「あーもう、何と言うか……」
霊夢が周囲の惨状を見渡して言う。
「とりあえずあれよ、片付けなさい」
そう言って月見酒といっては宴会を続ける妖怪達(一部人間)を睨みつける。
「何を言う、途中で片付けたらまた後で片付ける羽目になるじゃないか」
馬鹿なことを言うな、と言わんばかりに魔理沙が一蹴する。
だが霊夢の表情は険しくなるばかりだ。
当然である。どんなことを言おうが、最後には自分ひとりに片付けを押し付けて退散することを知っているからだ。
「あんた達、飲むのも騒ぐのもいいけど少しは加減を知りなさい。いや、やっぱり知らなくてもいいから片付けろ」
「きっと誰も聞いてないぜ」
「聞こえてるじゃない」
「何も聞こえないな」
そんなやり取りをするふたりの傍らで、黙って杯の酒を飲み干す者がいた。
アリス=マーガトロイド。
「おいアリス、黙ってないでお前も何とか言え。そろそろ霊夢の手が私の首にかかりそうだ」
しかしアリスは、そんな魔理沙を横目に見ると、すぐについ、と顔を逸らした。
そしてまた酒を注ぎ、杯を呷る。
「酷いぜ。無視はあんまりじゃないか、パートナー」
「……都合のいいときだけパートナー扱いなのね」
溜息をつきながら、再び振り返る。
だが、その表情に嫌悪はない。
「パートナーは助け合うものだ。逆説的に、助け合う仲ならばパートナーだ」
「いつ、私が魔理沙に助けてもらったのかしら」
「それはそれ、これはこれだ」
背後から霊夢に締め上げられながら、魔理沙が言う。
時折呻き声が混じるあたり、案外本気で締めているのかもしれない。
霊夢も、しっかり酒は飲んでいたのだった。
「仕方ないわね……ほら霊夢、境内で気絶されたら掃除の邪魔になるでしょ。離してあげたら?」
「それは確かに困るわね」
アリスの一言で、霊夢はすぐさま魔理沙を放り出した。
むしろ突き飛ばされた形になった魔理沙は、つんのめったままむせ返る。
「……ふう、やれやれ。落ち着いて飲むのも楽じゃないな」
「まだ飲むか」
すぐさままた腰を落ち着けて杯を口に運ぶ魔理沙を見て、ついに霊夢も諦めたらしい。
同じく腰を下ろして、誰よりも豪快に酒を注ぐ。
「よくもあなた達飽きないわね。これで何度目?」
呆れたようにアリスが漏らす。
いつからか当たり前になった宴。いつからか当たり前になった片付け議論。
そして、
「あんたもでしょ。そう言いながら毎回宴に出てきてるくせに」
いつからか当たり前になった、アリスのいる風景。
「別にいいでしょ。私だってお酒くらい飲みに来たって」
「まあ、片付けさえしてくれれば私は一向に構わないんだけどね」
論点をずらされた、と霊夢は思う。
自分が言いたいのはわざわざ私や魔理沙の隣で飲む必要はないでしょ、ということなんだけど……。
やめとこう。
別にアリスが邪魔をするわけではない。むしろ数いる妖怪達の中ではとても落ち着いて飲んでいる。
宴が開かれるなら参加したらいい。
それこそ片付けまでしてくれれば、とも思うのだが。
「おお、あそこに見えるはパチュリーじゃないか。おーい、また本を貸してくれ」
突然魔理沙が立ち上がり、駆け出す。
隅の方で目立たないように飲んでいたパチュリーは非常に迷惑そうな視線を魔理沙に送る。
しかし、酒も入って普段より更に強気になっている魔理沙がその程度で止まる筈もない。
いいだろう、友達じゃないか。
友達は本を勝手に持っていったりしない。逆説的にあなたは友達じゃない。
それはそれ、これはこれだ。
こっちでしたのと同じような論争を繰り広げる。
概ね魔理沙に正当性などないのだが、大抵は勢いと力技で押し切ってしまう。
そんなことをしても嫌われないあたりが魔理沙の特徴だろう。良いか悪いかは別として。
「で、あんたはついていかなくていいの?」
そんな様子を脇目に見ながら霊夢が声をかけると、アリスは一瞬びくっと反応してから、
「どうして、私が?」
「あんた魔理沙に付き合って宴会来てるんでしょ?」
丁度杯を傾けていたアリスが、咳き込む。
咳を止め、数秒心を落ち着けて、深呼吸までしてから霊夢を見据え、一言。
「そんなわけないじゃない」
「怪しすぎるわよ。何その反応」
恐らく頬が赤いのは酔いが回っているせいだけではないだろう。
「霊夢こそ! それじゃ私と魔理沙が仲いいみたいじゃない!」
「いい『みたい』、じゃなくて実際いいんでしょ? あんたいつも魔理沙にべったりだし」
まくしたてるアリスに、霊夢がきっぱり言い放つ。
更に何か言おうとしていたアリスの口がぱくぱくと開いたり閉じたりしつつ、それでも言葉は出てこない。
そして追い討ち。
「好きだから一緒にいるんだと思ってたんだけど、違うの?」
アリスの顔が真紅というほどに真っ赤に染まる。
困惑、照れ、怒り、様々な表情がくるくると目まぐるしく入れ替わりながら、上擦った声で叫ぶ。
「ば、馬鹿! 馬鹿じゃないの!? 誰が誰を好きですって? 冗談もほどほどにしてよ、二色の癖に!」
そうまくしたてると、唐突にすっくと立ち上がる。
「結局追いかけるの?」
「違うわよ! 不愉快だから帰るの!」
地団太を踏むような勢いで地面を蹴り付け、宙に舞い上がる。
その後は風もかくやという速度で飛び去ってしまった。
「……ま、いいか」
あそこまで意地張る必要もないのに。
別にアリスがいなければいけないこともないので、帰るのはいいのだが。
……いや、よくない。
「…………片付けやらせるの忘れてた」
アリスと魔理沙が飲み散らかした分を見下ろし、霊夢は嘆息した。
「馬鹿馬鹿しい……何が好き、よ! 私が魔理沙のこと好きなんて、そんな馬鹿な話……!」
帰途でも「馬鹿」と「好き」を連呼しつつ、アリスは一直線に自分の家へと戻ってきた。
主の帰りによって目覚め始めた人形も、何やら主人の様子がおかしいことは感じ取っているようだ。
「ああもう! どうして私がこんなわけの分からないことで悩まないといけないのよ!! それもこれも霊夢のせいだわ」
乱暴に椅子に腰を下ろし、ワインの栓を開ける。
「全く、どんな目をしてるのかしら。私と魔理沙が仲良く見えるなんて、所詮目出度い頭紅白なのね」
独り言が支離滅裂になっていることも気にせず、ハイペースでワインを飲み干す。
そうしていると、段々と目がとろんとして緩んでくる。
普段は悪酔いするような飲み方はしないアリスだが、今日は自分でも酔おうとして飲んでいるのかもしれない。
「馬っ鹿じゃないの。何が魔理沙よ。一々魔理沙、魔理沙と……」
「おー、呼んだか?」
「ひぁっ!!?」
聞こえるはずのない返事が聞こえ、酔いも吹き飛んだアリスが振り向く。
そこには、アリスと同じくらい赤い顔をした魔理沙が玄関の扉を開けて立っていた。
「まま、魔理沙!? 何であなたがここにいるのよ!」
「あー? それはこっちの台詞だぜぇ……どうして、アリスが私の家にいるんだぁ?」
舌っ足らずな口調。認識の混濁。
間違いない。
酔っている。それも徹底的に。
「ちょっとちょっと……大丈夫なの? ここは私の家よ。もしかして酔った状態で飛んできたらここに着いたの?」
「ああ、私の飛行技術は完璧だぜぇ」
駄目だ、会話になってない。
全く噛み合わない会話を諦め、アリスはとりあえず魔理沙を寝かしつけるために誘導することにした。
「ほら、もういいからこっちで寝てなさい。前後不覚になるまで飲むなんて珍しいことしちゃって……」
「そんなことはない。ちゃんと霊夢には勝ったんだ」
「…………」
飲み比べしたようである。この調子だと流石の霊夢も明日は二日酔いだろう。
「ここに寝て。帽子も取って。はい、それじゃ明日までおやすみなさい……っきゃ!?」
てきぱきと魔理沙をベッドに寝かしつけ、最後にぽんと肩を叩いた瞬間、アリスは突然引きずり倒された。
反応する間もなく、魔理沙の腕が体に巻きつき、身動きが取れなくなる。
「ちょ、ちょっと! 大人しく寝なさいよ!」
「生意気言うなぁ、先輩の言うことには服従するもんだぞ」
「あんた何が見えてるのよ!」
へらへらとしつつも力だけは全力の魔理沙。対して動揺しつつも何とか脱出を試みるアリス。
と、その時、アリスが逃げられないよう巧みに捕まえていた魔理沙の動きが止まる。
「え? 何?」
「んー……」
ふたりの視線が合う。
そして、それまでとは違う、落ち着いた声で魔理沙が呟く。
「お前、意外と柔らかいな」
「っ!?!?!?!?」
全く予想外の言葉に、石のように硬直するアリス。同時に頭の中が混沌と渦巻く。
改めて脱出しようにも体はぴくりとも動かず。
何かを言おうにも言葉はまとまらず。
固まりきっているアリスと対照的に、うとうとし始める魔理沙。
結局魔理沙がすやすやと寝息を立て始めてもアリスは動けず、眠れないままひとつのベッドで一晩を過ごしたのだった。
「ん……ん~……?」
朝。
魔法の森に軽やかな小鳥の囀りは響かないが、それでも穏やかな日差しは木々の合間を縫って届く。
深い眠りからまどろみへと、そして緩やかに意識が覚醒する。
「あ~、よく寝たぜ……」
昨日の飲みすぎも何のその、さっぱりした気分で魔理沙は目覚めた。
そして欠伸と同時に寝転んだまま伸びをする。
むに
「んん?」
右手が何かに当たる。
おかしい、ベッドに物を置く習慣はないんだが。
そう思いつつ横を見やると、
「ぬわぁっ!?」
「きゃ!!」
ショックで跳ね起き、ベッドから転げ落ちる。
ようやく眠気に身を任せようとしていたアリスも、それに驚いてやはりベッドから落ちた。
「何故だ、何故アリスが私のベッドで寝てるんだ……まさか」
怯えた表情で着衣を確かめる魔理沙。
それを見たアリスは血相を変える。
「ち、違うわよ! ここは私の家! あんた昨晩のこと覚えてないの!?」
大袈裟な身振り手振りも交えてまくしたてる。
「昨晩のこと……」
そう呟いた魔理沙の頬が赤らむ。
「そういう意味じゃないってばぁぁぁっ!! とにかく聞きなさい、昨日の夜いきなりあんたがうちに転がり込んできて……」
ひたすら必死に昨日のことを説明するアリス。
途中で(ようやく)魔理沙がここが自分の家でないと理解したため、どうにかアリスの主張は受け入れられたのだった。
「……なんだ、全く人騒がせだな」
「…………」
それはあんただ、と言い返す気力もなく、ぐったりとうな垂れる。
反対に、誤解と分かってすっきりした表情の魔理沙は改めて背伸びをし、ベッド脇に置いてあった帽子を手に取る。
「よーし、折角泊まったついでだ、朝食も食べていくぜ」
「せめて私が提案するのを待ちなさいよ……」
最初からそう言うつもりだったんだから、とぶつぶつ言いながらもエプロンを身に着ける。
勿論、魔理沙にそれを手伝うという選択肢はない。
「まだできないのかー?」
「もう少し待ちなさいって……普段より一人前多いんだから」
ナイフとフォークを構えて催促する魔理沙と、それを窘めながらも手早く野菜を刻むアリス。
そんなふたりの光景をふと自覚して、魔理沙が呟く。
「なんか、これだと夫婦みたいだな」
ずがぁっ!
力加減を誤ったアリスの包丁がまな板に叩き付けられる。
背後からの声と、包丁の危険さの両方に心臓をバクバクさせながら、怒鳴りつける。
「素面の状態でもそういうこと言うのねあんたはっ!!」
それを軽く笑って流そうとして……はて、と思う。
「素面の状態で『も』?」
「あ……」
墓穴を掘った。
魔理沙が椅子から立ち上がり、にじり寄る。
「も、って何だ? も、って」
「た、単なる言い間違いよ。ああ早くしないと料理が冷めるわ」
「元より温かい料理なんて一品もないじゃないか」
だらだらと冷や汗を流しながらも取り繕おうとするアリス。
しかし、言い訳するにしてもそこまでの間は致命的だった。
「アリス、本当のことを言ったほうがいいぞ。昨日何かあったんだろう?」
「何もない、何もないってば!」
「……やっぱり昨晩お前は酔った私を押し倒して」
「違う! それは本当に違うから!」
「ということは他に何かあったわけだな」
「う、うぅ~……」
失言が重なったアリスは、とうとう観念して白状することにした。
「魔理沙が私を布団に引きずりこんだ後……私にしがみついて『柔らかいんだな』って……」
真っ赤になりながらぽつぽつと話すアリス。
しまったなあ、という表情でそっぽを向く魔理沙。
非常に気まずい空気。
「いやまあ、その。あんまり気にするな。私も考えて言ったわけじゃないからな、多分」
「それじゃ余計に本音だったってことじゃないの!」
「それはそうだが……っていうか突っ込むなよ」
困り果て、帽子をずり下ろし顔を隠す。
「もういいじゃないか、別に柔らかくても。悪いことじゃないんだし……」
「そりゃ、そうだけど……」
口ごもるふたり。
「と、とりあえず……ご飯にしない?」
「あ、ああ。そうだな」
気まずい空気を振り払うように、皿を並べ、朝食を始める。
「…………」
「…………」
味はどうかしら?
食べられないことはないな。おかわり。
美味しいなら正直に言いなさいよ。
伝わるならそれでいいじゃないか。
普段ならそんな会話もするだろうが、今はどちらからも切り出すことができない。
お互いにちらちらと顔色を伺っては、目が合うとどちらからともなく逸らす。
そうして一言の会話もないまま料理が減っていく。
「……………………あの、魔理沙?」
魔理沙がのろのろと最後のおかずを口に入れた瞬間、とうとうアリスが切り出した。
「…………どうした?」
慌てて口の中のものを飲み込み、何やら緊張した面持ちで応える魔理沙。
「さっきの話なんだけど……」
「ああ」
「あれって……本当に本音?」
やっぱりな……。
お茶をちびちびと飲みながら、どう答えればいいか考える。
何よりも昨晩のことを全く覚えてないのが痛い。
確か霊夢が酔いつぶれたのは覚えている……。
「魔理沙……?」
返事のないことに不安を感じ、アリスが呼びかける。
とりあえず思い出すのは諦めるしかない。ならば……。
覚悟を決めて立ち上がり、再びアリスに歩み寄る。
「な、何……?」
「アリス、悪いが私は昨日どんな気持ちでそんなことを言ったかは覚えてない」
今度は誤魔化しなしに言い切る。
瞬間、アリスの表情に、本人も気付いていないほどにだけ落胆の色が翳る。
しかし、魔理沙は更に続ける。
「だからだな……抱かせろ」
「……はい?」
ありえない台詞に、アリスの目が点になる。
「昨日どうだったか思い出せない。だから改めて確かめるために抱かせろ、と言っている」
「それ言い方おかしいってば! ちょっと、待って、まだ心の準備が……!」
動揺するアリスの言葉を遮り、魔理沙が肩に腕を回す。
「ま、魔理沙……」
ぎゅっ……
「………………」
「………………」
そのまま数秒の時が流れる。
魔理沙にとってはおっかなびっくりの、ほんの僅かな時間。
アリスにとっては互いの体温を感じ取る、無限に等しい時間。
ゆっくりと、魔理沙が体を離す。
「どう、だった?」
ぼうっとした表情でアリスが尋ねる。
「あー……やっぱり柔らかい、な……」
やや躊躇いがちに答える。
「そっか……」
「ああ……」
それきり口を閉ざす。
先ほどの余韻を味わうように、肌の温もりを逃がさないように、自分自身を抱きしめる。
ふたりはやはり無言。
しかし、今度は重い雰囲気ではなく、暖かで、穏やかな感覚を共有しているようだった。
「…………そろそろ、私は帰るぜ」
「あ……そう?」
幾らかの時間が過ぎて、魔理沙が別れの言葉を口に出す。
アリスはそれを残念に感じていた。
それが、どういうことを意味するかも考えずに。
「ああ、朝食も食べたし、用事……も済んだからな」
用事、の部分は照れ臭そうに笑って言う。
何だか少し可笑しくて、アリスも釣られてくすりと笑った。
「そう、それじゃ……」
「ああ、それじゃ、またな」
また。
次がある。
また魔理沙に会える。
今までもそうだったのに、それがとても新鮮なことのように思える。
私が知っている世界は、とても小さなものだったんだ。
名残惜しそうな魔理沙の背中を見送りながら、アリスは自分に変化が訪れたことを自覚していた。
「私、どうしちゃったんだろ……」
ベッドにうつ伏せに寝転びながら、アリスは考えていた。
自分の気持ちに変化があったということは理解しても、それがどういうことなのか、何故なのかは分からないままだった。
「魔理沙に抱きつかれたくらいで……ただそれだけなのに」
同時に、本当にそうだろうか、とも思う。
抱きつかれた『だけ』?
本当にそれだけのこと?
「……違う。それだけのことなんかじゃない」
記憶の糸を手繰り寄せる。
でも、どれだけ思い出そうとしても、思い出せはしない。
「私……誰かに抱きしめてもらったことなんて、なかったんだ」
寝返りを打ち、横向けになる。
視線の先は、今朝まで魔理沙が寝ていた場所。
自分のすぐ隣に魔理沙がいた。
「魔理沙が、私の隣で寝ていた」
魔理沙が自分を抱きしめた。
「魔理沙が、私を抱きしめてくれた」
ひとつひとつを、声に出す。
「……魔理沙」
その名前を口にするたびに、鼓動が早くなる。
分からない。
どうして?
分からない。
分からない?
『好きだから一緒にいるんだと思ってたんだけど、違うの?』
霊夢の言葉が思い出される。
そして、理解した。
「そっか……そうだったんだ……」
身を縮めて、言葉のひとつひとつをかき抱くように、
「私は、魔理沙が、好きなんだ」
涙が出た。
何故かは分からないのに、ぽろぽろと涙が溢れる。
苦しくはなく、むしろ心は安らいでいく。
そして、未知のものに対する不安が薄れていくのと同時に、今まで忘れていた睡魔が訪れる。
窓から洩れる陽の光に包まれながら、アリスはゆっくりと眠りに落ちていった。
次の日から、アリスは今度魔理沙に会ったらどうしようかを考え続けていた。
勿論普通に会いに行ってもいいのだが、自分自身のけじめとして何か変化が欲しかったのだ。
「うーん、どうしよう……」
幾つかの候補の中から、ひとつずつ消していく。
会った瞬間こっちから抱きつくという手もあったのだが、とても実行できそうなかった。
考えただけで顔から火が出そうだったので、あえなく没。
「やっぱり、奇抜すぎるのはよくないわよね」
結局妥当かつ、自分なりのけじめになりそうな方法を選ぶのだった。
前回の宴から三日後、再び宴会が開かれることになった。
理由など最早ない。誰からともなく持ちかけられ、(当の神社の巫女以外は)全員賛成で開かれるようになっているのだ。
「最近はまた人数も増えてるっていうのに。いい加減にしてほしいわ」
この前魔理沙と飲み比べをして敗北。
その後しばらくは二日酔いで動けず、ようやく昨日境内の掃除が終わったところなのである。
疲労と達成感を詰め込んだお茶で喉を潤そうとしていた霊夢に、開催の報せが届けられた。
当然歯軋りしそうなほど怒りを露にする霊夢に危険を感じた連絡係の天狗は、早々に姿を消した。
八つ当たりの相手もなく、霊夢の鬱憤は溜まる一方である。
「今日は一番に乗り込んできて来たやつは不幸になるわね」
物騒な予告を呟きつつ、その最初の来訪者が現れるまでの僅かな時間でお茶を楽しむことにした。
……少し濃すぎる。怒りで平常心を失っているようだ。
「……早く来ないかしらね。楽しみで楽しみで仕方ないわ」
言葉とは裏腹に、並の妖怪が見たら裸足で逃げ出すような勢いで霊気が体からにじみ出ている。
まさに爆発寸前といった様子である。
そんな時、とうとう不幸をぶつけるべき相手が現れた。
空に、並んでやってくる影がふたつ。
「いい度胸だわ。不幸になりたいやつは結構多いのね」
勿論霊夢以外が知る由もない話である。
霊気を揺らめかせつつ、針とお札を手に立ち上がる。
が、それらが実際に放たれることはなかった。
「あー? 今から妖怪退治にでも行くのか?」」
やってきたのは魔理沙と、
「大変ね。今から楽しい楽しい宴会が始まるっていうのに」
霊夢が呆気に取られぽかんと見つめるのは、アリス。
それもそのはず、今日のアリスはいつもと違ったからだ。
服は普段の美しさと機能性をギリギリで折半したようなものから、完全に魅せるためのものへ。
近付いてようやく分かるほのかな香りは恐らく香水。
顔には高慢さも感じさせる澄ました表情ではなく、見る者を惹きつける微笑。
何よりも、いつもは絶妙な距離を置く魔理沙とぴったり並んで佇んでいる!
「……えーっと?」
困惑した霊夢は、視線だけで「これは本当にアリス?」と魔理沙に問う。
何が言いたいか理解している魔理沙も、頷くだけでそれを肯定する。
「どうかしたの霊夢?」
「え、いや、その……今日は何だかいつもと違うわね」
「似合わないかしら?」
「そんなことはない、と思うけど」
誤魔化すことすら思い浮かばず、素のまま答える霊夢。
「そう、よかった。外見だけ気を遣って中身が追いついてなかったらどうしようかと思ったんだけど」
外を変えれば中も変わるものね、と言って笑う。
そんな様子に霊夢もすっかり毒気を抜かれてしまった。
「それで、準備はまだなの?」
「あー、面倒だったから……」
「それじゃ、私達も手伝いましょ、魔理沙」
「ん、そうだな」
そう言って先頭に立って歩き出すアリス。
霊夢は未だ呆然としたまま、魔理沙もやや困惑気味といった様子である。
「……ねえ、アリスどうかしたの?」
どうにか立ち直ってアリスを追って歩き出した霊夢が、本人には聞こえないように魔理沙に囁きかける。
「分からん。私もさっき会って驚いたんだ」
「その割にはなんだか前よりずっと仲良さそうに見えるけど」
うーん、と魔理沙が考え込む。しかし薄々気付いてはいるのである。
「思い当たる節はあるんだけどな……」
「何よ?」
問題はそれを霊夢に言えるかどうかということなのだが……。
勿論答えはノーである。
「まあ、いいじゃないか。悪いことじゃないしな」
「そりゃそうだけど」
「自分から準備を手伝ってくれてるんだぜ、機嫌損ねたりしないほうが得だろ?」
「それもそうね」
それで納得するあたりが霊夢である。
「ふう……」
余計な勘繰りを入れられずに助かった。
そう思うと同時に、これからも人に会うたびにこうしたやり取りになる予感がする魔理沙だった。
当然、その予感は的中するのだが。
他の参加者が到着する頃にはすっかり宴の準備は整い、皆珍しいこともあるものだと思いながらも喜んで酒宴を始めるのだった。
そんな中、今回も霊夢、魔理沙、アリスの三人はひとつ所に固まって飲んでいた。
それはよくある光景なのだが、今日ばかりは好奇の視線が注がれる。
アリスのせいである。
「その時上海が試験管落としちゃって。それまでの実験台無しよ」
「自分でやらないからだ。手間を省くとそういうことになる」
「あら、普段は自分ひとりでやるよりもずっと効率がいいのよ。魔理沙も試してみたら?」
「生憎私は人形を連れて歩くつもりはないぜ」
「むしろうちに欲しいわ。代わりに境内の掃除をしてくれる人形とか」
「霊夢が掃除をしなくなったら妖怪退治以外仕事しなくなるわね」
いつもは霊夢と魔理沙が話しているところにアリスが巻き込まれるというパターンなのだが、今日は違う。
積極的にアリスから会話を切り出し、それを楽しんでいるのだ。
すっかり三人の空気を作り出してしまい、普段ちょっかいをかけに来る妖怪達もやや遠巻きに様子を伺っている。
「まあ人形はともかく、掃除はもう少し楽したいわよ、本当」
「そんなに大変?」
「終わった後は殆ど一日かけて片付けるんだから。こうも頻繁はちょっとねえ」
「なら少しくらい私達も手伝いましょうか、魔理沙」
「あ? あー、そうだな。別に構わないぜ」
「はぁ、今日は魔理沙もどうかしてるわね」
霊夢が呆れ半ば、感心半ばに呟く。
どうやらアリスに触発されて、魔理沙も少し変わったようである。
「それなら明日また集まりましょうか。私いいお茶手に入れたから、片付け終わったら飲みましょう」
「紅茶でしょ? 緑茶なら最高なんだけどねえ」
「わざわざ他人に持ってこさせなくても、緑茶は霊夢が淹れたほうが美味いぜ」
ある種異様な光景だった。
酒の席でこの顔ぶれが集まったにしては、余りにも和やかだ。
しかし、いつもより気楽に、楽しい宴となっているのもまた事実である。
「今日も随分飲んだわねえ」
「そうね。ここらでお開きにしましょうか」
「何だ、私はまだまだ飲めるぜ」
「酔い潰れてからじゃ遅いでしょ」
まだ居座ろうとする魔理沙を嗜め、立ち上がらせる。
渋る魔理沙だったが、その時視界の隅にそそくさと隠れようとするパチュリーが映った。
「おおパチュリー、逃げることはないじゃないか」
獲物を見つけたと言わんばかりの調子で歩み寄る魔理沙と、また見つかってしまったといった表情のパチュリー。
またか、と霊夢は思ったが、今日はアリスもすんなりとふたりに近付いていった。
「そうだ、今度はアリスも図書館に連れて行こうと思うんだがどうだ?」
「あなたが来ること自体が迷惑なんだけど……」
「大丈夫よ、私がいればそうそう勝手はさせません」
お目付け役としていかが、と言って首を傾げるアリス。
パチュリーはじっとアリスの目を見ながら考えていたが、やがて軽い溜息とともに頷いた。
「まあ、最悪ひとりがふたりに増えたとしても今更だし」
「おう。ふたりに増えて賑やかさも二倍だ」
「……やっぱり来なくていいわ」
「騒がない、騒がない」
魔女達が囀りながら帰っていく。
霊夢は、アリスの背中を見ながら呟く。
「……本当、随分変わるものじゃないの」
「あー、緊張したぁ……」
魔理沙達と別れ、家に帰り着いたアリスはすっかり緊張の糸が切れてしまった。
自然に振舞っているように見せる努力というのは、大変神経を使うものである。
「何度いつもの調子で喋りそうになったか分かりゃしないわ」
それでも、いつもよりずっと積極的に動こうと思えたのは事実である。
今までならどこかで突き放した言動を取ってしまっただろう。
見た目の印象が変われば他人の反応も変わる。
反応が変われば自分ももっと自信を持って振舞えるということだろう。
「とりあえず、なかなか大変だけど成功よね」
面食らった表情の魔理沙や霊夢を思い出して、忍び笑いを漏らす。
いや、それよりも重要なのは普通に会話できたことなのだが。
「魔理沙ってあんなに普通に笑うんだなあ」
そう言ってから、きっと向こうも同じようなこと思ったんだろうな、と思う。
今日のことで大分印象も変わったはずだ。
そう思うと、今までそれなりに付き合いはあったものの、お互いのことを殆ど知らないことに気付く。
「もっと魔理沙のこと知りたい……」
魔理沙のことを想えば想うほど、欲求は強く、大きくなっていく。
今まで抑えていた反動のように。
他人に認めてほしい。他人のことをもっと知りたい。
そんな当たり前な感情を解き放った今。
そう、アリスは当たり前な、普通の少女に戻ったのだ。
霊夢が周囲の惨状を見渡して言う。
「とりあえずあれよ、片付けなさい」
そう言って月見酒といっては宴会を続ける妖怪達(一部人間)を睨みつける。
「何を言う、途中で片付けたらまた後で片付ける羽目になるじゃないか」
馬鹿なことを言うな、と言わんばかりに魔理沙が一蹴する。
だが霊夢の表情は険しくなるばかりだ。
当然である。どんなことを言おうが、最後には自分ひとりに片付けを押し付けて退散することを知っているからだ。
「あんた達、飲むのも騒ぐのもいいけど少しは加減を知りなさい。いや、やっぱり知らなくてもいいから片付けろ」
「きっと誰も聞いてないぜ」
「聞こえてるじゃない」
「何も聞こえないな」
そんなやり取りをするふたりの傍らで、黙って杯の酒を飲み干す者がいた。
アリス=マーガトロイド。
「おいアリス、黙ってないでお前も何とか言え。そろそろ霊夢の手が私の首にかかりそうだ」
しかしアリスは、そんな魔理沙を横目に見ると、すぐについ、と顔を逸らした。
そしてまた酒を注ぎ、杯を呷る。
「酷いぜ。無視はあんまりじゃないか、パートナー」
「……都合のいいときだけパートナー扱いなのね」
溜息をつきながら、再び振り返る。
だが、その表情に嫌悪はない。
「パートナーは助け合うものだ。逆説的に、助け合う仲ならばパートナーだ」
「いつ、私が魔理沙に助けてもらったのかしら」
「それはそれ、これはこれだ」
背後から霊夢に締め上げられながら、魔理沙が言う。
時折呻き声が混じるあたり、案外本気で締めているのかもしれない。
霊夢も、しっかり酒は飲んでいたのだった。
「仕方ないわね……ほら霊夢、境内で気絶されたら掃除の邪魔になるでしょ。離してあげたら?」
「それは確かに困るわね」
アリスの一言で、霊夢はすぐさま魔理沙を放り出した。
むしろ突き飛ばされた形になった魔理沙は、つんのめったままむせ返る。
「……ふう、やれやれ。落ち着いて飲むのも楽じゃないな」
「まだ飲むか」
すぐさままた腰を落ち着けて杯を口に運ぶ魔理沙を見て、ついに霊夢も諦めたらしい。
同じく腰を下ろして、誰よりも豪快に酒を注ぐ。
「よくもあなた達飽きないわね。これで何度目?」
呆れたようにアリスが漏らす。
いつからか当たり前になった宴。いつからか当たり前になった片付け議論。
そして、
「あんたもでしょ。そう言いながら毎回宴に出てきてるくせに」
いつからか当たり前になった、アリスのいる風景。
「別にいいでしょ。私だってお酒くらい飲みに来たって」
「まあ、片付けさえしてくれれば私は一向に構わないんだけどね」
論点をずらされた、と霊夢は思う。
自分が言いたいのはわざわざ私や魔理沙の隣で飲む必要はないでしょ、ということなんだけど……。
やめとこう。
別にアリスが邪魔をするわけではない。むしろ数いる妖怪達の中ではとても落ち着いて飲んでいる。
宴が開かれるなら参加したらいい。
それこそ片付けまでしてくれれば、とも思うのだが。
「おお、あそこに見えるはパチュリーじゃないか。おーい、また本を貸してくれ」
突然魔理沙が立ち上がり、駆け出す。
隅の方で目立たないように飲んでいたパチュリーは非常に迷惑そうな視線を魔理沙に送る。
しかし、酒も入って普段より更に強気になっている魔理沙がその程度で止まる筈もない。
いいだろう、友達じゃないか。
友達は本を勝手に持っていったりしない。逆説的にあなたは友達じゃない。
それはそれ、これはこれだ。
こっちでしたのと同じような論争を繰り広げる。
概ね魔理沙に正当性などないのだが、大抵は勢いと力技で押し切ってしまう。
そんなことをしても嫌われないあたりが魔理沙の特徴だろう。良いか悪いかは別として。
「で、あんたはついていかなくていいの?」
そんな様子を脇目に見ながら霊夢が声をかけると、アリスは一瞬びくっと反応してから、
「どうして、私が?」
「あんた魔理沙に付き合って宴会来てるんでしょ?」
丁度杯を傾けていたアリスが、咳き込む。
咳を止め、数秒心を落ち着けて、深呼吸までしてから霊夢を見据え、一言。
「そんなわけないじゃない」
「怪しすぎるわよ。何その反応」
恐らく頬が赤いのは酔いが回っているせいだけではないだろう。
「霊夢こそ! それじゃ私と魔理沙が仲いいみたいじゃない!」
「いい『みたい』、じゃなくて実際いいんでしょ? あんたいつも魔理沙にべったりだし」
まくしたてるアリスに、霊夢がきっぱり言い放つ。
更に何か言おうとしていたアリスの口がぱくぱくと開いたり閉じたりしつつ、それでも言葉は出てこない。
そして追い討ち。
「好きだから一緒にいるんだと思ってたんだけど、違うの?」
アリスの顔が真紅というほどに真っ赤に染まる。
困惑、照れ、怒り、様々な表情がくるくると目まぐるしく入れ替わりながら、上擦った声で叫ぶ。
「ば、馬鹿! 馬鹿じゃないの!? 誰が誰を好きですって? 冗談もほどほどにしてよ、二色の癖に!」
そうまくしたてると、唐突にすっくと立ち上がる。
「結局追いかけるの?」
「違うわよ! 不愉快だから帰るの!」
地団太を踏むような勢いで地面を蹴り付け、宙に舞い上がる。
その後は風もかくやという速度で飛び去ってしまった。
「……ま、いいか」
あそこまで意地張る必要もないのに。
別にアリスがいなければいけないこともないので、帰るのはいいのだが。
……いや、よくない。
「…………片付けやらせるの忘れてた」
アリスと魔理沙が飲み散らかした分を見下ろし、霊夢は嘆息した。
「馬鹿馬鹿しい……何が好き、よ! 私が魔理沙のこと好きなんて、そんな馬鹿な話……!」
帰途でも「馬鹿」と「好き」を連呼しつつ、アリスは一直線に自分の家へと戻ってきた。
主の帰りによって目覚め始めた人形も、何やら主人の様子がおかしいことは感じ取っているようだ。
「ああもう! どうして私がこんなわけの分からないことで悩まないといけないのよ!! それもこれも霊夢のせいだわ」
乱暴に椅子に腰を下ろし、ワインの栓を開ける。
「全く、どんな目をしてるのかしら。私と魔理沙が仲良く見えるなんて、所詮目出度い頭紅白なのね」
独り言が支離滅裂になっていることも気にせず、ハイペースでワインを飲み干す。
そうしていると、段々と目がとろんとして緩んでくる。
普段は悪酔いするような飲み方はしないアリスだが、今日は自分でも酔おうとして飲んでいるのかもしれない。
「馬っ鹿じゃないの。何が魔理沙よ。一々魔理沙、魔理沙と……」
「おー、呼んだか?」
「ひぁっ!!?」
聞こえるはずのない返事が聞こえ、酔いも吹き飛んだアリスが振り向く。
そこには、アリスと同じくらい赤い顔をした魔理沙が玄関の扉を開けて立っていた。
「まま、魔理沙!? 何であなたがここにいるのよ!」
「あー? それはこっちの台詞だぜぇ……どうして、アリスが私の家にいるんだぁ?」
舌っ足らずな口調。認識の混濁。
間違いない。
酔っている。それも徹底的に。
「ちょっとちょっと……大丈夫なの? ここは私の家よ。もしかして酔った状態で飛んできたらここに着いたの?」
「ああ、私の飛行技術は完璧だぜぇ」
駄目だ、会話になってない。
全く噛み合わない会話を諦め、アリスはとりあえず魔理沙を寝かしつけるために誘導することにした。
「ほら、もういいからこっちで寝てなさい。前後不覚になるまで飲むなんて珍しいことしちゃって……」
「そんなことはない。ちゃんと霊夢には勝ったんだ」
「…………」
飲み比べしたようである。この調子だと流石の霊夢も明日は二日酔いだろう。
「ここに寝て。帽子も取って。はい、それじゃ明日までおやすみなさい……っきゃ!?」
てきぱきと魔理沙をベッドに寝かしつけ、最後にぽんと肩を叩いた瞬間、アリスは突然引きずり倒された。
反応する間もなく、魔理沙の腕が体に巻きつき、身動きが取れなくなる。
「ちょ、ちょっと! 大人しく寝なさいよ!」
「生意気言うなぁ、先輩の言うことには服従するもんだぞ」
「あんた何が見えてるのよ!」
へらへらとしつつも力だけは全力の魔理沙。対して動揺しつつも何とか脱出を試みるアリス。
と、その時、アリスが逃げられないよう巧みに捕まえていた魔理沙の動きが止まる。
「え? 何?」
「んー……」
ふたりの視線が合う。
そして、それまでとは違う、落ち着いた声で魔理沙が呟く。
「お前、意外と柔らかいな」
「っ!?!?!?!?」
全く予想外の言葉に、石のように硬直するアリス。同時に頭の中が混沌と渦巻く。
改めて脱出しようにも体はぴくりとも動かず。
何かを言おうにも言葉はまとまらず。
固まりきっているアリスと対照的に、うとうとし始める魔理沙。
結局魔理沙がすやすやと寝息を立て始めてもアリスは動けず、眠れないままひとつのベッドで一晩を過ごしたのだった。
「ん……ん~……?」
朝。
魔法の森に軽やかな小鳥の囀りは響かないが、それでも穏やかな日差しは木々の合間を縫って届く。
深い眠りからまどろみへと、そして緩やかに意識が覚醒する。
「あ~、よく寝たぜ……」
昨日の飲みすぎも何のその、さっぱりした気分で魔理沙は目覚めた。
そして欠伸と同時に寝転んだまま伸びをする。
むに
「んん?」
右手が何かに当たる。
おかしい、ベッドに物を置く習慣はないんだが。
そう思いつつ横を見やると、
「ぬわぁっ!?」
「きゃ!!」
ショックで跳ね起き、ベッドから転げ落ちる。
ようやく眠気に身を任せようとしていたアリスも、それに驚いてやはりベッドから落ちた。
「何故だ、何故アリスが私のベッドで寝てるんだ……まさか」
怯えた表情で着衣を確かめる魔理沙。
それを見たアリスは血相を変える。
「ち、違うわよ! ここは私の家! あんた昨晩のこと覚えてないの!?」
大袈裟な身振り手振りも交えてまくしたてる。
「昨晩のこと……」
そう呟いた魔理沙の頬が赤らむ。
「そういう意味じゃないってばぁぁぁっ!! とにかく聞きなさい、昨日の夜いきなりあんたがうちに転がり込んできて……」
ひたすら必死に昨日のことを説明するアリス。
途中で(ようやく)魔理沙がここが自分の家でないと理解したため、どうにかアリスの主張は受け入れられたのだった。
「……なんだ、全く人騒がせだな」
「…………」
それはあんただ、と言い返す気力もなく、ぐったりとうな垂れる。
反対に、誤解と分かってすっきりした表情の魔理沙は改めて背伸びをし、ベッド脇に置いてあった帽子を手に取る。
「よーし、折角泊まったついでだ、朝食も食べていくぜ」
「せめて私が提案するのを待ちなさいよ……」
最初からそう言うつもりだったんだから、とぶつぶつ言いながらもエプロンを身に着ける。
勿論、魔理沙にそれを手伝うという選択肢はない。
「まだできないのかー?」
「もう少し待ちなさいって……普段より一人前多いんだから」
ナイフとフォークを構えて催促する魔理沙と、それを窘めながらも手早く野菜を刻むアリス。
そんなふたりの光景をふと自覚して、魔理沙が呟く。
「なんか、これだと夫婦みたいだな」
ずがぁっ!
力加減を誤ったアリスの包丁がまな板に叩き付けられる。
背後からの声と、包丁の危険さの両方に心臓をバクバクさせながら、怒鳴りつける。
「素面の状態でもそういうこと言うのねあんたはっ!!」
それを軽く笑って流そうとして……はて、と思う。
「素面の状態で『も』?」
「あ……」
墓穴を掘った。
魔理沙が椅子から立ち上がり、にじり寄る。
「も、って何だ? も、って」
「た、単なる言い間違いよ。ああ早くしないと料理が冷めるわ」
「元より温かい料理なんて一品もないじゃないか」
だらだらと冷や汗を流しながらも取り繕おうとするアリス。
しかし、言い訳するにしてもそこまでの間は致命的だった。
「アリス、本当のことを言ったほうがいいぞ。昨日何かあったんだろう?」
「何もない、何もないってば!」
「……やっぱり昨晩お前は酔った私を押し倒して」
「違う! それは本当に違うから!」
「ということは他に何かあったわけだな」
「う、うぅ~……」
失言が重なったアリスは、とうとう観念して白状することにした。
「魔理沙が私を布団に引きずりこんだ後……私にしがみついて『柔らかいんだな』って……」
真っ赤になりながらぽつぽつと話すアリス。
しまったなあ、という表情でそっぽを向く魔理沙。
非常に気まずい空気。
「いやまあ、その。あんまり気にするな。私も考えて言ったわけじゃないからな、多分」
「それじゃ余計に本音だったってことじゃないの!」
「それはそうだが……っていうか突っ込むなよ」
困り果て、帽子をずり下ろし顔を隠す。
「もういいじゃないか、別に柔らかくても。悪いことじゃないんだし……」
「そりゃ、そうだけど……」
口ごもるふたり。
「と、とりあえず……ご飯にしない?」
「あ、ああ。そうだな」
気まずい空気を振り払うように、皿を並べ、朝食を始める。
「…………」
「…………」
味はどうかしら?
食べられないことはないな。おかわり。
美味しいなら正直に言いなさいよ。
伝わるならそれでいいじゃないか。
普段ならそんな会話もするだろうが、今はどちらからも切り出すことができない。
お互いにちらちらと顔色を伺っては、目が合うとどちらからともなく逸らす。
そうして一言の会話もないまま料理が減っていく。
「……………………あの、魔理沙?」
魔理沙がのろのろと最後のおかずを口に入れた瞬間、とうとうアリスが切り出した。
「…………どうした?」
慌てて口の中のものを飲み込み、何やら緊張した面持ちで応える魔理沙。
「さっきの話なんだけど……」
「ああ」
「あれって……本当に本音?」
やっぱりな……。
お茶をちびちびと飲みながら、どう答えればいいか考える。
何よりも昨晩のことを全く覚えてないのが痛い。
確か霊夢が酔いつぶれたのは覚えている……。
「魔理沙……?」
返事のないことに不安を感じ、アリスが呼びかける。
とりあえず思い出すのは諦めるしかない。ならば……。
覚悟を決めて立ち上がり、再びアリスに歩み寄る。
「な、何……?」
「アリス、悪いが私は昨日どんな気持ちでそんなことを言ったかは覚えてない」
今度は誤魔化しなしに言い切る。
瞬間、アリスの表情に、本人も気付いていないほどにだけ落胆の色が翳る。
しかし、魔理沙は更に続ける。
「だからだな……抱かせろ」
「……はい?」
ありえない台詞に、アリスの目が点になる。
「昨日どうだったか思い出せない。だから改めて確かめるために抱かせろ、と言っている」
「それ言い方おかしいってば! ちょっと、待って、まだ心の準備が……!」
動揺するアリスの言葉を遮り、魔理沙が肩に腕を回す。
「ま、魔理沙……」
ぎゅっ……
「………………」
「………………」
そのまま数秒の時が流れる。
魔理沙にとってはおっかなびっくりの、ほんの僅かな時間。
アリスにとっては互いの体温を感じ取る、無限に等しい時間。
ゆっくりと、魔理沙が体を離す。
「どう、だった?」
ぼうっとした表情でアリスが尋ねる。
「あー……やっぱり柔らかい、な……」
やや躊躇いがちに答える。
「そっか……」
「ああ……」
それきり口を閉ざす。
先ほどの余韻を味わうように、肌の温もりを逃がさないように、自分自身を抱きしめる。
ふたりはやはり無言。
しかし、今度は重い雰囲気ではなく、暖かで、穏やかな感覚を共有しているようだった。
「…………そろそろ、私は帰るぜ」
「あ……そう?」
幾らかの時間が過ぎて、魔理沙が別れの言葉を口に出す。
アリスはそれを残念に感じていた。
それが、どういうことを意味するかも考えずに。
「ああ、朝食も食べたし、用事……も済んだからな」
用事、の部分は照れ臭そうに笑って言う。
何だか少し可笑しくて、アリスも釣られてくすりと笑った。
「そう、それじゃ……」
「ああ、それじゃ、またな」
また。
次がある。
また魔理沙に会える。
今までもそうだったのに、それがとても新鮮なことのように思える。
私が知っている世界は、とても小さなものだったんだ。
名残惜しそうな魔理沙の背中を見送りながら、アリスは自分に変化が訪れたことを自覚していた。
「私、どうしちゃったんだろ……」
ベッドにうつ伏せに寝転びながら、アリスは考えていた。
自分の気持ちに変化があったということは理解しても、それがどういうことなのか、何故なのかは分からないままだった。
「魔理沙に抱きつかれたくらいで……ただそれだけなのに」
同時に、本当にそうだろうか、とも思う。
抱きつかれた『だけ』?
本当にそれだけのこと?
「……違う。それだけのことなんかじゃない」
記憶の糸を手繰り寄せる。
でも、どれだけ思い出そうとしても、思い出せはしない。
「私……誰かに抱きしめてもらったことなんて、なかったんだ」
寝返りを打ち、横向けになる。
視線の先は、今朝まで魔理沙が寝ていた場所。
自分のすぐ隣に魔理沙がいた。
「魔理沙が、私の隣で寝ていた」
魔理沙が自分を抱きしめた。
「魔理沙が、私を抱きしめてくれた」
ひとつひとつを、声に出す。
「……魔理沙」
その名前を口にするたびに、鼓動が早くなる。
分からない。
どうして?
分からない。
分からない?
『好きだから一緒にいるんだと思ってたんだけど、違うの?』
霊夢の言葉が思い出される。
そして、理解した。
「そっか……そうだったんだ……」
身を縮めて、言葉のひとつひとつをかき抱くように、
「私は、魔理沙が、好きなんだ」
涙が出た。
何故かは分からないのに、ぽろぽろと涙が溢れる。
苦しくはなく、むしろ心は安らいでいく。
そして、未知のものに対する不安が薄れていくのと同時に、今まで忘れていた睡魔が訪れる。
窓から洩れる陽の光に包まれながら、アリスはゆっくりと眠りに落ちていった。
次の日から、アリスは今度魔理沙に会ったらどうしようかを考え続けていた。
勿論普通に会いに行ってもいいのだが、自分自身のけじめとして何か変化が欲しかったのだ。
「うーん、どうしよう……」
幾つかの候補の中から、ひとつずつ消していく。
会った瞬間こっちから抱きつくという手もあったのだが、とても実行できそうなかった。
考えただけで顔から火が出そうだったので、あえなく没。
「やっぱり、奇抜すぎるのはよくないわよね」
結局妥当かつ、自分なりのけじめになりそうな方法を選ぶのだった。
前回の宴から三日後、再び宴会が開かれることになった。
理由など最早ない。誰からともなく持ちかけられ、(当の神社の巫女以外は)全員賛成で開かれるようになっているのだ。
「最近はまた人数も増えてるっていうのに。いい加減にしてほしいわ」
この前魔理沙と飲み比べをして敗北。
その後しばらくは二日酔いで動けず、ようやく昨日境内の掃除が終わったところなのである。
疲労と達成感を詰め込んだお茶で喉を潤そうとしていた霊夢に、開催の報せが届けられた。
当然歯軋りしそうなほど怒りを露にする霊夢に危険を感じた連絡係の天狗は、早々に姿を消した。
八つ当たりの相手もなく、霊夢の鬱憤は溜まる一方である。
「今日は一番に乗り込んできて来たやつは不幸になるわね」
物騒な予告を呟きつつ、その最初の来訪者が現れるまでの僅かな時間でお茶を楽しむことにした。
……少し濃すぎる。怒りで平常心を失っているようだ。
「……早く来ないかしらね。楽しみで楽しみで仕方ないわ」
言葉とは裏腹に、並の妖怪が見たら裸足で逃げ出すような勢いで霊気が体からにじみ出ている。
まさに爆発寸前といった様子である。
そんな時、とうとう不幸をぶつけるべき相手が現れた。
空に、並んでやってくる影がふたつ。
「いい度胸だわ。不幸になりたいやつは結構多いのね」
勿論霊夢以外が知る由もない話である。
霊気を揺らめかせつつ、針とお札を手に立ち上がる。
が、それらが実際に放たれることはなかった。
「あー? 今から妖怪退治にでも行くのか?」」
やってきたのは魔理沙と、
「大変ね。今から楽しい楽しい宴会が始まるっていうのに」
霊夢が呆気に取られぽかんと見つめるのは、アリス。
それもそのはず、今日のアリスはいつもと違ったからだ。
服は普段の美しさと機能性をギリギリで折半したようなものから、完全に魅せるためのものへ。
近付いてようやく分かるほのかな香りは恐らく香水。
顔には高慢さも感じさせる澄ました表情ではなく、見る者を惹きつける微笑。
何よりも、いつもは絶妙な距離を置く魔理沙とぴったり並んで佇んでいる!
「……えーっと?」
困惑した霊夢は、視線だけで「これは本当にアリス?」と魔理沙に問う。
何が言いたいか理解している魔理沙も、頷くだけでそれを肯定する。
「どうかしたの霊夢?」
「え、いや、その……今日は何だかいつもと違うわね」
「似合わないかしら?」
「そんなことはない、と思うけど」
誤魔化すことすら思い浮かばず、素のまま答える霊夢。
「そう、よかった。外見だけ気を遣って中身が追いついてなかったらどうしようかと思ったんだけど」
外を変えれば中も変わるものね、と言って笑う。
そんな様子に霊夢もすっかり毒気を抜かれてしまった。
「それで、準備はまだなの?」
「あー、面倒だったから……」
「それじゃ、私達も手伝いましょ、魔理沙」
「ん、そうだな」
そう言って先頭に立って歩き出すアリス。
霊夢は未だ呆然としたまま、魔理沙もやや困惑気味といった様子である。
「……ねえ、アリスどうかしたの?」
どうにか立ち直ってアリスを追って歩き出した霊夢が、本人には聞こえないように魔理沙に囁きかける。
「分からん。私もさっき会って驚いたんだ」
「その割にはなんだか前よりずっと仲良さそうに見えるけど」
うーん、と魔理沙が考え込む。しかし薄々気付いてはいるのである。
「思い当たる節はあるんだけどな……」
「何よ?」
問題はそれを霊夢に言えるかどうかということなのだが……。
勿論答えはノーである。
「まあ、いいじゃないか。悪いことじゃないしな」
「そりゃそうだけど」
「自分から準備を手伝ってくれてるんだぜ、機嫌損ねたりしないほうが得だろ?」
「それもそうね」
それで納得するあたりが霊夢である。
「ふう……」
余計な勘繰りを入れられずに助かった。
そう思うと同時に、これからも人に会うたびにこうしたやり取りになる予感がする魔理沙だった。
当然、その予感は的中するのだが。
他の参加者が到着する頃にはすっかり宴の準備は整い、皆珍しいこともあるものだと思いながらも喜んで酒宴を始めるのだった。
そんな中、今回も霊夢、魔理沙、アリスの三人はひとつ所に固まって飲んでいた。
それはよくある光景なのだが、今日ばかりは好奇の視線が注がれる。
アリスのせいである。
「その時上海が試験管落としちゃって。それまでの実験台無しよ」
「自分でやらないからだ。手間を省くとそういうことになる」
「あら、普段は自分ひとりでやるよりもずっと効率がいいのよ。魔理沙も試してみたら?」
「生憎私は人形を連れて歩くつもりはないぜ」
「むしろうちに欲しいわ。代わりに境内の掃除をしてくれる人形とか」
「霊夢が掃除をしなくなったら妖怪退治以外仕事しなくなるわね」
いつもは霊夢と魔理沙が話しているところにアリスが巻き込まれるというパターンなのだが、今日は違う。
積極的にアリスから会話を切り出し、それを楽しんでいるのだ。
すっかり三人の空気を作り出してしまい、普段ちょっかいをかけに来る妖怪達もやや遠巻きに様子を伺っている。
「まあ人形はともかく、掃除はもう少し楽したいわよ、本当」
「そんなに大変?」
「終わった後は殆ど一日かけて片付けるんだから。こうも頻繁はちょっとねえ」
「なら少しくらい私達も手伝いましょうか、魔理沙」
「あ? あー、そうだな。別に構わないぜ」
「はぁ、今日は魔理沙もどうかしてるわね」
霊夢が呆れ半ば、感心半ばに呟く。
どうやらアリスに触発されて、魔理沙も少し変わったようである。
「それなら明日また集まりましょうか。私いいお茶手に入れたから、片付け終わったら飲みましょう」
「紅茶でしょ? 緑茶なら最高なんだけどねえ」
「わざわざ他人に持ってこさせなくても、緑茶は霊夢が淹れたほうが美味いぜ」
ある種異様な光景だった。
酒の席でこの顔ぶれが集まったにしては、余りにも和やかだ。
しかし、いつもより気楽に、楽しい宴となっているのもまた事実である。
「今日も随分飲んだわねえ」
「そうね。ここらでお開きにしましょうか」
「何だ、私はまだまだ飲めるぜ」
「酔い潰れてからじゃ遅いでしょ」
まだ居座ろうとする魔理沙を嗜め、立ち上がらせる。
渋る魔理沙だったが、その時視界の隅にそそくさと隠れようとするパチュリーが映った。
「おおパチュリー、逃げることはないじゃないか」
獲物を見つけたと言わんばかりの調子で歩み寄る魔理沙と、また見つかってしまったといった表情のパチュリー。
またか、と霊夢は思ったが、今日はアリスもすんなりとふたりに近付いていった。
「そうだ、今度はアリスも図書館に連れて行こうと思うんだがどうだ?」
「あなたが来ること自体が迷惑なんだけど……」
「大丈夫よ、私がいればそうそう勝手はさせません」
お目付け役としていかが、と言って首を傾げるアリス。
パチュリーはじっとアリスの目を見ながら考えていたが、やがて軽い溜息とともに頷いた。
「まあ、最悪ひとりがふたりに増えたとしても今更だし」
「おう。ふたりに増えて賑やかさも二倍だ」
「……やっぱり来なくていいわ」
「騒がない、騒がない」
魔女達が囀りながら帰っていく。
霊夢は、アリスの背中を見ながら呟く。
「……本当、随分変わるものじゃないの」
「あー、緊張したぁ……」
魔理沙達と別れ、家に帰り着いたアリスはすっかり緊張の糸が切れてしまった。
自然に振舞っているように見せる努力というのは、大変神経を使うものである。
「何度いつもの調子で喋りそうになったか分かりゃしないわ」
それでも、いつもよりずっと積極的に動こうと思えたのは事実である。
今までならどこかで突き放した言動を取ってしまっただろう。
見た目の印象が変われば他人の反応も変わる。
反応が変われば自分ももっと自信を持って振舞えるということだろう。
「とりあえず、なかなか大変だけど成功よね」
面食らった表情の魔理沙や霊夢を思い出して、忍び笑いを漏らす。
いや、それよりも重要なのは普通に会話できたことなのだが。
「魔理沙ってあんなに普通に笑うんだなあ」
そう言ってから、きっと向こうも同じようなこと思ったんだろうな、と思う。
今日のことで大分印象も変わったはずだ。
そう思うと、今までそれなりに付き合いはあったものの、お互いのことを殆ど知らないことに気付く。
「もっと魔理沙のこと知りたい……」
魔理沙のことを想えば想うほど、欲求は強く、大きくなっていく。
今まで抑えていた反動のように。
他人に認めてほしい。他人のことをもっと知りたい。
そんな当たり前な感情を解き放った今。
そう、アリスは当たり前な、普通の少女に戻ったのだ。
まさに漢ッッ・・・・・!!
当時某スレでコテでいた者です。今は名無しですが
とうとうこちらに来ましたか。いやいや甘甘ですなあ
これからも頑張ってください。とりあえず先読んできます