冬
冬と言えばクリスマス。地霊殿にはさとりサンタが訪れていた。
「はぁ~。どうしようかしら」
さとりは今日何回目かわからない溜息をついた。
その理由は簡単。こいしに渡すプレゼントを買い忘れたからだ。
正直な話、こいし以外の人は心を読んでしまえばいいので大して悩まないのだが
こいしだけは別だった。
心が読めないからだ。
そしてさとりは何日も悩んだ。
悩んで悩んで悩んで。
そして忘れた。
「はぁ~。仕方ありません。正直に話すとしましょうか」
さとりはそう心に決めながらとりあえずは皆の所へと向かった。
一通り皆にプレゼントを配ったのち、こいしを自分の部屋に呼び出す。
「ねぇ、お姉ちゃん。私の分を早く頂戴」
部屋に入ってすぐ、こいしは言った。どうやら待ちきれないようだ
さとりはその期待に満ちたまなざしを直視できなっかったので、目を合わさずにこいしに向かって言葉を発した。
「こいし。よく聞いてください。実は・・・・・・お姉ちゃん、こいしの分を忘れました」
「えっ!?」
「いや、結構悩んだんですよ?ええ、1週間ほど前からずっと」
「じゃあなんで忘れたの?」
「悩んで、悩んで、悩んで・・・・・・そして忘れました」
「なんなのそれは・・・・・・」
こいしは肩を落とした。
「いや、それはほら、あれです。悩んで解決法が見つからなかったら現実逃避しちゃったんです」
「・・・・・・」
「まあ、これから買おうとは思っています」
しかし、それだけではこいしが機嫌を悪くするのは明らかだった。
だが、さとりはきちんと対策を立てていた。
「それで、こいしも連れて行きたいと思っていますが、どうです?一緒に行きません?」
「えっ!?」
同じ言葉でも先ほどとは違ってこいしは嬉しそうだ。
その理由はさとりが理由も無く地上に出るのをこいしやペットに禁止しているせいである。
「どうします?」
「行く行く!!」
こいしは着替えてくると残して出て行った。
「はぁ~。これで何とかなりそうですね」
さとりは安堵のあまり溜息をついたのであった。
いつもの服で出かけようとしたこいしにしっかりと厚着をさせてから外に出ると
そこには銀世界が広がっていた。
「うわ~。きれい~」
「そうですね。寒くはないですか?」
「うん!」
「それは良かったです。では、行きましょう。雪が太陽のせいで溶けていますから転ばないように気を付けてください」
さとりとこいしは人里へと向かった。
「で、何買うの?お姉ちゃん」
「まあ、こいしが欲しいものを何か1つ買います。何かありますか?」
このように欲しいものを聞いてはこいしだけを特別扱いしているようでいけない気がしたが、
そこは、他の人は心を読んでいるので大丈夫だとさとりは自分に言い聞かせた。
「ううん。特には無いよ」
「では、ゆっくりと散策でもしましょう」
「ねぇねぇ、これは何?食べれるの?」
こいしが指さしたのは飴。
それもただの飴ではなく、赤い帽子と白い髭が特徴的な人の形をした飴だった。
「ええ、食べられますよ。これはただの飴ですから」
「え、そうなの!?食べたい!・・・・・・あっ」
そう言ってこいしはさとりの方を見やる。さとりはこいしの言わんとしている事を察し、
「いいですよ。プレゼントには入れません」
そう言ってからその飴を買ってこいしに渡す。
もちろん地霊殿に持ち帰る分も忘れずに買った。
少ししてさとりはこいしの方をちらりと窺うと、こいしはもう飴を半分ほど食べ終えていた。
残っていたのは首より下の部分だけ。どうやら顔の部分だけを食べたようだ。
「この飴は、なんだか商品としていまいちな気がしてきました」
「なんで?おいしいよ」
「ええ、人の形をしていなければ完璧だったのですが」
さとりはそう言ってから、妖怪がそんなことを気にするという事をおかしく感じて笑いが込み上げてきた。
「・・・・・・ふふ」
「どうしたの?」
そう言われたらさとりはまたこいしの方を見てしまい、当然首の無い飴も目に入って来る。
そうしたらまた笑いが込み上げた。
「いや・・・こいしには関係ありません・・・・・・ふふふ」
「むぅ、お姉ちゃん失礼だよ!」
そんなこいしの言葉も何故だかおかしく感じてしまい、さらに笑ってしまった。
その後昼ご飯を食べに行った2人だったが、機嫌を悪くしたこいしをさとりがずっとなだめていた。
こいしの機嫌も直り、2人が向かったのは本屋。
「ここって、お姉ちゃんがよく使う所だよね」
「そうです」
さとりは心理学の本を好んで買っていた。それはさとりが心の妖怪だからなのかもしれない。
「でも、こいしは本は嫌いですよね」
「うん。でも、なんか近頃『マンガ』っていうものが流行っているらしいから見てみたいの」
「ふ~ん。そうですか」
「うん?どうかした?」
「いや、どうもしていません」
実をいうとさとりはマンガが嫌いだった。
その理由は心が読めないからである。絵なのだから心を読めないのは当たり前ではあるのだが、
それをさとりは不快に感じていたのだった。
「ねぇ、お姉ちゃん。早く入ろうよ」
「そうですね」
中に入るといつものように人が沢山立っていた。
「なんで、ここの人たちはみんな立って本を読んでいるの?家に帰ってから読めばいいのに」
こいしが疑問を呈する。
「これは、立ち読みという行為です」
「だから、なんで立っているかを聞いているんじゃない」
「まあ、なんといいましょうか・・・・・・」
案外説明が難しかったので、少し考えてからさとりは口を開く
「もし、ここに興味のある本があったとします」
「うん」
「ですが、表紙を見ただけでは中身は分かりませんよね。ですから買う前にこのようにして中身を少しだけ読むのです。もっとも、ほとんどの本屋ではあまり立ち読みを歓迎していませんが・・・・・・」
「なんで?」
「先ほど中身を少しだけ読むと言いましたが、立ったまま最後まで読んでしまう事も可能だからです。
そして最後まで読まれたらもうその客はその本を買ってはくれません」
さとりは
『立ち読みしている人は店員が近くの本を整理し始めたらそれを止めて帰るのがマナーだ』
という話は流石にしなかった。
「ふ~ん。じゃあなんでここはその立ち読みをしている客が多いの?」
「ここは立ち読み自由というコンセプトを打ち出しているからです。なかなかにその作戦は功を奏しているようですよ。聞いた話ですが・・・・・・着きましたよ。ここがマンガのコーナーです」
その後こいしが何冊かマンガを読み終え、外に出た頃には空が黄昏ていた。
「冬はすぐに暗くなりますからね。そろそろ何にするか決めてください」
「別に暗くなっても問題ないよ。怖くないし」
「そうじゃなくて、早く帰らないと地霊殿のペットたちが不安に感じてしまいます」
「お姉ちゃんは私とペットとどっちが大事なの?」
「論点をずらさないでください」
それに姉をからかうのも止めて欲しい。
「むぅ・・・・・・」
その後少ししてさとりに
「早く決めないと、今日1日こうして過ごしたのがプレゼントだ的な事にしちゃいますよ」
と言われてからこいしはようやく何にするかを決めた。
向かったのは最初にも行った場所。
「これにする!」
「おや。ケーキでいいのですか?誕生日でも食べられますよ」
「うん。今の気分はケーキだから」
こうして、さとりはケーキを買った。
帰り道
「あっ。雪が降って来た」
「本当ですね。早く帰りましょう」
ゆっくりしていてはこいしが風邪を引いてしまうかもしれない。
彼女は寒い所に対する耐性が低いのだ。
しかし、こいしは歩く速度を速めない。それどころかゆっくりになっている気さえする。
「どうしたんですか?早くしてください」
「いや、雪って綺麗だなって」
「・・・・・・では今度ペットを連れて一緒に遊びましょう」
今はとにかく早く帰りたかった。
「いいの?外に連れて来ても」
「私はペットが勝手に外に出て行くのが心配なだけです」
「やった。約束だよ。お姉ちゃん♪」
こいしは嬉しそうに笑った。
―地霊殿―
「うん。うまい」
大きいケーキを丸々一個食べているこいしを周りのペットがうらやましそうに見ていた。
それを見たさとり
「皆さんの分もありますよ。小さいですが」
と皆に1切れずつ、例の飴が載ったケーキを渡した。
それ以降、地霊殿ではクリスマスにケーキを食べるようになった。
冬と言えばクリスマス。地霊殿にはさとりサンタが訪れていた。
「はぁ~。どうしようかしら」
さとりは今日何回目かわからない溜息をついた。
その理由は簡単。こいしに渡すプレゼントを買い忘れたからだ。
正直な話、こいし以外の人は心を読んでしまえばいいので大して悩まないのだが
こいしだけは別だった。
心が読めないからだ。
そしてさとりは何日も悩んだ。
悩んで悩んで悩んで。
そして忘れた。
「はぁ~。仕方ありません。正直に話すとしましょうか」
さとりはそう心に決めながらとりあえずは皆の所へと向かった。
一通り皆にプレゼントを配ったのち、こいしを自分の部屋に呼び出す。
「ねぇ、お姉ちゃん。私の分を早く頂戴」
部屋に入ってすぐ、こいしは言った。どうやら待ちきれないようだ
さとりはその期待に満ちたまなざしを直視できなっかったので、目を合わさずにこいしに向かって言葉を発した。
「こいし。よく聞いてください。実は・・・・・・お姉ちゃん、こいしの分を忘れました」
「えっ!?」
「いや、結構悩んだんですよ?ええ、1週間ほど前からずっと」
「じゃあなんで忘れたの?」
「悩んで、悩んで、悩んで・・・・・・そして忘れました」
「なんなのそれは・・・・・・」
こいしは肩を落とした。
「いや、それはほら、あれです。悩んで解決法が見つからなかったら現実逃避しちゃったんです」
「・・・・・・」
「まあ、これから買おうとは思っています」
しかし、それだけではこいしが機嫌を悪くするのは明らかだった。
だが、さとりはきちんと対策を立てていた。
「それで、こいしも連れて行きたいと思っていますが、どうです?一緒に行きません?」
「えっ!?」
同じ言葉でも先ほどとは違ってこいしは嬉しそうだ。
その理由はさとりが理由も無く地上に出るのをこいしやペットに禁止しているせいである。
「どうします?」
「行く行く!!」
こいしは着替えてくると残して出て行った。
「はぁ~。これで何とかなりそうですね」
さとりは安堵のあまり溜息をついたのであった。
いつもの服で出かけようとしたこいしにしっかりと厚着をさせてから外に出ると
そこには銀世界が広がっていた。
「うわ~。きれい~」
「そうですね。寒くはないですか?」
「うん!」
「それは良かったです。では、行きましょう。雪が太陽のせいで溶けていますから転ばないように気を付けてください」
さとりとこいしは人里へと向かった。
「で、何買うの?お姉ちゃん」
「まあ、こいしが欲しいものを何か1つ買います。何かありますか?」
このように欲しいものを聞いてはこいしだけを特別扱いしているようでいけない気がしたが、
そこは、他の人は心を読んでいるので大丈夫だとさとりは自分に言い聞かせた。
「ううん。特には無いよ」
「では、ゆっくりと散策でもしましょう」
「ねぇねぇ、これは何?食べれるの?」
こいしが指さしたのは飴。
それもただの飴ではなく、赤い帽子と白い髭が特徴的な人の形をした飴だった。
「ええ、食べられますよ。これはただの飴ですから」
「え、そうなの!?食べたい!・・・・・・あっ」
そう言ってこいしはさとりの方を見やる。さとりはこいしの言わんとしている事を察し、
「いいですよ。プレゼントには入れません」
そう言ってからその飴を買ってこいしに渡す。
もちろん地霊殿に持ち帰る分も忘れずに買った。
少ししてさとりはこいしの方をちらりと窺うと、こいしはもう飴を半分ほど食べ終えていた。
残っていたのは首より下の部分だけ。どうやら顔の部分だけを食べたようだ。
「この飴は、なんだか商品としていまいちな気がしてきました」
「なんで?おいしいよ」
「ええ、人の形をしていなければ完璧だったのですが」
さとりはそう言ってから、妖怪がそんなことを気にするという事をおかしく感じて笑いが込み上げてきた。
「・・・・・・ふふ」
「どうしたの?」
そう言われたらさとりはまたこいしの方を見てしまい、当然首の無い飴も目に入って来る。
そうしたらまた笑いが込み上げた。
「いや・・・こいしには関係ありません・・・・・・ふふふ」
「むぅ、お姉ちゃん失礼だよ!」
そんなこいしの言葉も何故だかおかしく感じてしまい、さらに笑ってしまった。
その後昼ご飯を食べに行った2人だったが、機嫌を悪くしたこいしをさとりがずっとなだめていた。
こいしの機嫌も直り、2人が向かったのは本屋。
「ここって、お姉ちゃんがよく使う所だよね」
「そうです」
さとりは心理学の本を好んで買っていた。それはさとりが心の妖怪だからなのかもしれない。
「でも、こいしは本は嫌いですよね」
「うん。でも、なんか近頃『マンガ』っていうものが流行っているらしいから見てみたいの」
「ふ~ん。そうですか」
「うん?どうかした?」
「いや、どうもしていません」
実をいうとさとりはマンガが嫌いだった。
その理由は心が読めないからである。絵なのだから心を読めないのは当たり前ではあるのだが、
それをさとりは不快に感じていたのだった。
「ねぇ、お姉ちゃん。早く入ろうよ」
「そうですね」
中に入るといつものように人が沢山立っていた。
「なんで、ここの人たちはみんな立って本を読んでいるの?家に帰ってから読めばいいのに」
こいしが疑問を呈する。
「これは、立ち読みという行為です」
「だから、なんで立っているかを聞いているんじゃない」
「まあ、なんといいましょうか・・・・・・」
案外説明が難しかったので、少し考えてからさとりは口を開く
「もし、ここに興味のある本があったとします」
「うん」
「ですが、表紙を見ただけでは中身は分かりませんよね。ですから買う前にこのようにして中身を少しだけ読むのです。もっとも、ほとんどの本屋ではあまり立ち読みを歓迎していませんが・・・・・・」
「なんで?」
「先ほど中身を少しだけ読むと言いましたが、立ったまま最後まで読んでしまう事も可能だからです。
そして最後まで読まれたらもうその客はその本を買ってはくれません」
さとりは
『立ち読みしている人は店員が近くの本を整理し始めたらそれを止めて帰るのがマナーだ』
という話は流石にしなかった。
「ふ~ん。じゃあなんでここはその立ち読みをしている客が多いの?」
「ここは立ち読み自由というコンセプトを打ち出しているからです。なかなかにその作戦は功を奏しているようですよ。聞いた話ですが・・・・・・着きましたよ。ここがマンガのコーナーです」
その後こいしが何冊かマンガを読み終え、外に出た頃には空が黄昏ていた。
「冬はすぐに暗くなりますからね。そろそろ何にするか決めてください」
「別に暗くなっても問題ないよ。怖くないし」
「そうじゃなくて、早く帰らないと地霊殿のペットたちが不安に感じてしまいます」
「お姉ちゃんは私とペットとどっちが大事なの?」
「論点をずらさないでください」
それに姉をからかうのも止めて欲しい。
「むぅ・・・・・・」
その後少ししてさとりに
「早く決めないと、今日1日こうして過ごしたのがプレゼントだ的な事にしちゃいますよ」
と言われてからこいしはようやく何にするかを決めた。
向かったのは最初にも行った場所。
「これにする!」
「おや。ケーキでいいのですか?誕生日でも食べられますよ」
「うん。今の気分はケーキだから」
こうして、さとりはケーキを買った。
帰り道
「あっ。雪が降って来た」
「本当ですね。早く帰りましょう」
ゆっくりしていてはこいしが風邪を引いてしまうかもしれない。
彼女は寒い所に対する耐性が低いのだ。
しかし、こいしは歩く速度を速めない。それどころかゆっくりになっている気さえする。
「どうしたんですか?早くしてください」
「いや、雪って綺麗だなって」
「・・・・・・では今度ペットを連れて一緒に遊びましょう」
今はとにかく早く帰りたかった。
「いいの?外に連れて来ても」
「私はペットが勝手に外に出て行くのが心配なだけです」
「やった。約束だよ。お姉ちゃん♪」
こいしは嬉しそうに笑った。
―地霊殿―
「うん。うまい」
大きいケーキを丸々一個食べているこいしを周りのペットがうらやましそうに見ていた。
それを見たさとり
「皆さんの分もありますよ。小さいですが」
と皆に1切れずつ、例の飴が載ったケーキを渡した。
それ以降、地霊殿ではクリスマスにケーキを食べるようになった。
詩のように無駄がなく、簡潔で透き通る文。
自分が書こうとしたらこの三倍は文字を使ってしまうでしょう。
恐れ入りました。
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