実の所私は、自分自身に自信が無い。
私は何も持っていない
あるの九尾のみだ、それだけは替えが難しい。
その他はいくらでも替えが利く、利いてしまう。
だからそれだけだ。
それだけが私の持っているものだ。
私は、九尾だけで好かれている。
私の安寧は、この尻尾があるからだろうと思う。
▽▲▽
少し、寒い風が吹いた。
家の中に入り込んだそれは私の足元を掠めてどこかに走り去る。
不意打ちを食らった私は情けない声をあげて、その後とっさに当りを見回した。
どうやら今の奇声は誰も聞いていない様だった。
聞かれても困ることは無いが、やはり私とて恥と言う概念はある。
橙に聞かれれば情けないと思うし、それ以上に紫様に聞かれた日には…いやよそう。
余計な事は考えないに限るのだ、例えそれがなんであろうと。
少しばかり近くなった空に凛とした青が塗られている。
雲は動く様子も無く、まだしばらく風は来ない様だった。
どこからかさざめきが波のように聞こえて、また潮のように引いていく。
幻想郷は今日も平和だ、多分。
平和なんて長続きしない事は知っているが、取り敢えず今は平和だ。
八雲、私が所属する組織だ。
組織と言うのは些か硬く言いすぎかもしれないが、それより他はどうともいえない。
普段めっきりと活動をしない博麗に代わって結界の修理、そんな事は大抵八雲の仕事だ。
外とは基本隔絶しているので有事の際に外界に出て渉外交渉やら色々やるのも八雲の仕事だ。
これでも年に数回は外に出て外側から結界の歪みやらなんやら調整する、結構忙しい。
他にも生態系のバランス調整、流入してくる幻想の調査等色々地味な作業もある。
これらすべてを賄うのが八雲だ、組織と言っても別に問題は無かろう。
いや、組織と言うのも違うかもしれない。
なにせ八雲には紫様と私しかいない、橙はまだ未熟だから八雲ではない。
障子戸をぴしゃりと閉めて…ちょいと力を入れすぎたかもしれんなこれは。
ともかくあれだ、八雲には二人しか人員が居ない。
別に不足を感じたことは無いのだがな、これでも万事有能で通る式だし。
大抵外に出たがらない紫様に代わって人前に出るのは私だし。
いわば顔役と言っても差支えないだろうと思っている。
まあそんな訳だが、忙しいとはちょっぴり言ったがそれは有事の際でだ。
普段は特に忙しくも無いので偶に気に掛けてみたり、その程度。
それでいいのかと言われれば多少言葉に詰まるが、何事もやり過ぎは良くない。
張り詰めすぎると余裕がなくなる、多少の緩みも必要なのだ。
まあその緩みの結果生じる面倒事も引き受けているから差引ゼロだろう。
それで、普段何をやっているか。
もしかして怠惰に過ごしているとでも思っただろうかそこの君…って誰に話しかけているのだ。
どうやら独り言も迫真に迫る程に私は暇らしい、まずいな。
暇は良くない、それに私には重要な用事がある。
八雲家の家事全般担当、食事洗濯掃除に買い出しに橙の教育に紫様のお世話。
私のもっぱらの任務はこれに尽きる、いや実に。
かたかたと障子戸が揺れる、どうやら風が強くなってきたようだ。
木枯らしかと思ったらそれにしてはひんやりしていたなと思い出したのはその時だった。
やけに冷たい、まるで冬の井戸水の様な――――
そこまで考えて私ははっとまた障子戸の方に振りむいた。
相変わらずカタカタと不気味な音を立てるそれの外は、一体どうなっているのだろうか。
私はそうっと、まるで覗き見る様に外の様子を覗った。
はたして、それは冬だった。
紅葉はすっかり木々から剥がれ落ちて、その抜け殻を地面に横たえていた。
雪こそ振っていないものの秋の日差しはすっかりとなりを潜め、代わりに寒空が堂々と横たわっていた。
遠くの山はすっかり寂しげな様相を呈していて、秋の神様はそろって地面に埋まっていた。
何と言う事だ、秋だと思っていたらもう冬じゃないか。
その事実は静かな衝撃だった、なにせ秋のうちに食べたかったものをすっかりくいっぱぐれたからだ。
まだ焼き芋大会やってない、栗食べてない、紫様にねだって秋刀魚とか食べようとしたのに食べてない。
何と言う事だ、家事にかまけて秋を見過ごしてしまったのだ。
ショックだった、これはしばらく立ち直れないと思った。
具体的に言うと大体三時間ぐらい立ち直れそうになかった、その後買い物に行かねばならない。
どれだけ辛い事があろうとも誇り高き八雲は前に進まねばならぬのだ、悲しい事だ。
ひゅるひゅると隙間から吹き込む風がただただ物悲しかった。
ひたひたと、誰かが階段を下りてくる音がしたのはその時だ。
いや、誰かと言うより我が家の二階に上がれる者なんて一人しか居ないのだが。
またあの方は裸足で廊下を歩いているらしい、全く嘆かわしい事だ。
もし私が掃除し残して汚れたらどうするのだ、それにこの寒さで素足なんて寒いではないか。
溜息を一つ吐くと、私はあえて何も気づいていない風に襖から目を離した。
程なくして私の居る部屋の前まで到達した足音の主はそうっと、怖ろしげに襖を開いた。
まだ見ない、まだ気づいていない振りだ。
静かに襖が開かれる音と誰かが部屋に入ってくる気配、空気がと私の気配が撹拌される感覚。
そのままそろそろと部屋に入ってきた侵入者は来た時と同様に襖を静かに閉め、そろりそろりとこちらに近づく。
まだだ、堪えろ八雲藍。
お前は出来る奴だ、この程度なら余裕綽々で堪えられる筈だ。
そのまま、そろそろと私に気配が近づく。
いや正確には、私の体で最も重要な箇所。
あとちょっと、あとほんのちょっとで触られる。
そこで
「あ、おはようございます紫様」
実にいい笑顔で振り返ってやった。
手を差し伸ばしたまま硬直する紫様の顔は多分向こう百年忘れないだろう。
▽▲▽
「いや、紫様がこんな時間に起きてくるとは思ってませんでしたよ」
「偶にはそういう日もあるの、従者なら察しなさい?」
「精進します」
頭を下げた後、ことんと紫様に茶を差し出す。
ふーふーと少し冷ました後で一気に飲み込んだ紫様は憮然とした態度で頷いた。
「本当にもう、藍はこれだから」
「まだ未熟者ですから」
「勉強なさい、八雲の名に泥を塗らないように」
「はい」
やけに機嫌が悪い、いやその理由なんてとっくのとうにわかっているのだが。
誤魔化しているつもりだろうが時々見せる物欲しそうな目つきでばればれだ。
視線の先には私が最も自慢としている九尾がある。
いつの間にかすっかり冬毛に生え変わってしまったので恐らく無意識に処理したのだろうが迂闊だった。
普段ならば季節の移り変わりをこれで実感すると言うのにどうやらボケ過ぎていたらしい。
やはり平和ボケは怖い、気を引き締めねば八雲の名が廃る。
ともかく、視線の先にはもふもふで柔らかい光を反射する尻尾が九本。
私の象徴である九尾、私の力の象徴。
これが欲しいのだ、紫様は。
これで思う存分もふもふしたくて堪らないのだと言う事を私はよく知っていた。
気付いた時からそうだった。
冬になれば、と言うより寒くなれば紫様は決まって私に付きっ切りになる。
理由なんて尻尾で思いっきりもふもふするからに決まっている、それはもう思う存分やる。
この時期に紫様が私の尻尾を所望するのは通過儀礼であり、つまり一種の儀式でもあった。
私としても幸せそうに緩み切った紫様の顔を見るのは幸せだ、アルバムは山ほどあるが生で見るのとは勝手が違う。
紫様は尻尾が好きだ。
良く私の尻尾を弄ったりしている、結構頬ずりしたりして楽しんでいる。
私は紫様が幸せそうで嬉しい。
だが、それと同時にぽっかりと心のどこかに穴が開いた様な虚ろな感情も覚える。
やはり、私にとっての取りえは尻尾しかないのだと。
だが今年はちょっと意地悪をしてみようと思う。
紫様が尻尾が欲しいと直接言うまで尻尾には触らせない、突発で考えたにしては実にいいアイデアだ。
別に深い意味はない、強いて言うなら紫様の困り顔を見たい。
普段から色々やっているのだからこれぐらいしたって罰は当たらないだろう。
さていつまで持つか、実に楽しみである。
「ねえ、藍」
「はいなんでしょう」
「最近寒くなって来たわね?」
「そうですね…いつの間に冬が来たんでしょうか」
「そうよね、季節が巡るのは速いわね」
会話が切れた。
私は相変わらず笑顔のまま座ってお茶を飲んでいる。
対する紫様はもじもじと、何か堪える様に指を回したり組んだり忙しそうだ。
時折「あの」だの「その」だの言っては「なんでもない」だの自己解決している。
見ていて面白いのでこのまま何もせずにおこう。
「あ、そうだ」
「はいなんでしょう」
「この間猫を見たのよ」
「橙の眷属でしょうか」
「そうじゃないと思うけど…どうかしらね」
「まだ制御しきれてないようですし、聞いても分からないかもしれません」
「もうちょっとちゃんとしなくちゃね」
「そうですね、それで猫がどうしました?」
「えーっと…」
そういうと頻りに中空に視線を彷徨わせたり、指を組んでは離したり。
時々ちらちらとこちらを見てくるが助け舟は出さない。
暫くそうした後、はっと思い当たったかのように手を叩いた。
「そうそう、尻尾がね」
「尻尾」
「可愛かったなーって、それだけ」
「確かに可愛いですよね」
「……」
「……」
「…それだけ」
どうやら尻尾からアプローチする作戦だったらしい。
会話が終わった後黙ってこちらの顔を見ていたが作戦の不発を悟ったらしくまた誤魔化す様に茶を啜った。
確かに猫の尻尾はひょろっとして可愛い、狼の尻尾はさらさらしていそうな気がする。
そんな事を考えながら早四杯目の緑茶を自分の湯呑みに注いだ。
「それにしても、藍ってお茶淹れるの上手いわよね」
「そうでしょうか?」
「並の茶屋じゃ飲めないわよ、美味しいわ」
「ありがとうございます」
「それに料理するのも上手いし…」
「でも、大抵それって紫様から教わりましたが」
「……」
「……」
「…そうだったわね」
「ええ」
今度は煽てる作戦に出たらしいがまた不発、鼻をかむ仕草をしてこちらから顔を逸らした。
まあ出来た式だとよく褒められるが大抵私が出来る事は紫様がもっと上手く出来る。
私に式をインプットしたのは紫様だから当然の事なのだがそれすら忘れていたらしい。
忘れていません紫様、割烹着姿をした貴方の写真はしっかりと焼き増しして持っています。
「そう言えば、橙は貴方の事を本当によく慕ってるわよね」
「主人として嬉しい限りですよ、本当に」
「じゃ、私も慕ってくれてるのかしら?」
「勿論ですとも紫様」
「……」
「……」
「…ありがとう」
「はい!」
今回は橙越しに私を褒めたらしい、正直遠回り過ぎて本来の目的から遠ざかっている気がするが私的には問題ない。
こんな事をしているが無論紫様を慕っている、そりゃもう一切の曇りなく。
真っ直ぐに紫様を見つめていたらふっと目を逸らされた、頬に朱が刺している。
そのままもごもごと何か言っていたが結局紫様の中で消えてしまったらしい。
空の湯呑みをずいと出されたので急須からとぽとぽと注ぐとちびちびと啜り始めた。
そのまま、どれぐらい経ったのだろう。
あの後紫様はすっかり黙ってしまい、時折こちらにお代わりを要求する。
そんなに飲んだら厠が近くなると思ったが妖怪なので体内処理ができるのだろう、多分。
相変わらず寒そうな風はかたかたと障子を揺さぶり、部屋にはそれぐらいしか音が無かった。
そろそろ意地悪はやめた方がいいのではないか、ふとそう思う
紫様を思う存分弄り回したからかは知らないが気分はすっかりと落ち着いていた。
主人をからかって充足感を得るだなんて碌でもない従者だが、別に困らせようとしている訳では無いのだ。
偶には普段と違う事をしてみたい、違う面も見てみたい、それだけ。
その面では十分な程見れたのではないか、そうとは思う。
ならここらで終わりにしても――――
「紫様?」
「ひゃいっ!?」
そう思った矢先に丁度尻尾の部分に開いた隙間から手を差し入れる。
そのまま誘導するように引っ張り出すと案の定白い腕が覗いていた。
微笑んだまま紫様の方を向くとびくりと震えてからふっと目を逸らされた。
「いきなり隙間展開しないでください」
「ついよ、つい」
「なにかあったんですか?」
「…何にも」
どうやら意地でも尻尾に触りたいと言いたくない様子だった。
変なところでプライドが高い、いや低くても困るのだが。
困った
いつの間にかするりと白い腕は抜け出し、隙間は掻き消えていた。
▽▲▽
それから数刻経つ
何も動かない、紫様は相変わらず中空を見つめたままだ。
その頃になると私の中の様々な事が水面のように静まり返り、ようやく私はそこに自分を映す事が出来る。
なぜこんなにも意固地になっているのだろうと考える。
先程はそれっぽい理屈をつけたが、やはりおかしい。
普段なら紫様に意地悪なんてしない、しようとも思わない。
私にとっての彼女は仕えるべき存在、護るべき存在、大切な存在。
であるからして、通年なら私の尻尾で思う存分色々開放する彼女を見るのが何よりの楽しみだった。
馬鹿なのは私ではなかろうか、と思う。
つまらない思い付きで、特に理由も無いままそれを引き延ばしている。
それが自分の中でだけ完結するならまだしも、事もあろうに紫様まで巻き込んでいる。
それもこれも、きっと自分が未熟だからなのだろう。
謝ろうと思った。
折檻を喰らうかもしれない、それでもいい。
非礼をわびて思う存分尻尾に触らせてあげよう。
布団代わりになっても良い、一晩中護る様に包んであげよう。
私は急に、紫様のだらしなく緩んだ顔が見たくなった。
私の尻尾の中でだけ見せてくれるであろうあの顔、思い出すたびに心がどこか締まる様で。
ああ、まただ
何故かは知らないが私の中の何かが、まだ意固地なままなのだ。
その事に私は激しい自己嫌悪を抱く。
「らん」
唐突にそう、呼ぶ声が聞こえた。
半ば反射的に「はいなんでしょう」と振り返りそうになるのをすんでのところでぐっと堪える。
何かがおかしい。
「らん?」
今度は若干疑問がかった語尾で、私の名を呼ぶ声がする。
紫様の声、だけどそれはどこか甘くて。
なんだこれは。
寒風に当っている筈の額から汗が一滴たらりと落ちた。
「らぁん」
「―――っ!」
咄嗟に舌を噛まなければ、いつの間にかだらしなく緩んだ気がそのまま溶けだしていただろう。
じくじくとした痛みと気持ちの悪いしょっぱさが口に染み渡るが。
甘い声だった、脳味噌を蕩けさせそうなほどに甘い声。
並の男なら一発で骨抜きになっていただろう、私も危うかった。
ゆっくりと、ピントを慎重に合わせる様に。
「紫様?」
「らん」
私は、私の主人を見る。
「らん」
熱に浮かされて蕩けたような瞳を見る。
こちらを引きずり込んでしまう様な媚びた瞳を見る。
「ら ん」
ぞわりと
背筋が逆立つ
滑らかな手が、いつの間にか胴に当てられていた。
抱き着くように、締め上げるように。
「らぁ ん」
そのまま這い上がる様に、胴から肩に、首に。
頸動脈が締め上げられるような錯覚を覚えて私は、私は。
逃げられない
魔性の瞳がこちらを捉えて放さない。
逃れられない
「ゆかり様」
「らん」
そのまま、手は後頭部に当てられ
まるで引き摺りこまれる様に手繰り寄せられる。
ひたりと、手の平に何かが零れ落ちた。
はたと目を合わすと、彼女の眼には涙が溜まっていた。
「らん」
「はい」
「私の事、嫌いになったの?」
「えっ」
「どうして素っ気ない態度を取るの?」
「いえ、それは」
溢れる
堰を切ったように、眼球からじわりと涙が染み出す
あ、これは紫様泣いてるわ、やばいわ
まるで熱が冷めるかのように私は急に冷静になる
「いやいやいや、嫌いになった訳じゃなくて」
「だって、いつも私が尻尾に触ると嬉しそうな顔をするから」
「ちょっと意地悪したくなっただけです」
「嫌になったから尻尾触らせてくれないと思った」
「そんな訳ないですからほら、好きなだけ触ってください」
尻尾を差し出すと思いっきりダイブされた、地味に痛い。
そのまま錐もみ大回転やらなんやらアクロバティックにもふられて地味に痛い。
どんなもんかって服に毛が引っ張られて痛い。
さっきまでの空気は何だったんだろうか。
思いっきり尻尾をエンジョイする紫様を尻尾で感じながら私は急に煙草を吸いたくなった。
なんかやってられない、やるせない。
紫様こうしてると話してくれないし、尻尾がそんなにいいのだろうか。
私の存在意義は尻尾なんだろうか、別に悪い気はしないがつまらない。
もし来世があるなら私は尻尾になりたいと真剣に考え始めるのはおかしく無い筈だ。
「やっぱり藍の尻尾は最高ね!」
尻尾海水浴が一段落したらしく幼女と化した紫様がひょこっと顔を出した。
どうやら尻尾ダイブを敢行した時に大人モードから変位したらしいので違和感はあまりない、“あまり”ない。
どの道尻尾で遊ばれるのは毎年恒例なので気になりもしないのだが。
「藍の尻尾はお日様の匂いがするわ」
くんくんするのはいいがお日様の匂いとは多分布団の中のダニが日光消毒で死んだ香りだ、絶対に言わないが。
でも手入れちゃんとしているのだが、紫様が飛びついてくる事態に備えて清潔度は幻想郷トップクラスなのだが。
「元気そうで何よりです」
「やっぱり冬はこれに限るわ」
「あんまりぼさぼさにしないで下さいよ、手入れ大変ですし」
「ちょっと興奮しっちゃっただけよ」
まあお預けにした自分が悪いのでとやかくは言わない。
言わないけれど、褒められているのが自分ではなく尻尾であるような気がしていい気にはならない。
「藍」
いいのだ、紫様は尻尾で快適に温まる事が出来れば。
私はそれでいいのだ。
別に私でなくとも、尻尾がもふもふしていればいいのかもしれない。
代わりが居るのだとしたら寂しい気もする。
それでもそれが紫様の幸せにつながるなら…私は割り切れるのだろうか。
「藍」
もしも急に私より尻尾が良質で性能のいいのが来たらどうしようと時々考える。
私はお払い箱になるのだろうか、それとも雑用になるのだろうか。
もしかしたらまだ傍に置いてもらえるかもしれないが…それでも紫様の傍に私以外の誰かが居ると言うのは嫌なものだと思う。
なんて、私が考えられる身分ではないが。
「らーん!」
「あ、はい」
「貴方、主に悪戯するなんて良い度胸してるじゃない」
「…申し訳ありません」
これは、私の罰だ
つまらない事を考えた罰だ
意固地になった罰だ
「一緒に外、行きましょう」
「…へ」
「だから、外行きましょ」
「罰は」
「それが罰よ、私はまだ秋の美味しいもの食べて無いもの」
「……」
「分かった?」
それは罰と言えるのだろうか、それとも深い考えがあるのだろうか。
分からない
私は、紫様の考えが分からない。
「はい、お供させていただきます」
「良い返事ね」
だから肯定しようと思う
私の全部を預けた者を肯定しようと思う。
「…寒いですね」
「私は暖かいわ」
「それなら十分です」
私の平和が安寧である内は、このままでいよう。
それが、私だ。
八雲紫の式、八雲藍だ。
私ももふもふしたいなあ…。
九尾をエサに紫様をいじくる藍様がいいねー。
続きを期待したいような面白い話でした。