Coolier - 新生・東方創想話

村人が心綺楼異変を語った。

2014/01/02 18:47:23
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題名まんまです。






どうも、いらっしゃいませ。あっしは幻想郷の人里でしがない喫茶店のマスターをしている者です。お飲み物は何になさいます?珈琲から酒まで何でも出ますよ。あ、抹茶ですね、分かりました。少々お待ちくだせぇ。
客の入りはどうかって?まあまあですよ。人妖問わずポツポツとお客さんは来ますねぇ。妖怪がくるのかって?まあ、人里の中ですから、あからさまに妖怪でござい、って見た目をした輩は来ないですけど、例えば霧雨さんとこのお嬢さんのお友達の妖怪だとか、人型をした連中はしれっとやって来ては珈琲なんかをすすっていたりしますねぇ。妖怪というのはぱっと見で分かりますよ。人間とは顔の造りがまるきり違うんですから。何でしょうねぇ、同じように目があって鼻があって口があって、でも頬骨の角度だとか彫りの形が微妙に、明らかに違うんですよねぇ。大物ですか?そうそう、大物といえばあの八雲紫が来たこともあるんですよ。濃い化粧と派手な衣装の似合う、きれいな女でしたがね、それはもう心底驚きましたよ。そんなに怖がらなくていいのにとか笑われましたがね、この前も妖怪の赤ん坊にちょっかいをだした近所のイタズラ坊主が食料にされてましたからね。生きた心地がしないというもんですよ。
はい、お茶入りました。茶菓は練りきりです。
え、心綺楼異変ですか?懐かしいですねぇ。いいですよ。お話しやしょう。



その頃明らかに人里の様子はおかしかったですねぇ。至るところで乱闘騒ぎ。昼間っから酒を飲んで物は壊すわ女に乱暴は働くわ。路地裏の薄汚い小僧は平気で物を盗むし、なんでしょうね、何かもがどうでもいいみたいなそんな感じでしたよ。いつもはそういうことするのは一部の荒くれ者だけだったんですがねぇ。そういう連中は村八分にされてつまみ出されて妖怪の餌になったもんです。ところがそのときは里全体がその有様。生きてるのも厭んなるちゅうもんですよ。あ、あっしですか?あっしは昔っからひねくれもんでねぇ、みんなが盛り上がってるとシラけちまうたちなんですわ。だからこんな仕事やってるんですがね。人様が話してるのを傍らでじっと聞いてる方が性に合ってるっちゅう訳です。まあ、そんなだからあっしは比較的落ち着いてましたよ。いつもどおり淡々と珈琲豆を挽いて。とはいってもやっぱりちょっとは気になってたんです。こんな末法の世じゃ誰もうちみたいな落ち着いた店には来ませんしね。それで外の様子が一段と騒がしくなったところであっしも様子を見にいってみることにしました。
そこは里の中でも一番賑わっている界隈でしたねぇ。酒場が軒を連ねて普段でもやかましい所でしたが、その時ほどじゃあないです。なんでもここ数日あちこちで幻想少女達の戦いが繰り広げられてるのだそうで。気が立ってるのはあっしらだけじゃなかったんですねぇ。普段なら舌戦で済むような小競り合いでもすぐに弾幕勝負になっちまうようです。みんなこれは良い余興を見つけたとばかりに観戦に興じてました。賭けも盛んなようで、皆応援するものには声援を、相手には野次を飛ばしているようです。負けて撃墜された側に狼藉をはたらく者?流石にいませんね。相手は化けもんみたいな連中ですよ。殺されますって。おや、人外の幻想少女どもの姿もここかしこに見られますねぇ。こんな街中だというのに。ひいぃ、あそこにいるのは鬼じゃあないですか。鬼のいるすぐそばで暢気に酒盛りだなんて普段だったら絶対考えられませんわ。
通りのど真ん中ではちょうど幻想少女が二人、戦っているところでした。あれは命蓮寺の僧正様と仙界の道士様か。何でも今回の一番の見物だそうで。今回?つうことはやっぱりこれは異変なんかね。気が大きくなる異変、といったところかい?僧正様が姿が霞む程のスピードで道士様に襲いかかります。道士様は反応が遅れたのか、壁際に追いつめられてタコ殴りにされていました。僧正様を応援する者から大歓声が上がります。壁ですか?八雲の大妖怪が設置した箱状の結界のことです。何でも戦いたい者はその中で行うことになっているのだそうで。あり難いですねぇ。あんな戦い街中でされちゃあ建物は壊れるし死人がでますよ。当の幻想少女の方はダメージを喰らう度に壁にたたきつけられて随分と痛そうですがね。あっしの隣に座っていた嗜虐趣味のある男は、それを見てしきりに「良きかな良きかな。」とつぶやいていましたが、あんたは一度竹林のお医者様に頭を診てもらうのがよかろうよ。ほら、あそこにいらっしゃるから。まあそれにしても、戦いを見物、というのもなかなかいいもんですねぇ。だってほら、彼女達上空で戦ってるでしょう?…いえ、なんでもないですわ。こういうお宝はそっと胸の中にしまっておくもんですよねぇ。
え、あの二人だったらどっちが好みかって?うーん、僧正様は若い衆に人気ですねぇ。危険だから止せばいいのに、僧正様会いたさに妖怪だらけの読経ライブに行って毎回一人か二人は帰ってきませんよ。あっしは道士様の方が好きかなぁ。これでも若い頃は随分女で痛い目あいましてねぇ。熟れた女というのはどうにも苦手なんですわ。それよか可憐な少女といった風体の道士様の方がなんぼかグッときますね。お顔もあっしの好みですし。ちょっと小生意気そうな顔の女が好きなんですわ。はっ、あの道士様、欲の声を聞くんでしたっけ?しまった。これでは筒抜けじゃあないですか。迂闊にこんなことを考えてしまうとはやっぱりあっしも異変の影響を受けてるんですかねぇ。あ、道士様があっしらの方を見ました。ほくそ笑んでいますね。いえ、上空にいますからはっきり見えたわけじゃないですけど確かにニカリと笑いましたよ。おお、とどよめきが上がりました。道士様が高笑いする間に外套がみるみる赤に変わって金色の光を帯びていきます。剣をすらりと抜き放って切っ先をまっすぐ僧正様に向け―――そこであっしは急いで目をつぶりました。嫌な予感がしたんです。思ったとおり、閉じた目蓋の向こう側では金色の光が炸裂しました。目を閉じていなかったらしばらくの間目がやられていたことでしょうね。危ない危ない。光はごうごうと僧正様を包み込み、びりびりと怖いほどに結界を震わします。その振動がこちらにも伝わってきて、酒場の酒瓶をガタガタ揺らしました。それが止むと、あっしは恐る恐る目を開けました。どうやら道士様の勝ちのようです。「人心の掌握は得意分野である。」と道士様は僧正様に言いましたが、ええ、確かに。道士様はあの後あっしらの話に耳を傾けて一人一人アドバイスをくれましたが、そのなんと的確なこと。聞いてるだけで今までぐじぐじ悩んでたのが馬鹿らしくなっちまう。みんなすっかり憑き物がとれたような顔をしてねぇ。あっしですか?あっしは道士様のお顔を間近で拝見できたんでそれだけで大満足でしたよ。いやぁ、可愛かった。ごちそうさん。
そんでその夜は大宴会です。みんなの希望が戻ってきて異変はひと段落だっちゅうんで。酒場の二階のふすまを全部取っ払っちまって、里の連中がみんな集って大騒ぎです。あっしもかなり飲みましたよ。酒場の親父が気前よく上物の酒をぽんぽんだしてねぇ。これが美味いこと美味いこと。猟師の若い衆が、天狗から譲ってもらったっちゅう鹿の肉を振舞ったんだけどこいつも美味かったなぁ。やっぱり妖怪が採った獲物は一味違いますわ。いっつも山に入る猟師の連中は妖怪とうまく付き合うのが里で一番うまくってねぇ。大したもんですわ。
酒の肴に話すことといえば異変のことでもちきりです。ちっこい仙人がフィールドを火の海にしただの、命蓮寺んとこの雲山の親父さんが存外ぶきっちょで面白かっただの、河童にボラれたんで文句を言ったら尻にスパナをぶち込まれただの。
宴は夜更けを過ぎても続きました。その頃になるとあっしは少し疲れてきてねぇ。だんだんシラけてきちまったんです。ええ、あっしの悪いところですわ。そんであっしは杯にちょっぴり酒を注ぐと、宴の中心から抜け出して窓際に行き、窓を開けて縁側に出ました。昼間に鬼が座ってたところです。どっこらしょと座りこんで手すりに寄りかかると、夜風があっしの体をするりと撫でていきました。ずっとむんむん熱気が立ち込める部屋の中にいましたから気持ち良かったですねぇ。空を見上げたなれば、その宵の月はわずかな霞が美しくかかって、そのふちがぼうと銀色に光っていました。あっしは夜空にこんこんと澄み輝くそれに魅入りながら、杯に落ちた月をすすります。じわり、と温かいもので視界が滲むほど、幸せでした。月を見ながら酒を飲むだけで、あっしがそこにそうして生きている意味が十分満たされたからです。
ゆったりと穏やかな時間は過ぎてゆき、時刻は丑三つ時になりました。そのとき、あっしはふと、異変に気が付きました。酒の味が、しない。というより、飲んでも何も感じない。杯の中に入っているのは米と麹と水を混ぜただけの液体でした。あっしはこれでも飲食店の経営者です。その当の自分が不味いもんなんぞ口にできるか、という矜持がありますから、酒の味も分からなくなるほどべべれけに酔ったりはしないはずなのに、と不思議に思いましたねぇ。月を見ても同じことです。そこにあるのはただ、高度38万4千キロに浮かぶ岩石の塊でした。辺りは妙に静かです。さっきまで宴たけなわであんなに騒がしかったのに。みんな一体どうしちまったんだ?
ふいに一際強い夜風が吹き抜けて、あっしが出てきたので空いていた窓をガタガタ言わせながら部屋に入って行き、ランタンや行灯など、明かりと言う明かりを掻き消してまわりました。代わりに月の光が降り注いでくっきりとあっしらを照らします。そのときのあっしに感情があれば、暗闇に沈んだ窓硝子に映った自分の姿を見てさぞかしギョッとしたことでしょうねぇ。それは人間にできる表情じゃありませんでした。あっしは親戚の葬式になんどか立ち会った事がありますから、死に顔というものは見たことがありますが、あれだってこれほど無表情じゃねえでしょう。のっぺりとした、それこそ能面のような。顔を動かそうにもピクリとも動きません。そりゃあそうです。感情がないから表情を動かしようがない。だから感情がない。部屋の中をうかがうと、どうやらみんなも同じなようです。あっしらは呆然とお互いの顔を見つめました。
その時、ざり、とその不気味な静寂を割くように、外で道の砂利を踏む音が聞こえました。続いて何やらぼそりと呟く声。あっしらはそっと息を殺して下に降りていき、外の様子をうかがいました。往来の真ん中に突っ立っていたのは昼間の道士様です。道士様はあっしらの様子をちらと一瞥して、「なんと…決闘を見て一喜一憂する昼の里と同じ場所とは思えぬ。」ぞっとしたように言いました。目をスッと細め、眉を寄せて用心深くあたりを見回します。突如、暗闇の中に青い炎が揺らめきました。一瞬メラメラと屋根を越える高さまで燃え上がり、人の背の高さぐらいに落ち着くとその中から人が現れました。妖怪、でしょうかねぇ。初めて見る顔です。その顔はあっしらと同じ、石を穿って作ったような無表情でした。「そのお面には……見覚えがあるぞ」妖怪を見て道士様が言いました。目がギラリと、青い炎に照らされて光ります。そう、鬼火のようにちろちろと輝くあれは、面でした。喜怒哀楽驚狂悲欲憧憎恥困虚妬恨怨愛優幸焦絶祈……。のっぺりとそれぞれの表情に凍りついたまま、浮かんでいます。ぼうと揺らぐ炎が、道や建物にゆらゆらと濃い影を落としました。後から思い返しても恐ろしい光景です。ああ、これがこの世の終わりかと思いましたねぇ。青い炎と金色の光がぶつかりあって美しく爆ぜるのを、あっしらは無感情に見つめていました。



うん、こんな感じですか。すいませんね長々と話しちゃって。あの異変は結構あっしの中では印象に残ってるんですよ。賑やかで楽しかったし身近で幻想少女の戦いがたくさん見れるいい機会だったし。いやぁ、あれは惚れ惚れするほど美しいもんです。ほんと幻想郷に生まれてよかったって思いますねぇ。え、外の世界ですか?そうですね噂は聞きますよ。なんでも夢のように便利なんだとか。でもやっぱりあっしはこっちの方がいいかなぁ。いつ妖怪に喰われるか分かんねぇようなトコですけども。




(おしまい)
俺がマスターだ。
♪幻想郷(天国)いいトコ一度はおいで~♪


読んでくださって有難うございました。
甘樫アカネコ
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コメント



0.660簡易評価
7.100名前が無い程度の能力削除
ふむ
…これは怖い幻想郷ですねえ、でも、美しくて、華麗で、どろどろしてて。
お酒の肴に化け物を食べちゃうようなそんな世界なような気がします
つーか神子さまかっくええな!バケモンか!ごちそうさまでした!
10.100名前が無い程度の能力削除
俺もひじりんより太子派だ、マスターとは旨い酒が飲めるな
11.90奇声を発する程度の能力削除
おお、これはこれは…
14.90名前が無い程度の能力削除
いいっすなぁ
本当に聞いてる感じがした
17.80名前が無い程度の能力削除
弾幕の代わりに組織や派閥が火花を散らし、愛憎渦巻く人間関係の物語が外の世界でウケることを考えれば、どちらを好むかはただただ生まれ育った地で身に着ける価値観によるもの、だということなのでしょう。
21.90名前が無い程度の能力削除
こっちの世界じゃどこ探したって幻想少女程美しい女性には会えないよね。アニメとかには匹敵する者も居るけどそれもまた幻想少女だよなあ。
25.100名前が無い程度の能力削除
こんな語り口調は好きです。