Coolier - 新生・東方創想話

私を探して・5

2005/09/16 21:31:40
最終更新
サイズ
31.31KB
ページ数
1
閲覧数
667
評価数
6/44
POINT
2200
Rate
9.89





「おい、起きろ。いつまで寝ている」
「ん~?」
「ん~? じゃない。さっさと起きろ」

えっと、おかしな服の少女が私の布団を剥いでいる。

「きゃー、えっち」
「寝ぼけながら、くだらないボケをするな」
「寝る子は……育つ」
「いつから子供になった? 仕事の手伝いをするのだろう?」

……そう言えば、そんな約束をした気もする。

「明日からー」
「いい加減にしないと蹴るぞ」
「はーい」

もう粘れないか。
私は体を起こして……そのままボーっとする。

「何をしている?」
「……これからの事に、思いを馳せてます」
「頭から水かけるぞ」

やっぱりひどい人だ。
朝は弱いのに。

「もう少し……待って下さい。朝はきついんです」
「何だ、弱いのか?」

こくこく。

「ほら、水だ」
「……被りませんよ」
「そこまでしてボケたいのか?」
「……いただきます」

んぐんぐんぐんぐ。
はぁー、生き返る。
幻想郷の水はどこでも冷たくて美味しいらしい。
後味すっきり。

「どうだ? 起きたか?」
「いつでも寝れます」
「安心していいぞ。次寝たらもう起きられないから」
「今何時ですか? 仕事までどのくらいありますか?」

そろそろ慧姉の笑みが引きつってきたので、真面目な話しに入ろう。
幸い口と頭は働くようになっている。
体は悲惨なほど動かないけど。

「八時半で、十時から仕事だ」

うそ! 仕事の時間までまだ一時間以上ある。
この時間に起きたら目覚まし切っといた意味ないよ。

「一時間したらまた起こしてください」
「そうか、そんなに自分の命がいらないのか」
「あはは……やだなぁ、冗談に決まってるじゃないですか」

かなり本気だったけどそれは内緒。
だって声のトーンまで下がりだしたんだもん。
これ以上は冗談だろうと本気だろうと、迂闊な事は言えないらしい。

「そう、願いたいな。朝はいるのか?」
「とてもじゃないけど食べられません」
「駄目だ、多少無理をしてでも食べろ」
「戻しますよ」
「そう言いながらも、戻すやつはほとんどいないから安心しろ」

始めから食べさせる気なら聞かなくてもいいじゃないか。
うう、昨日の朝とは大違いで厳しい。

「数少ない内の一人なんですよ」
「そうか、それなら仕方ないな」

おお、見逃してくれそうだ。
胸を撫で下ろす感じというのはこういうことを言うのか。

「今日だけ頑張ってみろ。駄目なら明日から許してやる」
「しくしく。ふぁい」

甘い夢は長くは続きませんでした。
この人を家政婦にするのは諦めよう。
規則正しい生活が染み付いてしまう。



…………
だるい体を引きずって、私はなんとか居間に辿りつく。
そこで私が見たものは、あまりに凄惨なものだった……。
だって、だって……もう朝ご飯の準備できてるんだもん。
準備してあるならそう言ってくれれば無駄な抵抗はしなかったのに。
横暴だよー。

「茶碗にどのくらいご飯が盛れるか、挑戦してみてもいいか?」
「自分ので試してください」
「育たないぞ」

言いながらもご飯の量は少なかった。
からかわれてるのは分かってるんだけどなぁ。
慧姉の場合真剣に抗議しないと冗談を実行しそうで怖い。

「それでは、いただきます」
「……いただきます」

私はゆっくりと、ご飯を食べていく。
お腹も空いていない上に体もだるいので、ペースは全然上がらない。

「ゆっくり食べればいいぞ。時間は十分とっといてあるから」
「そうします」

慧姉は偶に優しい事を言ってくれる。
でも私としてはゆっくり食べる時間があるのなら、その分寝る時間にまわしたい。

「美味しくできてるか?」

うっ!
今一番答えにくい質問が来てしまった。
昨日の夕飯はそんな事聞かなかったのに何故に今更。
実際は美味しく出来てるんだろうけど、寝起きでボーっとしている私はほとんど味が分からない。
万が一不味くても、それを直接言えるわけがない。
となると答えは決まっていた。

「どれも、美味しいですよ」
「怪しいな。塩と砂糖を間違えて入れてみたんだが」
「いくらなんでもそれは分かります」

だるくて私がボケられないからだろうか?
今日は慧姉もよくボケてくれる。

「これから毎日、朝はこんな騒ぎをしなければならないのか?」
「慧姉、ファイト!!」
「私が頑張ると、ほとんどの者は顔が歪んでしまうぞ」
「元々歪んでいる人が相手だとどうなるんです?」
「逆に整うかもしれないな……目の前に志願者もいるし、軽く試してみよう」

気付いた事……。
慧姉のボケはやたら暴力的。

「子供って何人ぐらいいるんですか?」

私の場合整う事はまずないので、強引に話題を変えてみた。

「大体ニ十人程度だ。空き家を改造して使わせてもらっている」
「私塾みたいなものですか?」
「そんな感じだ。学びたい者だけ集めてな」

少人数制……でもないけど慧姉が付きっ切り。
幻想郷の外ならもっと繁盛するかもしれない。

「何時ごろまでやってるんですか?」
「力尽きるまでだ」
「変わった虐待方法ですね」
「冗談だ。本当は正午まで、その後は子供と遊んでやっている」

昨日は子供と遊んでいるときに、慧姉と接近遭遇したらしい。

「大変じゃないですか?」
「そんな事はないぞ。お前は子供が嫌いなのか?」
「……嫌いじゃないんですけどねー」
「ほう」
「機嫌が悪いときに我侭を言われると……」
「心を広く持って、全てを受け入れろ!」

怪しい宗教の勧誘になっていた。
まぁ、子供相手に怒った事はないので平気だと思う。
機嫌が悪いときというのも、寝起きぐらいだし。

「起きてからこれだけ時間が経てば、機嫌が悪い事はほとんどないですよ」
「それなら、やはりぎりぎりまでは寝かせられないな」

あぅ、確かにそういうことになってしまう。
悲しいことに自分から墓穴を掘ってしまった。

「今日は私の授業を見ているだけで構わないから安心しろ」
「ならもっと寝かせてくれても……」
「どうした? 何か言ったか?」

慧姉はいつも笑っています。
今も笑っています。
それなのに表情の使い分けがとても上手だと思いました。

「ご馳走様でした」
「うむ、ご馳走様でした」

何だかんだで話の絶えない、楽しい朝ご飯だった。
偶にはこういうのもいいな。
……これからは毎日か、ちょっと気が重い。



慧姉の後に付いて、来た時に通った坂道を下っている。
その際自転車は家に置いてきた。
子供達の遊び道具にはなるかと思ったのだが、残念ながら一台しかない。
皆で遊ぶ事が出来ないと判断しての事だった。

「慧姉、昨日一つ聞き忘れていたんですけど」
「ん、どうした?」

あっ、でもやっぱり止めたほうがよかったかな?
眉唾物の可能性もあるんだった。

「……」
「急に黙って、言いにくい事なのか?」
「そんな事はないんですけど、聞いた話なんで間違ってるかもしれないんです」
「別に、気にしなくてもいいぞ」

そこまで言ってくれるなら聞いてみよう。
私も気になっていた事だし。

「この村にキィモ・ケネーという妖怪が出るって話は本当ですか?」
「それは嘘だ」

間髪いれずに答えてくれた。
しかも反論は認めないと背中で語ってくれている。
それで複雑な事情があるらしいことは分かった。
でも弱味を握るチャンスかもしれないので、ここは思い切っちゃえ。

「本当で――」
「ほう、まだ聞きたい事があるのか?」
「いい天気ですね?」
「私もそう思っていたところだ」

想像以上に壁は厚かった。
この場合顔が見えてなくて良かったのか悪かったのか……。
嗚呼、いつか慧姉に一死報いたい。

「天気もいいし、競争でもするか?」
「私を迷子にする気ですか?」

突然振り向いて私に笑いかける慧姉。

「ほら、ヨーイ、ドン!」
「え? 嘘? 本当にするんですかー?」

そしていきなり駆け出すし。
私はその後を必死について行く。
もしかしたら、触れてはいけないところにソフトタッチしちゃった?
って、そんな事考えてる暇ないや。
慧姉待ってよー!


「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ」

私は慧姉を見失わずに、何とか空き家――これからは私塾と呼ぼう――まで付いて行けた。
どちらかと言えば、慧姉が見失うかどうかの境界で調節してくれていたらしい。
そのお陰で私は常に全力だった。

「このぐらいで息切れを起こしてどうする?」
「だって、慧姉が、早すぎ、るんです、よ」

乱れた呼吸で何とか反論する。
慧姉は平然としたものだ。
本当に人間?

「私は走っているようにみせて、飛んでいたからな」

うわー、ずるい。
やっぱりここで飛べないということは大変なハンデだ。
私も遠慮しないで自転車に乗ってくれば良かった。
せっかくの下り坂なのに。

「それにしてもだ。お前は体力なさすぎじゃないか?」
「自慢するようですけど、これでも外の世界では、体力ないほうでしたよ」
「朝は毎日坂道ダッシュを日課にしよう」
「自転車使いますよ」
「それでも構わない」

あれ、いいの?
下り坂だから乗ってるだけでここまでこれるんだけど。

「その時は帰りも坂道ダッシュだ」
「…………」

行き楽をするか、それとも逆にするか。
その違いしかなかった。
…………
どっちにしよう。
……
いつのまにか他の選択肢がなくなってるんだけど。
あれれ?

「はぁー、歩きます」
「明日から頑張ろうな」

私は大きく息をはいてから、答えを出した。
理由は……歩きなら帰りは慧姉と話しながら帰れると思ったから。
自転車で来たら、行きも帰りもそれどころじゃなくなってしまう。
せっかくだから話しながら帰りたい。
しかし慧姉には恥ずかしいので絶対言わない。

「頑張ります……行きましょう」
「ああ、そうだな」

下り坂の全力疾走か……膝にくるんだよなぁ。






私塾の中は全面畳張りで、そこに机が並べられて置かれていた。
今は私たちより先に来ていた子供達が、机の前に正座するなり胡坐を掻いていたり。
教室に入ってきた私たちに喧しい……もとい、元気な挨拶を送ってくれる。
私は慧音先生の後に付いて、子供達の前に立たされた。

「皆ちょっと静かにしてくれー。
 ……明日からしばらく算数を教えてくれる、新しい先生だ」

慧音先生が簡単に私の事を紹介してくれる。
何か、転校生のような気分だ。
……いや、教育実習の先生の方が近いかな。
私が子供を見回していると、慧音先生が目で合図を送ってきた。
挨拶をしろということらしい。

「ええっと、しばらく慧音先生の替わりに算数を教えます。よろしければよろしく」

ちょっと緊張して無難な挨拶しか出来なかった。
今まで大勢の人の前で話す事などなかったのでしょうがない。
それでも、子供達は「よろしくお願いします」と何故か声を揃えて応えてくれる。
……小さいときは私もやってたけど、結構迫力あるな。
うん? 一人だけ無反応な子がいる。
その子と目が合ってしまうんだけど…………!
ああ、成る程。
昨日私が睨んで黙らせた子供だ。
子供の分際で私にケンカを売るとは猪口才な。
大人の卑劣さ狡猾さを思い知らせてやろう。
ニヤリ。

「何を笑っている? 今日は後ろの方で私の講義を見学しててくれ」
「まぁ、そういう事にしておきましょう」
「?」

意味不明なやり取りをして、慧音先生の顔に困惑の色が広がる。
私は内心ガッツポーズをとって、一番後ろの空いている席に腰を下ろした。



一時間目は国語。 10:00~10:40
子供達が教本を読んだり、慧音先生の質問に答えたりしている。
偶に慧音先生が黒板に重要そうなことを書いていた。
……普通に流しそうになったけど、黒板はあるらしい。
それらを眺めながら、適当に時間が過ぎるのを黙って待つこと四十分。
結構暇なのね……



二時間目は歴史。 10:50~11:30
歴史の授業は凄く眠くなった。
一時間目はなんとか耐えられたけど、その分こっちに眠気が押し寄せてくる。
苦手なこともあり…………おやすみなさーい。

――ヒュン――

「え?」

今、耳の近くを何かがかすめて行ったような。
目を開けてみると、子供達がワイワイと私のほうを向いて騒ぎ出している。

「出た! 慧音先生のレーザーチョーク」
「今日も速さに衰えは見えないね」
「居眠りなんかしてるから」

…………
ぎこちなく後ろを振り向くと……壁と畳に白い痕跡が!
もしかして、これが昔チョークだったもの?
破片も残さず粉になってるんだけど……。

「やれやれ、お前の所為でチョークを一本無駄にしてしまった」

言いながら新しいチョークを取り出す慧音先生。

「……次は、当てるからな」

慧音先生はにっこり笑いながらチョークでペン回しを始める。
え? 短いチョークで!
しかもやたら滑らか。
……で、弟子になりたい。
じゃなくて、師匠と呼びたい……?

「き、気をつけます。師匠!」

その時間はもう私が眠る事はなかった。
替わりにペンを落とす音が教室に何度も響いた。



三時間目は算数 11:40~12:20
この時間だけは真面目に授業風景を見ておく。
で、分かったこと。
子供達の中で、理解の早い子とそうでない子でかなりの開きがあるらしい。
当然、慧音先生は遅い子の面倒を見てしまう訳で……。

「先生、ちょっと見てくださーい」

普通に手が足りないらしい。
意欲的な子が集まっているとは言え、皆同じ速さで理解出来るわけではない。
…………
うん、ここは人肌脱ごうかな!
席を立ち、質問した子供の前まで行ってさっと式を見る。

「……ああ、分母にもうちょっと気をつけてごらん」
「え? ……あっ、ホントだ」

答えは教えず、間違ってるところを本人に気付かせる。
いきなり答えを教えては意味がない。

「先生ー」

私は慧音先生をちらりと見た。
向こうから「頼む」という視線を受信する。
私は「了解」と送信しておく。
お互いにアイコンタクトをマスターしていた。
ふふ、腕がなる。

「ふーん、三平方の定理を使うといいよ」
「え?」

問題も見ずに適当に教えてやった。
例の反抗的な子供が目に見えて焦る。
悩み苦しむがいい……

「あはは、うそうそ。ちょっと待ってね」

目を合わせていなくても、慧音先生は送信可能らしい。
背中にチクチクと視線を感じる。
ちょっとしたお茶目なのにー。

「……えっと、割り算だから、掛け算と同じようにやっちゃ駄目だよ」
「へー、そのぐらいは分かるんだ」

うわー、むかつく。
ワザと間違えて私を試したらしい。
うー、後ろから「抑えろ」というメッセージがなかったら、かろうじて解けない範囲の応用問題出してやるのに。
今日は慧音先生の顔を立てるけど……

「ははは、気をつけるんだよ」

明日は覚えてろよ。
職権乱用してやるー。






「感想は?」
「生意気でした」

授業も終わって、私と慧姉は私塾でそのままお弁当を食べている。
もちろん慧姉の手作りで私は幸せ。
子供達は一度家に帰って、お昼を食べてくるらしい。

「泣かすなよ」
「フォローは頼みます」
「泣かす前提で話すな」
「あのぐらいなら我慢できますけどね」
「そうしてくれ」

ただ、誰しも我慢には限界というものがある。
しばらくは余裕だろうけど、溜まりだした時はどうしよう?
……そんなに長くはここにもいないか。

「算数は特に大変そうですね」
「そうなんだ、どうしても進みの遅い子を優先的に見てしまってな。
 全員に手が回らないんだ」

慧姉が珍しく愚痴っぽいことを言う。

「それで、私ですか?」
「そう言うことだ。お前は教え方も上手くて助かるよ」
「算数だけですけどね」
「それが一番困っていたからな、やはり助かる」
「ちょっと教本見せてください」

慧姉の口から素直なお礼の言葉が聞けて、ちょっと気分が良くなる。
表向きそんな態度は絶対見せないけど。
からかわれるから。

「どうした?」

パラパラと捲っていく。
教本に載っている範囲なら全て分かった。

「もしかして慧姉は、教本を見ながら独学でここまで覚えたんですか?」
「他に方法がないだろう」
「そ、そうですね」

改めて凄い人だと思った。
誰にも教えてもらわず、分数の基本はしっかりマスターしている。
その辺が一番分かりづらくなってくるところなのに。

「明日からは頼んだぞ」
「慧姉も手伝ってくださいよ。一人じゃとても全員は見れませんから」
「ああ、任せろ」
「頑張りましょう」

お弁当も食べ終わり、ご馳走様をして私塾を出る。

「広場ですか?」
「うむ、勉強の後は遊びだ」

私たちは広場に向かった。





広場のベンチに腰を下ろして、子供達が遊んでいるところを何となく眺める。
さっきまで私も輪の中に入ってはいた。
だが、鬼ごっこが始まると直ぐに体力が尽きた。
何で子供は夢中になると体力の底がなくなるのん?
それは慧姉にも言えるけど。

「若いねぇ……」

渋いお茶が飲みたくなってくるような光景だ。
ああ……このまま老衰してしまうのだろうか……?

「おおい、お前もかくれんぼやらないか?」
「いいでしょう。私が本気をだしたら山狩りしないと見つけられなくなりますよ」
「その程度か。一度は『慧音を探せ』という村興しのイベントにまでなった私と勝負したいようだな」
「行動範囲は?」
「村の中全域だ」
「民家の中は?」
「当然ありだ。話もつけてある」

いつつけたの?
別にいいけど。

「先に見つかった方が負けだ」
「望むところです」

鬼が数字を数え始める。
私と慧姉、他たくさんの子供達が村中に散って行く。
その中で、私と同じ方向へ走っている慧姉が話しかけてきた。

「五時になったら一度広場に集合だ。キリがなくなるからな」
「それなら余裕ですよ」
「そう、上手くいくかな?」

私は、いくつかこのかくれんぼの詳しいルールを聞いて慧姉とも別れた。



現在の時間は三時半……ゲームは始まったばかりで、多分鬼が探し始める頃だろう。
私は今、老夫婦の家にお邪魔している。
この家、なんと事情を説明したらあっさりあがる事を許可してくれた。

「ああ、かくれんぼかい? がんばってね」
「負けられませんから」
「あなた、他所から来たのでしょ?」
「ええ、そうですけど」
「じゃあ、いい事教えてあげるよ」
「何ですか?」

私は聞きながら、服を着替え始める。
着替える服は夫婦が若い時に着ていたもの。
慧姉から聞いた話では、鬼に見つかった者も一緒に探し始めると言うことらしい。
つまり、これからは他の参加者の誰にも見つかってはいけないわけである。
そうなると外から来た私の服装は、村の中で非常に目立ってしまう。
そこで変装をするために替えの服を夫婦に頼んだところ、直ぐにオーケーがもらえた。

「この村のかくれんぼは既に名物になっているからねぇ。どの家に行っても大抵は入れてくれるよ」
「それは凄いですね」
「他にも、鬼に逃げている人の情報は漏らさないという暗黙のルールもあるんだよ」
「ふむふむ」

私がここで着替えたということは、鬼には伝わらないということか。

「鬼以外の人が聞いたら?」
「それも同じだね、鬼かどうか分からないんだから」

他の人がどの程度見つかったのかも教えてもらえないらしい。
とか言ってる間にも私の着替えは完了する。

「あ、すいません。この服どこかに隠しておいてもらえますか」
「ああ、いいよ」

老夫婦が教えなくても、鬼が私の服を見つけてしまったら変装をしていることがばれてしまう。
名物にまでなっているこの村のかくれんぼを、なめて掛かるわけにはいかない。
それこそ細心の注意が必要だ。

「……すいません、靴も借ります」
「あぁ、はいはい」
「後で取りに来ます。お邪魔しましたー」

家をでてからは、駆け足で周辺をさっと観察する。
村の地理に疎い私が遠くに行ったら、帰ってこれなくなる可能性が高い。
これは大きなハンデだが、自分の行動範囲を決め、その中で鬼をやり過ごせばそのハンデはほとんどなくなる。
周辺の状況を確認した私は、取り合えず老夫婦の家から一件離れた家を訪ねることにした。
鬼の少ない間に多くの情報を集めなければ。


「かくれんぼでお邪魔しまーす」

私が挨拶をすると中からは懐かしい人が顔を見せた。

「その節はお世話になりました」
「何のこと?」

おおぅ、そう言えば変装中だった。
流石に顔までは覚えてくれなかったか。

「ほら、昨日広場への道を尋ねた……」
「ああ、君か。服が変わってるから分からなかったわ。ちゃんと広場には行けた?」
「あなたのお陰で行けました。玄関で立ち話もあれなので、あがっていいですか?」
「かくれんぼだっけ、いいわよ」
「それじゃ、遠慮せず」

中に入っていく私。
本当にかくれんぼならフリーパスなんだ。
そのうち『かくれんぼ詐欺』とか『かくれんぼ強盗』とか起きそうな村だ。

「カレーどうでした?」
「それが、作りすぎて余っちゃったわ」
「今日が本番ですよ」
「それもそうなんだけどね」

一晩寝かすと美味しくなるのはもはや定説らしい。

「良かったら味見していく?」
「是非とも」

Bさんに連れられて台所まで行ってみる。
そこで小皿に移されたカレーを貰う。

「普通に美味しいですね」
「良かったわ」

胸を撫で下ろすBさん。
カレーで失敗することはあまりないけど、作り手によって味は結構変わってしまう。

「隠し味に珈琲使ってるんですか?」
「よく分かったわね」

……隠し味に珈琲も定説になりつつあるらしい。
適当に言ったら当たってしまった。

「この辺にいい隠れ場所ってないんですか?」

いつのまにか二人は居間に戻っていた。
私はBさんに入れてもらったお茶を飲みつつ話をかくれんぼに戻す。

「多分ずっと隠れていられる場所っていうのはもうないねぇ」
「屋根裏とかも?」
「そういう基本的な場所は真っ先に見に来るわ」

屋根裏が既に基本なのか。
恐ろしいレベルの高さだ。
……既に家宅捜査の域に達している。

「やっぱり、鬼に見つからないように移動するしかないんですね」
「それしかないわね」

よく考えたら、狭くはない村の中を鬼が一人で隠れている誰かを見つけることは可能なのか?
運良く見つけられたとして、二人になってもまだまだ人手不足だろう。

「懐かしいわね」
「は? 何がです?」
「私も小さい時はよくやったのよ」
「まさか、このかくれんぼですか?」
「そうよ」

そんな昔から村ぐるみのかくれんぼは続いていたのか。
名物になるだけのことはある。

「何かコツとかってないんですか?」

経験者の意見は重要だ。

「ないわね」
「身も蓋もありませんね」
「誰にも気付かれずに地下室作っておいてそこに隠れたこともあったけど、直ぐに見つかってしまったし」
「どこに作ったんですか?」
「他人の家」
「……」

ホントに何でもありらしい。
Bさんの隠れようという気合も凄いが、それを見つける鬼もどうかしている。
改めてレベルの高さを見せ付けられてしまった。

「その後怒られたりしなかったんですか?」
「なんで?」
「いえ、気にしないで下さい」

そこまで聞いて、私はあることに気付いて一旦席を立つ。
重要なことを忘れていた。

「ちょっと失礼します」
「ええ、頑張って」
「まだこの家から出ませんよ」

私は玄関に向かった。
そこに脱ぎっぱなしにしておいた靴を持って、また居間に戻る。
私がここに居ることは分からないかもしれないが、いつもない靴が増えていれば鬼に怪しまれてしまう。
そう考えると老夫婦の家に靴を置いてきたのは正解だったかもしれない。
そこに私がいると見せかけることが出来る。
気付かないうちに頭脳プレー炸裂だった。

「お待たせしました」
「ああ、靴を持ってきたのね」
「危ないところでした」
「あなたもうっかりさんね」

……靴の置忘れがうっかりさんなのか。
自信なくなってきた。
時間まで見つからずに逃げ切れるだろうか?

「ええと、今の時間は……?」

あ、しまった。
携帯は前の服の中に入れっぱなしだった。
腕時計の類いは鬱陶しいので持っていない。
時間が分からないと動きにくいな。

「四時十五分ね。時計はあそこ」
「あ、すいません」

どこの家庭にも、一家に一台大きなのっぽの古時計だ。
世代が違うけど、どこか懐かしさを感じてしまう。
ほろり。

「何時から始めたの?」
「三時少し過ぎた辺りからです」
「……そろそろ、鬼が加速度的に増えてくるわよ」

経験者になると鬼が増え始める時間帯も分かってしまう。
せっかくだからこの家を拠点にしてみよっと。

「家、見せてもらっていいですか?」
「いいけど、他の家と違って隠し部屋とか秘密の抜け穴の類いはないわよ」
「はは、別に構いませんよ」

違う家にはそんなのまであるの?
平凡な田舎の村かと思っていたら、凄いからくり満載だよ。
もしかしてキィモ・ケネー仕様?


一通り家の中を廻って、再度Bさんとお茶を飲みつつ談笑している所に来客があった。
因みに現在時間は四時二十五分。

「お邪魔しまーす」

どこかで聞き覚えのある声だと思いつつ、私は隣の部屋に隠れる。
お茶を流しに捨てることも忘れない。
隣の部屋で逃げる準備をしつつ様子を窺っていると、上がってきたのはあの生意気な子供だった。
……宿命の対決?
Bさんと子供の声が聞こえてくる。

「久しぶりです」
「そうかしら?」
「他に誰かいるんですか?」
「それは、言わない約束でしょ」
「そうでした」

Bさんは質問を適当にはぐらかしつつ答えていく。
何か手馴れてる。
それにあの子もまだ見つかってないらしく、家の中を探す素振りもない。
……どうしよっかな?
ちょっとリスクがあるけど、授業の時の借りを返しておきたいな。

「みーつけた!」
「えっ!」

含み笑いをしながら隣の部屋から私は姿を表した。

「先生、もう見つかっちゃてたの?」
「ふふふ、この家で網を張っていたら、君が飛び込んできたと言うわけだよ」

紛らわしい言い方をしてるけど、嘘は言ってない。

「ううー、ずるいー」
「さ、諦めて他の人を探しに行った行った」
「ちぇ、分かったよ」

大人しく家を出て行く生意気な子供。
大勝利!

「思い切ったことするのね」
「後々の事を考えると、確かにリスクは高いんですけどね」

言いながら、自分でお茶をいれ直す。

「それもあるし、あの子が既に見つかってる可能性もあったのよ」
「その辺は賭けでした」
「いいけどね。そうやってこのゲームは、最初の鬼が知らないところでどんどん増えていくんだし」

ああ、そっか。
これは隠れている人同士でどんどん自爆していくゲームだったんだ。
私欲の為にいつのまにか首を絞めてたよ。
……むー、やってしまった。

「どうしましょ?」
「まだしばらくは大丈夫じゃない?」
「どのくらいですか?」
「もって二十分ぐらい」
「二十分経つと?」
「誰かが念のため、もう一度見に来るわよ。複数で」

ああ、やっぱりそうなるのね。

「移動した方がいいんですか?」
「なるべく早いうちにね。時間が経つと外を歩くのも危険になるから」
「でも……お茶が」
「お茶のほうが大事だったの?」

さてどうしよう?
このままこの家にいるか、場所を移すか。
それとも…………

「地下室って作るのにどのくらい掛かります?」
「今の私なら一時間掛からないぐらいかな」

この人どんな人だよ!

「ほ、本当ですか?」
「自分の家なら勝手も分かるから、もっと早くできるかしら?」

何で家の地面の勝手まで知ってるの?
もしかして、いつか作ろうとしてたとか?
ここは思った以上に変な村だった。
でもせっかくなので、お願いしちゃおう。

「作って下さい!」
「いくら私でも二十分じゃ無理よ」
「手伝います、頑張りましょう」
「……やれやれ、しょうがないわねぇ」

……言葉とは裏腹に、目が輝いてるんだけど。
職人魂に火付けちゃったのかな?


「こっちよ」

Bさんに連れられて案内された部屋は、ごく普通の寝室。

「ここに何があるんです?」
「ちょっと待ってね」

Bさんが部屋の中央辺りを慎重に歩く。
歩くというよりは、摺り足で畳の具合を確かめている感じ。

「ここね」

止まった所は何の変哲もない、周りと同じ畳……?

トトン、トン。

…………

「うそ!?」

Bさんが畳を足でリズミカルに叩くと、その場所が勝手に持ち上がっていく。
その下には剥き出しの土が見えてるんだけど。

「な、何ですか? この仕掛け」
「ん? 一定のリズムで決められた場所を叩くと開くようになってるだけよ」
「そうじゃなくて、何で寝室にこんな仕掛けがあるんですか?」
「寝込みを襲われたら危ないじゃない」
「……そ、そうかもしれませんね」
「今はもうそんな心配もないから、穴までは掘らなかったんだけどね」

…………
ああ、自分の中の平穏な村の風景が急速に薄れていく。
ふふふ、もう突っ込むのも疲れちゃった。

「さぁ、掘るわよ!」
「ど、どうやってですか?」
「愛と勇気よ」
「他にも友達はつくった方がいいですよ」
「何を言ってるの?」
「……何でもありません」

何となく見ていられなくなって顔を逸らしてしまう。
そして私は今、人間の限界を超えた偉業に手を貸そうとしていた……。




「ふぅ、はぁ、ふぅ、はぁ」

嗚呼……本当に二十分で出来上がってしまった。
もう、気にしないさ。細かいところは無視する。
この村でそんな事気にしてたらやっていけないもん。

「……あっ! 誰か来たみたい。早く入った方がいいわよ」

この人はこの人で息切れ一つしてないし。
やってられません。

「はいはい。五時になったら教えてくださいね」

投げやりに返事をして、出来上がったばかりの地下室に入る。
私が入ったところでBさんが畳を閉めてくれたらしい。
予め用意しておいた提灯が室内を仄かに照らす。

…………

「何だ、お前か」

……

「んんー!!」

叫びだそうとしたところで、口を抑えられてしまう。

「いいから落ち着け」

落ち着いてらんないよ!
何で私の掘った穴の中にこんな人がいるのよ?
しかも私より先に。

「ふー、ふー」
「安心しろ、まだ私も見つかってはいない」

そんな事が聞きたいんじゃないんだけど!
私は口を抑えている手を叩いて、落ち着いてきたことを知らせる。
あまり落ち着いてはいないけど、私にも何か喋らせてほしい。
穴の住人はそれで叫びださないと判断したのか、ゆっくりと私の口から手を離してくれる。

「な、なんで慧姉がここにいるんですか?」
「まぁ、いいじゃないか。気にするな」
「気にしますよ。さっき作ったばっかですよ、ここ」
「ああ、それには驚いたぞ。取り合えずあれを見てみろ」

慧姉が指差した先には……横穴?
ここを作ってるときにはそんなものなかったよ。

「何ですか、あれ?」
「穴だ」

そんな胸を反らしながら自慢げに言わなくても分かるけど。
……やっぱり……なのかなぁ?

「どこからですか?」
「今回は時間が取れなかったから、隣の家からだ」

この人は時間が取れればもっと掘るのか?
いやいや、掘る以前の問題で……駄目だ、突っ込みどころが多すぎる。

「隣って……あの老夫婦の?」
「老夫婦? ああ、お前勘違いしてるな」

何か勘違いするような事があっただろうか?

「あそこはお爺さんの一人暮らしだ」
「へ? 私が行った時にはお婆さんもいたけど」
「ふっふっふっ。実はな、あれは私の変装だ」

…………
どうすればいいのか、何を聞けばいいのか?
分からなくなってきてしまった。
もう突っ込まないと決めていたのに、やっぱり気になってしまう。

「身長まで変わってましたよ?」
「凄いだろ」
「世間一般でああいうのは変身って言うんですよ!」
「あれは、まだ変装だ」

誰か、この人に変装と変身の違いを説明してあげて。
私にはとても無理だよ。

「お前が来たときには焦ったぞ。着替えてる途中だったからな」
「その割には落ち着いてるように見えましたけど」
「それも、お前だからだ」
「意味が分かんないです」
「子供だったら家族構成ぐらい知っているからな。
 そこまで知らないお前だったから、一芝居打とうと思ったんだ」

だからってお爺さんより積極的に喋らないで下さい。
……そう言えば声も変わってたなぁ。

「それとお前、靴を出しっぱなしで行っただろ」
「あそこに慧姉がいたんなら、二重の意味で頭脳プレーでしたね」
「危なかったんだぞ。
 あの後鬼が入ってきて、咄嗟に家の地下室に隠れたもののそこが見つかるのも時間の問題だ。
 だから、急いでここまで横穴を掘ったんだ」
「ちっ、惜し……くもないか」

咄嗟に隠れたとか言いつつ、慧姉の服はいつものだ。
目茶苦茶余裕だったらしい。

「全く、かくれんぼで私に喧嘩を売るとはいい度胸だ」

ふぅ、次からこの村のかくれんぼに参加するのはやめておこう。
精神的に疲れる。

「じゃあ、この横穴を辿っていくと隣の家まで行けるんですか?」
「いや、横穴があったらばれるからな。元に戻しておいた」

『元に戻す』ではなく、せめて『偽装しておく』にはならないだろうか?
これでは手を加えていないかのようだ。
本当に元通りにしてきたんだろうけど……はぁ、溜息が止まらない。

「……慧姉、今の時間分かりますか?」
「残念ながら時計の類いは持ってないんだ……お前もか?」
「ええ、前の服に入れっぱなしでした」
「……情けない」

……なんで……なんで!
慧姉に溜息を吐かれながら、呆れられなくちゃいけないの!?
理不尽だよ。パワハラだよ。
訴えてやる。名誉毀損罪とかそんなんで。

「う~! う~!」
「何故睨む?」
「ここで押し倒しても誰も見てませんよね」
「いいけど歪むぞ」
「しくしくしくしく」

………………

地下室の中で、私と慧姉の掛け合いはいつまでも続く。
この村の異常性を知ったかくれんぼだったけど、それなりに楽しめた。
その、かくれんぼの結果だけど……あれだけ騒いでれば……。

「お前の所為で見つかってしまったではないか!」
「慧姉が横穴なんか掘らずに大人しく見つかってれば良かったんですよ!」

最後は責任の擦り付け合いになってしまいました。
残り僅かで私たちを見つけたのは……思い出すと腹が立つ相手です……ふん。









慧姉の家で夕飯を食べ終わり、やはりマッタリしていると、昨日のように台所から慧姉が顔を覗かせる。

「暇そうだな。風呂が沸いてるから入ってきたらどうだ?」
「昨日と同じことを同じ調子で言わないで下さい」
「悪いのに進めたりはしないよ……」
「それも昨日聞きました」

慧姉が見るからに残念そうな顔をする。
そんなに私を風呂に入れたいのか。

「……入ってきたら、どうだ?」
「なんでそんなにしょんぼりしてるんですか?」
「…………どうだ?」
「今日は慧姉の後に入ります」
「お前は私に二回も入れというのか?」

慧姉がいつのまにか新しい技を覚えてしまった。
ただ、声の沈んだ調子と違って言ってることは過激だ。
この人は一体何がしたいの?

「今度は鍵なりつい立なりをしときますけど」
「地中から……呼ばれて飛び出て……!」

入浴中に全裸の少女が私の足元から……?

「いろんな意味で怖いのでやめて下さい」
「しょうがない、先に行くか」

いきなり開き直って慧姉は風呂場に…………。

「早く行ってください。誰も引き止めませんから」
「お前は冷たいな」

捨て台詞らしきものを残してやっと風呂場に行ってくれた。
慧姉はそこまで一緒に入りたかったらしいけど……。
私はもう絶対嫌です。



「ふわぁー、ゆっくり入れて気持ちよかったですよー」
「それはよかった」

慧姉は、私が風呂に入る前と違って上機嫌で迎えてくれた。
少し前、慧姉が風呂から出て空いたことを知らせてくれた時は……頭痛い。
途中で私が入ってくると期待していたらしい。
がっかりしながら、のぼせていた。
ん? 私は当然気のない返事をしつつお風呂に入りましたよ。

「今日は楽しかっただろ?」
「その分疲れましたけどね」
「お前はそうかもな」

慧姉は元気そのものだ。

「毎日あんなことやってるんですか?」
「広場で遊ぶことか?」
「いいえ、かくれんぼです」
「やるときもあるし、やらないときもある」

毎日あんなことをやってたら、私の体がもたない。
それに村の人にも迷惑がかかってしまうか。

「この家にも地下室とか隠し部屋ってあるんですか?」
「ある訳なかろう」
「聞いた話ではほとんどの家にあるって……」
「あ、ああ……事情が……あるんだ」

急に慧姉の声音が頼りなく揺れる。
何か複雑な事情があるのかもしれない。
あれ? 似たようなフレーズを前にも使った気が……?

「……話し難いことですか?」
「いや、そんなことはないが……。知りたいのか?」
「まぁ……出来れば」

私は悩みつつも答えた。
触れてはいけないような気もする。
また、聞いておけという自分もいる。
それは、好奇心とは違う何かで……よく分からない。

「ふふ。まぁ大した話ではないからな。そんなに気を張って聴くような事ではないぞ」

身構えていたら、急に慧姉がいつも通りの調子に戻ってしまう。
あぅ、気が抜けた。

「前振りでそんな重くしないで下さい」
「びっくりしただろ」
「はいはい、それでどういう事情があるんです?」
「少し前までな、この村はよく妖怪に襲われていたんだ。
 それで村人の自衛手段として使っていた仕掛けが、まだ残っていると言うわけだ」
「ああ、そう言うことですか。
 軽々しく流して良い話でもないですけど、もう大丈夫なんですよね?」
「うむ、その妖怪もどこかに行ってしまったからな」

つまり妖怪から身を隠す為の仕掛けらしい。
それも今は使わなくなったので、子供達の遊び道具になったということか。
ふふん、謎は全て解けた……聞いたからだけど。

「秘密基地みたいで楽しい村ですね」
「それを言ったら苦労した村の皆に悪いがな」
「ごめんなさい、そうでした」

異常な村かと思っていたら、ちゃんとそれなりの理由があったんだ。
もしかしたら幻想郷ではこういう村は結構多いのかもしれない。
物事をもっと多面的に見ないといけないことを知った一日でした。

「それじゃあ、おやすみなさーい」
「ああ、おやすみなさい」








村の中の平凡な一日……?

自分の中で考えていた物と大きく違うものなってしまいました。
さりげなく、オリキャラが増えてしまって自分でもびっくりです。
前回ではその場限りのキャラだったはずなのに、再登場するなんて。
多分もう出てくることはないと思います。
出す予定はないです。

次は日常編パート2……ついに『私』が子供達に勉強を教えます!
choco
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1750簡易評価
4.60名前が無い程度の能力削除
ウワーン(´Д`)慧姉こわいよぅ
つっこみがキツい小学校の先生みたいだw
18.80床間たろひ削除
やっべ、俺やっべ! 慧姉にマジ惚れしそうですよ!
村人さんたちも良い味出してるし、本当に良いほのぼのワールド。
いつまでもこの世界に触れていたいと感じさせる空気。
大好きなシリーズです。今後も宜しくお願いします。
27.70通りすがり削除
なんなんですかこの村は!
慧姉も剛の者ですし!
俺もいきてぇぇぇ!!
32.80名前が無い程度の能力削除
慧姉がこんなにも感情表現豊かだったとは!
俺も慧姉と一緒に住んでみたいです。
34.90名前が無い程度の能力削除
>嗚呼、いつか慧姉に一死報いたい。→一矢を報いる
>うん、ここは人肌脱ごうかな!  →一肌脱ぐ

・・・さて、「私」はわかってこう表現したのか素ボケなのか・・・なんか前者っぽいなぁ

それにしてもこの村スゲー!!
昔あった「12時間耐久 鬼ごっこ 逃げ切れたら100万円」を彷彿とさせますなぁ
39.70回転式ケルビム削除
>「あれは、まだ変装だ」
いやそのセリフ、あなたしか言えませんから!
かくれんぼで効果的なのは逃げ回る>地下室>屋根裏で、これは妖怪から身を護るためのもので・・・どんだけ忍び極めてんですか村人ズ。
次回は授業ですか・・・妹分の立場を取られた妹紅に出番はあるのでしょうか(遠い目)。