一角に住まいて、幻想郷にありし店。
主人は眼鏡に灰色髪の毛、どこの国かも知らぬ服。
所狭しと並ぶ品。皆、一癖二癖ありそうで。
ああ、埃くさ。鼻炎のお方は要注意。
ティッシュは取り扱っておりませんもので。
古くを知りて新しきを知りて―――。ああ、物とはすばらしきや、と。
椅子にどっしり腰掛ける者は思いつれづれ日々を為す。
「今日は目ぼしいものはないわね、そろそろお暇するわ」
「今度はちゃんとお金を持ってきて欲しいものだが」
この世界でお金などが通じるものなのであろうか。
いや通じるのだ。どこから仕入れた、謎多し。ここには外界の品多し。
森に構えて香霖堂。珍品、名品ドンと来い。
お客が来たらハッピネス。
金さえ持ってりゃハッピネス。
さて、今回はここから出る品に関わる一片一時のお話。
プロローグにはもちろん店主こと森近霖之助。
そして金なし巫女・博麗霊夢が開いてございます。
「ちょっと待ってくれ、霊夢」
「何?私、忙しいんだけど」
「嘘はほどほどにしておくことだ」
魔理沙からいつも聞いているよ、と霖之助。
掃除はせずにお茶を飲み、巫女の正義はどこへやら。
さて、話があるんだと取り出しましたるは一升瓶。
「あら銘酒」
「実は・・・」
と片手を肘で顔まで挙げて、手を広げて一瞬のうち。
話をしようと束の間の間。
「じゃ、また~」
「だから待てと言っているだろう」
「ぐぇ」
酒瓶を持って帰ろうとせん霊夢のを後ろおさげを引っ張って。
手が伸びているように見えるのはきっと目の錯覚だろう。
「乙女の髪になんてことするのよ」
「乙女は軽々しく物を盗んだりはしない」
さて、話なんだがと霖之助。
頭をぽりぽりと博麗の巫女、しまいにゃ欠伸、大欠伸。
「これを配ってもらいたいんだ」
「ん?」
目じりに涙で見たところビラというかチラシというか。
「実は今度、いろいろと外界のものを仕入れることになってね」
是非みんなには来てもらいたい、とのこと。
「コレクターとしての自慢かしら?」
「まさか、そんな無粋なことはしない。ちゃんとした商品だよ」
と。
ビラを受け取って、霊夢。やれやれと。
「こういうのはもっとちゃんとした適任がいるでしょ?ほら、あの・・・・・・」
「それ以上は文花帖のネタバレになるだろう?」
「何の話よ」
「こちらの話さ」
そういって椅子へと座り直す霖之助。
ぎいぎいと鳴り響くは木の心地よい調べ。
「その御酒は報酬、やってくれるならどうぞ」
「そういうことなら仕方ないわね」
御酒を抱えて霊夢は飛び出していった。
ビラを撒いて帰路へとつく。
「・・・・・・でもわざわざあちこち行くのは面倒だわ・・・えいっ」
ホーミング座布団に乗せて。
修理代やら怪我の治療費が香霖堂に請求されたのはまた別の話。
さて、その後の香霖堂。
客は多しとは言えぬけど、常に店は二、三人の人。
お金は無いと言われども、等価交換いらっしゃい。
物々こそコレクトの宿命。ぷりーずぷりーず、交換しましょ。
いやはや、大変繁盛したのでありまして。
さすがに凍った蛙や食いかけの人肉の時は困ったものだが。
約二名ほど払わずにパクって行く奴に比べればまだまだ。
「ほう・・・五行器の設計図かな。こちらは光酒か・・・・・・」
大漁大猟とほくほく顔の霖之助。はて、何を撃ち取ったやら。
某メイドが持ってきた吸血鬼の歯というものを見て
「まさかとは思うがあのお嬢さんのものではなかろうな」
と、まぁ鑑定すればすべては解決であるので。
「また明日から忙しくなりそうだ」
数々の珍品、名品を見渡して万遍の笑み。
日々の静かな時間を静かに鑑定して眺め、吟味する。
これほどの幸せはないと霖之助は頷く。
さてお話の心はここで買っていかれた品々と彼女たちとのお話になりまして。
ところで紅魔館にて昼。昼食を取りに来た門番。
紅美鈴は読書に勤しむ咲夜の姿を見つけまして。
かと見ればレミリアもそばで本を読み読み。
皆そろってパチュリー病?
首を傾げてぽくぽくぽく。
「あら失礼ね、中国」
「勝手に人の心は読まないでくださいね、パチュリー様」
いつの間にか立つパチュリー。
側を抜けて椅子へと腰掛け、分厚い本をよっこらせ。
「それにしても皆で本を読むなんてどうしたんですかねぇ」
「ああ、実は・・・・・・」
かくかくしかじか、パチュリーは香霖堂のバザーの話をしまして。
「咲夜と行ったんだけれど、なかなかの品揃えだったわ」
「なんで私も連れて行ってくれなかったんですかー」
と、美鈴。
まぁ、今はそれは無視してと。
「外界の本も多く仕入れたんだけど、あの二人が読みたいって言うから」
「へぇ、どんな本なんですか?」
「確か咲夜の本は・・・・・・『王女・妹』だったかしら」
「・・・・・・和英変換って知ってます?」
「さぁ」
何だか、不穏な空気が流れた気がするのは気のせいにしておこうか!!?
遠い目をする中国。ああ、私の能力をこれほど呪ったことなんて・・・・・・。
「確か内容は・・・・・・
『ある時あるところに男がいて、その男には十二人の妹が。
彼女達はこの兄を溺愛していた。しかし、一人の男の側には一人の女性で十分。
ある日、彼女達は意を決して島に篭り、この島の中で最後まで生き残ったものがその男を』・・・・・・」
「ぁー、ちょっと」
「何?人が話してるのに」
「いえ、何だか止めないといけない気がして」
「・・・・・・ま、いいわ」
興味を無くしたように本に目を落とすパチュリー。
見れば見るほどタウンページなのはおいといて。
「ところでレミリア様は?」
「あっちは確か咲夜と同じ力を使う者が主人公の小説よ。挿絵100%の」
「それは漫画って言うんですよ」
はははと乾いた笑いが木霊した。
「そういうあなたも、ほら、読んでみない?」
「え?私がですか???」
「門番だからっていつも忙しいわけじゃないでしょう?」
「どうもありがとうございます~」
「日陰で読みなさいよ?」
『阿Q正伝』
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「いえ、何か読んだら悲しくなってきそうなので」
「仕方ないわね・・・・・・はい、子牛やら子馬って偉人が書いたモノらしいけど」
あれ、どうして私泣いてるのかな・・・・・・。
どこか涙が渦巻く紅魔館でして。
白玉楼にリラリラリ。夕より鈴虫が鳴きわたり。
「ねぇ、妖夢。私ならできると思うの」
「何がですか?」
急に決心したように握りこぶしを作って構える幽々子。
居間に座って茶を飲む妖夢、怪訝そうに顔歪み。
「そもそも私は幽霊なのよ。出来ないはずないじゃない」
と、手を拳銃のように形作り、もう片方の手で手首を押さえて。
狙いをつけたか西行妖。まさか座薬でも飛ばす気じゃ。
「香霖堂の本に載ってたの。必殺技よ?」
自信あり気に答える幽々子を傍らに半身と佇む妖夢。
「(また何をするつもりやら・・・・・・)」
今に始まったことではなく、変なのは前々から。
そもそも幽々子様は自由に生きられるとおっしゃった。
ならばその御意思を尊重するのが、家臣としての役目。
ああ、私は何て主人思いなのだろう―――――。
・・・・・・でも、そろそろ私も反抗期だと思うからちょっとぐらい―――。
とか思ってる矢先、一気に手に霊力が集まる集まる。
・・・・・・って、尋常じゃない力なんですけど!?!!?
「いくわよ~・・・・・・」
「幽々子様!!?何をし―――」
「霊ガァァァァァァァァァン!!!」
霊力のマスタースパークが白玉楼を薙いだ。
それからしばらくして夕を沈みて夜の境界。
マヨヒガの一軒家は夕食前で。
「もう秋ねぇ。お酒のおいしい季節になるわ」
と、主人の紫は縁台で呟く。
台所では藍が夕食の準備をいそいそと。
今日は旬の秋刀魚ですよと、網の上には三匹並び。
「積み上げたものぶっ壊して~、身に着けたもの取っ払って~♪」
「あら、藍、その歌は?」
体をぐっと捻ってみれば藍が歌を歌っていまして。
後ろも向かずに尻尾で話す藍でございます。
「ええ、実は・・・・・・」
これこれうまうま、藍は香霖堂のバザーの話をしまして。
「『CDプレイヤー』という外界の機械の式が歌っていたものでして」
なかなかいい曲で、すぐ覚えてしまいましたと藍。
三角巾が耳の間から後ろに垂れて、ああ、ふかふかしたいと思うところ。
「特に『身に着けたものを取っ払って』なんてところが他人とは思えない共感が・・・・・・」
「―――あらそう」
秋の空気とは違った涼しい風が流れたような気がしまして。
「でもなかなか面白そうね」
「何でも人が歌ったものをそのままコピーしてしまう能力らしいですね」
しかも必要に応じて換えることも可能とか他にも―――と藍。
そればかりは私にも真似出来ませんねと苦笑して。
「ま、うちの藍に比べればまだまだね」
「と、言いますと?」
「掃除洗濯料理ができて話ができて考えることができて・・・・・・」
あれがこれができてと言い尽くして一言。
「そもそも私の式が他の式に衰えるはずが無かったわ。だって『八雲式』ですもの」
「もったいない御言葉、でいいんですよね?」
「おつりがじゃらじゃら出るわよ?」
二人の顔はどこか幸せそうで。
「ただいまー」
「おお、橙。おかえり」
「わー!今日は秋刀魚だー」
さて、ちょうど夕飯もできたよう。
ぢりぢりと皮から油が出てきておいしそう。
「橙、手を洗ってきなさい」
「はーい」
と、洗面台へ向かう足。
黒の尻尾二本、ふりふり。
はて、すりおろし器(手動)はどこへやったかなと。
ところでと紫は呟いて
「その歌は元々誰の歌なのかしら」
「確か・・・何とかスイッチという集団でしたね」
と言っても二人だけですけど、と。
マヨヒガの一角は今日も平和でして。
はて、最後に博麗の神社が建っておりまして。
縁台に座りて月夜、鈴虫の鳴く声。
時、場合によって夜の虫変わりて、曰く、ジリジリと。
少し雑だったほうが、秋らしくていいんじゃない?
「で、霊夢のほうはどうだったんだ?」
と、魔理沙の声響く神社で二人の影。
明かりは消して闇の中、月の明かりが袂を照らし。
嗚呼、何と風流か。ところが二人の心は複雑、混雑のお雑炊。
「どうもこうもないわ」
「へぇ、どうして」
二人は香霖堂から買った、もといパクったものの話をしていて。
お茶はぬるめの甘味ほんのり。でも霊夢の口調は毒づいていまして。
「新しい巫女服なのはいいんだけど、何故か看護婦の服と合体してて・・・」
「ふーん。着ないのか?」
「まさか。恥ずかしくて着れないわ、あんなの」
と、目を瞑りてやれやれ。折角、出かけたのにと霊夢。
ぬるめとはいえ、少し火照りて体。涼しく涼しき秋の夜や。
「そういう魔理沙のほうはどうなのよ」
「あー・・・・・・いや、私も似たようなものだった」
目を泳がせて、頬をぽりぽり。薄く歪んだ苦笑と共に。
「服・・・というかマジックアイテムなんだが・・・・・・」
「へー」
これなんだがな、と懐から八卦炉と同じぐらいのサイズの物。
面白そうねと霊夢。オチを待つのか薄笑い。性格悪いぜ、魔理沙の呟き。
「それが、使用すると音楽と共に服が出てきてな、音楽が止まると消えてさ」
どうやら鳴り終わる前に着替えろと言うことらしいんだが・・・・・・。
「とても・・・着れるものなんかじゃなかったんだ・・・・・・」
「・・・・・・・・・そう」
遠く月を見つめる二人。
いや、決して彼女達が見ているものは月ではない。
自分がそれを着たときの姿だろう。
二人にはそれが果てしなく延々と遠いことをどこか感じていた。
「魔理沙~、霊夢~」
ここで意外な訪問者、七色魔女・アリスの参上で。
側にはふわり上海人形。そろって金の金髪が、まるで今宵の月の様。
「お前、これ使ってみないか?」
「そんな魔理沙も使わなかったものなんて胡散臭くて使う気がしないわ」
いきなりマジックアイテムを取り出す魔理沙の願いは看破されまして。
「貴方達もあそこの買い物に行っていたのね」
決してこの二人は買ってはいないことを改めて確認したいと思う。
あらら悲しき香霖堂。
「ということはアリスもいったのかしら」
「ええ。なかなかの掘り出し物だったわ。外界の自立人形よ」
「へぇ、それはすごいじゃないか」
関心集めて、魔理沙の心。どんなのだったと聞き問いただし。
「嘘をつくと鼻が伸びるって能力だか欠点があってね」
なかなか不器用な子だったわ、と微笑するアリス。
「でも残念。あれは別の人の人形でね・・・」
「ってことは外界に戻したってことか」
「ええ」
それでよかったのよ、と苦り笑いて、苦笑苦笑。
「主人の下には戻りたくないって言うたびに伸びるんですもの」
惜しかったわと言いながらも、どこか満足げなアリス。
それは人形遣いとしての心遣いだろうか。
そんな中、隣の上海人形も嬉しそうに浮いている。
「ま、アリスがそういうなら・・・な」
「―――ありがと、魔理沙」
「私は何もしてないぜ?」
はははと笑って一息。
穏やかな優しい空気が神社を撫でる。
「ところでアリス。この服着てみない?」
「何?その副職が看護婦みたいな巫女服は」
本職『巫女』の願いも見事に看破されまして。
博麗の月は沈むのでございます。
嗚呼、楽しきや幻想郷。品々、皆、色々楽しんでいたご様子で。
そんなこんなで香霖堂、次のバザーはいつかしら。
品形 被りてよろし 幻想郷 外より出づる 物と可笑しき
主人は眼鏡に灰色髪の毛、どこの国かも知らぬ服。
所狭しと並ぶ品。皆、一癖二癖ありそうで。
ああ、埃くさ。鼻炎のお方は要注意。
ティッシュは取り扱っておりませんもので。
古くを知りて新しきを知りて―――。ああ、物とはすばらしきや、と。
椅子にどっしり腰掛ける者は思いつれづれ日々を為す。
「今日は目ぼしいものはないわね、そろそろお暇するわ」
「今度はちゃんとお金を持ってきて欲しいものだが」
この世界でお金などが通じるものなのであろうか。
いや通じるのだ。どこから仕入れた、謎多し。ここには外界の品多し。
森に構えて香霖堂。珍品、名品ドンと来い。
お客が来たらハッピネス。
金さえ持ってりゃハッピネス。
さて、今回はここから出る品に関わる一片一時のお話。
プロローグにはもちろん店主こと森近霖之助。
そして金なし巫女・博麗霊夢が開いてございます。
「ちょっと待ってくれ、霊夢」
「何?私、忙しいんだけど」
「嘘はほどほどにしておくことだ」
魔理沙からいつも聞いているよ、と霖之助。
掃除はせずにお茶を飲み、巫女の正義はどこへやら。
さて、話があるんだと取り出しましたるは一升瓶。
「あら銘酒」
「実は・・・」
と片手を肘で顔まで挙げて、手を広げて一瞬のうち。
話をしようと束の間の間。
「じゃ、また~」
「だから待てと言っているだろう」
「ぐぇ」
酒瓶を持って帰ろうとせん霊夢のを後ろおさげを引っ張って。
手が伸びているように見えるのはきっと目の錯覚だろう。
「乙女の髪になんてことするのよ」
「乙女は軽々しく物を盗んだりはしない」
さて、話なんだがと霖之助。
頭をぽりぽりと博麗の巫女、しまいにゃ欠伸、大欠伸。
「これを配ってもらいたいんだ」
「ん?」
目じりに涙で見たところビラというかチラシというか。
「実は今度、いろいろと外界のものを仕入れることになってね」
是非みんなには来てもらいたい、とのこと。
「コレクターとしての自慢かしら?」
「まさか、そんな無粋なことはしない。ちゃんとした商品だよ」
と。
ビラを受け取って、霊夢。やれやれと。
「こういうのはもっとちゃんとした適任がいるでしょ?ほら、あの・・・・・・」
「それ以上は文花帖のネタバレになるだろう?」
「何の話よ」
「こちらの話さ」
そういって椅子へと座り直す霖之助。
ぎいぎいと鳴り響くは木の心地よい調べ。
「その御酒は報酬、やってくれるならどうぞ」
「そういうことなら仕方ないわね」
御酒を抱えて霊夢は飛び出していった。
ビラを撒いて帰路へとつく。
「・・・・・・でもわざわざあちこち行くのは面倒だわ・・・えいっ」
ホーミング座布団に乗せて。
修理代やら怪我の治療費が香霖堂に請求されたのはまた別の話。
さて、その後の香霖堂。
客は多しとは言えぬけど、常に店は二、三人の人。
お金は無いと言われども、等価交換いらっしゃい。
物々こそコレクトの宿命。ぷりーずぷりーず、交換しましょ。
いやはや、大変繁盛したのでありまして。
さすがに凍った蛙や食いかけの人肉の時は困ったものだが。
約二名ほど払わずにパクって行く奴に比べればまだまだ。
「ほう・・・五行器の設計図かな。こちらは光酒か・・・・・・」
大漁大猟とほくほく顔の霖之助。はて、何を撃ち取ったやら。
某メイドが持ってきた吸血鬼の歯というものを見て
「まさかとは思うがあのお嬢さんのものではなかろうな」
と、まぁ鑑定すればすべては解決であるので。
「また明日から忙しくなりそうだ」
数々の珍品、名品を見渡して万遍の笑み。
日々の静かな時間を静かに鑑定して眺め、吟味する。
これほどの幸せはないと霖之助は頷く。
さてお話の心はここで買っていかれた品々と彼女たちとのお話になりまして。
ところで紅魔館にて昼。昼食を取りに来た門番。
紅美鈴は読書に勤しむ咲夜の姿を見つけまして。
かと見ればレミリアもそばで本を読み読み。
皆そろってパチュリー病?
首を傾げてぽくぽくぽく。
「あら失礼ね、中国」
「勝手に人の心は読まないでくださいね、パチュリー様」
いつの間にか立つパチュリー。
側を抜けて椅子へと腰掛け、分厚い本をよっこらせ。
「それにしても皆で本を読むなんてどうしたんですかねぇ」
「ああ、実は・・・・・・」
かくかくしかじか、パチュリーは香霖堂のバザーの話をしまして。
「咲夜と行ったんだけれど、なかなかの品揃えだったわ」
「なんで私も連れて行ってくれなかったんですかー」
と、美鈴。
まぁ、今はそれは無視してと。
「外界の本も多く仕入れたんだけど、あの二人が読みたいって言うから」
「へぇ、どんな本なんですか?」
「確か咲夜の本は・・・・・・『王女・妹』だったかしら」
「・・・・・・和英変換って知ってます?」
「さぁ」
何だか、不穏な空気が流れた気がするのは気のせいにしておこうか!!?
遠い目をする中国。ああ、私の能力をこれほど呪ったことなんて・・・・・・。
「確か内容は・・・・・・
『ある時あるところに男がいて、その男には十二人の妹が。
彼女達はこの兄を溺愛していた。しかし、一人の男の側には一人の女性で十分。
ある日、彼女達は意を決して島に篭り、この島の中で最後まで生き残ったものがその男を』・・・・・・」
「ぁー、ちょっと」
「何?人が話してるのに」
「いえ、何だか止めないといけない気がして」
「・・・・・・ま、いいわ」
興味を無くしたように本に目を落とすパチュリー。
見れば見るほどタウンページなのはおいといて。
「ところでレミリア様は?」
「あっちは確か咲夜と同じ力を使う者が主人公の小説よ。挿絵100%の」
「それは漫画って言うんですよ」
はははと乾いた笑いが木霊した。
「そういうあなたも、ほら、読んでみない?」
「え?私がですか???」
「門番だからっていつも忙しいわけじゃないでしょう?」
「どうもありがとうございます~」
「日陰で読みなさいよ?」
『阿Q正伝』
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「いえ、何か読んだら悲しくなってきそうなので」
「仕方ないわね・・・・・・はい、子牛やら子馬って偉人が書いたモノらしいけど」
あれ、どうして私泣いてるのかな・・・・・・。
どこか涙が渦巻く紅魔館でして。
白玉楼にリラリラリ。夕より鈴虫が鳴きわたり。
「ねぇ、妖夢。私ならできると思うの」
「何がですか?」
急に決心したように握りこぶしを作って構える幽々子。
居間に座って茶を飲む妖夢、怪訝そうに顔歪み。
「そもそも私は幽霊なのよ。出来ないはずないじゃない」
と、手を拳銃のように形作り、もう片方の手で手首を押さえて。
狙いをつけたか西行妖。まさか座薬でも飛ばす気じゃ。
「香霖堂の本に載ってたの。必殺技よ?」
自信あり気に答える幽々子を傍らに半身と佇む妖夢。
「(また何をするつもりやら・・・・・・)」
今に始まったことではなく、変なのは前々から。
そもそも幽々子様は自由に生きられるとおっしゃった。
ならばその御意思を尊重するのが、家臣としての役目。
ああ、私は何て主人思いなのだろう―――――。
・・・・・・でも、そろそろ私も反抗期だと思うからちょっとぐらい―――。
とか思ってる矢先、一気に手に霊力が集まる集まる。
・・・・・・って、尋常じゃない力なんですけど!?!!?
「いくわよ~・・・・・・」
「幽々子様!!?何をし―――」
「霊ガァァァァァァァァァン!!!」
霊力のマスタースパークが白玉楼を薙いだ。
それからしばらくして夕を沈みて夜の境界。
マヨヒガの一軒家は夕食前で。
「もう秋ねぇ。お酒のおいしい季節になるわ」
と、主人の紫は縁台で呟く。
台所では藍が夕食の準備をいそいそと。
今日は旬の秋刀魚ですよと、網の上には三匹並び。
「積み上げたものぶっ壊して~、身に着けたもの取っ払って~♪」
「あら、藍、その歌は?」
体をぐっと捻ってみれば藍が歌を歌っていまして。
後ろも向かずに尻尾で話す藍でございます。
「ええ、実は・・・・・・」
これこれうまうま、藍は香霖堂のバザーの話をしまして。
「『CDプレイヤー』という外界の機械の式が歌っていたものでして」
なかなかいい曲で、すぐ覚えてしまいましたと藍。
三角巾が耳の間から後ろに垂れて、ああ、ふかふかしたいと思うところ。
「特に『身に着けたものを取っ払って』なんてところが他人とは思えない共感が・・・・・・」
「―――あらそう」
秋の空気とは違った涼しい風が流れたような気がしまして。
「でもなかなか面白そうね」
「何でも人が歌ったものをそのままコピーしてしまう能力らしいですね」
しかも必要に応じて換えることも可能とか他にも―――と藍。
そればかりは私にも真似出来ませんねと苦笑して。
「ま、うちの藍に比べればまだまだね」
「と、言いますと?」
「掃除洗濯料理ができて話ができて考えることができて・・・・・・」
あれがこれができてと言い尽くして一言。
「そもそも私の式が他の式に衰えるはずが無かったわ。だって『八雲式』ですもの」
「もったいない御言葉、でいいんですよね?」
「おつりがじゃらじゃら出るわよ?」
二人の顔はどこか幸せそうで。
「ただいまー」
「おお、橙。おかえり」
「わー!今日は秋刀魚だー」
さて、ちょうど夕飯もできたよう。
ぢりぢりと皮から油が出てきておいしそう。
「橙、手を洗ってきなさい」
「はーい」
と、洗面台へ向かう足。
黒の尻尾二本、ふりふり。
はて、すりおろし器(手動)はどこへやったかなと。
ところでと紫は呟いて
「その歌は元々誰の歌なのかしら」
「確か・・・何とかスイッチという集団でしたね」
と言っても二人だけですけど、と。
マヨヒガの一角は今日も平和でして。
はて、最後に博麗の神社が建っておりまして。
縁台に座りて月夜、鈴虫の鳴く声。
時、場合によって夜の虫変わりて、曰く、ジリジリと。
少し雑だったほうが、秋らしくていいんじゃない?
「で、霊夢のほうはどうだったんだ?」
と、魔理沙の声響く神社で二人の影。
明かりは消して闇の中、月の明かりが袂を照らし。
嗚呼、何と風流か。ところが二人の心は複雑、混雑のお雑炊。
「どうもこうもないわ」
「へぇ、どうして」
二人は香霖堂から買った、もといパクったものの話をしていて。
お茶はぬるめの甘味ほんのり。でも霊夢の口調は毒づいていまして。
「新しい巫女服なのはいいんだけど、何故か看護婦の服と合体してて・・・」
「ふーん。着ないのか?」
「まさか。恥ずかしくて着れないわ、あんなの」
と、目を瞑りてやれやれ。折角、出かけたのにと霊夢。
ぬるめとはいえ、少し火照りて体。涼しく涼しき秋の夜や。
「そういう魔理沙のほうはどうなのよ」
「あー・・・・・・いや、私も似たようなものだった」
目を泳がせて、頬をぽりぽり。薄く歪んだ苦笑と共に。
「服・・・というかマジックアイテムなんだが・・・・・・」
「へー」
これなんだがな、と懐から八卦炉と同じぐらいのサイズの物。
面白そうねと霊夢。オチを待つのか薄笑い。性格悪いぜ、魔理沙の呟き。
「それが、使用すると音楽と共に服が出てきてな、音楽が止まると消えてさ」
どうやら鳴り終わる前に着替えろと言うことらしいんだが・・・・・・。
「とても・・・着れるものなんかじゃなかったんだ・・・・・・」
「・・・・・・・・・そう」
遠く月を見つめる二人。
いや、決して彼女達が見ているものは月ではない。
自分がそれを着たときの姿だろう。
二人にはそれが果てしなく延々と遠いことをどこか感じていた。
「魔理沙~、霊夢~」
ここで意外な訪問者、七色魔女・アリスの参上で。
側にはふわり上海人形。そろって金の金髪が、まるで今宵の月の様。
「お前、これ使ってみないか?」
「そんな魔理沙も使わなかったものなんて胡散臭くて使う気がしないわ」
いきなりマジックアイテムを取り出す魔理沙の願いは看破されまして。
「貴方達もあそこの買い物に行っていたのね」
決してこの二人は買ってはいないことを改めて確認したいと思う。
あらら悲しき香霖堂。
「ということはアリスもいったのかしら」
「ええ。なかなかの掘り出し物だったわ。外界の自立人形よ」
「へぇ、それはすごいじゃないか」
関心集めて、魔理沙の心。どんなのだったと聞き問いただし。
「嘘をつくと鼻が伸びるって能力だか欠点があってね」
なかなか不器用な子だったわ、と微笑するアリス。
「でも残念。あれは別の人の人形でね・・・」
「ってことは外界に戻したってことか」
「ええ」
それでよかったのよ、と苦り笑いて、苦笑苦笑。
「主人の下には戻りたくないって言うたびに伸びるんですもの」
惜しかったわと言いながらも、どこか満足げなアリス。
それは人形遣いとしての心遣いだろうか。
そんな中、隣の上海人形も嬉しそうに浮いている。
「ま、アリスがそういうなら・・・な」
「―――ありがと、魔理沙」
「私は何もしてないぜ?」
はははと笑って一息。
穏やかな優しい空気が神社を撫でる。
「ところでアリス。この服着てみない?」
「何?その副職が看護婦みたいな巫女服は」
本職『巫女』の願いも見事に看破されまして。
博麗の月は沈むのでございます。
嗚呼、楽しきや幻想郷。品々、皆、色々楽しんでいたご様子で。
そんなこんなで香霖堂、次のバザーはいつかしら。
品形 被りてよろし 幻想郷 外より出づる 物と可笑しき
そこで古典オマージュのちょっと良い話をやっちゃダメだろう。
ビバ!!巫女巫女ナース!!!
幽々つながりですかね。
とにかく面白かったです。GJ!
つまり妖夢は自力で剣が出せるようになったりして、最終的に次元を切り裂けるようになるわけですね?
スキマスイッチ、良いですよねえ。
>ぷりーずぷりーず、交換しましょ。
ポケモン吹いたわ。「とりかえっこプリーズ」ナツカシス
>咲夜と同じ力を使う者が主人公の小説よ。挿絵100%の
JOJO・・・しかも第三部ですか。そのうちに、レミリア様は
「お前は今までに食ったパンの枚数を覚えているのか!?」とか言いますか?
>阿Q正伝
魯迅のこの小説って、主人公は確か最後に・・・ガクガクブルブル
>外界の自立人形
この言葉聞いて真っ先にマルチとか考えた俺はどうやら重症っぽいですね
ネタのチョイスは面白かったです。
しかしパチェは何故タウンページ…。
萃夢想のゆゆさまのレーザー(未生の光)は
多分妖々夢のスペルカード「亡我郷」
がモデルなんじゃないかなと思います
>名前が無い程度の能力さん
パンの枚数ネタは紅魔郷で既に言っちゃってますね