宇佐見蓮子は大学の掲示板前で立ち尽くしていた。紙ぺら片手に泰然自若といった姿で掲示群を見下ろす彼女。何を見ているのかというと、サークルの勧誘を主とした掲示物たちである。運動部、文化部を問わず、張り紙はどれも印象的な色彩、謂わば派手だ。いずれの部活動も勧誘行動に精を出していると見た。そういえば、今朝も校門前で必死に新入生を口説いてる必死なのがチラホラいたなぁ、と蓮子は想起した。ついでに自分の紙ぺらと彼らのソレをまじまじと比較する。
じっくりと見比べた結果、A4サイズの紙にマジックででかでかと”秘封倶楽部!新入部員募集中☆”と書かれているだけのソレはあまりにもこの掲示板には場違いだという結論に至った。やれやれ、と蓮子は重苦しい溜め息をつく。
「一言で云うとやる気がないんだよなぁ、わたしゃ」
そう云いながら後ろを振り返る。そういえば今は昼時であった、それなりに学生が我が者顔で闊歩している。注視してみれば、どいつもこいつも
流行のファッションに身を固め、髪は大学生特有の茶髪だ。見れば化粧までしている女子大生もいるではないか。宇佐見蓮子は盛大に呆れる。
「どいつもこいつも洒落た格好しちゃってなぁ・・・・・・大学デビュー失敗がよほど恐ろしいのだね。私はインディーズレベルで十分ですわ」
蓮子という人物は病的なまでに外観に興味を持たない。彼女にしてみれば所詮はお飾り、綺麗に固められただけの風体など、自己のアイデンティティに自信を確立できない人間が好むだけだという持論。心理学者でも、ファッション雑誌の批評家でもない彼女は脳内で反芻する。宇佐見蓮子という人物には専攻している物理学が性に合っているのだ。自然界の現象と性質は嘘をつくことを知らないからである。
そういう彼女の容姿は至って簡素なものだ。良くてボーイッシュ、悪くて適当といったところか。白のワイシャツに黒のロングスカートのツートンカラー、ネクタイは気分で着用、今日はしていない。そうそう、トレードマークの黒い中折れ帽を忘れるところだった。いくつかの帽子の違いはリボンの有無のみくらいではあるが、彼女はそれらをひどくお気に召していた。
──といった白黒のシンプルな服装が彼女の常だ。三百六十五日、これ以上でもこれ以下の服装は披露されない。交友関係、大学内の同期達とは蚊帳の外までではないが、割と浮いている方なのかもしれない。自覚はあるのだ。もしかすると、彼女は意図的にこういった境遇を選んでいるのかもしれない。蓮子は大きな欠伸をする。
だが、宇佐見蓮子には偉大な、赤の他人が到底真似できない”特技”があった。
「うーん・・・・・」
現在何時何分だろうと、蓮子は天を仰ぐ。雲一つ見当たらない快晴だ。しかし、今は”見当たらない”。相棒は役目を全う出来たのだろうか。蓮子は頭を垂れる。仕方なく、腕時計で時間を確認する。
「ダメねー・・・・・・昼間でも見える時はあるんだけどー、今日は見えんねー。・・・・・・視力落ちたかな?」
飄々と独り言を垂れる彼女はもはやサークルの勧誘などどうでもよかれといった様子で歩を進める。部員二名、予算カツカツ、ついでに部室は廃部となったオクラ研究部の研究室を間借りしている。巷ではうだつの上がらない不良サークルやら、気味が悪い頓珍漢なオカルトサークルとさえ呟かれているあそこ。実際にはそれらは強ち間違いではないのかもしれないが、主旨は頓珍漢でも奇天烈でもない。単純明快かつ真っ当である。唯、不思議を探索することだ。
そう、目的地はずばり”秘封倶楽部”だ。
「──あら、蓮子。お早いお帰り」
ただいま、とメリーに素っ気なく返す蓮子。ついでに勧誘チラシをくしゃくしゃに丸めて部室のゴミ箱に放り入れるが、見当違いの方向に飛んでいった。うん、入らない。メリーは咄嗟にブロンドのロングヘアーと紫色のスカートをはためかせながら紙屑に駆け寄る。蓮子はというと、素知らぬ顔で口笛を吹きながら悠々とソファーにふんぞり返る。
「ねぇ、蓮子。これって新入生勧誘の・・・・・・」
蓮子は頷く。メリーに説明を強いられる状況下ではあるが、変に回りくどくして邪推させるのは却って面倒だ。簡潔且つ適切に、事をシンプルに纏めなければならない。そして、数秒の刻逡巡した後、蓮子は開口した。
「うん、自らその紙っぺら貼りに赴いて来た私の意見を云わせてもらうとね、ソレが勧誘促進を促すとは到底思えないんだな、これが。・・・・・・これで総てだけど、納得できないようなら十だけじゃなくて、一から十まで話すけど?」
目が点になっていたメリーは蓮子の意図を察してくれたのか、綺麗にはにかむ。メリーはもう一度紙切れを丸めるとゴミ箱目掛けて放り投げる。綺麗な曲線を描いたソレは大口開けた大穴に飲み込まれる。今度は入った。
理解力のある流石の相棒だ。宇佐見蓮子はメリーを只の部活の面子ではなく、欠ける事があってはならないパートナーとして全面的に信頼している。それはメリーも同様であった。言葉では紡げない、表現出来ない絆。彼女たちは赤い糸のようなモノで結ばれた相棒なのだ。
「どうしても、って云うなら校門前で齷齪と新入生誘ってもいいけどね、一つ問題があると思うんだ。誰が新入生だか分からないって難題がね」
ふふ、とメリーはほくそ笑む。それは蓮子の際どい冗談に対してなのか、調子が良い蓮子の態度に微笑んだものかは判別しかねたが、笑顔を蓮子に連鎖させるには十分な効力があった。安穏とした空気が流れると、安心しきった蓮子の腹の虫も鳴る。
「あ、取っていてくれた?例のアレ。今日は私が張り紙してメリーが二人分の弁当を調達する体だったもんね。私のミッションは見事に失敗に終わったが」
台詞が終わらない中にメリーはビニール袋から二人前の包みとお茶を引っ張り出す。食堂の人気メニュー、鳥そぼろウニ弁当である。大学食堂では珍しいテイクアウト式の弁当だ、昼時早々に足を運ばないと直ぐに完売してしまう人気の一品なのである。無事任務を達成したメリーの姿に蓮子は意気揚々になる。
「えぇ、無事調達したわよ。少々出遅れてしまってね、人の波に揉まれながら確保したのよ。頑張り屋な私に感謝しながら召し上がれ」
「それでこそメリーね!」
云いながら弁当にがっつく、それと同時にメリーことマエリベリー・ハーンが良く出来た相棒である事を再確認する。役目を一片の迷いなく放棄した自分とは月と鼈なメリー。穏和な性格と口調と
は裏腹に案外そつなくこなすものだ。ココは反省するのが合理的か。蓮子は彼女を見習うことにした。ちなみに奢りではない、弁当の代金は予め彼女に渡しておいた。
メリーも数寸遅れて食事に入る。思えば彼女との付き合いも短くはないのだ。蓮子は想起する。
──メリーという人物は温厚でのんびりしている人物だ。”メリー”は敬称ではあるが、徒名ではない。前述した通り、メリーの本名はマエリベリー・ハーン。宇佐見蓮子と同じく、京都の大学に在学している。その名の通り勿論異国人であるが、蓮子は彼女の出身国をご存じない。いずれ訊ねようとは思いつつ、どこか気後れして機会を逃してしまうのだ。彼女の日本語が流暢なところを考慮すると、御国にはしばらくの間帰っていないのかもしれない。それと何故蓮子が彼女を”メリー”と呼ぶのかというと、単にマエリベリーという名が蓮子にとって発音しづらいからである。相棒を呼ぶだけで噛み噛みになるなど真っ平御免だ。そこで蓮子は彼女の呼称を”メリー”とした。ついでに補足するとメリーにも蓮子のようなマカ不思議な能力がある。が、おいおいあって蓮子は彼女の異能を認めてはいない。
──蓮子はすでに半分ほど平らげた弁当を尻目に、メリーを横目でチラチと捉える。食事中は決まって上品に、行儀良く弁当を食しているメリーだが、今日は様子が違う。箸を片手に、もう片方の手では紙切れ一枚。どこか真剣な面もちで見つめながらランチを食べている。どうやら広告のようだ、横目で記事を追う。
「あらあらメリーさん、食膳でながら飯とは珍しいじゃあないの。何々・・・・・・月面旅行ォ!?」
蓮子は度肝を抜かす。その勢いでメリーの肩にもたれ掛かる形となったが、意に介することなく質問を矢継ぎ早に彼女に浴びせかける。
「ねぇねぇ、それガチもんの記事?なにか怪しい壷でも売ってそうな人からもらったんじゃないの?そもそもさ、人類、宇宙に出るだけで精一杯なのに実際に月まで旅行に行けると思う?真実、行けたとしてもさ、宇宙船の中でしばらく缶詰でしょ?私なら気が狂うね。あ、旅行代いくら?・・・・・・せ、千九百八十万!!!たっけーーーッ」
メリーの耳元で質問のシャワーを存分に浴びせる。メリーはメリーであって聖徳太子ではないという前提の上でだ。しかし、それほど常軌を逸した旅行記事でもあった。蓮子は幼子のように柄になく興奮していた、物理学専攻という立場が彼女の漠然とした浪漫を煽ったのかもしれない。
「蓮子」
「あ、はい」
メリーが重々しく口を開ける。興奮しきった蓮子を諭す、彼女の常套句だ。
「うるさい」
青天の霹靂の一喝。喚き立てる赤ん坊をあやしたか如く、部室は静寂に包まれた。
「──しっかしメリーもおめでたいねぇ、月面旅行なんてさ。机上の空論だよ。第一に宇宙進出の実績なんてこの現代においても雀の涙だしさ、観光客と偽ったモルモットなんじゃないのかね?」
皮肉る蓮子の消沈した態度と反比例してメリーは尚も目を輝かせている。彼女の脳裏では彼の宇宙でのトラベル、もとい、夢物語の寸劇が繰り広げられているのだろうか、蓮子は呆れる。彼女はやれやれ、と机上の絵空事を想像してみる。月へと向かうシャトルロケット、宇宙服をガチガチに着込んだ乗客達は窮屈そうに船内の隅に身を固めている。銀河の星々でも観察して狭苦しい乗客室の鬱屈した雰囲気を少しでも吹き飛ばそうと窓を散策するが、一向に見つからない。あー、頭おかしくなりそう。そういえば、約三百日間、人間を何人か密室に缶詰状態にして火星航行のシミュレーションしたって話があったなー、これと同じだわ。更に鬱憤は募る。
これが宇佐見蓮子の現在のヴィジョンだ。
「・・・・・・宇宙旅行が実現するかどうかは問題じゃないのよ、蓮子。ねぇ、私たちのサークルって何だったかしら?」
分かり切った事よ、蓮子は即答する。
「秘封倶楽部ね、巷では不良だのオカサーだの詰られてるけど・・・・・・それは物事の極めて側面しか観測できてないって証拠ね。・・・・・・モチのロン、実際は違う」
そう。秘封倶楽部は、そんじょそこらの肝試しがウリのオカサーとは相異なる要素を備え持つ。連中は不思議を”体験”するために模索し、行動する。つまり、彼女らとは根本的に目的が食い違うのだ。
メリーは初々しく、悠々と発音する。
「”秘封倶楽部”、それは・・・・・・不思議を”追求”するところ」
世に蔓延る不思議を”追求”し、あわよくばその身で”体現”する。
「それが”秘封倶楽部”の在り方。除霊?降霊?はッ、在り来たりすぎね、そんなのくそ食らえ」
蓮子がやや口汚く続く。台詞の半ばで彼女はメリーの意図にうっすらと勘付く。彼女、とんだ食わせ物ではないか。
”民間月面旅行”でさえも”不思議”にしてしまおうという魂胆なのだ。
──まったく、なんて慎ましくも大胆不敵なメリーなのだろう。
「公明正大な霊能活動なんて”犬に食わせてしまえ”。・・・・・・蓮子、月面旅行というのは砂上の楼閣なのか気にならない?。自分でも廉直だと思うけどね」
蓮子は押し黙る。イエスともノーとも言い難い、所詮は夢話と高を括るのも致し方なしなのではある質問である。浪漫と憧憬は時折ない交ぜになり矛盾を生む。大人という箍は想像以上に魂を縛り付けるのだ。
なにか意を決したメリーが蓮子に歩み寄り、目と目が交差する。唇が重なってしまいそうな距離、メリーは蓮子の耳元で甘美な声で囁く。それは空気中を振動して、はっきりと確実に、彼女の耳に届いた。
「・・・・・・ねぇ、あれが視える?」
メリーは蓮子の瞼の上から、瞳に人差し指を重ねる。
瞬間、蓮子の視界は暗転を始める。視界に閃光が駆る。意識は跳躍し、夢と現の境界は弾け飛んだ。次に彼女が目を開けた場所は部室などではなく、狭苦しいロケットでもなかった。
──どうやら、電車に乗っているらしい。蓮子は周りを見渡す、随分とレトロな造りの特急といったところか、室内はまるで洒落た浮世絵だ。彼女の他に乗客は見当たらない、ロンリーな旅もたまには乙だろう。渦巻き模様の瀟洒で和風な壁紙が彼女の心をレトロな旅へと誘う。腰を掛ける。二人掛けの品のある木材式の掛け椅子が腰に絶妙にフィットしている、居心地は申し分ない。電車特有の喧噪な揺れと騒音は聞こえない、究極に快適な旅。浪漫と現実がごっちゃになった世界、一言で表すならば、
”レトロ・スペクティブ”だ。蓮子は僅かに戸惑う。
「メリー・・・・・・?ねぇ、メリー!?」
呼びかけは車内に木霊するが、返事はない。何か妙だ。彼女の他には乗客は人っ子一人見当たらないが、車掌はいるのだろうか?そういえば動力源は何なのだろう、石炭か?それはあまりにレトロすぎるか。宇佐見蓮子は独り逡巡を重ねる。やがてふと、思い出したように傍らに見知った温もりを感じる。
「蓮子、お目覚めかしら?・・・・・・ねぇ、窓の外を見て」
気が付くと窓側にメリーが座している。突然の出現に驚く暇もなく、彼女に云われた通りに立ち上がり、窓より外の世界を一望する。
「わぁ・・・・・・」
常軌を逸した光景に蓮子は目を疑う、真っ白な世界だ。しかし、宇宙、広大な、壮大な銀河が今なお膨張を続けて純白の世界を埋め尽くしているではないか。深淵の拡大を必死に追いかけるように、一等星や二等星といった壮麗な星々も呼応して空を埋め尽くす。恐怖は微塵も感じない、むしろ暖かな温もりを覚えるほどだ。
宇宙ひもは解き明かされたのだろうか?人類は宇宙に無事進出出来たのだろうか?待てよ、今は西暦何年だ?色々な疑問が蓮子の脳裏を駆け巡っては好奇心を掻き立てる。彼女ははっきりと認識していたのだ、”現実”だと。
そして、銀河に架けられた天の橋をレールとし、列車は躍動する。レールの目的地には月光、真っ黒な大空に佇む惑星だ。周囲の星々も蓮子とメリーの到着を歓迎しているかのように、より一層輝きを強める。蓮子の唇につい笑みが零れ落ちる。やがて、列車は動きを止め、全機関の活動を停止する。蓮子とメリーは手を繋ぎ、月面へと第一歩を踏み出す。
「・・・・・・蓮子、世界の真髄は堪能した?」
──其れは、何時しか来たる日。
夢と科学が奇妙にも混在し、天駆ける列車が天地を貫く世界。
──其れは、境界の彼方なのかもしれない。
闇が押し寄せ、煌めく星々が黒に飲み込まれ消失し、世界は闇に閉ざされる。
──其れは、何時しか訪れるオワリ。
メリーの姿が闇に包まれる、繋いだはずの手は既に見つからない。呆然とする彼女を闇がとり囲み、やがては蓮子を浸食する。不思議と畏れはない。そして、蓮子の視界が完全に濁流に飲み込まれ、五感が完全に閉ざされてゆく最中、ひたすらシンプルに、途方もなくクリアと化した、蓮子の意識。
其れは、夜空にぽつんと佇む一輪の花を象っていた。
──彼女は知った。世界はこんなにも美しく、簡単だということを。
「もしも~し、蓮子起きなさいな~ッ。講義に遅れるわよ~ッ」
相棒の怒号に呼応し、蓮子はパチリと目を開ける。ソファーに寝っ転がっている自分に気づく、いつの間にやら寝てしまったようだ。弁当は完食したらしく、胃袋の調子も申し分ない。次の講義は何だったかなぁ、と蓮子は大きな欠伸をしつつ立ち上がる。夢を視ていたようだが、肝心の内容は思い出せない。
「おはよう、なんだか変な夢を視たような気がするよ・・・・・・案の定思い出せんが。・・・・・・獏にでも喰われたかな?」
ふふっ、と意味在りげにメリーは微笑む。瞬間、けたたましい昼の目覚めと彼女の穏やかな笑みが同調する、気ぶんはサイコーに晴れやかだ。不純物に塗れる脳内を払拭した彼女。そしてふと、蓮子は部室の時計を見やった。
「あッ、やべぇ!五分後に三限目始まるじゃん・・・・・・駆け足!」
「あ、待ってよ、蓮子!」
云うが早く、荷物を担ぎ部室を飛び出す蓮子、後に続くメリーの姿。向かうは発達心理学の講義場所だ。遅刻するかもしれない、バツの悪さに蓮子は居眠りできる席の確保を諦めた。そして、彼女は後方を確認し、メリーが数メートル後に続いていることを認めた。
「私の方が速い・・・・・・!ええい、競争だァー!」
「え!?ちょっと待ってったら、蓮子ー!」
外に飛び出し、教室へと一目散に急ぐ。のんびりと歩いている学生達が何事かと彼女達の方を振り向く。端から観察すると奇妙なのだろう。なにせ、二人の女学生が絶妙な掛け合いを繰り広げながら走り去ってゆくのだから。
追随したメリーが蓮子と並ぶ。競争が主旨に変化しているのか、もはや遅刻など何処吹く風だ。息を切らせつつ相方と接触するのだ。
「もうちょい早く起こしてよ~メリーってばー。木曜昼の三限はおない講義取ってんだからさ~!」
「起こしても起きない蓮子に云われたくなーい!むにゃむにゃ、あと五分・・・・・・を十回は続けてたんだからねー!?」
「続けてなーい!!!」
「続けてたー!!!」
爆走する少女達。秘封倶楽部の世界は今なお広がる。始まりは始まる、終焉が始まるまで、時を紡ぎ続けるのだ。不思議の観測、不思議の探索、彼女たちを待ち受けるは世界の隅に忘れ去られた残滓。
秘封倶楽部。胎動し、呼応するは世界の意志。理を享受するは探求者。
──それは、まるで、旅立ちの初列車。
じっくりと見比べた結果、A4サイズの紙にマジックででかでかと”秘封倶楽部!新入部員募集中☆”と書かれているだけのソレはあまりにもこの掲示板には場違いだという結論に至った。やれやれ、と蓮子は重苦しい溜め息をつく。
「一言で云うとやる気がないんだよなぁ、わたしゃ」
そう云いながら後ろを振り返る。そういえば今は昼時であった、それなりに学生が我が者顔で闊歩している。注視してみれば、どいつもこいつも
流行のファッションに身を固め、髪は大学生特有の茶髪だ。見れば化粧までしている女子大生もいるではないか。宇佐見蓮子は盛大に呆れる。
「どいつもこいつも洒落た格好しちゃってなぁ・・・・・・大学デビュー失敗がよほど恐ろしいのだね。私はインディーズレベルで十分ですわ」
蓮子という人物は病的なまでに外観に興味を持たない。彼女にしてみれば所詮はお飾り、綺麗に固められただけの風体など、自己のアイデンティティに自信を確立できない人間が好むだけだという持論。心理学者でも、ファッション雑誌の批評家でもない彼女は脳内で反芻する。宇佐見蓮子という人物には専攻している物理学が性に合っているのだ。自然界の現象と性質は嘘をつくことを知らないからである。
そういう彼女の容姿は至って簡素なものだ。良くてボーイッシュ、悪くて適当といったところか。白のワイシャツに黒のロングスカートのツートンカラー、ネクタイは気分で着用、今日はしていない。そうそう、トレードマークの黒い中折れ帽を忘れるところだった。いくつかの帽子の違いはリボンの有無のみくらいではあるが、彼女はそれらをひどくお気に召していた。
──といった白黒のシンプルな服装が彼女の常だ。三百六十五日、これ以上でもこれ以下の服装は披露されない。交友関係、大学内の同期達とは蚊帳の外までではないが、割と浮いている方なのかもしれない。自覚はあるのだ。もしかすると、彼女は意図的にこういった境遇を選んでいるのかもしれない。蓮子は大きな欠伸をする。
だが、宇佐見蓮子には偉大な、赤の他人が到底真似できない”特技”があった。
「うーん・・・・・」
現在何時何分だろうと、蓮子は天を仰ぐ。雲一つ見当たらない快晴だ。しかし、今は”見当たらない”。相棒は役目を全う出来たのだろうか。蓮子は頭を垂れる。仕方なく、腕時計で時間を確認する。
「ダメねー・・・・・・昼間でも見える時はあるんだけどー、今日は見えんねー。・・・・・・視力落ちたかな?」
飄々と独り言を垂れる彼女はもはやサークルの勧誘などどうでもよかれといった様子で歩を進める。部員二名、予算カツカツ、ついでに部室は廃部となったオクラ研究部の研究室を間借りしている。巷ではうだつの上がらない不良サークルやら、気味が悪い頓珍漢なオカルトサークルとさえ呟かれているあそこ。実際にはそれらは強ち間違いではないのかもしれないが、主旨は頓珍漢でも奇天烈でもない。単純明快かつ真っ当である。唯、不思議を探索することだ。
そう、目的地はずばり”秘封倶楽部”だ。
「──あら、蓮子。お早いお帰り」
ただいま、とメリーに素っ気なく返す蓮子。ついでに勧誘チラシをくしゃくしゃに丸めて部室のゴミ箱に放り入れるが、見当違いの方向に飛んでいった。うん、入らない。メリーは咄嗟にブロンドのロングヘアーと紫色のスカートをはためかせながら紙屑に駆け寄る。蓮子はというと、素知らぬ顔で口笛を吹きながら悠々とソファーにふんぞり返る。
「ねぇ、蓮子。これって新入生勧誘の・・・・・・」
蓮子は頷く。メリーに説明を強いられる状況下ではあるが、変に回りくどくして邪推させるのは却って面倒だ。簡潔且つ適切に、事をシンプルに纏めなければならない。そして、数秒の刻逡巡した後、蓮子は開口した。
「うん、自らその紙っぺら貼りに赴いて来た私の意見を云わせてもらうとね、ソレが勧誘促進を促すとは到底思えないんだな、これが。・・・・・・これで総てだけど、納得できないようなら十だけじゃなくて、一から十まで話すけど?」
目が点になっていたメリーは蓮子の意図を察してくれたのか、綺麗にはにかむ。メリーはもう一度紙切れを丸めるとゴミ箱目掛けて放り投げる。綺麗な曲線を描いたソレは大口開けた大穴に飲み込まれる。今度は入った。
理解力のある流石の相棒だ。宇佐見蓮子はメリーを只の部活の面子ではなく、欠ける事があってはならないパートナーとして全面的に信頼している。それはメリーも同様であった。言葉では紡げない、表現出来ない絆。彼女たちは赤い糸のようなモノで結ばれた相棒なのだ。
「どうしても、って云うなら校門前で齷齪と新入生誘ってもいいけどね、一つ問題があると思うんだ。誰が新入生だか分からないって難題がね」
ふふ、とメリーはほくそ笑む。それは蓮子の際どい冗談に対してなのか、調子が良い蓮子の態度に微笑んだものかは判別しかねたが、笑顔を蓮子に連鎖させるには十分な効力があった。安穏とした空気が流れると、安心しきった蓮子の腹の虫も鳴る。
「あ、取っていてくれた?例のアレ。今日は私が張り紙してメリーが二人分の弁当を調達する体だったもんね。私のミッションは見事に失敗に終わったが」
台詞が終わらない中にメリーはビニール袋から二人前の包みとお茶を引っ張り出す。食堂の人気メニュー、鳥そぼろウニ弁当である。大学食堂では珍しいテイクアウト式の弁当だ、昼時早々に足を運ばないと直ぐに完売してしまう人気の一品なのである。無事任務を達成したメリーの姿に蓮子は意気揚々になる。
「えぇ、無事調達したわよ。少々出遅れてしまってね、人の波に揉まれながら確保したのよ。頑張り屋な私に感謝しながら召し上がれ」
「それでこそメリーね!」
云いながら弁当にがっつく、それと同時にメリーことマエリベリー・ハーンが良く出来た相棒である事を再確認する。役目を一片の迷いなく放棄した自分とは月と鼈なメリー。穏和な性格と口調と
は裏腹に案外そつなくこなすものだ。ココは反省するのが合理的か。蓮子は彼女を見習うことにした。ちなみに奢りではない、弁当の代金は予め彼女に渡しておいた。
メリーも数寸遅れて食事に入る。思えば彼女との付き合いも短くはないのだ。蓮子は想起する。
──メリーという人物は温厚でのんびりしている人物だ。”メリー”は敬称ではあるが、徒名ではない。前述した通り、メリーの本名はマエリベリー・ハーン。宇佐見蓮子と同じく、京都の大学に在学している。その名の通り勿論異国人であるが、蓮子は彼女の出身国をご存じない。いずれ訊ねようとは思いつつ、どこか気後れして機会を逃してしまうのだ。彼女の日本語が流暢なところを考慮すると、御国にはしばらくの間帰っていないのかもしれない。それと何故蓮子が彼女を”メリー”と呼ぶのかというと、単にマエリベリーという名が蓮子にとって発音しづらいからである。相棒を呼ぶだけで噛み噛みになるなど真っ平御免だ。そこで蓮子は彼女の呼称を”メリー”とした。ついでに補足するとメリーにも蓮子のようなマカ不思議な能力がある。が、おいおいあって蓮子は彼女の異能を認めてはいない。
──蓮子はすでに半分ほど平らげた弁当を尻目に、メリーを横目でチラチと捉える。食事中は決まって上品に、行儀良く弁当を食しているメリーだが、今日は様子が違う。箸を片手に、もう片方の手では紙切れ一枚。どこか真剣な面もちで見つめながらランチを食べている。どうやら広告のようだ、横目で記事を追う。
「あらあらメリーさん、食膳でながら飯とは珍しいじゃあないの。何々・・・・・・月面旅行ォ!?」
蓮子は度肝を抜かす。その勢いでメリーの肩にもたれ掛かる形となったが、意に介することなく質問を矢継ぎ早に彼女に浴びせかける。
「ねぇねぇ、それガチもんの記事?なにか怪しい壷でも売ってそうな人からもらったんじゃないの?そもそもさ、人類、宇宙に出るだけで精一杯なのに実際に月まで旅行に行けると思う?真実、行けたとしてもさ、宇宙船の中でしばらく缶詰でしょ?私なら気が狂うね。あ、旅行代いくら?・・・・・・せ、千九百八十万!!!たっけーーーッ」
メリーの耳元で質問のシャワーを存分に浴びせる。メリーはメリーであって聖徳太子ではないという前提の上でだ。しかし、それほど常軌を逸した旅行記事でもあった。蓮子は幼子のように柄になく興奮していた、物理学専攻という立場が彼女の漠然とした浪漫を煽ったのかもしれない。
「蓮子」
「あ、はい」
メリーが重々しく口を開ける。興奮しきった蓮子を諭す、彼女の常套句だ。
「うるさい」
青天の霹靂の一喝。喚き立てる赤ん坊をあやしたか如く、部室は静寂に包まれた。
「──しっかしメリーもおめでたいねぇ、月面旅行なんてさ。机上の空論だよ。第一に宇宙進出の実績なんてこの現代においても雀の涙だしさ、観光客と偽ったモルモットなんじゃないのかね?」
皮肉る蓮子の消沈した態度と反比例してメリーは尚も目を輝かせている。彼女の脳裏では彼の宇宙でのトラベル、もとい、夢物語の寸劇が繰り広げられているのだろうか、蓮子は呆れる。彼女はやれやれ、と机上の絵空事を想像してみる。月へと向かうシャトルロケット、宇宙服をガチガチに着込んだ乗客達は窮屈そうに船内の隅に身を固めている。銀河の星々でも観察して狭苦しい乗客室の鬱屈した雰囲気を少しでも吹き飛ばそうと窓を散策するが、一向に見つからない。あー、頭おかしくなりそう。そういえば、約三百日間、人間を何人か密室に缶詰状態にして火星航行のシミュレーションしたって話があったなー、これと同じだわ。更に鬱憤は募る。
これが宇佐見蓮子の現在のヴィジョンだ。
「・・・・・・宇宙旅行が実現するかどうかは問題じゃないのよ、蓮子。ねぇ、私たちのサークルって何だったかしら?」
分かり切った事よ、蓮子は即答する。
「秘封倶楽部ね、巷では不良だのオカサーだの詰られてるけど・・・・・・それは物事の極めて側面しか観測できてないって証拠ね。・・・・・・モチのロン、実際は違う」
そう。秘封倶楽部は、そんじょそこらの肝試しがウリのオカサーとは相異なる要素を備え持つ。連中は不思議を”体験”するために模索し、行動する。つまり、彼女らとは根本的に目的が食い違うのだ。
メリーは初々しく、悠々と発音する。
「”秘封倶楽部”、それは・・・・・・不思議を”追求”するところ」
世に蔓延る不思議を”追求”し、あわよくばその身で”体現”する。
「それが”秘封倶楽部”の在り方。除霊?降霊?はッ、在り来たりすぎね、そんなのくそ食らえ」
蓮子がやや口汚く続く。台詞の半ばで彼女はメリーの意図にうっすらと勘付く。彼女、とんだ食わせ物ではないか。
”民間月面旅行”でさえも”不思議”にしてしまおうという魂胆なのだ。
──まったく、なんて慎ましくも大胆不敵なメリーなのだろう。
「公明正大な霊能活動なんて”犬に食わせてしまえ”。・・・・・・蓮子、月面旅行というのは砂上の楼閣なのか気にならない?。自分でも廉直だと思うけどね」
蓮子は押し黙る。イエスともノーとも言い難い、所詮は夢話と高を括るのも致し方なしなのではある質問である。浪漫と憧憬は時折ない交ぜになり矛盾を生む。大人という箍は想像以上に魂を縛り付けるのだ。
なにか意を決したメリーが蓮子に歩み寄り、目と目が交差する。唇が重なってしまいそうな距離、メリーは蓮子の耳元で甘美な声で囁く。それは空気中を振動して、はっきりと確実に、彼女の耳に届いた。
「・・・・・・ねぇ、あれが視える?」
メリーは蓮子の瞼の上から、瞳に人差し指を重ねる。
瞬間、蓮子の視界は暗転を始める。視界に閃光が駆る。意識は跳躍し、夢と現の境界は弾け飛んだ。次に彼女が目を開けた場所は部室などではなく、狭苦しいロケットでもなかった。
──どうやら、電車に乗っているらしい。蓮子は周りを見渡す、随分とレトロな造りの特急といったところか、室内はまるで洒落た浮世絵だ。彼女の他に乗客は見当たらない、ロンリーな旅もたまには乙だろう。渦巻き模様の瀟洒で和風な壁紙が彼女の心をレトロな旅へと誘う。腰を掛ける。二人掛けの品のある木材式の掛け椅子が腰に絶妙にフィットしている、居心地は申し分ない。電車特有の喧噪な揺れと騒音は聞こえない、究極に快適な旅。浪漫と現実がごっちゃになった世界、一言で表すならば、
”レトロ・スペクティブ”だ。蓮子は僅かに戸惑う。
「メリー・・・・・・?ねぇ、メリー!?」
呼びかけは車内に木霊するが、返事はない。何か妙だ。彼女の他には乗客は人っ子一人見当たらないが、車掌はいるのだろうか?そういえば動力源は何なのだろう、石炭か?それはあまりにレトロすぎるか。宇佐見蓮子は独り逡巡を重ねる。やがてふと、思い出したように傍らに見知った温もりを感じる。
「蓮子、お目覚めかしら?・・・・・・ねぇ、窓の外を見て」
気が付くと窓側にメリーが座している。突然の出現に驚く暇もなく、彼女に云われた通りに立ち上がり、窓より外の世界を一望する。
「わぁ・・・・・・」
常軌を逸した光景に蓮子は目を疑う、真っ白な世界だ。しかし、宇宙、広大な、壮大な銀河が今なお膨張を続けて純白の世界を埋め尽くしているではないか。深淵の拡大を必死に追いかけるように、一等星や二等星といった壮麗な星々も呼応して空を埋め尽くす。恐怖は微塵も感じない、むしろ暖かな温もりを覚えるほどだ。
宇宙ひもは解き明かされたのだろうか?人類は宇宙に無事進出出来たのだろうか?待てよ、今は西暦何年だ?色々な疑問が蓮子の脳裏を駆け巡っては好奇心を掻き立てる。彼女ははっきりと認識していたのだ、”現実”だと。
そして、銀河に架けられた天の橋をレールとし、列車は躍動する。レールの目的地には月光、真っ黒な大空に佇む惑星だ。周囲の星々も蓮子とメリーの到着を歓迎しているかのように、より一層輝きを強める。蓮子の唇につい笑みが零れ落ちる。やがて、列車は動きを止め、全機関の活動を停止する。蓮子とメリーは手を繋ぎ、月面へと第一歩を踏み出す。
「・・・・・・蓮子、世界の真髄は堪能した?」
──其れは、何時しか来たる日。
夢と科学が奇妙にも混在し、天駆ける列車が天地を貫く世界。
──其れは、境界の彼方なのかもしれない。
闇が押し寄せ、煌めく星々が黒に飲み込まれ消失し、世界は闇に閉ざされる。
──其れは、何時しか訪れるオワリ。
メリーの姿が闇に包まれる、繋いだはずの手は既に見つからない。呆然とする彼女を闇がとり囲み、やがては蓮子を浸食する。不思議と畏れはない。そして、蓮子の視界が完全に濁流に飲み込まれ、五感が完全に閉ざされてゆく最中、ひたすらシンプルに、途方もなくクリアと化した、蓮子の意識。
其れは、夜空にぽつんと佇む一輪の花を象っていた。
──彼女は知った。世界はこんなにも美しく、簡単だということを。
「もしも~し、蓮子起きなさいな~ッ。講義に遅れるわよ~ッ」
相棒の怒号に呼応し、蓮子はパチリと目を開ける。ソファーに寝っ転がっている自分に気づく、いつの間にやら寝てしまったようだ。弁当は完食したらしく、胃袋の調子も申し分ない。次の講義は何だったかなぁ、と蓮子は大きな欠伸をしつつ立ち上がる。夢を視ていたようだが、肝心の内容は思い出せない。
「おはよう、なんだか変な夢を視たような気がするよ・・・・・・案の定思い出せんが。・・・・・・獏にでも喰われたかな?」
ふふっ、と意味在りげにメリーは微笑む。瞬間、けたたましい昼の目覚めと彼女の穏やかな笑みが同調する、気ぶんはサイコーに晴れやかだ。不純物に塗れる脳内を払拭した彼女。そしてふと、蓮子は部室の時計を見やった。
「あッ、やべぇ!五分後に三限目始まるじゃん・・・・・・駆け足!」
「あ、待ってよ、蓮子!」
云うが早く、荷物を担ぎ部室を飛び出す蓮子、後に続くメリーの姿。向かうは発達心理学の講義場所だ。遅刻するかもしれない、バツの悪さに蓮子は居眠りできる席の確保を諦めた。そして、彼女は後方を確認し、メリーが数メートル後に続いていることを認めた。
「私の方が速い・・・・・・!ええい、競争だァー!」
「え!?ちょっと待ってったら、蓮子ー!」
外に飛び出し、教室へと一目散に急ぐ。のんびりと歩いている学生達が何事かと彼女達の方を振り向く。端から観察すると奇妙なのだろう。なにせ、二人の女学生が絶妙な掛け合いを繰り広げながら走り去ってゆくのだから。
追随したメリーが蓮子と並ぶ。競争が主旨に変化しているのか、もはや遅刻など何処吹く風だ。息を切らせつつ相方と接触するのだ。
「もうちょい早く起こしてよ~メリーってばー。木曜昼の三限はおない講義取ってんだからさ~!」
「起こしても起きない蓮子に云われたくなーい!むにゃむにゃ、あと五分・・・・・・を十回は続けてたんだからねー!?」
「続けてなーい!!!」
「続けてたー!!!」
爆走する少女達。秘封倶楽部の世界は今なお広がる。始まりは始まる、終焉が始まるまで、時を紡ぎ続けるのだ。不思議の観測、不思議の探索、彼女たちを待ち受けるは世界の隅に忘れ去られた残滓。
秘封倶楽部。胎動し、呼応するは世界の意志。理を享受するは探求者。
──それは、まるで、旅立ちの初列車。