<小野塚小町が無縁塚で昼寝をする理由についての内訳>
・サボり 件数実測不可
・サボタージュ 件数実測不可
・おサボりマン 件数実測不可
・風邪 一件
Δ
風邪を引く死神というのは前代未聞のことである。もちろん悪い意味で、だ。
今日の朝、いつも通りに起きてみれば、いつもとは違って身体が重い。
なんだか熱っぽくて、肩に重石が乗っているかのような気怠さ。
一度も体験したことのない現象だったけれど、これがどういうものなのかは、なんとなく理解できた。
いわゆる、これが、風邪か。
「思ったより、面倒くさいんだねえ」
思ったより辛い、と言ったらなんだか負けな気がする。
というのも、あたいには風邪についてのちょっとした信条があるのだ。
『風邪程度を理由に仕事をサボるのは軟弱者。男ならば堂々とサボれ!』
サボりたいというときに風邪を理由にしてサボるなど、それは風邪に対する敗北宣言も同等である。
自ら負けを認めるのは愚か者だ。愚か者になりたくなければ堂々とサボれ。あたいのように。
というようなことを宴会のときに熱く語っていたところ、四季さまから「愚か者」とケツを引っぱたかれたことがある。理不尽極まりない仕打ちである。
(ところが、どっこい)
もう独り言を呟く気力すら無くなってきた。
軟弱者だの、甘えだの、散々馬鹿にし続けてきた風邪に、いざなってみるとこうだ。
なんだか、話に聞いていたよりも酷いものだなあと思う。お休みを取るのは悔しいから無理やり出勤してきたけれど、今日はもうここから動く気にならない。
だから、この無縁塚の、大きな木の下で。今日はゆっくりと羽を伸ばすのだ。
「そういうわけだし、ぱーっと一眠りしますかあ」
「なにが、そういうわけなのですか?」
……地獄の使者の声が聞こえた気がする。
「……どなたでしょう?」
「その阿呆にように閉じきったまぶたを開けば、自ずと見えてくるのではないでしょうか」
優しく穏やかな語り口だけれど、あたいの上司にひとり、マジギレするとむしろ冷静になる裁判長がいる。
恐らく目の前に立っている彼女が、今どんな顔をしているのかを想像すると、閉じたまぶたの筋肉は痙攣して動かなくなった。
「……」
「……」
どうしよう……
「……あたいの耳が正常に機能していれば、そのお声は四季映姫尊師のもの」
「確かに四季映姫ですが尊師ではないです」
おだてる作戦に出る。
「またまた、ご謙遜を。そのお声、その端正なお顔立ち、もはや四季さまは尊師といっても過言ではない」
「目を瞑っていてよくわたしの顔が見えますね」
「……ずっと秘密にしていましたが、あたいは心眼を操る程度の能力を持っているのです」
「はい」
失敗である。
「……四季さま」
「なんでしょう」
「もしかしたら、四季さまはひとつ、誤解されていることがあるのではないでしょうか」
へえ。四季さまが面白そうに言葉を返してくる。
彼女はきっと、あたいが無駄な言い訳をしようとしていると、そう考えているのだろう。
しかし違う。今から伝えることは、あたいの尊厳に関わる最も重要な事実だ。
「それは何かしら。言ってごらんなさい」
「四季さま。四季さまはもしや、あたいが突然の体調不良でやむなく休憩を取っているという、あたいが勤勉で有能な部下たり得る一縷の望みを携えているのかもしれませんが――」
あたいはカッと目を見開いた。
「そんな望みは全くありません! あたいは風邪でもなんでもなく、ただひたすらに、サボっている次第にござぐぶふぉ」
「余計に最低です! 黒よ! 黒!」
真っ赤な顔の四季さまに悔悟棒で思い切りぶん殴られた。理不尽である。
Δ
「風邪を引いたのですか?」と四季さまに訊ねられたので、これはいかんと全力で否定したところ、「風邪を引いたのですね」と納得された。なんでや!
あたいの尊厳は粉々に砕け散ったわけだけれど、これ以上強情を張っても、相手は白黒ハッキリつける地獄の最高裁判長さまだ。
一度納得されてしまったものを覆すのはほぼ不可能だろう。あたいはため息をついて、大木にぐでえともたれかかる。
「どうしてバレたんだろうなあ」
「それ本気で言ってます?」
四季さまにジト目を向けられて、アハハ……と頬を掻くしかない。
「……とはいえ、あの茶番なしにしても、あなた物凄く顔色が悪いわ」
「えー……?」
自分では見れないのでなんとも反応しづらいけれど、四季さまが言うからには、そうなのだろうか。
思えば、朝起きてから鏡を見ていない。いつもの着物に着替えるだけで、正直精一杯だった。
「もっと言えば、その着物も間違ってるし」
「えっ」
即座に自分の着ている服をチェックすると、そこには幸せそうにハチミツを舐めるプーくんの姿があった。何故間違えた、つーかこれTシャツじゃねーか。
ちなみにこのプーくん、外の世界のとある田舎において地域振興にと生み出されたキャラクターであったが、著作権の暴力によって抹殺された悲劇のキャラクターである。そういうところ、幻想郷はとても懐が深いのでプーくんも安心だ。某権力も幻想郷には届くまい。
「ともあれ、まあ普通に考えて、風邪でしょう。頭が全く回っていないみたいだし」
「うぐ」
「……それにしても、死神が風邪を引くなんて。そんなことあるかしらね」
四季さまの一言一句がいちいち心を抉る。軟弱者の汚名を返上する機会はどうやら与えられそうもない。
哀しいかな、あたいはあたい自身の信条に潰された敗北者なのだ。さあどこで首を括ろうか。
湖の見えるタンポポ丘の桜の木の下で手ごろなヒモと手ごろな台を都合よく見つけて死にたい。
「……」
自刃の場所をしばらく思案していたのだけど、ふと、あたいの横に四季さまがちょこんと座った。
見ると、唇に指を当てて、何やら難しそうな顔をしている。この仕草をするときは、彼女がとても集中しているときだ。
下手に声をかけると怒られるので、しばらく黙って様子を見守ることにする。
「……小町」
長い沈黙ののち、声がかけられた。
「なんでしょ」
「ちょっと、顔を見せてくれますか?」
「へっ」
そう言った次の瞬間には、四季さまはあたいの真正面に移動していた。
彼女は、あたいの両頬を手のひらで押さえ、じっとあたいの顔を眺め始める。
……ええと、どういうシチュエイション?
「……あの、四季さま。いったいなにを」
「いいから黙っていなさい」
「はい」
怒られたので若干しょんぼりしつつ、黙って四季さまの為すがままにされる。
どこまでも真剣な目つきであたいの顔を眺めまわす四季さま。あたいの顔が、なにかおかしいのだろうか。発熱で目鼻のパーツが数ミリずれただろうか。いやまてそれはマジでやばいやつだ。病院に行かなきゃ、いやもうこの際病院はスキップして湖の見えるタンポポ丘の桜の――
「小町」
混迷する思考の中で、ふいに声をかけられた。
「え、あ、はい」
「今日は特別に休暇とします。お昼寝をしましょう」
真面目な顔をして、四季さまは告げる。
「え」
しかし、あたいは自分の耳を疑った。
休暇を貰えることについて驚いているわけではない。是非曲直庁が超ブラック企業というわけではないのだ。
ただ、いくら体調不良とはいえ、仕事をサボっていたことは事実だ。
だからこういうときは「体調管理が出来ないのは自分のミス」とか、そういう具合で説教されるものだとばかり思っていたのだけど……
「いいんですか?」
「いいというか、そうしなさい。半強制です」
驚きだ。少し悪口を言わせてもらえば、もっと四季さまは融通の効かないところがあると思っていた。
ともあれ、今日はお昼寝の日ということで黙認して頂けるらしい。それならば、お言葉に甘えない選択肢はない。
「それじゃあ、そういうことにします。おやすみなさい」
「ええ、おやすみなさい」
ゆっくりと瞳を閉じる。元々重かったまぶたは、好機とばかりにずしりと重みを増してくる。こういう感覚も、普段風邪を引かないと新鮮だ。
全身がおもりのように芝生に沈み込んで、じわあと熱が溶け出すように、感覚も曖昧になっていく。
(……?)
と――
ぼやける思考と意識のなかで、あたいの左手が、何かに触れた。
いいや、触れたというよりも、『握られた』。温かくて、柔らかい、不思議な感触。
それが何なのか、判断力の鈍ったあたいには即断できなかった。
しかし、それを理解した瞬間に、あたいの眠気はイスカンダルまで飛んでいったのである。
(……!?)
いや、そんな、馬鹿な。あり得ない。そんなことがあり得るというのか。
発熱による意識の混沌も同時に吹き飛んで、その代わりに新たな混沌があたいの理性を包んだ。
あまりに突然の、あまりに強すぎる刺激に、あたいの視界には火花が散っている。
その火花をかいくぐって、ゆっくりとゆっくりと、自分の左手に視線を向けていくと――
(握られてる……! 四季さまに、あたいの手を!)
妄想を疑われたそれは、今この瞬間に現実となった。
四季さまはあたいの左手をぎゅっと握りしめ、あろうことか――そのまま寝息を立てていたのである。
(こ……これはいったいどういうことだってばよ……)
全てが謎だ。何故こんなラブコメ展開になっているんだあたい達は。
現状を纏めれば、無縁塚の大木であたいと四季さまは並んで寄りかかって、手をつなぎあいながらお昼寝をしている。
普通にやばすぎる。
(さ、誘われているのか……っ!?)
百歩譲って、これが四季さまでなければこういう展開もあるかもしれない。
しかし、相手は見紛うことなき四季映姫・ヤマザナドゥだ。
まさか、仕事をサボっていたあたいにお昼寝を許可したうえ、その横に並んで自分もお昼寝を始めるとはだれが思うだろうか。
(謎や……)
エセ関西弁が飛び出す程度には、あたいはドギマギしていた。
突然の展開すぎて、なにをどうすればいいのか全く分からない。
これはあれなのか。据え膳喰わねばなんとやらというやつなのか。いやしかし、寝込みを襲うというのは仮にも死神のメンツに関わる――
「……小町」
「ひぃっ! なんでしょー!?」
いきなり呼びかけてきたのは四季さまだ。びっくりしすぎて芸人みたいな声が出てしまった。
四季さまは変わらず、目を閉じたままの『お昼寝モード』で、口だけを動かしてきた。
「昼寝しなさいと言ったでしょう……さっきから興奮しているみたいだけれど、それでは身体は休まりませんよ」
春画を押し付けられながら興奮するなと命じられている男の気分である。
「す、すいません……」
「力を抜いて、リラックスしなさい。それだけでも十分です」
恐ろしい無理難題だ。あたいにはとてもこなせる自信がない。
(……けれど)
驚きばかりが先行していて、忘れていたことがひとつある。
普段説教されてばかりの四季さまが、部下のサボりに目を瞑り、こうして温かな気遣いをしてくれている。
それはもう、一言で言うならば、幸せなことだ。
「いいですね。小町?」
「……はいっ」
胸のあたりがじわりと温かくなって、それから目尻に湿っぽさを感じたけれど、なんとか堪えた。
この温かさのお返しは、また別に機会にしなければならない。しかし、今は、四季さまに甘えてゆっくり休もう。
改めて瞳を閉じ、手をつなぎながら、夢の世界へ再導入していく。
秋晴れの穏やかな日差しの中で、聞こえる音は木々のざわめきと四季さまの寝息だけ――
ふと。
こつん、と左肩になにか触れたと思ったら、四季さまの頭が寄りかかっていた。
(ああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!)
駄目です、四季さま。それは破壊力高すぎます。どうやって寝ろと言うのでしょうか?
結局、穏やかな秋晴れの昼下がりとは対照的に、あたいの心は情欲と自制の葛藤に燃えさかり続けたのである。
Δ
ぽんぽんと、2,3回左肩を叩かれる。
叩いたのは四季さまだ。あたいのことを起こしてくれようとしているのだろう。
「……ん、四季さま」
「おはよう、小町。よく眠れた?」
「ええ、よく眠れました。いい気分です」
嘘です。一睡もしてないです。
「そう、それはよかった」
けれど、いい気分という方に関しては、決して嘘ではなかった。
一睡もしていない(できていない)のに、ずっとドギマギしていたというのに、何故だかお昼寝の前より、気分は格段に良くなっている。
なんといっても、肩にのしかかっていた重石のような重量感がない。それだけで憑き物が落ちたような心地である。
不思議なものだ。
「それで、ね。早速で申し訳ないけれど」
穏やかな笑顔で頷いて、それから四季さまは俄かに立ち上がった。
左手を引っ張ってもらい、あたいもゆっくりと立ち上がる。四季さまは再び真面目な顔になって、続ける。
「少し、付き合ってほしいことがあるの。……いいかしら?」
……何か、事務的な用事があるのだろうか。
いずれにしても、あたいに断るという選択肢はない。少しずつお返しをしなければならないのだ。
「もちろんです。どこへでもついていきますよ、四季さま」
「頼もしい」
固まっていた身体もほぐれて、体調は普段のレベルまで戻りつつある。
あたいは右腕で、軽々と大鎌を持ち上げて、それを見ていた四季さまもクスっと笑った。
「……」
と、思えば――少し視線を落として、頬を赤らめる。
「……小町、その。手を」
……手?
「あっ」
未だ繋がれたままの、あたいの左手と四季さまの右手。
慌てて手放し「す、すいません」と謝罪すると、四季さまは赤面のまま苦笑して、「行きましょうか」と呟くように言った。
Δ
四季さまの後について、たどり着いた場所は『賽の河原』だった。
賽の河原――三途川の河原のことだ。つまり、ここはあたいの仕事場であり、すっかり見慣れている場所である。
「もうそろそろ、川渡しも終業時間ですね」
午後の長い時間をお昼寝に費やして、もう夕暮れに近い時間だ。
たくさんいる死神の同僚たちも、そろそろ店じまいをしようという頃合いである。
そんなあたいの世間話を、果たして四季さまはちゃんと聴いてくれていただろうか。
いや、きっと聴いていなかっただろう。
四季さまの視線は、先ほどから、三途の川ではなくその畔に向いているからだ。
「……っと、ごめんなさい。何か言いましたか」
「いえ、他愛のない話です」
別に話を聴いてもらえなかったことは気にしていない。
それよりも、四季さまが為そうとしている目的を手助けする方が、あたいにとっても価値のあることだ。
「……」
しばらく河原を歩いていて、日も赤く色づき、屋台が提灯にあかりを灯し始める。
そんな頃に、四季さまは立ち止まった。前触れもなく頷いて、それから「この辺りでいいでしょう」と呟いた。
「何をするんです?」
あたいが問いかけると、四季さまは不意にぴったりと両手を合わせて微笑む。
「ちょっとした、ボランティアです」
四季さまの言う『ボランティア』なる謎の行動は、30分ほど続けられて、俄かに終わりを告げる。
謎の行動といっても、三途の川の畔に立ち、両手を合わせたまま、30分立っていただけだ。
少なくとも、あたいにはそうにしか見えなかった。
「ありがとう、小町。付き合ってくれて」
「い、いえ」
「さあ、今日はもう帰りましょうか」
やけにさばさばした会話に、なんだか焦りのような感情を覚える。
結局、四季さまが何をしていたのか。未だに、あたいは全く理解できないからだ。
「あの、四季さまっ。今まで、何をしていらっしゃったんですか?」
深く考える間もなく、その疑問は飛び出すように口にされていた。
あたいの疑問を受け取ってなお、四季さまは表情を変えない。そこでようやく、あたいは自分の図々しさに気付く。
「……あの、すいません。言う必要のないことなら、その」
「いえ、いえ。そういうわけじゃあ、ないんです」
四季さまは微笑して、続ける。
「聴きたいですか?」
「……はい」
「……まあ、小町なら、ショックを受けるということもないでしょう」
……ショックを受ける? 何の話だろう。
疑問をぶつけることで新たに生まれた疑問、それに内心首を傾げている間に、四季さまは核心から、答えを返してくれた。
「小町、あなたは風邪など引いていませんでした。あなたは憑りつかれていたの」
「『水子』に」
Δ
水子。
『みずこ』と読むそれは、不幸にもお腹の中で亡くなった胎児や、流れてしまった胎児を指す言葉だ。
ゆえに、あたいの思考は一瞬停止した。四季さまは言う。あたいが水子に憑りつかれていた、と。
「水子……って、どうしてあたいなんかに」
「水子は命亡き後、その魂が賽の河原に送られ、さまよい続ける。彼ら、彼女らは、親よりも先に現世を去ってしまったという、重い罪を償わなければいけないから」
四季さまは視線を落とす。
「水子は賽の河原の小石を積み上げ、生前為し得なかった親孝行を行うと言われています。功徳積みと言われるものですが、しかしどれだけ頑張っても、いずれ鬼たちが現れ、その全てを崩し去ってしまう」
その話は、あたいも知っている。鬼は水子たちの行動を嘲笑い、弄ぶ。
だから水子は、苦しみから逃れることができないのだ。
「でも、それは今までだって変わらなかったでしょう。今になって、どうしてあたいに憑りついたりなんて」
四季さまは小さく首を横にふる。
呟くような小さい声で「変わってしまったのです」と言葉を紡ぐ。
「外の世界では、いまや水子が激増している。どうしてか……については、またいずれお話ししましょう。けれど、外の世界から大量の水子が流入して、今の賽の河原はパンク状態になっています」
「外の世界から……」
「今までは、設置された地蔵菩薩が水子を供養してくれていたのだけれど、それだけでは手が足りなくなってしまった。そうなると、供養されない水子が現れ、時に悪霊化する」
……あたいが突然の体調不良に襲われた原因。
肩に圧し掛かる重石のような重量感と、倦怠感。
それらは風邪などではなく、全て、悪霊化した水子によるものだった。そう四季さまは告げた。
「小町のように、常に三途の川を船頭していると、格好の的だったのでしょうね。ここ数日、あなたもちゃんと仕事をしていたのでしょう?」
「え、ええ。まあ」
「……」
「ほ、本当ですって!」
冗談です、と四季さまは息をつく。
「幸か不幸か、今回憑りつかれたことで、あなたのここ数日における勤勉な態度は立証されていますからね」
「それは喜ぶべきことなんですかね」
「結果オーライ、というやつです。ただし過程にも目を向ければ、決して喜ばしいことではない。実際水子は、あなたを新たな親――もとい宿主として、この世に具現化しようとした可能性だってあるわけですから」
あたいを宿主として、具現化する? それってつまり――――
――――いや、やめよう。
ゾッとする。
これ以上考えていると、間違いなく嫌な気分になるだろう。
「まあ、今回は対処が早かったから、何とかなったけれどね」
……もしかしたら、あたいは、風邪を治してもらう以上の借りを、四季さまに作ってしまったのかもしれない。
あの時、一緒にお昼寝していると思っていたけれど、実際はあたいに憑依していた水子の霊を供養していたのだ。
「……ありがとうございます、四季さま」
「誰に憑りつくにしろ、憑りつかないにしろ、水子は全て供養しなければいけないの。特に恩に思われることはしていないわ」
「それでも、です」
今日1日で、あたいは四季さまに助けられ、四季さまの温かさに触れた。
彼女にとっては当たり前のことかもしれないけれど、でも、あたいは四季さまにお礼を言わないと気が済まなかった。
そんな気持ちが届いたのか、四季さまは怪訝な表情を浮かべたのち、少し恥ずかしそうに頬を掻いた。
「……あの、ところで」
ふと、あたいはもうひとつ疑問を抱えていたことを思い出す。
今日、四季さまはあたいに憑りついた水子と、賽の河原で彷徨う水子を供養したけれど、供養ってそんなにぽんぽんできるものなのだろうか。
「四季さまは閻魔さまですし、供養は専門外なんじゃないですか?」
「ふふ、甘いですよ小町。わたしは閻魔とはいえども、転職組の閻魔であることを忘れたのかしら?」
四季さまは再び、あのポーズをあたいに見せてくれる。
両手を合わせた、念仏を唱えるときの、あのポーズ。お地蔵様がよくやっている、あの――――あっ。
「休日に時々やっているのです。ボランティア地蔵、とでも言いましょうか?」
転職してもなお、転職前のお仕事をボランティアで。とんでもない仕事量である。
「とてもあたいには真似できませんね」と言ったら、「間違いありません」と四季さまは答えた。なんとなく哀しい話だ。
後日、よくよく考えてみると、あの日のお昼寝はふたりとも狸寝入りだったんだなあと気付く。
早速四季さまの執務室に行って、次の休日は一緒にお昼寝をしましょうと提案をした。
了承してくれた四季さまは渋々ながらだったけれど、もう一度四季さまの柔らかい手のひらを握れると思うと、今からなんとなく盛ってくる。
次こそは据え膳を頂くのだ。
でもって良い甘さでした!
母数が70億超えてますからね。パンクの一つもするでしょう。
ともあれ、小町が次こそは据え膳を頂けることを祈って。
この2つの要素だけで話を作ってしまうのも可能なところを、それに留まらずさらにその先まで話を展開し、うまく料理されているのが見事!
素晴らしいこまえーきをありがとうございました。
とても面白かったです
やっぱり小町はニヤニヤを引き起こすスペシャリストだ(ニヤッ。
一作品集に一つあればいいほう
水子の重たい話とこまえーきの軽さがうまい具合に合わさっている
面白かった
こまっちゃんが、お仕置きを受けるのではなくて、二人でぽかぽかする様な温かいお話でした。
100点じゃ足りない。
とにかくいいこまえーきでした!
これは不覚やね。
上司と部下、真面目と不真面目、身長やスタイルと、対照的な組み合わせで物語が作りやすそうだというのに。
考えてみようかなと思わせる作品でした。
久々に特に指摘することもないいい話でした
次の作品楽しみにしてます!