※ 拙作「紅魔館の娘たち」の続編(?)になります。
前を読んでおいていただかなくても話は通じると思いますが、
簡単に目を通しておいていただいたほうが分かりやすいかと思います。
……結構百合い(?)と思います。
紅魔館、夕刻。
私は仕事を終えて自室に戻り、ドアを閉めると同時に思わず呟いてしまった。
「不覚だったわ……」
彼女のマッサージはこの世のものとは思えないほど気持ちがいいけれど、お嬢様がいる
のに眠りこけてしまうなんて。
しかも。
「いい声で鳴くのね、咲夜?」
翌朝に顔を見るなりそれはあんまりだと思います、お嬢様……。
ああ、何だか疲れがぶり返してきたわ……。
それにしても、そんなに大きな声を出していたかしら?
少しだけ窮屈なネクタイを外し、ホワイトプリムやエプロンドレス、スカートと一緒に
メイド長という私を脱ぎ捨てる。後は靴と靴下を放り出して、明かりもつけずにベッドと
いう楽園へ飛び込んだ。
ベッドの柔らかさを堪能しながらため息をつくと、何もかもが面倒になってしまったの
でそのまま寝てしまうつもりで目を閉じていたけれど、普段と比べてあまりにも時間が早
かったせいか、やっぱり目が冴えて眠れない。
「これなら寄ってくればよかったかしら。
ああ、でも毎日というのも……」
基本的に誰かと一緒にいる=楽しいという式が成り立つ彼女だから、邪魔に思ったりは
されないだろうけど……でも、あまりべったりというのはよく思われない気がする。
ごろごろと寝返りをうつたびに二転三転する思考。
ああ、ますます目が冴えてきちゃったわ。
寝返りでボサボサになってしまった髪をかきあげながら、仕方なしに起き上がりはした
けれど、やっぱり何もかもが面倒でお茶を淹れる気にもなれない。
「あーあ。
やっぱり寄ってくるんだったわ……」
時計を見てみると、さすがにもう訪ねるには無作法な時間。
ごろごろしている間に随分と時間が経ってしまっていたらしい。
「まあ、時間と空間を操るといってもこんなものよね……」
自嘲と自戒を込めて呟き、視線を部屋の隅にある小さな机に目を向ける。私が自室で書
き物をするときに使う机。でも、実際に目を向けているのはその脇の大きめの引き出し。
私がありったけの力を込めて空間ごと凍結して鍵をかけているその引き出しには、私の
大事なものが入っている。手順を踏んで操作しなければ開かないそれは、無理に開けよう
とするならばそれ相応の力を振るわなければならず、たとえばお嬢様やパチュリー様がこ
っそり開けようとしても、先に私が振るわれる力に気付くようになっている。
引き出しは大きめだからそれなりに収納力があり、大事なもの以外にも私のイメージに
合わない、見られるとちょっと恥ずかしいものも入っている。
たとえばぬいぐるみとか。
……特に、今取り出したような、他の人に見られると困るぬいぐるみとか。
赤い髪。緑の帽子。星型のプレートはちょっと苦労した。
服は帽子と同じ色。靴の赤は髪とは別の色。
顔はちょっと抜けたようにも感じる、明るい笑顔のぬいぐるみ……とか。
それを抱いてベッドに戻る。
自分で言うのもなんだけれど、出来は結構悪くない。あの七色の人形師のものとは比べ
られないけれど、あんまり完璧に作っても照れるじゃない?
「でも、ちょっとくたびれてきたわね」
作ってから随分経つので、服に使った布が少し色落ちしている部分が出てきた。今度同
じ色の布を用意して、服だけ新しく……あ、それとも本人とはぜんぜん別の服を着せてみ
るのも面白いかしら。
そういえば、本人と初めて会ったときも今とほとんど同じ服だったわね。
……本人にも別の服を着てみてもらおうかしら。
私が貴方と初めて会ったとき。
私が『あっち』から『こっち』に来て、初めて紅魔館を訪ねたときのこと。
あのとき私は自分以外の何かを殺す、もしくは自分以外の何かに殺してもらうためにあ
ちらこちらをふらついていた。その途中でたまたま紅魔館に立ち寄った。
当然のように貴方は迎撃に出てきたけど……アレって本当に迎撃になっていたのかしら
ね。ずっと何かもの言いたげに顔を曇らせたまま、一度も攻撃してこなかったじゃないの。
私のナイフが貴方の攻撃を完全に潰せていたとは思えないし、弾幕のひとつも展開してみ
せなかったじゃない。結局、挑発を繰り返しても手を出してこない貴方に業を煮やして、
ナイフで肩を貫いて、壁に縫いとめて動けなくして門を押し通ったんだったわね……。
そのあとお嬢様にそれまでの私を叩きのめされ、それまでの私を受け入れてもらった。
それまでの私を、お嬢様に全部ささげた。
だから、私が紅魔館のメイドになったのは当然のお話。
でも、私が紅魔館のメイドの一人として貴方に挨拶したとき、妙に喜んでくれたわね。
あのときは認められなかったけど、私のことを受け入れてくれたのは嬉しかったわよ。
ああ、そういえば人間として紅魔館のメイドになったのは私が初めてだったわね。
そのせいか、他のメイドたちに随分と可愛がってもらったわねぇ……まあ、自分たちを
巻き込んでお嬢様と真正面から殺し合いをした挙句、決着がついてみればメイドになって
自分たちの横にいるんだから、気に入らなかったっていうのもあったんでしょうけど。
仕事中に可愛がっていただいた古参のメイドたちにはきっちりとお礼はしていたんだけ
ど、それ以外の部分で可愛がっていただいたときには反撃がやりにくくて困っていたら…
…気がついたら嫌がらせは終わっていたわね。
いえ、実際には貴方が頻繁に私を訪ねてきてくれるようになって、あっちが勝手に手を
引いたんだっけ。
この後お嬢様から
「人間のメイドがいると何かと便利」
という評価をいただいて、私以外にも人間のメイドを雇ってみようというお話になった。
お嬢様のような吸血鬼でなくても妖怪は妖怪で何かと弱点があるし、イマイチ情緒が安定
しない子が多い。
とは言え、紅魔館では人間のメイドだけでメイド部隊を編成するにはちょっと無理があ
る。普通の人間の能力じゃできないことが多すぎるから。
妖怪メイドと人間メイドの混成部隊を作って様子を見てみようということになり、当然
のように私はその部隊の長として選ばれた。
このとき私の下についてくれた妖怪メイドたちは、新人ながら真面目で、私に対して構
えるものが何もない子たちばっかりだった。今も私のしたで他の部隊の統括などに動いて
くれている子たちだ。
このとき、本当は古参のメイドたちが私の下につくと名乗りを上げていたらしい。大方
失敗を装って邪魔してくれるつもりだったんでしょうね。これも貴方が納めてくれたとだ
けは聞いていたんだけど……。
私が指揮する妖怪メイド、人間メイドの混成部隊は他の部隊とは桁違いのパフォーマン
スをたたき出し、その功績で私はメイド長になるようお嬢様に取り計らっていただいた。
その報告をまず最初に貴方にしようと思って部屋を訪ねたとき、えらくげっそりとした
顔で布団から迎えられた。何があったのかと問い詰める私を、ちっとも上手じゃないはぐ
らかし方ではぐらかそうとし、それができないと思い知ると今度は頑なに言おうとしない。
結局その場では私が折れたんだけど、門番隊の子や私の下についてくれた妖怪メイドから
聞きだしたわよ。
貴方、古参のメイドたちを押さえ込むのに、今度は力づくで押さえ込んだんですって?
それも、門番隊VS館メイド隊の構図になりかけたために、それを嫌った貴方が古参のメ
イドたち全員を一人で黙らせたことも聞いた。更に、そのときの怪我が原因で、寝込むこ
とになってしまったことも。
思わず「余計なことを」と呟いてしまって、門番隊の子たちには物凄い目でにらまれた
んだけど……その子たち、すぐにあたふたし始めた。
私が泣き出したからだ。
同情を引いてしまうのがいやだったから、部屋まで我慢するつもりだったのに。
妖怪メイドの一人が差し出してくれたハンカチで目元を隠しながら、
「咲夜さんの耳に入るのを嫌がるでしょうから、
今まで秘密にしていましたけど……」
と、前置きされた話に耳を傾けた。
たとえば、メイドになった直後の古参メイドからの嫌がらせについて。貴方がいるから
嫌がらせできないのであれば、いない時間を狙えばいい。なのに、貴方がいないはずの時
間にも嫌がらせがなかったのは何故か? とか。
たとえば、食べ物について。私が来るまで妖怪しかいなかった紅魔館で、どうして人間
用の食事が最初から用意されていたのか? とか。
たとえば、安全性について。嫌がらせとか以前に、人肉を好む妖怪メイドも数は少ない
ものの、確かに存在している。なのに、一度も襲われたことがないのは何故か? とか。
「ウチの隊長、自分も外から入ってきた上に、隊長って明らかに紅魔館と文化圏違うじゃ
ないですか。で、最初は結構苦労したらしいんですよ」
嬉しくて泣いた。
気付かないうちに送られていたものの暖かさと、優しさに。
悔しくて泣いた。
それに気付けなかったことと、それを正しく受け取れていなかったことに。
だけど、泣いている場合じゃないとも思った。
今まで『あっち』でも触れたことのなかったそれを送り続けてくれていた貴方に、何も
返せないままで、いいわけがないと。
「とは言ったものの、最初はフォローされてばかりだったわね」
物理的なものは時間を止めてでも先回りは出来たけれど、心の機微を読んで動くことは、
あのころの私では到底できないことだったから。まあ、それでもそれができるようになろ
うと心がけて動き回っていたおかげで、今の私があるといっても過言ではないのだけれど。
「少しずつでも、私は貴方にそれを返せているかしら?」
ちょっと自信がなくなって、ぬいぐるみを抱きしめる。
あのときお嬢様にそれまでの私を叩きのめされ、それまでの私を受け入れてもらった。
それまでの私を、お嬢様に全部ささげた。
だから、それまでの私が持っていたものは、全部お嬢様のもの。
でも、そのあと育ったこのあったかいものは、貴方のもの。
「最初は感謝の気持ちだと思ってたそれが、全然違うものだと気がついたときは焦ったん
だったわね……『こっち』では好きな相手が同性でもあんまり問題ないと気がつくまで
は一人で悶々としたし」
口にしたことがなかったお酒を飲んでみたのも、その頃じゃなかったかしら。
あのときも随分な醜態をさらした挙句、貴方の世話になってしまったような気が……。
「何だか思い出したくないことまで思い出したような気がする……ああ、でもようやく眠
くなってきたわね」
欠伸をしながら横になる。
なんとなくいい気分。このまま眠れば明日はすっきり起きられるに違いないわね。
明日は早く起きて、朝一番にシャワーを浴びよう。
シャワーを浴びたら紅茶を淹れて、サンドイッチを作って、朝食にしよう。
食べ終わったら残りのサンドイッチと紅茶を持って、毎朝早朝鍛錬している貴方を訪ね
て門へ行ってみよう。貴方のことだから、朝食をしっかり食べて鍛錬に出ているだろうけ
れど、そろそろ小腹がすいてくる時間のはず。
きっと一緒に鍛錬に出ている門番隊の子たちもいるはずだから、その子たちにも紅茶を
振舞ってあげよう。サンドイッチは貴方だけだけど……貴方のことだから、どうせ分けて
あげてしまうでしょうし。
最近だと門番隊の子たちだけは、なんとなく気付いているのか距離を開けてくれるんだ
けど……随分アピールしているつもりなのに、貴方だけがまったく気付いてくれないのは
どういうことなのかしらね。
でも、私から貴方に想いを告げるようなことはしない。
まだ、私が返せたものよりも、貴方から貰ったものが多すぎるから。
ああ。でも、そうね……。
代わりに貴方が聞いてくれる?
私が作ったぬいぐるみの貴方。
「美鈴。貴方が好きよ」
前を読んでおいていただかなくても話は通じると思いますが、
簡単に目を通しておいていただいたほうが分かりやすいかと思います。
……結構百合い(?)と思います。
紅魔館、夕刻。
私は仕事を終えて自室に戻り、ドアを閉めると同時に思わず呟いてしまった。
「不覚だったわ……」
彼女のマッサージはこの世のものとは思えないほど気持ちがいいけれど、お嬢様がいる
のに眠りこけてしまうなんて。
しかも。
「いい声で鳴くのね、咲夜?」
翌朝に顔を見るなりそれはあんまりだと思います、お嬢様……。
ああ、何だか疲れがぶり返してきたわ……。
それにしても、そんなに大きな声を出していたかしら?
少しだけ窮屈なネクタイを外し、ホワイトプリムやエプロンドレス、スカートと一緒に
メイド長という私を脱ぎ捨てる。後は靴と靴下を放り出して、明かりもつけずにベッドと
いう楽園へ飛び込んだ。
ベッドの柔らかさを堪能しながらため息をつくと、何もかもが面倒になってしまったの
でそのまま寝てしまうつもりで目を閉じていたけれど、普段と比べてあまりにも時間が早
かったせいか、やっぱり目が冴えて眠れない。
「これなら寄ってくればよかったかしら。
ああ、でも毎日というのも……」
基本的に誰かと一緒にいる=楽しいという式が成り立つ彼女だから、邪魔に思ったりは
されないだろうけど……でも、あまりべったりというのはよく思われない気がする。
ごろごろと寝返りをうつたびに二転三転する思考。
ああ、ますます目が冴えてきちゃったわ。
寝返りでボサボサになってしまった髪をかきあげながら、仕方なしに起き上がりはした
けれど、やっぱり何もかもが面倒でお茶を淹れる気にもなれない。
「あーあ。
やっぱり寄ってくるんだったわ……」
時計を見てみると、さすがにもう訪ねるには無作法な時間。
ごろごろしている間に随分と時間が経ってしまっていたらしい。
「まあ、時間と空間を操るといってもこんなものよね……」
自嘲と自戒を込めて呟き、視線を部屋の隅にある小さな机に目を向ける。私が自室で書
き物をするときに使う机。でも、実際に目を向けているのはその脇の大きめの引き出し。
私がありったけの力を込めて空間ごと凍結して鍵をかけているその引き出しには、私の
大事なものが入っている。手順を踏んで操作しなければ開かないそれは、無理に開けよう
とするならばそれ相応の力を振るわなければならず、たとえばお嬢様やパチュリー様がこ
っそり開けようとしても、先に私が振るわれる力に気付くようになっている。
引き出しは大きめだからそれなりに収納力があり、大事なもの以外にも私のイメージに
合わない、見られるとちょっと恥ずかしいものも入っている。
たとえばぬいぐるみとか。
……特に、今取り出したような、他の人に見られると困るぬいぐるみとか。
赤い髪。緑の帽子。星型のプレートはちょっと苦労した。
服は帽子と同じ色。靴の赤は髪とは別の色。
顔はちょっと抜けたようにも感じる、明るい笑顔のぬいぐるみ……とか。
それを抱いてベッドに戻る。
自分で言うのもなんだけれど、出来は結構悪くない。あの七色の人形師のものとは比べ
られないけれど、あんまり完璧に作っても照れるじゃない?
「でも、ちょっとくたびれてきたわね」
作ってから随分経つので、服に使った布が少し色落ちしている部分が出てきた。今度同
じ色の布を用意して、服だけ新しく……あ、それとも本人とはぜんぜん別の服を着せてみ
るのも面白いかしら。
そういえば、本人と初めて会ったときも今とほとんど同じ服だったわね。
……本人にも別の服を着てみてもらおうかしら。
私が貴方と初めて会ったとき。
私が『あっち』から『こっち』に来て、初めて紅魔館を訪ねたときのこと。
あのとき私は自分以外の何かを殺す、もしくは自分以外の何かに殺してもらうためにあ
ちらこちらをふらついていた。その途中でたまたま紅魔館に立ち寄った。
当然のように貴方は迎撃に出てきたけど……アレって本当に迎撃になっていたのかしら
ね。ずっと何かもの言いたげに顔を曇らせたまま、一度も攻撃してこなかったじゃないの。
私のナイフが貴方の攻撃を完全に潰せていたとは思えないし、弾幕のひとつも展開してみ
せなかったじゃない。結局、挑発を繰り返しても手を出してこない貴方に業を煮やして、
ナイフで肩を貫いて、壁に縫いとめて動けなくして門を押し通ったんだったわね……。
そのあとお嬢様にそれまでの私を叩きのめされ、それまでの私を受け入れてもらった。
それまでの私を、お嬢様に全部ささげた。
だから、私が紅魔館のメイドになったのは当然のお話。
でも、私が紅魔館のメイドの一人として貴方に挨拶したとき、妙に喜んでくれたわね。
あのときは認められなかったけど、私のことを受け入れてくれたのは嬉しかったわよ。
ああ、そういえば人間として紅魔館のメイドになったのは私が初めてだったわね。
そのせいか、他のメイドたちに随分と可愛がってもらったわねぇ……まあ、自分たちを
巻き込んでお嬢様と真正面から殺し合いをした挙句、決着がついてみればメイドになって
自分たちの横にいるんだから、気に入らなかったっていうのもあったんでしょうけど。
仕事中に可愛がっていただいた古参のメイドたちにはきっちりとお礼はしていたんだけ
ど、それ以外の部分で可愛がっていただいたときには反撃がやりにくくて困っていたら…
…気がついたら嫌がらせは終わっていたわね。
いえ、実際には貴方が頻繁に私を訪ねてきてくれるようになって、あっちが勝手に手を
引いたんだっけ。
この後お嬢様から
「人間のメイドがいると何かと便利」
という評価をいただいて、私以外にも人間のメイドを雇ってみようというお話になった。
お嬢様のような吸血鬼でなくても妖怪は妖怪で何かと弱点があるし、イマイチ情緒が安定
しない子が多い。
とは言え、紅魔館では人間のメイドだけでメイド部隊を編成するにはちょっと無理があ
る。普通の人間の能力じゃできないことが多すぎるから。
妖怪メイドと人間メイドの混成部隊を作って様子を見てみようということになり、当然
のように私はその部隊の長として選ばれた。
このとき私の下についてくれた妖怪メイドたちは、新人ながら真面目で、私に対して構
えるものが何もない子たちばっかりだった。今も私のしたで他の部隊の統括などに動いて
くれている子たちだ。
このとき、本当は古参のメイドたちが私の下につくと名乗りを上げていたらしい。大方
失敗を装って邪魔してくれるつもりだったんでしょうね。これも貴方が納めてくれたとだ
けは聞いていたんだけど……。
私が指揮する妖怪メイド、人間メイドの混成部隊は他の部隊とは桁違いのパフォーマン
スをたたき出し、その功績で私はメイド長になるようお嬢様に取り計らっていただいた。
その報告をまず最初に貴方にしようと思って部屋を訪ねたとき、えらくげっそりとした
顔で布団から迎えられた。何があったのかと問い詰める私を、ちっとも上手じゃないはぐ
らかし方ではぐらかそうとし、それができないと思い知ると今度は頑なに言おうとしない。
結局その場では私が折れたんだけど、門番隊の子や私の下についてくれた妖怪メイドから
聞きだしたわよ。
貴方、古参のメイドたちを押さえ込むのに、今度は力づくで押さえ込んだんですって?
それも、門番隊VS館メイド隊の構図になりかけたために、それを嫌った貴方が古参のメ
イドたち全員を一人で黙らせたことも聞いた。更に、そのときの怪我が原因で、寝込むこ
とになってしまったことも。
思わず「余計なことを」と呟いてしまって、門番隊の子たちには物凄い目でにらまれた
んだけど……その子たち、すぐにあたふたし始めた。
私が泣き出したからだ。
同情を引いてしまうのがいやだったから、部屋まで我慢するつもりだったのに。
妖怪メイドの一人が差し出してくれたハンカチで目元を隠しながら、
「咲夜さんの耳に入るのを嫌がるでしょうから、
今まで秘密にしていましたけど……」
と、前置きされた話に耳を傾けた。
たとえば、メイドになった直後の古参メイドからの嫌がらせについて。貴方がいるから
嫌がらせできないのであれば、いない時間を狙えばいい。なのに、貴方がいないはずの時
間にも嫌がらせがなかったのは何故か? とか。
たとえば、食べ物について。私が来るまで妖怪しかいなかった紅魔館で、どうして人間
用の食事が最初から用意されていたのか? とか。
たとえば、安全性について。嫌がらせとか以前に、人肉を好む妖怪メイドも数は少ない
ものの、確かに存在している。なのに、一度も襲われたことがないのは何故か? とか。
「ウチの隊長、自分も外から入ってきた上に、隊長って明らかに紅魔館と文化圏違うじゃ
ないですか。で、最初は結構苦労したらしいんですよ」
嬉しくて泣いた。
気付かないうちに送られていたものの暖かさと、優しさに。
悔しくて泣いた。
それに気付けなかったことと、それを正しく受け取れていなかったことに。
だけど、泣いている場合じゃないとも思った。
今まで『あっち』でも触れたことのなかったそれを送り続けてくれていた貴方に、何も
返せないままで、いいわけがないと。
「とは言ったものの、最初はフォローされてばかりだったわね」
物理的なものは時間を止めてでも先回りは出来たけれど、心の機微を読んで動くことは、
あのころの私では到底できないことだったから。まあ、それでもそれができるようになろ
うと心がけて動き回っていたおかげで、今の私があるといっても過言ではないのだけれど。
「少しずつでも、私は貴方にそれを返せているかしら?」
ちょっと自信がなくなって、ぬいぐるみを抱きしめる。
あのときお嬢様にそれまでの私を叩きのめされ、それまでの私を受け入れてもらった。
それまでの私を、お嬢様に全部ささげた。
だから、それまでの私が持っていたものは、全部お嬢様のもの。
でも、そのあと育ったこのあったかいものは、貴方のもの。
「最初は感謝の気持ちだと思ってたそれが、全然違うものだと気がついたときは焦ったん
だったわね……『こっち』では好きな相手が同性でもあんまり問題ないと気がつくまで
は一人で悶々としたし」
口にしたことがなかったお酒を飲んでみたのも、その頃じゃなかったかしら。
あのときも随分な醜態をさらした挙句、貴方の世話になってしまったような気が……。
「何だか思い出したくないことまで思い出したような気がする……ああ、でもようやく眠
くなってきたわね」
欠伸をしながら横になる。
なんとなくいい気分。このまま眠れば明日はすっきり起きられるに違いないわね。
明日は早く起きて、朝一番にシャワーを浴びよう。
シャワーを浴びたら紅茶を淹れて、サンドイッチを作って、朝食にしよう。
食べ終わったら残りのサンドイッチと紅茶を持って、毎朝早朝鍛錬している貴方を訪ね
て門へ行ってみよう。貴方のことだから、朝食をしっかり食べて鍛錬に出ているだろうけ
れど、そろそろ小腹がすいてくる時間のはず。
きっと一緒に鍛錬に出ている門番隊の子たちもいるはずだから、その子たちにも紅茶を
振舞ってあげよう。サンドイッチは貴方だけだけど……貴方のことだから、どうせ分けて
あげてしまうでしょうし。
最近だと門番隊の子たちだけは、なんとなく気付いているのか距離を開けてくれるんだ
けど……随分アピールしているつもりなのに、貴方だけがまったく気付いてくれないのは
どういうことなのかしらね。
でも、私から貴方に想いを告げるようなことはしない。
まだ、私が返せたものよりも、貴方から貰ったものが多すぎるから。
ああ。でも、そうね……。
代わりに貴方が聞いてくれる?
私が作ったぬいぐるみの貴方。
「美鈴。貴方が好きよ」
乙女な咲夜さん全然OKっす! まじ可愛いよまじGJ!!
乙女咲夜マンセー!!
今後の乙女心とうわの空に注目させていただきたい一心です
血糖値が臨界ブッチしてんぜ! だがそれが良い。
夢見る少女なお姉さんは大好きです。
ブ バ ッ ! !
・・・続き、期待してもいいんでしょうか?
( ゚∀゚)彡 乙女!乙女!
⊂彡
_, ,_ ∩
( ゚∀゚)彡 咲夜!咲夜!
⊂彡
独白と回想のなかにある甘い美鈴への想い、
百合でこういう優しい雰囲気の作品は大好きです。
ご馳走様です♪
『心の機微を読んで動くことはは、あのころの私では~』
お人形に話しかけるなんて、たまらなく少女ですね。
乙女な咲夜さん? 全力で支援しますともっ!
げふっ
ところで、この後ゆあきんがこの話を幻想郷中に広めそうな気がするんですが。
さくやさんが!
>でも、そのあと育ったこのあったかいものは、貴方のもの。
イイ!!
美鈴の頑張りっぷりに惚れました。
めーりん!めーりん!
今はもう乙女咲夜さんしか聞こえない(*´д`)
乙女咲夜さん最高だと!!
メディック!? メディーック!?
こういう話大好きです
美×咲GJ!
最高です。
乙女なPA(殺人ドール
だがそれがいい!