いないの。
咲夜さんが紅魔館の一室に入ると、そこはお洗濯をする場所だったわ。
川で手洗いってわけじゃなくて、河童さんがつくった二層式の洗濯機。
そして――、
スッと一息。
たとえるなら、そう……、淑女がワインをたしなむようなそんな優雅な動作。
そんな感じで、咲夜さんは衣服のひとつをかいでいた。
ん、これはお嬢様産の三日ものね。
お嬢様の持つ本来的な甘い匂いに対して、ほんのり汗ばんだことによる甘酸っぱい香りも混ざっている。
思うに、衣類とは人間や妖怪と同じように、それぞれが異なる『構造』を持っている。
それは、生まれ――例えば、レミリア産か、フランドール産などというふうに、
産地が異なることが最も大きいだろう。
ああ、なだらかな山脈で脈々と流れている吸血鬼としての高貴な香り。
それがいつも使っている弱酸性の石鹸の匂いと奇妙なほど上品に混ざり合い、なんとも言えない味をかもしだしている。
それに加え、時の熟成。
私は衣服に付着した歴史の重みを想い、涙を禁じ得ない。
これが衣服というものの魔性なのだ。
神様ありがとう。
吸血鬼の天敵に祈りを捧げつつ、咲夜さんはすべての香りを堪能しつつ、
孤高のソムリエのように、それらをいつくしんでいた。
そして――暗転。
無意識の能力が発動したわけではなくて、咲夜さんの能力のひとつ時間停止。
そこには、フランちゃんのお姉さん――レミリア・スカーレットのショーツが握られていたわ。
そして、咲夜さんの歪んだ笑顔。
まさかお嬢様も時間を停止している間に、おパンツを脱がせられ、新しいものに変えられているとは思うまい。
そして、ああ、時間の熟成を待たない、この青い果実のようなおパンツこそが至高の存在。
ピンク色をしたフリルつきのかわいいショーツは、まるで生贄に捧げられた豚のように二本の指でつりさげられていたわ。
陶酔しきった表情でうっとりと、ソレを見つめ……
「パクッ。もぐもぐって……」
と、こいしが咀嚼の動作をしていると、ナイフ一線。
鋭い一撃がこいしを襲う。
が、それをヌルリと避けた。
まったくもって不可解な動きであるが、こいしは無意識超センスによって、反射の速度で動けるのであるから、
たとえ時を止めようが、そのコンマ数秒があれば十分なのである。
「おまえを殺して、私も死ぬ!」
「そんなことより咲夜……」
振り返るとそこには鬼がいた。
いや、吸血鬼だ。
「お、お嬢様。これは誤解です。ええ、誤解ですとも」
「いや、誤解ではない」
「なぜ……わかったんですか。私が時間を停止してお嬢様のお召し物を変えているなど」
「ぬくもりだよ」
「ぬくもり?」
「おまえがパンツ変えたら、いきなりヒュっと寒くなるからわかるに決まってるだろうが!」
「そんなバカな。ひと肌で温めておいたのに!」
「愚か!」
レミリアは激怒の表情で咲夜を叱った。
「吸血鬼の体温は人間のそれに比べて極端に低いんだ。それでも無いわけではないから装着しているパンツよりは暖かい。その絶妙な温度差を貴様は理解していなかったのだ! 私のマニアを呼称するのであれば、それはそれでよい。しかし、スカーレット家のメイドであるなら完璧であれ! いかなる瑕疵も許さん!」
「そんな、オジョウサマニアを自称するわたしが鼠の糞にも劣る簡単なミスをするなんて!」
うーん。
これは恥ずかしいというよりガッカリといった感じに見えるんだが、違うんだろうか。
「失敗しちゃったね」
チロっと舌をだして、ウインクするこいし。
どうもやはり失敗だったらしい。
単純に秘されたものが解放されることを恥ずかしいというのではないようなのだ。
十六夜咲夜は隠れて『行為』に及んでいたようだが、それはレミリアに知られたくなかったからであって、
我々第三者のことなどどうでもよかった。
だから、レミリアに知られてしまえば、あとはどうにでもなーれってことなのかもしれない。
よくわからぬ。
ケース3 東風谷早苗の場合
「緑の巫女さん」
「あ、こいしちゃん。私を公開処刑しようとしても無駄ですよ。だって私には秘すべき点など無いのですから」
「うーん? そうかなー」
「そうですよ。神職につかえるものが恥ずべき行為をしているわけがないでしょう? 例えば、私は巨大ロボットが好きですが、だからってそのことを誰かに知られたからって女の子の趣味じゃないとか思われても、まったく恥ずかしいとは思わないんです。それに私はそこのメイドさんのように、神奈子様や諏訪子様の衣服を嗅ぐような変態じゃありませんし……」
「変態じゃない! 衣服ソムリエもメイドの立派なスキルなのよ!」と咲夜。
ふうむ。
つまり、恥ずかしいというのは劣等感から生まれるものなんだろうか。
自分に対するみじめな気持ちを防衛しようとして生まれる感情なのだろうか。
「じゃあ、黒想起試してみるね。黒想起は心の中にある自分が黒想起だって思ってる事象がスクリーンに投射されるの。その選択は無意識にされるものだから、抵抗は無意味だ♪」
「はいはい。試してみていいですよ。こいしちゃんはかわいいですね」
「黒想起……」
ノイズ……。
何も見えない。
早苗は勝ち誇った顔になる。
でも、本当にそう思ってるとしたら甘い。
黒想起を持っていない人間など極少数しか存在しないのだから。
――黒想起 早苗のサナエトリウム
そこは白くて巨大な建物だった。
鬱蒼とした森を抜けた先にある開けた平野に、まるで巨大な城のようにその建物は立っている。
とはいえ、城のようにとんがっているわけではない。
まるでコロッセウムのように丸い円形の形をしている。
「な、なんです、これ! こんな建物なんてどこにもないじゃないですか!」
「想起なんだから、べつに実際にやったことに限定されるわけじゃないよ。妄想も具象化されるの」
「やめてください」
「んー」こいしは何秒か考える。「無理♪」
「あばばばばばばばばばばばば」
さて、サナエトリウムの中を探索してみよう。
視点はもちろん、無意識マスターこいしです。
一階は光あふれる巨大なホールだったわ。
そこにはなぜか一糸まとわぬ妖精さんたちがたくさんいて、あははうふふと楽しそうに遊んでいた。
べつにたいしたことはない情景なので、地下に向かうことにする。
地下に来ると、なんだか様子が変だった。
妙に重苦しい空気。
時折、空耳なのか呻くような声が聞こえてきて、ちょっと不気味なの。
壁には汚れたような後があるし、たとえ妄想の世界だと思ってもちょっぴり怖いかもしれない。
そして、地下の奥深くには鉄でできた重苦しい扉があった。
開ける、と。
なぜか早苗さんは裸で、そこにはなぜか霊夢さんもいて、
霊夢さんも裸で、なぜか縛られていて、なんだろうって思った。
早苗さんが邪悪としか言いようのない顔になる。
さて霊夢さんこれからどうなるかわかっていますね。
早苗、やめて早苗。
べつにたいしたことをするわけじゃないんですよ。ちょっとだけ気持ちいいことをするだけなんです。
気持ちいいってなによ。
霊夢さんの××に××して、泣きわめくまでやめてあげないだけですよ。
いやー。やめてー。早苗やめてー。
それから早苗さんは霊夢を××して××が××するまで××した。
早苗さんは霊夢さんの××を吸い、霊夢さんの瞳がうるんだものになる。
あ、やめて……と言いつつ、しかし、白い躰はなぜか陸にあがったお魚さんのように時折跳ねた。
早苗さんは右手で霊夢さんの両腕を固定しつつ、残った左手を霊夢さんの躰の上をツーッと這わせた。
それから左手はなぜか下のほうに向かい、××に達する。
よくわからないんだけど、なんだかせつなそうな霊夢さん。
そして息が荒い、早苗さん。
召喚術的な何かで、早苗さんの股間からは××な××が生えていて、
霊夢さんの顔が恐怖にひきつったものになる。
さあひとつになりましょう。
くそ、こんな結界ごときで。早苗のくせに。ちくしょう。
ちくしょうって英語で言ったらファックユーですよね。つまり了承が得られたってことでいいですよね。
ノー!
霊夢さんは早苗さんに××されました。
「こんなのただの妄想じゃないですか! 妄想するのもダメっていうんですか!」
「いいんじゃないかな? 人間だもの」
と、こいしは言う。
しかし、あのよくわからない情景はいったいなんだったのだろう。
ふむん。
こいしが前に言ってたココロックスというものなのだろうか。
ともかく恥ずかしいとは、自分の妄想が誰かに知られることなのかもしれない。
「霊夢さん、これは違うんですよ」
「あ、そう……」
「なんですか。その冷たい目は。私を汚物を見るようなその目は! 霊夢さんだってちょっとはそんな妄想したことあるでしょ」
「いや、私はべつにないけど」
「うそだ!」
早苗はいきなり豹変し、霊夢をにらみつける。
「霊夢さんだって、人の子でしょう。恥ずかしいことを思い浮かべたことくらいあるでしょ!」
「いや、べつに? それに早苗が私をオカズにしようがナニしようが私にとっては無関係だからどうでもいいわ」
「どうでもいいってそれはそれで傷つく……」
「面倒くさいわね。どうしろっていうのよ」
「こいしちゃん。霊夢さんにも黒想起をお願いします」
「うん。わかった」
「いっとくけど、私は自分のことを恥ずかしいなんて思ったことないからね。どこかのゴシップじゃ、紫といちゃいちゃしているとか言われたことあるけど、そんなのただの噂よ。私は紫をパートナーとしてしかとらえていないし、紫だって私のことをなんとも思ってないわ」
「そこで紫さんのことがすぐでてくるのが怪しいです!」
と、早苗はいきまいている。
「好きにすればいいじゃない」
「じゃあお言葉に甘えて」
黒想起――霊夢さんの大好きな
冬。
澄み切った青空には一点の曇りもなかった。
霊夢さんは人里に向かっていた。
寒いわねーとか何とか云いながら。
だって、霊夢さんだって人の子なのだから、肉や野菜やその他の生活用品が必要になるの。
人里に到着する。
すると、何人かの子供たちが霊夢さんの傍を駆けていく。
博麗の巫女様とみんながみんな言いながら、霊夢さんはお母さんのような優しい表情になってた。
ひとりの女の子が転んだ。
痛くて泣いていた。
大丈夫かな。立てるかな。
霊夢さんはその子が立ち上がるまで待ってあげてた。
泣きそうだったその子は、最後には立ち上がり、涙を拭いた。
霊夢さんはその子の頭をそっと撫でて、
偉いわねって言って、それだけだった。
なんだこれだけ?
私の疑問は多数の者と同じだったらしく、みんなの顔には怪訝としかいえない表情が張りついている。
とりあえず、怪訝のお面をつけて私も対応することにした。
しかし、よく見るとひとりだけ違う者がいた。
霊夢だ。
霊夢は両の手でまるで少女のように(れっきとした少女なのであるが)顔を覆い、耳まで真っ赤にして小さく震えていた。
「妖怪に、み、見られてたなんて、博麗の巫女として不覚だわ」
「わたしも霊夢さんに撫でてほしーな」
「だまりなさい。あなたは妖怪でしょうが」
「えー、でも霊夢さんって見た目が子どもだと優しいよね?」
「違うわよ。わ、私は誰にでも優しいの」
「だったら、私にも優しくしてほしーな。霊夢おねーさん♪」
「ぐ……」
非常に雑な態度で、それでも霊夢はこいしの頭を撫でていた。
ふむ。ロリコンなのか。
つまり恥ずかしいとはみんなの前でロリコンであることがバレることを言うのか?
私は天啓を賜った気分だった。
よし、さっそく実践だ!
「こいし」
「ん?」
「頭撫でるがよいか?」
「ん?? いいけど」
「じゃあ撫でる」
こいしが帽子を脱いだので、容赦なくグリグリした。
グリグリグリグリ。
うーん。全然恥ずかしい気分にならない。
「こいし、キスするけどよいか?」
「んん? なにかこころちゃんが勘違いしている気がする」
「いいか?」
「いいけど」
神子様や聖が何か言っていたが、とりあえずやってみた。
むちゅー。
「恥ずかしいよ。こころちゃん」
「うーん。私は全然恥ずかしくない! そんなバカな。こいしより私のほうがロリだったのか!?」
体型的にはどう考えても私のほうが大人だし、
差胸的に言えば、20パーセントほど盛り上がりがあるはずなのだが。
「こころちゃん。恥ずかしいっていうのはね。自分が心の中で大事に思っているものがみんなの前に露わになるときに生じるんだよ」
「大事なもの?」
「そう。べつに物じゃなくてもいいよ。観念や関係や概念でもいいの。本当に大事なものは誰にも知られちゃいけないの」
「私には大事なものなんて……ないかもしれない」
だから、私には恥ずかしいって感情がなかったのか。
ガッカリだ。
あまりにもガッカリ過ぎてガッカリのお面をつけるのを忘れるぐらいガッカリだ。
私にとって大事なものといえば、『私であること』くらいなものだが、
しかし、私が私であることは公開し続けていることであって、隠すことは原理的にできないじゃないか。
いや……本当にそうだろうか。
私は私を隠すことができる。
このお面で、私を隠してしまえばいい。
そうすれば、私は『私であること』という大事なものを隠すことができる。
スッと取り出し、お面を装着。
これは、羞恥のお面。
私は汗がふきでて、動悸がし、おろおろとするほかなくなる。
「こいし、お願い」
「お、こころちゃんが何をしたいのかなんとなくわかったよ!」
こいしは私の意思をすぐさま汲み取ってくれた。
すなわち、お面の剥ぎ取り。
「いやぁ、恥ずかしい。恥ずかしいよぉ!」
みんなの前で無理やりお面をはぎ取られ、素肌を晒し、それから真っ赤になった顔を見られた。
こいしが謳うように宣言する。
「他人の恥は蜜の味」
なるほど私は甘かった。
早苗はまだしも咲夜が鼻から忠誠心バージョンだった
他の奴の恥ずかしい所も見てみたかった
しかしこころに羞恥心を教えるのは難しそうだな
なので、もっと黒想起してくださいお願いします
これは地底に封印されても仕方ない、と思ってしまう程のえげつなさ。
能力もそうだが、これを興味本位とかで面白がってやっちゃうんだからこいしちゃんはたまらん。
しかし、なんだ。見てるこっちも相当恥ずかしいなこれは。
黒想起…なんて恐ろしいんだ…
性的な意味を含まない黒想起をさせられた霊夢さん、マジ楽園の素敵な巫女。
照れ隠しのようにこいしの頭を撫でている姿が、とても可愛かったです。
この話がかわいく収まるのは身勝手ばかりの幻想郷ならではないだろうか?
話は変わるが、創作家・アスリート・そうで無くとも生き様を体現出来る人は恥を雪ぐ術に長けた人種だ。恐いのは何事をも溜め込み生きる人。彼らは恥で他者をコロしもするし自身をコロしもする。ただ本当に殺す殺されたは(それ程は)聞かないのでココロの話なのだろう。
しかしファックスとかファックとクスで二重にあれじゃないか
……あ、感想感想
黒想起は悪魔の技だな。もっとお願いします。
魔理沙と霊夢の黒想起はまさしく嗜好の逸品...ジュル
こいしちゃんマジ天使。
勢いフルスロットルな作風、楽しませて頂きました
ココロックス=こころ×マトリックス
なイメージでクライマックス
ソックスが卑猥に…
ああ、卑猥だな
らめえうちのお猫様が卑猥にみえちゃううう
非常に良い羞恥心を味わたいので私もこの飲み会に参加したいのですが