Coolier - 新生・東方創想話

地底の宴~橋姫の憂鬱

2013/11/11 19:11:58
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 私は橋姫、地上から地底の旧都に続く縦穴を監視している妖怪だ。監視といっても、勝手に独りでやっているだけである。近頃、ここを通る妖怪もとい人間が増えた。楽しそうな巫女や魔法使い、陽気な天狗……。ああ、今考えるだけでも妬ましい。だが、最近は目立った動きがない。白黒の魔法使いが旧都にいる鬼と飲みにいく程度であって、誰も通らない。つまらない。面白くない。妬ましい。自然と溜息が出て、空を仰ぐ。空は見えないけど。そうして、上を見ていると何かが落ちてくる。何だろうか、人間? いや、それにしてはあんなに丸いのはおかしい。段々、近づいてきて分かった。桶だ。そう気づいたときには遅かった。顔にものすごい衝撃が走り、同時に強烈な痛みが顔を襲う。痛みに悶絶していると、桶の中から女の子がこちらを覗いてくる。そして、ニタニタ笑い始める。
「成功、成功、大成功~♪ 本日も晴天なり~♪」
 甲高い声を縦穴中に響かせ、喜んでいる。少女は『釣瓶落とし』のキスメだ。私は痛みに耐えつつ、少女の笑顔に嫉妬することにした。最近はここを通るものも少ない。これを糧として、とりあえず帰ろう。鼻が痛い。
「土蜘蛛の旦那! 大成功ですよ!」
「あーあー、聞こえてる聞こえてる。それにしてもすごい当たりだったね。クリーンヒットってやつかい?」
 キスメが上の方に向かって叫び、上の方からゆっくりと少女がまた降りてきた。今度は『土蜘蛛』、黒谷ヤマメだ。
「おやおや? 嫉妬しているのかい? パルスィさん?」
「うっさい、嫉妬なんかしていないわ」
 私はそう言って、ヤマメの頬を叩く。
「あいた! ……もういいじゃないかー。今日はパルスィの誕生日なんだし、ちょっとしたサプライズよ?」
「……今日、私の誕生日じゃないけど?」
「バレたか」
「どこにバレる要素があったのよ」
「まあまあ、いいじゃないか。さあ、パルスィの家に行くよ!」
「おー」
 ヤマメとキスメはそう言って、旧都に向かっていく。私は呆れて、今まであった嫉妬心 さえも消え失せてしまった。


 私の家は縦穴近くにある。そして私の家の前には立派な橋がある。この橋は私に欠かせないものだし、それなりに気に入ってる。その橋を尻目に前を歩くヤマメとキスメは、私の家に勝手に入り始めた。いつものことだから、気にはしていないがああいう楽観的にものごとを考えるやつは、妬ましい。正直に。
「ほらー、パルスィー。今日は、パルスィの誕生日なんだから、ご飯よろしくー。お酒はもう準備してあるんだ」
「誕生日じゃないし。というか、私にご飯を作らせるつもり? 厚かましいにも程があるわ」
「なに言ってるんだい? ここはパルスィの家じゃないか、ね? キスメ置いてくからよろしくー」
「ちょ、どこ行くの?」
「今日は宴会だよ! 地底のみんなを巻き込んでの大宴会! 楽しみにしとくんだよー」
 そう言うと、ヤマメは走っていってしまった。私とキスメは呆然と立ち尽くしていた。
「ねえ、キスメ」
「なんでしょう?」
「その桶、水汲むのに使うから貸して」
「だ、だめです!」


 宴会、というのだからガッツリ食べれるものは好まれない、はずだ。酒を飲みながらつまめる程度のもの、つまり酒の肴が必要だということ。酒の肴は作るのは簡単だが、品数が多くなるため面倒だ。地底には鬼がいる。大変だ。キスメはというと、手伝わずに遊んでいる。私としては遊んでもらったほうが手間が省けていいのだが、あんなに無邪気に遊ばれると私の中の嫉妬心がそっちに集中してしまって調理どころの話ではないのだ。それにしても、さっきからキスメは誰と話しているのだろうか。できるだけ、キスメの方を見ないで調理していたのだが、急にしゃべり始めたのだ。少々不気味だった、喋り始めたときは。独り言と思ったけども、それにしては会話が成立しているような感じでもある。キスメが誰かと話している、そんな違和感が私の頭の中で渦巻き、困惑させた。気になって仕方がないのと、キスメの無邪気な笑い声に対する嫉妬が相反としぶつかり合う。これは困ったな、と冷静に考えながら豆腐を揚げている。そんなことを考えていると、不意に服の裾を引っ張られる。キスメだと思い振り返るとそこにいたのは。
「橋姫のおねえさん。今日、誕生日なんだって? だから宴会の準備してるのね。いいなあ」
 黒い帽子に黄色いリボン、薄く緑がかった灰色のセミロング。無垢な銀色の瞳が私を見つめる。その瞳が私の心を見透かしてそうで怖いが、その心配はいらない。元々は『心を読むことのできるサトリ妖怪』だったのだが、なにかしらの理由で閉ざしてしまった。『心を読むことのできないサトリ妖怪』、それが彼女、古明地こいしだ。
「そう、ね。でも一つ勘違いしてる。今日は私の宴会じゃないの。ただの宴会よ」
 彼女はただ「ふーん」と相槌をうって、今度は今揚げている豆腐の方に視線を送る。
「これは……豆腐? 揚げ出し豆腐ってやつにするの?」
「そうよ」
 彼女はまた「ふーん」と言ってから、キスメの方に歩み寄りこちらに向き直る。
「じゃあ、橋姫のおねえさん。私、この子と遊んでくるからね。頑張ってねー」
 キスメを持ち上げ、外に出ていってしまった。二人がどんな遊びをするのか興味があったが、今はこちらの豆腐を気にしたほうがいいだろう。焦げたら困るし。


 なんだかんだで結構な品数ができた。あとは、ヤマメを待つだけ――。
「外からいい匂いしてたよ、パルスィ。準備できた感じかい?」
 噂をすればなんとやら、ヤマメがタイミングよく帰ってきた。鼻で匂いを嗅ぐ仕草をしてから辺りを見渡す。
「キスメは役立ったかい……って、キスメは?」
「キスメなら、地霊殿に住むサトリ妖怪の妹と遊びに行ったよ」
「あれま」
 キスメは少し驚いた表情を見せ、外に出ていく。私もそれに続き外に出てみると、私のお気に入りの橋で『まりつき』をしていた。『まりつき歌』を歌いながら。
「仲良いねえ」
「そう?」
「そうだよー。あの二人の無邪気な楽しそうな顔を見れば一目瞭然じゃないのさ」
「そう、ね……。妬ましいわ」
「お、橋姫さんの本領発揮ですね?」
「ふん。今日は見なかったことにするわ……。ヤマメ、宴会するんでしょ? 最後くらい手伝いなさい」


「そういえば、宴会にはどれくらい集まるのかしら?」
 私の家は狭い。だから、家の前で宴会を開くことした。今は家から床にしく布やら料理などを運んでいる最中だ。そんな中、ふと気になったのでヤマメに聞いた。たくさん料理を作ったのだから、それなりに集まってくれないとあとでヤマメの嫉妬心でも操ろうと思っていたところである。
「んー、鬼たちは来るよ。でもね、もうお酒は飲んでたよ。ほら、この前来た白黒の魔法使いの人間と。地霊殿の方は分かんないなあ。誘ったけど、あまり乗り気じゃなかったしねえ。あそこの動物たちは目をキラキラさせてたけどね」
「おねえちゃんも誘うの?」
 こいしが突然、目の前に現れ手をパタパタさせながら聞いてきた。さっき、キスメと一緒に料理を運ぶよう頼んだはずなのだが。キスメの方はというと、こいしがいなくなったからなのだろうか、一人困っている。
「誘いたいねー」
 こいしは、ヤマメが発言した途端、手をパタパタさせるのを止める。少しばかりの沈黙の後、こいしはニコッとする。
「じゃあ、私が連れてくるよ」
「え、いいの?」
「うんー。だって最近、おねえちゃん、本読んだり書いたりしかしてないもん。家の外に出ないのはよくないことだよね!」
「そうだよー。運動不足とか大変だよー。ね、パルスィ?」
「そ、そうね」
 急に話しかけられるもんだから、持っていた枝豆を落としそうになった。こいしはさっきよりも腕をブンブンと振り、喜びを表現しているようだった。
「では、いってきます」
「いってらっしゃい」
 こいしは左手で敬礼、ヤマメは右手で敬礼をする。どっちが正解かなんて私には分からない。
「さあ、もうひと踏ん張り! パルスィ! さっさと準備を終わらせちゃうよ!」
「じゃあ、くつろいでないで働け」
「くつろいでないよ? 場所取りをしているんだよ」
「………………」
「ごめんごめん~。手伝うからそんな怖い顔しないで~」


「お~っす」
 酔っ払いの声がする。そう言ってはダメか。振り返ると、鬼が二匹、人間が一人いた。
「先に飲んでたよ、悪いね」
「それにしても、ここは本当陰気臭いね。地上に出てみなよ。面白いぞー」
 鬼の四天王が二人、星熊勇儀と伊吹萃香だ。前者はいいとして後者がなぜここにいるのか不思議だ。
「おいおい、まだ飲むのか? さっき何本空けたと思ってんだ」
 いつもは強気な人間が今日に限って弱気だ。そんな魔法使い、霧雨魔理沙。
「どうしたんだい、さっきまでの威勢は。そんなんじゃ、私たちには勝てないぞ」
「そうだぞー、魔理沙。そんな弱気だと天狗にも負けるぞー」
「酒で勝てなくても、弾幕では勝てるぜ」
 勇儀と萃香が魔理沙を茶化し、それに対し魔理沙が反論する。彼女たちの間では、これが日常茶飯事なのかもしれない。
「だいぶ揃ってきたね。あとは地霊殿の面々のみ!」
「お、あいつらも呼ぶのか」
 魔理沙がすっとぼけた感じで聞く。
「そうだよ。さっき、こいしが誘いに行ってきてくれてる」
「あり? 土蜘蛛さんや、地霊殿に行ってなかったの?」
 今度は、萃香がすっとぼけた感じで聞く。
「行ったんだけどねえ。『行けたら行く』って言われたんだよねー」
「行きたくないときの決まり文句だな」
 魔理沙が腕を組みながら頷いている。そういう経験でもあるのだろうか。
「まあ、そんなことはいいじゃないか。先に飲んで待っていようよ」
「そうだね。……ここらの料理は誰が作ったんだい?」
 萃香と勇儀はすぐお酒を取り出し、近くにある料理の見定めを始める。
「それは、橋姫ことパルスィだよ」
「ほう」
「へえ、橋姫が作ったのかい。嫉妬を詰め込んでないだろうね」
「ふん。あんたにだけは入れておくわ、『小さな百鬼夜行』さん?」
「ほらほら二人共、ケンカはよしな。萃香、今日は純粋の酒を楽しもうじゃないか」
「なんだい、勇儀。私は楽しんでるよ。……まあ、なんだ。悪かったね。私も鬼だ。寛容にならなくちゃね」
 私と萃香の一触即発を止めたのは、萃香と同じ鬼の勇儀だった。鬼は誠実で裏切ることがまずない。仲がいいやつだけにだが。ということは、私とこの鬼たちは仲がいいのだろうか。
「なあ、そろそろいいかあ?」
 傍観者としていた魔理沙が手を挙げる。
「どうしたんだい、魔理沙」
「なあに、私はこういう宴会の幹事は得意なんだ」
「誰もそんなこと聞いてないわ」
「まあ、いいじゃないか、橋姫。というわけで、二次会の始まりだ」


「連れてきたよー」
「おー」
可愛らしい声が聞こえ、振り向いてみるとこいしが満面の笑みで走ってきた。
「あれ、もう飲んでるの?」
 すでにほろ酔い気味の私たちを見て、こいしが驚いた表情をする。
「悪いな、鬼たちがうるさいから先に飲んでたぜ」
「うるさくないぞー」
 酔っ払いが何を言う、と思ったけど何も言わない。今はお酒を飲んで、いい感じだからあまり争いごとは避けたい。
「……こんばんは」
 小さな声で照れながら、というわけではないかもしれないが呟くように挨拶をしてきたのは、こいしの姉こと『心を読むことのできるサトリ妖怪』、古明地さとりだ。後ろには彼女のペットがいた。
「こんちはー」
「お、今日はペットも一緒なのか」
「お、あんたはいつぞやの人間じゃないか」
「というか、猫の方はいいとして。鴉の方は大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。今はただの鴉にしてありますから……」
 さとりの肩に乗っている鴉が鳴く。地霊殿のペットの中でも頻繁にみる猫もとい『火車』、火焔猫燐。核融合の力みたいなものを持った『地獄鴉with八咫烏』こと、霊烏路空。
「まあ、いいか。さあて、どんどん飲んでいこうぜ」
 というわけで、地底に住んでいる妖怪の愉快な(?)宴会が始まった。鬼たちは豪快にお酒を飲み、次々と瓶を空にしていく。ヤマメはこいしとキスメに自分の糸であやとりを見せてあげている。人間と猫は、早食い競争的なものを繰り広げている。私はというと、ちびちびお酒をずっと飲んでいる。
「楽しい、みたいですね」
 そう声をかけてきたのは、さっきから肩に乗っている鴉に温泉卵を餌付けをしているさとりだ。
「この宴会が?」
「いえ、あなたの心がそう言ってます」
「そう、かしら」
「ええ。今まで退屈だったけど今は純粋に楽しい、とそう言ってます」
「……心が読まれるのは怖いわね」
「すみませんね、心が読めて」
「いいわよ、別に」
「照れてるんですか、表情でも分かっちゃうほど赤いですよ」
「……酔ってるだけよ」
「さとり様ー、卵ばっかり嫌ですよー。私もお酒が飲みたいです」
 急に声がしたと思ったら、さとりの姿が消えた。代わりに大きい鴉が姿を現した。
「お空! さとり様が下敷きになってるよ!」
「うにゅ?」
 猫が叫び、鴉が呆ける。少ししてから鴉が気づく。そしてなぜか、猫も加わっての土下座大会が始まった。
「……もういいから、あっちで遊んできて」
 そう言って、魔理沙の方を指す。
「んあ、私か? おいおい、そんな危険なペットは専門外だぜ」
 そんな魔理沙の言葉は無視で、二匹のペットは魔理沙に突っ込んでいく。
「大丈夫、かしら」
「……あんなに仲がいいなんて妬ましい、ですか。そうでもないですよ。私を避けてるのもいますから」
「………………」
「……それにしても、こういう催し物はいいですね。心を見てて不快な気持ちになりませんから。みんな、心の奥底から楽しんでる。羨ましいですよ」
「私の嫉妬、わけてあげようか?」
「いえ、大丈夫です。私にはそういう邪心がありませんから」
 なにか私の存在を悪く言われたようで仕方がない。
「そういうわけではありませんよ。……強いて言うなら――」
「おーい、そこの二人ー! こっちに来なよー」
 ヤマメに声をかけられる。私は仕方がない、と重たい腰をあげる。さとりもそれに続く。
「さあ、宴は始まったばかり! かんぱーい」
「かんぱーい」
 ヤマメの一言で一斉に御猪口を掲げる。一人だけ大きい盃のやつがいるけれど。その後はみんな、和気藹々とそして時にはケンカになり弾幕バトルが繰り広げられたりと、騒がしかった。それでも、なぜだろう。嫉妬みたいな暗いモヤモヤがなく、とても楽しく、明るい気持ちになったのはいつ以来だろう。こういう毎日が続けばいいのに、でも、人の嫉妬を操るのも楽しい。こういうのって、二律背反、とか言うのだろうか。まあ、そんなことを気にしてはダメだ。私が、地底に住む妖怪がここにいれるだけでもそれでいいのかもしれない。私たちは、人々から怖がられなくなり、信じられなくなった存在。いれるだけ幸せなのだろう。橋姫の私が言うことではないのかもしれないが。だから、この幻想郷とかいうところでも忘れられぬように生きてくしかないのだろう。私はとりあえず、このなんともない日常をただただ生きていこう、とかと思いつつお酒を飲むことに専念した。鬼と人間が始めた弾幕バトルを眺めながら。
ここまで読んでくださった皆様に感謝です。
パルパルの視点で書いてみましたがどうだったでしょうか?
初投稿で緊張(?)してますが、楽しんでいただけたら幸いです。
大和真二@カイつー
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コメント



0.310簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
ありふれた題材ではあるけどいい雰囲気でした
これからも東方ssを続けるなら頑張ってください、応援してます
6.80名前が無い程度の能力削除
>いえ、大丈夫です。私にはそういう邪心がありませんから
よく言うわw
7.80奇声を発する程度の能力削除
雰囲気が好みでした
8.60名前が無い程度の能力削除
んー、悪くはないんだけど色々と物足りない感じが
今後に期待