Coolier - 新生・東方創想話

ほら、ね?

2014/01/02 05:50:36
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 正邪はくるくる回ってる。
「なぜ、生きようとしないの?」
 そう聞いた子供は食われて死んだ。彼女にはその言葉の意味がわからなかったから。

 くるくる、くるくる、生きようともしない彼女は回ってく。
「あの子供が言ったのは、あんたが意味も無く流れに逆らうことさ。何の信念も無いのに突っぱねるからさ。それは現実から目を背けて逃げているだけなんだよ」
 そう言った老人は空高く連れてかれた。戻ってくることは無い旅に連れてかれた。

 正邪は理解されないことに腹を立てたりしなかった。だって誰も信じていないから。
 くうる、くうる。くうる、くうる。
 回っていく。彼女は何もわかっちゃいないし、わかりたくなんか無かった。

「あなたはいつまでそうしているの? もういいかげんに許したら?」
 針妙丸が言った。正邪は何を許すのと聞いた。
「あなた自身を。それから……この世のあり方というものを」
 クーデターという名の遊びが失敗に終わった直後だった。正邪はたださよならと言った。

 風の噂に小人が巫女と和解したと聞いた。それが何か彼女を変えることは無かったけれど、これで良かったんだろうと思った。

 くるくる、ふふふ。
 くるくる、ふふふ。
 彼女は少しの間、仲間だったあの子のために嬉しい気持ちになってあげた。決して友達では無かったけれど。

それから、自分の役割であるかのように辛い気持ちになった。義務のように、縛る鎖のように、絶対のように、けれどあやふやなような、彼女を包む本性は彼女自身理解してなかった。

「山に人が住んでる」
「うそ」
「ほんとだよ。行って食べてきなよ」
「あなたは?」
「私はねえ、お腹いっぱい」

「もうすぐ妖怪が来るよ、あなたを食べに来る」
「うそさ」
「ほんとだよ、早く里に逃げなよ」
「あなたは、私を食べないの?」
「私はねえ、お腹いっぱい」

 正邪はくるくる回ってる。それしかすることが無いようにみえるでしょう。でも、彼女は頭の中に色んなことを描いてる。
 楽しいことや、楽しいだろうと思うこと。いつかやってみたいことや、まだ見たこともないような、きらきらした輝きが頭の中に詰まってる。
 でも……
 でも、彼女はいつだってその反対に向かって流されてく。

「おまえを殺すよ」
「なぜ?」
「咲夜から聞いたの。おまえ、クーデターを起こそうとしたんだろう?」
「うん。でもそんなの私の勝手でしょ? あなただって昔異変を起こしたくせに」
「私はねえ、より幻想的に生きようとしただけよ。おまえは生きたくないから幻想を崩そうとしたんでしょう」

 正邪にはこの吸血鬼が神々しくみえた。なんて優しい目をしてるんだろうと。

「苦しまないでいいようにもう殺してあげるよ」

 正邪は逃げた。頭の中の宝石箱に、優しく、暖かく、眠るように死んでゆく自分を描いた絵が増えることになった。

 雨が降ってる。
「冷たくなんか無いよ」
 夜は暗い。
「寂しくなんか無いよ」
 自分からすら逃げなきゃならない。
「逃げてなんか無いよ」

 意味も無く、意義も無く、彼女はくるくる回ってる。
「愛ってなあに? 幸せってなあに?」
 小さな女の子が正邪に聞いた。彼女は何も言わないで少女から逃げてった。

 愛ってなあに? 幸せってなあに?
 愛ってなあに? 幸せってなあに?

 吸血鬼は追ってこない。彼女を追うものなんて、本当は何も無い。だって彼女は何も持たないから。

川に船が浮かんでた。まるで彼女のことを待ってるみたいに見えたから、正邪は手を振ってみせた。けれど船頭は少し笑って首を振るだけだった。その微笑みが可哀想なものにあげる憐れみに感じたから、正邪は舌を出してあっかんべえとやった。

 虹が出てる。
「無駄に色が多いよ」
 星が瞬いてる。
「チカチカしてうざったい」
 月が顔を出した。
「なんだい、あんなもの」
 
 これまでのことを考えてみる。
「なんてこと無かったさ」
 これからのことを考えてみる。
「どうなったっていいのさ」
 
 正邪はくるくる、くるくる、回ってる。

「生きたいなら、良い人生を送れるように努力したらどうだ? 死にたいなら死ぬ努力が必要だがな」
 あの時魔法使いがそう言った。
 でも正邪には、その努力すら許されない。

 遠く、あまりに遠く。そんな人のことを想った。
「なぜ私は生まれてきたんだろう」
 近く、こんなに近い絶望を振り払った。
「もういやだよ、もう死んでしまいたい」
 頬を伝う涙に気づいた。
「でもほんとは、楽しく生きていたい」
 彼女は周りに誰もいないことを確かめてから、一人声を出して泣いた。

 正邪はくるくる、くるくる、回ってる。
 あの少女の言葉を呟いてみた。
「愛ってなあに? 幸せってなあに?」
 彼女はこの言葉が心に輝くのを感じた。 
輝針城は紅魔郷に色々近しいですね。ありがとうございました。
つつみ
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コメント



0.610簡易評価
5.90名前が無い程度の能力削除
生きるための反抗もあれば死ぬための反抗もあるのか
信念も拘れば殉するものになるね
信念が生きるためにはどうしても貫けないとき、どうするかがその人だと思う
7.80絶望を司る程度の能力削除
「死ぬか、消えるか、土下座してでも生き延びてぇのか!?」
何故かこの台詞が頭の中に浮かびました。
8.80非現実世界に棲む者削除
矛盾する生死の欲は消えない鎖なのかもしれませんね...
9.80奇声を発する程度の能力削除
うーん、何とも何とも…
12.90名前が無い程度の能力削除
正邪の本質が「全て逆さま」である以上、一生このまま生きるしかないのだろうか
15.90名前が無い程度の能力削除
正邪ってやっぱ扱いにくいというかかわいそうなキャラですな

次は仮面か紅い者か
16.100名前が無い程度の能力削除
詩みたいで綺麗なSSだ
18.100名前が無い程度の能力削除
悲しいけど最後に希望があるのがいいね。
20.100名前が無い程度の能力削除
愛って何だ? ……躊躇わない事さ!
正邪は天邪鬼だから、本当に欲しいと思っているものを知る事ができないで、今日も流されて行くのか。
幻想郷の一部の他の妖怪みたいに、妖怪の本能から脱却できる日が来るといいな。
24.90名前が無い程度の能力削除
詩のようですね。いいテンポだと思います。