明け方の曇り空から、ふっくらした雪が降り注ぐ。白い光を放ったそれは、そのぼんやりした体に似合わず力強く舞っている。宙を舞い、疲れ、眠る。西行寺幽々子は、その白い蛍のようなものが庭に飛び交う様子をぼんやりと見ていた。
幽々子の視界に人影が映り込んだ。雪かきをしている、庭師の魂魄妖夢である。幽々子は気にせずに、しばらくはそのまま庭を見続けていた。しかし、妖夢の作業がいったん止まったので、ふと下を眺めると、石畳の道が雪を両脇に退けて現れていた。彼女は一瞬だけ残念そうな表情をしたが、すぐに微笑みを取り戻した。そして、自分の近くの雪を踏み越え、その先にある、妖夢の仕事によって再び現れた石畳をゆっくり歩き始める。
妖夢が作業を再開しようとすると、幽々子は近づき、話しかける。
「作業はひと段落したようだし、少し休憩したら?」
「そのお心遣いはありがたいのですが、もう少し先まで石畳の雪かきをやっておきたいのです」
「じゃあ心遣いじゃなくて、お願いだとしたらどうかしら? この雪景色をもう少し楽しみたいし、この後も疲れた顔をしていてほしくはないわ」
幽々子の言葉を聞き、妖夢は少し照れくさそうな表情で礼を述べた。
「ところで妖夢、あなたは足元以外の雪景色をしっかり見ているかしら?」
突然質問された妖夢は、気づいたように木々を見回した。その風景は、白い和紙に少しの色を、必要な分のみ塗っている絵のようだった。白の圧倒的な存在は、その場を静粛させていた。木の幹と枝の焦げ茶は白を際立たせ、とげを持つ柊の葉の緑は積もった雪でさらに色を濃くしている。彼女はその白い世界を眺め、少し不安げな表情をしながら幽々子に話しかける。
「素朴でありながら、艶やかな景色ですね。ただ、私は一瞬、ここが白玉楼ではないように思えました。そして、これもおかしいのですが、どうしようもなく不安になりました」
「あら、不思議ね。ここはあなたの管理する白玉楼の庭のはずなのだけど」
何かを知ったような口調で幽々子が言うと、妖夢は恥ずかしそうに答える。
「……雪の白の世界に、呑み込まれそうでした。そして呑み込まれたら私はどうなるのか、そのような不安が急にこみ上げてくるのです」
「なるほどね。ちなみに、妖夢は今降っているふっくらとした雪、なんて呼ぶか知ってる?」
一通り話を聞いた後、幽々子は逆に尋ねてきた。
「牡丹雪、でしたか」
妖夢は少し弱い声で答えた。
「そう、牡丹雪。由来は、牡丹の大きな花びらが舞い散る様から来ているみたい。もしかしたら、妖夢はその死というイメージを無意識に感じ取ったのかもしれないわね」
「そうだったのですか……。そう考えてしまうと、とても雪が恐ろしいものに思えてきます」
「あらあら、気が弱いわね。死も雪も、そんなに悪いものではないわ。死があるからこそ、生が引き立つんじゃないかしら。さてと、作業の邪魔をして悪かったわね。とりあえず、周りを見ながら好きにやりなさい」
そう言葉をかけて、幽々子は屋敷のほうに向かっていった。少し悩んでいる様子の妖夢は、とりあえず雪かきを再開しようとした。その前に、先ほど見た風景をもう一度眺めてみる。少しして、彼女は真面目な表情で作業を始めたのであった。
牡丹雪はまだ止まない。彼女の頬に当たるそれは水滴になり、弾かれ流れていく。
やっぱり二人には雪景色も似合います。
私は東方キャラと自然風景がある画像が一番好みです。
この作品の雪景色も画像で見てみたいたです。
素敵な作品でした。
これを題材に誰か描いてくれないかなー・・・