「パラレルワールドって知ってるかしら?」
突然隙間の妖怪はそう言いだした。ああまたこういう話か、と藍は思った。主人に仕えて数千年、こういった話は幾度となくしてきた。そういった話の知識も、どういう回答の仕方が主に好まれるかというのも藍は知っていた。
ちなみにこういう時は、問いの中心点を捉えつつも、大雑把に答えれば機嫌を損ねない。紫は何気に説明することが好きなのだ。
「はあ、パラレルワールドですか・・・・・・確か世界が分岐していて、並行して存在する説のことですよね?」
「だいたいそうね。例えば貴方が昨日食べた夕食が油揚げか豆腐かで世界が分岐していて、今も貴方が豆腐を食べた世界は同じ次元内に存在している、という面白い話ね」
昨日の私の夕食の時は紫様はまだ寝ていたはずだ。なんで私が油揚げ食べたこと知ってんだよこえーよ。
「それがどうかしましたか?」
「気にならない?別の世界の自分」
おっと・・・・・・このパターンはマズイ・・・・・・
藍の経験上、この答えの返り様はロクなことにならないと知っていた。自分の知識を試す問いなら良かったのだが、暇つぶしがてら別世界を隙間ツアーする未来が見えた気がした。
なんとか話題をそらさないとヤバイ・・・・・・
いや、そもそもパラレルワールドなんて只のSF的な説に過ぎない。実際にあるとは思えないし、あったとしてもそう簡単に行き来できるはずがない。
だが主の非常識さを考慮すれば、その危険さは未知数だった。
主が相手じゃ咄嗟に思いつく策なんて通用しないので、仕方なく普通に答えることにした。
「別世界の自分ですか。別に気になりませんよ。」
「あらそう?貴方のことだから別世界の橙でも興味あるのかと思ったわ」
「私が生きるのはこの世界で、私の式はこの世界の橙ただ一人ですからね。そもそも、並行世界なんて只のお話でしょう?」
「そうね。本や映画なんかではポピュラーなアイデア。だからこそ存在するのよ」
「・・・・・・?。すみません、よく話が見えないのですが・・・・・・」
紫の何かを含んだ言い方は、藍には理解できなかった。紫は妖艶な笑みを浮かべながらこう続ける。
「・・・・・・藍、世界ってなんだと思う?」
「世界?幻想郷のことですか?」
「あながち間違ってもいないわね。でも世界はもっと不明瞭で狭い。世界は、自分が感じられる範囲しか存在しない・・・・・・ううん、自分がいるところに世界が創られるというのが正しいわね」
「どういうことですか?」
「世界は無数にあるのよ。本の世界とか夢の世界とか言うでしょう?要するに、誰でも自分の世界を持っているの。自分が感じているところすべてが世界なのよ。でも、それを感じられるのは自分自身だけ。他人は貴方の世界を感じられないし、貴方も他人なんて分かりっこないのよ」
自分が赤いりんごに見えたとしても、相手も赤いりんごが見えているかは分からない。
「これは赤いりんごだね」そう聞こえた内容も、貴方の望む回答に改変させられていて、相手は「凄く青くて美味しそうなりんごだ」と言っているつもりなのかもしれない。
故に、それが本当に赤いりんごか、相手はどう見えているかなんてわからないのだ。
それにね。と紫は続ける。
「この幻想郷は確かに私が作ったわ。でもね、そんなこと証明できないのよ。誰かが幻想郷を創って、私たちを創り、それぞれにこれまでの記憶を与えれば、どうとでもできるからね。まるでゲームをプログラムするみたいに」
藍は背筋が凍るような感覚が走った。じゃあ、これまで主に使えてきた数千年は、全て誰かに作られたものなのだろうか。
想像しようとしてすぐにやめる。考えただけで気が狂いそうだった。
「この世界は誰かに見られている夢なのかももしれないし、誰かが書いた文章かもしれない。誰かが生み出したお話をほかの誰かがさらに世界を作る、いわゆる二次創作というものもあるしね。つまり、この世界も別の誰かが生んだ話で分岐しているのかもしれないのよ」
つまり紫様が言いたいことはこうなのか。
今私たちが生きる世界が誰かに生みだされたとしたら、並行世界のこことは別の世界は、二次創作のようであり、作り手によっていろいろな世界がある、と。
「ちなみに外の世界では、この世がゲームである証明出したとかそういう話があったかしらね。貴方が主人公で、他の人がNPCと考えることもできるわねー」
外の世界の人間はおかしなことをするものだな、と藍は思った。
狂気じみている。そんなことが本当ならば、製作者の意思だけで我々などすぐに消えてしまうのだから。
「さて、そろそろ前置きはいいかしらね・・・・・・」
「はい?なんでしょう」
てっきり哲学的な議論がしたくて呼んだと途中から思っていた。
やっぱりマズイ方のパターンだったのか。
次の主の一言を、いつものテンプレを言う用意をした
「藍、これから他の並行世界巡りでも」
「お断りします」
この後、足元にできた隙間で、藍は並行世界隙間ツアーに出かける羽目になった。
○○○
夜中、紫は縁側で一人酒を飲み、月を見ていた。
手元で、CD-ROM用のケースをもてあそんでいる。
「幻想郷は確かに創られた。私以外の手によって」
紫は知っていた。外の世界と呼ばれるところは、大結界の外などではなく、私たちの生きる世界の外だと。そしてそこの住人が私たちと幻想郷を創ったことを。
「・・・・・・・・・・・・藍にこのことを教えるのはまだ早いかしらね」
紫は持っていたCDケースを隙間にしまった。
そのケースは『東方妖々夢』と確かに読めた。
(おしまい)
突然隙間の妖怪はそう言いだした。ああまたこういう話か、と藍は思った。主人に仕えて数千年、こういった話は幾度となくしてきた。そういった話の知識も、どういう回答の仕方が主に好まれるかというのも藍は知っていた。
ちなみにこういう時は、問いの中心点を捉えつつも、大雑把に答えれば機嫌を損ねない。紫は何気に説明することが好きなのだ。
「はあ、パラレルワールドですか・・・・・・確か世界が分岐していて、並行して存在する説のことですよね?」
「だいたいそうね。例えば貴方が昨日食べた夕食が油揚げか豆腐かで世界が分岐していて、今も貴方が豆腐を食べた世界は同じ次元内に存在している、という面白い話ね」
昨日の私の夕食の時は紫様はまだ寝ていたはずだ。なんで私が油揚げ食べたこと知ってんだよこえーよ。
「それがどうかしましたか?」
「気にならない?別の世界の自分」
おっと・・・・・・このパターンはマズイ・・・・・・
藍の経験上、この答えの返り様はロクなことにならないと知っていた。自分の知識を試す問いなら良かったのだが、暇つぶしがてら別世界を隙間ツアーする未来が見えた気がした。
なんとか話題をそらさないとヤバイ・・・・・・
いや、そもそもパラレルワールドなんて只のSF的な説に過ぎない。実際にあるとは思えないし、あったとしてもそう簡単に行き来できるはずがない。
だが主の非常識さを考慮すれば、その危険さは未知数だった。
主が相手じゃ咄嗟に思いつく策なんて通用しないので、仕方なく普通に答えることにした。
「別世界の自分ですか。別に気になりませんよ。」
「あらそう?貴方のことだから別世界の橙でも興味あるのかと思ったわ」
「私が生きるのはこの世界で、私の式はこの世界の橙ただ一人ですからね。そもそも、並行世界なんて只のお話でしょう?」
「そうね。本や映画なんかではポピュラーなアイデア。だからこそ存在するのよ」
「・・・・・・?。すみません、よく話が見えないのですが・・・・・・」
紫の何かを含んだ言い方は、藍には理解できなかった。紫は妖艶な笑みを浮かべながらこう続ける。
「・・・・・・藍、世界ってなんだと思う?」
「世界?幻想郷のことですか?」
「あながち間違ってもいないわね。でも世界はもっと不明瞭で狭い。世界は、自分が感じられる範囲しか存在しない・・・・・・ううん、自分がいるところに世界が創られるというのが正しいわね」
「どういうことですか?」
「世界は無数にあるのよ。本の世界とか夢の世界とか言うでしょう?要するに、誰でも自分の世界を持っているの。自分が感じているところすべてが世界なのよ。でも、それを感じられるのは自分自身だけ。他人は貴方の世界を感じられないし、貴方も他人なんて分かりっこないのよ」
自分が赤いりんごに見えたとしても、相手も赤いりんごが見えているかは分からない。
「これは赤いりんごだね」そう聞こえた内容も、貴方の望む回答に改変させられていて、相手は「凄く青くて美味しそうなりんごだ」と言っているつもりなのかもしれない。
故に、それが本当に赤いりんごか、相手はどう見えているかなんてわからないのだ。
それにね。と紫は続ける。
「この幻想郷は確かに私が作ったわ。でもね、そんなこと証明できないのよ。誰かが幻想郷を創って、私たちを創り、それぞれにこれまでの記憶を与えれば、どうとでもできるからね。まるでゲームをプログラムするみたいに」
藍は背筋が凍るような感覚が走った。じゃあ、これまで主に使えてきた数千年は、全て誰かに作られたものなのだろうか。
想像しようとしてすぐにやめる。考えただけで気が狂いそうだった。
「この世界は誰かに見られている夢なのかももしれないし、誰かが書いた文章かもしれない。誰かが生み出したお話をほかの誰かがさらに世界を作る、いわゆる二次創作というものもあるしね。つまり、この世界も別の誰かが生んだ話で分岐しているのかもしれないのよ」
つまり紫様が言いたいことはこうなのか。
今私たちが生きる世界が誰かに生みだされたとしたら、並行世界のこことは別の世界は、二次創作のようであり、作り手によっていろいろな世界がある、と。
「ちなみに外の世界では、この世がゲームである証明出したとかそういう話があったかしらね。貴方が主人公で、他の人がNPCと考えることもできるわねー」
外の世界の人間はおかしなことをするものだな、と藍は思った。
狂気じみている。そんなことが本当ならば、製作者の意思だけで我々などすぐに消えてしまうのだから。
「さて、そろそろ前置きはいいかしらね・・・・・・」
「はい?なんでしょう」
てっきり哲学的な議論がしたくて呼んだと途中から思っていた。
やっぱりマズイ方のパターンだったのか。
次の主の一言を、いつものテンプレを言う用意をした
「藍、これから他の並行世界巡りでも」
「お断りします」
この後、足元にできた隙間で、藍は並行世界隙間ツアーに出かける羽目になった。
○○○
夜中、紫は縁側で一人酒を飲み、月を見ていた。
手元で、CD-ROM用のケースをもてあそんでいる。
「幻想郷は確かに創られた。私以外の手によって」
紫は知っていた。外の世界と呼ばれるところは、大結界の外などではなく、私たちの生きる世界の外だと。そしてそこの住人が私たちと幻想郷を創ったことを。
「・・・・・・・・・・・・藍にこのことを教えるのはまだ早いかしらね」
紫は持っていたCDケースを隙間にしまった。
そのケースは『東方妖々夢』と確かに読めた。
(おしまい)
>パラレルワールド巡ろうぜ!ちなみに強制だから!(オチ)
と言う一言で済む話なのがちょっと物語として成り立ってないんで厳しいかなー、と
見えている物が違うと言う件については別に捻くれてる訳じゃなくて分かり易い例えを使っただけじゃないですかね
真理は一つしか無くても、真理の見え方、解釈の仕方は個人の裁量な訳ですからねぇ
…パラレルワールド関係ないですよね紫様?これは、シミュレーション仮説、幻想郷でなら胡蝶の夢とでも呼ぶべき考え方です。
でもやっぱり設定をキャラに語らせるだけで終わってしまうのはどうなの、と思わざるを得ないので、何とかして別のストーリーに落とし込んでほしい所存
ただ上で言われているように、もう少しひとつのストーリーとして読めるようなものであればもっと良かったかなあと思いました。