正邪はくるくる回ってる。
「なぜ、生きようとしないの?」
そう聞いた子供は食われて死んだ。彼女にはその言葉の意味がわからなかったから。
くるくる、くるくる、生きようともしない彼女は回ってく。
「あの子供が言ったのは、あんたが意味も無く流れに逆らうことさ。何の信念も無いのに突っぱねるからさ。それは現実から目を背けて逃げているだけなんだよ」
そう言った老人は空高く連れてかれた。戻ってくることは無い旅に連れてかれた。
正邪は理解されないことに腹を立てたりしなかった。だって誰も信じていないから。
くうる、くうる。くうる、くうる。
回っていく。彼女は何もわかっちゃいないし、わかりたくなんか無かった。
「あなたはいつまでそうしているの? もういいかげんに許したら?」
針妙丸が言った。正邪は何を許すのと聞いた。
「あなた自身を。それから……この世のあり方というものを」
クーデターという名の遊びが失敗に終わった直後だった。正邪はたださよならと言った。
風の噂に小人が巫女と和解したと聞いた。それが何か彼女を変えることは無かったけれど、これで良かったんだろうと思った。
くるくる、ふふふ。
くるくる、ふふふ。
彼女は少しの間、仲間だったあの子のために嬉しい気持ちになってあげた。決して友達では無かったけれど。
それから、自分の役割であるかのように辛い気持ちになった。義務のように、縛る鎖のように、絶対のように、けれどあやふやなような、彼女を包む本性は彼女自身理解してなかった。
「山に人が住んでる」
「うそ」
「ほんとだよ。行って食べてきなよ」
「あなたは?」
「私はねえ、お腹いっぱい」
「もうすぐ妖怪が来るよ、あなたを食べに来る」
「うそさ」
「ほんとだよ、早く里に逃げなよ」
「あなたは、私を食べないの?」
「私はねえ、お腹いっぱい」
正邪はくるくる回ってる。それしかすることが無いようにみえるでしょう。でも、彼女は頭の中に色んなことを描いてる。
楽しいことや、楽しいだろうと思うこと。いつかやってみたいことや、まだ見たこともないような、きらきらした輝きが頭の中に詰まってる。
でも……
でも、彼女はいつだってその反対に向かって流されてく。
「おまえを殺すよ」
「なぜ?」
「咲夜から聞いたの。おまえ、クーデターを起こそうとしたんだろう?」
「うん。でもそんなの私の勝手でしょ? あなただって昔異変を起こしたくせに」
「私はねえ、より幻想的に生きようとしただけよ。おまえは生きたくないから幻想を崩そうとしたんでしょう」
正邪にはこの吸血鬼が神々しくみえた。なんて優しい目をしてるんだろうと。
「苦しまないでいいようにもう殺してあげるよ」
正邪は逃げた。頭の中の宝石箱に、優しく、暖かく、眠るように死んでゆく自分を描いた絵が増えることになった。
雨が降ってる。
「冷たくなんか無いよ」
夜は暗い。
「寂しくなんか無いよ」
自分からすら逃げなきゃならない。
「逃げてなんか無いよ」
意味も無く、意義も無く、彼女はくるくる回ってる。
「愛ってなあに? 幸せってなあに?」
小さな女の子が正邪に聞いた。彼女は何も言わないで少女から逃げてった。
愛ってなあに? 幸せってなあに?
愛ってなあに? 幸せってなあに?
吸血鬼は追ってこない。彼女を追うものなんて、本当は何も無い。だって彼女は何も持たないから。
川に船が浮かんでた。まるで彼女のことを待ってるみたいに見えたから、正邪は手を振ってみせた。けれど船頭は少し笑って首を振るだけだった。その微笑みが可哀想なものにあげる憐れみに感じたから、正邪は舌を出してあっかんべえとやった。
虹が出てる。
「無駄に色が多いよ」
星が瞬いてる。
「チカチカしてうざったい」
月が顔を出した。
「なんだい、あんなもの」
これまでのことを考えてみる。
「なんてこと無かったさ」
これからのことを考えてみる。
「どうなったっていいのさ」
正邪はくるくる、くるくる、回ってる。
「生きたいなら、良い人生を送れるように努力したらどうだ? 死にたいなら死ぬ努力が必要だがな」
あの時魔法使いがそう言った。
でも正邪には、その努力すら許されない。
遠く、あまりに遠く。そんな人のことを想った。
「なぜ私は生まれてきたんだろう」
近く、こんなに近い絶望を振り払った。
「もういやだよ、もう死んでしまいたい」
頬を伝う涙に気づいた。
「でもほんとは、楽しく生きていたい」
彼女は周りに誰もいないことを確かめてから、一人声を出して泣いた。
正邪はくるくる、くるくる、回ってる。
あの少女の言葉を呟いてみた。
「愛ってなあに? 幸せってなあに?」
彼女はこの言葉が心に輝くのを感じた。
「なぜ、生きようとしないの?」
そう聞いた子供は食われて死んだ。彼女にはその言葉の意味がわからなかったから。
くるくる、くるくる、生きようともしない彼女は回ってく。
「あの子供が言ったのは、あんたが意味も無く流れに逆らうことさ。何の信念も無いのに突っぱねるからさ。それは現実から目を背けて逃げているだけなんだよ」
そう言った老人は空高く連れてかれた。戻ってくることは無い旅に連れてかれた。
正邪は理解されないことに腹を立てたりしなかった。だって誰も信じていないから。
くうる、くうる。くうる、くうる。
回っていく。彼女は何もわかっちゃいないし、わかりたくなんか無かった。
「あなたはいつまでそうしているの? もういいかげんに許したら?」
針妙丸が言った。正邪は何を許すのと聞いた。
「あなた自身を。それから……この世のあり方というものを」
クーデターという名の遊びが失敗に終わった直後だった。正邪はたださよならと言った。
風の噂に小人が巫女と和解したと聞いた。それが何か彼女を変えることは無かったけれど、これで良かったんだろうと思った。
くるくる、ふふふ。
くるくる、ふふふ。
彼女は少しの間、仲間だったあの子のために嬉しい気持ちになってあげた。決して友達では無かったけれど。
それから、自分の役割であるかのように辛い気持ちになった。義務のように、縛る鎖のように、絶対のように、けれどあやふやなような、彼女を包む本性は彼女自身理解してなかった。
「山に人が住んでる」
「うそ」
「ほんとだよ。行って食べてきなよ」
「あなたは?」
「私はねえ、お腹いっぱい」
「もうすぐ妖怪が来るよ、あなたを食べに来る」
「うそさ」
「ほんとだよ、早く里に逃げなよ」
「あなたは、私を食べないの?」
「私はねえ、お腹いっぱい」
正邪はくるくる回ってる。それしかすることが無いようにみえるでしょう。でも、彼女は頭の中に色んなことを描いてる。
楽しいことや、楽しいだろうと思うこと。いつかやってみたいことや、まだ見たこともないような、きらきらした輝きが頭の中に詰まってる。
でも……
でも、彼女はいつだってその反対に向かって流されてく。
「おまえを殺すよ」
「なぜ?」
「咲夜から聞いたの。おまえ、クーデターを起こそうとしたんだろう?」
「うん。でもそんなの私の勝手でしょ? あなただって昔異変を起こしたくせに」
「私はねえ、より幻想的に生きようとしただけよ。おまえは生きたくないから幻想を崩そうとしたんでしょう」
正邪にはこの吸血鬼が神々しくみえた。なんて優しい目をしてるんだろうと。
「苦しまないでいいようにもう殺してあげるよ」
正邪は逃げた。頭の中の宝石箱に、優しく、暖かく、眠るように死んでゆく自分を描いた絵が増えることになった。
雨が降ってる。
「冷たくなんか無いよ」
夜は暗い。
「寂しくなんか無いよ」
自分からすら逃げなきゃならない。
「逃げてなんか無いよ」
意味も無く、意義も無く、彼女はくるくる回ってる。
「愛ってなあに? 幸せってなあに?」
小さな女の子が正邪に聞いた。彼女は何も言わないで少女から逃げてった。
愛ってなあに? 幸せってなあに?
愛ってなあに? 幸せってなあに?
吸血鬼は追ってこない。彼女を追うものなんて、本当は何も無い。だって彼女は何も持たないから。
川に船が浮かんでた。まるで彼女のことを待ってるみたいに見えたから、正邪は手を振ってみせた。けれど船頭は少し笑って首を振るだけだった。その微笑みが可哀想なものにあげる憐れみに感じたから、正邪は舌を出してあっかんべえとやった。
虹が出てる。
「無駄に色が多いよ」
星が瞬いてる。
「チカチカしてうざったい」
月が顔を出した。
「なんだい、あんなもの」
これまでのことを考えてみる。
「なんてこと無かったさ」
これからのことを考えてみる。
「どうなったっていいのさ」
正邪はくるくる、くるくる、回ってる。
「生きたいなら、良い人生を送れるように努力したらどうだ? 死にたいなら死ぬ努力が必要だがな」
あの時魔法使いがそう言った。
でも正邪には、その努力すら許されない。
遠く、あまりに遠く。そんな人のことを想った。
「なぜ私は生まれてきたんだろう」
近く、こんなに近い絶望を振り払った。
「もういやだよ、もう死んでしまいたい」
頬を伝う涙に気づいた。
「でもほんとは、楽しく生きていたい」
彼女は周りに誰もいないことを確かめてから、一人声を出して泣いた。
正邪はくるくる、くるくる、回ってる。
あの少女の言葉を呟いてみた。
「愛ってなあに? 幸せってなあに?」
彼女はこの言葉が心に輝くのを感じた。
信念も拘れば殉するものになるね
信念が生きるためにはどうしても貫けないとき、どうするかがその人だと思う
何故かこの台詞が頭の中に浮かびました。
次は仮面か紅い者か
正邪は天邪鬼だから、本当に欲しいと思っているものを知る事ができないで、今日も流されて行くのか。
幻想郷の一部の他の妖怪みたいに、妖怪の本能から脱却できる日が来るといいな。