I cannot recall it.
However, there was no necessity of knowing the fact.
The gripped string was in the neck before one is aware.
I want your finger.
Neither the place nor the method require thought.
I disliked you.
You have me sleep.
According to your hope.
彼女は森の奥に居を構えていた。
鬱蒼と繁った針葉樹は、その木々の暗い光のため。なだらかに連なった空気は、たゆたう海の底。隙間をすり抜けるように風は、低い場所を求めて地を這う。音も立てずに。
雨季ともなれば潤いをみせる森は、彼女にとってとても好ましくない環境でもある。悪条件を相殺しても、有り余る恩恵がここにはあった。そしてこれからも、である。
人形師でもある魔法使いは、例外なく蔵書の蒐集にも余念がなかった。
蔵書量に反比例しているかのように、通路の狭い書庫においては、司書の代わりに人形がその管理を任されている。教えられた通りに分類、整理をし、また定期的に本を開く。最も単純な形で仕事を与えれば、文句一つ言わずにオーダーをこなす。
人形の記憶は共有化され、蓄積されるごとに人の思考に似た動きを見せるようになった。
しかし、あくまでも何らかのきっかけをトリガーにして行動しているにすぎなく、世辞にも自律行動と呼べるもでのはなかった。
人形師の課題は未だ、完成への糸口を見いだせないでいた。
書庫の窓は差し込む外光のうち、おおよそ影響のありそうな成分は森によって弱められ、建物自体に張り巡らされた結界の果たす役割は微々たるものであった。
環境はしかし、この場所は他にない利点も多く備えていて、何よりもヒトが訪ねてこないのが一番だった。無論、例外もいることは否めないが。
時折、羽音とともに亀裂が聴こえた。そんなときに時間を思い出してため息をつく。
悠久の時の流れにあって、この森は彼女が支配しているといっても過言ではないが、少々うるさいのがやってきてからはそうでもなくなった。
彼女自身にとって、瑣末なことであったのは言うまでもない。
「ああ、おかまいなく」
勝手に持って行くなと確かに言った。
律義にそいつは本を勝手に持ち出すことはしなくなったが、まるで揚げ足を取るかのように、次の日からは書斎にある専用チェアを使うようになっていたのである。
毎日ではないものの、勝手にやってきては勝手に上がりこんで、書庫を物色する。
殆どの場合、気付いたときには帰った後で、誰もいなくなった書斎には、所狭しと乱雑に本が重ねられていた。そして、後片付けを余儀なくさせられたのは、一度や二度のことではない。
どうやら今日は、久しぶりに現場を押さえることに成功したらしい。
上海人形が差し出した紅茶を仰々しく受け取ると、手を合わせてからカップを口にした。
その様は誰が見ても手練れているとしか思えない。
カップから立ちこめる香りは紅く、ブレンドされたフレーバーの言いしれぬ調和が視神経を研ぎ澄ます。
「魔理沙。それは私に対するあてつけかしら?」
アリスは入り口の柱に背を預け、両腕を胸の前に組む。口調はとげとげしくも、実際には怒り心頭というわけではないらしい。
その言葉を聞いて眉間にしわを寄せたのは魔理沙。書斎の窓を背後にして、部屋に一つだけある椅子に深々と身を沈め、一人読書に没頭していた。
「固い事言いっこなしだぜ。こうやって読む必要もない本を、ここでこうやって読んでいるんだ。お前はありがたく思って良いぜ」
反論する間も視線は本文をなぞる。声の主に対する関心は、ゼロよりも優先順位が低い。しかも、微妙に会話の趣旨替えがされていることに本人は無頓着だ。
やはり当たり前のように、書庫から勝手に抜き出した魔術書が、机のそこかしこにうずたかく積み上げられていた。本人が否定したところで、長時間居座るつもりであることは一目瞭然である。
心底あきれ果てて、ため息すら出なかった。怒りの矛先を手近なところへ向け直す。
「シャンハイ。貴女もよ。これはお客様じゃ無いからお茶なんか出さなくて良いわよ。……って、また、よりによってファーストなんて淹れたの?」
ティーセットは、青を基調とした植物の幾何学模様が描かれている。さして美術的な価値はなさそうではあったが、独特の深い青とともに、金彩が織りなすパターンの調和が美しかった。
紅茶の色が映えるよう、カップの内側には一切の彩色が施されていないが、この肉厚、重さで外側の模様が透けないのも技術の高さが伺える。コレクションの中では実用向けではあるが、それなりに価値のあるのには違いなかった。
紅茶の種類も、季節に応じて常に3~4種類は用意してあり、特に、香りに秀でているファースト・フラッシュがアリスの好みであった。
無論、来客者に応じて好みもあるだろうから、癖のあるファーストを選ぶ必要はまったくない。魔理沙の場合、一番高価な銘柄というだけで人形に淹れさせているのである。
上海人形は首を傾げているが、魔理沙にすっかりなついている風にも見える。
術者への敵意がない限り、来客の接待をするように教えてあっても、個別の対応が出来ないわけでもなく……。
間違いなく上海人形は、魔理沙を客人と認識していた。それは他でもなく、アリスの悪態の裏返しであることを知らないのは当人ばかりであろうか。
今度は、アリスの後を追うようにして、蓬莱人形はタオルを持ってきた。
「ありがと」
それを受け取ると、タオルを持った手と反対の手で、読み散らかった本を指差した。
アリスの意を介した蓬莱人形が、部屋の隅にあった魔術書を拾い上げて書斎へと運びかけると、書斎の外に控えていた他の人形たちも一斉にとりかかる。
ふわりふわりと本は、人形たちに抱えられて隣室の、元の場所に帰っていく。
一方の魔理沙は、それに気に留めることなく読書にいそしむが、そうは問屋が卸さなかったのは言うまでもない。
「魔理沙、ちょっとこっちに来なさい」
初め無視しようとしたが、魔理沙は辛うじて首だけをアリスに向ける。そこでいきなりアリスは、手にしたタオルを魔理沙の顔に押し付けた。
「うく!」
「なんでアンタってば、そう粗雑なのかしら。ぬれねずみじゃない」
魔理沙はなすがままタオルでもみくちゃにされる。手足をばたつかせるも、視界が遮られてなかなか反撃が出来ない。
「おい!こら!自分で拭く!拭くからタオルをよこせ!」
いい加減やられっぱなしにされるわけもなく、一瞬の不意をついてアリスからタオルを奪うことに成功した。
ぷちぷち唇をはぜながら、くしゃくしゃになった髪を拭いなおす。その姿を見ながらアリスは腕を前に組み、ため息をつく。
いつもより潤っているように見える髪の先端からは、雫が滴っている。やけに外が静かなのは時間帯のせいばかりではなかった。
「あなたね……。本が傷んだら責任取ってもらうわよ?」
「私はこう見えても丈夫だから風邪なんかひかないぜ?温室育ちとは訳が違う」
「なっ、そっ、そんなことっ!」
別にあんたの心配なんかしてない。その言葉には至らなかった。
「あーあ、まったく。一度読んでしまえば頭に入るぜ。こんな本何回も読むもんか」
「一回読んでそれっきりなんて、私にはあり得ないわ。この形で残されていることに意味があるんだから」
「まさか、おまえ弾幕張るときにまで本を持ち歩いてるんじゃないだろうな?」
「そんなわけないでしょう?実際に詠唱するよりも効率の良いやり方があるのよ。何でもかんでも押せば良いってもんじゃないわ」
髪を拭ったタオルを受け取るときに違和感を感じた。
「?」
「どうしようもない人ね、あなた。吸血鬼のお屋敷にまで行ってるなんて」
「何言ってる。あっちのお屋敷は客をちゃんと客としてもてなしてくれる……って、なんでわかった?」
くどくどと説教を聞きに来たわけではないのだが、魔理沙にとっては、ここもそんなに居心地が悪いというわけでもない。
対して紅魔館は、大きすぎてくつろぐと言うよりも、忍び込むことに有意義を感じていた。どっちの方が良いのかと訊かれても、それは全くの無意味としか言いようがない。
アリスにしてみれば、比べられること自体が不本意でしかない。いぶかしんでいる魔理沙に、本心から疲れていた。
「鎌を掛けただけよ。それに、こんな場所でこそこそやっている人がお客様なものですか。客なら客らしく応接間を使いなさいよ。私の見立てたソファはあんたには勿体ないけどね」
「やだね。私はこっちのほうが性に合ってるんだ」
「そのチェアも曰く付きですけどね。お安くないのよ。お客として扱って欲しいんじゃないの?まったく」
真正面から話しかけられると、何となく視線が合わせ辛い。なるべく自然を装って咳払いをした。
「ところで魔理沙、どうなの?」
「ああ、今のところはな」
「……そう」
強がってはいても、魔理沙が相当無理をしているのは、魔理沙の性格を知る者であれば容易にわかるまでにきていた。
おそらくパチュリーもその身を案じているのだろう、魔理沙にわからないように首の後ろのところに印が見えた。アリスにもわからなかったが、魔理沙にとって悪いものではないらしい。
「わかってるとは思うけど、理解することなんて到底無理よ」
全力を出し切らないやり方を得意とする彼女にとっては、魔理沙のやっていること自体に賛同しかねていた。
だからこそそのような発言に至ったのだが、揺らいだのは魔理沙ではなかった。
「おまえらしくないね、それ」
魔理沙は自分の髪を指ですきながら、髪の先端を見つめている。
「え?」
思わず声が裏返りそうになる。
「無理と思った瞬間にそれは負けを意味する」
「何、勝ち負けの問題なの?それは」
「わかろうとする努力をやめるなら、自分に対して負けだと思ってる」
アリスはすべてを理解しようとは思わない。だが、魔理沙はあきらめない。
「理解した、なんてこと今まで一度もなかったとも思ってる。やっぱりそれは、放棄してるんだと思う」
あきらめの悪さを再認識し、アリスは少し安心した。そして、それ以上魔理沙に言いくるめられるのも癪に障ったので本題を切り出した。
「それで。妹紅のところへはいつ行くの」
(以下、邂逅編)
However, there was no necessity of knowing the fact.
The gripped string was in the neck before one is aware.
I want your finger.
Neither the place nor the method require thought.
I disliked you.
You have me sleep.
According to your hope.
彼女は森の奥に居を構えていた。
鬱蒼と繁った針葉樹は、その木々の暗い光のため。なだらかに連なった空気は、たゆたう海の底。隙間をすり抜けるように風は、低い場所を求めて地を這う。音も立てずに。
雨季ともなれば潤いをみせる森は、彼女にとってとても好ましくない環境でもある。悪条件を相殺しても、有り余る恩恵がここにはあった。そしてこれからも、である。
人形師でもある魔法使いは、例外なく蔵書の蒐集にも余念がなかった。
蔵書量に反比例しているかのように、通路の狭い書庫においては、司書の代わりに人形がその管理を任されている。教えられた通りに分類、整理をし、また定期的に本を開く。最も単純な形で仕事を与えれば、文句一つ言わずにオーダーをこなす。
人形の記憶は共有化され、蓄積されるごとに人の思考に似た動きを見せるようになった。
しかし、あくまでも何らかのきっかけをトリガーにして行動しているにすぎなく、世辞にも自律行動と呼べるもでのはなかった。
人形師の課題は未だ、完成への糸口を見いだせないでいた。
書庫の窓は差し込む外光のうち、おおよそ影響のありそうな成分は森によって弱められ、建物自体に張り巡らされた結界の果たす役割は微々たるものであった。
環境はしかし、この場所は他にない利点も多く備えていて、何よりもヒトが訪ねてこないのが一番だった。無論、例外もいることは否めないが。
時折、羽音とともに亀裂が聴こえた。そんなときに時間を思い出してため息をつく。
悠久の時の流れにあって、この森は彼女が支配しているといっても過言ではないが、少々うるさいのがやってきてからはそうでもなくなった。
彼女自身にとって、瑣末なことであったのは言うまでもない。
「ああ、おかまいなく」
勝手に持って行くなと確かに言った。
律義にそいつは本を勝手に持ち出すことはしなくなったが、まるで揚げ足を取るかのように、次の日からは書斎にある専用チェアを使うようになっていたのである。
毎日ではないものの、勝手にやってきては勝手に上がりこんで、書庫を物色する。
殆どの場合、気付いたときには帰った後で、誰もいなくなった書斎には、所狭しと乱雑に本が重ねられていた。そして、後片付けを余儀なくさせられたのは、一度や二度のことではない。
どうやら今日は、久しぶりに現場を押さえることに成功したらしい。
上海人形が差し出した紅茶を仰々しく受け取ると、手を合わせてからカップを口にした。
その様は誰が見ても手練れているとしか思えない。
カップから立ちこめる香りは紅く、ブレンドされたフレーバーの言いしれぬ調和が視神経を研ぎ澄ます。
「魔理沙。それは私に対するあてつけかしら?」
アリスは入り口の柱に背を預け、両腕を胸の前に組む。口調はとげとげしくも、実際には怒り心頭というわけではないらしい。
その言葉を聞いて眉間にしわを寄せたのは魔理沙。書斎の窓を背後にして、部屋に一つだけある椅子に深々と身を沈め、一人読書に没頭していた。
「固い事言いっこなしだぜ。こうやって読む必要もない本を、ここでこうやって読んでいるんだ。お前はありがたく思って良いぜ」
反論する間も視線は本文をなぞる。声の主に対する関心は、ゼロよりも優先順位が低い。しかも、微妙に会話の趣旨替えがされていることに本人は無頓着だ。
やはり当たり前のように、書庫から勝手に抜き出した魔術書が、机のそこかしこにうずたかく積み上げられていた。本人が否定したところで、長時間居座るつもりであることは一目瞭然である。
心底あきれ果てて、ため息すら出なかった。怒りの矛先を手近なところへ向け直す。
「シャンハイ。貴女もよ。これはお客様じゃ無いからお茶なんか出さなくて良いわよ。……って、また、よりによってファーストなんて淹れたの?」
ティーセットは、青を基調とした植物の幾何学模様が描かれている。さして美術的な価値はなさそうではあったが、独特の深い青とともに、金彩が織りなすパターンの調和が美しかった。
紅茶の色が映えるよう、カップの内側には一切の彩色が施されていないが、この肉厚、重さで外側の模様が透けないのも技術の高さが伺える。コレクションの中では実用向けではあるが、それなりに価値のあるのには違いなかった。
紅茶の種類も、季節に応じて常に3~4種類は用意してあり、特に、香りに秀でているファースト・フラッシュがアリスの好みであった。
無論、来客者に応じて好みもあるだろうから、癖のあるファーストを選ぶ必要はまったくない。魔理沙の場合、一番高価な銘柄というだけで人形に淹れさせているのである。
上海人形は首を傾げているが、魔理沙にすっかりなついている風にも見える。
術者への敵意がない限り、来客の接待をするように教えてあっても、個別の対応が出来ないわけでもなく……。
間違いなく上海人形は、魔理沙を客人と認識していた。それは他でもなく、アリスの悪態の裏返しであることを知らないのは当人ばかりであろうか。
今度は、アリスの後を追うようにして、蓬莱人形はタオルを持ってきた。
「ありがと」
それを受け取ると、タオルを持った手と反対の手で、読み散らかった本を指差した。
アリスの意を介した蓬莱人形が、部屋の隅にあった魔術書を拾い上げて書斎へと運びかけると、書斎の外に控えていた他の人形たちも一斉にとりかかる。
ふわりふわりと本は、人形たちに抱えられて隣室の、元の場所に帰っていく。
一方の魔理沙は、それに気に留めることなく読書にいそしむが、そうは問屋が卸さなかったのは言うまでもない。
「魔理沙、ちょっとこっちに来なさい」
初め無視しようとしたが、魔理沙は辛うじて首だけをアリスに向ける。そこでいきなりアリスは、手にしたタオルを魔理沙の顔に押し付けた。
「うく!」
「なんでアンタってば、そう粗雑なのかしら。ぬれねずみじゃない」
魔理沙はなすがままタオルでもみくちゃにされる。手足をばたつかせるも、視界が遮られてなかなか反撃が出来ない。
「おい!こら!自分で拭く!拭くからタオルをよこせ!」
いい加減やられっぱなしにされるわけもなく、一瞬の不意をついてアリスからタオルを奪うことに成功した。
ぷちぷち唇をはぜながら、くしゃくしゃになった髪を拭いなおす。その姿を見ながらアリスは腕を前に組み、ため息をつく。
いつもより潤っているように見える髪の先端からは、雫が滴っている。やけに外が静かなのは時間帯のせいばかりではなかった。
「あなたね……。本が傷んだら責任取ってもらうわよ?」
「私はこう見えても丈夫だから風邪なんかひかないぜ?温室育ちとは訳が違う」
「なっ、そっ、そんなことっ!」
別にあんたの心配なんかしてない。その言葉には至らなかった。
「あーあ、まったく。一度読んでしまえば頭に入るぜ。こんな本何回も読むもんか」
「一回読んでそれっきりなんて、私にはあり得ないわ。この形で残されていることに意味があるんだから」
「まさか、おまえ弾幕張るときにまで本を持ち歩いてるんじゃないだろうな?」
「そんなわけないでしょう?実際に詠唱するよりも効率の良いやり方があるのよ。何でもかんでも押せば良いってもんじゃないわ」
髪を拭ったタオルを受け取るときに違和感を感じた。
「?」
「どうしようもない人ね、あなた。吸血鬼のお屋敷にまで行ってるなんて」
「何言ってる。あっちのお屋敷は客をちゃんと客としてもてなしてくれる……って、なんでわかった?」
くどくどと説教を聞きに来たわけではないのだが、魔理沙にとっては、ここもそんなに居心地が悪いというわけでもない。
対して紅魔館は、大きすぎてくつろぐと言うよりも、忍び込むことに有意義を感じていた。どっちの方が良いのかと訊かれても、それは全くの無意味としか言いようがない。
アリスにしてみれば、比べられること自体が不本意でしかない。いぶかしんでいる魔理沙に、本心から疲れていた。
「鎌を掛けただけよ。それに、こんな場所でこそこそやっている人がお客様なものですか。客なら客らしく応接間を使いなさいよ。私の見立てたソファはあんたには勿体ないけどね」
「やだね。私はこっちのほうが性に合ってるんだ」
「そのチェアも曰く付きですけどね。お安くないのよ。お客として扱って欲しいんじゃないの?まったく」
真正面から話しかけられると、何となく視線が合わせ辛い。なるべく自然を装って咳払いをした。
「ところで魔理沙、どうなの?」
「ああ、今のところはな」
「……そう」
強がってはいても、魔理沙が相当無理をしているのは、魔理沙の性格を知る者であれば容易にわかるまでにきていた。
おそらくパチュリーもその身を案じているのだろう、魔理沙にわからないように首の後ろのところに印が見えた。アリスにもわからなかったが、魔理沙にとって悪いものではないらしい。
「わかってるとは思うけど、理解することなんて到底無理よ」
全力を出し切らないやり方を得意とする彼女にとっては、魔理沙のやっていること自体に賛同しかねていた。
だからこそそのような発言に至ったのだが、揺らいだのは魔理沙ではなかった。
「おまえらしくないね、それ」
魔理沙は自分の髪を指ですきながら、髪の先端を見つめている。
「え?」
思わず声が裏返りそうになる。
「無理と思った瞬間にそれは負けを意味する」
「何、勝ち負けの問題なの?それは」
「わかろうとする努力をやめるなら、自分に対して負けだと思ってる」
アリスはすべてを理解しようとは思わない。だが、魔理沙はあきらめない。
「理解した、なんてこと今まで一度もなかったとも思ってる。やっぱりそれは、放棄してるんだと思う」
あきらめの悪さを再認識し、アリスは少し安心した。そして、それ以上魔理沙に言いくるめられるのも癪に障ったので本題を切り出した。
「それで。妹紅のところへはいつ行くの」
(以下、邂逅編)
コメント有難う御座います。