Coolier - 新生・東方創想話

変な声が出た

2013/11/10 08:32:09
最終更新
サイズ
17.35KB
ページ数
1
閲覧数
4816
評価数
9/37
POINT
1870
Rate
9.97

分類タグ

 妖器『ダークスパーク』とは、皆さんご存じ魔理沙の輝針城での新スペルである。
 その説明やネーミングから、「魔理沙ちゃんやっちゃったな」とか、「厨二な魔理沙ちゃんもそれはそれで」とか、「魔理沙の黒歴史がまた一つ」などと感想を持たれた方も多いだろう。魔理沙は既に忘れ去りたい記憶に分類しているらしく、冷静になった時一人身悶えしていた模様。
 異変に関わった、特に霊夢や咲夜は弄るネタが増えたと影でほくそ笑み、魔理沙への嫌がらせを絶賛画策中だ。それほどまでに、今回の魔理沙の変貌はインパクトが強かった。

 今、博麗神社では、異変解決後恒例の宴会真っ最中だ。組織が関係していなかったので規模はいつもより小さめだが、話を聞きつけた古参や騒ぎを嗅ぎ付けた抜け目ない奴等が各々に食材を持参し、料理も豊富でそれなりに盛り上がっている。
 ちなみに真の首謀者である鬼人正邪は出席していない。針妙丸やその他騙していたメンバーと顔を合わせられるほど面の皮は厚くなかったようだ。
 わかさぎ姫が捌かれそうになったり、九十九姉妹や雷鼓らが即席ライブをやり始めたりしたが、それぞれ楽しい時間を過ごしていた。……一名の大妖怪を除いては。

 参列に並べられた長机に、二十名ほどが集まっている。膝ほどの高さの机には様々な種類の料理が。面子はうまくバラけているが、主人公組は固まっていた。
「静まれ、静まるんだ闇の鼓動……! だ、ダメだ、ダークスパーク!」
「ウワァァアアアア! やめろよぉ!」
 右腕を堪えるように押さえている霊夢に、魔理沙が飛びかかる。霊夢はヒラリとかわし、魔法を放つポーズをとった。
「ぶっ……」
 思わず吹き出す大妖怪が一人。しかし魔理沙たちと同じ列に座っている彼女に誰も気がつかない。
「ファファファ、全てを闇に還し、私もまた闇に還ろう……ファファファ!」
「咲夜ぁー!」
 咲夜が魔理沙の背後で、両手を大きく広げて邪悪な笑みを浮かべた。そんな咲夜に鋭いアッパーを叩き込もうとする魔理沙。だが華麗に避けられてしまう。
「ぐふっ……ゲホッゲホッ……」
 またもや先程の妖怪が咳き込んで反応を見せた。コップの水を飲んで詰まっていた手羽先をなんとか押し込み、不安そうにあたりを見回す。
 宴会の参加者は皆魔理沙の慌てふためいた様を見て笑い転げていて、注目を集めていないようで胸を撫で下ろした。
 花の香りのようにふわふわとした緑髪を持ち、整った鼻筋を誇り、超然としていながらその正体は超強力な花の妖怪、フラワーマスターこと風見幽香は大きく溜め息を吐いて、この宴会に参加したことを心底後悔していた。
 目立たないように、話しかけられないように、できればこの話題が早く終わってほしいと願いつつ、味もよくわからないつまみを頬張る。
 幽香は、たまたま人里に出掛けたときに魔理沙と出会った。彼女から宴会の開催が知らされ、面白そうと参加を決意。新しい面子の中に骨のあるやつはいるのかどうか楽しみにしながら帰宅し、野菜を手土産に神社に向かった。そこまではいい。
 しかし知る人ぞ知るドSな妖怪がどうしてこんなにも怯えているのか。
「このアルティメット・ウィッチ魔理沙様には三千世界を滅ぼすことなど片手間で十分!」
 今度はいつのまにか参入していたこいしが便乗してきた。まるでイの字のように体を傾けた不自然なかっこいいポーズ。
「マスパで消し飛ばすぞぉ!」
 魔理沙がこめかみをピクピクさせながらこいしの首根っこを捕まえるが、こいしは舌を出して反省の色など微塵もない。幽香もまた、マスパで暴れたい気分だった。
 土手煮が口から飛び出そうとするのをどうにか寸前で止め、しかし肩の震えが止まらない。
「……どうしたのかしら?」
 二つ隣にいた紫がついに挙動不審に気づき、自分の式を挟んで話しかけてきた。
「いえ、なんでもないわよ」
 清々しい笑顔を返す。非の打ち所もない。
「そ、そう、……ならいいけど」
 食あたりか何かを起こしたのならからかってやろうとしていた紫だが、詰まらなさそうに唇を尖らせて引き下がる。紫が魔理沙たちの方に興味を戻したのを見て幽香は頭を伏せ、冷や汗を垂らす。喘息を起こしたように息は荒く、目は充血している。
 まるで病人だ。まるで元厨二病人だ。その通り。『ダークスパーク』の使い手は、一人ではなかったのだ。
 今ではもう封印されこの世に発現することはないが、幽香はマスタースパークを完成させてしばらくして、なにか物足りなさを感じていた。それはかっこよさである。
 マスタースパークそのものがロマンの結晶でありながら、幽香は飽き足らず次なる技を考えていた。その当時、闇とか暗黒などをスッゲェかっこいいとときめいていて、結果できたのが『ダークスパーク』であった。
 しかし考え方も時と共に変わるもので、靈夢たちと出会う前に使用を自粛し、もう二度とその存在は明かされないだろうと油断していたのだが……マスタースパークの伝承者は似たような運命を辿っていくというのだろうか。
 思い出すこともしたくない記憶が、魔理沙が弄られる度に脳裏によみがえってきていた。
 もうこのまま帰ってやろうかとまで思う始末、そろそろそれも現実味を帯びてきた。これ以上この場にいると、身が持たない。具合が悪そうと心配される分ならなんとか誤魔化せるが、魔理沙の師匠として思うことはあるのかと聞かれたら隠し通せる気がしない。確実にアウトだ。
 同様に後ろ指差され、ドS(笑)と揶揄されてしまう。それだけはプライドが許さず、避けたかった。
 時計を見ると、宴会が開始されて一時間しか経っていない。いつ帰ってもいいが、帰るのが早くては目立ってしまい、声をかけられてしまうかもしれない。あくまでも自然に、誰もが酔っぱらって、たった一人の帰宅に違和感を持たないように。
 小さな杯に注がれた酒を自棄になって煽る。あと三十分、いや一時間を目標に、できるだけ影を薄く。
「名付けて魔理沙ダークソウル、いやダークロード魔理沙かな?」
 霊夢の正面に陣取るレミリアが自信満々に、魔理沙の痛ネームを考案する。ワイングラスを中指と薬指の間に挟み、表面を揺らした。カリスマをどうにか出そうと頑張っているようだが、
「ダサい」
「ダサいぜ」
「ダサいです、お嬢様」
「んなぁっ!」
 霊夢、もみくちゃにされていた魔理沙、自分の従者である咲夜にまで却下され、カリスマも一瞬で霧散した。
 ナイワー、という視線がレミリアに集まる。
「な、なによあんたら……!」
 と、涙目になるレミリア。
 少し興が冷めたのか、霊夢と咲夜も大人しくなり、力無くへたりこんだ魔理沙と喋りながらお酒を楽しみだした。
 騒いでいた面子もそれぞれの机の中での会話を始め、
「……くっ!」
 アウェーになった哀れな吸血鬼は歯噛みする。
 そんな周りの反応に幽香は不服であった。焼き魚を頭からバリバリとかじり、冷たい目を配る。

 いやいい感じだったと。

 レミリアは悪くない、むしろかっこよくて称賛すべきだ。今回の異変で昂った精神や、増幅された狂暴性を端的に表現しつつも、ダークスパークというインパクトさえも損なわない、完璧なネーミング。
 周りがまだまだ未熟なのだろう、と幽香は鼻で笑うが、口に出すのだけはグッとこらえた。レミリアがなぜかビクッと体を震わせる。おかげで骨が喉につまりそうになった。コップに残っていた水を飲み干す。
 不夜城レッドやレミリアストーカーなどレミリアのスペカは不評だが、幽香にとっては百点だ。いつもレミリアのセンスには舌を巻く。見習ってみたいものだと羨望の眼差し。
 しかし言葉にするのはまずいという分別はある。自ら黒歴史を暴露することなど愚の骨頂だ。静かに熱く応援するにとどめておく。だが、またレミリアが吐血したように咳き込んだ。
 誰が持ち込んだか知らないが、明らかに場違いな豚カツを二切れ取り皿にのせる。豚カツ野郎は頭も豚のようなのか、ソースは一切無かった。神社のものでも使えばいいと考えたが、そんなものがここにあるとは思えず。あったとしても使い物になるとも思えず。まさかのプレーンでいただくことに。
 ……が、口に入れる直前に手が止まる。上目遣いに机の上を見ると、ソースによく似た、黒い液体がボトルに入れられて、大皿の傍にあった。ラベルは剥がされている。
 醤油ではないようで、恐る恐る豚カツにかけてみた。匂いを嗅いでみてもソースでないことしか分からず、思いきって味見をしてみる。
「……味噌だわ」
 まさかのミッソゥだった。最初は顔をしかめたものの、しかし意外と味はよかった。続けざまにもう一切れ。あっという間に間食し、周りも手をつけなさそうなので、今度は五切れ貰っておく。
 一人黙々と味噌カツを食べる幽香。もう話題はダークスパークから移りかけていて、安心して味わえている。
 豚カツをくわえながら改めてメンバーを確認すると、なんとも言えない構成だった。
 主人公三人はともかく、こいし、レミリア、紫、藍、文、幽々子と妖夢、新参であるわかさぎ姫、影狼、隅っこにいる蛮奇、九十九姉妹、針妙丸、雷鼓、なぜか阿求や道教組である神子や青娥なんかもいる。完全に寄せ集めだ。
 しかし幽香には関係ない。ここから去って、家に帰り、シャワーを浴び、なにより早く布団に入って羞恥心を鎮めたい。
 まだあれから十分しか経っておらず、幽香は少しイライラして咀嚼する力を強めた。
「ねえねえ幽香さん、こんな話知ってます?」
 幽香の隣、机の終わりから文が四つん這いになって話しかけてきた。虫の居所が悪く、話しかけるな湖に沈めるぞオーラを出しながら文を睨むが、天狗は飄々と受け流した。
 幽香の機嫌が悪いとなると大抵は震え上がるばかりなのだが、たまにこういう輩がいる。文はむしろ食いついてくるタイプだ。
「……知らないわよ」
「まあまあそう言わず」
「あんたが絡んできて私にいいことなんてあったかしら」
「イイコト、ならいつでもウェルカムですよ」
「何を想像してんのよ。このエロ天狗」
 くねくねと身を捩らせているこの天狗、酔っているようだが、酒には強いはず。故意である。よってギルティ。
 箸の反対側で文の目を潰すと、
「んあぁー! 目が、目がぁー!」
 と古いネタをかましながらのたうち回った。
 文を視界から外しまた一切れ味噌カツ。このままムッスリとして帰ってもバレないんじゃね? と幽香がハッとしたのはそれからまもなくだった。
 作戦が効を奏したのか文以外に幽香に絡んできたり気にかける連中はない。帰る理由を訊かれれば、そこの天狗のせいで興が冷めたと言えばいい。
 そもそも幽香は人の目を気にする玉ではない。少し、魔理沙たちのせいで敏感になっていただけで、冷静になってみれば、堂々と退場すればいい話だった。
 豚カツに付随していたキャベツを大量に盛り、モシャモシャと口に詰め込む。思い立ったが吉、口の周りをハンカチで拭き、飲み込み終わらないまま席を立つ。
 はて、日傘はどこにやったのか、と探しながら歩いていると、
「風見幽香ー、ちょっとこっち来てー」
 と空気を読まない奴がいた。うっとうしそうにそちらを見ると、真ん中の列の、幽香から見て一番奥の左、そこに座っている豊聡耳神子がヘニョリと手招きをしていた。
 話ぐらいは聞いているし、一度か二度、人里で挨拶を買わしてはいるが、あまり接点はない。あんな梟みたいな奴に構ってやるものか、と無視していこうとしたが、神子はまた懲りずに幽香を呼んだ。
 しかしよく聞くと、呼び捨てである。なぜこんなにも馴れ馴れしいのか、甚だ不快だったが、神子の周りのメンバーも幽香に顔を向けていて、ロックオンされていた。
 神子一人ならまだよかったものを、と幽香は肩を落としながら、渋々神子たちに近づいていく。
 寝転がっている鬼の腹を何気なく踏み越える。蛙のような鳴き声がした。
 神子は自分の隣に幽香を誘導し、手を畳に何度も叩きつけて座らせようとしていた。
 膝を折りかけたが、神子の顔を見て止まってしまう。まるでトマトのように赤くなった頬と、据わった目付きが見事に泥酔している人のものだったからだ。
 ほとんど面識もなく真面目な話をされても困りものだが、ある程度は乗るつもりだった。しかし明らかにめんどくさい絡み方、関わってもろくなことがないだろう。他の机の奴等もなんだなんだと興味を持ち始めたようで、ニヤニヤとうざったい笑いを張りつけている。
 ひとまず座って、形だけでもトリツクロッタ。
「わたしはね、最近思うのよ……。布都や屠自古に……あ、私に付き従ってくれるかわいい部下なんだけどね」
「そうなの、続けて」
 机に肘を乗せて、行儀悪く身の上話をし出す神子。幽香は、机の上の手のひらサイズのお椀に入っている枝豆を一房とって、一粒口に含む。
「お世話になっているから、なにか贈り物をしようかな、なんて考えてたら、思い付いたわけなのよ」
「引導でも渡してあげようって話なら大歓迎よ」
 あからさまに血管を浮かせ、不自然な作り笑顔で催促する。笑顔とは本来攻撃的な云々、相手によっては卒倒ものである。しかし神子は、もはや幽香の話すら聞いていないのか、にへらとだらしなく口の端をつり上げた。
「お花をね、プレゼントしたいなーって」
「……なるほどね。それで私にどんなものがいいかを相談したいと」
「そゆことー」
 親指を立ててグッドしてくる神子。
 話はわからないでもない。なんだかんだ言って、それなりに力もあって幽香と知り合う奴はこの手の相談をしてくる奴が多い。花に対する造形は自信があるし、別に嫌いな話題ではない。ただこいつに限っては無性にイラッときて、その耳のような髪を引っこ抜きたくなるぐらい腹が立った。
 今度は威嚇ではなく、最大級の拒絶を含めて、見る人によっては感謝するだろう笑顔で、
「そこら辺の雑草でもあげときなさい」
 そう毒を吐いた。
 神子の反応を見るまでもなく立ち上がり、さっさと帰ろうと縁側に向かう。
 神子を小馬鹿にした笑いと、食器が机に落ちた高音が耳に入った。知ったことではない。背伸びしてマントを羽織ろうとするからいけないのだ。確かに羽織りたくなる気持ちも分からないでもないが。
 さてと、これ以上用もないと、冷たく新鮮な空気を思いっきり吸い込む。大分頭がスッキリした。かえってお風呂入ってぐっすり寝よう、

 そう思っていた時期もあったものだ。

 ふと喧騒を振り返った途中、三本の縄が天井から吊るされているのが見えた。正確には、縄に足を掴まれた妖精が三匹、逆さ吊りになっていた。確か光の三妖精といったか。
「放しなさいよこのチビ!」
「そうだそうだ、痛い目に遭わせるよ!」
「末代まで呪ってやるぅ!」
 順にスターサファイア、ルナチャイルド、サニーミルク。飛べばいいのに、という禁句が喉まで出かかったが、縄にちょっとした仕掛けが施されていた。対妖精専用トラップである。
 これ自体は特に不思議がるものでもない。よく宴会に妖精が紛れ込み悪戯をするなんてことはざらだからだ。いつもならトラップに引っ掛かった間抜けは放置しておく。
 しかし、
「呪えるものなら呪ってみたらどうです?」
 身動きできない三匹に向かって、大人げなく挑発を繰り返している稗田阿求は普通ではなかった。
 高飛車に、時には子供のようにベロを出して、はたまた三人の手が届かないところで小躍りをしている。当然のごとく、顔は真っ赤だ。
 阿求が妖精嫌いというのは幻想郷でも有名な話だが、まさか、まさかこうやって目の当たりにすると、なんとも複雑な気持ちになる。というかなにやってんだこいつと思う。
 阿求は肉体年齢は幼いが、記憶に関してはもしかしたら大妖怪よりも膨大かもしれないのに、こう、残念だ。
 だが彼女らしくないというのもあり、他に要因はないのかと、阿求の周りを目を凝らして注意深く観察してみる。もしなかったのなら、彼女の来世とは少し距離をとりたい所存だ。
 妖夢の半霊にかぶりついているルーミアと、遠くからわかさぎ姫へハンティングを決行しようとしている幽々子、周りのやつらも好き勝手やっている。強いて言うならば少し欲望に忠実になりすぎていることぐらいだが、幽香を始め、大体普段からやりたい放題やっているメンバーだ。気にすることはないだろう。
 そういえば、料理のためとは毛色の違う、黒い茶碗がポツリと置かれている。あんな所にだけ別メニューがあったのだろうか。しかしその中に動く人影がなければ、間違いなくスルーしているところだった。
 よくよく見てみると、そこにはやんややんやと小人が盛り上がっているではないか。針のようなものを片手に、まるでお伽噺の主人公のように勇ましい姿。
 今頃思い出したが、針妙丸といったか。他人にそそのかされたとはいえ、今回の主犯であると聞かされたときはビックリしたものだ。
 彼女の傍に、異変の発端となった小槌がほったらかしにされている。少し妖気を纏っていた。なるほど異変の余波は残っていて、知らず知らずのうちに周りに影響を与え、阿求もらしからぬ行動をとってしまっているのか。
 迷惑な話だ。可哀想に、彼女には今夜のことが記憶に残っていないことを祈る。絶望的だが。
 阿求といえば、記憶を保持しながら何度も転生しているとかかんとか。前世の記憶を引き継ぐため、来世のため、閻魔のところで使いっぱしりにされているらしく、短命ということらしいが、出生を見るになんとも主人公っぽいことか。
 能力は戦闘には使えないが、強くてニューゲーム状態である。謂わば転生者である。場合によっては無双も夢ではない。オリ主、いい響きだ。ものすごい憧れる。
 昔はノートとかに設定など細かく作って妄想を練りに練っていたものだ。今は妄想することはないし、人様に知られれば七十五年では済まされないほど噂が立つだろう。そんなこと耐えられるはずもなく、自作のポエム帳と共に何処かに捨ててきた。
 矛盾を起こしているかもしれないが、体面を気にするようになった厨二病患者は、非常に苦しい思いをしなければならないのは、皆わかっていることだ。願わくば、好みももっと変容していかんことを。
 邪な感情が顔に出てしまっていたのか、阿求が視線に気づいたようだ。
 三姉妹へのシャドーボクシングをやめ、今更ながら恥ずかしそうに体を石のように固めてしまった。そんな阿求に皮肉なぞ一片も込めないで、頑張って、と言い、ヒラヒラと手を振ってあげる。
 酒による赤みが、リンゴのように強まった阿求。目尻に涙を溜め、
「バカァ!」
 と叫びながら神社の社務所のいずこかへ走り去ってしまった。
 人生色々あるものだ。気にしないでほしい。
 さて、もう邪魔者もなく、胸を張って退場することにする。色々とあったが、……本当に色々あった。
 もう振り向くことはしない。してしまえば、更なる混沌に引きずり込まれるだろうからだ。
 これ以上自分の心を抉ってほじくり返すのも趣味じゃない。帰って、ゆっくりしたい。
「皆さん、そういえばこんなものを見つけたのですが!」
 目潰しから回復したらしい文の声が聞こえてきた。妙に生き生きしている。宴会参加者もなんだなんだ、つまんなかったら承知しない、早くみせろーと様々な反応。
 もはやなんの関係もないのだから、スルーしてしまいたい気持ちも山々だ。しかしなぜだろうか、鳥肌が立ってしょうがない。脂汗が止まらない。錆びた歯車のように体がぎこちなく後ろを向く。
 文が、持っている鞄に手を突っ込んだ。
 目が離せない。
 やめろと叫びたいが、カラカラと掠れて声が出ない。
 足が動かない。
「驚くなかれ、無名の丘に捨てられているのを見つけたものですが、なんと……!」
「や、やめてーっ!」
 制止の声も虚しく、それは衆目の前に晒されて、ここ百年間、尽きること無く語られていくのであった。






「幽香さんのっ、自作ポエム帳でっす」










 残念、幽香の努力は無駄になってしまった!






 おまけ~ゆうかりんの華麗なポエム~

『花を摘んでみるといい 指先だけで十分だ

 花を束ねてみるといい 片手だけで十分だ

 だけど君は 両手じゃないと抱き締められない』


『まるで青空を支えるように咲く向日葵は

 本当は空から吊り下げられているんだ

 この空をいとも容易く飛べる私は

 本当はまだ地面に囚われたままなんだ』


『星空に恋する人は言う 魂まで彼方に飛ばしてみたい

 星空に心奪われた人は言う 心はそこに置いてきた

 星空に夢見てきた人は言う 決して届かない距離ほど素敵なものはない

 私は花に恋しているのだろうか

 心奪われているのだろうか

 夢を見ているのだろうか

 恐らく花に溶けて見失ってしまった』


『いくら力を欲しても 君に敵うはずもなく

 いくら君を欲しても 肌に触れることも叶わず

 いくら愛を欲しても 私はその形を知らない』




 おまけその二~次の日のゆうかりん~

「どうしたんですか幽香さん」
「ああ、リグルね。今、穴を掘ってるの」
「……なんでですか?」
「穴があったら入りたいって言うじゃない。逆に考えたの、穴がないなら自分で掘ればいいじゃない」
「何を言ってるんですか、わけわからないですよ!」
「あややや、幽香さんいらっしゃいます?」
「ほら、新聞記者がが来ましたよっ……ってもう穴に入ってる?!」
「もう許して……」
リグル「あなたは誰がお好みで?」
正邪「幽香が好きだ」
「ゆうかりんがお好き? ではますます好きになりますよ。さあさどうぞ、ただいまティータイムのようです。柔らかそうな緑髪でしょう。んああ仰らないで、身体は健康そのもの。少し幼くても色気のある顔立ち。どうぞ胸も見てください、余裕のバストだ、ハリが違いますよ」
「一番気に入っているのは……」
「なんです?」
「泣き顔だ」
「同士よ」
ガシッ



前回投稿した作品ですが、よくぞ投稿に踏み切ったな、と自分でもよくビックリするほどほど欠点が多く、恥ずかしながら削除させていただきました。だったら最初から投稿するなよという話ですが、まったくその通りでございます。以後、なるべく作品を消すことにならないよう、確認を怠らないようにしていきたいと思います。
……この話もある意味で恥ずかしい内容だったわけですが……

折を見てハメにも
八衣風巻
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1050簡易評価
8.90金細工師削除
やめたげてよぉ…
12.無評価岡本削除
前回の早苗の幻想入り前の話が削除されていて残念でした。
テンプレ展開だったので評価はしませんでしたが、
信仰を失っていて、交通事故の際に母は助けられずに早苗だけ助けるも上辺では
早苗に敬われているものの実際は目の敵にされている二柱と最後には和解し、幻想入りして霊夢とバトルするところで終わった話でしたが、
それなりに長かったですがせっかく読了したのに削除はただただ残念です。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
幽香のポエムは良かったです^^
13.100非現実世界に棲む者削除
まず気になった点から。
八橋姉妹→そこは九十九姉妹が適切かと。何か変です。

作品に関しては素直に面白かったです。
神子に吐いた毒はおっかないなーて思いました。
あとはしゃいでる阿求も可愛かった。
前作は結構良かったと個人的に思っていただけに残念に思います。
幽香のポエムは中々良かったです。
改めて新聞記者は怖いと思いました。
14.80名前が無い程度の能力削除
無償にイラッ

過敏に反応してしまうから75年も噂されてしまうのです(幻想郷縁起に書かれること間違いなし)。魔理沙なんて見なさい、自分の失態をむしろネタにして周りの笑いをとって、宴会を盛り上げています。コミュ力ってこういう所で出るのでしょうね。リグル黒いわー。
18.90奇声を発する程度の能力削除
やり取りも面白くとても良かったです
22.100うり坊削除
宴会の楽しげな雰囲気が伝わってきました

幽香×正邪…?
アリかな
25.60名前が無い程度の能力削除
黒歴史ネタは鉄板ですよね。
トンカツをもりもり食ってる幽香、なんか可愛いです。
28.100名前が無い程度の能力削除
まだ病を克服していないゆうかりんが可愛いです
しかし、何故ノートを捨てる時に粉々に破かなかった…何故燃やさなかった…っ!
31.100名前が無い程度の能力削除
本物の黒歴史は捨てても焼いても破っても頭の片隅にくすぶっていて、ほとぼりがさめた頃にまた書き出してしまうものなのさ、、なぁ、ゆうかりん。
38.100名前が無い程度の能力削除
あとがきのところコマンドーかw