※ 拙作「紅魔館の娘たち」からの続き物になっております。
前を読んでおいていただかなくても話は通じると思いますが、
簡単に目を通しておいていただいたほうが分かりやすいかと思います。
百合度控えめでお送りします。
「ねえ、パチェ」
「なぁに、レミィ?」
「パパになってみない?」
「ふぅん……咲夜が美鈴をねぇ……」
「あら、あんまり驚かないのね?」
「あまり顔に出ないだけで、それなりに驚いてはいるわよ?」
「そう? うん、まあ、いいんだけど……。
それでね」
「咲夜を応援したい、と」
「そうなのよ! それでね」
「応援するための策を練れ、と」
「そうなのよ! それとね」
「絶対に誰にもばれないように実行できる必要がある、と」
「そうなのよ! あとね」
「なるべく、みんなが幸せになるように……ね」
「わかってくれてるわね」
「当然よ。
さて、それじゃ問題点を考えましょうか」
「そんなの簡単よ。
美鈴が咲夜の向ける想いにまるで気がついてないことよ」
「そうね、美鈴側の問題はそこよね」
「美鈴側? 咲夜側にも問題があるかも知れないってこと?」
「それもあるかも知れないけど……
わかったからその物騒な槍を振りかぶるのはやめて頂戴」
「え? あら、無意識に……」
「咲夜を娘と見るようになって、一気に親バカになったわね」
「そんなに褒めないで。照れるわ」
「……。
本当の問題点は美鈴側・咲夜側、というよりも、環境にあるんじゃないかと思うのよ」
「環境? どういうこと?」
「二人とも紅魔館にずっといるから、変化がないのよ。
ある意味では半同棲生活しているわけだから、
変化がなくても当然と言えば当然なんだけど。
今の時点で二人の関係はまとまってしまっているわ。
まさか紅魔館で咲夜にケンカを売ってまで
美鈴が欲しいなんていう無謀なメイドがいるとは思えないし……」
「関係がまとまってしまっている……
そうね、それと言うのもあの甲斐性なしが……」
「気づけない美鈴に問題があるのはわかったから、
紅茶が入ったままのカップを握りつぶさないで頂戴。
……まあ、そもそも美鈴に咲夜の好意に気づけというのも無理があるのかもしれないわ
ね」
「何でよ。
あんなに咲夜が一生懸命にアピールしているのに……!」
「咲夜の健気さはわかったから、机を叩き潰さないで頂戴。
そもそも、咲夜は本質的にネコよ……悪魔の狗とか言われることはあるみたいだけどね。
逆に、美鈴は根っからのイヌよ。何か指示してあげると、嬉しそうに仕事しているでし
ょう?
素直・どこか不器用・バカ正直なイヌの美鈴に、素直じゃない・瀟洒・ポーカーフェイ
スなネコの咲夜が向ける好意に気づけというほうがかわいそうよ?」
「あー。そういうものなの?」
「そういうものなの。
……さて。問題点は環境にあるわけだから、
環境自体に何か変化をつけてあげればよさそうね」
「でも、二人とも住む場所を他に変えるなんていうわけにはいかないわよ?」
「そんなに物理的に変える必要はないのよ。
……そういえば、美鈴はマッサージが上手いんだったかしら?」
「そうね、咲夜があれだけ声を上げるんだから、相当なものじゃないかしら。
あれなら巫女だろうがスキマだろうが亡霊だろうが、
いいように鳴かせてみせるんじゃないかしらね」
「なるほど。それを利用しない手はないわね……」
「何かいい案が浮かびそう?」
「ええ。ま、簡単なことよ」
「咲夜を泣かせたりしないでよ?
それはそうと、パパ?」
「なぁに、ママ」
「ツケヒゲ似合うわよ」
「ありがと」
博麗神社の宴会。
流石に3日に1回という恐ろしい頻度ではなくなったものの、相変わらず頻繁に宴会が
行われている。紅魔館に連絡がくると当然の如く参加を決めたレミリアだったが、普段付
き添っている咲夜はたまたま新人メイドの面接やら研修やらが重なってしまった。
「別にいいわ。一人で行って来るわよ」
「いえ、付き添いなしというのも……」
「じゃあ美鈴に付き添ってもらおうかしら」
と、言うわけで美鈴が付き添いで博麗神社を訪ねて行った。
……のだが。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、お嬢様。
今日の宴会はいかがでしたか?」
「あー。うん。まあ、それなりに楽しかった……かしら」
「それはよろしゅうございました。
……って、ちょっと美鈴。
お嬢様の付き添いで行ったのに、
貴方が潰れて帰ってきてどうするの。
お嬢様の手まで煩わせて……ちょっと、美鈴。
……美鈴?」
「いや、美鈴が幽々子と紫に気に入られちゃってね。
そのまま二人と飲み比べになったんだけど、
私が「スカーレットに敗北はない!」とかって煽っちゃったから」
「あんな化け物どもと飲み比べ!?
どれだけ飲ませたんですか!?」
「うーん。とりあえず、単位は瓶じゃなく、樽だったわよ」
「樽!?
ちょっと、誰かお水お水ー!!」
「ごろんごろんと樽が空いていく光景は壮観だったわね。
ああ、そういえば途中から鬼と天狗も混じったんだったかしら」
「幻想郷最凶の酒豪どもと飲み比べさせたの?」
騒ぎを聞きつけたのか、珍しくパチュリーが玄関先に姿を現した。
「あら、パチェ。貴方も宴会に来ればよかったのに。
今日の王様ゲームは中々楽しかったわよ」
「あ、パチュリーさま!
申し訳ありませんが、お嬢様をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「いいわよ。
……私より危険な顔色している美鈴っていうのも不気味ね。
介抱してあげなさいな」
「ありがとうございます!」
言うが早いか姿を消す咲夜。
「……確かに咲夜の美鈴に対する愛を感じるわね」
「でしょう?
あれで気がつかないんだから、私に潰されても文句は言えないわよね?」
「やっぱりレミィが飲ませたのね?」
「私は飲ませてないわよ。
酒豪自慢な連中に「ウチの門番はちょっとすごい」と言ってみただけで」
「……連中に対してあからさまにケンカ売ってるわね」
「ま、従者に相手をさせなかったあたりは評価するわ」
「レミィも今度は自分で飲みなさいよ……
それで、首尾は?」
「上々よ」
翌朝の紅魔館大食堂。
「あたまがいたぃ~ぃ……」
「あの状態で帰ってきて、翌日に意識があるほうがびっくりよ」
大テーブルの片隅で朝食を取りながら話している咲夜と美鈴。
普段であれば朝から見ているだけでお腹一杯になるほどの食欲をみせつけてくれる美鈴
ではあるが、さすがに今日は目の前に置かれた水だけだ。咲夜は自室で朝食を取ることが
多いのだが、今日は美鈴が生きて朝を迎えられるか心配だったので、美鈴の部屋に泊まり
こみ、そのまま一緒に大食堂に来ていた。
「めのまえがまわるぅ~……」
「美鈴。少しでもお腹にいれておかないと、二日酔いが長引くんじゃない?」
「あー。そうですねぇ……何か、スープのようなものがあれば……」
「わかったわ」
咲夜は美鈴の傍を離れて料理が配られる配膳台に向かう。それだけで空気が綺麗になっ
たような気がするのは、美鈴がよほど強烈な酒気を帯びているからか。
「まったく……結局一度も吐かないままで翌日にはあの状態まで立ち直るんだから……い
ったいどんな肝臓してるのかしら」
呟きながら配膳台でスープを貰い、片手にスプーンを手に取る。
そして美鈴のへばっている大テーブルに視線を向けて……自分の目を疑った。
「……え?」
小柄な人影が美鈴に歩み寄っている。
美鈴が声をかけられること自体は問題ない。門番隊長で、面倒見のいい美鈴はメイドた
ちから慕われている。食堂に一人でいれば誰かに声をかけられるのはいつものことだ。
問題はその人影にある。
紅魔館にはありえないはずの人影。
「美鈴さん。美鈴さん」
「……んー」
へばっていた美鈴も揺り起こされて、人影を視界に入れたところで目を丸くしている。
そんな美鈴ににこやかに挨拶するその人影。
咲夜とはまた違った質感のある銀の髪、緑のベストにスカート。几帳面に整えられたタ
イ。素直な性根をそのまま映した青の瞳と、何よりもその腰に佩いた大小の刀。妙に似合う
小さな風呂敷を持っているのはご愛嬌。
白玉桜の庭師、魂魄妖夢。
「……ツケヒゲ気に入ったの?」
「咲夜には焦り……というか、危機感が無さ過ぎるのが問題なのよ。
相手が美鈴なら、自分が死にさえしなければ時間は無限にあるわけだし。
だから、咲夜と同じ立場の人間を増やしてあげれば、
競争意識が生まれて危機感が出る」
「……なんで白衣なんか着てるの?」
「ターゲットははっきりしているわ。
美鈴と同じくイヌ属性。
でも咲夜と同じ立場の従者の立場」
「……その眼鏡、どこで手に入れてきたの?」
「それでいて、美鈴と同じく弾幕よりも格闘に秀でている。
つまり美鈴と話が合いやすい。
更に、美鈴が門番隊で慣れ親しんでいる、素直な体育会系の性格」
「ねえ、パパ?」
「この条件に該当する人物はただ一人」
「ねえってば」
美鈴の後に咲夜も見つけた妖夢が、ぺこりと頭を下げた。
「おはようございます、咲夜さん」
「おはよう……どうして貴方がこんな時間に?」
「実は、昨日の宴会の王様ゲームで、美鈴さんにマッサージしていただくことになってい
たのですが、随分と幽々子さまに飲まされていたようですので、早い時間で無作法かと
は思ったのですが、お詫びもかねてこれを用意してきたんです」
と、持ち上げて見せた風呂敷。
解いて中を見ると、小さめの鍋と布袋があった。
「これは?」
「蜆のお味噌汁です」
「ああ、なるほど……」
二日酔いの特効薬である。
「暖めてもらったほうが美味しいかしら」
「そうですね。厨房をお借りできれば……」
「暖めるだけなら私がやるわよ。
……美鈴、こっちのスープはどうする?」
「あ~。それもくださ~い。
少しでも水気は多いほうがいいです~」
手に持っていたスープを美鈴に渡しておいて、妖夢が持ち込んだ鍋と袋を片手に厨房に
入る。近くにいた厨房のメイドに一声かけてコンロを借りると、鍋を火にかけた。
火にかけると同時に立ち上る、豊かな出汁の香り。
「……ちょっとすごいわね」
洋食であれば誰にも負けない自信はあるが、和食では分が悪いかもしれない。
そんなことを考えながら、袋から茹でられた殻付きの蜆を取り出して椀にたっぷりと盛
り、その上から暖められた味噌汁を注ぐ。持ってくるときに手間だろうに、わざわざ別に
して食感と風味を殺さないようにしている辺りが妖夢らしいところだろうか。
椀だけを持って戻りかけて、鍋と袋も少し無理して持つ。
「おかわりするのは目に見えてるんだしね……」
咲夜が大テーブルに戻ると、空になったスープ皿を前に相変わらずぐったりとした美鈴と、
履物を脱いで椅子に正座している妖夢の姿が目に入った。
「美鈴、できたわよ。
せっかくの頂き物なんだから、ちょっとしゃっきりして飲みなさい」
「は~い」
「いえ、そんなに構えていただくほどのものでも……」
妖夢が口を出している間に一口飲んだ美鈴が、一気にしゃっきりした。
「うわ、何これ。すごーい」
「もう少し語彙は豊富にしたほうがいいわよ、美鈴」
「いや、でも、なんていうか……うわー」
「私もいただいても構わない?」
「え? あ、どうぞ」
「ありがとう。美鈴、ちょっとお椀借りるわよ……あ、やっぱりすごく美味しいわね。
暖めている途中でも思ったんだけど、やっぱり和食では適わないかしら……」
褒められ慣れていない妖夢は真っ赤になってしまっている。その横で美味しいを連発し
ながら蜆を食べている美鈴。
なんとなく微笑ましいものを感じながら咲夜がお茶を淹れていると、
「あー! 隊長がいいもの飲んでるー!」
門番隊のメイドが通りかかった。
「それ、さっき咲夜さんが厨房で温めてたお味噌汁でしょー!?
私にも少し分けてくださいよー!」
「えー……」
「うわ、すっごい嫌そう」
「嘘々。冗談よ。でも、ちょっとだけよ?」
「わーい……うわ、美味しい。このお味噌汁、誰が作ったんですか?」
「そっちの子。妖夢ちゃんて言うんだけ」
「妖夢さん。私のために毎朝お味噌汁をつくっぎゃー!?」
「ばかー! 紅魔館の子ならともかく、外部の子にまで門番隊の恥をさらすなー!」
「ま、隊長が隊長だから仕方ないんじゃないですか?」
「しれっと言うなー!」
目の前で飛び交う弾幕じみた言葉のやり取りに、妖夢がフリーズしてしまっている。
そろそろ本当に弾幕が飛び交い始めるのを感じた咲夜はフリーズした妖夢を抱えてこっ
そりと退避。
「よーし、そこまで言うなら拳で語ってあげるわ!」
「最初からそうすればよかったんですよ、隊長! 行きますよ!」
今日は弾幕勝負にはならず、格闘勝負になったらしい。
普段であれば爆音が響くが、今日はなんだかやたら重々しい打撃音が聞こえてくる。
ちなみに、味噌汁は美鈴があらかた飲んでいたが、残りを近くにいた他の門番隊メイド
が少しずつ味見して終了した。
「単位が樽の飲み比べをやっておいて、半日で復帰、お味噌汁で完全に回復。
……本当に理不尽な体してるわねぇ」
「ちょ……咲夜さん、あれ放っておいていいんですか!?
うわ、崩拳クリーンヒット……ってダメージなし!?」
ようやく再起動を果たした妖夢の前で、無駄にレベルの高い格闘(取っ組み合い)が始
まっている。
「門番隊は心配するだけ無駄な連中の集団よ」
しばらくはあわあわ言いながら見ていた妖夢だったが、途中からえらく真剣な目つきに
変わってきた。
「さて……今日一日どうするの?
美鈴にマッサージしてもらうにしても、
この後彼女の体が空くのは夜になっちゃうわよ?」
「ええ、それなんですけど……
本当は香霖堂まで足を伸ばして珍しいものがあれば幽々子さまにと思っていたのですが
……できれば今日一日、門番隊に一日入隊させていただくわけにいきませんか?」
「……え?」
「ねえ、パパ」
「なぁに、ママ」
「何か当初の予定と随分変わってきてないかしら。
あれじゃ三角関係の恋の鞘当っていうよりも、
パーフェクトな長女、
おてんば次女、
おっとり三女という感じよ?」
「……。
イヌ系特有の天然具合を計算に入れるのを忘れてたわ……」
前を読んでおいていただかなくても話は通じると思いますが、
簡単に目を通しておいていただいたほうが分かりやすいかと思います。
百合度控えめでお送りします。
「ねえ、パチェ」
「なぁに、レミィ?」
「パパになってみない?」
「ふぅん……咲夜が美鈴をねぇ……」
「あら、あんまり驚かないのね?」
「あまり顔に出ないだけで、それなりに驚いてはいるわよ?」
「そう? うん、まあ、いいんだけど……。
それでね」
「咲夜を応援したい、と」
「そうなのよ! それでね」
「応援するための策を練れ、と」
「そうなのよ! それとね」
「絶対に誰にもばれないように実行できる必要がある、と」
「そうなのよ! あとね」
「なるべく、みんなが幸せになるように……ね」
「わかってくれてるわね」
「当然よ。
さて、それじゃ問題点を考えましょうか」
「そんなの簡単よ。
美鈴が咲夜の向ける想いにまるで気がついてないことよ」
「そうね、美鈴側の問題はそこよね」
「美鈴側? 咲夜側にも問題があるかも知れないってこと?」
「それもあるかも知れないけど……
わかったからその物騒な槍を振りかぶるのはやめて頂戴」
「え? あら、無意識に……」
「咲夜を娘と見るようになって、一気に親バカになったわね」
「そんなに褒めないで。照れるわ」
「……。
本当の問題点は美鈴側・咲夜側、というよりも、環境にあるんじゃないかと思うのよ」
「環境? どういうこと?」
「二人とも紅魔館にずっといるから、変化がないのよ。
ある意味では半同棲生活しているわけだから、
変化がなくても当然と言えば当然なんだけど。
今の時点で二人の関係はまとまってしまっているわ。
まさか紅魔館で咲夜にケンカを売ってまで
美鈴が欲しいなんていう無謀なメイドがいるとは思えないし……」
「関係がまとまってしまっている……
そうね、それと言うのもあの甲斐性なしが……」
「気づけない美鈴に問題があるのはわかったから、
紅茶が入ったままのカップを握りつぶさないで頂戴。
……まあ、そもそも美鈴に咲夜の好意に気づけというのも無理があるのかもしれないわ
ね」
「何でよ。
あんなに咲夜が一生懸命にアピールしているのに……!」
「咲夜の健気さはわかったから、机を叩き潰さないで頂戴。
そもそも、咲夜は本質的にネコよ……悪魔の狗とか言われることはあるみたいだけどね。
逆に、美鈴は根っからのイヌよ。何か指示してあげると、嬉しそうに仕事しているでし
ょう?
素直・どこか不器用・バカ正直なイヌの美鈴に、素直じゃない・瀟洒・ポーカーフェイ
スなネコの咲夜が向ける好意に気づけというほうがかわいそうよ?」
「あー。そういうものなの?」
「そういうものなの。
……さて。問題点は環境にあるわけだから、
環境自体に何か変化をつけてあげればよさそうね」
「でも、二人とも住む場所を他に変えるなんていうわけにはいかないわよ?」
「そんなに物理的に変える必要はないのよ。
……そういえば、美鈴はマッサージが上手いんだったかしら?」
「そうね、咲夜があれだけ声を上げるんだから、相当なものじゃないかしら。
あれなら巫女だろうがスキマだろうが亡霊だろうが、
いいように鳴かせてみせるんじゃないかしらね」
「なるほど。それを利用しない手はないわね……」
「何かいい案が浮かびそう?」
「ええ。ま、簡単なことよ」
「咲夜を泣かせたりしないでよ?
それはそうと、パパ?」
「なぁに、ママ」
「ツケヒゲ似合うわよ」
「ありがと」
博麗神社の宴会。
流石に3日に1回という恐ろしい頻度ではなくなったものの、相変わらず頻繁に宴会が
行われている。紅魔館に連絡がくると当然の如く参加を決めたレミリアだったが、普段付
き添っている咲夜はたまたま新人メイドの面接やら研修やらが重なってしまった。
「別にいいわ。一人で行って来るわよ」
「いえ、付き添いなしというのも……」
「じゃあ美鈴に付き添ってもらおうかしら」
と、言うわけで美鈴が付き添いで博麗神社を訪ねて行った。
……のだが。
「ただいまー」
「おかえりなさいませ、お嬢様。
今日の宴会はいかがでしたか?」
「あー。うん。まあ、それなりに楽しかった……かしら」
「それはよろしゅうございました。
……って、ちょっと美鈴。
お嬢様の付き添いで行ったのに、
貴方が潰れて帰ってきてどうするの。
お嬢様の手まで煩わせて……ちょっと、美鈴。
……美鈴?」
「いや、美鈴が幽々子と紫に気に入られちゃってね。
そのまま二人と飲み比べになったんだけど、
私が「スカーレットに敗北はない!」とかって煽っちゃったから」
「あんな化け物どもと飲み比べ!?
どれだけ飲ませたんですか!?」
「うーん。とりあえず、単位は瓶じゃなく、樽だったわよ」
「樽!?
ちょっと、誰かお水お水ー!!」
「ごろんごろんと樽が空いていく光景は壮観だったわね。
ああ、そういえば途中から鬼と天狗も混じったんだったかしら」
「幻想郷最凶の酒豪どもと飲み比べさせたの?」
騒ぎを聞きつけたのか、珍しくパチュリーが玄関先に姿を現した。
「あら、パチェ。貴方も宴会に来ればよかったのに。
今日の王様ゲームは中々楽しかったわよ」
「あ、パチュリーさま!
申し訳ありませんが、お嬢様をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「いいわよ。
……私より危険な顔色している美鈴っていうのも不気味ね。
介抱してあげなさいな」
「ありがとうございます!」
言うが早いか姿を消す咲夜。
「……確かに咲夜の美鈴に対する愛を感じるわね」
「でしょう?
あれで気がつかないんだから、私に潰されても文句は言えないわよね?」
「やっぱりレミィが飲ませたのね?」
「私は飲ませてないわよ。
酒豪自慢な連中に「ウチの門番はちょっとすごい」と言ってみただけで」
「……連中に対してあからさまにケンカ売ってるわね」
「ま、従者に相手をさせなかったあたりは評価するわ」
「レミィも今度は自分で飲みなさいよ……
それで、首尾は?」
「上々よ」
翌朝の紅魔館大食堂。
「あたまがいたぃ~ぃ……」
「あの状態で帰ってきて、翌日に意識があるほうがびっくりよ」
大テーブルの片隅で朝食を取りながら話している咲夜と美鈴。
普段であれば朝から見ているだけでお腹一杯になるほどの食欲をみせつけてくれる美鈴
ではあるが、さすがに今日は目の前に置かれた水だけだ。咲夜は自室で朝食を取ることが
多いのだが、今日は美鈴が生きて朝を迎えられるか心配だったので、美鈴の部屋に泊まり
こみ、そのまま一緒に大食堂に来ていた。
「めのまえがまわるぅ~……」
「美鈴。少しでもお腹にいれておかないと、二日酔いが長引くんじゃない?」
「あー。そうですねぇ……何か、スープのようなものがあれば……」
「わかったわ」
咲夜は美鈴の傍を離れて料理が配られる配膳台に向かう。それだけで空気が綺麗になっ
たような気がするのは、美鈴がよほど強烈な酒気を帯びているからか。
「まったく……結局一度も吐かないままで翌日にはあの状態まで立ち直るんだから……い
ったいどんな肝臓してるのかしら」
呟きながら配膳台でスープを貰い、片手にスプーンを手に取る。
そして美鈴のへばっている大テーブルに視線を向けて……自分の目を疑った。
「……え?」
小柄な人影が美鈴に歩み寄っている。
美鈴が声をかけられること自体は問題ない。門番隊長で、面倒見のいい美鈴はメイドた
ちから慕われている。食堂に一人でいれば誰かに声をかけられるのはいつものことだ。
問題はその人影にある。
紅魔館にはありえないはずの人影。
「美鈴さん。美鈴さん」
「……んー」
へばっていた美鈴も揺り起こされて、人影を視界に入れたところで目を丸くしている。
そんな美鈴ににこやかに挨拶するその人影。
咲夜とはまた違った質感のある銀の髪、緑のベストにスカート。几帳面に整えられたタ
イ。素直な性根をそのまま映した青の瞳と、何よりもその腰に佩いた大小の刀。妙に似合う
小さな風呂敷を持っているのはご愛嬌。
白玉桜の庭師、魂魄妖夢。
「……ツケヒゲ気に入ったの?」
「咲夜には焦り……というか、危機感が無さ過ぎるのが問題なのよ。
相手が美鈴なら、自分が死にさえしなければ時間は無限にあるわけだし。
だから、咲夜と同じ立場の人間を増やしてあげれば、
競争意識が生まれて危機感が出る」
「……なんで白衣なんか着てるの?」
「ターゲットははっきりしているわ。
美鈴と同じくイヌ属性。
でも咲夜と同じ立場の従者の立場」
「……その眼鏡、どこで手に入れてきたの?」
「それでいて、美鈴と同じく弾幕よりも格闘に秀でている。
つまり美鈴と話が合いやすい。
更に、美鈴が門番隊で慣れ親しんでいる、素直な体育会系の性格」
「ねえ、パパ?」
「この条件に該当する人物はただ一人」
「ねえってば」
美鈴の後に咲夜も見つけた妖夢が、ぺこりと頭を下げた。
「おはようございます、咲夜さん」
「おはよう……どうして貴方がこんな時間に?」
「実は、昨日の宴会の王様ゲームで、美鈴さんにマッサージしていただくことになってい
たのですが、随分と幽々子さまに飲まされていたようですので、早い時間で無作法かと
は思ったのですが、お詫びもかねてこれを用意してきたんです」
と、持ち上げて見せた風呂敷。
解いて中を見ると、小さめの鍋と布袋があった。
「これは?」
「蜆のお味噌汁です」
「ああ、なるほど……」
二日酔いの特効薬である。
「暖めてもらったほうが美味しいかしら」
「そうですね。厨房をお借りできれば……」
「暖めるだけなら私がやるわよ。
……美鈴、こっちのスープはどうする?」
「あ~。それもくださ~い。
少しでも水気は多いほうがいいです~」
手に持っていたスープを美鈴に渡しておいて、妖夢が持ち込んだ鍋と袋を片手に厨房に
入る。近くにいた厨房のメイドに一声かけてコンロを借りると、鍋を火にかけた。
火にかけると同時に立ち上る、豊かな出汁の香り。
「……ちょっとすごいわね」
洋食であれば誰にも負けない自信はあるが、和食では分が悪いかもしれない。
そんなことを考えながら、袋から茹でられた殻付きの蜆を取り出して椀にたっぷりと盛
り、その上から暖められた味噌汁を注ぐ。持ってくるときに手間だろうに、わざわざ別に
して食感と風味を殺さないようにしている辺りが妖夢らしいところだろうか。
椀だけを持って戻りかけて、鍋と袋も少し無理して持つ。
「おかわりするのは目に見えてるんだしね……」
咲夜が大テーブルに戻ると、空になったスープ皿を前に相変わらずぐったりとした美鈴と、
履物を脱いで椅子に正座している妖夢の姿が目に入った。
「美鈴、できたわよ。
せっかくの頂き物なんだから、ちょっとしゃっきりして飲みなさい」
「は~い」
「いえ、そんなに構えていただくほどのものでも……」
妖夢が口を出している間に一口飲んだ美鈴が、一気にしゃっきりした。
「うわ、何これ。すごーい」
「もう少し語彙は豊富にしたほうがいいわよ、美鈴」
「いや、でも、なんていうか……うわー」
「私もいただいても構わない?」
「え? あ、どうぞ」
「ありがとう。美鈴、ちょっとお椀借りるわよ……あ、やっぱりすごく美味しいわね。
暖めている途中でも思ったんだけど、やっぱり和食では適わないかしら……」
褒められ慣れていない妖夢は真っ赤になってしまっている。その横で美味しいを連発し
ながら蜆を食べている美鈴。
なんとなく微笑ましいものを感じながら咲夜がお茶を淹れていると、
「あー! 隊長がいいもの飲んでるー!」
門番隊のメイドが通りかかった。
「それ、さっき咲夜さんが厨房で温めてたお味噌汁でしょー!?
私にも少し分けてくださいよー!」
「えー……」
「うわ、すっごい嫌そう」
「嘘々。冗談よ。でも、ちょっとだけよ?」
「わーい……うわ、美味しい。このお味噌汁、誰が作ったんですか?」
「そっちの子。妖夢ちゃんて言うんだけ」
「妖夢さん。私のために毎朝お味噌汁をつくっぎゃー!?」
「ばかー! 紅魔館の子ならともかく、外部の子にまで門番隊の恥をさらすなー!」
「ま、隊長が隊長だから仕方ないんじゃないですか?」
「しれっと言うなー!」
目の前で飛び交う弾幕じみた言葉のやり取りに、妖夢がフリーズしてしまっている。
そろそろ本当に弾幕が飛び交い始めるのを感じた咲夜はフリーズした妖夢を抱えてこっ
そりと退避。
「よーし、そこまで言うなら拳で語ってあげるわ!」
「最初からそうすればよかったんですよ、隊長! 行きますよ!」
今日は弾幕勝負にはならず、格闘勝負になったらしい。
普段であれば爆音が響くが、今日はなんだかやたら重々しい打撃音が聞こえてくる。
ちなみに、味噌汁は美鈴があらかた飲んでいたが、残りを近くにいた他の門番隊メイド
が少しずつ味見して終了した。
「単位が樽の飲み比べをやっておいて、半日で復帰、お味噌汁で完全に回復。
……本当に理不尽な体してるわねぇ」
「ちょ……咲夜さん、あれ放っておいていいんですか!?
うわ、崩拳クリーンヒット……ってダメージなし!?」
ようやく再起動を果たした妖夢の前で、無駄にレベルの高い格闘(取っ組み合い)が始
まっている。
「門番隊は心配するだけ無駄な連中の集団よ」
しばらくはあわあわ言いながら見ていた妖夢だったが、途中からえらく真剣な目つきに
変わってきた。
「さて……今日一日どうするの?
美鈴にマッサージしてもらうにしても、
この後彼女の体が空くのは夜になっちゃうわよ?」
「ええ、それなんですけど……
本当は香霖堂まで足を伸ばして珍しいものがあれば幽々子さまにと思っていたのですが
……できれば今日一日、門番隊に一日入隊させていただくわけにいきませんか?」
「……え?」
「ねえ、パパ」
「なぁに、ママ」
「何か当初の予定と随分変わってきてないかしら。
あれじゃ三角関係の恋の鞘当っていうよりも、
パーフェクトな長女、
おてんば次女、
おっとり三女という感じよ?」
「……。
イヌ系特有の天然具合を計算に入れるのを忘れてたわ……」
ほのぼのゆったりまったりとした紅魔館の空気がとても心地良いですね。
パチュリーとレミリアの相談風景も何やら微笑ましい感じでした。
咲夜もだけど妖夢かわいいなちくしょう。
というかFELEさんの描くキャラはみな活き活きとかわいらしいですね。
最初から楽しく読ませて頂いてます。これからの続編とご活躍を期待しております。
さすがパチュリー、知識人の名は伊達じゃない。(笑)
第一話から楽しく読ませて頂いていますが、これまた続きがきになる展開です。
しかしほのぼのとしていますねー。まったりとした空気を醸し出す文章ってのも凄いと思います。それでいてキャラクタの魅力をきちんと描いてますし…うーん見習いたい。
妖夢、私に毎日味噌汁を作ってk(ギャストリ
…というか、どのキャラも非常に好きになれるお話ですね。
今後の展開も期待してます。
パパママコンビが良いです。
有り余る人間臭さが素敵。
性格分析はなるほどーといった感じ。
あんたの作品が今は希望だっ
ξ・∀・)つ▼~
顔にやけっぱなしだったんですがw
このまま行くと幽々子がおばあちゃn(ぁ
続き期待してますねー
>三角関係
う~む。妖夢の描写が少ないせいか三角関係になってるかどうか微妙な感じですね。パパパチェが表(裏だけどw)に出ていたせいかしら。次作に蝶期待。
>妖夢のお味噌汁が飲みたいかー!?
おぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!
>「わかってくれてるわね」
こんな紅魔館は最高だああぁぁぁ!!!!!
パパママコンビもすごい良い感じですね。特に付け髭(ぇ
完全無欠に GJ です。
今後も続くレミリア様の明るい家族計画を楽しみにしております。
なんともほのぼのとは90度ずれた空間・・私も住みたい・・・
次回作期待しております。
にしてもDr.パチュリー・ノーレッジの恋愛相談室。
七色魔法使いとかが足繁く通いそうですね。
微妙に置いてけぼり食らってるレミリア可愛いよ!!
続きがとても気になります。 GJ!!
イヌネコの群れに参りました。
ちょっと鈍感な美鈴さん、シジミの味噌汁を持参する気の利く妖夢、
お母さんオーラ全開のレミリア、相変わらず恋する乙女の咲夜さん・・・
あぁみんなしてかぁいいなぁもう
ノリノリのパパさんパチュリーが現在最高のツボですが、
他の皆さんもすっごいニアピンです
続きを、ぜひ続きを読みたいです
あとパチェさんのパパさん役が似合い過ぎなのが意外でした。あの魔理沙と長く付き合ってられるだけあって、結構包容力のある人なのでしょうね。
・・・想像して、吹いてしまいました。やっぱ白ひげでしょうか。・・・黒色のも捨てがたい気がするのですが。
美味しそう~。
味噌汁飲みた~い!
妖夢かわいいよ妖夢
味噌汁が飲みたくなった…。
パパ、あんた最高だよ。
合計点数見てウーロン茶ふいた。
いいな、この紅魔館。アットホームで。
ごちそうさまでした。
パチュリーが超ノリノリで面白かったwww
それにしてもこの両親、ノリノリであるw