今年もまた、九尾の妖狐、八雲藍氏の冬季限定移籍交渉が解禁された。
八雲藍氏の主である八雲紫氏が冬眠に入るこの時期、所属が半フリーとなる藍氏に対し、受け入れの手を挙げる組織は枚挙に暇がない。
ことの始まりは、数年ほど前の博麗神社での宴会の際、『紫様が冬眠に入られるこの時期は、やっぱり少し寂しいね』と、藍氏がぽつりと本音を漏らしたところ、『だったら、ウチに来たらいいじゃない』、『いや、ウチに来るべきだろう』、『待て待て。ここはウチに来るのが一番だ』、と、その場で何人もの人妖からの誘いが殺到し、宴会が一時大混乱に。
見かねた閻魔大王、四季映姫・ヤマザナドゥ氏が何とか場を収めると、『ここは公平に白黒つけるべきでしょう』と、その場を取り仕切り、各人との交渉の場を設けることを提案。その交渉を通じ、藍氏が気に入ったところに冬季限定でお邪魔することにしたらいい、と続け、藍氏も、その場の雰囲気に流される形で、これを承諾。
このときに形作られた一連の流れが、その後、毎年繰り広げられることになった藍氏の移籍交渉の礎となり、今日では、藍氏招致に向けたこの交渉は、幻想郷の冬の一大イベントにまで発展している。
ここで、改めて紹介する必要もないだろうが、八雲藍氏のことを軽く紹介しておく。
藍氏最大の魅力でもある九本のもふもふ尻尾は、極寒の冬場を乗り切るのにこれ以上ないアイテムである。
記者も一度、もふらせてもらったことがあるのだが、日ごろから尻尾の手入れを欠かさないという藍氏の尻尾は、肌触りも滑らかで、ほどよく暖かく、一度尻尾に包まれてしまえば、その空間から抜け出すのは至難の業である。
そして、「万能式」とも評価される藍氏は、日常的な業務遂行能力も素晴らしく、色々な雑務を任せることも出来る。
さらに、大妖怪、八雲紫の右腕という、幻想郷において、これ以上ないほど難しい役職をこなしている面からも、組織の補佐役、調整役として招聘することが出来れば、一時的とはいえ、大幅な組織力強化を狙えるという、組織を運営するものにとっては、喉から手が出るほど欲しい、これ以上ない得難い人材だといえる。
単なるもふもふ要因、一騎当千の労働力、組織の補佐役、等々、各陣営が藍氏を招致するメリットは非常に多く挙げられる。
実際、過去に藍氏の招致に成功した陣営の評価も高く、それも相まって、年を追うごとに藍氏招致を目指す陣営が続々と増えてきており、今年、藍氏招致に手を挙げた陣営の数は、過去最多となる見通しである。
そんな、過熱する一方の藍氏の招致合戦であるが、過去には、非常に印象に残る交渉をしてきた陣営も数多く、そのなかでも、『亡霊嬢の微笑み』、『魔界からの刺客』、『虹がかかった日』、そして、昨年起きた『地霊殿の悲劇』は記憶に新しいだろう。
ではここで、今年、参戦表明を出している陣営のなかで、記者が選んだ有力候補と思われる陣営を挙げていく。
本命は紅魔館。
過去、毎年のように手を挙げながらも、藍氏から振られ続けている紅魔館だが、今年は例年以上に力を入れている様子である。
当主のレミリア・スカーレット氏は、『今年こそはうちに来てもらう』と周囲に話しており、相当意気込んでいることが伺える。
その一環として、メイド長の十六夜咲夜氏に、最高級の油揚げの作り方をマスターさせるなど、藍氏の受け入れに向けた準備に余念がない。
さらに、レミリア氏は本紙の取材に対し、次のようなコメントを残している。
『今年こそは絶対にうちに来てもらう。このレミリア・スカーレット、これ以上連敗を重ねるつもりは毛頭ない。
それに、フランから、「おきつねさま、うちにはこないの?」って涙目で言われてしまってね。姉として、もうこれ以上妹に悲しそうな顔をさせるわけにはいかない。私の姉としての威厳のこともある。藍にきてもらうことで、フランを喜ばせることが出来るし、私は姉としての威厳を守れる。
だから、今年こそ、今度こそは、失敗に終わるわけにはいかない。
そのために、これは奥の手として考えていることなんだけど、場合によっては、私自ら猫耳をつけて交渉に出ることあり得る』
と、当主自ら猫耳をつけて交渉に臨むこともあるという、自身のカリスマの出血も覚悟の構えである。
以上のように、例年にはない、紅魔館の覚悟と本気度は本物である。
あとは、この想いが、今まで紅魔館を敬遠していた藍氏の心に届くかどうか。
レミリア氏が猫耳をつけて交渉に出向くかも含めて、今年の紅魔館には目が離せない。
対抗は地霊殿。
昨年、見事藍氏の招致にこぎつけたかと思われた地霊殿だったのだが、交渉の締結寸前に、博麗神社の巫女、博麗霊夢氏が会見を急襲。そのまま、文字通り藍氏を強奪するという前代未聞の事態に発展。
この強奪事件により、交渉に参加していた各陣営からは、博麗霊夢氏への非難が集中したが、これを受けた霊夢氏は、『博麗の巫女への多すぎる非難、つまり、これは異変ね!』と、魔女裁判も真っ青なごり押し論理を展開してのけると、非難声明を発表した各陣営を順次撃破。
結果、博麗の巫女なら仕方ない、と世論を物理的に黙らせるという、あんまりにもあんまりな結末に終わったのだが、この事件を受け、地霊殿の主、古明地さとり氏がショックで三ヶ月ほど寝込むという悲劇に見舞われた。
そんな憂き目に遭った地霊殿だったのだが、今年もめげることなく、参戦表明の手を挙げている。
昨年のリベンジだと燃えるのは、さとり氏のペット筆頭、火焔猫燐氏だ。
『あのときのさとり様は見てられなかったよ。もふもふ、もふもふ、ああ、私のもふもふ……、って延々呻いていたかと思ったら、博麗殺す、博麗殺す、博麗殺す、って壊れた機械みたいに、ずっとずっとつぶやいてたんだ。
もう、あんなさとり様の姿は見たくない。だから、藍さんに来てもらって、あのとき傷ついたさとり様の心を癒してもらわないとね』
と続け、最後には、『そのためには何だってするつもりさ』と悲壮感を漂わせていた燐氏。
今回、交渉の場に、さとり氏は出てこないらしいが、大の猫好きと知られる藍氏のことを考えれば、燐氏が自ら交渉に出てくることは、むしろ強みであるといえる。
昨年のリベンジに燃える、主思いのペットの想い。
同じく主への強い敬愛の意思を持つ藍氏であれば、それはきっと強い共感を呼ぶ、かもしれない。
三番手には人里代表、上白沢慧音氏が挙がる。
藍氏招致を目指しているのは、何も組織だけではない。
個人で藍氏招致を目指している、上白沢慧音氏がその筆頭である。
本紙の取材に対し、慧音氏は以下のように話してくれた。
『かねてより注目していた人材。妖怪ながらも人里の皆に受け入れられているし、私も何度か話したこともあるが、とても温厚な御方だ。
そして何より、あの頭脳。人格も能力も、間違いなく教師に向いている。美人だし、あの尻尾のもふもふもあれば鬼に金棒。間違いなく子どもたちの人気者になれるはずだ。是非、うちの寺子屋に来てもらって、子どもたちに教鞭をふるってほしい』
と、他の陣営とは一風違った目線で藍氏の招致を目指している。
また、慧音氏は、以下のようにも続けている。
『これをきっかけとして、彼女が教職に興味を持ってくれれば。
現状、寺子屋は教師が足りているとは言えない。彼女が非常勤でもいいから、教師として正式に寺子屋に来てくれれば、きっと、幻想郷の教育水準は、ぐんと底上げされるはず。
そのためにも、私は教職の素晴らしさを彼女に伝えたいんだ。だから、この機会に、是非、うちに来て欲しい』
人間と妖怪との中立の立場を求められる藍氏にとってみれば、ここで人間側の味方になっておくのも悪い手ではないように思える。
そして何より、慧音氏のこの熱意に、藍氏が根負けする可能性も十二分にある。
今年の冬には、もしかしたら、教壇に立つ藍氏の姿が拝めるかもしれない。
以上、三つの陣営が今年の有力候補であると見られる。
しかし、ここには挙がっていないが、ダークホース的な陣営も多数存在する。
なかでも、ここ数年、誰よりも熱心な招致活動をしては見事に散っている、茨華仙氏の動向は見逃せない。
そして、昨年、まさかまさかの参戦表明に、界隈を騒然とさせた、風見幽香氏が今年も続けて参戦する模様で、こちらも目が離せない。
また、過去に藍氏の招致に成功しているプリズムリバー楽団が二度目の招致を目指すと声明を出しており、
他には、ここまで静観を続けていた永遠亭も、今年になって初めて手を挙げている。
これらの陣営の他にも、多数の陣営が藍氏受け入れの名乗りをあげており、藍氏招致へ向けたレースは、例年通りの混戦模様である。
では、反対に、藍氏受け入れの表明をしているものの、可能性がほぼない・可能性が薄いと思われる陣営を挙げてみる。以下の三つの陣営がそれにあたる。
一つは守矢神社。
毎年、巫女の東谷風早苗氏が招致を目指して頑張っているものの、同陣営と同盟関係にある、妖怪の山の天狗達が藍氏の招致に猛反発しているという、非常に難しい問題を抱えている。
背景にあるのは、藍氏ほどの大妖怪を山に入れてしまうと、一時的といえども、幻想郷の微妙なパワーバランスが崩れる恐れがある、という実に天狗らしい保守的な理由である。
ただし、天狗も一枚岩というわけではなく、藍氏招致に賛同し、守矢神社に味方する天狗たちも少なくない。
そういった者たちは、影で守矢神社への支援活動を行っており、そのなかには、確証はないが、妖怪の山の幹部である大天狗も含まれているという噂がある。
こういった事情もあり、この時期には、招致賛成派と招致反対派で天狗社会は真っ二つになり、それぞれがそれぞれの新聞で主義主張を繰り広げるのである。
これもまた、この時期特有の恒例行事となりつつあるのだが、渦中の藍氏がこの騒動を目の当たりしている現状、藍氏がわざわざ守矢神社に移籍する可能性は低く、この問題を解決しない限り、守矢神社に九本のもふもふがやってくることはないだろう。
二つ目は、二年前、藍氏の式である橙氏を懐柔し、橙氏を通じて藍氏の心を動かし、見事、藍氏の招致に成功した命蓮寺である。
この陣営のネックとなるのは、最近になって同陣営に加入した二ツ岩マミゾウ氏の存在である。
藍氏がどうかは不明だが、マミゾウ氏の狐嫌いは相当なものらしく、もし、藍氏と顔を合わせようものなら、その瞬間に藍氏に掴みかかり、両氏の喧嘩へと発展、さらに、それが狸と狐の大戦争にも発展しかねないという、実現する可能性は薄いとしても、とんでもない火種となり得る事実は変わらないだろう。
そのようなリスクを犯してまで、藍氏が命蓮寺を移籍先として選ぶとは考えにくく、この点において、命蓮寺は一歩後退と見るのが自然であろう。
三つ目は、昨年、藍氏を地霊殿から強奪した、博麗神社の博麗霊夢氏。
理由は簡単明瞭。
昨年の移籍期限切れ直前の日に、藍氏から、『次の冬にはここには来ない』と断言されたとの証言が博麗神社関係者からあり、霊夢氏本人もそれを認めている。
やはり、昨年の『地霊殿の悲劇』が尾を引いているようで、藍氏が地霊殿側に配慮したと見られる。
そのため、博麗神社の今年の藍氏招致は、ほぼ不可能であるとの見方が強く、博麗神社は、今年の招致を断念する意向だ。
以上、藍氏招致が難しいと見られるそれぞれの陣営であるが、(招致を断念する意向の博麗神社を除き)一発逆転の目がないわけではない。
それぞれのマイナスな面を藍氏が無視出来るほどに、藍氏の心を動かすことが出来れば、わずかながら可能性は見えてくるだろう。
各陣営には、最後まで諦めずに、粘り強く交渉に臨んで欲しいところである。
ひょんなことから始まった、八雲藍氏の冬季限定移籍話。
今年はどんなドラマが繰り広げられるのだろうか。
記者も注目して、動向を見守りたいと思う。
ちなみに、今年初めての交渉は本日午後、トップバッターを務めるのは、今年になって初めて参戦した永遠亭、交渉にあたるのは、蓬莱山輝夜氏である。
翌日、文々。新聞、号外――。
八雲藍氏、史上最短での移籍決定!! 移籍先は永遠亭!!!
蓬莱山輝夜氏、してやったり
前代未聞、交渉初日にして、八雲藍氏の移籍先が決定した。
藍氏のハートを見事に射止めたのは、今年初めて交渉に参加した、永遠亭の蓬莱山輝夜氏だ。
輝夜氏は、藍氏との交渉の直前、本紙記者のインタビューに対し、
「自信はあるわ。ま、見ていなさい。交渉が終わったら、藍は私と一緒にうちに帰るから」
と、豪語した通り、藍氏の即日のお持ち帰りに見事成功した。
しかし、あまりにも突然すぎる藍氏の移籍決定に対し、参戦表明を出していた各陣営からは、
「まだ交渉の席にもついていない。こんなことがあっていいのか」
「最低限の暗黙の了解というものがあるだろう。せめて各陣営と一度話をしてから決めるのが筋なはず。これでは、裏で何かあったのかと勘繰ってしまう」
「結局、昨年の博麗の巫女と同じ、やったもの勝ちというわけじゃないか。断固抗議する」
「どうしてお嬢様が猫耳をおつけになるまで待てなかったのか」
等々、各陣営からは抗議の声が続々と挙がっている。
確かに、交渉をしたのが初日のみ、話をした陣営が永遠亭のみで移籍先を決められてしまったとあっては、永遠亭と藍氏との間で密約でもあったのではないか、と、疑いの目を向けられて当然だろうし、各陣営からしても、はいそうですか、と受け入れられるものではないだろう。
それゆえに、各陣営の恨み節も仕方がないことではある。
だが、あの冷静沈着な八雲藍氏が、これだけ思い切った決断をしたのには、相応の理由があったに違いないと記者は確信。
永遠亭への移籍決定の会見が終わったすぐ後に、本紙記者が八雲藍氏に突撃取材を敢行し、蓬莱山輝夜氏との交渉の様子を独占インタビューすることに成功した。
以下、交渉に臨む八雲藍氏と蓬莱山輝夜氏とのやりとりをまとめたものである。
※分かりやすくするため、少し記者の意訳も混じっている。
藍氏と輝夜氏が席につき、藍氏がとりあえず挨拶をしようとしたところ、突然、輝夜氏が席から立ちあがり、開口一番、
「うちに来るっていうまではなさない」
そう言うと、輝夜氏は藍氏にぎゅっと抱きついたのだという。
輝夜氏の突然のこの行動に、当然の如く困惑する藍氏が、「え、ええ? いや、あの……」と言葉を詰まらせると、
「うちにきて。お願い」
と、甘い声で懇願し、うるうるとした目で藍氏を見つめてきたという。
この追い討ちには、流石の藍氏も鼓動が跳ね上がったと証言しており、日本史史上随一の魅惑的ガールの真髄、ここに極まっている。
さらに、輝夜氏の追い討ちは続き、
「ずっと、ずっと我慢してたの。私が貴女を呼びたいって言ったら、永琳が『私が良いって言うまで我慢なさい』って意地悪なこと言うから、私、今日まで我慢してたの。でもやっと、永琳が良いって言ってくれたから、私、一番に手をあげたわ」
輝夜氏はそう言うと、藍氏を覗き込むように顔を近づけてきたのだという。それも、お互いの息がかかるほど近くに。
「もう我慢なんか出来ない。一日だって待てない。きて。今日からきて。お願い」
「……い、いや、他にも手を挙げて頂いている方もいますし」
「やだ」
「そ、そうは言われましても……」
「やだ。うちにくるって言って」
「ぐ、う……」
まるで、駄々をこねる子どものような輝夜氏に対し、
藍氏は、『本当に困ったよ。頭が真っ白になって、一体どうしたらいいんだ、と、それだけしか考えられなかった』と胸中を明かしている。
だが、このときの藍氏には、輝夜氏に押されっぱなしのこの状況でも、まだ、何とかしようという意思が残っており、状況の打開を試みて、話題を変えてみたのだという。
「や、八意殿は……」
「永琳は来ないわ。私だけで頑張るって言ったの。頑張ってあなたを連れてきて、永琳に褒めてもらうの。だからうちにきて」
話題変更はあえなく失敗。交渉のレースは一瞬で元の位置に戻ってしまう。
困惑するばかりの藍氏に対し、輝夜氏の攻勢は止まらなかった。
「私、ずっと夢見てたの。あなたと一緒にお昼寝するんだって。尻尾をたくさんもふもふするんだって」
「……いや、その、そう言っていただけるのは大変嬉しいのですが」
輝夜氏に言われた光景を想像してみて、その光景のあまりの甘美さに、藍氏は思わず生唾を飲んだという。
そんな藍氏を見てか、輝夜氏は、さらに藍氏に強く抱きつき、より、身体を密着させてきたのだという。
そして、輝夜氏は続ける。
「私が、貴女にしてあげられることなんて、全然ない。他のひとみたいに、うちに来たら、こういう良いことがあるとか、私は言えない。
私が貴女に言えるのは、私のところにきて、って、それだけ。私は、それしか貴女に言えない。だから、私、何度だって言うわ」
「…………っ」
唇が触れそうなほど近い距離。潤んだ瞳は息を呑むほど美しく、華奢な身体は小さく震えている。
今すぐにでも抱きしめてあげたい。破裂しそうなほどに膨れ上がる衝動に、藍氏は必死に耐えていたが。
「お願い。他のひとのところに行かないで。かぐやを選んで。お願い……」
消え入りそうな声音だったという輝夜氏のこの懇願。
これがトドメの一撃となり、藍氏が完全に落城。その場で、永遠亭への期限付き移籍が決定したのであった。
以上がインタビューのおおよその概要である。
この独占インタビューを聞いてみて、記者が思ったのは、これはもう仕方ないと言う他ないのではないか、ということだ。
あの蓬莱山輝夜氏に、ここまで懇願されて、ノーだと言える者が果たしているだろうか。
記者は、そんな者、いるはずがないと断言する。
一度、考えてみればいい。自分が藍氏と同じ立場になったらどうか、と。考えてみて、記者は、到底耐えられそうにないという結論に至った。
だって、「かぐやを選んで」などという台詞を、いたいけな少女に言わせているのだ。これをどうして断れようか。
だからこそ、記者は、藍氏が早々に出した結論にも、大きく頷くことが出来る。
決して、藍氏を責めるようなことは、出来ない。
そして、見事に藍氏のハートを射止めた蓬莱山輝夜氏にもコメントを頂いており、輝夜氏は、
「私の魅力にかかれば当然のこと。私は欲しいと思ったものは絶対に手に入れるわ。だから、藍がうちを選ぶのも至極当然のことよ」
と、藍氏との交渉とはまるで別人のように、飄々とした態度で答えている。
また、輝夜氏の保護者であり、従者の八意永琳氏にもコメントを頂戴しており、
「あのときは、あの子をちょっと甘やかしてるかな? って思ってた時期だったから、ちょっと我慢させてみようかなって思って、意地悪なことをしてみたんだけどね。ただ、我慢させた分、その反動が出たのか、ちょっと爆発しちゃったかな。まあ、あの子のことだし、ね」
と、いつものことだ、というように、永琳氏は苦笑いを浮かべていた。
「永琳の意地悪のせいで、ずっと我慢させられたけど、これで思う存分、もふもふを堪能出来るわ。ふふ、今年の冬は楽しくなりそう」
そう言って、屈託なくにっこりと微笑む輝夜氏の笑顔は、間違いなく、幻想郷で最も美しいものだった。
過去に例のない、あっという間のスピード決着となった今年の八雲藍氏招致交渉。
見事に招致に成功した、永遠亭、蓬莱山輝夜氏には、惜しみない賞賛を送りたい。
残念ながら、交渉の場にも立たせてもらえなかった各陣営に関しては、また来年があるさ、とだけ伝えておくとしよう。
(射命丸 文)
八雲藍氏の主である八雲紫氏が冬眠に入るこの時期、所属が半フリーとなる藍氏に対し、受け入れの手を挙げる組織は枚挙に暇がない。
ことの始まりは、数年ほど前の博麗神社での宴会の際、『紫様が冬眠に入られるこの時期は、やっぱり少し寂しいね』と、藍氏がぽつりと本音を漏らしたところ、『だったら、ウチに来たらいいじゃない』、『いや、ウチに来るべきだろう』、『待て待て。ここはウチに来るのが一番だ』、と、その場で何人もの人妖からの誘いが殺到し、宴会が一時大混乱に。
見かねた閻魔大王、四季映姫・ヤマザナドゥ氏が何とか場を収めると、『ここは公平に白黒つけるべきでしょう』と、その場を取り仕切り、各人との交渉の場を設けることを提案。その交渉を通じ、藍氏が気に入ったところに冬季限定でお邪魔することにしたらいい、と続け、藍氏も、その場の雰囲気に流される形で、これを承諾。
このときに形作られた一連の流れが、その後、毎年繰り広げられることになった藍氏の移籍交渉の礎となり、今日では、藍氏招致に向けたこの交渉は、幻想郷の冬の一大イベントにまで発展している。
ここで、改めて紹介する必要もないだろうが、八雲藍氏のことを軽く紹介しておく。
藍氏最大の魅力でもある九本のもふもふ尻尾は、極寒の冬場を乗り切るのにこれ以上ないアイテムである。
記者も一度、もふらせてもらったことがあるのだが、日ごろから尻尾の手入れを欠かさないという藍氏の尻尾は、肌触りも滑らかで、ほどよく暖かく、一度尻尾に包まれてしまえば、その空間から抜け出すのは至難の業である。
そして、「万能式」とも評価される藍氏は、日常的な業務遂行能力も素晴らしく、色々な雑務を任せることも出来る。
さらに、大妖怪、八雲紫の右腕という、幻想郷において、これ以上ないほど難しい役職をこなしている面からも、組織の補佐役、調整役として招聘することが出来れば、一時的とはいえ、大幅な組織力強化を狙えるという、組織を運営するものにとっては、喉から手が出るほど欲しい、これ以上ない得難い人材だといえる。
単なるもふもふ要因、一騎当千の労働力、組織の補佐役、等々、各陣営が藍氏を招致するメリットは非常に多く挙げられる。
実際、過去に藍氏の招致に成功した陣営の評価も高く、それも相まって、年を追うごとに藍氏招致を目指す陣営が続々と増えてきており、今年、藍氏招致に手を挙げた陣営の数は、過去最多となる見通しである。
そんな、過熱する一方の藍氏の招致合戦であるが、過去には、非常に印象に残る交渉をしてきた陣営も数多く、そのなかでも、『亡霊嬢の微笑み』、『魔界からの刺客』、『虹がかかった日』、そして、昨年起きた『地霊殿の悲劇』は記憶に新しいだろう。
ではここで、今年、参戦表明を出している陣営のなかで、記者が選んだ有力候補と思われる陣営を挙げていく。
本命は紅魔館。
過去、毎年のように手を挙げながらも、藍氏から振られ続けている紅魔館だが、今年は例年以上に力を入れている様子である。
当主のレミリア・スカーレット氏は、『今年こそはうちに来てもらう』と周囲に話しており、相当意気込んでいることが伺える。
その一環として、メイド長の十六夜咲夜氏に、最高級の油揚げの作り方をマスターさせるなど、藍氏の受け入れに向けた準備に余念がない。
さらに、レミリア氏は本紙の取材に対し、次のようなコメントを残している。
『今年こそは絶対にうちに来てもらう。このレミリア・スカーレット、これ以上連敗を重ねるつもりは毛頭ない。
それに、フランから、「おきつねさま、うちにはこないの?」って涙目で言われてしまってね。姉として、もうこれ以上妹に悲しそうな顔をさせるわけにはいかない。私の姉としての威厳のこともある。藍にきてもらうことで、フランを喜ばせることが出来るし、私は姉としての威厳を守れる。
だから、今年こそ、今度こそは、失敗に終わるわけにはいかない。
そのために、これは奥の手として考えていることなんだけど、場合によっては、私自ら猫耳をつけて交渉に出ることあり得る』
と、当主自ら猫耳をつけて交渉に臨むこともあるという、自身のカリスマの出血も覚悟の構えである。
以上のように、例年にはない、紅魔館の覚悟と本気度は本物である。
あとは、この想いが、今まで紅魔館を敬遠していた藍氏の心に届くかどうか。
レミリア氏が猫耳をつけて交渉に出向くかも含めて、今年の紅魔館には目が離せない。
対抗は地霊殿。
昨年、見事藍氏の招致にこぎつけたかと思われた地霊殿だったのだが、交渉の締結寸前に、博麗神社の巫女、博麗霊夢氏が会見を急襲。そのまま、文字通り藍氏を強奪するという前代未聞の事態に発展。
この強奪事件により、交渉に参加していた各陣営からは、博麗霊夢氏への非難が集中したが、これを受けた霊夢氏は、『博麗の巫女への多すぎる非難、つまり、これは異変ね!』と、魔女裁判も真っ青なごり押し論理を展開してのけると、非難声明を発表した各陣営を順次撃破。
結果、博麗の巫女なら仕方ない、と世論を物理的に黙らせるという、あんまりにもあんまりな結末に終わったのだが、この事件を受け、地霊殿の主、古明地さとり氏がショックで三ヶ月ほど寝込むという悲劇に見舞われた。
そんな憂き目に遭った地霊殿だったのだが、今年もめげることなく、参戦表明の手を挙げている。
昨年のリベンジだと燃えるのは、さとり氏のペット筆頭、火焔猫燐氏だ。
『あのときのさとり様は見てられなかったよ。もふもふ、もふもふ、ああ、私のもふもふ……、って延々呻いていたかと思ったら、博麗殺す、博麗殺す、博麗殺す、って壊れた機械みたいに、ずっとずっとつぶやいてたんだ。
もう、あんなさとり様の姿は見たくない。だから、藍さんに来てもらって、あのとき傷ついたさとり様の心を癒してもらわないとね』
と続け、最後には、『そのためには何だってするつもりさ』と悲壮感を漂わせていた燐氏。
今回、交渉の場に、さとり氏は出てこないらしいが、大の猫好きと知られる藍氏のことを考えれば、燐氏が自ら交渉に出てくることは、むしろ強みであるといえる。
昨年のリベンジに燃える、主思いのペットの想い。
同じく主への強い敬愛の意思を持つ藍氏であれば、それはきっと強い共感を呼ぶ、かもしれない。
三番手には人里代表、上白沢慧音氏が挙がる。
藍氏招致を目指しているのは、何も組織だけではない。
個人で藍氏招致を目指している、上白沢慧音氏がその筆頭である。
本紙の取材に対し、慧音氏は以下のように話してくれた。
『かねてより注目していた人材。妖怪ながらも人里の皆に受け入れられているし、私も何度か話したこともあるが、とても温厚な御方だ。
そして何より、あの頭脳。人格も能力も、間違いなく教師に向いている。美人だし、あの尻尾のもふもふもあれば鬼に金棒。間違いなく子どもたちの人気者になれるはずだ。是非、うちの寺子屋に来てもらって、子どもたちに教鞭をふるってほしい』
と、他の陣営とは一風違った目線で藍氏の招致を目指している。
また、慧音氏は、以下のようにも続けている。
『これをきっかけとして、彼女が教職に興味を持ってくれれば。
現状、寺子屋は教師が足りているとは言えない。彼女が非常勤でもいいから、教師として正式に寺子屋に来てくれれば、きっと、幻想郷の教育水準は、ぐんと底上げされるはず。
そのためにも、私は教職の素晴らしさを彼女に伝えたいんだ。だから、この機会に、是非、うちに来て欲しい』
人間と妖怪との中立の立場を求められる藍氏にとってみれば、ここで人間側の味方になっておくのも悪い手ではないように思える。
そして何より、慧音氏のこの熱意に、藍氏が根負けする可能性も十二分にある。
今年の冬には、もしかしたら、教壇に立つ藍氏の姿が拝めるかもしれない。
以上、三つの陣営が今年の有力候補であると見られる。
しかし、ここには挙がっていないが、ダークホース的な陣営も多数存在する。
なかでも、ここ数年、誰よりも熱心な招致活動をしては見事に散っている、茨華仙氏の動向は見逃せない。
そして、昨年、まさかまさかの参戦表明に、界隈を騒然とさせた、風見幽香氏が今年も続けて参戦する模様で、こちらも目が離せない。
また、過去に藍氏の招致に成功しているプリズムリバー楽団が二度目の招致を目指すと声明を出しており、
他には、ここまで静観を続けていた永遠亭も、今年になって初めて手を挙げている。
これらの陣営の他にも、多数の陣営が藍氏受け入れの名乗りをあげており、藍氏招致へ向けたレースは、例年通りの混戦模様である。
では、反対に、藍氏受け入れの表明をしているものの、可能性がほぼない・可能性が薄いと思われる陣営を挙げてみる。以下の三つの陣営がそれにあたる。
一つは守矢神社。
毎年、巫女の東谷風早苗氏が招致を目指して頑張っているものの、同陣営と同盟関係にある、妖怪の山の天狗達が藍氏の招致に猛反発しているという、非常に難しい問題を抱えている。
背景にあるのは、藍氏ほどの大妖怪を山に入れてしまうと、一時的といえども、幻想郷の微妙なパワーバランスが崩れる恐れがある、という実に天狗らしい保守的な理由である。
ただし、天狗も一枚岩というわけではなく、藍氏招致に賛同し、守矢神社に味方する天狗たちも少なくない。
そういった者たちは、影で守矢神社への支援活動を行っており、そのなかには、確証はないが、妖怪の山の幹部である大天狗も含まれているという噂がある。
こういった事情もあり、この時期には、招致賛成派と招致反対派で天狗社会は真っ二つになり、それぞれがそれぞれの新聞で主義主張を繰り広げるのである。
これもまた、この時期特有の恒例行事となりつつあるのだが、渦中の藍氏がこの騒動を目の当たりしている現状、藍氏がわざわざ守矢神社に移籍する可能性は低く、この問題を解決しない限り、守矢神社に九本のもふもふがやってくることはないだろう。
二つ目は、二年前、藍氏の式である橙氏を懐柔し、橙氏を通じて藍氏の心を動かし、見事、藍氏の招致に成功した命蓮寺である。
この陣営のネックとなるのは、最近になって同陣営に加入した二ツ岩マミゾウ氏の存在である。
藍氏がどうかは不明だが、マミゾウ氏の狐嫌いは相当なものらしく、もし、藍氏と顔を合わせようものなら、その瞬間に藍氏に掴みかかり、両氏の喧嘩へと発展、さらに、それが狸と狐の大戦争にも発展しかねないという、実現する可能性は薄いとしても、とんでもない火種となり得る事実は変わらないだろう。
そのようなリスクを犯してまで、藍氏が命蓮寺を移籍先として選ぶとは考えにくく、この点において、命蓮寺は一歩後退と見るのが自然であろう。
三つ目は、昨年、藍氏を地霊殿から強奪した、博麗神社の博麗霊夢氏。
理由は簡単明瞭。
昨年の移籍期限切れ直前の日に、藍氏から、『次の冬にはここには来ない』と断言されたとの証言が博麗神社関係者からあり、霊夢氏本人もそれを認めている。
やはり、昨年の『地霊殿の悲劇』が尾を引いているようで、藍氏が地霊殿側に配慮したと見られる。
そのため、博麗神社の今年の藍氏招致は、ほぼ不可能であるとの見方が強く、博麗神社は、今年の招致を断念する意向だ。
以上、藍氏招致が難しいと見られるそれぞれの陣営であるが、(招致を断念する意向の博麗神社を除き)一発逆転の目がないわけではない。
それぞれのマイナスな面を藍氏が無視出来るほどに、藍氏の心を動かすことが出来れば、わずかながら可能性は見えてくるだろう。
各陣営には、最後まで諦めずに、粘り強く交渉に臨んで欲しいところである。
ひょんなことから始まった、八雲藍氏の冬季限定移籍話。
今年はどんなドラマが繰り広げられるのだろうか。
記者も注目して、動向を見守りたいと思う。
ちなみに、今年初めての交渉は本日午後、トップバッターを務めるのは、今年になって初めて参戦した永遠亭、交渉にあたるのは、蓬莱山輝夜氏である。
翌日、文々。新聞、号外――。
八雲藍氏、史上最短での移籍決定!! 移籍先は永遠亭!!!
蓬莱山輝夜氏、してやったり
前代未聞、交渉初日にして、八雲藍氏の移籍先が決定した。
藍氏のハートを見事に射止めたのは、今年初めて交渉に参加した、永遠亭の蓬莱山輝夜氏だ。
輝夜氏は、藍氏との交渉の直前、本紙記者のインタビューに対し、
「自信はあるわ。ま、見ていなさい。交渉が終わったら、藍は私と一緒にうちに帰るから」
と、豪語した通り、藍氏の即日のお持ち帰りに見事成功した。
しかし、あまりにも突然すぎる藍氏の移籍決定に対し、参戦表明を出していた各陣営からは、
「まだ交渉の席にもついていない。こんなことがあっていいのか」
「最低限の暗黙の了解というものがあるだろう。せめて各陣営と一度話をしてから決めるのが筋なはず。これでは、裏で何かあったのかと勘繰ってしまう」
「結局、昨年の博麗の巫女と同じ、やったもの勝ちというわけじゃないか。断固抗議する」
「どうしてお嬢様が猫耳をおつけになるまで待てなかったのか」
等々、各陣営からは抗議の声が続々と挙がっている。
確かに、交渉をしたのが初日のみ、話をした陣営が永遠亭のみで移籍先を決められてしまったとあっては、永遠亭と藍氏との間で密約でもあったのではないか、と、疑いの目を向けられて当然だろうし、各陣営からしても、はいそうですか、と受け入れられるものではないだろう。
それゆえに、各陣営の恨み節も仕方がないことではある。
だが、あの冷静沈着な八雲藍氏が、これだけ思い切った決断をしたのには、相応の理由があったに違いないと記者は確信。
永遠亭への移籍決定の会見が終わったすぐ後に、本紙記者が八雲藍氏に突撃取材を敢行し、蓬莱山輝夜氏との交渉の様子を独占インタビューすることに成功した。
以下、交渉に臨む八雲藍氏と蓬莱山輝夜氏とのやりとりをまとめたものである。
※分かりやすくするため、少し記者の意訳も混じっている。
藍氏と輝夜氏が席につき、藍氏がとりあえず挨拶をしようとしたところ、突然、輝夜氏が席から立ちあがり、開口一番、
「うちに来るっていうまではなさない」
そう言うと、輝夜氏は藍氏にぎゅっと抱きついたのだという。
輝夜氏の突然のこの行動に、当然の如く困惑する藍氏が、「え、ええ? いや、あの……」と言葉を詰まらせると、
「うちにきて。お願い」
と、甘い声で懇願し、うるうるとした目で藍氏を見つめてきたという。
この追い討ちには、流石の藍氏も鼓動が跳ね上がったと証言しており、日本史史上随一の魅惑的ガールの真髄、ここに極まっている。
さらに、輝夜氏の追い討ちは続き、
「ずっと、ずっと我慢してたの。私が貴女を呼びたいって言ったら、永琳が『私が良いって言うまで我慢なさい』って意地悪なこと言うから、私、今日まで我慢してたの。でもやっと、永琳が良いって言ってくれたから、私、一番に手をあげたわ」
輝夜氏はそう言うと、藍氏を覗き込むように顔を近づけてきたのだという。それも、お互いの息がかかるほど近くに。
「もう我慢なんか出来ない。一日だって待てない。きて。今日からきて。お願い」
「……い、いや、他にも手を挙げて頂いている方もいますし」
「やだ」
「そ、そうは言われましても……」
「やだ。うちにくるって言って」
「ぐ、う……」
まるで、駄々をこねる子どものような輝夜氏に対し、
藍氏は、『本当に困ったよ。頭が真っ白になって、一体どうしたらいいんだ、と、それだけしか考えられなかった』と胸中を明かしている。
だが、このときの藍氏には、輝夜氏に押されっぱなしのこの状況でも、まだ、何とかしようという意思が残っており、状況の打開を試みて、話題を変えてみたのだという。
「や、八意殿は……」
「永琳は来ないわ。私だけで頑張るって言ったの。頑張ってあなたを連れてきて、永琳に褒めてもらうの。だからうちにきて」
話題変更はあえなく失敗。交渉のレースは一瞬で元の位置に戻ってしまう。
困惑するばかりの藍氏に対し、輝夜氏の攻勢は止まらなかった。
「私、ずっと夢見てたの。あなたと一緒にお昼寝するんだって。尻尾をたくさんもふもふするんだって」
「……いや、その、そう言っていただけるのは大変嬉しいのですが」
輝夜氏に言われた光景を想像してみて、その光景のあまりの甘美さに、藍氏は思わず生唾を飲んだという。
そんな藍氏を見てか、輝夜氏は、さらに藍氏に強く抱きつき、より、身体を密着させてきたのだという。
そして、輝夜氏は続ける。
「私が、貴女にしてあげられることなんて、全然ない。他のひとみたいに、うちに来たら、こういう良いことがあるとか、私は言えない。
私が貴女に言えるのは、私のところにきて、って、それだけ。私は、それしか貴女に言えない。だから、私、何度だって言うわ」
「…………っ」
唇が触れそうなほど近い距離。潤んだ瞳は息を呑むほど美しく、華奢な身体は小さく震えている。
今すぐにでも抱きしめてあげたい。破裂しそうなほどに膨れ上がる衝動に、藍氏は必死に耐えていたが。
「お願い。他のひとのところに行かないで。かぐやを選んで。お願い……」
消え入りそうな声音だったという輝夜氏のこの懇願。
これがトドメの一撃となり、藍氏が完全に落城。その場で、永遠亭への期限付き移籍が決定したのであった。
以上がインタビューのおおよその概要である。
この独占インタビューを聞いてみて、記者が思ったのは、これはもう仕方ないと言う他ないのではないか、ということだ。
あの蓬莱山輝夜氏に、ここまで懇願されて、ノーだと言える者が果たしているだろうか。
記者は、そんな者、いるはずがないと断言する。
一度、考えてみればいい。自分が藍氏と同じ立場になったらどうか、と。考えてみて、記者は、到底耐えられそうにないという結論に至った。
だって、「かぐやを選んで」などという台詞を、いたいけな少女に言わせているのだ。これをどうして断れようか。
だからこそ、記者は、藍氏が早々に出した結論にも、大きく頷くことが出来る。
決して、藍氏を責めるようなことは、出来ない。
そして、見事に藍氏のハートを射止めた蓬莱山輝夜氏にもコメントを頂いており、輝夜氏は、
「私の魅力にかかれば当然のこと。私は欲しいと思ったものは絶対に手に入れるわ。だから、藍がうちを選ぶのも至極当然のことよ」
と、藍氏との交渉とはまるで別人のように、飄々とした態度で答えている。
また、輝夜氏の保護者であり、従者の八意永琳氏にもコメントを頂戴しており、
「あのときは、あの子をちょっと甘やかしてるかな? って思ってた時期だったから、ちょっと我慢させてみようかなって思って、意地悪なことをしてみたんだけどね。ただ、我慢させた分、その反動が出たのか、ちょっと爆発しちゃったかな。まあ、あの子のことだし、ね」
と、いつものことだ、というように、永琳氏は苦笑いを浮かべていた。
「永琳の意地悪のせいで、ずっと我慢させられたけど、これで思う存分、もふもふを堪能出来るわ。ふふ、今年の冬は楽しくなりそう」
そう言って、屈託なくにっこりと微笑む輝夜氏の笑顔は、間違いなく、幻想郷で最も美しいものだった。
過去に例のない、あっという間のスピード決着となった今年の八雲藍氏招致交渉。
見事に招致に成功した、永遠亭、蓬莱山輝夜氏には、惜しみない賞賛を送りたい。
残念ながら、交渉の場にも立たせてもらえなかった各陣営に関しては、また来年があるさ、とだけ伝えておくとしよう。
(射命丸 文)
紅魔館は順番が1番で、油揚げをV字に用意して交渉の席を設けていれば引き抜けたかも。
藍様、1番セカンドのポジションと背番号7番用意するから、青の似合う某猫球団に来てくれないかなぁ……。
『虹がかかった日』って何!?
いかにも幻想郷らしい無茶苦茶な展開が面白かったです。はちゃめちゃ。
できれば各陣営の交渉場面も見たかったのですが、こういう結末もいいかも。
ああ、もふもふしたいなー。
そして輝夜......なんという魔性
さとりの呟きに一瞬笑ってしまった。
私ももふもふしたいなあー、藍様の尻尾は天国だ。
内容はよかったです。
自分もああ、あのキャラもあの時期暇そーだよな、だったら・・・と妄想が膨らみますw
このスピード決着・・・ネタを温存してるのかな。
続きとかサイドストーリー的なもの期待していいのかな?チラッチラッ
誠意はお金ではなく言葉
読んでる最中、何か違和感あるなと思ったらそうだ
「上白沢彗音」になってるところだ
姫様恐ろしい。
・・・らんしゃまもふもふしたい
面白かったです
紅魔館が一度も招致に成功していないというのがまた妙にリアルです
しかしキツネよりまず屋敷のウサギをもふれ姫様。
脱帽ですわ……。
このお話に触発されてしまったので、来年から私も個人で招致を目指します!
発想と、軽快な文章がいいですね。
言いたい事はそれだけだ。
オチが弱い感はありますが、この話には丁度いい塩梅ですね
気になってしょうがねぇ!!!
>>「私、ずっと夢見てたの。あなたと一緒にお昼寝するんだって。尻尾をたくさんもふもふするんだって」
写真はよ、文ちゃんはよ、日本傾国ツートップの共演はよぉぉぉ!!!
という誠に勝手な欲の八つ当たりで20点マイナス。
けど藍様と姫様が可愛いので20点プラス。
もってけ100点!
文句なしの100点です。面白い作品でした