(やばい....やばいですよ...これは...........やば.....)
そよ風が涼しい初夏の昼下がり。
暑いというにはまだ早い。そんな日が続いているこの時期に、射命丸文は全身に汗をかきながらふらふらと魔法の森上空を飛んでいた。
取材で奔走していたから、という訳ではない。
つい数十分前までなんとなく博麗神社でぼけーっとお茶を飲み過ごし、昼寝までしかけていた筈である。
では、何故射命丸文は全身汗まみれなのか。それは-
尿意。
というのも、このゆるーい初夏、博麗神社でついついお茶を飲み過ぎ、かと言ってトイレには朝行ったきり。
既に少し尿意は感じていたものの、わざわざその程度でトイレを借りるのもなんだか気恥ずかしく思いそのまま神社を出てしまったのである。
(こんなことになるなら....大人しくトイレ借りておけば.....良かったですかね....)
と後悔しても神社まで戻れる気力はない。
戻れない距離ではない、のだが。
いつもの射命丸ならこの程度の距離であれば、数分もせずに神社に付けるであろうが、今は少しでも下腹部への影響を減らすため、徒歩と同程度のスピードで飛んでいる。もう少しスピードを出してもそんなに変わらないかもしれないが、射命丸は混乱し、ただただ速度を下げていった。
いつもは自分からグイグイ押して行く、そのようなスタンスで生活しているのだが、いざ自分が危機的状況に押しやられると混乱してしまうのである。
弾幕ごっこであればそのような状況もある程度慣れているし冷静い対応もできる、が。
流石に激しい尿意には耐えられない。
(もうホント....もう....あー....冗談じゃないです....って....もう漏れ...漏れちゃう....やだ....やだぁ...)
ちょっと涙目になって来た頃、茂る木々の間が少し開け、ちょこんと立つ家が見えた。
西洋風なその家は、この森に住む人形遣い、アリス・マーガトロイドのものである。
つい先日も取材と言って強引にこの家を訪れ、追い返されたばかりである。
取材と言っても、事実2割で尾ひれ8割の文々。新聞である。
取材を受けてもろくな事にならない、とは霊夢談。
ただ文はそんな事は忘れ、藁にも縋る思いでアリスの家に降下して行く。
(あぁ....アリス、さん.....お願いします.....助けて....助けて下さい....
もう無理....出ちゃいます...アリスさん....)
もう既に文の思考はパンクしており、頭の中はトイレの事だけ、プライド?何それ?である。
着地もいつもより数倍ゆっくり慎重に。ふらふらとアリス宅のドアへ向かい、ノックする。
-ドンドンドンドンドンドンドドンドンドンドドン-
「えっ」
-ドドンドドンドンドンドドドン-
「えぇ....?うるさいわね....誰??」
-ドドドンドドドドドドドガチャ-
「あら、文じゃない、取材は受けな「ア、アリスさん、ト、トイレ....トイレ....!」
「えっえっ」
急に訪ねられたと思ったらトイレを要求されていた。事情を飲み込めずに困惑した表情でいると、文がご丁寧にもう一度
「アリス、さん.....お願い、トイレ貸して下さい.....もうダメなんです...我慢出来ません....」
「あぁ...トイレなら、いいけど...」
流石に追い返せないし、なにより相当憔悴している文が可哀想で、アリスはとにかく文を家に上げ、同時に文は廊下奥のトイレへ駆け込んで行った。
(何だったのかしら...トイレ...?
そんなに我慢してたのかしら....)
不思議に思いつつドアを閉め振り返ると、廊下には文のものらしき水滴が足跡のように点々と落ちていた。
(ホントに我慢してたのね.....)
と苦笑しつつ、人形に洗面所から雑巾を取らせ、玄関から順に水滴を拭いて行く。
(文があんなに焦ってるのは見たこと無かったわね.....これはいい弱みを握っ.....いやいや、それはどうなのかしら?.....うん、可哀想よね...やっぱり無かったことにしよう...)
と考えつつトイレ前まで来た頃、大きな水たまりが視界に入って来た。
(ん?)
顔を上げると、黒いスカートと白いブラウス。文だ。こちら側からは表情は見えないが、俯いているように見える。
(トイレ前で何やって....あ。)
水たまり、トイレ前、文。これは...
「あ、あや....?」
水たまりを迂回して文の正面へ。
震えているらしい。
「あや〜.....?もしも〜し.....」
恐る恐る声をかけてみる。
「.....なさい...」
文の小さく震えた声が聞こえた。
「ごめん...なさい...」
(あ〜.....やっぱりそうよね....)
「い、...いえ、別に....ね?しょ、しょうがないんじゃないかしら....」
経験がない為、こういう場面でどう声をかけるべきかわからないものの、アリスなりに気を遣って見る。
それに、あの文がしゅんとなっているというのもあって尚更気を遣ってしまう。
「ほら、とりあえずシャワー、ね?シャワー浴びましょ、立てる?」と文の手を取る。
「ごめんなさい....」
「ああ、いいのよ、全然....大丈夫、大丈夫....片付けておくから、浴びてらっしゃい?」
「はい....」
ととぼとぼとお風呂場へ歩いて行く。
数分後。
(片付けはしたものの....着替えがないわね....)
そう、もちろんアリスの家にはアリスの服しかない。服を貸すのはいいとして、それで帰らせては周りに疑われてしまう.....
アリス個人としては、文にゴスロリ、是非そのままで!と言った感じではあるのだが....
流石に可哀想である。
文の服を洗い、乾くのを待って帰らせるくらいしかないだろう。
風呂から上がった文に、一時的にアリスの服を着て貰うように説明すると
「えっ...いいんですか...?そこまでしてもらって...」
と申し訳なさそうに言う。
「ええ。こうなったらもう仕方ないじゃない?」
「てっきりそのままほっぽり出されるものだと...」
「酷い言われようね....その通りにしてあげましょうか?」
「あ、いえ....そういう訳ではなく....今までの私の行いからです、アリスさんがどうという事ではなく」
あら、自覚はあったのね?とからかう。
「そりゃ、まぁ....」
と口ごもる文。
「あー、責めてるんじゃないのよ?....冷えちゃうから早く着替えちゃいなさい?」
「あ、はい、そうですね....ではお言葉に甘えさせて頂きます....」
「じゃあ私はリビングで紅茶でも淹れてくるわ、落ち着いたら一緒に飲みましょう?」
アリスがお風呂場を去って行くのを申し訳なさそうに見送った後、着替えに顔を向ける。
(アリスさん....優しいんですね...)
と少し胸がキュッとなるのを感じながら着替えを手に取る。
(うわぁ....下着もおしゃれですね...これを履くんですか...はは..緊張しますね....)
殆ど無地、白の文と違い、アリスの下着はフリルなどが施されていて大人っぽい感じである。
(中々慣れないですが...アリスさんのご厚意ですから、ありがたいものですね...)
一通り着替え終わり、リビングへ。
「あら!似合ってるじゃない!」
とやや興奮気味のアリス。
「え、あ、はい....どうですかね?」
「黒髪もいいわね〜!いやいやホント凄くいいわ〜もうずっとそれでいてくれないかしら...」
「あはは...流石に恥ずかしいです...」
「まぁ、うん、落ち着いてきたみたいだし良かったわ。とりあえず座って?」と紅茶を置きながら言う。
「はい...おかげさまで。」
「ううん、いいのよ、とりあえずこれは内緒にしておくから、安心していいわ」
「えっ....内緒に、してくれるんですか?」
驚く文。文の今までの行いからして、言いふらされても文句は言えない立場である。
「あら、言って欲しかった?
....冗談よ、噂とか興味ないし、それにそういう失敗って誰にでもあると思うし...ね、だからこれは内緒よ?」
結局、文は服が乾くまでアリスの家で過ごした。
「下着は洗ってもどうにもならないと思うから....それ、貸してあげるわ」
「ホントですか?ありがとうございます....流石にノーパンは恥ずかしいですからね....助かります...
しかし本当に本日は何から何まですみませんでした....」
「いいのよ、お互い様。また遊びに来なさい?」
「はい、是非...今度は取材ではなく、遊びに...来ますね」
そよ風が涼しい初夏の昼下がり。
暑いというにはまだ早い。そんな日が続いているこの時期に、射命丸文は全身に汗をかきながらふらふらと魔法の森上空を飛んでいた。
取材で奔走していたから、という訳ではない。
つい数十分前までなんとなく博麗神社でぼけーっとお茶を飲み過ごし、昼寝までしかけていた筈である。
では、何故射命丸文は全身汗まみれなのか。それは-
尿意。
というのも、このゆるーい初夏、博麗神社でついついお茶を飲み過ぎ、かと言ってトイレには朝行ったきり。
既に少し尿意は感じていたものの、わざわざその程度でトイレを借りるのもなんだか気恥ずかしく思いそのまま神社を出てしまったのである。
(こんなことになるなら....大人しくトイレ借りておけば.....良かったですかね....)
と後悔しても神社まで戻れる気力はない。
戻れない距離ではない、のだが。
いつもの射命丸ならこの程度の距離であれば、数分もせずに神社に付けるであろうが、今は少しでも下腹部への影響を減らすため、徒歩と同程度のスピードで飛んでいる。もう少しスピードを出してもそんなに変わらないかもしれないが、射命丸は混乱し、ただただ速度を下げていった。
いつもは自分からグイグイ押して行く、そのようなスタンスで生活しているのだが、いざ自分が危機的状況に押しやられると混乱してしまうのである。
弾幕ごっこであればそのような状況もある程度慣れているし冷静い対応もできる、が。
流石に激しい尿意には耐えられない。
(もうホント....もう....あー....冗談じゃないです....って....もう漏れ...漏れちゃう....やだ....やだぁ...)
ちょっと涙目になって来た頃、茂る木々の間が少し開け、ちょこんと立つ家が見えた。
西洋風なその家は、この森に住む人形遣い、アリス・マーガトロイドのものである。
つい先日も取材と言って強引にこの家を訪れ、追い返されたばかりである。
取材と言っても、事実2割で尾ひれ8割の文々。新聞である。
取材を受けてもろくな事にならない、とは霊夢談。
ただ文はそんな事は忘れ、藁にも縋る思いでアリスの家に降下して行く。
(あぁ....アリス、さん.....お願いします.....助けて....助けて下さい....
もう無理....出ちゃいます...アリスさん....)
もう既に文の思考はパンクしており、頭の中はトイレの事だけ、プライド?何それ?である。
着地もいつもより数倍ゆっくり慎重に。ふらふらとアリス宅のドアへ向かい、ノックする。
-ドンドンドンドンドンドンドドンドンドンドドン-
「えっ」
-ドドンドドンドンドンドドドン-
「えぇ....?うるさいわね....誰??」
-ドドドンドドドドドドドガチャ-
「あら、文じゃない、取材は受けな「ア、アリスさん、ト、トイレ....トイレ....!」
「えっえっ」
急に訪ねられたと思ったらトイレを要求されていた。事情を飲み込めずに困惑した表情でいると、文がご丁寧にもう一度
「アリス、さん.....お願い、トイレ貸して下さい.....もうダメなんです...我慢出来ません....」
「あぁ...トイレなら、いいけど...」
流石に追い返せないし、なにより相当憔悴している文が可哀想で、アリスはとにかく文を家に上げ、同時に文は廊下奥のトイレへ駆け込んで行った。
(何だったのかしら...トイレ...?
そんなに我慢してたのかしら....)
不思議に思いつつドアを閉め振り返ると、廊下には文のものらしき水滴が足跡のように点々と落ちていた。
(ホントに我慢してたのね.....)
と苦笑しつつ、人形に洗面所から雑巾を取らせ、玄関から順に水滴を拭いて行く。
(文があんなに焦ってるのは見たこと無かったわね.....これはいい弱みを握っ.....いやいや、それはどうなのかしら?.....うん、可哀想よね...やっぱり無かったことにしよう...)
と考えつつトイレ前まで来た頃、大きな水たまりが視界に入って来た。
(ん?)
顔を上げると、黒いスカートと白いブラウス。文だ。こちら側からは表情は見えないが、俯いているように見える。
(トイレ前で何やって....あ。)
水たまり、トイレ前、文。これは...
「あ、あや....?」
水たまりを迂回して文の正面へ。
震えているらしい。
「あや〜.....?もしも〜し.....」
恐る恐る声をかけてみる。
「.....なさい...」
文の小さく震えた声が聞こえた。
「ごめん...なさい...」
(あ〜.....やっぱりそうよね....)
「い、...いえ、別に....ね?しょ、しょうがないんじゃないかしら....」
経験がない為、こういう場面でどう声をかけるべきかわからないものの、アリスなりに気を遣って見る。
それに、あの文がしゅんとなっているというのもあって尚更気を遣ってしまう。
「ほら、とりあえずシャワー、ね?シャワー浴びましょ、立てる?」と文の手を取る。
「ごめんなさい....」
「ああ、いいのよ、全然....大丈夫、大丈夫....片付けておくから、浴びてらっしゃい?」
「はい....」
ととぼとぼとお風呂場へ歩いて行く。
数分後。
(片付けはしたものの....着替えがないわね....)
そう、もちろんアリスの家にはアリスの服しかない。服を貸すのはいいとして、それで帰らせては周りに疑われてしまう.....
アリス個人としては、文にゴスロリ、是非そのままで!と言った感じではあるのだが....
流石に可哀想である。
文の服を洗い、乾くのを待って帰らせるくらいしかないだろう。
風呂から上がった文に、一時的にアリスの服を着て貰うように説明すると
「えっ...いいんですか...?そこまでしてもらって...」
と申し訳なさそうに言う。
「ええ。こうなったらもう仕方ないじゃない?」
「てっきりそのままほっぽり出されるものだと...」
「酷い言われようね....その通りにしてあげましょうか?」
「あ、いえ....そういう訳ではなく....今までの私の行いからです、アリスさんがどうという事ではなく」
あら、自覚はあったのね?とからかう。
「そりゃ、まぁ....」
と口ごもる文。
「あー、責めてるんじゃないのよ?....冷えちゃうから早く着替えちゃいなさい?」
「あ、はい、そうですね....ではお言葉に甘えさせて頂きます....」
「じゃあ私はリビングで紅茶でも淹れてくるわ、落ち着いたら一緒に飲みましょう?」
アリスがお風呂場を去って行くのを申し訳なさそうに見送った後、着替えに顔を向ける。
(アリスさん....優しいんですね...)
と少し胸がキュッとなるのを感じながら着替えを手に取る。
(うわぁ....下着もおしゃれですね...これを履くんですか...はは..緊張しますね....)
殆ど無地、白の文と違い、アリスの下着はフリルなどが施されていて大人っぽい感じである。
(中々慣れないですが...アリスさんのご厚意ですから、ありがたいものですね...)
一通り着替え終わり、リビングへ。
「あら!似合ってるじゃない!」
とやや興奮気味のアリス。
「え、あ、はい....どうですかね?」
「黒髪もいいわね〜!いやいやホント凄くいいわ〜もうずっとそれでいてくれないかしら...」
「あはは...流石に恥ずかしいです...」
「まぁ、うん、落ち着いてきたみたいだし良かったわ。とりあえず座って?」と紅茶を置きながら言う。
「はい...おかげさまで。」
「ううん、いいのよ、とりあえずこれは内緒にしておくから、安心していいわ」
「えっ....内緒に、してくれるんですか?」
驚く文。文の今までの行いからして、言いふらされても文句は言えない立場である。
「あら、言って欲しかった?
....冗談よ、噂とか興味ないし、それにそういう失敗って誰にでもあると思うし...ね、だからこれは内緒よ?」
結局、文は服が乾くまでアリスの家で過ごした。
「下着は洗ってもどうにもならないと思うから....それ、貸してあげるわ」
「ホントですか?ありがとうございます....流石にノーパンは恥ずかしいですからね....助かります...
しかし本当に本日は何から何まですみませんでした....」
「いいのよ、お互い様。また遊びに来なさい?」
「はい、是非...今度は取材ではなく、遊びに...来ますね」
感想としてはそうですね、このテのタイプの話なら緊張感とか切迫感とかもっと欲しかったところかなと思いました
文の心情の変化とか、葛藤とかを入れたらもっと面白くなるのでは・・・・
可愛いし、後味も良いし。